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読み:クイックステップ・アルファヴィニルチーム
国籍:ベルギー
略号:QST
創設年:2003年
GM:パトリック・ルフェーヴル(ベルギー)
使用機材:スペシャライズド(アメリカ)
2021年UCIチームランキング:1位
(以下記事における年齢はすべて2022年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Quick-Step Floors 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Deceuninck - Quick Step 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Deceuninck - Quick Step 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Deceuninck - Quick Step 2021年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
※各グラフのポイントは独自に集計した2021シーズンの実績に基づきます。
同じポイントに基づいた各脚質ランキングは以下の記事を参照のこと。
各チームのプレビューをPodcast&Youtubeでもやっています。
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2022年ロースター
※2021年獲得UCIポイント順
2021シーズンUCI世界ランキング1位。勝利数でも65勝で9年連続の1位。何よりも、常に誰もが互いの勝利のために即座に働き、「誰かが勝つ」を常に当たり前のようにやり付けている「ウルフパック」。文句なしの、「世界最強チーム」である。
そんな彼らがまたメインスポンサーを失うことに。2019年から3年間、コロナ禍でも継続してスポンサードし続けてくれたドゥクーニンク社が去り、アルペシン・フェニックスへと移る。新たにチーム名についた「アルファヴィニル」は、2027年まで契約が続いているメインスポンサーであるクイックステップ社の新製品ブランド名であり、実質的な単独スポンサー状態となる。
そんな、相変わらずなスポンサー問題の影響を受け、サム・ベネット、ジョアン・アルメイダ、アルバロホセ・ホッジらがチームから離れることに。
だが、かつてもあったこの強力な戦力のロストも、これまで以上に不安なく受け入れられる体制ができている。
まだまだアラフィリップ、アスグリーン、エヴェネプール、ヤコブセンといったトップメンバーたちは健在であり、まだ無名の若手も含め、きっと「みんな活躍する」ことがわかり切っている状態なのだから。
その中で、一体どんな「劇場」を今年も見せてくれるのか?
注目選手
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、30歳)
脚質:オールラウンダー
2021年の主な戦績
- 世界選手権ロードレース優勝
- ラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝
- リエージュ~バストーニュ~リエージュ2位
- ブルターニュ・クラシック2位
- ストラーデ・ビアンケ2位
- ツール・ド・ラ・プロヴァンス総合2位
- ツアー・オブ・ブリテン総合3位
- イル・ロンバルディア6位
- アムステルゴールドレース6位
- クラシカ・サンセバスティアン6位
- UCI世界ランキング4位
世界最強のパンチャー。そのスタイルはまだ若手のときから常に攻撃的で、多くのファンを魅了し続けてきた。
その彼の走りを最も体現してみせたのが、昨年の世界選手権。決して彼向きではない難しいレイアウトで、チーム一丸となって攻めて、攻めて、攻め続けて、最後は自らの5回にわたるアタックを経て、2年連続となる世界王者の座を手に入れた。
今年制すればペテル・サガンと並ぶ3連覇という偉業を達成することに。
今年のウロンゴン世界選手権も、パンチャー向きのコースになる可能性があるため、彼にとっては大きなチャンスとなる。
あとは、ツール・ド・フランスでの総合をいつ狙うのか。「挑戦しなかったことを後悔してキャリアを終えたくない」という言い方で、未来のツール制覇への思いを語ってはいる。
常に我々を驚かせ、「奇跡」を起こし続けてきた男、ジュリアン・アラフィリップ。
その新たな軌跡を今年も楽しみにしていきたい。
レムコ・エヴェネプール(ベルギー、22歳)
脚質:オールラウンダー
2021年の主な戦績
- ツアー・オブ・デンマーク区間2勝&総合優勝
- バロワーズ・ベルギー・ツアー区間1勝&総合優勝
- ブリュッセル・サイクリングクラシック優勝
- コッパ・ベルノッキ優勝
- ドライフェンクルス・オーベレルエイセ優勝
- 世界選手権個人タイムトライアル3位
- UCI世界ランキング14位
2018年のジュニア界を席巻し、2019年にわずか19歳でプロデビュー。最近では珍しくなくなりつつある「U23カテゴリを飛ばしてのワールドツアーデビュー」の先鋒を切った存在で、デビュー同年からトップライダーたちをしのぐ驚くべき成績を出し続けてきた。
その勢いは留まることを知らず、「エディ・メルクスの再来」と囃し立てられ、2020年シーズンには初のグランツール挑戦となるジロ・デ・イタリアに向けても「総合優勝候補」とまで目されての出場を目指していた――が、その直前のイル・ロンバルディアで、まさかの衝撃的なクラッシュ。
命の危険性すら感じさせたその事故から半年――復帰後初となるレースとして2021年のジロ・デ・イタリアを選び、第1週においてはエガン・ベルナルに匹敵する走りを見せ、総合優勝候補勢の中では最上位につける成績を残していたが、第2週冒頭の「ストラーデ・ビアンケ風ステージ」でずるずると失速。
彼にとっては初めてとなる「ステージレースの11日目」に耐えられなかったとも、さすがに事故の影響も大きかったとも言える結末であった。
だが、その後6月のバロワーズ・ベルギー・ツアーで総合優勝。
さらに8月のポストノルド・デンマークルント(ツアー・オブ・デンマーク)では区間2勝と総合優勝、さらに次のドライフェンクルス・オーベレルエイセとブリュッセル・サイクリングクラシックで「3連勝」を果たし、パトリック・ルフェーヴルGMにも「イル・ロンバルディア直前の彼の最盛期が取り戻されつつある」と絶賛される状態となった。
そして迎えた世界選手権。
その中で彼は、ある意味でベルギーチームの中で「最強」の走りをしてみせた。
レース序盤から積極的に動き続け、そのうえでラスト60㎞から30㎞はひたすら先頭牽引。
この大会は、ジュリアン・アラフィリップの5回に渡る執拗なアタックの結果、その感動的な勝利が成し遂げられたわけだが、少なくともこの30㎞の区間においては、エヴェネプールの働きによってその攻撃は抑え込み続けられていた。
ただ、最初から動き続けていた彼にとって、さすがにこの30㎞の走りは最後の力を使い果たすものとなった。それは「エヴェネプールはアシストできない」という風潮に対して反抗する、意地のようなものだったのかもしれない。結果として最強の男を失ってしまったベルギー・チームは、アラフィリップの前に敗北を喫することとなった。
そんな世界選手権の前後では、ベルギーチームに対する批判とも取れるような言動が繰り返され、やや物議が醸し出されるなど、以前よりやや激情的な場面が見られ、損をすることの多いエヴェネプール。
プロキャリア4年目となる今年は、「神童」であることから脱さざるをえない時期へと突入し、より強い向かい風の中で戦うことになるだろう。
とはいえ、やはり彼はアラフィリップ同様、常に私たちを驚かせてくれる真正のスターであることは間違いない。
減点方式だと気になるところが多く出てきたり、ポガチャルとの比較の中でいろいろ言われることもあるだろうが、気にせず、その強み、力を出し切っていってほしい。
カスパー・アスグリーン(デンマーク、27歳)
脚質:オールラウンダー
2021年の主な戦績
- ロンド・ファン・フラーンデレン優勝
- E3サクソバンク・クラシック優勝
- 世界選手権個人タイムトライアル4位
- ヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合3位
- 東京オリンピック個人タイムトライアル7位
- UCI世界ランキング23位
エガン・ベルナルやファビオ・ヤコブセンと同様、2017年のツール・ド・ラヴニールで勝利した「17ラヴニール組」と自分が勝手に呼んでいる世代の1人。高い独走力や十分な登坂力を兼ねてから見せており万能な力を持つ男だったが、昨年はついにロンド・ファン・フラーンデレンという石畳クラシックの頂点を掴み取った。
しかも、めちゃくちゃ強い勝ち方で。
その伏線はまず、「前哨戦」E3サクソバンク・クラシックで見せられた。
残り80㎞のターインベルグにて、7名全員で集団の先頭に立ってペースアップを図ったクイックステップは、その後出来上がった9名の集団の中にアスグリーン含む4名を紛れ込ませていた。
さらに残り67㎞のボイネベルグにて、セネシャル、スティバルが立て続けにアタック。それらすべてが引き戻されたあと、第3の矢として放たれたのがアスグリーンであった。
そのまま独走を続けるアスグリーン。しかし昨年のロンド覇者マチュー・ファンデルプールやAG2Rシトロエンのダブルエースであるグレッグ・ファンアーヴェルマートとオリヴェル・ナーセンらがさすがの追走を見せ、ディラン・ファンバーレとセネシャル、スティバルを含む6名の追走集団によって、残り13㎞でアスグリーンは捕まえられてしまった。
だが、ここからのアスグリーンの強さが圧倒的であった。
捕まえられてからしっかりと足を貯めていた彼は、残り5㎞で「最後の仕事」を実行した。
すなわち、すでに50㎞以上にわたり独走し続けていて、さすがに足が残っていないはずの彼がここで自ら飛び出すことによって、7名の中にいるスティバル、セネシャルたちにチャンスを与えるという役割。
その捨て身の攻撃が――まさかの、勝利へとつながる。
集団の中でのファンデルプール、ナーセン、ファンアーヴェルマートの攻撃をすかさずスティバル、セネシャルが抑え込んだのもあり、アスグリーンの独走は捕まえられることなく、フィニッシュまで辿り着いた。
常識を覆し続けてきた怪物マチュー・ファンデルプールも、このクイックステップのコンビネーションの前に、もろくも敗れ去ってしまったのである。
だが、昨年のアスグリーンはこれで終わりではなかった。
ある意味いつも通りの「ウルフパック」的な勝ち方をしてみせたE3だったが、その後のロンド・ファン・フラーンデレン本戦では、全く異なった異質な走りをしてみせた。
残り37㎞のターインベルクで、先頭はマチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールト、そしてジュリアン・アラフィリップとカスパー・アスグリーンの4名。
一昨年も終盤に抜け出した3強にアスグリーンが加わったことで、クイックステップとしては万全の状態。このまま、E3に続きチーム力を生かした勝利を飾れるか?
と思っていたところで、残り27㎞。
過去何度も勝負所となっている「クルイスベルク後の平坦路」にて、先手のつもりで打ったアスグリーンのアタックに、ファンデルプールとファンアールトは食らいついたものの、肝心のアラフィリップがついていけない!
昨年ワンツーの2人の「怪物」を相手取り、アスグリーンはたった一人で挑む必要に迫られてしまったのである。
ここからが昨年最大のアスグリーン伝説の開幕である。
3回目オウデクワレモント。残り17㎞から始まる、今大会最大の勝負所。ここで、マチュー・ファンデルプールが加速。3月のストラーデ・ビアンケで1000W以上を叩き出し、ジュリアン・アラフィリップを突き放した強烈な加速で、彼はファンアールトを一気に突き放した。
しかし、アスグリーンはそこに食らいついていった。ファンアールトを背後に突き放しながら、最強の足を見せるファンデルプールに、アスグリーンは食い下がったのである。
さらに、2回目パテルベルク。残り13㎞から始まる、今大会最後の勝負所。
ここで彼はファンデルプールの横に並び、シッティングのまま加速し始めた。
石畳の荒れた路面の真ん中を、淡々と一定ペースで踏み続けるアスグリーン。
一方のファンデルプールは道の端の少しでも綺麗な路面を、上体を左右に激しく揺れ動かしながら懸命に駆け上がっていく。
そして最大勾配20%区間でアスグリーンは常にファンデルプールを抜き去り、先頭に立つ。
アスグリーンが「最強」であることを証明した瞬間であった。
その後、結局ファンデルプールを決定的に突き放すことはできず、最後のスプリント勝負に持ち込まれてしまう。
ラスト1㎞。ファンデルプールが先頭で、何度も後ろを振り向き、ラインを左右に振って牽制を続ける。
その姿に余裕は全くなく、「まさか」の思いが去来した。
ラスト250m。動いたのはファンデルプールが先だった。
加速の勢いはアスグリーンが上で、一度はファンデルプールに並びかけるが、そこからさらにファンデルプールの速度が増していき、ギャップが開き始めた。
だが、ラスト50m。ファンデルプールが力尽き、項垂れる。
最後まで力を残し続けていたアスグリーンがこれを追い抜き、そして両手を広げた。
カスパー・アスグリーン。残り100㎞からの、9回にわたるアタックが生み出した、チーム力とは別の、個人としての力において世界最強の座を射止めた瞬間であった。
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と、いうことで、一躍世界最強のクラシックライダーの仲間入りを果たしたアスグリーンであったが、個人的には彼の「別の側面」にも注目している。
すなわち、2019年ツアー・オブ・カリフォルニア総合3位で見せたような、登れる側面。その意味で、TTスペシャリスト系オールラウンダーが得意とするヴォルタ・アン・アルガルヴェではかなり注目しており、実際に昨年のアルガルヴェでは5ステージ中4ステージを終えた段階で総合3位と健闘していた。
が、最終日のマルハオ山頂フィニッシュでずるずると遅れ、最終的には総合8位。
やはり今はあくまでも石畳クラシックなど、重量級のレースだけに集中していく方針なのか?
いや、彼もまたオールラウンダーの1人として、登りにおいても我々を驚かせてくれる走りをしてくれると、信じている。
ファビオ・ヤコブセン(オランダ、26歳)
脚質:スプリンター
2021年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間3勝&ポイント賞
- ユーロメトロポール・ツアー優勝
- ホーイクセ・ペイル優勝
- ツール・ド・ワロニー区間2勝
- UCI世界ランキング61位
彼もまた、2020年の衝撃的な事故からの復活を遂げた男であった。
と、言うより、その復活の仕方は誰よりも驚くべきものだった。そもそも、あの、生死すら危ぶまれるような大事故のあと、わずか半年でレースに復帰できること自体がありえないことであったし、そのまま勝利なんてものは望むべくもない、ただ走ってくれさえすればいい、という風に思っていた。
それがまさか、7月のツール・ド・ワロニーで区間2勝し、その後のブエルタ・ア・エスパーニャでは「最強の走り」を見せて区間3勝。
今や、疑うべくもないクイックステップの最強スプリンターとなり、今年のツール・ド・フランスもマーク・カヴェンディッシュを抑えてエースとして走る可能性が高くなりつつある。
あとは、その期待が現実のものとなるか。最強の発射台ミケル・モルコフを引き連れて、ベルナルやアスグリーンと同じ「2017ラヴニール組」の男が、ベルナルの2019ツール制覇、アスグリーンの2021ロンド制覇に続き、2022年のツール・ド・フランスを「制覇」することができるか。
その他注目選手
マウロ・シュミット(スイス、23歳)
脚質:パンチャー
ここ数年のクイックステップはそこまで派手な獲得はしておらず、むしろ意外な獲得からしっかりとその才能を伸ばし戦力にしているパターンが目立っている。一度はデンマークのコンチネンタルチームで2018シーズンを始めたアスグリーンをシーズン途中で獲得したときもそうだし、マッティア・カッタネオの獲得や、2020シーズン途中でのファウスト・マスナダの獲得からの即戦力化など。
昨年もヨセフ・チェルニーを獲得すると聞いて「絶対結果を出す」と感じていたが、実際にイツリア・バスクカントリーでのミケルフローリヒ・ホノレとのワンツーなど、十分に活躍して見せた。
ゆえに、このマウロ・シュミットの獲得もまた、期待しかない。他のチームならいざ知らず、クイックステップが獲得したのであれば、成長は約束されたも同然だ。
昨年のジロ・デ・イタリアの「ストラーデ・ビアンケ風ステージ」で、最後まで生き残り同じく若手の期待株アレッサンドロ・コーヴィとの一騎打ちを制し、誰もが驚くべき勝利を果たして見せてくれた男。
元々はどちらかといえばパンチャー/クライマータイプの印象だったが、本人曰く「石畳は好き」とのこと。これからもどの方向に成長するか予想のつかない男である。
だがこういう、耐久力のある若手はクイックステップが得意とするところ。
きっと彼もまた、重要な「ウルフパック」の一角となってくれることだろう。
イラン・ファンヴィルダー(ベルギー、22歳)
脚質:クライマー
2019年ツール・ド・ラヴニール総合3位。約束された才能。彼のデビュー権を得たのはチーム・サンウェブ(現DSM)。2020年に数多くのスペクタルを生み出したこの非常に平均年齢の若いチームは、若き才能にとってもチャンスに恵まれた舞台であるはずだった。
しかし、そこには「自由」はなかった、とファンヴィルダーは語る。詳細は不明だが、その他の多くの例と同様に彼は契約途中でチームを離れ、シーズンオフ期間の11月18日付をもって、クイックステップへの移籍を果たすこととなった。
タイプでいえばファウスト・マスナダやアンドレア・バジョーリ、あるいはマウリ・ファンセヴェナントと近い存在となるであろう。今後レムコ・エヴェネプールやジュリアン・アラフィリップを助けることとなる、貴重な山岳アシストとして期待に応えられるか。
ネガティヴな言葉と共にチームを離れたからには、結果を出さないといけない。ここからは彼自身の戦いだ。
イーサン・ヴァーノン(イギリス、22歳)
脚質:スプリンター
昨年のツール・ド・ラヴニールで区間1勝を果たす。東京オリンピックトラックレースチームパーシュートでの英国代表メンバーの1人でもあり、同じファーストネームを持ち昨年大ブレイクしたイーサン・ヘイターに負けない活躍をしてみせるポテンシャルはありそう。
ラヴニールではスプリントで勝利しているが、それなりの起伏でセレクションがかかった中でのスプリントということもあり、比較的登れる足を持っていそうなところもヘイターに似ており、クイックステップからも魅力に映るだろう。
各チームへのリンク
トレック・セガフレード
UAEチーム・エミレーツ
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