読み:クイックステップ・フロアーズ
国籍:ベルギー
略号:QST
創設年:2003年
使用機材:Specialized (アメリカ)
2017年UCIチームランキング:2位
(以下記事における年齢はすべて2018年における数え年表記となります)
2018年ロースター
キッテル、トレンティン、ダニエル・マーティン、デラクルス、ブランビッラ・・・ベテランの強豪選手らが次々と移籍。ボーネンも引退。年間50勝を連続で獲得してきたチームにとって、危機が訪れている。その理由は財政難か? いや、それだけではあるまい。チームはこの大量実力者移籍に応える形で、若手の選手を他チームよりも多めに加入させた。
2017年シーズンは研修生として加入しており、ラヴニールで1勝しているコロンビア人スプリンター、アルバロホセ・オデグ(22歳)。U23オランダロード王者で同じくラブニール1勝しているファビオ・ヤコブセン(22歳)。元チーム・ウィギンスで、U23版リエージュ2位、ラヴニールでも山頂ゴールで区間2位・総合8位などクライマーとしての素質を見せているジェイムス・ノックス(23歳)。元アクセオンでコロラド・クラシック新人賞、エクアドル国内選手権ロード王者となったジョナタン・ナルバエス(21歳)――。
実に4名ものネオプロを加え、一気に若返ったクイックステップは、目先の勝利以上のものを目指すこととなる。2017年ブエルタでコンタドールを助け、スペインの未来のエース候補とまで名指しされたエンリク・マスの存在も、その一端となるだろう。
また、チームに残ったベテランもまだまだ強い選手が残っている。2017年フラーンデレン・アムステルゴールドレース優勝のジルベールはもちろん、2014年ルーベ覇者・2015年フラーンデレン2位のテルプストラ、2015年・2017年ルーベ2位のスティバールなど、北のクラシック&アルデンヌ・クラシックでの戦績は2018年も期待ができるだろう。いつもは「数の有利(笑)」と言われ続けてきたクイックステップも、このジルベールやテルプストラが中心となって巧みなチームワークを見せられるようにもなってきた。
ベテランが導き、若手が成長する。そんな、理想的な体制を作り上げつつあるのが、このクイックステップというチームなのかもしれない。来年は50勝は維持できないかもしれないが、それでも構わない。それでも現代ロードレース界における最重要チームの1つであることは間違いないだろう。
注目選手
フィリップ・ジルベール(ベルギー、36歳)
脚質:パンチャー
2012年世界選手権ロードレース優勝
主にアルデンヌ系クラシックにおいて輝かしい成績を残してきたベテランライダー。2017年シーズンはここに、「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレンという更なる高みを捧げることとなる。アムステルも4勝目。かつては「黄金のタレ」とも呼ばれ揶揄されてきたこともあったが、その全てを黙らせるような素晴らしい戦果であった。
ある意味頂点に君臨することとなったジルベールが、2018年シーズンに担うべき役割はずばり、「後輩の育成」ではないだろうか。気が付けばチーム最年長に躍り出ており、若手が大量に加入する来シーズンは、自らの勝利以上に、今年のドワルスドール・フラーンデレンで見せたようなチームメートへのアシストを中心に担うことになるのではなかろうか。
そんなジルベールが唯一、本気で目指すとすれば、それはオーストリアで開かれる世界選手権。この栄誉も一度手に入れているとはいえ、「世界チャンピオンを2度以上獲得した男」というのはまだそんなに多いわけではない(過去11人)。既に伝説級の選手として名を刻まれているジルベールが、更なる伝説を目指すとしたらこの世界選手権となるだろう。
もちろん、フラーンデレン2勝というのも、なかなかに得難い果実である。
2017年のジルベールの勢いを象徴する、アムステル4勝目。同じ元世界チャンピオンのクフャトコフスキを圧倒した。
フェルナンド・ガヴィリア(コロンビア、24歳)
脚質:スプリンター
研修生だった2015年のツアー・オブ・ブリテンで勝利を飾り、一躍その名を轟かせた若き天才。2016年は同年代の天才たるユワンを下し、ミラノ~サンレモでも終盤で落車したものの可能性を感じさせる走りを見せつけた。
が、グランツールへの出場は回避。シーズン終盤でパリ~トゥールに勝利して再びその名を輝かせたが、それでもまだ、トップスプリンターの仲間入りを果たすのは数年後、くらいに思っていた。
しかし2017年シーズン。まさかのジロ4勝&ポイント賞。トップスプリンターの仲間入りどころではない。現役最強スプリンター候補の一角にすら立ってしまった。もう彼は「期待の新人」ではなく、キッテル・サガン・カヴェンディッシュ・グライペルと並ぶ存在となったのだ。
何より、ジロで見せた、山岳ステージすら余裕をもってこなしてしまう登坂力が驚異的だった。タイプとしてはサガンやマシューズに近いものがある。それはすなわち、ジロだけでなく、ツールやブエルタでも十分にポイント賞を狙える、ということを意味する。
2018年シーズンはツールに出場するのか否か? おそらくは、するだろう。そのためのキッテル放出だったのではないかと勘繰るほどだ。そして、ツールに出場した彼は、誰も侵すことのできなかったサガンの領域すらも、脅かすかもしれない。
そして彼にとって最大の目標の1つであるミラノ~サンレモの行方も気になる。2018年シーズンも見逃せない男だ。
ジロに続きグアンジーでも4勝。もはや貫禄すら感じさせる余裕のポーズである。
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、26歳)
脚質:オールラウンダー
2015年・2016年フレッシュ・ワロンヌ2位
2017年イル・ロンバルディア2位
2016年ツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝
2016年のツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝に続き、2017年シーズンはアブダビ・ツアーとパリ~ニースで新人賞と総合5位。ツアー・オブ・グアンジーで新人賞と総合4位だ。
しかし春先の怪我が原因で、予定していた通りのグランツールでの活躍は果たされず。最後のブエルタでなんとかステージ1勝を叩き出せただけで、総合争いにはまったく入り込めなかった。まあそれはそれで良いのだけれど、せっかく2018年はダニエル・マーティンも去り、総合争いのライバルも少なくなるため、経験も兼ねて総合争いにも積極的になってほしいところ。
そして、ひたすら2位続きのアルデンヌ系クラシックでの活躍を。とくにフレッシュ・ワロンヌ。ちなみに脚質的にはクフャトコフスキに近いところもありそうなので、アムステルゴールドレースなんかもイケるとは思うんだけどなぁ。
2度目のグランツールとなるブエルタで、ついにグランツール初勝利。昨年のツールでは悔しい思いを 繰り返していただけに、この勝利はまさに歓喜の瞬間だったようだ。
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、29歳)
脚質:スプリンター
失われたキッテルの代わりをガヴィリアが務めるとしたら、その代わりをこのイタリアンライダーが担うことになるのだろうか。
リオオリンピックに向けてトラック競技に集中したかったこともあり、2016年シーズンはあまり目立たず。2017年シーズンもジロのメンバーから外されるなど不遇の時を過ごしたが、シーズン後半より怒涛の勝ち星連打。良い状態のまま移籍を決めることができた。
ガヴィリアがツールを狙う分、念願のジロのエースを任されることは十分ありそうだ。総合に集中するチームでもないので、その点でもやりやすい。ユンゲルスがゴール前10kmの牽引役を担ってくれれば勝率もさらに上がる。ヴィヴィアーニにとって、2018年は栄光のシーズンとなりそうな予感がする。
長い暗黒時代を打ち破るきっかけとなった、ユーロアイズ・サイクラシックス・ハンブルクでの勝利。このあとの2週間で、4つのレースで5勝することに。
その他注目選手
ニキ・テルプストラ(オランダ、34歳)
脚質:ルーラー
ヘント~ウェヴェルヘムではサガンに「意味不明」とまで罵られたテルプストラ。とは言え、普通に戦ったら勝たれてしまうサガンを封じる動きという意味では巧みな戦術であった。そんな戦術センスはパリ~トゥールで十分に発揮され、チームを去る直前のトレンティンに勝利をもたらした。レース巧者のベテラン。
ボーネン、トレンティンが去る2018年シーズンは、スティバールと並んで北のクラシックのエースを担うこととなる。ルーベは最近調子の良いスティバールに譲り、自らは2位止まりで終わっているフラーンデレンを狙うか? この2つの大レースをクイックステップが共に勝ち取ったとしたら、それはとても輝かしいことである。
キッテルやトレンティンが抜けてもクイックステップは強いのだ、ということを証明しうる選手の1人。頑張れ!
ズィネク・スティバール(ベルギー、33歳)
脚質:ルーラー
北のクラシックにおける名誉シルバーコレクターと言えばキャノンデールのセップ・ファンマルケがすぐに頭に浮かぶだろうが、ことパリ~ルーベに限って言えば、このスティバールこそが真のシルバーコレクターである。
2015年・2017年のパリ~ルーベで共に2位。前者はデゲンコルブ、後者はファンアフェルマートにスプリントで敗れている。さらに言えば2014年も5位。このときはチームメートのテルプストラが勝っているのでまだいいが、2013年は共に終盤まで残っていたチームメートのファンデンベルフと合わせて観客との接触で失速。最終的に6位に終わる。
ボーネンが引退し、テルプストラと並んでエースとしてルーベに臨むことができる2018年シーズン。スプリント力を何としてでも強化し、いよいよ勝利を狙っていきたい。
イフス・ランパールト(ベルギー、27歳)
脚質:ルーラー
2017年のドワルスドール・フラーンデレンでは、フィリップ・ジルベールとの共闘の果てにワールドツアー初勝利を果たす。その後、国内選手権ITT部門で優勝。さらにブエルタ・ア・エスパーニャでは、平坦ゴールとなった第2ステージで残り1kmから飛び出し、後続集団を牽制するチームメートの力もあって、見事逃げ切り勝利を果たした。
ほか、パリ~トゥールでも7位、さらに昨年の世界選手権ITTでも7位など、独走力もスプリント力もあり北のクラシックへの適性も持つ、平坦スペシャリスト。バウアーやヴェルモトを失ったクイックステップにとって、その穴を埋める可能性を持つ選手筆頭となるだろう。トレンティンの代わりにもなりうるかもしれない。
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、26歳)
脚質:TTスペシャリスト
「90年世代」のデュムランが、その独走力と登坂力でフルームに対抗しうる最有力選手にのし上がりつつある中、その「次の世代」において最も彼に近い脚質を持つのがこのユンゲルスである。2017年はジロ・ディタリアで、アダム・イェーツを下して2年連続の新人賞を獲得。TTの距離が長かったというのもあるが、それでもアダムよりも上位でゴールできたというのは、彼にとっても非常に大きな結果であった。2018年もさらなる成果を目指してほしい。2~3年後には、総合表彰台を狙う選手になるために。
もう1つ、彼に託されたのはチームのエーススプリンターたちに対する献身的なアシストだ。かつてはトニー・マルティンが担っていたその役割、すなわちゴール前10kmからの強力牽引で、あわよくば逃げ切りを狙おうとする選手たちを飲み込む役回りである。ユンゲルスがそこまで働いた後、あとは最強のスプリンター陣が勝利を確実にモノにする。
エンリク・マス(スペイン、23歳)
脚質:クライマー
ブエルタ第20ステージでコンタドールを助け、「未来のスペイン人エース候補」と名指しされた男。実際、プロデビュー初年度でありながらブエルタ・ア・ブルゴスで総合2位となるなど、実力は十分。
スペインは本当に若手の実力者不足に陥っているので、じっくりと育っていってほしい。
2018年ツール 出場メンバー案
1.フェルナンド・ガヴィリア(エーススプリンター)
2.ジュリアン・アラフィリップ(総合エース兼アタッカー)
3.フィリップ・ジルベール(アタッカー)
4.ボブ・ユンゲルス(TTT要員&平坦山岳牽引役)
5.イフス・ランパールト(平坦牽引役)
6.ダヴィデ・マルティネッリ(発射台)
7.アリエルマキシミリアーノ・リチェセ(発射台)
8.ニキ・テルプストラ(石畳要員&平坦牽引役)
ガヴィリアをキッテルに代わるエースに据えて、発射台役としてリチェセとマルティネッリを選択。これは2017年シーズンにガヴィリアが4勝した2つのレースでの発射台だからであり、別にサバティーニを入れても良い。
マーティンの代わりの総合エースとしてアラフィリップを選択。総合が厳しくなったらアタッカーとして機能しうるだろう。ユンゲルスは基本、アラフィリップのアシストを担いつつ、状況次第で彼自身がエースとなる。だがいずれにせよ、マーティン時代同様に、アシストには恵まれない状況は続くだろう。総合争いへの比重は低くならざるをえない。
総合でもスプリントでもないアプローチに向けた一手としてジルベールを選択。スティバールというのも良い。
そして2017年シーズンに活躍したヴェルモトとバウアーに代わって、ランパールトを配置する。スプリント争いに持ち込むまでの平坦ロング牽引を一手に担ってもらおう。そしてラスト10kmからは、ユンゲルスの出番だ。
総括
たとえ主力が失われたとしても、銀河系軍団は銀河系軍団のままだった。スプリントでもクラシックでも、相変わらず活躍するクイックステップを見続けることはできるだろう。総合争いに関しても、グランツールの総合表彰台は難しいかもしれないが、アラフィリップとユンゲルスを中心に良い走りはするはずだし、短いステージレースならばマスやノックスの走りに期待することもできるだろう。
見ていて楽しいチーム。応援したくなるチーム。それがクイックステップであり、2018年シーズンもそこは変わりそうにない。
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