休息日明けから待ち受ける、試練の数々。
その最後に待ち受けるのは、ドロミテ3連戦。総獲得標高5,400mの超級山岳ステージと、平均勾配12%・登坂距離7㎞の超激坂を含む超級山岳TT。
この6日間を終えたとき、永遠の都ローマの表彰台に立っている顔ぶれが、2週目の最後のそれと全く変わっていたとしても何も驚くことはないだろう。
調べれば調べるほど、開催への期待度がひたすら高まる思いを感じさせたこの「最終決戦」の6日間をしっかりと予習していこう。
目次
- 第16ステージ サッビオ・キエーゼ〜モンテ・ボンドーネ 203㎞(山岳)
- 第17ステージ ペルジーネ・ヴァルスガーナ〜カオルレ 195㎞(平坦)
- 第18ステージ オデルツォ〜ヴァル・ディ・ゾルド 161㎞(丘陵)
- 第19ステージ ロンガロネ~トレ・チーメ・ディ・ラヴァレド 183㎞(山岳)
- 第20ステージ タルビジオ~モンテ・ルッサーリ・テュードル 18.6㎞(個人TT)
- 第21ステージ ローマ~ローマ 135㎞(平坦)
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第16ステージ サッビオ・キエーゼ〜モンテ・ボンドーネ 203㎞(山岳)
総獲得標高5,200m
最初の60㎞はわずかな平穏。その後はもう、平らなところなどほとんど存在しない。ひたすら登っては下ってを繰り返し、最終的な総獲得標高はチマ・コッピの登場した第13ステージ以上の5,200mである。
1個1個の標高はそこまででもない。いずれも2,000mを超えてはいない。マリア・アッズーラを狙う者、そして逃げ切りのチャンスを狙いたい者たちは果敢に先頭でタイム差を開きにかかるだろうが、メイン集団はすぐには臨戦体制に入ることはないだろう。休息日明けということもあり、とくにマリア・ローザを保持するチームはガチガチに固めた体制でリスクなく残り距離を消化していきたいはずだ。
とはいえ、最初の1級山岳パッソ・ディ・サンタ・バーバラはなかなかに難易度の高い登り。登り初めからひたすら9%以上の勾配が延々と続き、コンディションを崩した有力勢がいきなり意外な脱落を見せる可能性はあるだろう。
その上で本当に強いライダーたちによる決戦は最後の1級モンテ・ボンドーネで繰り広げられる。ここも、標高は1,623mであり、ブエルタのような異様な激坂が登場するわけでもない。ただ、前半と後半の2回に分けて急勾配区間が登場し、最後はラスト10㎞から8%超の勾配が延々と続き、ラスト6㎞で最大勾配15%地点が登場。
この6㎞というのが絶妙だ。仕掛けるのに早すぎもせず遅すぎもしない。十分に致命的なタイム差をつけるのに適した距離でもある。
そしてここまでの険しい道のりですでにアシストたちの足も限界だろう。マリア・ローザはここで重大な試練に立ち向かうことになる。
2006年にイヴァン・バッソを勝たせたこの峠で、新時代のドラマが繰り広げられることが楽しみだ。
第17ステージ ペルジーネ・ヴァルスガーナ〜カオルレ 195㎞(平坦)
総獲得標高300m
グランツールの3週目平坦ステージは必ずしも集団スプリントではない、意外なドラマが待ち受けるーーというのが通説ではあるが、この日は流石に大集団スプリントになりそうな気がする。何せ、(これもとてもジロらしいのだが)極端なほどにド平坦。総獲得標高はわずか300m。全体の平均勾配は0.3%。マイナスの。
全体のレイアウトも直線基調が多く、注意するとしたら最後の32㎞が海沿いを走ることによる横風と、ラスト2㎞手前から3回の直角カーブ、ラスト1㎞を切ってからも1回直角カーブがあることくらいか。
高速で展開するがゆえに、最後の最後で悲劇的な大落車が起きないよう注意していただきたい。あるいは、この直角をうまく利用して、まさかの終盤アタッカーが奇跡を起こすかも・・?
第18ステージ オデルツォ〜ヴァル・ディ・ゾルド 161㎞(丘陵)
総獲得標高3,700m
いよいよ、今年のジロのクライマックス。最後のドロミテ山岳3連戦の初日を迎えることとなる。
一応この日は「丘陵」カテゴリ。とは言え終盤は標高1,500m超の登りを連続してこなし、最後は山頂フィニッシュ。総合勢による争いも十分に見込めそうなレイアウトである。
フィニッシュまで25.8㎞地点に登場する1級山岳チビアーナ峠はラスト5㎞(フィニッシュまで31㎞)を過ぎてからひたすら急勾配が続き、最大勾配は15%。逆転を狙う総合系ライダーたちはここから仕掛ける可能性は十分あるだろう。
そして最後に待ち受ける2級山岳コルおよび2級山岳ヴァル・ディ・ゾルドの連続登坂。前者は勾配だけでいえば今大会「ここまでの中で」最難関区間であり、激坂区間に突入する段階で残り8㎞ほど。ここで確実に動きが出てくるだろう。
本当に厳しいステージを翌日に控えているとはいえ、この日からきっと攻撃は白熱するはずだ。
大人しそうな表情に見えて、その鍵となるポイントがたくさん含まれた重要ステージと言えるだろう。
第19ステージ ロンガロネ~トレ・チーメ・ディ・ラヴァレド 183㎞(山岳)
総獲得標高5,400m
ここまでも多くの超難関山岳ステージが用意されてきたが、今年はさらにそれらを乗り越える、「4つの山岳・総獲得標高5,400m」というバケモノを用意してきた。しかも4つの山岳は登場するたびに1,875m、2,196m、2,236m、2,304mと、少しずつその標高を上げていく。まさに最終決戦の舞台に相応しい、凶悪なプロフィールである。
いずれの登りも厳しいが、やはり勝負所となるのはフィニッシュまで40㎞を切ったところで現れる1級パッソ・ジャウ。登り初めに最大勾配14%区間が登場し、あとはひたすら10㎞の登りの間延々と急勾配が続いていく。
この登りはエステバン・チャベスが勝利したジロ・デ・イタリア2016第14ステージと、エガン・ベルナルが総合優勝を決定づけたジロ・デ・イタリア2021第16ステージ、いずれもクイーンステージと称されるステージに登場し、その存在感を見事に発揮してくれている。
2年前の戦いでは山頂まで残り5㎞の地点でダニエル・マルティネスに牽かれたエガン・ベルナルが集団からアタック。
そのまま、フィニッシュへと至るダウンヒルも含めて独走を続け、「復活」と「最強の証明」を成し遂げて見せた。
ベルナル自身は昨年冒頭の事故により長期離脱を強いられ、現在も完全回復に向けて調整が続けられており、今回のジロには不参加となっている。
この日は、そんなフルームやベルナルの伝統を受け継ぐ、雪壁の中の「ロングアタック」が見られるのだろうか。
もちろん、2年前と違ってこの日はここが最後ではない。7年前のチャベスの勝利のときもこのあとに登りが待ち構えていたが勝負所はこのパッソ・ジャウだった。
しかし、今年はこのパッソ・ジャウの後にさらに凶悪な登りが用意されている。
それは1級山岳トレ・チーメ・ラヴァレード。
ちょうど10年前、ヴィンツェンツォ・ニバリが猛吹雪の中勝利し、マリア・ローザを確実なものとしたあの超激坂フィニッシュである。
最後の3㎞は平均勾配12%超。最大勾配は18%。そして、2,300mを超える高・高標高。10年前のように雪が降った暁には、あまりにも過酷なサバイバルが展開されることとなるだろう(その前に中止になってしまうかもだけど)。
まさに、最終決戦。
ただ、もしもこの日、終えた上でなおも1分前後のタイム差しか上位に残っていなかったとしたら、
いや、それが2分、3分であったとしても――「本当の最終決戦」の舞台で何が起こるかは、まだ分からない。
第20ステージ タルビジオ~モンテ・ルッサーリ・テュードル 18.6㎞(個人TT)
総獲得標高1,050m
今大会は3ステージ計72㎞と、近年ではまれに見る長さの個人TT総距離を誇っている。しかもこの最後のTTは距離自体は18.6㎞と中距離程度だが、標高752mから標高1,766mまで1,000mを一気に駆け上がる超本格山岳TTとなっている。
その破壊力は並大抵のTTを遥かに凌駕するものとなるだろう。
思い出すのは3年前、2020年の「あの」山岳TT。タデイ・ポガチャルという男の底力を真に思い知らしめた瞬間であり、この10年で最も衝撃的なレースの1つであり、そしてプリモシュ・ログリッチにとっては拭いきれないトラウマ。
超級ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユを使用したあのときのレイアウトは登り区間の全長が5.9㎞。平均勾配8.5%(最大勾配20%)。
さて、今回はというと・・・
登坂距離7.3㎞・平均勾配12.1%・最大勾配22%(しかも2つ)。
つまり、3年前のあのときよりもさらにレベルアップしているのである。
さすがジロである。世界最凶のグランツール。
あのとき、57秒差あったログリッチとポガチャルとのタイム差は、終了時点では逆に59秒差に。開いたわけではなく、逆転されて、さらに突き放されたのである。
もちろん、あのときはタデイ・ポガチャルが強すぎたというのはある。だが、相手はログリッチで、確かに万全ではなかったかもしれないがそれでも区間5位に入るだけの走りを見せてはいた。
この日もまた、「何が起こるか分からない」。そしてもし、ログリッチがマリア・ローザを着てこの日を迎えていたとしたら――それは、3年前の「あの日」への、本当の意味でのリベンジとなるだろう。
限界に限界を重ねるドロミテ3連戦を終え、最後に頂点を掴み取っている男は果たして――。
第21ステージ ローマ~ローマ 135㎞(平坦)
総獲得標高500m
激戦を終え、戦士たちは永遠の都へ凱旋する。
前回ローマでの凱旋フィニッシュを経験した2018年とコースはほぼ同一。
エウル地区からスタートし、パラロットマティカ前でアクチュアルスタート。そのままクリストーフォロ・コロンボ通りをまっすぐ古くからの港湾都市オスティアに向けて直進し、そこからまっすぐ引き返して再び市街地へ。
最後の戦いはカラカラ浴場跡に到達してから始まる1周13.6㎞×6周のサーキットコースに入ってから。
最後はコロッセオを背景に500mの石畳ストレートを経てフィニッシュへと至る。
5年前の勝者はサム・ベネット。その年のジロにおける3度目の勝利であり、のちのツール・ド・フランスにおけるマイヨ・ヴェール獲得への大いなる伏線となった。
そして、同時にこの日、クリストファー・フルームが自身7度目のグランツール勝利を飾り—―そして、それが彼の最後のグランツール勝利となった。
スペクタルに満ちた4年前のジロ・デ・イタリアの再来とも言えるドラマティックなラストは今年もありうるのだろうか。
今年もまた、熱い3週間が始まる。
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