いよいよ開幕が目前に迫った今年最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアについて、その総合系およびスプリンター系からそれぞれ5名ずつ、注目選手をピックアップして紹介していく。
ジロはいつもそうだが、ツールに本命選手が集中する結果、「どんな結果になるか分からない」絶妙なメンバーが揃う。今年はスプリンターについても同様の状況が生まれており、例年とまた違った激戦を楽しむことができそうだ。
※年齢表記はすべて2023/12/31時点のものとなります。
目次
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総合系
レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)
ベルギー、23歳、171㎝、61kg
2019年に衝撃のプロデビューを飾り、あらゆるロードレースの常識を塗り替えていった男。
本来であれば、2020年のジロ・デ・イタリアで、最大の総合優勝候補として初グランツールに乗り込んでいくはずだった。しかしその直前で、まさかの悲劇が・・・。
そこから半年。復帰初戦で選んだのもジロ・デ・イタリアだった。その第1週は、エガン・ベルナルにも引けを取らない強力な走りを見せつけ、もしかしたら、という思いを抱かせた。
が、その第2週で突然の失速。復帰初戦ゆえの不調か、それとも彼にはグランツールは似合わないのか・・・その後再びレースの場に戻ってきた彼は相変わらずの強さを見せつけるが、世界選手権ロードレースの前後ではエディ・メルクスの批判を含む毀誉褒貶が飛び交うこととなった。
決して順調な道のりではなかった。
しかし、その度に彼は困難を乗り越え、常に限界を超え続けてきた。
その1つの形が昨年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュとクラシカ・サンセバスティアンの勝利、そしてブエルタ・ア・エスパーニャと世界選手権での勝利。誰も彼の限界を定めることはできない。
彼は「レムコ・エヴェネプール」であり、それは今なお進化し続ける無限の可能性である。
そして彼は再びこのジロ・デ・イタリアに戻ってくる。
すでにブエルタ・ア・エスパーニャに勝利している彼にとって、このジロは疑いもなく総合優勝候補なのだろうか?
いや、そんなことはない。何しろ、ジロ・デ・イタリアはブエルタ・ア・エスパーニャとは全然違う。ツール・ド・フランスとでさえ全く異なると言ってよい。
それは最も美しいグランツールであり、そして最も凶悪なグランツールでもある。
第2週から3週にかけて、標高2,000m超え・総獲得標高5,000m超え・それでいて総距離200㎞超えのステージが複数出てくる。1つ1つの山の厳しさはブエルタほどでなくとも、1ステージの過酷さはジロが唯一無二であり、そのサバイバルの中、まだ決してグランツールの経験が豊富ではないエヴェネプールがどこまで戦い切れるかは未知数である。
だからこそ、面白い。最後まで油断できないこの底知れぬ男が、どんな3週間を見せてくれるのか。
昨年の世界選手権の表彰台で彼は語った。「これほど素晴らしいシーズンは2度とやってこないと思う」と。
その言葉を是非とも、翌年にいきなり撤回してみせてほしい。先日の2度目のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ制覇で、早速その伏線は張られつつあるのだから。
チームメートについて最後に触れておくと、イラン・ファンウィルダーとルイス・フェルファーケという昨年のブエルタも支えてくれた盟友に加え、仕事人ヤン・ヒルトにマッティア・カッタネオと、実力派クライマーたちが揃っておりかなり本気の構えだ。
とはいえ、イネオスやユンボに比べるとやや見劣りするのは間違いない。第3週の山岳ステージの最終局面では、自ら一人で闘わざるを得ない場面もどうしても多くなるだろう。
今年の成績:UAEツアー総合優勝、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合2位、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝、ブエルタ・ア・サンフアン総合7位
プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)
スロベニア、34歳、177㎝、65kg
ユンボ・ヴィズマ不動のエース、のはずが、2年連続のツール未完走と後輩ヨナス・ヴィンゲゴーの大躍進により、ついにツールを回避することに。
その彼が今年の目標として定めたのが、2016年に彼がその名を轟かすきっかけとなったグランツール、ジロ・デ・イタリア。その後本気でグランツールの総合優勝を目指そうとして最初に挑んだのもこのジロであったが、2019年のその挑戦はあえなく失敗に終わる。
今回は4年ぶりの挑戦。実績だけで言えば、間違いなく最大の総合優勝候補。TTの長さもまた、彼にとってはこの上ないチャンスでもある。
それでも、何が起こるか分からない。それは他の誰よりもこの選手にはどうしてもついて回る。とくに第20ステージの山岳TTは、3年前のツールのあの悲劇をどうしたって思い出させる。
それで足がすくむような男ではない。この男は何よりも、その心の強さにおいてプロトン最強であることは間違いないのだから。
昨年のブエルタも、本当に悔しいリタイアを経験した。しかしそこからすぐさま蘇り、今年もティレーノ〜アドリアティコを総合優勝し、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャではエヴェネプールとの一騎打ちを見事制してきている。
この男の限界を誰が決められる?
この男の執念と不屈さもまた、あらゆる聴衆の想像を超えてくるのだから。
何も予想はできないが、間違いなく言えるのは、レムコ・エヴェネプールとの白熱した戦いを見せてくれるだろうということ。
昨年のブエルタでは果たせなかった、エヴェネプールとの「最終決戦」を今度こそ見てみたい。
この世界一過酷なジロの舞台で。
チームメートは盟友セップ・クスに2020年ジロ・デ・イタリアでテイオ・ゲイガンハートを勝たせた「最強の運び屋」ローハン・デニス、さらにはボウマン、オーメン、平坦ではトラトニク、アッフィニと隙のない布陣。
最終盤まで残りそうなアシストの存在は実に頼もしい。あとは、昨年のブエルタであったような謎オーダーが生まれなければ良いのだが。
今年の成績:ティレーノ〜アドリアティコ総合優勝、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合優勝
ジョアン・アルメイダ(UAEチーム・エミレーツ)
ポルトガル、25歳、178㎝、63kg
2020年ジロ・デ・イタリアでレムコ・エヴェネプールのアシストを務めるはずが、彼の突然の不出場に急遽エースを務めーーそして、15日間マリア・ローザを着続ける「伝説」を残した。
以来、ここまでグランツールの勝利はなし。表彰台の経験もない。
しかし、1週間のステージレースでは常に安定した走りを見せてくれているし、2021年のジロ・デ・イタリアで見せてくれた、サイモン・イェーツが何度アタックで突き放してもやがて追いついてきて最後はペース走行のまま彼を突き放すといった鮮烈な走りはいまだに忘れることができない。トム・デュムランを彷彿とさせる走りで、個人的にはとても好きなタイプの選手だ。
今年もボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャではログリッチ、エヴェネプールに続いて(2位エヴェネプールとのタイム差は2分近くついているとは言え)総合3位。ティレーノ〜アドリアティコでもログリッチに続く総合2位など、コンディションはかなり良い。
エヴェネプール、ログリッチの2強に勝つには何か大きな飛躍がないと難しそうだが、少なくとも表彰台に登る権利は十分にあるだろう。
チームメートはポガチャルのアシストとしても活躍しているエース級ライダーのブランドン・マクナルティにダヴィデ・フォルモロ。そしてジェイ・ヴァインも、アシストとしてどこまで走れるのか、未知数ながら楽しみである。
割とグランツールの山岳ステージでは最後に一人で戦わざるを得ない場面をよく見かけるので、今回は何とか彼をそばで支えてあげてほしいところ。
今年の成績:ティレーノ〜アドリアティコ総合2位、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合3位、ヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合6位
テイオ・ゲイガンハート(イネオス・グレナディアーズ)
イギリス、28歳、183㎝、65kg
ご存じ2020年のジロ・デ・イタリア覇者。そのときもまさかのグランツール勝利という印象だったが、その後もグランツール覇者らしい目立つ走りは見せられていない・・・と思っていたが、実際には怪我や病気で思うように走れなかったというのが実情のよう。
事実、今年はここまで絶好調。ティレーノ〜アドリアティコではログリッチ、アルメイダに続き総合3位。「ジロ・デ・イタリア前哨戦」ツアー・オブ・ジ・アルプスではステージ2勝&総合優勝と大暴れをしてみせている。
そして何より、チームが強い。
まずはツール覇者ゲラント・トーマス。さらに昨年ブエルタ総合6位のテイメン・アレンスマン。パヴェル・シヴァコフもエースを担える実力の持ち主で、かなり盤石のアシスト陣といえる。かつてログリッチの右腕を担い、最強アシストとして未来を嘱望されていたローレンス・デプルスにも期待がかかる。わざわざこのメンバーに呼ばれたからには、復調していると信じている。
そしてジロ・デ・イタリアといえばのサルヴァトーレ・プッチョ。2018年のフルームの逆転劇の最初の発射台となり、2020年のゲイガンハートの総合優勝にも貢献した、イネオスのジロ総合優勝と常に歩みを共にしているいぶし銀(と思ったけどまだ34歳なのか!)の名アシスト。
同じくアシストだけど登りも平坦もいけるベン・スウィフトも頼れる男。もちろん、フィリッポ・ガンナも平坦・登り・TTや逃げ切りでのステージ優勝さえ期待できてしまう万能人。
エースの実力実績ではエヴェネプールログリッチが頭抜けているだろうが、最強のチーム力で最もレースをかき回してくれるのはこのチームかもしれない。2018、2020に続く、衝撃の逆転劇がまたありうるかも?
今年の成績:ツアー・オブ・ジ・アルプス総合優勝、ティレーノ〜アドリアティコ総合3位、ブエルタ・ア・アンダルシア総合6位、ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ総合3位
ジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス)
オーストラリア、30歳、190㎝、67kg
2年前の総合2位ダミアーノ・カルーゾとのダブルエース。とは言え、実力として期待できるのはやはりこの男。前哨戦ツアー・オブ・ジ・アルプスではゲイガンハート、ヒュー・カーシーに続く総合3位。そして2年前のブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位の実績はやはり見逃せない。
昨年はツールの石畳ステージで落車してリタイアして以来シーズンを棒に振ったが、いよいよ燻っていたその「覚醒」のときがやってくるか。先日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで3位など着実に実力をつけつつあるサンティアゴ・ブイトラゴのアシストにも期待。
もちろん、我らが新城幸也が、この強力な布陣の一員として選ばれていることからも、応援せざるを得ないだろう。
今年の成績:ツアー・オブ・ジ・アルプス総合3位、パリ〜ニース総合10位、ブエルタ・ア・アンダルシア総合11位
スプリンター
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
デンマーク、28歳、179㎝、70kg
トップオブザトップのスプリンターたちがほとんど出場しない中、もしかしたら一番勝利数を稼いでしまうのはこの男かもしれない。これまでもステージレースでのスプリント勝利はよく見られていたが、グランツールの完全に純粋な集団スプリントではなかなか勝ち切れてはいない(昨年のブエルタの3勝も登りスプリントや抜け出し小集団での勝利)。
だが今回は、アシストのいないカヴェンディッシュや一騎打ちでは何度も勝利しているアッカーマン、そして勝ちきれないガビリアなどが相手のため、最有力スプリンターとして色々なところで名前が挙がっているようだ。
もちろん、得意の逃げ切りや混戦の中での抜け出しも期待したい。それこそ第15ステージの「プチ・イル・ロンバルディア」なんかもいけてしまうのでは? スプリントに限らないエンターテイナーとしてかき回してくれることだろう。
今年の成績:ロンド・ファン・フラーンデレン3位、パリ~ルーベ4位、ヘント~ウェヴェルヘム5位、パリ~ニース区間1勝&区間2位&区間3位
フェルナンド・ガビリア(モビスター・チーム)
コロンビア、29歳、180㎝、71kg
強敵が少ないというのはガビリアにとっても大きなチャンスである。
2017年には4勝とマリア・チクラミーノを獲得しているが、ある意味それがキャリアハイとなってしまっている。
2019年の落車以来、何かの歯車が噛み合わなくなってしまったかのように、勝ちきれないことが続く・・・いや、上位にはかなり安定して入っており、間違いなく強いのだ。しかし、勝ちきれない。スプリンターにとって勝てないという重みはあまりにも大きい。
そんな彼が、前哨戦ツール・ド・ロマンディ最終日に鮮やかな勝利。
いつものあのふてぶてしい偉そうなガッツポーズを久々に見れて嬉しかった。最高の気分でジロ入りを果たせているはずだ。
相方には実力者マックス・カンター。グランツールでのスプリント勝利なんて経験あるの?と思ってしまうようなモビスター・チームに、奇跡の勝利を送り届けられるか。
同世代のライバルであったはずのカレブ・ユアンは、ガビリアの全盛期の頃には沈み込んでいた。しかし彼はその後、復活し、ここ数年最強スプリンターの一角に据えられてもいる。
同じようにガビリアにも復活が訪れると信じている。今大会最有力はピーダスン? いやいやガビリアこそ、最強だ!
今年の成績:ツール・ド・ロマンディ区間1勝、ブエルタ・ア・サンフアン区間1勝、ミラノ~トリノ2位、UAEツアー区間2位、ティレーノ~アドリアティコ区間3位
マイケル・マシューズ(チーム・ジェイコ・アルウラ)
オーストラリア、33歳、178㎝、72kg
今年のマシューズは例年の彼の「ルーチン」とは全く異なるスケジュールを用意してきている。
まず、2014年以来出場の無かったツアー・ダウンアンダーに出場。カデルレースのあとは例年通りのパリ~ニースへと向かうが、北のクラシックはそこそこに切り上げてアルデンヌにもいかず、エシュボルン・フランクフルトを経ての今回のジロ「初挑戦」。そのままツールにも出場する予定はあるようだが、その前にまずは自らの新境地を開きにやってきた。
今年ここまで勝利は無し。しかし上位には入ってきており、悪くはないコンディション。昨年のツールのように、逃げからの勝利も貪欲に狙ってくれるかもしれない。
今年苦しい状況にあるチームを救うことはできるか?
今年の成績:ツアー・ダウンアンダー区間3位&4位、パリ~ニース区間6位、カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース4位
マーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザフスタンチーム)
イギリス、38歳、175㎝、70kg
2年前のツールで奇跡の4勝を成し遂げた、彼もまた不屈の男である。今年はついにクイックステップを離れることになったが、アスタナに拾われながらもチャンスを狙い続ける。
問題はアシストの存在。サミュエーレ・バティステッラがかろうじてスプリント力はある方かもしれないが・・・それ以外ではパンチャーのヴェラスコとかモスコンとか? ううん・・・そもそもアシストとして働いた経験が多くなさそうなメンバーでもある。
今期ここまでの最高順位はUAEツアー第1ステージの区間3位とスヘルデプライス3位。一応、そのとき競り負けたようなトップスプリンターたちは今回はいないが、果たして「プロ162勝目」をこのジロで飾ることはできるのか。
ツールに向けての、重要な前哨戦だ。
今年の成績:UAEツアー区間3位、スヘルデプライス3位
カーデン・グローヴス(アルペシン・ドゥクーニンク)
オーストラリア、25歳、176㎝、76kg
個人的にはピーダスン、ガビリアに次いで勝てる可能性を期待できるスプリンターはこのグローヴスである。むしろ、最も期待していい存在と言えるかもしれない。
実績としても今年、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで2勝。今回対戦するライバルたちとの直接対決ではなかったものの、4月頭のリンブルフ・クラシックでの勝利と合わせ、「勝ち癖」がついているのはチームの状態としても良いだろう。
そしてそのチーム力という面でいえば、上にあげたスプリンターたちと比べても最も良いかもしれない。ジャスパー・フィリプセンなどを勝たせた実績のあるアレクサンダー・クリーガーやクリスティアン・ズバラーリ、アルノー・デマールの発射台として信頼の厚かったラモン・シンケルダムなど、かなりグローヴスの勝利のための面子を揃えてきている印象がある。
なお、エースナンバーを付けているのはステファノ・オルダーニ。実際、2年前のジロではサガン、ガビリア、チモライに次いでの区間4位など、実績はある。アルペシンでは珍しくないダブルエース体制かもしれないし、あるいは昨年のジロで勝利経験のあるオルダーニはどちらかというと逃げや丘陵系ステージの担当という役割分担をしているかもしれない(昨年のツールのフルーネウェーヘンとマシューズのような)。
もしオルダーニが平坦スプリントステージではグローヴスのアシストとして働いてくれるのであればこれほど頼もしいものはない。
ベテランの活躍する感のある今年のジロ・デ・イタリアスプリント決戦場に、新時代の風を吹かせてみせよう!
今年の成績:ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ区間2勝、リンブルフ・クラシック優勝、パリ~ニース&ツアー・ダウンアンダー区間9位
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