「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレンは、毎年のように予想もつかないようなドラマを描いてくれる。
2016年のペテル・サガンによるファビアン・カンチェラーラを突き放しての独走勝利。
2017年と2018年、それぞれクイックステップの2大エースであったフィリップ・ジルベールとニキ・テルプストラによる長距離独走勝利。
2019年、EFエデュケーション・ファーストによる見事なチームワークの末に勝ち取った「まさか」のアルベルト・ベッティオルによる優勝。
2020年、ワウト・ファンアールトとマチュー・ファンデルプールによる世紀の一騎打ち。
だがそれでも、今年のこのドラマは、これまで以上に信じられないような結末を迎えることとなった。
「怪物」マチュー・ファンデルプール。
決して調子は悪くなかった。
むしろワウト・ファンアールトを突き放したように、絶好調とも言える状況だった。
そんな彼を、真正面から打ち倒した男がいた。
もしかしたら過去誰も成し遂げたことのないような勝ち方をした男。
そして彼は、この日間違いなく、最も強い男でもあった。
カスパー・アスグリーン。
その勝利へとつながる100kmの道筋を、振り返っていく。
目次
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残り100㎞~50㎞、クイックステップのチーム戦略
7名の逃げが生まれ、最大で12分を超えるタイム差ができあがった今年のロンド・ファン・フラーンデレン。
最初にレースが動き始めたのは残り100㎞。
オンループ・ヘットニュースブラッドでも勝負所として使われる石畳の登り「モレンベルク」で、エレガント・クイックステップのカスパー・アスグリーンが先頭に立って一気にペースアップ。
その背後にはエースのジュリアン・アラフィリップを従え、ワウト・ファンアールトもマチュー・ファンデルプールもしっかりとこれに食らいついていった。
だが、このあとはまだまだ次の勝負所までは距離があり、ここでの動きが決定的になることはまずないだろう。
個の直後、残り94.3㎞から始まるブレンドリーズの登りでケヴィン・ゲニッツ(グルパマFDJ)がアタックし、ここに今年のオンループ・ヘットニュースブラッド覇者ダヴィデ・バッレリーニが食らいついたことで再び危険な動きが巻き起こるが、ユンボ・ヴィスマのネイサン・ファンフーイドンクやアルペシン・フェニックスのオスカル・リースベークなどがチェックに入ったことで失速。
11名にまで膨れ上がったこの小集団の飛び出しは間もなく引き戻されることとなる。
しかしこの非常に早い段階で早速レースを動かしてきたエレガント・クイックステップ。
オンループ・ヘットニュースブラッド、E3サクソバンク・クラシックと今年の「ロンド前哨戦」2戦で共に見せた早めのチームでの積極的な攻勢は、このロンド本番においても遺憾なく繰り出されていった。
クイックステップは今日も絶好調。
このまま彼らに主導権を握られたままフィニッシュに近づいていけば、他チームの勝ち目も着実に失われていく。
とくに個の力では勝ってもチーム力では如実に差のあるマチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールトの2人が勝つためには、彼らもまた早めの攻撃でクイックステップの歯車を狂わせる必要があった。
そしてファンデルプールは実際に、その作戦に出る。
残り55km。2017年にフィリップ・ジルベールが独走を開始した、重要な勝負所の1つ「2回目オウデクワレモント」。
そこでまずはマチュー・ファンデルプールが一気に加速を開始。
勝負を仕掛けに行った。
だが、ここにいち早く反応したのが、カスパー・アスグリーンであった。
常にマチュー・ファンデルプールをマークしていたのか。
彼の攻撃に迷いなく飛び乗った彼は、当然エースのアラフィリップのためにローテーションを拒否し、ファンデルプールの背中に貼りつく。
ファンデルプールとしてもこの距離からの独走を開始できれば十分に勝ち目はあっただろうが、そこにアスグリーンが貼り付くのであればさすがに厳しい。
アスグリーンが前に出る。それはすなわち、ファンデルプールが諦めて足を止めたことを意味する。
間もなくして、ファンデルプールの最初の一撃が失敗に終わった。
続くパテルベルク。
今度は先頭のアスグリーンが先に仕掛けた。
ここに今度は逆にファンデルプールが反応し、再び2人が抜け出す。
だがファンデルプールがついてきたことを確認して再びアスグリーンは足を緩め、間もなく集団に吸収された。
2回目オウデクワレモント、パテルベルクを経て、次の勝負所コッペンベルフ(残り45㎞地点)に向けての平坦区間。
ここでティム・ウェレンスのアタックに反応して食らいついていったトム・ピドコック。そしてそこに飛び乗ったエレガント・クイックステップのフロリアン・セネシャル。
続いて、クリストフ・ラポルトと共に世界王者ジュリアン・アラフィリップがブリッジを仕掛ける。
この一連の動きに、ファンデルプールは乗り遅れてしまった。
先ほどの、カスパー・アスグリーンとの攻防によって一時的に足を失っていたファンデルプールと、彼が動けば動くつもりでいたワウト・ファンアールトの2人が、セネシャルとアラフィリップの2人が含まれる危険な飛び出しを許してしまうことに。
なんとかブリッジしようとファンデルプールが加速すれば、そこにすぐさま反応するアスグリーン。
その動きを見て、足を止めるファンデルプール。
E3サクソバンク・クラシック勝者カスパー・アスグリーンをマチューの徹底的マークと囮に使っての、贅沢なクイックステップのコンビネーション戦略。
オンループ、E3と成功してきた彼らのチームワークが、今回もまたファンデルプールとファンアールトという2強を封じ込めることに成功した。
ように、思えたのだが。
残り45㎞、ファンデルプールの反撃
残り45㎞から始まる、フランドルで最も厳しい登り、コッペンベルフ。
昨年もこの登りでのジュリアン・アラフィリップのアタックが最終的な動きを生み出したが、今年もまたここで、アラフィリップがアクセルを踏んだ。
アラフィリップにとっては、この直前の動きでファンデルプールたちを置き去りにしたところまでは良かったが、このコッペンベルフに向けて、抜け出した自分たちの集団とファンデルプールたちの集団とのギャップが徐々に縮まっていた。
このまま合流させてしまえば、せっかくの状況が無駄になる――であれば、合流する前に抜け出して独走に持ち込む、というのは十分にありうる戦略であった。
実際、アラフィリップが逃げ切ればそれでよし。そうでなくとも集団内にいるセネシャルやアスグリーンが、次のチャンスを狙う。とくにスプリント力のあるセネシャルの存在は大きい。
それが、これまでも繰り返してきたクイックステップの戦略であり、今回もまた、完璧にその状況へと持ち込めていた、はずだった。
だが、これをぶち壊したのがマチュー・ファンデルプールの圧倒的な強さだった。
コッペンベルフ終盤で加速し始めたファンデルプールの勢いに、彼を徹底的にマークしていたはずのアスグリーンも、集団内で足を貯めておくべきセネシャルも、完全に突き放されてしまった。
ついていけたのはワウト・ファンアールト、ティム・ウェレンス、クリストフ・ラポルト、トム・ピドコック、マルコ・ハラー、アントニー・テュルジ(そして最後まで逃げ残り続けていて吸収されたシュテファン・ビッセガー)。
アスグリーンとセネシャルはチームメートのイヴ・ランパールトと共に、グレッグ・ファンアーヴェルマートやヤスパー・ストゥイヴェンらを含む小集団の中で10秒差でアラフィリップたちを追いかける形となった。
マチュー・ファンデルプールが絶好調であることは明白だった。
このまま、クイックステップのチーム戦略を、個の力だけでぶち壊してしまうことになるのか。
だが、クイックステップにはとんだ伏兵が控えていた。
いや、それは実力においても実績においても伏兵という表現は決して相応しくない存在ではあった。
それでも、圧倒的過ぎるように思えていた今日のファンデルプールの個の力に、まさか真正面から対抗しうる者がいるとは。
カスパー・アスグリーンという男の、この日の本当に強い瞬間がここから始まる。
残り40㎞~27㎞、アスグリーンの力とクイックステップの誤算
アラフィリップ、ファンデルプール、ファンアールトらを含む9名の先頭集団は、チームメートを入れられている選手が一人もいないということでなかなかペースを上げていくことはできず。
逆にこれを追走する集団の方では、グレッグ・ファンアーヴェルマートのためにオリバー・ナーセンが全力で牽引し、先頭とのギャップを縮めていく。
さらにマッテオ・トレンティンがブリッジを仕掛けるべく飛び出すと、2番手にいたカスパー・アスグリーンがこれを捕まえるべく加速。
これら一連の動きが呼び水となって追走集団の速度が上がり、残り38㎞でアラフィリップたちの集団と追走集団とが合流することとなった。
そして残り37㎞。ターインベルク。
かつてトム・ボーネンがアタック所として好んだという別名「ボーネンベルク」にて、再びアスグリーンがアタック。
ここにファンデルプールが食らいつき、ファンアールト、アラフィリップが合流。
マチュー・ファンデルプール、ワウト・ファンアールト、ジュリアン・アラフィリップ――この3名は、昨年のこの同じ場所で形成された「3強」である。
しかし今年はここに、アスグリーンが加わる。
クイックステップにとっては理想的とも言える展開。
そしてこの展開を生み出したのが、今年のE3覇者アスグリーンの絶好調ぶりであった。
しかしクイックステップにとっての理想的な展開とはあくまでも、この最強の先頭集団において彼らが2名以上残し、チーム戦術を取れる展開に持ち込むことであった。
だが、すでにコッペンベルフで見せたように、マチュー・ファンデルプールが本気で踏み始めたとき、アラフィリップならいざ知らず、アスグリーンがついていけるかはかなり怪しい状態ではあった。
ゆえに、このままこのロンドにおける最終勝負所「3回目オウデクワレモント」および「2回目パテルベルク」に突入してしまえば、クイックステップの体制が崩壊してしまう恐れがあった。
だから、クイックステップはその前に先手を打つ必要があった。
それが、残り27km。
過去、ニキ・テルプストラの独走勝利(およびその2年前のテルプストラ&アレクサンダー・クリストフの抜け出し)のきっかけとなった、あるいは2016年にペテル・サガンがミハウ・クフィアトコフスキ、セップ・ファンマルクと共にファビアン・カンチェラーラを一度突き放し、その後のサガンの勝利のきっかけとなった、「クルイスベルク後の平坦区間」。
ここで、集団の後方から、ちょっと隙間を開けたうえでラインを左にとって、そこから鋭いアタックをアスグリーンが仕掛けたのは、まさにその「先手」のつもりであった。
すぐさま反応するワウト・ファンアールト、そしてマチュー・ファンデルプール。
だが、ここですぐその後輪を捉えなければならないはずのジュリアン・アラフィリップが、このときまったく、動けなかった。
ここまで最強のチームワークを発揮し続けてきたクイックステップ。
アスグリーンの素晴らしいターインベルクでの動きも、強さも、あくまでもアラフィリップと共に先頭集団に残り、そのチームワークを発揮できることが前提であった。
にも拘らず、ここでアラフィリップを失うこととなるアスグリーン。
一瞬にして、クイックステップの戦略は瓦礫の山と化す。
アスグリーンはファンデルプール、ファンアールトという2人の「怪物」に、単身で立ち向かう必要に迫られた。
最後の20㎞
カスパー・アスグリーンは2019年のロンド・ファン・フラーンデレンにおいて最後に集団から抜け出して2位に入り込んでいる。
今年は「前哨戦」E3サクソバンク・クラシックで逃げ切り勝利。
その実力はクイックステップでも1,2を争うものであることは間違いなく、間違いなく今大会最も強い男の一人ではあった。
とはいえ、マチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールトという規格外の男と並んだとき、彼に勝ち目があるかといえば、正直難しいと言わざるを得なかった。
スプリントでは当然、2人には敵わないだろうし、得意の平坦での飛び出しも、もう少し集団の人数が多ければまだしも、ファンデルプールとファンアールトの2人では、さすがに牽制し合いを期待するのは難しい。
あとはオウデクワレモントとパテルベルクでの抜け出し――むしろここでは、ファンデルプールらのアタックに食らいつくことが彼にとっての最優先であり、自らがそこで抜け出すなど、もってのほかだった。
つまり、勝てる目がほぼない。
あるとすればファンデルプールとファンアールトが互いにやり合っている間にそこからカウンターで抜け出すことくらいだろうが――昨年は結局最後のスプリントまで本気の打ち合いをすることのなかった2人に対し、それを期待するのは少し難しいように感じられた。
やはり、あの場面でアラフィリップが脱落したときに、クイックステップの勝ちの可能性は失われてしまったのか。
アスグリーンはこのまま、3位でフィニッシュすることが精一杯なのか――と、思われていた。
だが、この日、アスグリーンは限りなく純粋に「強かった」。
それはともすれば、ファンデルプール以上に・・・。
3回目オウデクワレモント。
2019年大会でアルベルト・ベッティオルが抜け出した、正真正銘の「最後の勝負所」。
昨年は最後のスプリントでの決着を選んだファンデルプールではあるが――今年は、直近のヘント~ウェヴェルヘムでのファンアールトの勝利、そしてここまでファンアールトがあまり激しい動きをしていないことを警戒したのか――ここで彼は、ライバルを突き放すべく力強くペダルを踏み込んだ。
3月のストラーデビアンケで1000w以上を叩き出し、ジュリアン・アラフィリップを突き放したその驚異の加速。
その瞬間、一気にアスグリーンとのギャップが開き、ファンアールトはさらにそこからも遠く突き放されてしまった。
マチュー・ファンデルプールは今日、間違いなく最強格であった。
ジュリアン・アラフィリップよりも、ワウト・ファンアールトよりも、彼は強かった。
だが、ここに食らいついていったのがアスグリーンだった。
一度はファンデルプールから突き放されてしまったアスグリーンだったが、その後彼は淡々と踏み続け、マイペースでファンデルプールとのタイム差を徐々に縮めていった。
加速力では、確かにファンデルプールには敵わない。
しかし、一定ペースでの出力の高さについては、TTスペシャリスト型のアスグリーンがもつポテンシャルはこの日、ファンデルプールに匹敵するものであった。
いや、それ以上のものですらあった。
残り13㎞から始まる、最後のパテルベルク。
2016年大会でペテル・サガンがセップ・ファンマルクを突き放し、独走に持ち込んだ最後の登り。
ここでアスグリーンはファンデルプールの横に並んで、シッティングのまま加速していった。
その足の回転は常に一定。石畳の登坂の真ん中を、淡々と踏み込んでいく。
一方のファンデルプールは石畳を割け道の端の少しでも綺麗な道を駆け上っていく。
だがそのペダリングは激しく、上体も左右に激しく揺れるような状況であった。
そして最大勾配20%の超激坂区間。
ここで、アスグリーンは一定ペースのままファンデルプールを抜き去り、先頭に立った。
このとき、アスグリーンが今大会最も強い足を持っていることが証明された。
だが、それでもファンデルプールを突き放せなかった以上、やはりアスグリーンに勝ち目はないように思えた。
アスグリーンは加速力がないわけではないものの、基本的にこれまでの勝利はツール・ド・ラヴニールでのそれも合わせ基本的には「独走勝利」かTTでの勝利が基本であった。
多少、披露の状況においてアスグリーンが優位であったとしても、スプリント勝負になればアスグリーンに勝ち目はない。
そのことは、おそらくは世界中の多くのファンにとって、共通の見解であったことだろう。
かと言って、フィニッシュまでの13㎞で、2人切りの先頭集団から抜け出して独走を開始できるようなポイントは一切存在しない。
結局、アスグリーンが勝つ姿は全くイメージができない。
ここまで、素晴らしい走りをし続けていたアスグリーン。
2019年に次ぐ2位――それは、とても悔しいだろうが、それでもいつかはきっと、このロンドを制することができるだろう。
そう、確信できるだけの走りを彼は見せてくれた。
だが、残り1.5㎞。
マチュー・ファンデルプールが先頭に立ち、しばらく牽引したのちに、後ろを振り返る。
そこまで丁寧にローテーションし続けていたカスパー・アスグリーンが、ここで先頭交代を拒否。
追走集団とのタイム差は40秒弱。
牽制し合うには、十分すぎるタイム差だった。
再び振り返るファンデルプール。
アスグリーンは頑なに交代を拒否。
当然、ファンデルプールは足を緩める。
そして残り1㎞ゲートを潜り、最後の牽制合戦が始まる。
それは、昨年のラスト1㎞とそっくりであった。
あのときはワウト・ファンアールトが先頭。マチュー・ファンデルプールが後方で、何度も振り返るファンアールトに対し、ファンデルプールが交代を拒否しながら来るべき瞬間を待ち続けていた。
あのときは、本当にどちらが勝つか分からなかった。
完全に素足のままであれば、ファンアールトに軍配が上がりそうなところを、260㎞におよぶ厳しい石畳激坂の戦いを終えたあとにどうなるかは、予想がつかなかった。
今回はそれでも、そのとき以上にファンデルプールとアスグリーンとの差は歴然としていたはずだった。
それでも、何度も振り返りつつ、ラインを左右に振って牽制し続けるファンデルプールの姿に、「まさか」「もしかしたら」の思いが去来した。
残り500m看板を通過。
昨年、勝負が始まった残り300mも通過。
腰を上げたアスグリーン。加速が開始されるが、まだ飛び出さない。ファンデルプールは何度も振り返り、その出方を窺う。
残り250mを切って、動いたのはファンデルプールが先だった。
すでに加速の準備段階に入っていたアスグリーンはすぐさまこれに追随。
加速の勢いはまずはアスグリーンが上だった。
一瞬、先行したファンデルプールに並びかけるが、それでもファンデルプールの速度がここで一気に増していき、再びリードを広げていった。
だが、最後の最後でモノを言ったのは、純粋なスプリント力ではなく、その体力の残り具合であった。
それはまるで、2019年、冷たい秋雨が降りしきる中、地獄のようなサバイバルレースの果てに、マッテオ・トレンティンを打ち破ったマッズ・ピーダスンのスプリントのようであった。
彼と同じデンマーク人の、26歳。
カスパー・アスグリーンはラスト250mのスプリントを最後の最後まで加速し続け、やがて、ラスト50mで力尽き項垂れたファンデルプールの横を追い抜いた。
そして、世界で最も美しいフィニッシュゲートを、彼は先頭で潜り抜けた。
それは、最後の30秒に至るまで想像もしていなかった終わりではあったものの、終わってみれば決して意外でもなんでもなく、文句のつけようのない勝利であった。
彼は確かにこの日、間違いなく最も強い男であった。
誰よりも最初に勝負を仕掛け、常に最強のライバルをマークし続け、最も重要な場面においてチームに最良の状況を作り出し、最後の勝負所では先頭を駆け抜けた。
それでも、最後のスプリントでは不利だと思われていた。
そこで彼に勝利をもたらしたのはそこに至ることのできた彼の実力と、そして、そんな自分自身を最後まで信じ続けることのできたその自信であった。
何としてでも、勝利を持ち帰る。
その執念が、あのパテルベルクでの攻撃につながり、最後の状況を生み出した。
このあと、彼がどんな進化を見せるのかはまだわからない。
このままフランドル・クラシックの王者として君臨し続けるかどうかは、確信が持てないところではある。
もしかしたら来年はTOP10にも入れないまま終わるかもしれないし、彼が他のエースをアシストする側に回り、その勝利に貢献して自らは早々に脱落する、そんな姿も十分にありうると思っている。
それでも、今日この日の勝利は決して偶然でもまぐれでもなく、彼がこの日の最強であったことは確かだ。
そしてその強さの証明は、残り100㎞から繰り出された少なくとも9回にわたるアタックと、最後のスプリントによって、成されることであろう。
おめでとう、カスパー。
今は少し休みつつ、やがて次なる栄光を、再びその右手に掴み取ってくれ。
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