りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

Deceuninck - Quick Step  2020年シーズンチームガイド

 

読み:ドゥクーニンク・クイックステップ

国籍:ベルギー

略号:DQT

創設年:2003年

GM:パトリック・ルフェーヴル(ベルギー)

使用機材:スペシャライズド(アメリカ)

2019年UCIチームランキング:1位

(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります) 

 

参考 

Quick-Step Floors 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Deceuninck - Quick Step 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

 

スポンサーリンク

 

  

2020年ロースター

※2019年獲得UCIポイント順。

f:id:SuzuTamaki:20191215170537p:plain

f:id:SuzuTamaki:20191215170801p:plain

f:id:SuzuTamaki:20191215170810p:plain

f:id:SuzuTamaki:20191215170823p:plain

f:id:SuzuTamaki:20191215170837p:plain
言わずもがなの最強チーム。紹介しきれないほどのタレントが揃っている。

しかし、それでいて常に予算的な問題に苦しみ、有力選手を次々と手放している。2018年はキッテル、2019年はガビリア、そして2020年はヴィヴィアーニと、エーススプリンターの座もころころと変わっていく。

クラシックスペシャリストについても同様だ。2019年にニキ・テルプストラを失ったこのチームは、2020年には、この数年、このチームのクラシックシーンを引っ張り続けてきたフィリップ・ジルベールがチームを去る。

一方で、残すと決めた選手は全力で保持する。ジュリアン・アラフィリップはその代表格だ。ルフェーブルGMは、時間を多少かけてでも、彼をやがてツールを狙える存在にすると息巻いている。エフェネプールとの5年契約もまた、このチームが長期的な視点も持っていることを示している点である。

その点も含め、ルフェーブルの若手発掘の力量は凄まじいものがある。2019年のトレーニーのステイムルはすでに1勝を上げている。その他、2018年のホッジとヤコブセンのように、ネオプロから活躍しまくれる存在が2020年も複数名いる。21歳にしてアメリカ国内TT王者となったイアン・ギャリソンや、U23版イル・ロンバルディア優勝のアンドレア・バジョーリ、あるいはマウリ・ファンセベナントなど。

常に新陳代謝を繰り返し、かつ実績を伴い続けるこのチーム。2020年もまた、「最強チーム」であり続けられるか。

 

 

注目選手

ジュリアン・アラフィリップ(フランス、28歳)

脚質:オールラウンダー

Embed from Getty Images

2019年の主な戦績

  • ツール・ド・フランス区間2勝、総合5位
  • ミラノ〜サンレモ優勝
  • ラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝
  • ストラーデビアンケ優勝
  • アムステルゴールドレース4位
  • ティレーノ〜アドリアティコ区間2勝、総合6位
  • 世界ランキング2位

f:id:SuzuTamaki:20191215173625p:plain

  

2019年最も輝いた男の1人であり、ツール・ド・フランスを盛り上げた男。スプリントも、激坂も、TTも、そしてアルプス・ピレネーの山々さえも攻略するそのまさにオールラウンドな才能は、ロードレースというスポーツの豊かさを体現した神話的な輝きを放っていた。

そんな彼が最後、マイヨ・ジョーヌを失うきっかけになったのは、彼の強さが彼自身の期待値すら遥かに凌駕してしまったことと、その事態に彼自身が冷静になりきれなかったこと、そしてチームがそれを支える体制になりきれていなかったことである。 

その意味で、ルフェーブルGMは、数年後の彼のマイヨ・ジョーヌリベンジを誓い、チームの緩やかな変化を志向していく。アラフィリップ自身も、そういった未来を目指して少しずつ変化を望んでいくことだろう。

ただ、それはすぐの話ではない。まずは、2020年に彼が目指すところは、なんとロンド・ファン・フラーンデレンへの挑戦だという。ルフェーブルGMに、パリ〜ルーベ以外のモニュメントは制覇できると言わしめた男。そのことを証明するかのごとく、2020年の彼は、「クラシックの王」へと挑む。

果たして、2020年も彼は、我々を驚かせてくれるのか。

 

 

サム・ベネット(アイルランド、30歳)

脚質:スプリンター

Embed from Getty Images

2019年の主な戦績

  • ライドロンドン〜サリー・クラシック2位
  • ブエルタ・ア・エスパーニャ2勝、2位4回
  • パリ〜ニース2勝
  • ビンクバンクツアー3勝
  • 年間13勝
  • 世界ランキング27位

f:id:SuzuTamaki:20191215173656p:plain

  

元はボーラ・アルゴン18というドイツのプロコンチネンタルチームのスプリンターでしかなかった。それがワールドツアーに昇格しボーラ・ハンスグローエとなったその年のパリ〜ニース、冷たい雨の中のスプリントで、当時絶好調だったマルセル・キッテルすら打ち破り、鮮烈なデビューを果たした。同じ年のジロ・デ・イタリアでも、勝てはしなかったが3回の3位と1回の2位。ワールドツアーで十分に戦える実力を示していた。

2018年にはジロ・デ・イタリアでエリア・ヴィヴィアーニを相手取り3勝を奪い、彼に次ぐ実力者であることをはっきりと示した。

また、彼の得意なレースの1つはツアー・オブ・ターキーだった。純粋なフラットスプリントというよりは、登り勾配を含んだり混沌とした展開の中で勝利を稼いだ。2019年のハンマー・スタヴァンゲルでも、登りでの圧倒的なパワーを見せつけていた。

そして2019年のブエルタ・ア・エスパーニャで、彼は「最強」の男となった。とくに登りスプリントで、他を寄せ付けない強すぎる勝ち方をしてみせた。ドゥクーニンク・クイックステップのチームワークを前にしてやられてしまうときもあったが、それでもステージ2勝と4回の2位。圧倒的であった。

 

だが、そんな強すぎる彼でも、ツール・ド・フランスでは主役になることは難しかった。ボーラ・ハンスグローエにいる限りは。ここにはペテル・サガンという英雄がおり、そうでなくともチームの国籍であるドイツの一流スプリンター、アッカーマンがいる。

一方、ドゥクーニンク・クイックステップも困っていた。チームの絶対的エース、エリア・ヴィヴィアーニが去る中で、代わりになりうる存在を見つけられずにいた。登りに弱いホッジも、終盤の位置どりに苦戦する場面の多いヤコブセンも、才能は間違いないがまだまだエースというには物足りなかった。

そんな両者の思惑が見事に一致した、望ましい形でのディール。サム・ベネットの力に、クイックステップのアシスト力が加われば、これは間違いなく、勝利を量産できるだろう。

もちろん、クイックステップは2020年、サバティーニもリケーゼも失う。それでも最強発射台の1人モルコフは健在で、またベネットを2019年の春以降支えたシェーン・アーチボルドも、今回一緒にクイックステップ入りを果たす。

 

来年のツール、最も注目すべきスプリンターの1人が彼であることは論を待たない。

 

 

イフ・ランパールト(ベルギー、29歳)

脚質:ルーラー

Embed from Getty Images

2019年の主な戦績

  • パリ〜ルーベ3位
  • オンループ・ヘット・ニュースブラッド7位
  • ドワースドール・フラーンデレン8位
  • ストラーデ・ビアンケ11位
  • ロンド・ファン・フラーンデレン17位
  • ヨーロッパ選手権ロードレース2位
  • ドイッチュラント・ツアー総合3位
  • クールネ〜ブリュッセル〜クールネ5位
  • オコロ・スロベンスカ総合優勝
  • 世界ランキング36位

f:id:SuzuTamaki:20191215173722p:plain

 

2017年に彼がドワースドール・フラーンデレンを制したとき、それは「フィリップ・ジルベールにお膳立てされた男」という印象だった。その年クイックステップに加入したジルベールは直後、ロンド・ファン・フラーンデレンを制し、彼の凄さが際立った年だった。

そのときジルベールが着ていたベルギーチャンピオンジャージを、翌年にランパールトが身につけることになる。その年のドワースドール・フラーンデレンは、今度は自らの力のみで勝利を掴んだ。「ジルベールのチームメート」から、ウルフパックの主役の1人へ。

そして2019年。彼は、ついにパリ〜ルーベの表彰台に立つ。それも、かつて彼を勝たせてくれた大先輩、ジルベールをその頂点に置いて。

これで彼は、「借り」を返した。ジルベールが立ち去った2020年のクイックステップにおいて、次なる主役はこの男である。

2020年の北のクラシックで最も注目すべき男、それがこのランパールトである。

 

なお、彼の強みはもう1つ、独走力≒TT能力の高さにある。ベルギーTT王者にも輝いたことがあり、世界選手権チームタイムトライアルのメンバーの1人として世界王者に輝いたこともある。そして2019年のツール・ド・スイスではステージ優勝も。

この能力の高さは純粋なTTだけでなく、たとえばスプリントステージのフィニッシュ直前、残り1.5㎞から1㎞という最も重要な局面で、集団の先頭でクイックステップの最強トレインを長く長く引き延ばす役割を果たしている。

これがあることで、エーススプリンターとその発射台は、誰にも邪魔されることなく先頭で無敵のスプリントを放つことができる。2020年もサム・ベネットやファビオ・ヤコブセンのためのトレインで、ランパールトは活躍し続けることだろう。

 

 

レムコ・エフェネプール

脚質:オールラウンダー

Embed from Getty Images

2019年の主な戦績

  • クラシカ・サンセバスティアン優勝
  • 世界選手権個人TT2位
  • ヨーロッパ選手権個人TT優勝
  • ベルギー・ツアー区間1勝、総合優勝
  • ツアー・オブ・ターキー総合4位
  • 世界ランキング39位 

f:id:SuzuTamaki:20191215173753p:plain

 

2018年のジュニアカテゴリのレースを総なめし、エディ・メルクスの再来と騒ぎ立てられた期待の新人。当初はハーゲンスバーマン・アクセオンで育成したのちにワールドツアー入りが計画されていたようだが、イネオスが食指を伸ばしていることもあり、早めにクイックステップが囲い込んだ・・・という噂も。ジュニアカテゴリをすっ飛ばしてのワールドツアー入り。それだけでも驚きだが、さらに我々を驚かせたのが、エリートクラスの中でさえも、突出した才能を輝かせる彼の姿であった。

2019年の彼がいかに規格外であるかは以下のリンクにまとめたので参照してほしい。

www.ringsride.work

 

そしてまさかの、クラシカ・サンセバスティアンでの逃げ切り勝利。

www.ringsride.work

 

ただ、(当たり前だけど)まだまだ世界トップクラスの実績ではない(個人タイムトライアル以外は)。

それはなんだかんだ、2019年の出場レースがマイルドだったからというのもあるだろう。

2020年はどうするか。グランツールも含め、より高いレベルの経験を増やしていきたい。

 

なお、本人は年始のインタビューでグランツールライダーを目指したいという旨の発言をしている。実際、ツアー・オブ・ターキーのクイーンステージで見せた走りはその才覚を存分に発揮していた。

一方でベルギー・ツアー、クラシカ・サンセバスティアンと、クラシックへの強さもやはり兼ね備えていることも証明している。

彼ならば本当に、エディ・メルクスの再現ができるかもしれない。すなわち、全グランツールおよび全モニュメントの制覇という、今ではあり得ないような成績の出し方を、である。

 

 

その他注目選手

カスパー・アスグリーン(デンマーク、25歳)

脚質:オールラウンダー

彼もまた、ホッジ、ヤコブセンと並び、2017年のツール・ド・ラヴニールで活躍した選手である。2018年は最初はもともと所属していた地元コンチネンタルチームのヴィルトゥ・サイクリングに在籍していたが、4/1からクイックステップ入り。その年はホッジやヤコブセンのようには活躍しなかったものの、2019年に覚醒した。

まずは北のクラシック。ロンド・ファン・フラーンデレンで、チームの柱であったスティバルやジルベールが早めに崩れる中、代わってチームを支えたルーキーたちが、ボブ・ユンゲルスとこのアスグリーンだった。アスグリーンは終盤、ベッティオルに対する組織的な追走を仕掛けられずに牽制し合う集団から抜け出し、先頭には届かなかったものの、それでもロンド2位ゴールという栄誉はモノにした。続いて5月のツアー・オブ・カリフォルニアでは、ティージェイ・ヴァンガーデレンやジャンニ・モスコンを突き放してステージ優勝。山岳ステージでも決して崩れることなくタイムをキープし、最終的には総合3位という驚異的な成績を残したのである。

そしてもともとの(ラヴニールでの勝利にも繋がった)高い独走力は、ランパールトと共に、スプリントトレインのラスト1.5㎞〜1㎞の牽引で大活躍。さらにはシーズン終盤のドイッチュラント・ツアーでも、同じ逃げスペシャリストのジャスパー・スタイフェンと共に逃げ、優勝をもぎ取っている。

山岳ステージレースでの総合上位に入り込む走りというのは難しいかもしれないが、それでもアラフィリップのように多方面での活躍は期待できる存在。

まずは北のクラシックやアルデンヌ・クラシックでの活躍に期待したい。まずはワンデーレース・マスターになろう。

 

ファビオ・ヤコブセン(オランダ、24歳)

脚質:スプリンター

2017年ラヴニールで活躍し、2018年にクイックステップでプロデビュー。そして、いきなりの年間7勝。それも、ワールドツアークラスを含めての成績。

ライバルは同じくラヴニールで活躍し、チームメートとなったアルバロホセ・ホッジ。2018年はどちらかが勝てばもう片方も即座に勝つ。クラシックで勝てばもう片方もクラシックで、ワールドツアーで勝てばもう片方もワールドツアーで、といった具合だった。

チームもそこは意識的だったのか、2018年は同じレースに出場させることはほとんどなかった。しかし2019年は少しずつその機会が増え、次第に彼らの個性というのが出てくるようになった。

すなわち、より純粋なスプリントにおいてはホッジが、より起伏や未舗装路などテクニカルなロケーションにおいてはヤコブセンが。

そして、最初に彼らに与えられたグランツールのチャンスがブエルタ・ア・エスパーニャであったとき、選ばれるのがヤコブセンであることも必然であった。

その期待に応え、強力なチームメートの力も借りて、マドリードを含むステージ2勝を成し遂げたヤコブセン。ライバルのホッジに対し、一歩リード、といったところか。

ただ、まだまだ彼にも課題は多い。カリフォルニアでもブエルタでも、終盤の位置どりに苦戦し、気づいたらゴール前にその姿がない、ということもしばしばあった。

強力なアシストがいなければ勝てないスプリンターな一流ではない。たった1人でも、トップスプリンターたちの渦の中で巧みに身をかわし、先頭でゴールを突き抜けられる力が必須となる。

まだツール・ド・フランスを任せられるまでには至っていないのは確か。プロ3年目、さらなる飛躍が期待される。

 

ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア、26歳)

脚質:スプリンター

2018年まではアンドローニ・ジョカトリ。2019年はアスタナ・プロチームに身を置いていた彼に、注目するようになったのは9月のブリュッセル・サイクリング・クラシック。カレブ・ユアン、パスカル・アッカーマン、ジャスパー・フィリプセン、ジャスパー・スタイフェン、アルノー・デマールなど一流スプリンターたちがまさに「横一線」でゴールするという滅多にない光景を見せてくれたこのレースで、彼らに並んで4番手ゴールを決めたのがこの男であった。

正直、誰だ?という思いでいっぱいだった。アスタナに、この面子の中に食い込める選手がいるとは思っていなかった。調べてみると、2019年のヨーロピアンゲームスのロードレースで優勝している。かと思えば、ツアー・オブ・カリフォルニアでは山岳賞を取っていた。多才で、しかし確かな実力を持つ男であった。

クイックステップのエースを担える華やかさはないかもしれない。しかし、期待したいのは、19年末をもってチームを去るリケーゼやサバティーニら「最強発射台」の後釜。モルコフはまだいるが、やはり1人だけだと心もとない。必要なのは、エースを張るほどの華やかさがなくとも、確実に仕事をこなしてくれる仕事人の存在だ。

バッレリーニはその穴を埋めてくれる存在だと信じている。

 

ヤニク・ステイムル(ドイツ、24歳)

脚質:ルーラー

オーストリアのコンチネンタルチーム、ヴォラールベルク・サンティックに所属していた中で、2019年の8月からドゥクーニンクのトレーニーに。そうして参戦した9月のカンピオンシップ・ファン・フラーンデレンにて、まさかの逃げ切り勝利。チームのエースはヤコブセンが務めていたが、自由を許されていたステイムルは終盤に果敢なアタックを仕掛け、これが成功する兆しを表したのちは、チームも一丸となって、この新米のための走りに徹した。テウニッセン、ローセン、フルーネウェーヘンとかなり本気の体制で挑んでいたユンボ・ヴィズマも、完全にしてやられる結果となってしまった。

まさにウルフパックを象徴するような勝利を、トレーニーでありながら実現した驚異の男。ルフェーブルの若手育成術ここに極まれり、か。

もちろんこの1勝だけで全てを判断することは難しいが、2020年の活躍が実に楽しみになることは間違いない。

 

 

総評

f:id:SuzuTamaki:20191215174011p:plain

エンリク・マスが抜けたことにより、グランツールでの総合を狙う力は弱まったと見てよいだろう。もちろん、アラフィリップが2019年と同様にその方面に力を出す可能性もありうるが・・・現時点では2020年はまだ狙わないとは言っているので、それを信じよう。あとはエフェネプールの覚醒次第。

サム・ベネットが来たことにより、ステージ優勝力、そして勝利数はしっかりと確保されそうで一安心。ホッジとヤコブセンだけでは、まだまだ心もとないので・・・。

 

スポンサーリンク

 

   

スポンサーリンク