りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

「ロンド前哨戦」で魅せた、ドゥクーニンク・クイックステップの最強のチームワークを振り返る

 

ドゥクーニンク・クイックステップが強い。

 

そんな、当たり前のことを、と思うかもしれないが、今年の彼らの強さはこれまで持っていた強さをさらに純化させたような、徹底ぶりを感じさせる。

Embed from Getty Images

 

 

もちろん、「無敵」ではない。アルペシン・フェニックスやトレック・セガフレードなど、ライバルチームも非常に強力で、ときに彼らにこてんぱんにやられてしまうこともある。

 

しかし、今年ここまでで最も重要な2つのレースにおいては、その完璧なチームワークで、彼らをも封殺できている。

 

 

すなわち、彼らにとってシーズンで最も重要なレースの1つである、「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレン。

その前哨戦たる「オンループ・ヘットニュースブラッド」と「E3サクソバンク・クラシック」。

まるですべてのリソースをそこに、そして来るべきロンド・ファン・フラーンデレンに向けて注いでいるかのように、彼らはこの2つのレースにて完璧なレース運びをしてみせてくれた。

 

 

今回はその2つのレースの展開と、ドゥクーニンクがいかに勝利したかを振り返り、今年のロンド本戦に向けた展望としたいと思う。

 

例年以上にさらに「本気」な今年のドゥクーニンク・クイックステップ。

今年もまた、北のクラシックは彼らによって席巻されてしまうのだろうか、それとも・・・。

 

目次

 

今年のロンド・ファン・フラーンデレンのプレビューはこちらから

www.ringsride.work

   

スポンサーリンク

 

 

オンループ・ヘットニュースブラッド

note.com

春のクラシックの開幕を告げる、2月末のセミクラシック。

2018年からコースががらりと変更され、かつてのロンド・ファン・フラーンデレン――伝説の2010年「カンチェラーラ爆発」のとき――の終盤戦、すなわち残り18㎞のカペルミュールから残り13㎞のボスベルグを経て、フィニッシュへと至る道のりが再現されることに。

 

総距離は200㎞ちょっとと短く、まだまだ走り慣れていないシーズン序盤戦ということで、コースから想定されるほど激しい展開になることは多くはなく、今年もまた想定以上に大集団のままフィニッシュへと至り、ほぼ集団スプリントに近い形で決着することにはなった。

 

だが、ここで見せた「ウルフパック」の走りは、彼らのその精神を実に見事に体現していると共に、ある意味これまで以上にそれを純化させた形だったようにすら思う。

 

 

具体的に見ていこう。

最初にレースが動き始めたのは残り40㎞手前の「モレンベルグ(登坂距離600m、平均勾配5.6%)」。

2019年に17名の精鋭集団が抜け出したこの場面で、今年もプロトンから抜け出した強豪選手たちが先頭の5名と合流し、以下の17名の先頭集団が形成されることとなった。

 

  • ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • ダヴィデ・バッレリーニ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • ゼネク・スティバル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • グレッグ・ファンアーヴェルマート(AG2Rシトロエン・チーム)
  • エフゲニー・フェドロフ(アスタナ・プレミアテック)
  • クリストフ・ラポルト(コフィディス・ソルシオンクレディ)
  • トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)
  • セップ・ファンマルク(イスラエル・スタートアップネーション)
  • ヨハン・ヤコブス(モビスター・チーム)
  • ミカエル・ゴグル(チーム・キュベカ・アソス)
  • ライアン・ギボンス(UAEチーム・エミレーツ)
  • マッテオ・トレンティン(UAEチーム・エミレーツ)
  • オラフ・クーイ(チーム・ユンボ・ヴィズマ)
  • アリエン・リヴィンズ(ビンゴール・ワロニーブリュッセル)
  • ケニー・デケテレ(スポートフラーンデレン・バロワーズ)
  • ベルト・デバッケル(B&Bホテルス・p/b KTM)
  • マティス・ルーヴェル(チーム・アルケア・サムシック)

 

強豪選手ばかりが揃った17名。その中に、ドゥクーニンク・クイックステップは3名を潜り込ませることに成功。

 

とはいえ、数を潜り込ませればそれで勝てるというほどロードレースは甘くない。当然、他チームも彼らが最も強いことは分かっており、そのうえで3名も入っていては、当然、ローテーションで協力してくれるなんてことは起こりようがない。

世界王者ジュリアン・アラフィリップ自ら牽引する姿を見せるなど、有利なはずのドゥクーニンク・クイックステップ「だけ」が前を牽かざるを得ない状況が生まれていた。

 

 

だったら、集団の中に留まる必要などない。

そう判断したアラフィリップは、残り32㎞で自ら単独でアタック。

Embed from Getty Images

 

残された集団はお見合い状態。ドゥクーニンク・クイックステップの選手がまだ2名も集団の中に残っている以上、足を使って無理やり追いかけようとする者はすぐには現れなかった。

とくに集団内の最大の実力者たるグレッグ・ファンアーヴェルマートもまた、彼一人で戦わざるを得ない状況で足を使うことはロードレースにおける悪手であった。

 

だがここでドゥクーニンク・クイックステップにとって誤算だったのは、このロードレースの常識に囚われない男が存在したこと。

この2月にイネオス・グレナディアーズ入りを果たした、英国シクロクロス王者にして昨年のU23版ジロ・デ・イタリア総合優勝者、そしてマウンテンバイク・クロスカントリーのU23王者でもあるトム・ピドコックである。

Embed from Getty Images

 

このピドコックの加速にバッレリーニ、スティバル、ファンアーヴェルマート、フェドロフ、ラポルト、ゲニッツ、ファンマルク、ゴグル、トレンティン、リヴィンズの10名だけがついていき、11名で先頭のアラフィリップを追う形に。

やはりドゥクーニンクはこの動きにもしっかりとバッレリーニとスティバルを乗せており、盤石の構え。

 

と思った次の瞬間、集団の中でハスったのか、突如として落車するスティバル。

 

 

これが、ドゥクーニンク・クイックステップの第2の誤算であった。

2人を集団内に遺しておけば、このあとアラフィリップが吸収されたとしても、その直後に1人をカウンターアタック。もう1人のフィニッシャーを集団内残しておきつつ、捕らえたアラフィリップを回復させて、次なる一手に備えさせる、という展開を取ることができた。

 

しかし、先頭に疲弊しているアラフィリップ。集団内にフィニッシャー1人、ではやや確実性がない。

ピドコックの迷いのない走りによってすでにアラフィリップと集団とのタイム差は16秒。

このあと勝負所のカペルミュールが控えている中でこのままアラフィリップをフィニッシュギリギリまで先頭に残しておこうとするのはかなり無謀であった。

 

 

ならば、とアラフィリップは戦略を変える。

すなわち、あえて足を緩め、カペルミュール直前に捕まえられるようにすること。

さらに追走集団内のバッレリーニも徹底的に抑えに回り、この集団を追いかけてきている巨大なメイン集団に吸収される選択を取ることとした。

 

確実な勝利のために。

最終局面でさらなる力を発揮することを目指し、ドゥクーニンク・クイックステップは次なるプランに移行することに決めた。

 

 

カペルミュールにおけるジャンニ・モスコンのアタック、そこに追随するセップ・ファンマルクやクリストフ・ラポルト、イバン・ガルシアなどのペースアップなど、やや混乱は巻き起こるものの、これらの動きはドゥクーニンク・クイックステップが支配する集団によって残り13㎞のボスベルグまでにすべて吸収。

3~40名という大規模な集団を残したまま、2021年のオンループ・ヘットニュースブラッドは、珍しい「大集団スプリント」へと突入していく。

 

 

そしてこの展開を、彼らは意図的に作り上げていた。

すなわち、残り13㎞からの、このクラシックレースには似つかわしくない「超高速トレイン」の形成である。

一度は落車で遅れながらもティム・デクレルクの献身によって集団復帰を果たしていたイヴ・ランパールトを先頭に、デンマーク王者のカスパー・アスグリーンと世界王者ジュリアン・アラフィリップ――このレースの本来のエースとも言うべき3名が迷うことなく集団先頭をローテーションし続け、超高速でラスト13㎞を駆け抜けていく。

Embed from Getty Images

 

このハイ・ペースの前に、ライバルチームたちは誰も、アタックを繰り出すことなどできない。

「絶対に、何が何でも、集団スプリントに持ち込む」

その強い意志によって実現されたこの「パリ~ルーベ3位」「クールネ~ブリュッセル~クールネ優勝者」「世界王者」による豪華な超高速トレインは、フロリアン・セネシャルとダヴィデ・バッレリーニという2人の若きエーススプリンターたちに対する厚い信頼によって成り立っていた。

 

あとはもう、勝つだけだった。

 

残り3㎞でアラフィリップが脱落し、シュテファン・キュングなどライバルチームの精鋭たちがさすがに先頭に出てきて混乱し始める。

それでもラスト1㎞から最終発射台のセネシャルが先頭に陣取ると再び集団は縦に長く伸び、彼はラスト150mという最適なタイミングまでエースを運び上げていった。

 

昨年ブルターニュ・クラシック3位、ヘント~ウェヴェルヘム2位など、世界トップクラスのクラシックスプリンターであるセネシャルが、エースを任せるほどの逸材がダヴィデ・バッレリーニ。

直前のツール・ド・ラ・プロヴァンスでは区間2勝と最終日も区間2位の絶好調ぶりを見せていた「新参者」の彼を、タレント揃いのチームメートたち全員が信頼し、最後の150mを任せるに至ったのだ。

 

そして、この期待に応えるからこその、ウルフパックの一員である。

 

胸に刻まれたドゥクーニンク・クイックステップ。

それは、絶対の勝利の証であり、フランドルの支配者を意味する言葉であった。

Embed from Getty Images

 

 

スポンサーリンク

 

  

 

E3サクソバンク・クラシック

note.com

もう1つの「前哨戦」が、つい先日行われたE3サクソバンク・クラシックである。

かつてはE3ハーレルベーケと呼ばれていたこのレース。2019年にスポンサーとしてビンクバンク社がついて、今年はそのビンクバンク社をサクソバンク社が買収したことによって現在の名前がついている。

それでも旧E3を使用してウェスト・フラーンデレン州の街ハーレルベーケを発着するレイアウトは変わっていない。終盤こそオンループやロンドと比べるとやや平坦部分が長いものの、それでもターインベルグやオウデクワレモント、パテルベルグなど、ロンド・ファン・フラーンデレンでも勝負所になるいくつもの重要な石畳激坂が登場する。

 

過去このレースの上位入賞者とロンド・ファン・フラーンデレン本戦の上位入賞者との相関性も高く、その年のロンドの行方を占うレースとして非常に強い存在感を誇っている。

 

今年もマチュー・ファンデルプールやワウト・ファンアールトを始め、強力なクラシックライダーたちが勢ぞろい。

ロンド・ファン・フラーンデレン開催1週間前ということもあり、「ウルフパック」にとっても最重要なレースであることは間違いがなかった。

 

 

そんな、「最大の前哨戦」で今年レースが動き出したのは残り80㎞地点の「ターインベルグ(登坂距離700m、平均勾配6.3%、最大勾配16%)」。

ここで、なんとドゥクーニンク・クイックステップは、出場している7名全員が集団の先頭に立って、一気にペースアップを図ったのである。

 

結果、出来上がったのは以下の9名。

  • ゼネク・スティバル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • フロリアン・セネシャル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • イヴ・ランパールト(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
  • ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
  • ヤスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)
  • マイケル・マシューズ(バイクエクスチェンジ)
  • マッテオ・トレンティン(UAEチーム・エミレーツ)

 

精鋭集団も揃ってはいるものの、ほとんどがエース単独であり、その中にドゥクーニンク・クイックステップが4名も含ませているという圧倒的な状況。

そのまま逃げていた12名を吸収。そしてワウト・ファンアールトがパンクによって脱落している隙に、残り67㎞地点の「ボイネベルグ(登坂距離1,000m、平均勾配5.2%、最大勾配12.3%)」にて最強軍団は更なる猛攻に出た。

 

まずはフロリアン・セネシャルがアタック。逃げに乗っていて吸収されたイェレ・ワライスがこれを引き戻す。

続いてゼネク・スティバルがアタック。同じく逃げに乗っていた2018年覇者ニキ・テルプストラがそうはさせじと貼りつく。

 

だが、そこで終わらなかった。第3の矢として飛び出したのが、デンマークチャンピオンジャージを着るカスパー・アスグリーン。

 

次々と終わりなく繰り出されるこのドゥクーニンク・クイックステップの波状攻撃に、いよいよチェックできるものがいなくなる。

 

抜け出したアスグリーン。

「ウルフパック」のお家芸が始まった。

Embed from Getty Images

 

 

マチュー・ファンデルプールがこれを追い上げようにもすぐさまドゥクーニンク・クイックステップの2人がその背後にぴったりとくっついてさすがのファンデルプールも牽制せざるを得ない。

そうこうしているうちにワウト・ファンアールトを引き連れたメイン集団も追いついてきて、 アスグリーンを追走する集団は50名程度の塊に。

そこからスイスロード王者のシュテファン・キュングやグレッグ・ファンアーヴェルマートなども次々と攻撃を繰り出していくが、そのたびにセネシャルやスティバルが動いてチェックしていく。

 

一時はアスグリーンとのタイム差を11秒にまで縮めていたメイン集団も再び失速し、タイム差が再拡大していく。

残り54㎞地点でオリバー・ナーセンやアントニー・テュルジ、ジャンニ・フェルメールシュなどがアタックして6名の小集団を形成するが、そこにもしっかりとセネシャルが入り込み、封殺にかかっていた。

 

結果、残り50㎞を切って先頭アスグリーンと追走6名とのタイム差は40秒。

そしてファンデルプールやファンアールトらが含まれる30名程度の第3集団とのタイム差は1分を超える。

 

 

このままカスパー・アスグリーンの逃げ切りで勝負は決まってしまうのか?

 

 

 

もちろん、そんなことを、昨年のロンド・ファン・フラーンデレン1位と2位の男が許すわけはなかった。

 

 

残り42㎞。

本家ロンド・ファン・フラーンデレンでは最後の勝負所となる、短くも厳しい超激坂「パテルベルグ(登坂距離400m、平均勾配11.1%、最大勾配18%)」で、マチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールト、そしてグレッグ・ファンアーヴェルマートらが一気にアクセルを踏んで第3集団から抜け出す。

そこにはもちろんクイックステップから、ゼネク・スティバルの姿も。

 

そして残り38.6㎞地点から始まる「オウデクワレモント(登坂距離2.2km、平均勾配4%、最大勾配11.6%)」の登りにて第2集団6名と合流。

アスグリーンを追う追走集団は以下の精鋭11名に絞り込まれた。

 

  • フロリアン・セネシャル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • ゼネク・スティバル(ドゥクーニンク・クイックステップ)
  • オリバー・ナーセン(AG2Rシトロエン・チーム)
  • グレッグ・ファンアーヴェルマート(AG2Rシトロエン・チーム)
  • マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
  • ジャンニ・フェルメールシュ(アルペシン・フェニックス)
  • ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
  • ディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ)
  • マルコ・ハラー(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • アントニー・テュルジ(トタル・ディレクトエネルジー)
  • マルクス・フールガード(UNO-Xプロサイクリングチーム)

 

AG2Rシトロエンのダブルエースに、ファンデルプールもアシストを獲得。

 

役者は揃った。

いよいよ、最終局面へと突入していく。

Embed from Getty Images

 

 

残り20㎞。

先頭アスグリーンと11名とのタイム差は33秒。

ここで最後の登り「ティーヘンベルグ(登坂距離750m、平均勾配5.6%、最大勾配9%)」に突入。

まずはワウト・ファンアールトがアタックを繰り出した。

 

しかしすでに一度パンクで脱落し復帰に足を使っており、この局面においてもアシストを連れてこれていないファンアールトはすでに限界だった。

すぐさまファンデルプールに背後を取られ、ファンアールトの足がなくなった次の瞬間にファンデルプールがカウンター。

ファンアールトは完全に突き放され、試合終了となってしまった。

 

 

ファンデルプールのアタックにいち早く反応するスティバル。少し遅れてファンアーヴェルマートも追いついてくるが、その背後にはセネシャル。そしてナーセン、ファンバーレの姿も。

 

ファンデルプール、ファンアーヴェルマート、ナーセン、スティバル、セネシャル、ファンバーレ。

今大会最強の6名が揃い、先頭アスグリーンとのタイム差を着実に縮めていった。

Embed from Getty Images

 

 

50㎞にわたり逃げ続けているアスグリーンにとっても、捕まえられるのは時間の問題だった。

しかし、彼が少しでも先頭を走り続けていることによって、これを追う追走6名の中で、スティバルとセネシャルが足を貯めていられる時間を稼ぐことができる。

状況はいずれにしてもドゥクーニンク有利であった。

 

それでも、残り13㎞地点でついに捕まえられたアスグリーン。

この瞬間でのドゥクーニンク・クイックステップのカウンターアタックはない。

誰もが当然スティバルとセネシャルの動きを警戒しており、アタックした次の瞬間にはチェックされることは明白だった。

そこで突き放すほどのペースアップをしてしまうには、残り13㎞という距離はあまりにも遠すぎた。

一方のアスグリーンは吸収してからもしっかりと足を貯める。

彼の仕事はここで終わりではなかった。

 

 

残り5㎞。

その「最後の仕事」を、彼は敢行した。

すでに50㎞以上にわたり独走し続けていたアスグリーンによる、最後の一仕事。

当然、逃げ切れるとは思っていなかった。あくまでも、集団に残るチームメートたちのための動きのはずだった。

だがそれは、この日最後にして最高の選択であった。

Embed from Getty Images

 

すぐさま反応するファンデルプール。

しかしその背後には、いまだフレッシュな足を残しているスティバルとセネシャルの姿。

となれば、アシストのいないファンデルプールはどうしても後ろを振り向いて様子を伺わざるを得ない。

 

残り4㎞。ここまで牽制し続けてきたAG2Rシトロエンもついに動き出す。

まずはオリバー・ナーセンのアタック。しかしそれはすぐさまスティバルが抑え込む。

 

残り3.3㎞。今度はファンアーヴェルマートがアタック。しかしこれもすぐさまセネシャルが貼り付く。

 

残り2.2㎞。

もう一度ファンアーヴェルマートがアタック。だがもう、足がない。スティバルが難なく引き戻す。

カウンターでファンデルプールがアタック。これも、セネシャルによって捕らえられる。

 

 

ファンデルプールの足も止まる。

もはや、彼の足も残っていなかった。

「常識」を覆し続けてきた世界最強の男を、ウルフパックがねじ伏せた瞬間であった。

 

 

そしてフィニッシュラインに辿り着く、カスパー・アスグリーン。

胸に刻まれたデンマーク国旗に合わせ両手を左右に広げ、堂々たるポーズで勝利を宣言する。

Embed from Getty Images

 

50kmにわたり独走し続けてチームメートのために献身したうえで、さらにラスト5㎞でももう一度「チームのために」アタックした男。

だが最終的にはその力、強さが際立ち、彼自身の勝利を導いた。

 

 

もちろん、ここでアスグリーンが捕まえられていたとしても、ドゥクーニンク・クイックステップの勝利は盤石であった。

それは、2位争いで本気のスプリントを放ったオリバー・ナーセンとマチュー・ファンデルプールを、軽々と追い抜いて集団先頭を取った

Embed from Getty Images

 

 

チームでレースを動かし、常に勝負所にエースを置き、最後の瞬間まですべての選手が正しい選択を取り続ける。

オンループ・ヘットニュースブラッド、E3サクソバンク・クラシック。この2つの前哨戦レースにおける彼らの動きは、例年以上に完璧すぎる純度を誇っている。

 

 

このまま、ロンド・ファン・フラーンデレンも、ドゥクーニンク・クイックステップが席巻してしまうのか・・・?

今年も彼らが最強であり続けるのか?

 

 

 

もちろん、そう簡単にはいかないのがクラシックの王様たる所以。

マチュー・ファンデルプールもワウト・ファンアールトも、これで終わるつもりはないだろうし、今回ファンアーヴェルマートとオリバー・ナーセンというダブルエースをしっかりと最終局面まで先頭に置くことに成功したAG2Rシトロエンも、もう1人のエース、ボブ・ユンゲルスを連れて乗り込んでくる。

例年、期待以上のスペクタルを巻き起こし続けているロンド・ファン・フラーンデレンだが、今年もまたその予想を遥かに超えてくる面白さを実現してくれそうだ。

 

 

あと1週間。

今年もついに、その「瞬間」がやってくる。

 

 

ロンド・ファン・フラーンデレンのプレビューはこちらから

www.ringsride.work

 

スポンサーリンク

 

 

スポンサーリンク