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イツリア・バスクカントリー2021 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:スペイン

Region:バスク地方

First edition:1924年

Editions:60回

Date:4/5(月)~4/10(土)

 

ベルギーの地でフランドル・クラシックが佳境を迎える中、来るアルデンヌ・クラシックやジロ・デ・イタリアを見据え、スペイン屈指の自転車王国バスク地方にて1週間のステージレースが開催される。

かつてはブエルタ・アル・パイスバスコ、日本語ではバスク1周の名でも知られるこのステージレース。

TTと登りスプリントが特徴的で、毎年パンチャーやオールラウンダーが活躍するレースではあるが、今年に関してはここまでで最も注目すべき超重大レースとなっている。

 

何しろ、昨年のツール・ド・フランスで激戦を繰り広げたタデイ・ポガチャルとプリモシュ・ログリッチが、今期ついに初激突を果たす。

ポガチャルは今年すでにUAEツアーとティレーノ〜アドリアティコにおいて圧倒的すぎる戦績を誇っており、ログリッチも最後は落車で大きく順位を落とすが、パリ〜ニースで最強だったことは間違いない。

さらに、カタルーニャについてキャリアハイの強さを見せているアダム・イェーツが、テイオ・ゲイガンハートとリチャル・カラパスを伴って相変わらずの最強布陣で挑んでくる。

 

今年のグランツール総合争いを占う、今期ここまでで最も期待度の高いステージレース、それがこのイツリア・バスクカントリーなのである。

 

 

果たして、最後に勝つのは誰か。

そして、その激闘の中で、新たなる可能性ある若手が出てくるのか。

 

今回は全6ステージの解説と、注目選手5名を詳細にプレビューしていく。

 

目次

 

↓前回大会(2019年)についてはこちらから↓

www.ringsride.work

 

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コースプレビュー

第1ステージ ビルバオ〜ビルバオ 13.9㎞(個人TT)

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スタートから2.6㎞は最大11%勾配区間を2つ含む厳しい登り。その山頂からおよそ9㎞にわたる下りを経て、2㎞ほどの平坦区間。

そしてラスト600mは最大勾配19%の超激坂となる。純粋なTTスペシャリストにはやや厳しいレイアウトか。

 

個人TTはこのバスクカントリーにおいては総合を左右しうる重要なステージ。前回大会(2019年)はマキシミリアン・シャフマンが、2018年はプリモシュ・ログリッチがそれぞれビルバオではないものの個人TTを制している。

 

今年はそのシャフマン、ログリッチはもちろん、TT能力においてログリッチを上回る勢いのポガチャルや、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで「覚醒」したアダム・イェーツなど、総合勢の争いにも大注目の初日となる。

 

ほか、TTスペシャリストとしてはドゥクーニンク・クイックステップのヨセフ・チェルニーなど。先日のカタルーニャでも区間8位。

CCCチーム所属だった昨年のジロ・デ・イタリアでは3つあるTTで6位→5位→6位と安定した成績を誇っており、今回も期待大だ。

 

 

第2ステージ サリャ〜セスタオ 154.8㎞(丘陵)

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ビルバオ南西の丘陵地帯に位置するサリャからビルバオ郊外のセスタオまで。

アップダウンの激しいルートを辿りつつ、最後はフィニッシュ前14㎞地点に頂上が置かれたラアストゥリアーナ峠(登坂距離7.6㎞、平均勾配6.2%)を越えつつ、長い下りと2㎞の平坦、そして短い登りのフィニッシュへと辿り着く。

 

実にイツリア・バスクカントリーらしいパンチャー向けステージで、2019年大会であればマキシミリアン・シャフマンやジュリアン・アラフィリップが大暴れしたタイプのステージで、マルク・ヒルシが強さの片鱗を見せていた。

今年もその辺りの選手が活躍しそう(アラフィリップは不出場だがマウリ・ファンセヴェナントが期待できるの)だが、意外とこういうコースでアグレッシブに動くのがポガチャルだったりログリッチだったりする。

大きなタイム差はつかないだろうが、早速総合勢によるバチバチのバトルが繰り広げられそうだ。

 

 

第3ステージ アムリオ〜エルムアルデ 167.6㎞(丘陵)

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スタート直後に3級山岳アルトゥーベに登る。そのあとは高原地帯が続き、比較的平穏に進むだろう。

 

しかしラスト20㎞を切ってから3つの登り。登るごとに、その厳しさは増していき、最後は1級山岳エルムアルデ山頂フィニッシュ。

登坂距離は3.1㎞で平均勾配は11.1%。これだけでも凶悪だが、この登りが真に凶悪なのは、フィニッシュに近づくに連れてその勾配が増していくということ。

最初の1㎞は10.7%で、次の1㎞は15.6%・・・最後の1㎞は7%に落ち着くものの、その頃にはすでに集団の先頭はバラバラになっていそうだ。

 

結構なタイム差がつく可能性も。今大会の総合を占う、重要なステージの1つとなりそうだ。

シャフマン、ポガチャル、ログリッチは十分に優勝候補であり、カタルーニャで絶好調だったアダムも、激坂への適性は割とある方なので期待したい。あとはランダ、ウッズ、モレマがどこまでいけるか・・・こちらもカタルーニャで調子の良さを見せていたチャベスにも密かな期待を。

 

 

第4ステージ ビトリア=ガスティス〜オンダリビア 189.2㎞(丘陵)

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ビルバオ南方のビトリア=ガスティス(カスティーリャ語ではビトリア、バスク語ではガスティスと呼ばれる街)を出発し北上、東進。

最後はフランスとの国境沿いの街オンダリビアへ。

サンセバスティアンにも近く、コースの終盤にはクラシカ・サンセバスティアンでも勝負所となる「ハイスキベル」「エライツ」の登りなどが登場する。

 

1つ目のハイスキベルは登坂距離6.9㎞で平均勾配6.2%でその頂上はフィニッシュまで41.5㎞の位置にある。

2つ目のエライツは登坂距離7.4㎞で平均勾配6.4%。中心においては3.8㎞にわたり平均勾配が10%を超える区間となっており、その頂上はフィニッシュまで22.3㎞となっている。

 

イル・ロンバルディアに強い選手たちに注目、ということで相変わらずログリッチやポガチャルも注目すべき選手なのだが、ヤコブ・フルサンやルイスレオン・サンチェス、バウケ・モレマなどのアタッカーたちにも気をつけたいステージでもある。

 

とくにモレマは2016年覇者で、終盤の勝負所でするっと抜け出して牽制している集団を尻目に逃げ切るというのが得意なステルスアタッカーである。

早々に総合争いから脱落していたとしたらむしろ警戒すべき存在。2019年のイル・ロンバルディアはまさにそうだったし、今年も、トロフェオ・ライグエーリアでまさにそういう勝ち方をしていた。

 

 

第5ステージ オンダリビア〜オンダロア 160.2㎞(平坦)

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バスク1周では珍しい平坦スプリントステージ。

ただしバスクにしては、という意味でもあり、ゴール前50㎞から30㎞に至り3級山岳が2つ用意されており、フィニッシュ直前にも小刻みなアップダウン。

ピュアスプリンターにはやや厳しい。

 

とはいえ、そもそもどのチームもピュアスプリンターは連れてきていない。

一応スプリンターとして数えていい選手としてはイーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ)、ディオン・スミス(チーム・バイクエクスチェンジ)、アレクサンダー・カンプ(トレック・セガフレード)、マグナス・コルト(EFエデュケーション・NIPPO)、ダリル・インピー(イスラエル・スタートアップネーション)あたりになるだろうが、いずれもどちらかというとパンチャーというべきタイプでもあり、普通にシャフマン、ポガチャル、ログリッチ、バルベルデあたりの総合系が絡んできそうでもある。

とくに前回大会でハットトリックを決めているシャフマンは今年も調子が良く期待できる存在。

 

 

第6ステージ オンダロア〜アラーテ 111.9㎞(山岳)

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バスク恒例のアラテ=ウサルツァに至るステージ。

過去の優勝者はサミュエル・サンチェス(2010,2011)、ホアキン・ロドリゲス(2012,2015)、ナイロ・キンタナ(2013)、ワウト・プールス(2014)、ディエゴ・ローザ(2016)、アレハンドロ・バルベルデ(2017)、エンリク・マス(2018)、そして前回大会の2019年はエマヌエル・ブッフマンと、錚々たる顔ぶれ。

 

今回も、最も強いクライマーが順当に勝利を飾りそうだ。

今年の総合優勝候補はTT能力の高さも見込んでポガチャル、ログリッチが二大巨塔。そこにチーム力も合わさってアダム・イェーツがどこまで食い込めるかという状況。

しかしヨン・イサギレやミケル・ランダなどのバスク勢ももちろん黙ってはいないはず。

前回大会で総合優勝まであと一歩というところにまで迫ったボーラ・ハンスグローエも、シャフマン、ブッフマン、ケルデルマンのトリプルエース体制。

もちろん、最近良いところなしのモビスターも、そろそろ強さを見せたい。

 

この日は総合優勝争いだけでなく、今期今後を見据えたうえで、各チームのクライマーたちがどんな走りを見せてくれるのか、というところにも注目をしていきたいステージとなるだろう。

 

 

 

注目選手

年齢表記はすべて2021/12/31時点のものとなります。

 

タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)

スロベニア、23歳

Embed from Getty Images

昨年のツール・ド・フランス覇者。そして、その称号があってもなくても、現役最強のステージレーサーであると言っても良さそうだ。

何しろ、まずは個人TTの安定感の高さ(今年もUAEツアーとティレーノ〜アドリアティコの両方で区間4位)、登坂力も圧倒的(UAEツアーのクイーンステージでは1位と2位、ティレーノ〜アドリアティコのクイーンステージでは1位)、さらにはクラシック的な局面でも強さを見せつけ、今年のストラーデビアンケでは7位。

事実、前回大会の2019年でも、パンチャー向けの登りスプリントでシャフマンに次ぐ区間2位などを記録している。ボーナスタイムを稼ぐことができるという意味で、さらに総合優勝候補に相応しい脚質である。

不安要素があるとすればそのチーム力。UAEツアー、ティレーノ〜アドリアティコと彼を支え続けてきたダヴィデ・フォルモロは今回不出場で、イマイチ調子の上がってきていないラファウ・マイカがどこまで走れるかが鍵となる。

もちろん、アシスト不在でもめちゃくちゃ強いのが今のポガチャル。だが、それがどこまで通用し続けられるか・・・。

 

 

プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

スロベニア、32歳

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高いTT能力、登坂力、そしてボーナスタイムを貪欲に狙えるパンチ力。ポガチャルの持つその強みはすべて、このログリッチにも当てはまる。

もちろん、彼は昨年、ポガチャルに負けた。

今年も、安定した強さを誇るポガチャルに対し、ログリッチはまだパリ〜ニースのみの出場だが、そこでは最後の最後で不運に見舞われ大失速。

ただしそういった事態は彼にとって初ではなく、どこか安定感のなさといったところが、彼の弱点と言えるかもしれない。落車の影響がどこまで残っているかも不安だ。

 

一方で、そのチーム力はUAEチーム・エミレーツを大きく上回る。ステフェン・クライスヴァイクやジョージ・ベネット、セップ・クスといったトップアシストはいないものの、ミラノ〜サンレモで重要な役割を果たしていたサム・オーメンや、次の最強山岳アシスト候補でセッティマーナ・コッピ・エ・バルタリ総合優勝のヨナス・ヴィンゲゴー、昨年ブエルタ第17ステージでログリッチを「救った」レナード・ホフステッド、ティレーノ〜アドリアティコでワウト・ファンアールトの総合2位を支えた2019ラヴニール覇者トビアス・フォスなど・・・ユンボの層の厚さを感じさせる布陣だ。

ある意味で、チームの未来を担う次期エースアシスト候補の選考会にもなるかもしれない。どの若手が活躍するか、注目して見ていこう。

 

 

アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)

イギリス、29歳

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UAEツアーでも総合2位と非常に強かった。それでも、個人TTではポガチャル、アルメイダに30秒近いビハインドを抱えるなど、良くも悪くも想定内であった。

しかし、その後のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでは驚きの走り。山岳ステージでの圧倒的な強さはもちろん、TTでもアルメイダやクライスヴァイクに匹敵する区間7位という記録。もしこれが最高潮に絶好調だったがゆえの奇跡のような走りではなく、ある程度恒常的に出せるのであれば、このバスクでも上記抜けた実力をもつ2人にも十分に匹敵する走りを見せられるはずだ。

なお、チームメートのテイオ・ゲイガンハートも、パリ〜ニースでは前半で退場したためにそのコンディションの如何はまだ見られていない。

昨年ジロ覇者であり、今年のツールのエース候補でもある、チームが期待する存在。

彼の走りもまた、このバスク1周における注目ポイントである。

 

 

マキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ)

ドイツ、27歳

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前回大会の2019年においてはハットトリック(ステージ3勝)を決め、総合リーダージャージを着てクイーンステージへ。

決して総合を狙える男ではないと思われていた中で予想外の粘りを見せ、その存在が、エマヌエル・ブッフマンの独走を許すきっかけとなった。

結果、この日はブッフマンが勝利。総合リーダーも彼の手に。最終日はライバルのアスタナによる猛攻の前に残念ながら総合優勝は奪われてしまったものの、この最終日でもシャフマンはブッフマンのためのアシストに全力を尽くしていた。

www.ringsride.work

 

そして昨年、パリ〜ニースでの総合優勝。さらに今年も、ログリッチに次ぐ走りを確かに見せており、最終日もアスタナのアレクサンドル・ウラソフと(2019年バスク総合優勝者の)ヨン・イサギレによる波状攻撃を自ら全て押さえ込み、2年連続となる総合優勝を果たした。

 

確実にステージレーサーとして進化しつつある彼が、今年も得意のTTや登りスプリントでボーナスタイムを稼げるこのバスクで、2年前の借りを返す総合優勝を果たしても何らおかしくはない。もちろん、ポガチャルとログリッチという2大巨塔があまりにも大きすぎるのではあるが・・・

 

 

マウリ・ファンセヴェナント(ドゥクーニンク・クイックステップ)

ベルギー、22歳

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もちろん、総合を狙えるとは思っていない。しかし、昨年のフレーシュ・ワロンヌで粘り強い逃げを見せ、今年はツール・ド・ラ・プロヴァンスでジュリアン・アラフィリップに最後まで付き従う登坂力を見せ、さらにはトロフェオ・ライグエーリア3位、GPインダストリア&アルティジアナートでは優勝と、実質的にはネオプロ1年目ながら、すでにしてチームの次期エース候補として成長している。

今大会は現時点ではアラフィリップは不出場予定。となれば、パンチャー向きのステージの多いイツリア・バスクカントリーでは、このファンセヴェナントがワールドツアー初勝利を遂げたとしても何らおかしくない。彼にとって今シーズンの1つの目標であるだろうアルデンヌ・クラシックに向けても良い調整となるはずだ。

ドゥクーニンクはほかにも昨年のジロでも区間上位に何回か入った有望なパンチャー、ミケルフローリヒ・ホノレや、UAEツアーではファウスト・マスナダ以上の登坂力を見せていたマッティア・カッタネオが(もしかしたら)エース待遇の中でどれだけ走れるかに期待したいところ。

 

 

その他注目選手

他にも前回大会優勝者で今年のパリ〜ニース総合3位のヨン・イサギレや、ティレーノ〜アドリアティコ総合3位のミケル・ランダ、そのチームメートのペリョ・ビルバオにステージ優勝候補としてはイサギレのチームメートのアレックス・アランブルなど、地元バスク人の活躍に期待。

イサギレやランダは総合表彰台争いにも十分食い込めそうだが、ランダはTTでビハインドを抱えないようにすることが重要。

その意味では同じバーレーンならば(スプリント力もありボーナスタイムも期待できるという意味で)ビルバオの方が向いてはいるものの、彼の今年のコンディションは今の所イマイチなのが気になるところ。

 

ボーラ・ハンスグローエはシャフマン以外にもブッフマン、ケルデルマンとトリプルエース体制。今大会ピュアスプリンターが一切いない中で、GPインダストリア&アルティジアナート5位やプロヴァンス、カタルーニャのスプリントステージでシングルフィニッシュをしているイーデ・スヘリンフ(シェリング)も、覚醒の可能性を秘めている。

カタルーニャでサイモン・イェーツ以上の強さを誇り、アダムとヘイグ離脱の穴を埋める勢いのエステバン・チャベスも、今回は単独エースとして臨む形となり、「復活」が期待される。

 

そんな中、今年まだ勝ちのないモビスター・チーム。昨年も2勝。創立40年を超える超老舗チームが、今危機に瀕している。

「コンタドールの後継者」エンリク・マスは、ここで気を吐くことができるか。

 

 

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