こちらも毎年恒例、「ガッツポーズ選手権」を今年もやっていきます。
今年もおよそ10か月にわたるシーズンの中から、個人的に印象に残ったガッツポーズ写真を20枚選出し、そのエピソードも交えて紹介していきます。
例年のことですが非常に選ぶのに苦労するくらい、今年も感動的なフィニッシュシーンが多く・・・20枚の中以外からでもおススメのものがあればそれもぜひご紹介ください!
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〆切は11/26(土) 24:00まで!
☆ルール☆
- 1位~3位にそれぞれ3ポイント~1ポイントを加え、最終的に獲得ポイントを合計して順位を決めます。
- 2位・3位については「空欄」も可ですが、1位を空欄で2位・3位を回答したり、1位と3位を回答して 2位を空欄にした場合は、それぞれ順位繰り上げを行います。
- 1位~3位で2つ以上、同じ回答を行った場合は無効票とします。
- あなたのおススメのガッツポーズを選んで書いていただいてもかまいません。その場合は選手名とレース名(ステージレースの場合はステージ数)を必ず添えてください。
目次
- 1.アルノー・デライ(トロフェオ・プラヤ・デ・パルマ~パルマ)
- 2.マティアス・ヴァチェク(UAEツアー第6ステージ)
- 3.クリストフ・ラポルト(パリ~ニース第1ステージ)
- 4.マルタ・カヴァッリ(アムステルゴールドレース)
- 5.ディラン・トゥーンス(フレーシュ・ワロンヌ)
- 6.トーマス・デヘント(ジロ・デ・イタリア第8ステージ)
- 7.ビニヤム・ギルマイ(ジロ・デ・イタリア第10ステージ)
- 8.ジュリオ・チッコーネ(ジロ・デ・イタリア第15ステージ)
- 9.ディラン・フルーネウェーヘン(ツール・ド・フランス第3ステージ)
後編はこちらから
過去のガッツポーズ選手権はこちらから
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1.アルノー・デライ(トロフェオ・プラヤ・デ・パルマ~パルマ)
アルノー・デライは今年大ブレイクしたネオプロの一人。カレブ・ユアン一本で行くかと思われていたロット・スーダルが、突如掴み取った次代のスーパーエースである。
今年、プロ1年ながら驚異の9勝。ワウト・ファンアールトとジャスパー・フィリプセンと並ぶ、6位タイの成績である。しかも2位が1回、3位が2回しかないから、上位に入るときは常に勝っている効率の良さ(?)。
もちろんほとんどの勝利(9勝中8勝)が1クラスというのはあるものの、それでも10/12時点でのUCI個人ランキングでは6位というネオプロとは思えない成績(しかもスプリンターでそれは凄い)。
そして年齢は今年20歳。これから世界で最も注目すべきスプリンターの一人であることは間違いないだろう。
そんなデライの初勝利がこの写真のレース。彼のプロ3レース目であり、過去にもマルセル・キッテルやアンドレ・グライペルなども優勝している、ピュアスプリンターにお馴染みのスプリンター・レース「トロフェオ・プラヤ・デ・パルマ~パルマ」。シーズン初頭のスペイン・マヨルカ島で行われる「ワンデーレース群」チャレンジ・マヨルカの1レースである。
このときはまだ19歳だったデライが、フアン・モラノやマイケル・マシューズ、ジャコモ・ニッツォーロといったトップスプリンターたちを相手取ってまさかの勝利。たしかに名門育成チームであるロット・スーダルU23出身とはいえ、昨年のツール・ド・ラヴニールでも2位はありつつも勝ちもしなかった彼のいきなりのこの成績には世界中が驚いた。しかも、ここからまさかの勝利の連続を積み上げていくなんて・・・。
そんなデライ、実は「ガッツポーズ職人」としても世界トップクラス。この写真のお口あんぐりるも素晴らしいのだが、他にもGetty ImagesでArnaud De Lieで検索してほしいのだが、とにかく多種多様バリエーション豊かな魅力的なガッツポーズが。感情を爆発させた表情も秀逸だし、手足の動きも縦横無尽で面白過ぎる。それでいてサングラスを取ればあどけない顔つきで、この顔からあんなに感情爆発させるとは・・・やはり、スプリンターというのはそれくらい血気盛んでこそ、である。
というわけで2023シーズンも、スプリンターとしての成長(とくにワールドツアークラスでの活躍)はもちろん、ガッツポーズ職人としてもぜひ注目していきたい。
2.マティアス・ヴァチェク(UAEツアー第6ステージ)
kiwaさんがオススメしてくれたガッツポーズですが、確かにこれは熱い! 良い表情!
レース自体も非常に熱かった。UAE最大の都市ドバイの市中を舞台とした大集団スプリントステージであり、逃げのタイム差は残り100㎞時点ですでに1分台にまで縮まっており結末は明白のはずだった。
しかし、その後、そのタイム差の減少がぴたりと止まってしまう。
残り20㎞で1分差はまだ分かる。
しかし残り10㎞でむしろタイム差が開いて1分23秒になっているのはかなり危険な状況。逃げは6名。ガスプロム・ルスヴェロが3名、バルディアーニCSF・ファイザネが2名入れており組織的な動きができていたとはいえ、それでも所詮はプロチーム相手だというのに。
そしてこの状況で集団が必死になって追走を開始しようとする雰囲気を感じられなかった。この期に及んで集団の先頭を牽くのがクーン・ボウマンやファウスト・マスナダといったクライマーたちであったことからも、それがわかる。
確かに、続くコロナ禍で各チームの人数が減少していく中、前日までのスプリントステージでもラスト1㎞を切ってからのアシストの数が絶対的に足りていなかった。
ゆえにどのチームも、少しでもアシストの足を温存しながらフィニッシュに臨みたい――そんな思惑が、ステージに刻まれた宿命を大いに歪ませることとなった。
そうこうしているうちに残り8㎞で1分14秒、残り6㎞で1分8秒、そして残り5㎞でようやく1分を切る。
TTスペシャリストのヨス・ファンエムデンが集団先頭に出て本気の牽きを見せ始めたのは残り2.3㎞になってから。そのときのタイム差はまだ45秒。
追いつけるはずがなかった。
よって、集団は先頭の5名に委ねられる。
その中に3名を全員残せていたガスプロム・ルスヴェロが、圧倒的に有利であった。
まずはパヴェル・コヒェトコフが先頭を牽引し続ける。
そして残り200mでマティアス・ヴァチェクとディミトリ・ストラーコフが同時にスプリントを開始。
ヴァチェクの後輪に、昨年U23版イル・ロンバルディア覇者のポール・ラペイラ(AG2Rシトロエン・チーム)が貼りつくが――結局は、ヴァチェクの前に出ることはできなかった。
ネオプロ2年目、当時まだ19歳だったヴァチェクの、当然ながらプロ初となる勝利を、ワールドツアーの舞台で堂々と成し遂げた。
そのときの表情がこれ。背後のストラーコフも、誇らしげに右手を挙げながら3位に入り込んだ。
前身のドバイ・ツアー、アブダビ・ツアーから数えても初となる逃げ切り勝利と言う意味でも歴史的であった。
この後、3/2。ロシアのウクライナ侵攻を受け、全ロシア、ベラルーシ籍のUCIチームのライセンス剥奪が決定し、ガスプロム・ルスヴェロも活動を停止してしまう。
ヴァチェクもその後6月まで公式戦への出場を果たせずにいたが、チェコ国内のレースやヨーロッパ選手権で少しずつ復帰していき、8月のツール・ド・ラヴニールでは4回のシングルリザルトを成し遂げて最終的には総合10位。
世界選手権U23ロードレースではエフゲニー・フェドロフと逃げに乗り2位に入り込んだのは記憶に新しい。
現在はトレック・セガフレードのトレーニーとしてイタリアの秋のクラシックにも参戦しており、来季から3年契約で正式移籍も決まっている。
彼もまた、これからも見逃せない才能豊かな若手。チーム消滅の憂き目に遭いながらも、まだまだこれからも熱いガッツポーズを見せてくれるはずだ。
3.クリストフ・ラポルト(パリ~ニース第1ステージ)
今期のユンボ・ヴィズマのレース前半で何度も見た「ワンツーフィニッシュ」。E3サクソバンク・クラシックのワウト・ファンアールト&クリストフ・ラポルトや、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネのプリモシュ・ログリッチ&ヨナス・ヴィンゲゴーなど・・・その原点とも言えるのが、このパリ~ニースでの「ワンツースリーフィニッシュ」であり、今年のユンボ・ヴィズマの絶好調を象徴する勝利であった。
実際、レースとしても非常に熱かった。
パリ近郊の小さな町マント=ラ=ヴィルを発着する全長159.8㎞平坦ステージ。今年のパリ~ニースにおける数少ない集団スプリントステージと思われていたが、残り13㎞、先頭3名とのタイム差が17秒にまで迫っていたタイミングで、元TT世界王者ローハン・デニスが集団先頭を牽引し始める。
さらに残り10.7㎞。デニスが仕事を終えると今度は北のクラシックスペシャリストのマイク・テウニッセンにバトンタッチ。さらにハイ・ペースで牽引し続ける黄色いトレインによって集団は縦に長く伸び、純粋な集団スプリントステージとしての様相が失われていってしまう。
実際、ソンニ・コルブレッリやケース・ボルといった有力スプリンター勢はここで脱落。平穏な平坦ステージのはずが、段々とサバイバルの雰囲気に包まれ始めていく。
そして残り5.7㎞地点に用意された最後の3級山岳。登坂距離1.2㎞、平均勾配6%という、実に「何でもない」はずの小さな丘。ここで、ネイサン・ファンフーイドンクが集団の先頭に立って加速し、さらにクリストフ・ラポルトに交代しさらなるペースアップ。
この一撃で、ラポルト、ワウト・ファンアールト、プリモシュ・ログリッチの3名が完全に抜け出した。最初、クイックステップ・アルファヴィニルのゼネク・スティバルも食らいつこうとしていたが、すぐに突き放されてしまう。集団からはピエール・ラトゥールが飛び出してブリッジを試みるも、成功はしなかった。
結局、ユンボ・ヴィズマの3名だけが抜け出して残り5㎞を突き進んでいく。ある意味実にパリ~ニースらしい波乱の展開ではあったが、しかし横風もないなか、ひたすらにチームとしての意志だけでこの展開を作り出してしまうとは。
そのまま後続に20秒近いタイム差をつけて3名がフィニッシュラインに、最後は残り500mでワウト・ファンアールトがラポルトに声をかけ、勝利を手にするように勧めた。
かくして、クリストフ・ラポルト、エースの座を捨てる覚悟で移籍したはずの彼がまさか手にした初のワールドツアー勝利と、そして栄光のマイヨ・ジョーヌ。
今年のユンボ・ヴィズマを象徴する瞬間となった。
そして、同じような勝ち方をしたのがツール・ド・フランス第4ステージであり、ある意味この日の勝利はその大いなる予行練習だったとも言えるだろう。
そしてこの日驚きのワールドツアー初勝利を成し遂げたラポルトは、そのツール・ド・フランスでまさかのツール初勝利も掴み取ることに。
通算5勝。4勝だった昨年、0勝だった一昨年を超える戦績を掴み取った、間違いなく大成功だった1年。来年もこの「最強チーム」への最高のアシストをしながら彼自身の栄光をさらに広げていけるか。
とりあえず、今度こそファンアールトに「クラシックの王冠」を被せてあげたいところ。
4.マルタ・カヴァッリ(アムステルゴールドレース)
今年は初開催のツール・ド・フランス・ファムもあり、大いに盛り上がった女子レース。その女子レースからも今年はノミネートしたい。
まずはこの、今年大ブレイクしたFDJスエズ・フチュロスコープのマルタ・カヴァッリ(イタリア、24歳)。元々ロンド・ファン・フラーンデレン6位やヘント~ウェヴェルヘム5位、東京オリンピックロードレース8位など実力のあった選手ではあったが、これまでの勝利は国内選手権や2クラスのレースに限られていた。
そんな彼女が大金星を挙げたのが4月のアムステルゴールドレース。残り2㎞地点に用意された最後の登りカウベルグ(登坂距離800m、平均勾配7.4%)でアネミーク・ファンフルーテンがペースアップを図ると集団が一気に削られていったが、最終的に7名に絞り込まれた先頭集団から残り1.7㎞でカヴァッリが不意に飛び出した。
集団に2名残していたSDワークスが懸命に追走を仕掛けるもギャップは縮まらず、そのままカヴァッリが独走勝利。両手で顔を覆い、最後は頭を抱えて「信じられない」という思いを爆発させた。
だが、これは彼女にとって、躍進の序章に過ぎなかった。
その直後のパリ~ルーベでは5位。そしてフレーシュ・ワロンヌでは、女王アネミーク・ファンフルーテンとの一騎打ちを真正面から力で制する強すぎる勝ち方。
リエージュ~バストーニュ~リエージュでも同じく今年急成長中のチームメート、グレース・ブラウンやエヴィタ・ムジックと共に終盤までレースを支配し、ブラウン2位、カヴァッリ6位という結果を残した。
これまでFDJ女子チームは、とくにクライマー向けレースにおいてはセシリーウトラップ・ルドヴィグ一強というイメージだったが、今年はチームとしてかなりの総合力向上を実現したように感じる。
一時期はルドヴィグ以上の有望株(なにしろファンフルーテンを2度も倒したのだから!)とされていたカヴァッリ。イツリア・ウィメンも総合4位、モンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジも優勝、ジロ・デ・イタリア・ドンナもファンフルーテンにほぼ唯一食らいついての総合2位と波に乗る中、ツール・ド・フランス・ファム初代王者最有力候補の一人として期待されていたが・・・第2ステージでまさかの集団落車に巻き込まれてのリタイア・・・悔しいシーズン終盤戦を過ごすこととなってしまった。
だが、SDワークスやトレック・セガフレード、あるいはフォスやファンフルーテンだけではない、新たな女子ロードレースの有力チームとしてのFDJの台頭がはっきりと見えた2022シーズンであり、その立役者となったのは間違いなく彼女であった。
5.ディラン・トゥーンス(フレーシュ・ワロンヌ)
2017年のフレーシュ・ワロンヌで3位に入り込んだことが、この男の台頭のきっかけだったと思っている。
その後、7月のツール・ド・ワロニー第3ステージの「ウッファリーズ」山頂フィニッシュでプロ初勝利を成し遂げ、第5ステージでも勝利、そのまま総合優勝を果たした。
さらにその3日後に始まったツール・ド・ポローニュでも区間1勝と総合優勝、そのさらに1週間後から始まったアークティックレース・オブ・ノルウェーでも区間2勝&総合優勝ということで、1ヵ月の間に実に8勝を成し遂げる大出世を遂げることとなった。
そして2019年にはツール・ド・フランスのラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユで優勝し、2021年には再びツールで勝利・・・今や世界最高峰のパンチャーの一人として名高い男となっている。
そんな彼は、2年ごとに結果を出すというジンクスがあり、そこから考えると今年は・・・と思っていたが、とんでもなかった。
彼の出世レース、ラ・フレーシュ・ワロンヌに挑み、ラスト1㎞からエンリク・マスが先頭に飛び出して加速し始めるとすぐその後輪について待機。
残り500mでアレハンドロ・バルベルデがマスの背後についていよいよ本格的な勝負の始まりを予感させたときにもしっかりと今度はバルベルデの背後を陣取り続けていた。
早めに仕掛けて自滅してしまう選手が多い中、トゥーンスは落ち着いて先頭付近で時を待ち続ける。
そして残り250m手前。マスの背後からアレハンドロ・バルベルデが右に飛び出して加速を開始。同時に左からはアレクサンドル・ウラソフがペースアップ。
これを受けてトゥーンスも二人の間が一気にアタック。力強い踏み込みでまずはウラソフが落ちるが、バルベルデはしっかりとここに食らいついていった。
ここから、さらに一段加速して勝利を奪っていくのがワロンの狩人、アレハンドロ・バルベルデの必勝パターン。
しかし・・・残り200mを切っても、150mを切っても、トゥーンスのペースは落ちない。
そして残り100m。バルベルデがライバルを絶望に突き落とすいつものカメラアングルに切り替わったとき、トゥーンスの背後から加速したバルベルデがトゥーンスに並びかけるが――しかし、残り50mで、諦めた。背後を振り返り、失速していくバルベルデ。
そして一気に「王」を突き放し、単独でフィニッシュラインへと突き進む新時代の激坂ハンター。
あまりにも美しく水平に伸ばされた両腕を広げ、トゥーンスは彼なりに、偉大なるチャンピオンへの餞を送った。
バルベルデも最後は全力を出し尽くしたけどトゥーンスが強かったと讃えるコメントを残した。彼にとっても、悔いのない、最高の最後のフレーシュ・ワロンヌを味わえたことだろう。
というか42歳でなおも2位に入る彼もまた、あまりにも規格外すぎるまま引退となったわけだが・・・。
6.トーマス・デヘント(ジロ・デ・イタリア第8ステージ)
若い才能が次から次へと出てくる昨今だが・・・「逃げ王」はまだまだ死なず! その矜持を見せつける、強くカッコイイ勝ち方をしてみせた。
イタリア第3の都市ナポリを発着する、アップダウンの激しい周回コースステージ。逃げ向きのステージとだけあって序盤から激しいアタック合戦が繰り広げられ、最終的には21名の逃げ集団が出来上がり、その中にはマチュー・ファンデルプールやビニヤム・ギルマイも含まれていた。
残り46.2㎞地点でファンデルプールがアタック。そこにギルマイや昨年の区間優勝者マウロ・シュミットなどが食らいつくが、この動きは一旦、引き戻される。
そのカウンターで飛び出したダヴィデ・ガッブロに、デヘントがチームメートのハーム・ファンフックを引き連れてジョイン。ほか、シモーネ・ラヴァネッリ、ホルヘ・アルカスを含んだ5名の逃げ集団が形成された。
問題は、誰よりも実力と実績を持つデヘントが、チームメート含みで入り込んでいるということ。さすがに他のメンバーもデヘントを利する真似はできず、ローテーションを拒否。
後続もファンデルプールを警戒してなかなか統制が取れていなかったものの、そのファンデルプール自身が積極的に牽き始めたこともあり、タイム差を縮めにかかる。
そこで、デヘントは自ら動くことにした。誰よりも逃げのイロハを分かっている男が、ラヴァネッリが脱落してしまうほどの猛ペースで先頭集団を牽引し始めたことで、追走集団とのタイム差も再び開き始めていった。
残り11.5㎞でタイム差は41秒。残り9.2㎞で36秒。残り7.7㎞で26秒。
さすがにデヘントも疲れが見え始め、先頭4名のペースも落ちていく。
残り6.9㎞。最後の登りが終わり、タイム差は20秒。
残り5㎞。タイム差18秒。テクニカルな下りで、追走集団からはファンデルプールがギルマイと共に抜け出す。
残り2㎞。10秒差。もう、ファンデルプールたちの視界にはデヘントたちの姿が。
それでも徹底的に前を牽こうとしないアルカスとガッブロに、一時はデヘントもさすがに回れとジェスチャーする場面もあったが、二人も最後まで徹底し続けていた。
そして最後の180度カーブ。残り800mのホームストレート。
残り700m地点で、デヘントは自らのシューズを締めた。まるでファンフックのアシストに徹していたかのような徹底的な牽引ぶりだった彼だが、最後はそのまま自分で決める気のようだ。
逃げ王デヘントの、一世一代のスプリント勝負。
100m後方にはファンデルプール、ギルマイ、追いついてきたシュミットの3名。その先頭はファンデルプールで、何度も後ろを振り向くがギルマイは前に出ようとせず、ペースは上がらない。
先頭4名はファンフックが先頭。その後ろにガッブロ、デヘント、アルカスの順。
残り200mでデヘントがスプリントを開始。
すぐさまガッブロが追いかけるが・・・デヘントに並ぶことは、できなかった。
残り43㎞で形成された逃げ集団の中で誰よりも積極的に前を牽き、マチュー・ファンデルプールら追走集団に追い付かせない最大の貢献を働いた男が、最後の最後、その自らの足で勝利を掴み取った。
これこそが、逃げ王。ただのエンターテイナーではない。確かな強さをもった「トーマス・デヘント」の真骨頂とも言える、最高の勝ち方だった。
左手を高らかに天に上げ、絶叫。背後では最後まで共に戦ったチームメートのガッツポーズも添えて、美しい構図が決まった。
2019年のガッツポーズ選手権でも5位に入っているトーマス・デヘント。今年はどうかな?
7.ビニヤム・ギルマイ(ジロ・デ・イタリア第10ステージ)
jam.rideさんもオススメの、そして結構多くの人に印象に残っているであろうこのフィニッシュ。ギルマイ自身も渾身の表情で素晴らしいのだが、やはりここは2位に沈んだマチュー・ファンデルプールも見逃せない。この写真では少しわかりづらいけれど・・・。
ビニヤム・ギルマイはワールドサイクリングセンター主審のエリトリア人。2019年には2000年生まれとして最も早いプロ初勝利をラ・トロピカーレ・アミッサ・ボンゴで成し遂げる(レムコ・エヴェネプールは同年6月のベルギー・ツアーで初勝利)。2020年にはNIPPOデルコ・ワンプロヴァンスでプロデビューを飾りラ・トロピカーレ・アミッサ・ボンゴでさらに2勝とポイント賞、さらにトロフェオ・ライグエーリアでジュリオ・チッコーネに次ぐ2位に入り込むなど、新世代の才能の一人として注目を浴びていた。
昨年はフランドル世界選手権U23ロードレースで集団先頭を獲るスプリントで2位。そして上記記事の通り、今シーズンの2戦目となったトロフェオ・アルクディアで、フィニッシュ前40㎞地点の2級山岳でチームのエースであるアレクサンデル・クリストフが脱落したことを受けて急遽エースの代役を務めることに。
そしてその重責を見事果たし切り、ライアン・ギボンズやジャコモ・ニッツォーロとのマッチスプリントを制してワールドツアーチーム所属初となる勝利をその手に掴んだのである。
こうして分かるように、多少の山岳はものともしないパンチャータイプでありながら、ピュアスプリンターにも負けない圧倒的なスプリント力も兼ね揃える、ワウト・ファンアールトを彷彿とさせる才能の持ち主であった。
そしてその力を存分に発揮したのがこのジロ・デ・イタリアの第1ステージ。ラスト5.6㎞から始まる、平均勾配4.2%・最大勾配8%の登りスプリントフィニッシュが用意されたこの開幕ステージで、マチュー・ファンデルプールとの一騎打ち――残り100m時点ではギルマイが先行してたものの、そこから追い上げていったファンデルプールにギリギリで敗北するという悔しさを味わった。
そのリベンジとなったのがこの第10ステージであった。しかも、めちゃくちゃ強い勝ち方で。
前半は平穏な平坦ステージを予感させながら、ラスト10㎞で激しい攻防戦が繰り広げられたこのステージ。
まずは残り11.8㎞地点から2019年ツール・ド・ラヴニール覇者トビアス・フォスが飛び出し、アルペシン・フェニックスが牽引するメイン集団がこれを引き戻すと残り10㎞からパヴェル・シヴァコフがリチャル・カラパスを引き連れてアタックし、そこにマチュー・ファンデルプールが食らいつく。
これも飲み込まれると今度は残り9.3㎞からアレッサンドロ・コーヴィ、次いで残り7.8㎞からルーカス・ハミルトン、カウンターでヴィンツェンツォ・ニバリと、次から次へと有力勢がアタックしては引き戻されるの連続。
均衡が破れたのが残り6.5㎞。ビニヤム・ギルマイ擁するアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオの選手がコースミスしかけて集団が混乱した隙を突いてサイモン・イェーツがアタックすると、ここにダヴィデ・フォルモロとジュリオ・チッコーネ、そしてファンデルプールが飛びついて先頭は4名になる。
そして残り4.7㎞。ここからファンデルプールが単独で飛び出したのである!
当然、これは逃すわけにはいかない。そこで集団の先頭に立ったのがギルマイだった。先ほどのコースミスからも分かるように、チームメートはもはや限界。この危険な逃げを抑え込むには、自ら行くしかなかった!
そしてその努力が実り残り3㎞でファンデルプールを吸収。すぐさまカラパス、マウヌス・コルトらがまた飛び出していくがこれもすべてプロトンが引き戻しにかかった。
誰もがボロボロになった状態で迎えたラスト1㎞。残り600mまではアンテルマルシェのアシストが牽引し、そこからボーラ・ハンスグローエが牽引を引き継ぐも、もはや誰も本気の加速をすることはできない状況だった。
残り450m。集団の右側に位置づけていたドメニコ・ポッツォヴィーヴォがスプリントを開始。すぐさまファンデルプールが後輪につき、ギルマイもファンデルプールの右隣にポジショニングした。
先に仕掛けたのはギルマイの方だった。残り350m。すぐさまファンデルプールもその後輪を捉える。
一度はギルマイの横に並び立ち、勢いで測っていたように思えるファンデルプール。しかしギルマイはそれでもなお、失速することなくまっすぐ、前だけを見据えて加速を続けた。
最後は、ファンデルプールが先に折れた。項垂れ、そして右手を掲げ、偉大なるライバルを讃えたのである。
そこで初めてギルマイは振り返った。そして勝利を確信し、前を向き、両手を天に突き上げ、歓喜を爆発させた。
Cycling at its finest.
— Giro d'Italia (@giroditalia) May 17, 2022
@GrmayeBiniam 🤝 @mathieuvdpoel#Giro pic.twitter.com/xpSw6MQXxx
アフリカ勢として初のヘント~ウェヴェルヘム勝利に続く、初のグランツール勝利。しかも、アルノー・デマールに対し3ポイント差にまで迫りマリア・チクラミーノ争いもこの後白熱するに違いない・・・と思っていた中、まさかの表彰台での「コルク事件」。
だが、これは決して「勿体ない」ことはない。彼は確かに時代を進めたのであり、そしてこのあともなお、大いなる歴史を築いていくことだろう。
そして、最高の青年との最高の勝負を繰り広げた上で、最後は素直にこれを讃え歴史に残るサムズアップを見せてくれた今年最高のナイスガイ・ファンデルプール。
ギルマイが去った後も彼はチームメートの勝利に貢献し、自らも逃げに逃げて、あやうくジロ・デ・イタリア運営にパイナップルピザを食べさせる寸前にまで迫った、最高のエンターテイナーっぷりを発揮してくれていた。
そんな、ギルマイの偉大さと、ファンデルプールの偉大さとが共に詰まった、至高の一枚である。
8.ジュリオ・チッコーネ(ジロ・デ・イタリア第15ステージ)
2019年のガッツポーズ選手権でもノミネートされているジュリオ・チッコーネ。当時は雨の中、無我夢中の勝利に「思わず」サングラスが投げられていたが、以後チッコーネと「サングラス投げ」は切っても切れぬ関係に。
そして今年のジロ・デ・イタリアでの勝利の際は、実に格好良く、クールにそのグラスを天に投げ飛ばした。
だが、そのクールな姿勢とは裏腹に、この瞬間にまで至るチッコーネの心境は実に辛く、苦しいものでもあった。
そもそも2016年のジロ・デ・イタリア。ネオプロ1年目で迎えた大舞台で、まさかの逃げ切り勝利。イタリア人にとってツール・ド・フランス以上に価値があるとさえ言われることのあるジロで、プロ初勝利を遂げたのである。
その後、決して気持ちを浮つかせることなく、バルディアーニCSFでじっくりと3年間を過ごした彼は、2019年、トレック・セガフレードでのワールドツアーチームデビュー初年度で、再びジロ・デ・イタリアでの勝利、そして山岳賞を獲得する。同年にはツール・ド・フランスでマイヨ・ジョーヌも着用し、まさに人生の絶頂であった。
しかし、その後の彼は、高まる期待に圧し潰されそうになりながらもがき苦しむ時間を過ごすこととなった。
2020年はコロナ禍と気管支炎により沈黙の1年を過ごし、昨年のジロ・デ・イタリアでは総合上位入りへの期待がかかる中、落車によってすべてを奪われる。リベンジを誓った同年のブエルタ・ア・エスパーニャでも体調不良で途中リタイア。
実力以外のところで、思うようにいかないことが続いてきた27歳の青年は、このジロでようやく、新しいキャリアに向けての何かを掴み取ったような感触を得たようだ。
「ようやく勝利がやってきた。今までの中で一番美しい勝利だ。ツールのマイヨジョーヌより、僕の最初のジロ区間優勝よりも美しい。3度目のステージ優勝だけど、僕にとって一番価値がある勝利になった」
実際、強い勝ち方であった。
終盤にかけて2つの1級山岳と最後に2級山岳(ただし登坂距離22㎞の強烈な登り)山頂フィニッシュが待ち構える第2週最終日の山岳ステージで、逃げに乗っていたチッコーネは残り49㎞地点でアタック。
ここに今年サウジ・ツアーでブレイクしたサンティアゴ・ブイトラゴと昨年のルート・ドクシタニー総合優勝のアントニオ・ペドレロ、そして2020年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位のヒュー・カーシーが食らいつき、先頭のクーン・ボウマン、マチュー・ファンデルプール、マーティン・トゥスフェルトの3名を追い抜いて先頭に立った。
そして最後の2級山岳コーニュの登り口で、アングリル覇者カーシーがアタックすると、チッコーネとブイトラゴがここに反応する。
そしてカウンターでチッコーネがアタックしブイトラゴが脱落した後、カーシーだけが食らいつき2人旅が始まった。
だが、残り18.7㎞。
もう一度チッコーネが加速すると、カーシーもついに脱落。純粋な力のぶつかり合いを制し、チッコーネは最後の18㎞の登りを、たった一人で駆け上ることとなったのである。
最後は観衆に両手を突き上げ、「もっと盛り上げろ!」とジェスチャーを送るチッコーネ。
その足元には観客がサングラスを投げつけ、これに呼応するようにして、期待通り彼はグラスを手に取り、そして空に向かって投げ飛ばした。
その表情は晴れやかで、誇りに満ちていた。
ここから再び彼のキャリアが始まる。まだその自転車人生は、ようやく折り返し地点を迎えたばかりなのだから。
9.ディラン・フルーネウェーヘン(ツール・ド・フランス第3ステージ)
フルーネウェーヘンのガッツポーズは個人的にも好きではあり、過去にも取り上げたこともある。
ただ、彼のガッツポーズの特徴は、(それこそ今回の冒頭で紹介したアルノー・デライのように)感情を爆発させるタイプの多いスプリンターの中では珍しく、いつだって非常に冷静でクールな印象が強い。
そんな彼が、心の底から感情を爆発させた瞬間が、このツール第3ステージでの勝利。あの事件以来初となる、ツールでの勝利の瞬間であった。
両手で頭を抱え、これまでの彼のガッツポーズのときには見せたことのなかったような泣き顔を広げた。
その感情についてこれ以上の言葉で解説することは避けたいと思う。この写真を取り上げることについて最後まで迷い続けてはいたが、それでも最後には選ぶ必要があると感じた。2022年サイクルロードレースシーンを彩った数千数万の感情の爆発の中の1つとして。
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