りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ガッツポーズ選手権 写真で振り返る2022年シーズン(後編)

 

前編に続き、今年のガッツポーズ選手権ノミネート写真後半を紹介していきます。

当初18枚と宣言していましたが、結局今年も例年通りの20枚選出してしまいました。

ぜひこの中から皆さんのお気に入りを最大3枚、選んでみてください!

(もちろん、20枚以外にも、皆さんのおすすめがあればぜひそれも!)

 

お時間のある方は、その他のアンケートにもぜひご協力ください。

 

投票は以下のGoogleフォームから

docs.google.com

 

〆切は11/26(土) 24:00まで!

 

☆ルール☆

  • 1位~3位にそれぞれ3ポイント~1ポイントを加え、最終的に獲得ポイントを合計して順位を決めます。
  • 2位・3位については「空欄」も可ですが、1位を空欄で2位・3位を回答したり、1位と3位を回答して 2位を空欄にした場合は、それぞれ順位繰り上げを行います。
  • 1位~3位で2つ以上、同じ回答を行った場合は無効票とします。
  • あなたのおススメのガッツポーズを選んで書いていただいてもかまいません。その場合は選手名とレース名(ステージレースの場合はステージ数)を必ず添えてください。

 

 

目次

 

前編はこちらから!

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10.ワウト・ファンアールト(ツール・ド・フランス第4ステージ)

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通称「翼を授かったワウト」。DenさんやKomugiさんなど、多くの方の推薦をもらったエンターテイナー、ファンアールトの決めガッツポーズ。本当にレッドブルを意識していたのかはよくわからないが、躍動感のある印象的なガッツポーズに仕上がった。

レースの展開も実に印象的だった。前編で紹介したパリ~ニース第1ステージのところでも触れているが、ラスト10㎞地点に用意された4級山岳(登坂距離900m、平均勾配7.5%)でネイサン・ファンフーイドンク&ティシュ・ベノートによるペースアップの末、解き放たれたファンアールトがまさかの独走勝利を成し遂げたのである。

この日は一応カテゴリは丘陵だったが、なぜ平坦カテゴリじゃないのかと言われることもあり大集団スプリントが十分に期待されるステージであった。直前にこのステージをシミュレーションゲームでやってみた人も、どうあがいてもスプリンターを振り切ることのできない登りだったと証言している。

そこでこれを成し遂げてしまう、ファンアールト。前日まで2位続きだったことがまた、この勝利をドラマティックに彩っている。

常識を超え続ける男、超人ファンアールトを印象付ける勝利だった。

 

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もちろん、この後の彼はさらなる「超人」ぶりを見せつけるわけだが・・・。

 

 

11.マイケル・マシューズ(ツール・ド・フランス第14ステージ)

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両手を水平に広げて、空を仰ぎ見る。その表情は勝利への歓喜というよりも、どこか安心したような表情で・・・

それもそのはず。彼にとってツール・ド・フランスの勝利は初めてではなく、それどころかシャンゼリゼの表彰台に立ったことすらある。それでいて、その勝利から5年間も遠ざかっていた男。

プロ12年目。栄光も挫折も苦しみも味わい続けてきた男が、古巣に戻ってきて2年目に再びその瞬間を掴み取った。

 

そして、その勝ち方もまた、強烈だった。

元々、スプリンターというよりも、2017年のあの栄光の年に山岳でも気にせず逃げに乗りまくってポイントを集めてマイヨ・ヴェールを獲得したように、あらゆる地形に対応できるオールラウンドぶりが特長であった。

第1週でも純粋スプリントステージというよりは、激坂登りフィニッシュの第6ステージ(ロンウィ)第8ステージ(ローザンヌ)でスプリンターたちが振り落とされる中最後まで残り勝利を目指して加速するも、それぞれタデイ・ポガチャルやワウト・ファンアールトといった、怪物たちに先を越されて2位に終わる。

 

それでも諦めず、第14ステージ。中央山塊のマンドフィニッシュ。フィニッシュ1㎞手前に用意された、登坂距離3㎞・平均勾配10%の「ジャラベール山」で過去何度もドラマが繰り広げられた名物ステージで形成された23名の大逃げ集団に入り込むことに成功した。

そして残り52.7㎞地点で独走を開始。間もなく集団からフェリックス・グロスシャートナーやルイスレオン・サンチェスらが飛び出してきて追いつかれるが、ジャラベール山に突入後、山頂まで残り2.1㎞地点で加速した彼は再び単独先頭に立った。

 

しかし、そこで10数秒差にまで迫っていた集団から、一流パンチャーのアルベルト・ベッティオルが飛び出してきて、山頂まで残り1.4㎞地点でマシューズに合流。

しばらくもがき、食らいつこうとしたマシューズだったが、やがて山頂まで残り1.1㎞地点であえなく突き放される。

 

昨年も果敢に逃げに乗りながらも惜しくも勝利に届くことのなかったマシューズ。今年も、何度もトライしながら――結局、あの栄光には届かないのか?

 

だが、山頂まで残り600m。

山頂付近でわずかに勾配が緩み始めた最終盤でマシューズは息を吹き返した。

そしてベッティオルに追い付き、さらにはこれを突き放して、この日3度目の独走を開始した。

 

「ジェットコースターのような山あり谷ありの、まるで僕の競技人生のような激動のレースだった」

 

世界最強では、決してない。

現代の最先端で輝くポガチャルやファンアールトといった怪物たちの背中を見送ることしかできなかった1週目は、彼にとってあまりにも悔しい瞬間だったかもしれない。

 

だが、諦めず、戦い続けることで、いつの日かそれは手に届く。

マンドの広い滑走路でただ一人、先頭で両手を広げ天を仰いだそのとき、彼はその思いを強く噛みしめていたことだろう。

 

時代は着実に進んでいる。それでも、この世代もまだまだ、世界最高の舞台でドラマを創り続けてくれるのだ。

 

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12.ユーゴ・ウル(ツール・ド・フランス第16ステージ)

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2011年にカナダ籍のプロコンチネンタルチームでプロデビューを果たし、2012年にそのチームが解散後は2013年からAG2Rラモンディアルに所属。2018年にアスタナ・プロチームに移籍。カナダ人という、自転車ロードレースが決して盛んではない国の出身で、決して主役にはなれない中、ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ~ルーベからリエージュ~バストーニュ~リエージュ、イル・ロンバルディアまで、あらゆる地形のレースに引っ張り出され、過去3回出場しているツール・ド・フランスでもすべて完走。それでいて過去優勝しているプロレースは国内選手権の個人タイムトライアルのみで、一度もプロの舞台でガッツポーズを見せたことのない男。

そんな、ザ・アシストといった男が、ついに栄光を掴んだ。

 

残り53.5㎞地点に用意された1級山岳からの下りで、TV画面ではインタビューが差しはさまれていて小さなワイプ画像になっていたその瞬間に、Jsports実況陣の誰からも気づかれないそのタイミングで、ひっそりと先頭逃げ集団から単独で抜け出した。

集団側にはチームメートで母国の偉大なる先輩マイケル・ウッズが抑えに入ってくれている。与えられた最大のチャンスを活かすべく、直後に聳え立つこの日最大の勝負所である超激坂ミュール・ド・ペゲールもたった一人で登り切った。

その山頂の時点で集団とのタイム差は27秒。

あとは下りと平坦。本来の彼の、最も得意とする分野であり、このペゲールを単独のまま越えられた時点で、勝利は確定的となった。

 

10年前、弟を事故で亡くした。それ以来、彼に勝利を捧げたいと願い続けていたが、国内TT以外での勝利は一切ないままだった。

 

その願いを、ついに叶えることができた。しかも、ツール・ド・フランスという、世界最高峰の舞台で。

そんな瞬間に、用意された完璧なガッツポーズなどはない。ただ、ひたすらに、湧き上がる感情を爆発させることしかできない。

 

残り100mでホームストレートに入る瞬間は舌を出し、余裕そうだった。そして両手でガッツポーズを見せてチームと観衆のために勝利をアピールしていた。

だが、残り75mで後ろを振り返ったあと前を向き直したその表情は次第に歪み始めていた。そして上体を起こしその右手を額から空に突き上げたとき、その顔には涙に濡れ始めていた。

 

無我夢中に何度も空に向かって右手を突き上げる。最後に指を差し、弟への報告を捧げる。

そしてフィニッシュライン。このとき初めて彼は、彼自身のために、自分自身の心の奥底から膨れ上がる感情を吐き出すようにして、両手を左右に突き出した。

最後は頭も左に倒れてしまうほどの脱力ぶり。

この10年、戦い続けてきた男の全てが詰まった瞬間であった。

 

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これぞツール・ド・フランス。

決して怪物たちだけの祭典ではない、一人の無銘の戦士が紡ぎ出すドラマもまた、この世界最高峰の舞台で輝く光であるのだ。

 

 

13.ヨナス・ヴィンゲゴー(ツール・ド・フランス第20ステージ)

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これをガッツポーズとしていいかは結構迷ったが、Komugiさんなど何名かの推薦もあったこと、そして今年のツールのユンボ・ヴィズマを象徴する瞬間でもあるということで、選ばせていただきました。一応、ヴィンゲゴーの右手もハンドルから少しだけ離れて挙げられているから、ね。

第11ステージのあの奇跡でマイヨ・ジョーヌを着用したヴィンゲゴー。その後もペイラギュードの死闘を実質的に制し、最後の山岳ステージである第18ステージでのタデイ・ポガチャルの猛攻もすべて抑え込み、最後は下りで落車した彼を待つ姿も見せつけたことで決着はついた。

 

第20ステージの個人タイムトライアルというのは、ユンボ・ヴィズマにとっては悪夢の舞台でもあった。2年前のこの日、マイヨ・ジョーヌを着ていたプリモシュ・ログリッチは、58秒差をひっくり返されての大逆転敗北を喫した。

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だが、今年はこの最後のタイムトライアルを前にしてタイム差は3分26秒。

いくらポガチャルが規格外の男であっても、これを逆転することは不可能だった。

 

それでもヒヤッとする場面はあった。終盤の下りでヴィンゲゴーがオーバーラン気味に落車寸前に。そこまでの中間計測地点ではファンアールトやポガチャルの記録を更新する走りを見せていた彼も、この場面を経て終盤はセーフティに走ることとなった。

 

そして、辿り着いたフィニッシュライン。

そこには、この日今大会3度目の勝利を確定したファンアールトが待っていた。

 

2年前のあの日、トム・デュムランと共にラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユの山頂で崩れ落ちるログリッチを見守っていたファンアールト。

その後何度もツール・ド・フランスの舞台での栄光を掴み続けていた彼にとっても、今日のこの瞬間は、格別のものがあっただろう。

自分の勝利の瞬間ではなく、ヴィンゲゴーの勝利の瞬間にその目から涙がこぼれ、そして、満面の笑顔でチームメートの背中を強く叩いた。

 

第11ステージでのあの逆転劇から含め、これはまさに、チームの勝利。

自転車ロードレースを象徴する瞬間であった。

 

 

14.セシリーウトラップ・ルドヴィグ(ツール・ド・フランス・ファム第3ステージ)

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今年初開催のツール・ド・フランス・ファム。ロレーナ・ウィーベス、マリアンヌ・フォス、そしてアネミーク・ファンフルーテンと多くの実力者たちが勝利し、輝かしいガッツポーズを見せてきたが、その中で最も印象に残ったこの1枚を選出しよう。

セシリーウトラップ・ルドヴィグは2014年に母国デンマークのチームに所属してデビューを飾るが、暫くはなかなか成績を出せずにスーパーのレジ打ちをしながらレースをしていたとか(あれ、どこかで似た話を)。

2017年頃からストラーデ・ビアンケなどトップレースで結果を出し始め、2019年にはそのハイテンションな性格も相まって大ブレイク。女性版サガンなんて呼ばれながらキャラクターだけでなく実力もトップレベルに相応しいものを見せ始め、クライマー向けの各種レースの最終盤勝負所では常にその存在を見せ続けてきた。

 

が、なかなか勝てない。2019年はロンド・ファン・フラーンデレンで3位、ラ・クルスbyツール・ド・フランスでも3位、2020年にはジロ・デッレミリアで勝利するもフレーシュ・ワロンヌでは2位、2021年にラ・クルスで2位に入るがまたも勝てなかった。トロフェオ・アルブレッド・ビンダでは3回も3位に入り込んでいる。

めっちゃ強いのに、勝ちきれない。そんな彼女が、初のツール・ド・フランス・ファムという大舞台で、まさかの大勝利を成し遂げた。

しかも、登りスプリントで、それを最も得意とするマリアンヌ・フォスを後ろから追い抜き、そのままこれを突き放すという、めちゃくちゃ強い勝ち方で。

 

そのまぶしい笑顔の裏側にはきっと多くの苦悩もあっただろう。

だがそれをすべて打ち破って、胸元のデンマーク十字に合わせるかのように広げた両腕と満面のハッピーな笑顔とで、自身とチームの勝利を祝福してみせた。

 

今年、FDJチームは飛躍の年を迎え、これまでルドヴィグのワントップといった印象からカヴァッリ、ブラウン、ムジッチなどが次々結果を出してきており、チームとしてもこれからさらに存在感を高めていくことが期待されている。

その中でもやはりエースとして、ルドヴィグが引き続き引っ張っていくことを期待したい。さらに多くのトップレースでの勝利も期待している!

 

 

15.ロレーナ・ウィーベス(シマック・レディース・ツアー第1ステージ)

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元から非常に強い選手だった。2019年にはファンフルーテンやフォスを差し置いて、わずか20歳で世界ランキング1位にも輝いている。

それでもその後、ロッタ・コペッキーやエマセシル・ノースガードなど、数多くの才能が出てくる中で、少しずつ埋もれていくような印象を感じていた。

 

だが、今年再び大ブレイク。というか、これまで以上にずば抜けて強くなっている印象だ。

今期驚異の23勝。TOP3なら33回、TOP5なら38回も記録している。世界ランキングでは今年3大グランツール全制覇&世界王者のファンフルーテンには届かなかったものの2位。完全復活を遂げた。

 

勝ち方もすさまじかった。それを表現しているのがこの写真である。逃げ切りではない。普通に集団スプリントを開始したのだが、ウィーベスがスプリントを開始すればあっという間に他のスプリンターたちとの差が開いていき、普通に1秒差がついてしまうのだ。コペッキーやエリーザ・バルサモなどのトップスプリンターを相手取ってなお、それだけの力の差を見せつけるのだから異様である。

しかも、今年のウィーベスは、かつてのようなド平坦専門ピュアスプリンターという印象からは外れ、比較的丘陵めいたレイアウトもこなしてしまっている。

より強く、より幅広く。

無限の可能性を持つ彼女も、来年は最強チームSDワークスへ。

今年の彼女の強さの一端を担っていたのは、自身も勝利を十分に狙えるトップクラスの実力を持つシャーロット・クールなどのアシストの存在もある。

SDワークスではもちろんコペッキーのアシストなんていう贅沢な可能性もあるかもしれないが・・・逆に、熾烈なエース争いも考えられ、果たして、うまくフィットできるかどうか。

 

 

16.ジェイ・ヴァイン(ブエルタ・ア・エスパーニャ第8ステージ)

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2020年のズイフト・アカデミー・プログラムで優勝し、翌年、すでに移籍が決まっていた母国オーストラリアのコンチネンタルチームではなくアルペシンへの移籍を掴み取った。その年のブエルタ・ア・エスパーニャに早速出場し、一度落車しながらも逃げ集団に復帰してそのまま区間3位にまで登り詰めた

その時点ですでにその実力は十分に認められていたが、2回目となる今年のブエルタ・ア・エスパーニャではついに勝利を掴み取った。しかも、2度も。

 

1回目は第6ステージ。カンタブリア山脈の1級ピコ・ハノ山(登坂距離12.6㎞、平均勾配6.55%)山頂フィニッシュ。10名の逃げの中から残り10㎞で単独で飛び出し、その他の逃げをすべて吸収しながら迫りくるレムコ・エヴェネプールとエンリク・マスの猛追を振り切り、わずか15秒差で逃げ切った。

しかしこのときはカンタブリア特有の深い霧の中に包まれ、ほとんどガッツポーズらしいガッツポーズは見られなかった。

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そのチャンスはすぐにまたやってくる。わずか2日後の第8ステージ。同じくカンタブリアのブエルタ初登場の1級山岳コリャウ・ファンクワーヤ(登坂距離10.1㎞、平均勾配8.5%)山頂フィニッシュ。

この日も激しいアタック合戦を生き残り、形成された10名の逃げに入り込んだヴァイン。最後の登りの中腹、ラスト6㎞で独走を開始し、追撃するマルク・ソレルを振り切って2度目のブエルタで2回目の勝利を手中に収めた。

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すでにそのガッツポーズには自信が満ち溢れ、堂々たるものである。もう彼を「ズイフトの人」と呼ぶ必要はないだろう。

そして彼はこの日の勝利で山岳賞ジャージを手に入れた。第17ステージ終了時点でその合計ポイントは59ポイントに達し、2位のリチャル・カラパスとは30ポイント近い大差をつけており、このまま山岳賞は確定と思われていた。

が、そこで翌日にまさかの落車リタイア。今まさに羽ばたかんとしていた青年に対する残酷な仕打ちであった。

 

だが、記録には残らずとも、その鮮烈な走りは強い印象を残している。彼の実力はすでに明確なものであり、ワールドツアーチームとなった2023年のアルペシンにおいても山岳エースとして任されていくことは間違いないだろう。

次はツール・ド・フランスでの勝利だ!

 

 

17.テイメン・アレンスマン(ブエルタ・ア・エスパーニャ第15ステージ)

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2018年ツール・ド・ラヴニール総合2位。つまり、あのポガチャルに次ぐ成績を残した選手。その後はDSMで修業を積みつつ、今年はツアー・オブ・ジ・アルプスでロマン・バルデの総合優勝をアシストしつつ自らも総合3位。そしてジロ・デ・イタリアでも、区間2位が2回と3位が1回という好成績を出すなど、かなりの好調ぶりを見せていた。

 

そんな彼が、ついに掴んだグランツールでの初勝利。

舞台は第2週の最終日、イベリア半島の天井とも言うべきシエラ・ネバダ(登坂距離19.3㎞、平均勾配7.9%)。今大会唯一の超級山岳はその登り口数キロに渡って10%以上の激坂区間が続くという難峠であり、その激坂区間ですでに1勝しているマルク・ソレルが集団から飛び出して独走を開始した。

 

そのままソレルが逃げ切るか、と思っていたところで、残り7㎞地点。後続から抜け出してきたアレンスマンがただ一人、このソレルのところに追い付いてきた。

「僕を待っているかのように感じた」と後に述べていたアレンスマン。この時点では、ソレルとの一騎打ちに自信がなかったようで、一か八かで急勾配区間でのアタックを敢行した。

結果、ソレルは突き放され、アレンスマンはたった一人の先頭となった。

無線を外し、集中し始めたアレンスマンは、両脇から湧き上がる歓声に包まれながら標高2,500m超のフィニッシュラインへ。

最後は信じられないという風に両手で顔を覆い、飛躍の今シーズンの最後のダメ押しを決めた。

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来年はイネオス・グレナディアーズ入りが決まっているアレンスマン。登坂力だけでなくTT能力も高いオールラウンダーであり、イネオスにはかなりフィットするタイプの選手であることは間違いない。

新たな伝説の立役者にもなりうる存在であり、これからも注目し続けていくべきだろう。

 

 

18.レムコ・エヴェネプール(ブエルタ・ア・エスパーニャ第18ステージ)

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いつだって常に感情的なガッツポーズを見せつけてくれるエヴェネプール。正直、どれか1枚を選ぶのは非常に迷った。世界選手権ロードレースのガッツポーズもいいし、リエージュ~バストーニュ~リエージュの顔を両手で覆って今にも泣きそうになっているガッツポーズもいいし・・・ただその中でもやはり、今年はこれを選ぶことにした。マイヨ・ロホを着て、これまでのすべての苦難と、3週間の道のりをすべて戦い抜いたことを全身で喜ぶ、そのガッツポーズを。

それは、2019年にわずか19歳でワールドツアーの舞台に飛び込んできた青年が、数多くの経験を経て着実に成長してきたことを感じさせる表情であり、姿であった。それでいて、彼はある意味で「変わらず」に来た。3年前のプロ初勝利の瞬間も、世界選手権ロードレースでの勝利の瞬間も、相変わらず彼は同じ勝ち方をひたすら続けてきた・・・。

それが彼の唯一無二の魅力なのだと思う。そしてこのブエルタ・ア・エスパーニャも。第1週の山頂フィニッシュで淡々とマイペースを保ち続けてライバルたちを引き千切った。第2週のシエラ・ネバダではプリモシュ・ログリッチの猛攻にペースを崩されかけた場面もあったが、すぐに持ち直した。そして第3週も、エンリク・マスの決死の攻撃を抑え込み、そのジャージを守り切った。

 

第18ステージ。グアダラマ山脈決戦の初日。ラスト10㎞でのマスの最初の一撃に難なくついていき、残り8㎞では逆に強烈なアタックを繰り出す。

残り4㎞で再びマスがアタック。エヴェネプールがすぐに反応して食らいつくと諦めず3度目のアタック。それでも、エヴェネプールは離れない。

残り1㎞。マスの4度目のアタック。エヴェネプールは離れないが、もはやマスももう緩急をつけることは止め、その足を止めることなく加速し続けることを選んだ。

ここで足を止めれば、容赦のないカウンターアタックが繰り出されることを、マスはよく分かっていた。

 

だが、無情にも、残り200mでついにエヴェネプールが加速する。

それまで唯一の逃げ残りで単独先頭を守り続けてきたロベルト・ヘーシンクも躱し、追いすがるマスを突き放し、レムコ・エヴェネプールは文句なしの今大会最強を証明する勝利を成し遂げたのである。

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この瞬間に至るまでの道のりは決して簡単ではなかった。総合優勝候補最右翼とも目されていた2020年のジロ・デ・イタリアは直前のイル・ロンバルディアでまさかの落車リタイア。復帰初戦となった2021年のジロ・デ・イタリアでは第1週こそ鮮烈な走りを見せたものの第2週の前半で大失速。

この「失敗」もあり、次第に彼に対する辺りも強くなる。しまいには、御大エディ・メルクスからの批判。

 

それでも、彼は彼らしい走りを忘れることなく戦い続け、ついにこの場所に辿り着いた。多くの仲間たちに囲まれながら、涙を浮かべながら満天の笑顔で。

 

レムコ・エヴェネプールの物語は今年、一つの頂点に達した。彼もまた、これほどのシーズンはもうないかもしれないと述べている。

が、そうではないことを期待したい。「怪物の時代」の発端となったこの新時代の象徴エヴェネプールの物語は、まだまだ終わらないはずだ。

 

 

19.エミル・ヘルツォーク(世界選手権男子ジュニアロードレース)

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勝者は両手を広げ天を仰ぎ、敗者は悔しそうに項垂れながらハンドルを叩く――まるで漫画のワンシーンのような完璧な美しさに彩られたこのガッツポーズは個人的には今年イチ好きな瞬間でもある。

そして、レースの展開もまるで漫画のようだった。

残り18.6㎞地点。それこそ男子エリートでレムコ・エヴェネプールとアレクセイ・ルツェンコが飛び出したのとほぼ同じ地点であるフィニッシュライン直前の平坦路で、ポルトガル代表のアントニオ・モルガードが単独で飛び出した。

その後はひたすら独走を続けるモルガードに対し、追走集団はなかなか協調を取れずにいたが、最後の勝負所となる残り8.5㎞地点から始まるマウント・プレザント(登坂距離1.1㎞、平均勾配7.7%、最大勾配14%)で、ドイツ代表のエミル・ヘルツォークが先頭に立って後ろを振り返ることなくひたすらペースを上げていき——その頂上で、ついに単独で抜け出すことに成功した。

 

その後は残り3㎞で先頭のモルガードに合流したヘルツォーク。モルガードは先頭交代を拒否し、激高したヘルツォークは「Can I win⁉」と激しく叫ぶ場面も。

そして我慢ならなくなってアタックするヘルツォークだがモルガードはしっかりとこれに食らいつき、双方を足を使い切った状態でラスト1㎞を迎えることとなる。

 

ラストもヘルツォークが先頭固定。そして残り300mでヘルツォークが腰を上げるがまだ本気のスプリントは開始せず様子見。

残り250mでモルガードも腰を上げてヘルツォークの背後から飛び出しスプリントを開始。

これを見てヘルツォークもいよいよペダルを踏む足に力を込め始めた。

 

横一列に並んだ、18歳の若き二人組。わき目も振らず、互いが互いの持てる限りを出し尽くす、純粋で美しいスプリント。

最後は残り50mでついにモルガードが力尽き――ヘルツォークの前輪がわずかに、フィニッシュラインへと先行した。

完璧すぎるこのラスト300mはぜひ、動画でも見てほしい。

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両者とも来年はハーゲンスバーマン・アクセオンへの昇格が決まっており、この熱いライバル関係の二人を来年はチームメートとして見ることができる。

それもまた実に楽しみである。

そして彼らが、激動の2020年代後半のロードレース界を大いに盛り上げてくれるかもしれない。

 

 

20.エンリク・マス(ジロ・デッレミリア)

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アルベルト・コンタドールから「スペイン自転車界の未来」と称された男。2018年にはブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位に輝き、その未来は本当に明るいものと思われていた。

 

しかし、その後は大きすぎる期待に応えられるほどの結果を出せずにいた。2020年ツール・ド・フランスでは総合5位、2021年ツール・ド・フランスでは総合6位。決して悪くない結果ではあるが、自分自身のコンディションの不安定さにも悩まされ、伸び悩む姿を見せ続けていた。

そして2022年シーズンもまた、好調とは言えない前半を過ごしていた。極めつけはクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第7ステージの、勝負所一歩手前の山クロワ・ド・フェールで早くも遅れていく姿・・・

そのまま挑んだツール・ド・フランスでは総合10位前後をウロウロした挙句の途中リタイア。

今年も結局ダメなのか・・・そう思っていた、矢先。

 

前年に2回目の総合2位を果たしていたブエルタ・ア・エスパーニャで、第1週の山頂フィニッシュで他の誰もがついていけなかったレムコ・エヴェネプールの加速に唯一食らいつく姿を見せていたエンリク・マス。

その後も、プリモシュ・ログリッチ脱落後も引き続き、最後の最後までエヴェネプールに挑戦し続けた彼は、3度目の総合2位に落ち着いたものの、その走りの鮮烈さはここ数年で最も輝かしいものであった。

 

そして、その勢いは秋のクラシックにも続く。

その初戦、ジロ・デッレミリア。激坂サン・ルーカの壁を5回登らせる強烈なパンチャー/クライマー向けレイアウト。その最後の激坂の登り口で、アレハンドロ・バルベルデに発射されたマスが、そのままタデイ・ポガチャルすら突き放して単独でその山頂へと突き進んだ。

 

安定した強さを持ちつつも、抜け出すことのできなかった男が、この日は力で真正面からぶつかり、「世界最強」を打ち倒して見せた。

その表情には彼の特徴でもある純真無垢な笑顔が浮かび、両手は力強く左右に突き出されている。

苦しかったこの数年間に、一筋の光が差した瞬間だろうか。

今年の後半戦、彼は確かに強かった。

その勢いが、また来年以降も続いていくことを願う。

 

 

番外編 ジャスパー・フィリプセン(ツール・ド・フランス第4ステージ)

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あんまりこの手のものをここで紹介するのはしない方だったのだけれど、結構推される方も多かったため、あえてコメントはせず、紹介するに留めます。

番外編なので、これは投票の対象にしませんが・・・

クリストフ・ラポルトの指し示す指先の向こう側には・・・

 

実際、フィリプセンのガッツポーズもエモーショナルでとても好きなのだが、今年の彼のガッツポーズで最も感情がこもった熱いガッツポーズはこれな気がしてしまうのがまた・・・。

しかしちゃんと第15ステージで勝って、しかもシャンゼリゼまで取ったんだから、本当に凄かった。おめでとう、ジャスパー。

 

 

 

いかがだっただろうか。

全部で20枚、この中から、あるいはこれ以外でも、皆さんの一番と思うガッツポーズ写真をぜひ選んで投票してみてください。

 

投票は以下のGoogleフォームから

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〆切は11/26(土) 24:00まで! 奮ってご参加ください!

 

 

前編はこちらから!

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