歴史に残るツール・ド・フランスだった。
2年前のあの世紀の大逆転も衝撃的であったが、ある意味でそこから始まる3部作の一つの完結編を見たような、そんな3週間であった。
それは常識を超えた超常のスーパーライダーたちが描く英雄譚であると共に、実に自転車ロードレースらしい、チームワークの意味を感じさせる物語でもあった。
しかし一方で、そんな「最強」たちだけがこのドラマを作ったわけではない。
彼らには及ばずとも、それぞれがそれぞれの強い思いをもってこのツールに挑んでいる男たちによる感動の勝利もまた、ツール・ド・フランスという3週間のドラマの醍醐味でもある。
そしてこの第3週も、そんなあらゆる主人公たちによる物語の舞台となった。
ツール・ド・フランス2022、最後の6日間を詳細に振り返っていこう。
第2週の振り返りはこちらから
目次
- 第16ステージ カルカッソンヌ~フォア 178.5㎞(丘陵)
- 第17ステージ サン=ゴーダンス~ペイラギュード 129.7㎞(山岳)
- 第18ステージ ルルド~オタカム 143㎞(山岳)
- 第19ステージ カステルノ=マニヨアック~カオール 188.3㎞(平坦)
- 第20ステージ ラカペル=マリヴァル~ロカマドゥール 40.7㎞(個人TT)
- 第21ステージ パリ・シャンゼリゼ~パリ・シャンゼリゼ 116㎞(平坦)
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第16ステージ カルカッソンヌ~フォア 178.5㎞(丘陵)
終盤に1級山岳が2連続。とくに2つ目の1級ミュール・ド・ペゲール(登坂距離9.3㎞、平均勾配7.9%)からフィニッシュまでのルートは、2017年ツールのフランス革命記念日にワレン・バルギルが独走勝利しているルートを完全再現。
「ペゲールの壁」の何相応しい、強烈なラスト3㎞の超激坂区間は、逃げ集団だけでなくメイン集団出も大きな動きが巻き起こりそうな厳しさを有していた。
基本的には逃げ切り向きステージということで、この日も総勢29名の大逃げ集団が形成される。
動きが巻き起こったのは残り65.2㎞。2つある1級山岳の1つ目、ポルト・ド・レルス(登坂距離9.3㎞、平均勾配7.9%)でオリヴィエ・ルガック(グルパマFDJ)とダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)の2名が飛び出す。
昨年ジロ・デ・イタリア総合2位のベテランの華カルーゾが一時独走に持ち込むが、置き去りにされた逃げの残りの集団も数を減らしながらの全力追走。
残り53.5㎞地点の山頂は追いついてきた小集団の中から山岳賞のシモン・ゲシュケ(コフィディス)が先頭通過を果たした。
そして、この1つ目の1級山岳からの下りで、イスラエル・プレミアテックの31歳カナダ人ユーゴ・ウルが抜け出した。
AG2Rやアスタナを遍歴し、ロンドやルーベなどの平坦系だけでなく、リエージュ~バストーニュ~リエージュやイル・ロンバルディアもすべて動員されるオールラウンダータイプ。過去3回出場しているツール・ド・フランスでもすべて完走しているタフな男だが、過去の勝利は国内選手権の個人タイムトライアルのみ。
そんなザ・アシストといったタイプの男が、勝負所に挟まれたテクニカルな下りで奇襲的に抜け出し、チームメートの優勝候補マイケル・ウッズが抑えに入っている追走集団を尻目に、強烈な激坂ミュール・ド・ペゲールをたった一人で登り切り、その山頂を追走から27秒遅れで先頭通過を果たした。
あとは、下りと平坦。あの地獄のような激坂さえ乗り越えられれば、カナダTT王者の彼にとって、残りは十分に戦える舞台であった。
10年前、弟を事故で亡くしてからずっと、彼に勝利を捧げたいと願っていたらしい。その10年、国内TT以外での勝利は一切なかった彼が、まさかその10年越しに、ツール・ド・フランスという世界最高の舞台での独走勝利を機会を得るとは。
残り75mから両手を横に広げてガッツポーズ。
そして右手を何度も天に振りかざし、弟へと勝利の報告を行う。
最後にもう1度、強く右手の拳を空に振り上げて、最後は力強く両手を突き上げてフィニッシュラインを越えた。
総合勢の争いも、1つ目の1級山岳の山頂付近で早くも巻き起こった。
山頂まで7㎞ほどの地点でメイン集団からタデイ・ポガチャルがアタック。すぐさまヨナス・ヴィンゲゴーが単独で追い付き、引き離されることはしない。
さらに山頂まで残り5㎞ほどの地点で再びポガチャルはアタックするが、これもヴィンゲゴーはしっかりと抑え込んだ。
さらに残り53.5㎞地点の山頂を通過した直後にみたびポガチャルがアタックするが、やはりこのダウンヒルでの攻撃でもヴィンゲゴーは揺らぐことはなかった。
そして最後のミュール・ド・ペゲール。その山頂から残り4㎞を切った超激坂区間からラファウ・マイカが先頭に立って一気にペースアップ。一気に集団を絞り込む強烈な牽引で、先頭はマイカ、ポガチャル、ヴィンゲゴー、クス、トーマス、イェーツ、キンタナ、ゴデュの8名だけに。
そして山頂まで残り2.5㎞ほどのところで、突然のマイカストップ。チェーンが切れた? まさかのアクシデントで、ポガチャルは先頭で独りになってしまう。
そのままクスが完璧にコントロールした先頭集団ではそれ以上の戦いが巻き起こることはなく、総合5位アダム・イェーツが大きくタイムを失ったこと以外では変動がないままフィニッシュを迎えることとなってしまった。
このチェーン切れによる急速なストップが原因でマイカは右大腿四頭筋損傷により翌日はDNS。
さらにこの日、ここまで良い動きを見せていたマルク・ソレルも胃腸炎によって大きく遅れ、タイムアウトでリタイア。
反撃が必至のUAEチーム・エミレーツにとって、最後のピレネー決戦を前に重要なアシスト2名を失うという、悲劇のステージとなってしまった。
第17ステージ サン=ゴーダンス~ペイラギュード 129.7㎞(山岳)
2017年ツール・ド・フランス第12ステージで登場し、クリス・フルームを失速させた「王者陥落の激坂」ペイラギュード。
今年は「王者」が追いかける立場でこの日を迎えたが、果たして逆転に向けた一撃を繰り出すことができるか。
激しいアタック合戦の連続でなかなか逃げが決まらない中、残り72㎞地点からアレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザフスタンチーム)とティボー・ピノ(グルパマFDJ)の2人が抜け出してタンデムエスケープを開始。
残り30.7㎞から始まる1級コル・ド・ヴァル・ルーロン=アゼ峠(登坂距離10.7㎞、平均勾配6.8%)の登坂開始まで続いた二人逃げもここで吸収され先頭は15名ほどの集団となる。
だが、この日は逃げ切りが許されるようなステージではなかった。
ソレル、マイカと重要なアシストを立て続けに失い、残り僅か4名となってしまったUAEチーム・エミレーツ。
だが、その総力を尽くして彼らは逆転に向けた勝負に出る。
まずは残り56㎞地点、2級山岳ウルケット・ダンシザンへの登りの途中から先頭をミッケル・ビョーグが牽引。
そのままヴァル・ルーロン=アゼ峠登坂開始間もない残り28.5㎞地点までひたすら牽引。
そしてそこからは最後のアシスト、ブランドン・マクナルティが全力のペースアップを開始した。
昨年も3週目に調子を取り戻し、ポガチャルのための完璧なアシストをしてみせたマクナルティ。
今年もまた第3週にピークを合わせてきたのかもしれないが、事態は昨年とは全く違う危機的なものであった。
それでも彼は、4年前のツール・ド・ラヴニールで最大のライバルであったポガチャルを助けるべく、ひたすらハイ・ペースを刻んでいく。
結果、集団の数を無残に減らし尽くしながら残り25㎞地点で全ての逃げを吸収し、さらに残り24㎞地点でセップ・クスさえも突き放し、先頭はポガチャルとマクナルティ、そしてヴィンゲゴーの3名だけにしてしまった。
そして残り20.2㎞地点のヴァル・ルーロン=アゼ峠山頂。その直前でポガチャルがアタック! だが、当然ヴィンゲゴーはすぐさまここに食らいつく。
下りで再びマクナルティが追いついて3名だけでいよいよ最後のペイラギュード(登坂距離8㎞、平均勾配7.8%)へ。
ラスト3㎞からとりわけ厳しい勾配の区間が始まり、ラスト1㎞からは最大勾配16%を含む直登の超激坂区間へと突入する。
とはいえこの時点でヴィンゲゴーとポガチャルとのタイム差は2分22秒。
最後の1㎞だけで戦っても、このタイム差をひっくり返すことは難しい。
少なくとも残り3㎞からでも攻撃をする必要がある。
が、ポガチャルは動かない。
淡々とマクナルティが先頭を牽き続けるが、その背後のポガチャルは動く様子を見せない。
動かないのか、動けないのか?
残り3.2㎞。ポガチャルが後ろを振り返る。
残り2㎞。再びポガチャルが後ろを振り返る。
ゲラント・トーマスらが含まれる追走集団とのタイム差は縮まらないため決して遅いペースではないのだが、アタックはしない。
さらに残り1.2㎞。ポガチャルがマクナルティとの間にギャップが少し開き、そこにヴィンゲゴーが入り込みさえする。
ポガチャル、厳しい。
そして残り400m。滑走路に向かう、直登の超激坂区間。
ここでポガチャルがいよいよ加速するが、力強さはない。ヴィンゲゴーはいとも簡単に食らいつく。
そしてポガチャルは腰を下ろし、身体もフラフラに。
これを見てヴィンゲゴー、残り200mでペースアップ。
先頭に躍り出たヴィンゲゴーだが、ポガチャルもここに追随する。
そのまま残り100m。もう一度踏み込んだポガチャルが最後にヴィンゲゴーを抜き返し、そのまま先頭でフィニッシュラインに到達した。
これで今大会3勝目。それはそれで栄えあることではあるが、一方で逆転という意味では、この日稼げたタイム差は4秒に過ぎなかった。
これでタイム差は2分18秒。
残る山岳ステージは1つだけ。
ポガチャルにとっての最後の戦いが始まる。
第18ステージ ルルド~オタカム 143㎞(山岳)
いよいよ最終山岳決戦。舞台は8年前のツールで総合優勝したヴィンツェンツォ・ニバリが4勝目を挙げた山オタカム。レイアウトはシンプルだが、実にツール・ド・フランスらしい美しくも厳しい山岳ステージとなっている。
アクチュアルスタートと同時にまずはワウト・ファンアールトがアタック。すでにマイヨ・ヴェールも確定させている彼にとって逃げる理由はただ一つ、ヨナス・ヴィンゲゴーのための前待ちである。
次々とこれに飛び乗る選手が現れ、最終的には最大で34名もの大規模逃げ集団が出来上がる。
だが、やはりこの日も、逃げ切りは許されない激しい総合争いの舞台となった。
動き始めたのは残り40㎞。1級スパンデル峠(登坂距離10.3㎞、平均勾配8.3%)の山頂まで8㎞以上残した段階で、前日に続きブランドン・マクナルティが先頭を牽いていたメイン集団からタデイ・ポガチャルが早くもアタック。
当然すぐさまヨナス・ヴィンゲゴーがここに食らいつくが、残り37.8㎞で再びポガチャルがアタック。
ヴィンゲゴーは離れない。セップ・クスもついてくる。残り37.2㎞で、3度目のアタック。
ヴィンゲゴーは離れない。
首を振るポガチャル。足を止めればすぐさまクスもゲラント・トーマスも追いついてくる。さらにトーマスがカウンターでアタックするとヴィンゲゴーはクスに指示を出して牽引を開始する。
残り35.6㎞。ポガチャルの四回目のアタック。ここまでよりもさらに速いスピードで駆け抜けていき、抜け出したトーマスも軽々と追い抜いていく。
それでも、ヴィンゲゴーは離れない。
しかしさすがに苦しそうな表情を見せるヴィンゲゴー。クスもいなくなる。前からティシュ・ベノートが落ちてくるが、彼に仕事をさせないペースでひたすらポガチャルは前を牽いていく。
そのまま二人で山頂を通過し、ダウンヒルへ。
昨年のモン・ヴァントゥーでも、山頂で抜け出したヴィンゲゴーに下りで追い付いているポガチャル。今年のストラーデビアンケでも下りで仕掛けて55㎞の独走勝利を決めている彼にとって下りは勝負所でもあり、引き続きこのダウンヒルで危険を顧みない攻撃を仕掛けていくポガチャル。
その結果、まずはヴィンゲゴーがタイヤを滑らせて落車しかける。
さらに直後に、ポガチャルがオーバーランしかけ、そのままバランスを崩して落車。
これを受け、ヴィンゲゴーが足を止めポガチャルを待つ。
2017年のジロ・デ・イタリアでキンタナを待ったときのトム・デュムラン以来見た気がするこのスポーツマンシップの発露の瞬間。
ある意味で、この瞬間に今年のツールは決着してしまったような気さえしてしまった。
感情がジェットコースターのように荒れ狂ってしまいます😭😭😭
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】ツール・ド・フランス開催中🇫🇷 (@jspocycle) July 21, 2022
Cycle*2022 ツール・ド・フランス 第18ステージ
【ルルド 〜 オタカム】143.2km⛰
〜J SPORTSオンデマンドでLIVE配信中〜#TDF2022 #jspocycle pic.twitter.com/WNDizQHbPo
二人はこの後リスクを取ることを止め、ペースを落として追走と合流しつつ、最後の超級オタカム(登坂距離13.6㎞、平均勾配7.8%)へ。
追い付いてきたゲラント・トーマスやルイス・メインチェスらも、結局はセップ・クスが前を牽いてペースを上げると脱落し、残り7.5㎞の段階で再びメイン集団はクス、ヴィンゲゴー、ポガチャルの3名だけに。
そして残り5.3㎞。先頭で独り逃げていたワウト・ファンアールトに追い付き、同時にクスが脱落。
3週間最後の超級山岳の山頂まで残り5.1㎞で、先頭はマイヨ・ジョーヌとマイヨ・ブランとマイヨ・ヴェールの3名に。
そのままマイヨ・ヴェールのワウト・ファンアールトが全力牽引。
その結果、ポガチャルはアタックするどころか、残り4.5㎞でこれに突き放されてしまう。
そのままマイヨ・ヴェールとマイヨ・ジョーヌの二人旅になった先頭で、残り3.6㎞。ついにファンアールトが仕事を終える。
そして飛び立つヨナス・ヴィンゲゴー。
2018年、タデイ・ポガチャルが総合優勝したツール・ド・ラヴニールではアシストに徹し総合67位。このときはまさか、わずか4年後に彼がツールを総合優勝するなんて想像できたものはいるのだろうか。
2019年にユンボ・ヴィズマでプロデビューを果たしたときも、彼はツール・ド・ポローニュで勝利するが、それは無名の男による突如の「大金星」のようにすら見えていた。
そんな彼が徐々にその実力を証明し始めたのが2020年。とくにそのブエルタ・ア・エスパーニャの山岳アシストで、セップ・クスに匹敵する驚異的な登坂力でプリモシュ・ログリッチの2連覇を強力に支えた。
そして、昨年。2021年のツール・ド・フランスでのあの総合2位。
それでも、今年のツールはあくまでもログリッチがエースであり、ヴィンゲゴーはよくてダブルエース。少なくとも彼がタデイ・ポガチャルを打ち倒すなどということは想像だにしていなかった。
が、このツールの第2週。第11ステージでプリモシュ・ログリッチとのコンビネーションでポガチャルを崩し、さらにこの第18ステージのラスト4.5㎞で、セップ・クスやワウト・ファンアールトといった仲間たちの力を借りて、彼は王者ポガチャルを遥か後方に突き放し、一人超級山岳の山頂フィニッシュに向けて突き進んでいた。
それは、世界最強の証。
5年前にはデンマークの魚市場で午前中働きながら自転車のトレーニングをしていた青年が、初のデンマーク開催のこのツールで今、先頭を突き進んでいた。
2週間前のラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユでは、ポガチャルの後ろで項垂れてフィニッシュしていた。
1週間前のグラノン峠では無我夢中で走り切り、一滴も力が残っていないような泣きそうな表情でツール初勝利を掴み取ったばかりだった。
その彼が、このオタカムでは、観衆に投げキッスを送ったうえで、小さく右手を握りしめる控えめなガッツポーズでフィニッシュを果たした。
第19ステージ カステルノ=マニヨアック~カオール 188.3㎞(平坦)
ピレネーでの激しい山岳連戦を終え、最後の40㎞TT決戦に向けての「移動ステージ」。見た目は大集団スプリントが約束された平坦ステージではあるが、「3週目の平坦ステージ」はジロでもツールでも常にドラマを生み続けてきた。
今回はそうはならないようにも思えた。逃げも最大で5名しか許されず、さらに横風分断の危険もあったために集団は異様なハイ・ペースでこれを追う。
最大で1分半のタイム差しか許されなかった逃げ集団は最後に一人だけ残ったクイン・シモンズも残り35㎞で吸収してしまった。
だが、これがドラマを生む要因となった。
あまりにも早く吸収してしまったがゆえに、ここからさらにフレッシュな3名が抜け出す。フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)、ジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)、アレクシー・グジャール(B&Bホテルス・KTM)。いずれもクラシック・逃げで実績のある実力者たちばかりで、30秒近いタイム差が残り15㎞までなかなか縮まらない。
それでも残り10㎞を切った段階でタイム差13秒。
クイックステップとユンボ・ヴィズマが中心となって縦長に伸びたメイン集団が必死で追走し、最終的に捕まえることはできそうだが——決して綺麗なスプリントにはならなそうな雰囲気が生まれていた。
そして、ユンボ・ヴィズマの隊列の一番背後に控えていたのがクリストフ・ラポルト。
その先頭を、ファンアールトが全力で牽引していく。
残り3.3㎞。ファンアールトも脱落し、先頭とのタイム差はなおも11秒。
残り2㎞。トタルエナジーズのアシストが強烈に牽引するプロトンの先頭が、曲がりくねったカーブを経てわずかに集団から切り離される。
そのタイミングで、ラポルトが加速。
プロトンを突き放し、先頭の3名にジョイン。
残り1㎞でライトがアタックするが、これを追いかけるストゥイヴェンの後ろでラポルトは冷静に足を貯めている。
残り700m。若干の登り基調でライトに追い付くストゥイヴェン&ラポルト。
そして残り500m。
ロット・スーダルを先頭に懸命にペースアップするプロトンを尻目に、ついにラポルトが発射する。
ライトもストゥイヴェンも、もうこれを追いかける足は残っておらず、集団に飲み込まれる。
そしてただ一人、先頭を突き進んだクリストフ・ラポルトが、今年のパリ~ニースでのワールドツアー初勝利に続き、ツール・ド・フランスでの初勝利、そして今大会最初のフランス人勝利を掴み取った。
勢いの止まらないユンボ・ヴィズマ。ファンアールト、ヴィンゲゴーに続き3人目の勝者であり、チームとしては5勝目を飾った。
ヴィンゲゴーを勝たせたユンボ・ヴィズマのチームとしての強さがこうしてまた一つ感動的な結果を生み出した。
第20ステージ ラカペル=マリヴァル~ロカマドゥール 40.7㎞(個人TT)
ユンボ・ヴィズマにとっては因縁めいた存在である「第20ステージ個人タイムトライアル」。しかし今年は3分26秒差という圧倒的なタイム差で迎えることとなった。
まずトップタイムを叩き出したのは世界王者フィリッポ・ガンナ。終盤に登りが用意されているものの、40㎞を超える長距離は彼の得意分野。
それまでの暫定首位だった元U23世界選手権TT3連覇のミッケル・ビョーグを、まさかの1分41秒更新するという意味の分からない走りでホットシートを手に入れた。
が、無敵と思われたこの記録を更新していく選手が続々登場。まずはオランダTT王者のバウケ・モレマ。但し彼は第1計測こそ更新したものの、最終的にはガンナから40秒遅れのフィニッシュとなってしまった。
ただし、やはりこの人物は強かった。今大会すでに八面六臂の活躍を見せているマイヨ・ヴェールのワウト・ファンアールト。第1計測をモレマより5秒早く、ガンナからは13秒早く通過したファンアールトは、第3計測時点で23秒、そしてフィニッシュ地点ではなんと41秒も更新して文句なしの暫定首位となった。
さすがにこのままファンアールトが優勝か、と思ったところで総合2位タデイ・ポガチャルがこのファンアールトの第1計測を1秒更新。さらに総合首位ヨナス・ヴィンゲゴーがこれをさらに7秒更新。総合優勝候補たちがこの最後のTTですら優勝を巡って覇を競い合う、新時代を象徴する状況を見せていた。
ポガチャルはその後の計測地点ではファンアールトから遅れ始めるが、ヴィンゲゴーは第2計測地点でも7秒、第3計測地点でも1秒ちょっと更新するなど、かなり良い走り。
だが、少し攻めすぎたか? 終盤の下りでオーバーラン気味になりあわや落車・・・という状態に。全世界が肝を冷やしたその瞬間を経て、さすがに最後はセーフティに走ったのか、最終的にファンアールトから19秒遅れでフィニッシュへと到達した。
そしてそのヴィンゲゴーをファンアールトが涙で迎え入れる。
2年前のあの悲劇の山岳TTで、トム・デュムランと共にフィニッシュ地点で崩れ落ちるプリモシュ・ログリッチを迎えていた彼は、今回のこの勝利に並々ならぬ思いを抱いていたであろう。
もちろん、ログリッチはこの場所にはいないが、しかし今回の勝利は間違いなくログリッチの走りもあっての勝利であった。
それ以外にもチーム全員が一丸となって掴み取った、2年越しの勝利。そしてこのツール・ド・フランスでの勝利は、ラボバンク時代からも含めこのチームが創設史上果たした初の勝利であった。
第21ステージ パリ・シャンゼリゼ~パリ・シャンゼリゼ 116㎞(平坦)
激動の3週間が終わり、いよいよ最終日パリ・シャンゼリゼ。
いつものパレードランののち、シャンゼリゼ大通りに入って周回コースが開始。2回のTTで共に不運に見舞われ悔しい思いをしたシュテファン・ビッセガーや今年はなかなか本来の力を発揮しきれないシーズンを過ごしていたマクシミリアン・シャフマンなどが果敢に逃げに乗るも、やはり最後は大集団スプリントで「スプリンターの世界選手権」が繰り広げられる。
最後の直線でまず先頭を獲ったのはルカ・メズゲッツ。
だが、早すぎた。残り250mでメズゲッツが力尽き、早くもディラン・フルーネウェーヘンが発射。わずかな登り基調のシャンゼリゼのフィニッシュでのこれは、さすがの彼の足でも厳しかった。
逆に、その背後につけていたジャスパー・フィリプセンにとっての、最高のリードアウトとなってしまった。
残り200m。フィリプセン、発射。逆に彼にとってはこの距離、そして登り基調は大好物だった。
残りのライバル――カレブ・ユアンも、アレクサンドル・クリストフも、ペテル・サガンも、皆、フルーネウェーヘンの背後からのスプリント。先頭を突き進むフィリプセンを捕えられるものは一人もいなかった。
昨年は2位が3回、3位が3回。勝てる強さはあったのに勝てなかった「最強のスプリンター」が、今年は優勝が2回。
荒れに荒れて突き抜けたスプリンターの存在しえなかった今年のツール・ド・フランスで、集団スプリントで唯一複数勝利を果たす男となった。
そして、ヨナス・ヴィンゲゴー、ツール初のデンマーク開催となった今年、まさかの史上2人目のデンマーク人マイヨ・ジョーヌを獲得。
最後の壇上のスピーチでは、とても素朴で、周りの仲間、家族、そしてライバルたちにすら感謝を述べる、非常に彼らしいスピーチとなっていた。
表彰台の前に陣取るデンマーク人ファンたちからのヴィンゲゴーコールに応えながら、愛らしく動く愛娘に翻弄されながら、今ここに一人、新たな歴史を刻むヒーローが誕生した。
おめでとう、ヴィンゲゴー。そしておめでとう、ユンボ・ヴィズマ。
そして、ある意味でそれ以上にこのツールを最後までワクワクさせるものとしてくれた、王者タデイ・ポガチャルも、激闘をありがとう。
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