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【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2022 第2週

 

この展開は一体誰が予想できたであろうか。

いや、期待はしていても、それでもまさかあの「最強」がこんな形で真正面から陥落するとは。

 

近年稀に見る名レースが展開された第11ステージ「超・超標高決戦」を含めた第2週の全6ステージを詳細に振り返っていく。

 

第1週の振り返りはこちらから

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出場全選手プレビューはこちらから

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目次

 

コースプレビューはこちらから

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第10ステージ モルジヌ・レ・ポルト・デュ・ソレイユ~ムジェーヴ 148.1㎞(丘陵)

ツール・ド・フランスはいよいよ第2週に突入し、早速のアルプス3連戦。その1日目は比較的緩く、逃げ切り向きのステージとなった。

総勢25名の逃げ。その中の一人、アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)が残り44㎞地点から単独で飛び出す。途中、自然保護団体による座り込みデモによって12分間のレース中断を挟みながらも逃げ続けたベッティオルは、残り12㎞地点で一度捕まえられるもさらにアタックし、最終的に残り7㎞で脱落するまで奮闘し続けた。

 

この時点で先頭は10名に絞り込まれる。

  • ディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ)
  • レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)
  • マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)
  • バンジャマン・トマ(コフィディス)
  • ルイスレオン・サンチェス(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • アンドレアス・レクネスンド(チームDSM)
  • ゲオルク・ツィマーマン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
  • シモーネ・ヴェラスコ(アスタナ・カザフスタンチーム)
  • マウヌス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)

 

唯一2名入れているバーレーン・ヴィクトリアスは、残り6㎞でレイトアタックの名手サンチェスをアタックさせる。

これをケムナやツィマーマンがアタックして追走を仕掛けようとするが、その度にライトがチェックに入り、サンチェスの逃げをアシストしていく。

 

必勝パターンに持ち込んでいたはずのバーレーン・ヴィクトリアスだったが、残り2.1㎞地点の4級山岳山頂でシュルツが単独でサンチェスに追い付き、さらにここにヨルゲンソン、ファンバーレも追いついてきて4名でラスト1㎞に突入する。

このままこの4名での勝負か?と思った中で先頭4名が牽制合戦に突入。

残り500mで追走6名に追い付かれ、戦いは振出しに戻った。

 

最初に抜け出したのはそこまで追走集団を引っ張り上げてきたバンジャマン・トマ。今大会好調で積極性は間違いなくあるものの、いつも貧乏くじをひきがちな彼が早々に力尽きる中、残り300mでサンチェスがスプリントを開始。

だがすでに逃げで力を使っていたサンチェスもフィニッシュまでは届かなかった。残り75mで足を止める中、その背後についてきていたシュルツ、そしてコルトが最後のスプリントを開始した。

 

先行したのはシュルツ。コルトも横に並ぶが、残り10mまではシュルツの前輪が前に出ていた。

最後はバイク投げバトル。上体を上げ、絶叫しながら力の限りバイクを投げ出したシュルツに対し、コルトは冷静に、より無駄のない動きでするっと前輪を突き出した。

これが勝敗を分けた。ごくわずかの差で、コルトが先着。昨年ブエルタ・ア・エスパーニャ3勝を果たし、ツール・ド・フランスでも4年前に1勝しているベテランの逃げスペシャリストが、前半活躍した敢闘賞のベッティオルの想いを受け継ぐようにして、チームに今大会初勝利をもたらした。

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9分遅れでフィニッシュにやってきたメイン集団の先頭では、第9ステージに続きタデイ・ポガチャルがわずかな秒差を手に入れようとスプリントを繰り出す。

すぐさまヨナス・ヴィンゲゴーが反応。タイム差はつかなかったが、やはりポガチャルのこの貪欲さは、彼の欲張りな性格ゆえか、それともヴィンゲゴーに対して警戒心を抱いているのか・・・。

 

いずれにせよ彼のこの試みによって、途中までバーチャル・マイヨジョーヌを着ていたケムナが11秒差で本物のマイヨ・ジョーヌを手に入れられなかったという悲劇も発生してしまった。

 

 

第11ステージ アルベールビル~コル・デュ・グラノン・セッレ・シュヴァリエ 151.7㎞(山岳)

いよいよ、今大会最大の目玉とも言うべきステージがやってくる。

標高2,642mの「ツール・ド・フランス最標高地点」ガリビエ峠を越えたあと、標高2,413mの超級グラノン峠山頂へとフィニッシュする、「超・超標高ステージ」。

ポガチャルにとっても未知となるであろうこの舞台で、誰も予想していなかった劇的な展開が待ち受けていた。

 

まず、驚きの展開はアクチュアルスタート同時に巻き起こった。

マイヨ・ヴェールを着るワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィズマ)がフラッグが降られると同時にアタック。そしてここに、その最大のライバルとも言うべきマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)が飛びつき、世界最強格の2名によるタンデムエスケープが開始されたのである。

この2人旅は30分ほど続き、最終的には20名もの大規模な先頭逃げ集団が形成される。そしてここにユンボ・ヴィズマはファンアールトだけでなくクリストフ・ラポルトも含めており、UAEチーム・エミレーツに対する大逆転劇に向けてのまず重要な第一手を打つことに成功したのである。

 

なお、ファンデルプールはこの後、モンヴェルニエの九十九折で遅れたのちにリタイア。

春のクラシックとジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスという、かつてペテル・サガンが「さすがに厳しい」と述べていた道のりを選択した彼は、今回のツール、初日のTT以外では目立った活躍ができないまま、それでも最後に見せ場を作ったうえでの退場となった。

まとまった休養を取ったうえで、再びシーズン後半あるいは来シーズンでの活躍に期待したい。これでブエルタとか出てきたら本当に驚きだけど。

 

 

先頭逃げ集団を9分差で追いかけるメイン集団では終始UAEチーム・エミレーツのアシストたちが牽引していたが、ここに大きな動きが巻き起こるのは(先頭が)残り68.7㎞地点。

メイン集団的には1級テレグラフ峠(登坂距離11.9㎞、平均勾配7.1%)山頂までおよそ6㎞といったタイミングで、まずはティシュ・ベノートを発射台としてプリモシュ・ログリッチがアタック。

 

この動きはすぐさまアダム・イェーツ、そしてタデイ・ポガチャルに抑え込まれるが、続いてテレグラフ山頂で再びログリッチがアタック。ダウンヒルで一気に抜け出そうと試みる。

このタイミングで逃げていたクリストフ・ラポルトと合流。ポガチャルも自らこれを追いかけるが、代わりにアシストをすべて失うこととなってしまった。

 

そして、ここからログリッチとヴィンゲゴーの波状攻撃が始まる。

(先頭が)残り58.4㎞。ガリビエ峠への登り口で、ログリッチとヴィンゲゴーとポガチャルとトーマスの4名だけとなったこの小集団で、まずはヴィンゲゴーがアタック。

ポガチャルはすぐさま反応。引き千切れないとわかるとヴィンゲゴーも足を止め、ログリッチを待つ。

追い付いてきたと同時に今度はログリッチがゆっくりと加速。ポガチャルもこれに追い付いて今度は自らアタックするが、ログリッチもヴィンゲゴーもここで離されないよう食らいつく。

一度は遅れたトーマスも落ち着いて自らのペースでゆっくりとこの3人に追い付くが、そのタイミングで再びヴィンゲゴーがアタック。

強烈な加速。しかしポガチャルも絶対にこれを逃がさない。

捕まえると同時にさらにログリッチが勢いよくカウンターアタック。再び先頭に立って追いかけるポガチャル。

そして、ヴィンゲゴーの3度目のアタック。

ポガチャルが捕まえ、ログリッチが3度目のアタックを繰り出した。

 

これまでも、飛びぬけた実力者に対する波状攻撃の有用性は言われてきたものの、なかなか異なるチーム同士での波状攻撃が実現することはほとんどなかった。

その中で、今回のユンボ・ヴィズマは、大きくタイムを失ったとはいえなお潜在的な脅威を持っているログリッチがヴィンゲゴーと共に完璧な波状攻撃を実現。

残り60㎞もある中で、彼もヴィンゲゴーも恐れることなく全力で足を使った攻撃を繰り返し仕掛け続けていった。

しかも彼らにとって大きな鍵となるのが前にファンアールトがいること。

ポガチャルから抜け出したうえでガリビエ峠を超えられれば、その先には下りと平坦をリードアウトしてくれるファンアールトの存在が非常に心強い。

そしてポガチャルにとっても、その存在ゆえに、たとえ総合で遅れているログリッチであっても逃がすのはリスクが高いがゆえに、自ら動かざるを得ない要因となっていた。

 

それでも、ポガチャルは自らの足でこの6回の波状攻撃をすべて抑え込んでいった。

山頂まで10㎞を切ったあたりで再びログリッチが加速して仕掛けた攻撃の際もすぐさま抑え込み、自ら逆にカウンターアタック。

そのまま先頭を自ら牽き始め、ログリッチもトーマスも、一時復帰していたステフェン・クライスヴァイクセップ・クスらもすべて突き放し、結局山頂まで5㎞の段階でポガチャルとヴィンゲゴーの二人だけとなった。

 

やはりポガチャルは揺るがすことのできない堅城なのか。

 

 

ガリビエ峠からの長い下りと平坦の間に、前から降りてきたワウト・ファンアールトが、脱落していたログリッチらを集団復帰させ、メイン集団は再び規模を大きくさせていた。

そして残り11.3㎞地点から始まる、超級グラノン峠(登坂距離11.3㎞、平均勾配9.2%)

 

登り口でファンアールトが仕事を終え、ログリッチが少し牽いたあと、その先頭はラファウ・マイカが担い、一気にペースを上げていく。

ナイロ・キンタナやロマン・バルデが抜け出して先行する場面がありつつも、残り5㎞地点のゲートをくぐった段階で、この集団はマイカ、ポガチャル、ヴィンゲゴー、トーマス、イェーツの5名だけに絞り込まれていた。

そしてここで、ついにその瞬間が訪れる。

 

 

残り4.6㎞。ヴィンゲゴーがアタック。

ここまで数えきれないほどの彼らのアタックをすべて抑え込んでいたタデイ・ポガチャルが、この一発で、完全に足を止めてしまった。

マイカも必死でヴィンゲゴーを追いかけようとするが、そのマイカからも遅れかけるポガチャル。

ポガチャルの後ろについていたゲラント・トーマスも彼を突き放し、遅れていたダヴィド・ゴデュやアダム・イェーツもポガチャルを追い抜いていく。

ヴィンゲゴーは先行していたキンタナ、バルデ、そして先頭の逃げ残りワレン・バルギルも追い抜いて、限界を迎えていることを示す表情のまま無心で頂上を独り目指し続けていた。

 

昨年のモン・ヴァントゥーで唯一、ポガチャルを突き放した男。

あのときはその後の下りで追い付かれてしまったが、再び、今度は圧倒的な走りでもって、今度こそ「ポガチャル倒し」を実現してみせた。

そしてそれは、(のちに脱臼による痛みが続いていたという満身創痍の)英雄プリモシュ・ログリッチと共に成し遂げた、チームワークによる勝利であった。

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結局ポガチャルはこの日、2分51秒(ボーナスタイム込みで3分以上)ものタイムを失い、総合成績も一気に2分22秒差の3位にまで沈み込む。

これは、王者陥落の瞬間だったのか?

 

いや、まだまだ何が起こるか分からない。

引き続き、今度は追う立場となった「最強」ポガチャルの反撃が始まっていく。

 

 

第12ステージ ブリアンソン~ラルプ・デュエズ 165.1㎞(山岳)

2日連続となるガリビエ峠登坂。そしてクロワ・ド・フェール峠から4年ぶりの登場となるラルプ・デュエズへ。

今大会のクイーンステージと言われているこの第12ステージで、最初に飛び出した逃げは6名。

そこに、ガリビエ峠の登りでクリス・フルームがアタックし、単独で追走を開始。

さらにガリビエ峠からの下りでトム・ピドコックが飛び出し、二人は合流。

新旧英国人の天才二人がタンデムを続け、やがて残り110㎞を残して先頭9名の逃げが確定する。

  • ネルソン・オリヴェイラ(モビスター・チーム)
  • アントニー・ペレス(コフィディス)
  • トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)
  • コービー・ホーセンス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
  • ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
  • ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)
  • クリス・フルーム(イスラエル・プレミアテック)
  • ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)
  • セバスティアン・シェーンベルガー(B&Bホテルス・KTM)

 

途中、オリヴェイラ、ペレス、ホーセンス、シェーンベルガーの4名を失いながらもメイン集団とのタイム差を6分以上残して最後の超級ラルプ・デュエズ(登坂距離13.8㎞・平均勾配8.1%)に突入した逃げ5名。

 

そして残り10.6㎞地点でそこからピドコックがアタック。シクロクロスでマチュー・ファンデルプールを打ち倒したこともある英国の天才であり、昨年はシクロクロス世界王者に輝く。また東京オリンピックではまさかのマウンテンバイク・クロスカントリー金メダリストにもなり、2020年には若手の登竜門ベイビー・ジロで総合優勝も果たしているほか、昨年のブラバンツペイルではワウト・ファンアールトとの一騎打ちを制した。

まさに、マチュー・ファンデルプールに次ぐ3刀流の「自転車の天才」。さらにファンデルプール、ファンアールトと比べたときに、最もグランツール総合争いに才能を示している男であり、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは大人しかった彼も、初出場となるこのツールのこのラルプ・デュエズでついにその足を解き放った。

 

追いすがるルイス・メインチェスとクリス・フルーム。フルームにとっても、あの事故以来、登りが始まればすぐに落ちていく姿ばかりが映し出され、逃げることすらままならなかった中で、このラルプ・デュエズでパウレスやチッコーネが落ちる中食い下がり、決しての追走を仕掛けている。

だが、フルームの逃げ切り勝利が叶うことはなかった。そのまま新時代の英雄ピドコックが、4年前のゲラント・トーマスに続く英国人によるラルプ・デュエズ連覇を果たした。

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メイン集団ではユンボ・ヴィズマが完璧なトレインでコントロールしながら残り距離を減らしていくが、残り5㎞を切った段階でついにポガチャルが発射する。

観客が道半ばまで身を乗り出し狭くなった区間で飛び出したポガチャルに、他のライバルがすべて突き放される中ヴィンゲゴーだけはしっかりと食らいついていく。

後ろを振り返るポガチャル。しかしヴィンゲゴーは離れていない。さらに踏み込むポガチャル。もう一度振り返るが、やはりヴィンゲゴーは離されていない。

ヴィンゲゴーもカウンターはしない。できないのかもしれない。だが、ポガチャルもまた、突き放すことはできなかった。

再びゲラント・トーマスとセップ・クスが追いついてきて暫くコントロール下に置かれるが、残り3㎞を切ったところで再度ポガチャルが加速。

ダンシングで強烈なあたっくをくりだしたポガチャルだったが、ヴィンゲゴーはそれでも、決してその後輪を離すことはなかった。

 

フィニッシュ地点ではやはりこれまでと同じように1秒でも奪いたいポガチャルがスプリントを行うが、やはり同じように食らいつくヴィンゲゴー。

フィニッシュラインを越える直前。ポガチャルは小さく首を傾げる。

同じようなフィニッシュも、1週間前、いや2日前と比べてさえ、全く違った意味合いのものとなっていた。

 

これで今年のツール・ド・フランスで最もきついといわれる第2週のガリビエ2連戦が幕を閉じる。

波乱に満ちた大逆転劇。このまま、ヴィンゲゴーがユンボ・ヴィズマに初のツール勝利をもたらす結果となるのか?

 

 

第13ステージ ル・ブール=ドアザン~サンテティエンヌ 192.6㎞(平坦)

公式は「平坦」カテゴリを主張するが、レース後半までアップダウンが続き、総獲得標高は2,000mに達する。集団スプリントは決して約束されることのなさそうなこのステージで、7名の逃げが形成された。

  • フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)
  • マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター)
  • フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • シュテファン・クン(グルパマ・エフデジ)
  • マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
  • クイン・シモンズ(トレック・セガフレード)
  • ユーゴ・ウル(イスラエル・プレミアテック)

 

残り73㎞地点でカレブ・ユアン(ロット・スーダル)が落車。さらには残り44㎞地点の3級山岳(登坂距離6.6㎞、平均勾配4.5%)の登りでファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴィニル)も脱落し、およそ平坦ステージとは思えない様相を呈する中で、チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコが隊列を作って決死の追走を仕掛けながらも、先頭逃げ集団とのタイム差はなかなか縮まらない。

21歳のシモンズがチームメートのピーダスンのための全力の牽引を行ったことも寄与し、逃げ集団による逃げ切りが確定した。

 

シモンズを失った先頭の6名で最初に動きが巻き起こったのが残り12.5㎞地点。元世界王者ピーダスンがアタックを繰り出し、ガンナ、クン、ヨルゲンソンの3名が脱落する。

この3名のスプリントであれば過去シャンゼリゼ2位の経験もあるピーダスンが圧倒的有利。

仕掛けるしかなかった残り2名のうち、若いライトが残り3㎞でアタック。だがこれもすぐさまピーダスンに抑え込まれてしまった。

 

ライトも比較的スプリント力のある男だったが、この早めの仕掛けでさすがに足は終了。残り270mでピーダスンが先にスプリントを仕掛けライトがここに追随していったが、ピーダスンとの距離は開くばかりであった。

 

最後はかなりの余裕をもってフィニッシュ。自ら仕掛け、そして仕留めた、ツール・ド・フランス初勝利となった。

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第14ステージ サンテティエンヌ~マンド 192.5㎞(丘陵)

アルプス3連戦を終え、プロトンは次の舞台ピレネーへと向かい中央山塊を通過していく。

これまでも数多くのドラマを生んだマンドフィニッシュ。総獲得標高3,400mオーバーの、山岳/丘陵エスケーパー向きレイアウトである。

 

最初にできた逃げは、スタート直後の3級山岳における、アレクサンドル・ウラソフやこれに反応したタデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴーらの動きによって集団が活性化したことで吸収。

2つ目の3級山岳を越えた先で、改めて23名の大規模逃げ集団が形成された。

プロトンは完全に容認モードとなり、タイム差は10分を超える。先頭での逃げ切りが確定した。

 

この先頭集団で動きが巻き起こったのは残り57.2㎞。この日3つ目の3級山岳を巡る争いで飛び出したクイン・シモンズ(トレック・セガフレード)がそのまま加速。ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)を連れて2人で集団から抜け出した。

この動きが残り55㎞地点で引き戻されると、今度は残り52.7㎞でマイケル・マシューズ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)がアタック。

しばらく独走を続けていたマシューズに後方からフェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ)ルイスレオン・サンチェス(バーレーン・ヴィクトリアス)アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)の3名が残り43㎞地点で合流。

クロンは途中メカトラブルで遅れ、3名となった先頭。

そのまま最後の2級山岳コート・ド・ラ・クロワ・ヌーブ(登坂距離3㎞、平均勾配10.2%、別名「ジャラベール山」)に突入し、マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)がチームメートのヤコブ・フルサンのために先頭牽引する追走集団がわずか17秒差にまで迫っていた。

 

だが、残り3.5㎞。山頂まで2.1㎞地点で先頭3名の中からマシューズが加速。平均勾配10%の激坂をダンシングで駆け上がり、2人の同伴者をいとも簡単に突き放したマシューズ。しかしここに、追走集団からもアルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)が抜け出して追走を開始する。

13%勾配の超激坂区間をハイ・ペースで駆け上っていくベッティオル。

残り2.8㎞・山頂まで1.4㎞地点でマシューズに合流。

そして残り2.5㎞地点・山頂まで1.1㎞地点でついにベッティオルがマシューズを突き放す。

このまま元ロンド・ファン・フラーンデレン覇者アルベルト・ベッティオルが、チームに今大会2勝目をもたらすか?

 

だが、残り2㎞。山頂まで600m。わずかに勾配が緩んだ最終盤でマシューズが息を吹き返し、再びベッティオルに追い付き、その勢いのまま彼を突き放して独走を開始した。

最後はマンドの広い滑走路でただ一人。2017年にステージ2勝とマイヨ・ヴェールを掴み取りながら、その後苦しい時期を過ごすこととなっていたマシューズが、実に5年ぶりとなるツール勝利を掴み取った。

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チームメートのいない逃げ集団の中で、臆せず果敢に自ら仕掛けて掴み取った勝利。

昨年のツールも積極的に逃げに乗って勝利を目指していたが実らなかった彼が、ディラン・フルーネウェーヘンというある意味ライバル的存在がチームメートにいる中で、自らの走りを追求して掴み取った栄光であった。

 

ポガチャルはこの日も最後のこの激坂でタイムを稼ごうともがくが、ヴィンゲゴーがこれをしっかりと抑え込む。

総合タイムには変化がないまま、第2週最終日へと突入していく。

 

 

第15ステージ ロデズ~カルカッソンヌ 202.5㎞(平坦)

今年のツール・ド・フランスは2週目の最終日という重要な日に、平坦スプリントステージを持ってきた。2週目の中盤に凶悪なガリビエ2連戦を置いていたということで、最終日はやや落ち着いたステージにするという主催者の狙いか。実際、2週目で唯一の「まともな」平坦ステージとなった。

とはいえ、ここカルカソンヌは、昨年こそマーク・カヴェンディッシュが勝利した正真正銘のスプリントステージだったが、過去には逃げ切りも何度か発生している、なかなか一筋縄ではいかないフィニッシュ地点でもある。

 

実際、残り47.9㎞地点に用意された3級山岳では、トレック・セガフレードが一気に集団先頭を牽いてペースアップ。最初に形成されたミケルフローリヒ・ホノレ(クイックステップ・アルファヴィニル)ニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)の二人逃げをここで吸収する。

この加速で集団からは第13ステージでの落車の怪我が影響しているカレブ・ユアン(ロット・スーダル)ファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴィニル)が脱落。ディラン・フルーネウェーヘン(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)もここで遅れを喫するが、彼はチームメートの尽力によって集団に復帰を果たした。

 

そしてこの3級山岳で新たに飛び出したのがバンジャマン・トマ(コフィディス)アレクシー・グジャール(B&Bホテルス・KTM)

逃げスペシャリスト同士の危険なエスケープは、残り10㎞段階で26秒差。残り3.9㎞地点で地元ライダーのトマが独走を開始するが、この時点でタイム差は11秒。さすがに逃げ切るのは厳しかった。

 

残り1㎞。4秒差。バイクエクスチェンジのアシストが牽引するプロトンは、残り500mでこれを飲み込む。

先頭はトレック・セガフレードのジャスパー・ストゥイヴェン。第13ステージ覇者マッス・ピーダスンを率いて加速していき、その背後にはマイヨ・ヴェールを着るワウト・ファンアールト、ペテル・サガン、ジャスパー・フィリプセンと続いていく。

フィリプセンは残り150mまで先頭を牽引し、完璧なタイミングでピーダスンが発射される。

だが、その前の段階で5番手にいたフィリプセンが早めに駆け出して、残り150mの左コーナーでどうしたって先頭が左に寄り掛かるタイミングを見計らってファンアールトの左隣にまでポジションを上げる。

昨年の同じ場所での敗北から学んでいた彼による、コースを熟知した見事な戦術。

うまくピーダスンの番手をファンアールトから奪い取ることに成功したフィリプセンは、そのまま誰もいない空間を突き進むしかないファンアールトに対し、自ら残り70mでようやくピーダスンの背後から飛び出すという絶対的優位を手に入れた。

最後はピーダスンの腕がぶつかるなどして失速したファンアールトを抜き去り、投げ出したバイクがようやくツール・ド・フランスのフィニッシュラインに先着した。

昨年に2位が3回、3位が3回。ある意味最強であったこの男が、ついに世界の頂点を掴み取ったのである。

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フィニッシュで歓喜するフィリプセンに対し、マイヨ・ジョーヌを着るヨナス・ヴィンゲゴーは決して明るいばかりではない。

何しろ、この日、第11ステージで共にポガチャルを崩す立役者となったプリモシュ・ログリッチがDNS。第5ステージでの怪我の具合を見ての、このあとのスケジュールを考えての早期離脱であった。その状態であれだけのアシストをしてみせたのである。

さらにこの第15ステージの途中で、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ最終日にも強烈なアシストをしてみせたステフェン・クライスヴァイクが落車でリタイア。

ヴィンゲゴー自身も落車に巻き込まれてはいたもののそこは大事はなかったようだが、ログリッチとクライスヴァイクという重要な山岳アシストの喪失は、3週目に向けて彼の地位が決して安泰ではないことを示していた。

 

第2週を終えた段階での総合成績は以下の通り。

 

2位~4位も結構な団子状態で、そこも含めて何が起こるか分からない。

第3週は第2週ほど派手ではないが、ペイラギュードやオービスク、オタカムといった、過去にも名レースが繰り広げられているピレネーの名峰が連なり、最後は40㎞もの個人タイムトライアルが待ち構えている。

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決して、ヴィンゲゴーが余裕でこの第3週を乗り越えられるとは思えない。

ログリッチもクライスヴァイクも失った状態で、一方のUAEチーム・エミレーツは、昨年も第3週目にアシスト陣がコンディションを上げてきている。

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最後まで何が起こるかわからない。

少なくとも2週目の展開は、多くの人が予想できなかった展開だったはずで、同じことが第3週で巻き起こる可能性は十分にある。

 

果たして、最終日パリ・シャンゼリゼではどんなドラマが待ち構えているのか。

 

今年のツール最終章が幕を開ける。

 

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