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【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2022 第1週

 

ヤコブセン、フルーネウェーヘン、ユンゲルス・・・それぞれの想いの籠った感動的な勝利もあれば、ファンアールトの常識を超越した勝ち方、そしてタデイ・ポガチャルの相変わらずの圧倒的な強さまで。

 

濃密な9日間を詳細に振り返っていこう。

 

目次

 

コースプレビューはこちらから

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第2週の振り返りはこちらから

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出場全選手プレビューはこちらから

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第1ステージ コペンハーゲン~コペンハーゲン 13.2㎞(個人TT)

「北欧のパリ」とも称される、デンマークの首都コペンハーゲンを舞台とした「オールフラット」短距離個人タイムトライアル。ゆえに、今年もここまで絶好調のフィリッポ・ガンナが最最最有力候補と目されていた。

が、その予想を覆したのが悪天候。たとえば、今年ガンナを唯一下しているシュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・イージーポスト)も、2度の落車に見舞われて勝負権を失ってしまっている。

ガンナもその影響を受けた一人であった。何度かバランスを崩したりオーバーライド気味になった様子も見られた結果、暫定首位には立ったものの、その直後にワウト・ファンアールトに追い抜かれてしまった。

このままファンアールトが初日マイヨ・ジョーヌを獲得してしまうか・・・と思った中で、後半、ある程度雨足が落ち着いたタイミングで、まさかのイヴ・ランパールトがこのファンアールトの記録を塗り替えて首位に。

そのまま誰も更新できないまま、ランパールトが自身初のツール・ド・フランス優勝およびマイヨ・ジョーヌの着用を果たした。

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なお、驚くべき走りをした男の一人がクリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィズマ)。中間計測までは、ファンアールトを超えてしまいそうなほどの好走を見せていた。

ただし彼も落車してしまい、勝利を失う。ただ、可能性の一端を見せる走りであった。

 

 

第2ステージ ロスキレ~ニュボー 202.5㎞(平坦)

コペンハーゲンが位置するシェラン島を西へ進み、隣の島フュン島へと繋がる全長18㎞の「グレート・ベルト・リンク」を渡り切ってからわずか3㎞の位置にフィニッシュが用意された平坦ステージ。元々はフィニッシュ地点はもっと先に用意されていたようだが、2015年ツール第2ステージのあの「橋の上のフィニッシュ」を再現したいと考えたクリスティアン・プリュドムの思惑によって現在の位置に変更。よりスペクタルなレイアウトとなった。

その影響はいかほどか——結果としては、いくつかの落車はあったものの、2015年のあの日のような大混乱に陥ることはなかった。一度は落車に巻き込まれたリゴベルト・ウランもファビオ・ヤコブセンも復帰し、唯一優勝候補で脱落したのはアルベルト・ダイネーゼくらい。総合勢もダメージを負うことはなかった。

残り3㎞を切ってからの大規模な落車も乗り越え、ダイネーゼ以外の有力勢が揃った中での今大会最初の大集団スプリントが巻き起こった。

 

先頭を獲ったのがマッス・ピーダスンを率いるジャスパー・ストゥイヴェン。エースの元世界王者に母国での勝利を届けるため、ミラノ~サンレモ覇者が誰よりも早い加速でフィニッシュへと突き進む。

残り200mでピーダスンを発射。仕事を終えたストゥイヴェンが下がる中背後のクリストフ・ラポルトが進路を阻まれるが、その背後にいたワウト・ファンアールトが迷わずピーダスンの後輪を捉え、完璧な発射体制を整えた。

が、直前のペテル・サガンとのポジション取りを制しファンアールトの背中についていたヤコブセンがそこから加速。

2年前のあのツール・ド・ポローニュでの悲劇からわずか1年で「世界最強」に近い状態にまで復帰した男が、世界最高峰の舞台で初勝利を遂げ、いよいよ本当の「最強」への第一歩を踏み出した。

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なお、ステージレースの最初の集団スプリントステージではいつも調子の悪いカレブ・ユアンは、今回もサガンとのポジション争いに敗れたりして失速。メカトラブルもあった?様子で悔しそうに落ちていく姿が見られていた。

 

 

第3ステージ バイレ~セナボー 182㎞(平坦)

国として最標高地点がわずか171mという「超平地の国」デンマークらしいオールフラットステージ。横風もなく、問題なく大集団スプリントへと突入する。

残り1㎞を切って先頭を獲ったのは、前日は落車の影響もありあまり支配的なトレインを組めていなかったクイックステップ・アルファヴィニル。この日はイヴ・ランパールト、カスパー・アスグリーン、フロリアン・セネシャル、ミケル・モルコフという理想的なトレインを形成してフィニッシュへと近づいていく。

だが、残り750mの左直角コーナーでヤコブセンがオーバーライドしてしまい、モルコフの背後から離れポジションを落としてしまう。

そしてモルコフはそれに気づかず集団の先頭を爆走。結果としてそれが、背後にいたワウト・ファンアールトにとっての最高のリードアウトとなった。

が、モルコフも最後に気が付いて大きく横にずれながら仕事を終えたことで、ファンアールトもベストなタイミングでは発射できなかった。その背後から飛び出してきたのが、青いジャージを身に纏った、巨大な弾丸であった。

ディラン・フルーネウェーヘン。2年前のツール・ド・ポローニュで、ヤコブセンをフェンスに押しやり吹き飛ばした8か月のサスペンド。その後復帰したが、そのことに対する彼への評価は決して無視できるものではなかっただろう。

そういった雰囲気の中で掴み取った3年ぶりのツール・ド・フランス勝利。いつもは無表情で、泰然とした表情でフィニッシュラインを越えることの多い彼が、この日だけは感情を爆発させ、信じられないという表情で頭を抱えながらフィニッシュした。

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なお、この第2・第3ステージのもう一人の主役は間違いなくこの男であろう。

昨年もブエルタ・ア・エスパーニャ3勝しているマウヌス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)が、この2日間のすべての山岳ポイントを独り占めし、山岳賞ジャージを獲得。

第3ステージについてはたった一人の逃げを敢行し、沿道を埋め尽くす多くのデンマークファンたちに祝福されながら、「勝者は一人ではない」自転車ロードレースの醍醐味を見せつけてくれた。

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第4ステージ ダンケルク~カレー 171.5㎞(丘陵)

移動日を1日挟み、この第4ステージからいよいよフランス本土での戦いが始まる。フランス北東端、北のクラシックの舞台ともなる海沿いの地を舞台に、横風と小刻みなアップダウンでの戦いが繰り広げられた。

公式のコースカテゴリは「丘陵」。たしかに6つの山岳ポイントは用意されており、最後の4級山岳もフィニッシュ前残り10㎞近くとフィニッシュ間際ではあるものの、とはいえスプリンター勢が振り落とされるようなものではなく、問題なく集団スプリントで決着することになるだろう、と思われていた。

 

が、そこで動いたのはユンボ・ヴィズマだった。パリ~ニース第1ステージのあの「ワンツースリーフィニッシュ」の再現であるかのように、「ユンボ・ヴィズマのデヴェナインス」ことネイサン・ファンフーイドンクが集団先頭でペースアップ。登坂距離900m・平均勾配7.5%の登りの中腹で先頭はティシュ・ベノートに切り替わり、山頂まで残り240mの地点でファンアールトが一気にアクセルを踏んだ。

 

まるで、ゲームのような光景だった。が、実際にはシミュレーションゲームでもさすがに振り切れなかったこのレイアウトで、現実はゲームを超えた。

 

あとは伝説が生まれる瞬間をただ目撃するだけだった。マイヨ・ジョーヌを着た男が、平坦ステージで抜け出し、ラスト10㎞を独走したまま勝利するという衝撃の瞬間を目の当たりにすることに。2位→2位→2位と続いてさすがに本人も苦笑いした中で、力ずくで「1位」をもぎ取った。

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第5ステージ リール・メトロポール~アーレンベルグ・ポート・ドゥ・エノー 153.7㎞(丘陵)

注目の「パリ~ルーベ」ステージ。とはいえ、4年前に使われたような実際のルーベの石畳を用いるわけではなく、コース的には2014年に使われたものと似たタイプのもの。しかも2014年のような大雨ではなく晴天の中で行わるため、実際にはそこまで大きな総合争いは起きないのではないか、と思われていた。

そんなことは全然なかった。残り30㎞。ラウンドアバウトの終端に置かれていた謎の物体(干し草を入れたクッションらしい)に引っかかり、カレブ・ユアンと共にプリモシュ・ログリッチがアスファルトに叩きつけられた。そのときに肩を脱臼。自らその肩を戻しバイクにまたがり再発進したものの、すでにメイン集団から2分以上遅れていた彼は実質的に総合争いからの脱落、少なくともタデイ・ポガチャルに対しては致命的な総合での遅れを喫することとなった。

逆に、そのポガチャルはむしろこの石畳でも圧倒的な強さを発揮した。残り20㎞を切ったところに位置する第3セクター(4つ星)で加速したジャスパー・ストゥイヴェンに唯一食らいついたポガチャルは、一度はストゥイヴェンを突き放すほどの走りを見せ、独走のまま先頭の逃げ集団を捕まえてしまうのかという勢いすら感じさせた。

だが、さすがのポガチャルもそこまで無理はしなかった。一度は30秒近くにまで迫った先頭とのタイム差も再び徐々に開き始め、ストゥイヴェンも合流。

最終的にはライバルたちから奪い取ったタイム差は13秒に留まることとなった。

 

そして、この怪物の猛追を振り切って逃げ切ることに成功した先頭5名の中から、最初に飛び出したのが昨年のクラシカ・サンセバスティアン覇者ニールソン・パウレス。

残り1.2㎞で早駆けした彼だが、スプリント力と独走力を併せ持つエドヴァルド・ボアッソンハーゲンの加速によって残り400mで捕まえられる。

そしてこの加速をうまくリードアウトとして利用してスプリントを開始したタコ・ファンデルホールンを、残り25mで追い抜いたサイモン・クラークが、2012年・2014年・2016年・2018年・2020年とコンスタントに重ねてきた勝利を今回も2年ぶりに上乗せ。ただしツール・ド・フランスという、世界最高峰の舞台で。

昨年所属していたキュベカ・ネクストハッシュの解散によって一時は所属チームを失う危機すら経験したベテランが、その恩を返す勝利を掴み取った。それは、このイスラエル・プレミアテックにとっても、チームとして初めてとなるツール・ド・フランス勝利であった。

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なお、昨年総合2位のヨナス・ヴィンゲゴーも、ログリッチ落車の直前にメカトラブルで大きく遅れる事態となっていた。

だがこれはワウト・ファンアールトが献身的な牽引を見せたことによって最終的に見事集団復帰。ポガチャルからは10秒を失ったものの、それ以上の大きな傷を負うことは避けられた。

前日歴史的な勝ち方をしてみせたファンアールトは、アシストとしてもチームに大きな貢献をもたらすこととなった。まさに万能人である。

 

 

第6ステージ バンシュ~ロンウィー 219.9㎞(丘陵)

ベルギー国内からスタートし、その後もフランス・ベルギー国境線沿いをひたすら南下していく今大会最長ステージ。

終盤は小刻みなアップダウンが続き、ラスト6㎞に最大勾配12%の「プルヴェントゥーの壁」。そしてテクニカルな下りとラストも最大勾配11%の登りが待ち構えるパンチャー向けのレイアウトとなっている。

 

マイヨ・ジョーヌを着るワウト・ファンアールトが逃げに乗り、一時は独走状態に持ち込むという「エンターテインメント」もあったが、これはなんとか残り10㎞で吸収。その後はプルヴェントゥーの壁で「激坂ハンター」アレクシー・ヴィエルモがアタック。しばらく独走を続ける2015年のブルターニュの壁の覇者は、最後の登り(登坂距離1.6㎞・平均勾配5.8%・最大勾配11%)の中腹で残念ながら捕まえられてしまった。

そして残った集団でのフィニッシュ。すでにスプリンターたちはマイケル・マシューズを除きほぼ全滅していたが、その中で残り350mで最初に駆け出したのが前日に総合から脱落したプリモシュ・ログリッチ。ここでポガチャルに一矢報いたい——と思った彼も、逆にポガチャルの踏み台にされてしまう。

残り200mで飛び出したポガチャルの勢いにすぐさまマシューズが飛びつくが、追い抜くどころかむしろ突き飛ばされる。

マシューズにとってはこのレイアウトは最大の得意分野。実際、5年前の同じフィニッシュでも、ペテル・サガンに次ぐ2位に入り込んでいた。

が、ポガチャルの恐ろしさはそんな常識を簡単に覆す。真のオールラウンダーは、早くも今大会最初の勝利とマイヨ・ジョーヌを手繰り寄せた。

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第7ステージ トンブレンヌ~ラ・スーパー・プランシュ・デ・ベル・フィーユ 176.3㎞(山岳)

初登場の2012年からわずか10年の間に今回ですでに6回目の登場となるヴォージュ山塊の名峰ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ。

今回は2019年に登場したときと同じ、最後に最大勾配24%の地獄の未舗装路が用意された超難関フィニッシュである。

 

3年前の登場時には逃げ切りで決まっているだけに、この日は有力なメンバーばかりの11名の逃げが形成された。

  • ヴェガールスターケ・ラエンゲン(UAEチームエミレーツ)
  • レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)
  • マキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ)
  • カスパー・アスグリーン(クイックステップ・アルファヴィニル)
  • イマノル・エルビティ(モビスター・チーム)
  • シモン・ゲシュケ(コフィディス)
  • ディラン・トゥーンス(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
  • ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)
  • ルーク・ダーブリッジ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
  • シリル・バルト(B&Bホテルス・KTM)

 

その中からケムナ、ゲシュケ、トゥーンス、ダーブリッジの4名が抜け出す形で最後のラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ登坂を開始。

やがて先頭はゲシュケとケムナの2人旅となるが、残り5㎞地点のバナーをくぐった瞬間にケムナが加速してゲシュケを突き放し、独走を開始した。

世界最高峰の山岳エスケーパーであるレナード・ケムナ。この時点でメイン集団とのタイム差は1分10秒。

残り1㎞のフラム・ルージュを通過した時点でも、そのタイム差はまだ34秒。そして、いよいよ最も厳しい地獄の未舗装路へと突入する。

 

いよいよ、総合勢による山岳決戦が幕を開ける。まずは、ポガチャルの前を担うラファウ・マイカが、限界をすでに超越していることを示す苦しそうな表情でポガチャルを牽き上げる。残り1㎞。背後を振り返り、左手を前に出してポガチャルに先に行くようジェスチャーするマイカ。

だが、いつものポガチャルの羽ばたくような、誰もが追随できないアタックは、この瞬間には見られなかった。

いや、確かにその加速は圧倒的で、すぐさま何名か零れ落ちはしたが、それでもゲラント・トーマスやアダム・イェーツはそこに食らいつき、そしてポガチャルもちょっと振り返り、後続の状況を確かめていた。

まだ1㎞も続くこの未舗装路の激坂は、さしものポガチャルをしても最初から無謀に全力を投じるべきではないと判断するほどの危険度に満ちていたということだろう。

残り800m。ポガチャルの背後につくヴィンゲゴー。その後ろにはログリッチ、トーマス、アダム・イェーツ。

先頭ケムナはすでに残り500mを切っており、これはさすがに逃げ切り、決まったか?

 

と、思っていた残り200m。ケムナの背後に、迫りくるポガチャルの姿。その10秒後、同じく残り200mを通過したこの小集団から、ヴィンゲゴーが先にアクセルを踏んだ。

残り100m。最後の超激坂で、完全に足を止めてしまった先頭のケムナに対し、その何倍ものスピードで迫りくるヴィンゲゴーが、無情にもこれを追い抜いてしまう。

そのまま先行するヨナス・ヴィンゲゴー。昨年のツール・ド・フランス。ポガチャル「圧勝」だったあのツールで、たった一度だけ、その「最強」ポガチャルを突き放した男ヴィンゲゴーが、この日も奇跡を起こすか?

しかし、一度は失速したポガチャルは、最後の50mでもう一度復活した。

残り25㎞でヴィンゲゴーを追い抜いたポガチャル。まだまだ、最強の座を明け渡すつもりはないと、高らかに宣言するように右手を天に突き上げた。

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だが、戦後のポガチャルもさすがにきつそうな表情で項垂れている様子が映し出されていた。彼にとっても、この激坂は決して楽なものではなかったということが良く分かる。

ゆえに、まだまだ分からない。とくに3週目には、かの全盛期クリス・フルームも大きくタイムを失った「王者陥落の激坂」ペイラギュードが待っている。

 

相手は昨年唯一ポガチャルを倒したヴィンゲゴー。まだまだ、最後まで勝負は分からない。

 

 

第8ステージ ドル~ローザンヌ 186.3㎞(丘陵)

ジュラ山脈を越えてスイス・レマン湖の北のほとりに位置するローザンヌへとフィニッシュ。

激戦を経た後のステージということで逃げ切り向きかとも思っていたが、意外と逃げに挑戦しようとする選手は多くなく、結果として形成されたのは3名の逃げであった。

  • マティア・カッタネオ(クイックステップ・アルファヴィニル)
  • フレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • フレデリック・フリソン(ロット・スーダル)

 

その中から最後まで逃げ残ったフリソンは残り3.5㎞で吸収。スプリンターたちを全滅させた先頭集団は縦に長く引き伸ばされ、残り1.5㎞からはラファウ・マイカがポガチャルを引き連れて加速していった。

残り300mまで先頭を牽引し続けたマイカ。そのタイミングでボブ・ユンゲルスが右から加速して先頭に躍り出ると、その右隣りからポジションを上げていったのがマイケル・マシューズ。

前日はポガチャルを追いかけて突き切れした彼だが、この日は先手必勝。残り150mでスプリントを開始した。

この作戦は奏功し、この日はポガチャルの前でフィニッシュすることに成功したマシューズ。だが、勝つことはできなかった。

残り250mで目の前をバンジャマン・トマに塞がれてしまいポジションを落としていたワウト・ファンアールトが、残り150mでマシューズとポガチャルが右にずれたおかげで目の前に空間を手に入れる。

そこから全力のスプリントを開始。昨年のシャンゼリゼの覇者は、その位置から最後、マシューズを追い抜いて先頭でフィニッシュを貫いた。

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第9ステージ エーグル~シャテル 192.9㎞(山岳)

UCIの本拠地が置かれたスイスの都市エーグルからスタートし、最後はフランス国内に戻ってのフィニッシュ。全部で21名もの逃げ集団が形成され、この日こそ逃げ切りが決まる1日となった。

  • ブランドン・マクナルティ(UAEチーム・エミレーツ)
  • ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィズマ)
  • ヨナタン・カストロビエホ(イネオス・グレナディアーズ)
  • ブノワ・コスヌフロワ(AG2Rシトロエン・チーム)
  • ボブ・ユンゲルス(AG2Rシトロエン・チーム)
  • パトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグローエ)
  • ニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)
  • カルロス・ベローナ(モビスター・チーム)
  • シモン・ゲシュケ(コフィディス)
  • ヨン・イサギレ(コフィディス)
  • ルイスレオン・サンチェス(バーレーン・ヴィクトリアス)
  • ティボー・ピノ(グルパマFDJ)
  • コービー・ホーセンス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
  • ジョセフロイド・ドンブロウスキ―(アスタナ・カザフスタンチーム)
  • リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)
  • ワレン・バルギル(アルケア・サムシック)
  • ジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)
  • ピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ)
  • ガイ・ニーブ(イスラエル・プレミアテック)
  • ユーゴ・ウル(イスラエル・プレミアテック)
  • フランク・ボナムール(B&Bホテルス・KTM)

 

この集団の中で動きが巻き起こったのが残り63㎞。最後から2番目の1級山岳コル・ドゥ・ラ・クロワ(登坂距離8.1㎞、平均勾配7.6%)の途中で、集団からボブ・ユンゲルスが単独で飛び出す。

これを追って飛び出したシモン・ゲシュケが山頂は先行し、山岳賞ポイントでマウヌス・コルトを抜いて首位に。第1週目の最後の最後で山岳賞ジャージを奪い取った。

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ゲシュケは2週目に備えて一旦集団に戻ると、ユンゲルスの独走が始まった。

2016年と2017年の2年連続でジロ・デ・イタリア新人賞を獲得。2018年にはリエージュ~バストーニュ~リエージュも制した、トム・デュムランの後を継ぐようなオールラウンダーとして期待されていた彼も、ここ数年は病気との戦いで苦しい時代を強いられていた。

その苦しみからの復活の兆しはわずか1ヵ月前のツール・ド・スイスでようやく見え始めていたばかりだった。しかし、そこから彼が力を取り戻すのは速かった。第8ステージでもフィニッシュ直前にアグレッシブにスプリントをする姿も見せていたユンゲルスは、この日、溢れんばかりのその想い、意思、力を爆発させたかのような走りを見せていた。

同じく「復活」への道筋を辿る男、ティボー・ピノが集団から単独で抜け出して追走を仕掛けるが、ユンゲルスの勢いはそのピノの猛追すらも振り切った。

 

そして、国内選手権を除けば3年ぶりとなる勝利。自身初のツール・ド・フランス勝利。数多くの苦難を乗り越え、「終わった」と思われていた男が見事な復活勝利を成し遂げた。

終わりなどないと、証明するかのように。

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そしてメイン集団では、ポガチャルが最後に勢いよく飛び出し、これに追いすがったヴィンゲゴーの2人だけが先行しライバルたちに3秒差をつけた。

これはポガチャルの強さと見るか? それとも、第1週目で「思ったよりもタイム差をつけられなかった」ポガチャルなりの焦りか?

 

第1週終了時点での総合成績は下記の通り。

 

ポガチャルとヴィンゲゴーのタイム差は「39秒」。

この39秒のうち、ヴィンゲゴーがその実力でもって失ったタイム差はわずか「22秒」でしかない。

 

 

今年もポガチャルが最強なのか?

 

少なくとも第1週の結果は、それを言い切れるだけの材料は存在しない。

 

 

最後まで何が起こるか分からない、新時代の幕開けを象徴する今年のツール・ド・フランスの第2週が始まる。

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