ツール・ド・フランス2022最後の総合争いの舞台となるのは、断崖に並ぶ家々とノートルダム寺院が美しいロカマドゥールの地。石畳あり、超標高の山々あり、長いTTありの今年のツールは一体誰が制するのか。
今年のツール・ド・フランスは波乱の連続だった。第1週目のあの石畳ステージでの悲劇。そしてその1週目で見せた、タデイ・ポガチャルの圧倒的な強さ。
しかし第2週、ガリビエ峠とグラノン峠という「超・超標高バトル」において、ユンボ・ヴィズマがコンビネーションにより「最強」ポガチャルを翻弄し、ついにヨナス・ヴィンゲゴーがマイヨ・ジョーヌを着用。
その後もポガチャルが繰り返し反撃を挑むが、それは叶わぬまま、2分以上ものリードをもってヴィンゲゴーはこの激動の2週目を終えている。
だが、まだ何が起こるか分からない。ユンボ・ヴィズマは第2週最終日にプリモシュ・ログリッチとステフェン・クライスヴァイクを同時に失い、ヴィンゲゴー自身も落車してしまっている。
この3週目は、2週目に比べれば地味ではあるが、それでもペイラギュードやオービスク、オタカムといった、ピレネーの名峰がふんだんに用意された、シンプルながら美しい、正統派ツール・ド・フランスの山岳ステージといったレイアウトが用意されている。
そして最後は、完全なる実力勝負となる、美しきロカマドゥールでの40㎞個人タイムトライアル。
UAEチーム・エミレーツは、エースの3連覇に向けた大逆転劇をここで仕掛けることができるか。
あるいは、ユンボ・ヴィズマは今度こそしっかりとマイヨ・ジョーヌを最終日まで持ち帰り、ワウト・ファンアールトのマイヨ・ヴェールと共にパリの表彰台に立つことができるか。
さらには、ドラマを生み出しやすい「3週目平坦ステージ」の第19ステージでのドラマチックな逃げ切りや、「スプリンターの世界選手権」シャンぜリゼでの戦いの行方は?
まだまだ注目すべき点の多い今年のツール第3週の全6ステージを見ていこう。
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目次
- 第16ステージ カルカッソンヌ~フォア 178.5㎞(丘陵)
- 第17ステージ サン=ゴーダンス~ペイラギュード 129.7㎞(山岳)
- 第18ステージ ルルド~オタカム 143㎞(山岳)
- 第19ステージ カステルノ=マニヨアック~カオール 188.3㎞(平坦)
- 第20ステージ ラカペル=マリヴァル~ロカマドゥール 40.7㎞(個人TT)
- 第21ステージ パリ・シャンゼリゼ~パリ・シャンゼリゼ 116㎞(平坦)
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第16ステージ カルカッソンヌ~フォア 178.5㎞(丘陵)
Jsports:7/19(火) 20:55~
今大会2回目――いや、デンマーク3連戦のあとに1回休息日が挟まるので、正確には3回目――の休息日明けに待ち受けるのは、2017年のフランス革命記念日にワレン・バルギルが勝利した超激坂ミュール・ド・ペゲール~フォワのルートを完全踏襲。
総合争いが巻き起こることはないであろう完全なる逃げ切り向きステージ、というのが基本的なイメージだが、ただ、休息日明けということもあり、まさかのドラマが待ち構えている可能性もある。
油断はできない。こういうステージこそ、何が起こるかわからないのだから・・・。
ミュール・ド・ペゲール、「ペゲールの壁」は、それを引き起こすだけのポテンシャルを十分に、持っている。
第17ステージ サン=ゴーダンス~ペイラギュード 129.7㎞(山岳)
Jsports:7/20(水) 19:50~
トゥールマレーの付添人アスパン峠、ポルテ峠の付添人ヴァル=ルーロン=アゼ峠、そして2019年にはサイモン・イェーツが逃げ切り勝利を決めたウルケット・ダンシザンなどを経て、最後は2017年ツール・ド・フランスでクリス・フルームが遅れ、ロマン・バルデが勝利し、ファビオ・アルがマイヨ・ジョーヌを着ることとなった激坂の滑走路ペイラギュードへと至る。
130㎞の短い距離にピレネーの魅力をたっぷりと詰め込んだ1日である。
2017年は本当に皆、止まりそうになるくらい苦しみながら最後の激坂を越えていた。クリス・フルームのアシストであったミケル・ランダが淡々と無表情で踏みながら、果敢にアタックしたジョージ・ベネットを冷静に引き戻していた。
残り400m。いよいよ最大勾配16%の滑走路に突入すると、フィニッシュラインへとつながる「まっすぐな激坂」でファビオ・アルがアタック。あまりにも急勾配過ぎてまるでスロー映像に見える勢いで飛び出していくアルだが、これを追いかけようとしたランダのペースにまさかのフルームがついていけない。
さらにこれを見て集団から飛び出したのがロマン・バルデ。この年総合2位になるリゴベルト・ウランもここに食らいつこうとするが、そのままアルを抜き去り、ウランを突き放したバルデが勝利を掴み取った。
彼もまた、紆余曲折の自転車人生を歩んできた。一度は、総合を諦めたほうがいいんじゃないかと思ったときもあった。
しかし、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで区間1勝。そして前哨戦ツアー・オブ・ジ・アルプス総合優勝で迎えたジロ・デ・イタリアでは、ブロックハウス山頂フィニッシュで区間2と総合3位を獲得。かなりの好調で第2週に挑んでいたが・・・その後、まさかの体調不良による失意のリタイア。
そこから復活のプリンスは、同じく調子を上げつつあるティボー・ピノと共に、このツールで旋風を巻き起こしてくれるだろうか。
第18ステージ ルルド~オタカム 143㎞(山岳)
Jsports:7/21(木) 20:05~
超級オービスク峠を前座に据える贅沢なこの第18ステージは、シンプルながらいずれも10㎞以上に渡り足の緩められる箇所の存在しない「長くて厳しい」登りの3連発。
分かりやすい厳しさはない。派手さはない。しかし着実にライダーの足を削っていく。そんな、純然たる、妥協のない山岳ステージ。真のクライマーのためのステージが、ツール・ド・フランス2022の最終決戦の舞台として用意された。
個としての力ではなく、チームとしての力が問われるかもしれない。来年に向けてこれまで以上に貪欲な補強を進めるUAEチーム・エミレーツは、「王者」を護る走りを見せられるか。あるいは、「元祖最強チーム」イネオスが、そのお株を取り戻すことができるか?
こんなにも美しい、ツール・ド・フランスらしいピュア山岳ステージを最後に見せてくれるあたりが、今回のツールのコース設計のすばらしさを物語っている。
山岳最終決戦の舞台は、2014年にヴィンツェンツォ・ニバリが「4勝目」を飾り、そのツールの圧勝を決定づけた超級山岳オタカム(登坂距離13.6㎞、平均勾配7.8%)。
残り10㎞。前年のブエルタを制したクリス・ホーナーがメイン集団からアタックを仕掛けると、そのブエルタでホーナーと激戦を繰り広げていたヴィンツェンツォ・ニバリがすぐさま反応。そしてホーナーをあっという間に引き千切り、先行していたミケル・ニエベも追い抜いて彼は残り8㎞からの独走で格の違いを見せつけた。
今回も、昨年同様に「あの男」が圧倒的な強さを見せつけるステージになるのか。
それとも、そこに食らいつく男たちがこの山でなおも熾烈な争いを繰り広げるのか。
第2週のインパクトが強い今年のツール・ド・フランスだが、この第17・第18ステージも実にシンプルで、そして美しく厳しい山岳ステージが続き、劇的なドラマが待ち受けてそうに感じられる。
第19ステージ カステルノ=マニヨアック~カオール 188.3㎞(平坦)
Jsports:7/22(金) 20:55~
ピレネーの激戦を終え、総合最終決戦を前にして、プロトンは一時の平穏なるステージに。ここまで耐え抜いてきたスプリンターたちにとってはシャンゼリゼ前の最後のチャンスとなるが、もちろん「3週目の平坦ステージ」に潜む魔物の存在は誰もが理解するところだろう。実際、昨年の同じような立ち位置となった第19ステージでは、20名の集団の逃げ切りが決まり、マテイ・モホリッチが2勝目を飾った。そして、マーク・カヴェンディッシュの「エディ・メルクス越え」は阻止された。
今回も、逃げ切りは十分に考えられる。予想もつかないニューヒーローが、世界最高峰の栄光に向けた最後のチャンスを掴み取ることはできるか。
第20ステージ ラカペル=マリヴァル~ロカマドゥール 40.7㎞(個人TT)
Jsports:7/23(土) 20:55~
山岳ステージは第18ステージで終わりを告げるが、総合争いの本当の最終決戦の舞台はここ数年の定番となった「最終日TT決戦」。そして、40㎞という、長距離の個人TTが用意されることに。
これで初日と合わせTT総距離は53㎞。58㎞だった2021年よりは短いとはいえ、2015年以降明確だった「クライマー向け」ツールからの完全なる脱却への意図を感じさせる。
とはいえ、ラスト2㎞を切った直後に平均勾配7.8%のそれなりに厳しい登りが待っている。ここまでの3週間の道のりと、この日の長い40㎞の道のりを経た先に用意されたこの勾配は、最後の最後で意外な結末をもたらす可能性も。勝負は最後まで何が起こるか分からない。そのことは、2年前のあの山岳タイムトライアルが証明している。
ロカマドゥールはルート・ドクシタニーでは2年前に訪れてはいるが、ツール・ド・フランスでは初登場。年間150万人が訪れるという、フランス有数の「信仰の砦」である。
その最も美しいポイントは、まさに最後の登りが始まる直前の下り、細い山道から見える、「断崖絶壁に並ぶ家々とノートルダム寺院」である。
3,200㎞を超える長い巡礼の終着点で両手を挙げるのは、果たして誰か。
第21ステージ パリ・シャンゼリゼ~パリ・シャンゼリゼ 116㎞(平坦)
Jsports:7/24(日) 23:05~
どんなに新しい試みを取り入れたとしても、どんなにレースも選手も国際化し、多様化したとしても、このフィニッシュだけは変わらない。
1975年以来の伝統となる、パリ・シャンゼリゼフィニッシュ。
スプリンターたちの世界選手権とも呼ばれるこの世界最高峰のサーキットで、今年も「最強スプリンター」を巡る争いが開幕する。
2009年:マーク・カヴェンディッシュ
2010年:マーク・カヴェンディッシュ
2011年:マーク・カヴェンディッシュ
2012年:マーク・カヴェンディッシュ
2013年:マルセル・キッテル
2014年:マルセル・キッテル
2015年:アンドレ・グライペル
2016年:アンドレ・グライペル
2017年:ディラン・フルーネウェーヘン
2018年:アレクサンドル・クリストフ
2019年:カレブ・ユアン
2020年:サム・ベネット
2021年:ワウト・ファンアールト
2022年:
そして、歴史と伝統の舞台は今年、新たな時代の始まりも告げる。
すなわち、この日の男子の最終決戦を前にして、女子版ツール・ド・フランスの第1ステージがついに開幕するのである。
新しい時代の幕開けを、ぜひ目の当たりにしよう。
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