今シーズンも最後のワールドツアーレース、イル・ロンバルディアも終わり、まだジャパンカップなどは残っているものの、少しずつ今シーズンの振り返りをしていこう。
今年もやっていきます、「シーズン振り返り」記事シリーズ。
第一段は毎年恒例の「今年のベストレース」。
今年も独断と偏見のもとに、個人的に印象に残った5つのレースを紹介していく。
あくまでも「主観」なのであしからず。とくに今年は例年以上にちゃんと見られているレースが多くなく・・・
その中で、とくに感動したレースを紹介していく。
過去のベストレースは以下の通り。
2016年
4位:ツアー・ダウンアンダー第5ステージ
3位:パリ~ニース第7ステージ
2位:ジロ・デ・イタリア第19ステージ
1位:ロンド・ファン・フラーンデレン
2017年
4位:パリ~ニース第8ステージ
3位:ロンド・ファン・フラーンデレン
2位:ジロ・デ・イタリア第14ステージ
1位:ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ
2018年
4位:ドバイ・ツアー第4ステージ
3位:ラ・フレーシュ・ワロンヌ
2位:世界選手権男子エリートロードレース
1位:ジロ・デ・イタリア第19ステージ
2019年
4位:ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ
3位:ロンド・ファン・フラーンデレン
2位:世界選手権男子エリートロードレース
1位:アムステルゴールドレース
2020年
5位:ジロ・デ・イタリア第8ステージ
4位:パリ~ニース第6ステージ
3位:ブエルタ・ア・エスパーニャ第8ステージ
2位:ロンド・ファン・フラーンデレン
1位:ツール・ド・フランス第20ステージ
2021年
5位:オーストラリア国内選手権ロードレース
4位:ツール・ド・ラヴニール第9ステージ
3位:ジロ・デ・イタリア第20ステージ
2位:ティレーノ~アドリアティコ第5ステージ
1位:世界選手権男子エリートロードレース
今年もまずは5位~3位から紹介!
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第5位 UCIロード世界選手権ジュニア男子ロードレース
9/23(金)の午前中。とくに見ようと思っていたわけではなかったが、Youtubeでも無料で配信されていたので何となく見ていて・・・そして、思いのほか熱く、予定外の上記の記事を書いてしまうほど、魅せられてしまった。結論から言えば、今回の世界選手権で最も面白かったレースかもしれない。
舞台はオーストラリア東岸サウスウェールズ州に位置する港町の「ウロンゴン」。その市内の1周17.1㎞の周回コースを8周。計135.6㎞、総獲得標高2,016m。
ジュニア男子ロードレースは過去にはディエゴ・ウリッシ(2006/2007)、ジャスパー・ストゥイヴェン(2010)、マテイ・モホリッチ(2012)、マチュー・ファンデルプール(2013)、レムコ・エヴェネプール(2018)などが勝利している。
計108名の選手がスタートし、勝負が本格化し始めたのは残り26㎞を過ぎた、最後から2回目のマウント・プレザント(登坂距離1.1㎞、平均勾配7.7%、最大勾配14%)。
前後にも急勾配の登りが設定された明確な勝負所。他のカテゴリでも常にレースが動き続けているこの「最後から2回目マウント・プレザント」で、集団の中からポルトガルのアントニオ・モルガードが先頭に立ってペースを上げ始めた。
この動きで集団が一気に縮小していき、8~9名ほどに。とくにドイツのエミル・ヘルツォークが前を牽くことが多く、牽こうとしない他のメンバーに対し抗議めいたことを叫ぶ場面もあり、熱い性格を感じさせていた。
そうこうしているうちに残り18.6㎞。最終周回に入る直前の平坦区間。エリート男子ロードレースでもアレクセイ・ルツェンコとレムコ・エヴェネプールが飛び出したあたりと同じような地点だろうか。そこで不意にモルガードがアタックし、小集団から抜け出した。
集団の先頭にいたフランス人デュオ(ポール・マグニールとティボー・グルエル)はちょうど水を飲んでいたときでもあり反応できず、ヘルツォークも先頭に立って追いかけようとするが、これもすぐ後ろを振り返って牽制を始めたことで、みるみるうちにモルガードとの距離は開いていき、残り11㎞地点では20秒差にまで拡大していた。
追走集団も後方から選手が追いついてきて少しずつ数を増やすなど、うまく協調してペースを上げることができていないことは明白であった。
快調に独走を続けていくモルガード。このまま見事な勝利を成し遂げることができるか?
だが、ここで集団内にいた最もアグレッシブだった男、エミル・ヘルツォークが動き出す。残り8.5㎞から始まる最後のマウント・プレザントの登りで先頭に立ち、一気にペースアップ。14%と表示された厳しい勾配の中で先頭をガンガンと牽いていく。
すでにモルガードとのタイム差は24秒。しかしヘルツォークは諦めることなく、先頭を懸命に牽き続け、後ろについてくるライバルたちに対しても交代を要求することなく、ただまっすぐ前を見据えてペースを上げ続けた。
残り8.2㎞で背後についてくる選手は4名だけに。モルガードとのタイム差は21秒。
残り7.9㎞。さらに背後の選手たちが落ちていき、ついに背後についてくる選手は1人だけに。モルガードとのタイム差は20秒。
そして残り7.5㎞。ヘルツォークはついに、後続を完全に引き千切った。同時に登りの頂上。最後の勝負所で、ヘルツォークは狙い通りの完璧なアタックを成功させた。
先頭モルガードとのタイム差は、17秒。
その後も独走のままモルガードとのタイム差を縮めていくヘルツォーク。残り6.7㎞で12秒差、残り5㎞で10秒差、残り4㎞で――7秒差。
モルガードの方も最終的には足を緩め、ヘルツォークを待つことにした。
戦いは二人のジュニア最高峰による一騎打ちへ。
残り3㎞。ついにヘルツォークがモルガードに追い付く。ヘルツォークが先頭に立ち、モルガードに交代を要求するがモルガードはこれを拒否。
"Can I win!?" と激しく叫ぶヘルツォーク。「(そんなに前を牽こうとしないなんて)僕に勝ちを譲ってくれるのかい!?」といったような意味だろうか? 熱い男である。
それでも前を牽こうとしないモルガードに痺れを切らし、残り1.6㎞でヘルツォークがアタック。やはり熱い。
だがモルガードはこれにしっかりと食らいつき、アタックは失敗。ヘルツォークにとっては足を削るだけに終わり、これで勝負は本当に分からなくなってきた。
ラスト1㎞もひたすらヘルツォークが先頭固定。
残り300mでヘルツォークが少し腰を上げるがまだ本気のスプリントは開始せず、様子見。
そして残り250mでモルガードが腰を上げラインを横に取りスプリントを開始すると、それを受けてヘルツォークもいよいよペダルを踏む足に力を込める。
サイドバイサイド。本気のぶつかり合い。それまでの展開も含め、まるで漫画のような展開。
勢いはモルガードの方が上だった。バイクを激しく左右に振り、前輪はヘルツォークに先行する。
ヘルツォークは対照的に落ち着いた様子で、バイクの左右の振れ幅はより小さい。回転数を上げることに集中。
そしてヘルツォークが再びモルガードと並ぶ。
残り50m、あるいは25m――そこで、モルガードが力尽きる。仕掛けるのが早すぎたか。
勝ったのはヘルツォーク。両手を広げ、天を仰ぐ。モルガードは悔しそうにハンドルを叩きながら項垂れる。
個人的には今年最高のガッツポーズの瞬間だった。
マジで全自転車ファンに見てほしい最高のスプリント https://t.co/VVTjEtpVJq
— 珠洲 環 (@SuzuTamaki) September 23, 2022
高校生くらいの年齢の2人が繰り広げる、意地と意地のぶつかり合い。
ある意味、ジュニアカテゴリだからこそ、そしてもしかしたら今年いっぱいで廃止されるジュニアギアだからこそ見ることのできた熱いバトルかもしれない。
実は来年は共にハーゲンスバーマン・アクセオンへの移籍が決まっている二人。フィニッシュ後に互いを讃え合ったこの最高のライバルは、来期は最高のチームメートとして、また新たなドラマを作っていくことになるのだろう。
楽しみだ。
第4位 パリ~ニース第8ステージ
このベストレース記事でも過去何度か登場しているパリ~ニース。シーズン序盤のまだ足色が選手によりバラバラなことや、難易度も決して高すぎないゆえに大きなタイム差がつくことなく最終日まで行くこと、そして決定的過ぎない、絶妙な厳しさの「エズ峠」の存在が、ドラマティックな逆転劇を演出してくれるレースなのである。
今年は、実に3年ぶりの登場となったエズ峠。過去、2016年・2017年はアルベルト・コンタドールによる大逆転が巻き起こりかけ、2018年にはマルク・ソレルによって実際に逆転劇を成し遂げた、そんな伝説の山。
昨年はエズ峠こそ出てこなかったものの、落車によるトラブルでまさかの逆転敗北を喫してしまったユンボ・ヴィズマのプリモシュ・ログリッチ。
この日、総合2位サイモン・イェーツと47秒ものタイム差をつけて総合首位を維持していたが、やはり最後の「逆転劇」は非常に怖いものがあった。
レースが動き出したのは残り45.7㎞地点で頂上を迎えるペイユ峠(登坂距離6.6㎞、平均勾配6.8%)。2016年・2017年のコンタドールの攻撃はエズ峠からではなくこのペイユ峠から始まっており、今年もまた、ここでの動きは十分に警戒すべきものであった。
ユンボ・ヴィズマはステフェン・クライスヴァイク、ローハン・デニス、そしてワウト・ファンアールトの3名がしっかりとログリッチの前を固め、万全の構え。ログリッチの後ろにはサイモン・イェーツやイネオス・グレナディアーズのダニエル・マルティネス(1分遅れの総合3位)、アダム・イェーツ(1分50秒遅れの総合4位)らが続いていく。
すでにこの時点で集団の数は2~30名程度。緊張感が高まる中、残り51㎞、山頂まで5㎞の地点で、イネオス・グレナディアーズのオマール・フライレが先頭に立ち、一気にペースを上げていく。
ここでクライスヴァイク、デニスが千切れ、ログリッチのアシストはファンアールトだけに。集団内は13名ほどにまで絞り込まれる。
残り48.8㎞。山頂まで残り3.2㎞の地点で総合3位マルティネスがアタック。当然、これを許すわけにはいかないユンボ・ヴィズマは、ファンアールトに前を牽かせてすぐさまこれを引き戻す。
そのままファンアールトが先頭に立ってハイ・ペースを刻むと総合4位アダム・イェーツは脱落。先頭はマルティネス、ファンアールト、ログリッチ、サイモン・イェーツ、ナイロ・キンタナの5名だけとなった。
イネオスによる攻撃が繰り広げられたものの、ログリッチはファンアールトの尽力によって、ひとまずの危機は脱することができた。
次なる勝負所エズ峠に向かうまでの下りと平坦区間ではひたすらファンアールトが先頭牽引。そのうえで残り34.6㎞地点の中間スプリントポイントではサイモン・イェーツが先頭通過を果たし、ボーナスタイム3秒を得てログリッチとのタイム差を44秒に縮める。
下りの途中で総合3位ダニエル・マルティネスが後輪パンクにより脱落。さらに危険な中央分離帯の連続にログリッチも危うくひやっとする場面が何度か見られる。
ここで少し、ログリッチの不調の気配を感じもした。
集中力が落ちかけている? 決して状態は良くはないのでは? と。
そして残り21.3㎞。
最後の1級山岳、エズ峠(登坂距離6㎞、平均勾配7.6%)に突入する。
ここでナイロ・キンタナが先頭に躍り出て、ダンシングでペースアップ。彼の得意なインターバル走行である。
これを受けてファンアールトが一旦、集団から脱落。やがてペース走行で舞い戻ってきて再び集団の先頭を牽き始めるが、その表情は明らかに苦しそうで、すでに限界が近いことは確かであった。
そして残り19.3㎞。再びキンタナがペースアップすると、ファンアールトは最後尾に。
次の瞬間――最も勾配が厳しい区間に突入した瞬間――に、サイモン・イェーツがついにギアを上げた!
エズ峠山頂まで3.9㎞。過去のセオリーよりも早めのアタックは、44秒をひっくり返そうとする逆転への強い意志。
昨年のジロ・デ・イタリアでエガン・ベルナルを何度も苦しめた鋭い一撃に、ついにログリッチがキンタナと共に突き放される。ファンアールトはさらにその後方へ。
今年もまた、「逆転劇」が見られるのか?
⚡️ Attaque de 🇬🇧@SimonYatess qui part en solitaire !
— Paris-Nice (@ParisNice) March 13, 2022
⚡️ 🇬🇧@SimonYatess goes solo!#ParisNice pic.twitter.com/0uOLdXIkZj
先頭を突き進むサイモン・イェーツ。残り18.8㎞。山頂まで3.5㎞。キンタナとログリッチとのタイム差は13秒。
この時点でログリッチとの総合タイム差は44秒。2位にログリッチが入ったとすれば得られるボーナスタイムは4秒となるため、ログリッチとのタイム差を40秒以上に開けば、逆転が見えてくる。山頂までの距離を考えれば、いけないタイム差ではない。
実際、ログリッチはまったく足が動いていない。キンタナと共に遅れていくばかり。落ちていたファンアールトが後方から追い付いてこれてしまうほどであった。
残り17.9㎞。山頂まで2.6㎞。サイモン・イェーツとログリッチとのタイム差は21秒。
ファンアールトがログリッチの前を牽き始める。しかし彼のペースにすら、ログリッチはついていけなさそうな姿を見せる。
残り17㎞。山頂まで1.7㎞。サイモン・イェーツとログリッチとのタイム差は25秒。ここで、キンタナがログリッチたちから遅れ始める。
逆を言えば、ファンアールトがキンタナを突き放すほどのペースを見せ始めている?
残り15.4㎞。ついに、サイモン・イェーツが山頂を通過。
しかし、ログリッチとのタイム差は25秒――変わらず。
一度突き放したはずのワウト・ファンアールトが、後半にかけてサイモン・イェーツに負けないほどの登坂力を見せたということである。
戦略は完璧だった。もしログリッチが一人であれば確実にずるずると失速していき、サイモン・イェーツの逆転は間違いなかったであろう。実際、キンタナはその後、1分44秒遅れでフィニッシュした集団に飲み込まれてしまっている。
このサイモン・イェーツの戦略を握りつぶしたのは、ワウト・ファンアールトという怪物であった。ペイユ峠のイネオス・グレナディアーズの攻撃を独りで抑え込み、その後もひたすら前を牽き続けていた男を、エズ峠で倒したと思ったらまさかの復活を果たし、誰よりも速いペースでログリッチを引き上げていったのである。
全く意味の分からない走り――ツール・ド・フランスでの、あの「タデイ・ポガチャルを突き放した最後の山岳での走り」を見るまでは。
ある意味、このパリ~ニースでの走りが、あのツールへの大いなる伏線だったと言えるだろう。
それでも、強い意志をもって逆転に向けての一撃を繰り出したサイモン・イェーツこそが、このレースを「ベストレース」にしてくれた。
最後は逆転は叶わなかったものの、「英国人の遊歩道」を独走し、勝利は掴み取った。
今年も何度も不運にも見舞われて満足のいかないシーズンを過ごすこととなってしまったサイモン。
だが、その走りはいつだって魅力的で熱い。これからも、応援し続けていこう。
第3位 ストラーデ・ビアンケ・ドンネ
今年は印象に残った女子レースも入れていくことにする。今年は第1回ツール・ド・フランス・ファムが開催されるなど、女子レース界でも盛り上がりを見せたシーズン。
それに合わせて書いた以下の記事も大きな女子レースがあるたびに継続的にアクセスがあり、ありがたいことです。
そんな中、今年最も印象に残った女子レースはこちら、ストラーデ・ビアンケ・ドンナ。その名の通り、イタリア・トスカーナ州で行われる「白い道」の名をもつ未舗装路&丘陵レースの女子版である。
全長184㎞の男子レースに対し、女子レースはおよそ3分の2の全長136㎞。但し、男子でも勝負所となる残り20㎞を切ってからの「ピンズート」「レ・トルフェ」「サンタカテリーナ通り」はすべて全く同一のレイアウトで登場するため、厳しさは健在。むしろ女子レースの中では厳しすぎる方であり、例年実力者だけしか生き残らないという実に過酷なレースとなっている。
初開催の2015年以降、過去の優勝者は以下の通り。
- 2015:メーガン・グアルナー
- 2016:エリザベス・ダイグナン
- 2017:エリーザ・ロンゴボルギーニ
- 2018:アンナ・ファンデルブレッヘン
- 2019:アネミーク・ファンフルーテン
- 2020:アネミーク・ファンフルーテン
- 2021:シャンタル・ブラーク
世界王者経験者など、世界トップクラスの選手たちばかりが並んでいることからも、このレースの厳しさが良く分かる。
さて、レースが動き出したのはやはりピンズート(全長2.4㎞、最大勾配15%)手前から。
今年SDワークスに移籍したばかりのベルギー王者ロッタ・コペッキーの動きをきっかけに、一気に集団のセレクションがかかり、ピンズート終了後には以下の16名の小集団が形成された。
- ロッテ・コペッキー(SDワークス)
- アシュリー・ムールマン(SDワークス)
- デミ・フォレリン(SDワークス)
- シャンタル・ブラーク(SDワークス)
- エリーザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)
- シリン・ファンローイ(トレック・セガフレード)
- セシリーウトラップ・ルドヴィグ(FDJヌーヴェルアキテーヌ・フチュロスコープ)
- グレース・ブラウン(FDJヌーヴェルアキテーヌ・フチュロスコープ)
- カタジナ・ニエウィアドマ(キャニオンスラム・レーシング)
- エリーズ・シャベ(キャニオンスラム・レーシング)
- リアヌ・リッパート(チームDSM)
- フローチェ・マッカイ(チームDSM)
- アネミエク・ファンフルーテン(モビスター・チーム)
- マリアンヌ・フォス(ユンボ・ヴィズマ)
- シルヴィア・ペルシコ(ヴァルカー・トラベル&サービス)
- ヤラ・カステライン(Plantur-Pura)
いずれもトップレースでの上位常連ばかりがあつまる実力集団。
そしてこの中にSDワークスは4名。圧倒的有利であった。
当然、この数の有利を活かして、SDワークスは波状攻撃を仕掛ける。
まずは残り15.5㎞。キャニオンスラム・レーシングのエリーズ・シャベがアタックするのをフォレリンがしっかりと抑え込む。
残り14.3㎞。シャンタル・ブラークがカウンターでアタック。得意の独走に持ち込む。昨年もこういった動きでブラークが逃げ切り勝利を決めている。
当然、キャニオンスラムやFDJなど、数を残しているチームが牽引の責任を担わされる。FDJはブラウン、キャニオンスラムはシャベ。それぞれのチームのセカンドエースがしっかりと前を牽引する。
残り13㎞。最後の勝負所レ・トルフェ(全長1.1km、最大勾配18%)に突入。と、同時に集団がブラークを捕まえる。
そして一旦下ってからの登り返しで、19・20年覇者アネミーク・ファンフルーテンが先頭に飛び出してきて加速。すぐさまコペッキーが反応してその後輪にしがみつく。そしてフォレリンが前に出てきてペースを抑えにかかった。
が、残り12.2㎞。再びファンフルーテンが加速。今年このあと3大グランツール&世界選手権ロードレースを制するという齢40にして絶好調の女王の本気の加速に、コペッキー以外のすべての選手が突き放されてしまう。
先頭はファンフルーテンとコペッキー。コペッキーは当然、積極的には牽かない。1週間前のオンループ・ヘットニュースブラッドでも、ファンフルーテンとフォレリンが2人で逃げる展開に。
そのときもフォレリンは前を一切牽かない戦略を取ったが、それでも最後はファンフルーテンにスプリントで敗れてしまった。
今回もひたすら貼りつくコペッキー。最後のスプリントに持ち込めれば、ピュアスプリンターとも張り合えるコペッキーならば勝機はあるだろう。
だが、問題はフィニッシュ直前のサンタカテリーナ通り(登坂距離500m、平均勾配12.4%、最大勾配16%)の激坂。
さすがにここでは分が悪すぎる。できればそこまでに後続に追い付いてきてもらって再び数の有利を活かせる展開に持ち込みたい。
追走集団はアシュリー・ムールマンとフォレリンのSDワークスが2名、カタジナ・ニエウィアドマとセシリーウトラップ・ルドヴィグ、マリアンヌ・フォス、エリーザ・ロンゴボルギーニの計6名。
牽引するのはニエウィアドマとルドヴィグ。この二人の尽力が功を奏し、残り7.7㎞でついに先頭二人を引き戻した。
そしてセオリー通りの、ムールマンによるカウンターアタック。ファンフルーテンがこれを抑え込んだ。
この動きで一度遅れかけたマリアンヌ・フォスが残り6.2㎞で集団に追い付くと、その背後についていたフォレリンがカウンターでアタック。これもファンフルーテンが引き戻した。
今度はニエウィアドマがカウンターアタック。これも引き戻されるが、さらにフォレリンがもう一度カウンターで仕掛ける。
すでにフォレリンも足がなくなっており、キレはない。が、その攻撃のたびに着実にファンフルーテンの足は使わされている。
SDワークスの波状攻撃が、最強ファンフルーテンを確実に追い詰めていた。
そしていよいよ、運命のサンタカテリーナ通り。
残り900m。3番手にいたファンフルーテンが加速を開始! すぐさまコペッキーがその後輪に貼りつく。
残り20㎞のピンズートで一度アタックし、その後はレ・トルフェでのファンフルーテンの攻撃に反応した以外は、大きな動きはなく、チームメートのブラーク、ムールマン、フォレリンに任せ続けていた。
この日のコペッキーは明確にチームの最終エースであり、すべてはこの瞬間のファンフルーテンに反応するため。
そして、彼女はしっかりとその役割を果たした!
先頭はファンフルーテン。その背後にコペッキー。ムールマンも一緒になってここに食らいつく。セシリーウトラップ・ルドヴィグもついていこうともがいたが、結局先頭3名のペースについていけず脱落する。
残り600m。16%の超激坂区間が始まる。一度ムールマンが加速しようとするが、すぐにペースを上げたファンフルーテンに並び立つこともできず、そのままずるずると落ちていく。
だが、コペッキーは離れない。先頭ファンフルーテン。
腰を上げ、全力のダンシングが40秒間にも渡って続く。
だが、コペッキーは離れない。シッティングのまま、しっかりとその後輪にしがみつく。
一瞬ギャップが開きかける瞬間もあったが、それでも彼女は耐え抜いた。
そして、頂上に到達。
コペッキーが前に出て、最後のカンポ広場へと向かう石畳を駆け抜けていく。
残り250mからの右カーブでファンフルーテンも意地を見せて加速し、サイドバイサイドで残り100mへ。
最後の直角右カーブでインを獲ったコペッキーが再び前に立つと、そのまま下りフィニッシュを先頭で駆け抜けた。
「最強」にチームで挑んだSDワークス。
そして、最後はそのファンフルーテンの激坂アタックに、しっかりと食らいつき続けたコペッキーが、大きな大きな1勝を掴み取った。
ラストの超激熱「サンタカテリーナ決戦」の様子はこちらから
Strategy, heart, strong legs. Here's the last KM of the 2022 Strade Bianche Women Elite #EOLO 2022 with the battle between @LotteKopecky and @AvVleuten
— Strade Bianche (@StradeBianche) March 5, 2022
👇 #StradeBianche 👇 pic.twitter.com/SUGHp1E8Hc
この後、ロンド・ファン・フラーンデレンでもファンフルーテンを打ち破って初制覇を果たすコペッキー。
今年のシーズン前半戦は、彼女にとってのキャリアハイとも言える瞬間であっただろう。
その後も強かったが、パリ~ルーベ2位、ツール・ド・フランス・ファムポイント賞2位、世界選手権ロードレース2位、3大グランツールでもジロとブエルタは最高位2位、ツールは最高位3位と、なかなか勝ちきれないところも見せていた。
まだ今年27歳ということで、これからの成長も大いに期待できる存在であり、可能性は十分秘めているだろう。
引き続き注目していきたい。
後編(3位~1位)に続く。
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