今シーズンもいよいよ本格的に開幕を迎え、すでにチャレンジ・マヨルカ、サウジ・ツアー、ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナなど、ワールドツアーの選手たちも活躍するヨーロッパの各種レースが開催され始めている。
そんな中、いくつかのレースで、若手ライダーたちが活躍する姿も。
たとえばサウジ・ツアーを総合優勝した22歳マキシム・ファンヒルスや、ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナで総合3位に入った21歳カルロス・ロドリゲスなど。
今回は、このシーズン序盤で早速目立った走りを見せている若手ライダーたちを紹介すると共に、彼らに共通するキーワードである「ロット・スーダルU23」や「ツール・ド・ラヴニール」についても触れながら、解説していこうと思う。
2022シーズン、あるいは今後数年間に渡り注目するべき選手たちが誰なのか、ヒントを集めていく手助けができれば幸いである。
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才能の宝庫「ロット・スーダルU23」出身選手たち
まず驚いたのが、昨シーズン全ワールドツアーチーム中ワースト2位につけ、ワールドツアーライセンス継続に黄信号が灯っているとも噂されているロット・スーダルの、まさかの活躍である。
ヨーロッパロードレースシーズンの開幕を告げる、スペイン・マヨルカ島での5連戦「チャレンジ・マヨルカ」。
その3日目にあたる「トロフェオ・セッラ・デ・トラムンターナ」で、過去3回優勝しており相性抜群のティム・ウェレンスが早速勝利。
さらに5日目のスプリンター向けレース「トロフェオ・プラヤ・デ・パルマ〜パルマ」では、なんと19歳のアルノー・デライが優勝。
過去マルセル・キッテルやアンドレ・グライペルなども優勝しているトップスプリンターたちの定番開幕レースで、マイケル・マシューズやジャコモ・ニッツォーロらを退けてネオプロ1年目の若手が颯爽と勝利を奪い取っていった。
さらに、2/1から始まったサウジ・ツアーでは、その1日目にチームのトップエース、カレブ・ユアンが危なげなく勝利。
しかも4日目のクイーンステージでは、横風分断を乗り越えた先の先頭集団から飛び出したマキシム・ファンヒルスが、登坂距離2.8㎞・平均勾配12%の激坂ハラット・ウワイリドでライバルたちを全て突き放し、最後は独走でフィニッシュにまで辿り着いた。
ここで総合逆転を果たしたファンヒルスはそのまま最終日までジャージを守り総合優勝。
これでチームは5勝。当然、現時点では全ワールドツアーチーム最多勝利。昨年は全12勝(うちユアンが6勝)でワールドツアーランキングではチームDMSに次いで獲得ポイントの低かった「最弱チーム」が、今年はかなり絶好調な状態でシーズンを開幕することとなった。
それも、喜ばしいのが、その5勝のうち半分以上を、チームの若手が獲得しているということ。
例年のクイックステップや昨年のバーレーンを見てもわかるように、勢いのあるチームというのは、「一部のエースに頼るのではなく、数多くの選手が幅広く勝利を掴んでいる」「その中に複数の若手が含まれ、彼らもしっかりと活躍している」といった要素を持っており、その意味で今年のこのロット・スーダルのスタートダッシュは、その条件を満たしうる状況に早速なりつつあると言ってよいだろう。
もちろん、まだまだ序盤も序盤。これだけでそう評価してしまうのは早計に過ぎるというものだが、昨年が昨年だけに、期待したくなるのも確かである。
さて、そんな2人の期待すべき新人、デライとファンヒルスは共に、ロット・スーダルの育成クラブチームであるロット・スーダルU23出身の選手である。
このロット・スーダルU23、2007年に「ダヴォ」の名称で創設され、初年度こそコンチネンタルチーム登録していたものの、2008年以降は現在に至るまでクラブチーム登録であり続けている。
しかし、そのOBは非常に豪華。ティム・ウェレンスやティシュ・ベノート、ヴィクトール・カンペナールツなどのロット・スーダルの名選手だけでなく、ダニエル・マクレーやローレンス・デプルス、クサンドロ・ムーリッセなど、他チームでデビューした実力者たちも輩出している。
近年で言えば2017年ツール・ド・ラヴニール総合2位でその後も世界トップクラスの活躍を見せながらーー若くしてこの世を去ったビョルグ・ランブレヒト。そして、昨年のパリ〜ルーベで衝撃の2位フィニッシュを果たしたフロリアン・フェルメールシュもまた、このロット・スーダルU23出身選手である。
そして、ロット・スーダルは昨年(2021年)、このU23チームから大量の(5名もの)昇格を実現させた。これだけの同時昇格はもしかしたらチーム初かもしれない?
それはもちろん、財政的な理由もあるのかもしれない。一方で、今回の2人の活躍や昨年のフェルメールシュの活躍、ほかにもU23版イル・ロンバルディア覇者でもあるハリー・スウェニーの昨年ジロでの活躍など、結果がしっかりと出ている以上、このロット・スーダルの戦略は今後についても十分に期待できるものと言えるだろう。
一方、コービー・ホーセンスやヘルベン・タイッセンなど、同じく才能あるロット・スーダルU23出身者を今年放出してしまっているのは残念。
タイッセンは2020ブエルタで区間2位や5位など、ホーセンスは今年のチャレンジ・マヨルカでシングルリザルトを連続で叩き出すなど、それぞれ十分な実績を残しているだけに、上記の方針を考えると非常に残念な放出であった。
だが、いずれにせよこの「ロット・スーダルU23出身選手」というのは、今後の注目ライダーを見ていくうえで重要なキーワードとなることは間違いない。
チームに残っている出身選手たちはもちろん、他チームに移籍した選手や他チームでデビューした出身選手たちにも、注目していきたいところである。
なお、このロット・スーダルU23出身の「日本人」選手もいる。りんぐすらいどれでぃおなどでも度々言及しているTosh Teare選手である。元々は英国人で、20歳の国籍選択の段階でどういった理由でかは不明だが、日本人を選んだもの、と思われる。
2021シーズンはトム・ピドコックなどもかつて在籍していたトリニティ・レーシングに籍を置いていることは確認できたが、今年に入ってからはそこは不明で、本人のTwitterに行ってみても自転車とは関係ない内容のリツイートばかりで状況は不明であるが、どこかで彼が活躍する姿を見ることができたら嬉しいものだ。
今年もバーレーンが活躍? ブイトラゴの覚醒
サウジ・ツアーのクイーンステージを優勝し、総合でも頂点を極めたのはファンヒルスだったが、もう1つの登りステージであった第2ステージを制したのはバーレーン・ヴィクトリアスのサンティアゴ・ブイトラゴ。
フィニッシュ前残り1.5㎞から始まる激坂の、ラスト1.1㎞から飛び出したブイトラゴ。同時に食らいついてきたダニエル・オスはやがて脱落するが、その後に集団から飛び出してきたのがクイックステップ・アルファヴィニルのアンドレア・バジョーリ。
同じく若手ながら、元U23版イル・ロンバルディア(ピッコロ・ロンバルディア)覇者であり、すでにプロレースでも実績を出しているバジョーリの存在はブイトラゴにとっても脅威。とくにスプリントにおいては、2020年ツール・ド・ラン初日ステージでプリモシュ・ログリッチとのマッチスプリントを制しているだけに、ブイトラゴに勝ち目はないように思われた。
だが、前日に落車に巻き込まれた影響が残っていたのか――残り300mでスプリントを開始したブイトラゴに対し、バジョーリはついていくことができず、最後は残り75mで諦めて足を止めてしまった。
かくして、22歳のコロンビア人、サンティアゴ・ブイトラゴが、ついにプロ初勝利を果たすことに。
昨年のブエルタ・ア・ブルゴスでも総合8位と、才能の片鱗を見せていた男が、ついに覚醒の瞬間を見せてくれた。
なお、最終的に彼はファンヒルスに敗れて総合2位に終わるが、それは第4ステージの横風分断により後方に置き去りにされたことが大きな原因であり、そのステージも終盤で何とか追走集団に追い付くことはできていたので、惜しい敗北ではあった。
どちらかというとパンチャータイプのファンヒルスに比べると、グランツールなどでの純粋な登坂力ではおそらく、ブイトラゴの方が上手ではあると思う。
昨年も数多くの選手が意外な活躍を連発していた好調バーレーン・ヴィクトリアス。
そのシーズン終盤のブエルタ・ア・エスパーニャでは、2018年ツール・ド・ラヴニール総合3位の若手ジーノ・マーダーも総合5位と活躍しており、若手が力を発揮する環境も整備されている。
今年もその勢いを継承し、ブイトラゴが急成長を遂げることができるか。
個人的にはサウジ・ツアー開幕前も注目していた選手なので、引き続きその実力を証明し続けてほしい。
2021ラヴニール組の活躍
最後に、サウジ・ツアーと同時並行で開催されていた2つのレース、南フランスのエトワール・ド・ベセージュとスペインのボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(バレンシア1周レース)で活躍した2人の若手について触れておこう。
まずはエトワール・ド・ベセージュ。ツール・デュ・ガールの別名が示す通り、南フランスのガール県を舞台とする全5ステージのステージレースで、強烈な山岳は少ないものの、細かなアップダウンの多い、実にフランスらしいサバイバルなコースレイアウトと、最終日の登りを含んだ短距離TTが特徴的であり、過去にも激しい展開が得意なパンチャー/ルーラータイプが総合優勝を果たしている。直近ではティム・ウェレンス、ブノワ・コヌフロワ、クリストフ・ラポルトなど。
今大会も、最初の2ステージの登りスプリントフィニッシュで、マッス・ピーダスン(トレック・セガフレード)が1位と2位を獲得し総合首位に立つが、クイーンステージとも言える第3ステージの激しいアップダウンに、ピーダスンも脱落。
生き残った先頭集団から飛び出したバンジャマン・トマ(コフィディス)が総合首位に立ち、最後までこれを守ることに成功した。
その中で頭角を表していたのが、昨年のツール・ド・ラヴニール覇者トビアスハラン・ヨハンネセン(ノルウェー、22歳、Uno-Xプロサイクリングチーム)。
第2ステージの激坂フィニッシュでも、抜け出したピーダスンとブライアン・コカールに食らいつき、タイム差なしの3位。
そしてトマが独走勝利を果たした第3ステージでも、これを追いかけた2020年総合2位アルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・イージーポスト)と共に追走集団を形成し、ベッティオルに対して牽制することもなくアグレッシブにアタックを仕掛けていった。
一度はベッティオルを突き放しかけるが、結局は追いつかれ、最後のスプリントに敗れてその日は3位に終わったものの、翌日の第4ステージでもそのアグレッシブさを存分に発揮。
1級山岳モン・ブケ山頂フィニッシュとなるこのステージの、ラスト2㎞で先頭メイン集団から飛び出したジェイ・ヴァイン(アルペシン・フェニックス)に、ヨハンネセンは迷わず食らいついていった。
その後もヴァインと先頭交代を繰り返しながら懸命にペダルを回し続けるヨハンネセン。
後続では41秒遅れの総合首位バンジャマン・トマのために、チームメートのレミ・ロシャスが牽引を続けるが、ヨハンネセンたちとのタイム差は縮まらない。
最終的には、このトマや総合2位ベッティオルたちをすべて突き放して飛び出してきたクレマン・シャンプッサン(AG2Rシトロエン)が、ヨハンネセンたちに追い付き、そのまま小集団スプリントへと突入。
そのスプリントで、ヨハンネセンは残り200mから最初に仕掛ける。
そしてそのまま、シャンプッサンにもヴァインにも影を踏ませず、圧勝して見せたのであった。
昨年のツール・ド・ラヴニールでも、小集団スプリントでライバルたちを幾度となく下してきたヨハンネセン。スプリント力には十分に自信があったようだ。
昨年のラヴニールは、U23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)を圧勝したフアン・アユソーが序盤で落車リタイアし、「王者不在」の様相の中でヨハンネセンが勝った印象もあった。
が、そんなヨハンネセンもやっぱり(当たり前だが)十分に強かった。今年、ジロ・デ・イタリアでトム・デュムランと共にユンボ・ヴィスマのエースを担う予定の2019年覇者トビアス・フォスに負けない、世界トップレベルでの活躍を見せることができるか。
また、この第4ステージで2位に入ったヴァインも、今年27歳と若くはないものの、昨年プロデビューしたばかりの「遅れてきた新人」ではあり、昨年もブエルタ・ア・エスパーニャでの区間3位など目覚ましい活躍をしてみせてくれている期待の存在である。
シャンプッサンも2019年ツール・ド・ラヴニール総合4位、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージでは衝撃のステージ優勝を果たしたばかりの23歳で、これもまたラヴニール出身の期待の若手。
さらにはヴァイン、ヨハンネセンの飛び出しに対し、遅れて飛び出してたった一人で追走を続けていたアントニオ・ティベッリ(トレック・セガフレード)は、最終的には3位に入り込むが、彼もまた昨年デビューしたばかりの、わずか20歳の「超」若手である。
このエトワール・ド・ベセージュはまさに若き才能の宝庫。ここで活躍した選手たちの今シーズンこのあとの走りにも注目である。
そして、昨年のツール・ド・ラヴニールの「総合2位」カルロス・ロドリゲスもまた、この週末に活躍してみせていた。
昨年もこの時期のツール・ド・ラ・プロヴァンスで山岳アシストとして類稀なる強さを見せていたロドリゲス。昨年のラヴニール最終ステージでは大逆転を狙った果敢なアタックも繰り出していた彼であったが、今回のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナでは「山岳アシスト」としてでも「若手最注目『であるだけ』」ではない新たな可能性を示してみせてくれた。
ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナはかつて日本では「バレンシア1周」という言い方でも知られていたシーズン序盤の重要なレースの1つであり、チャレンジ・マヨルカからブエルタ・ア・ムルシア、そしてブエルタ・ア・アンダルシアへと繋がっていく重要な「スペインキャンペーン」の一角であり、過去にはナイロ・キンタナやアレハンドロ・バルベルデ、そしてタデイ・ポガチャルなどトップクライマーたちが総合優勝しているレースである。
本格的な山岳ステージとなった初日から、ロドリゲスはレムコ・エヴェネプール、アレクサンドル・ウラソフに次ぐ区間3位。
だがそれ以上に衝撃的だったのはクイーンステージとなった第3ステージ。
登坂距離9.8㎞・平均勾配7.5%というプロフィールをもつ1級山岳アルト・アンテナス・デル・マイモ・ティビ山頂フィニッシュ。しかもフィニッシュ前4㎞から1㎞地点にかけて、非常に荒い未舗装路が続いているレイアウト。
初日に独走勝利を挙げたレムコ・エヴェネプールですら、この未舗装路終了後に体力を使い果たし大きく失速する中、昨年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位のエンリク・マスも、元マウンテンバイク走者のヤコブ・フルサンも、アレハンドロ・バルベルデすらもすべて突き放し、ステージ勝利したアレクサンドル・ウラソフに続く区間2位でフィニッシュしたのが、この21歳のカルロス・ロドリゲスであった。
最終的にも総合3位と、高い安定感を見せつけたロドリゲス。今のところ今年のグランツール出場予定は未定ではあるが、TT能力も高い彼が表向きはアシストという形であってもツール・ド・フランスへと出場してくれないかと期待してもいる。
もしかしたら昨年のヨナス・ヴィンゲゴーのような、驚くべき飛躍を見せてくれるのではないかと思っている。
いかがだったろうか。
シーズン序盤ながら、非常に多くの若手有望選手たちが活躍してくれていたことが分かったのではないだろうか。
もちろん、あくまでもまだシーズン序盤。ここでの好調がシーズン全体を占うわけではないし、トップ選手たちがまだあくまでも調整段階でしかないときに、相対的に若手が良い成績を出しているだけであるというのもまた真実だろう。
それでも、若手の選手の活躍はチームに活力をもたらし、そして観る側の私たちにとっても非常にワクワクさせてくれるものであることは間違いない。
ここに出したのはほんの一例。
これからも、鮮烈な走りを見せてくれた若手選手がいれば、積極的に取り上げていければと思う。
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