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2020シーズンを振り返る④ UCI世界ランキング個人10位〜1位全レビュー

 

前編に引き続き、UCI個人ワールドランキングを見ていく。

今回はTOP10の10名。今年最も活躍した10名のロードレース選手を紹介していく。

いずれも今年を代表する選手たちばかり。彼らがどんな活躍をし、どんな課題をもっているのか、見ていこう。

 

そして、本来はここに名前が上がるべきだったのに今年のこの特殊な状況下で苦しみ、名前が載らなかった選手たちにも思いを馳せよう。

彼らが来年、どんなリベンジを果たしてくれるのか、それもまた、楽しみだ。 

※年齢表記はすべて2020/12/31時点のものとなります。

  

 

↓20位~11位はこちらから↓

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過去の「UCI世界ランキング」記事

2016年シーズンを振り返る① ~UCIワールドランキング個人ベスト21位~11位全レビュー~ - りんぐすらいど

2016年シーズンを振り返る② ~UCIワールドランキング個人ベスト10位~1位全レビュー~ - りんぐすらいど

2017年シーズンを振り返る② UCIワールドランキング個人21位~11位全レビュー - りんぐすらいど

2017年シーズンを振り返る③ UCIワールドランキング個人10位~1位全レビュー - りんぐすらいど

2018年シーズンを振り返る② UCIワールドランキング個人20位~11位全レビュー - りんぐすらいど

2018年シーズンを振り返る③ UCIワールドランキング個人10位~1位全レビュー - りんぐすらいど

2019年シーズンを振り返る② UCI世界ランキング個人20位~11位全レビュー - りんぐすらいど

2019年シーズンを振り返る③ UCI世界ランキング個人10位~1位全レビュー - りんぐすらいど

 

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第10位 マルク・ヒルシ(チーム・サンウェブ)

昨年95位 スイス、22歳、パンチャー

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2018年インスブルック世界選手権のU23王者。

2019年にはサンウェブでプロデビューし、イツリア・バスクカントリーの登りスプリントフィニッシュで連日上位に入るなど、パンチャーとしての適性を見せていた。

 

そして真に驚くべきは、パンチャー/クライマー系ワンデーレースの最高峰の1つ、クラシカ・サンセバスティアンで、逃げ切ったレムコ・エヴェネプールを追いかけた追走集団の2番手(=3位)を獲得したこと。

そのとき集団先頭を取ったのはグレッグ・ファンアーヴェルマート。そしてヒルシの背後でフィニッシュしたのは、ゴルカ・イサギレ、バウケ・モレマ、パトリック・コンラッドなど錚々たる顔触れ。

プロ初年度から彼は、トップライダーたちと互角に渡り合う実力の高さを見せていたのだ。

 

とはいえ、それでも今年の活躍は予期できなかった。将来有望とはいえ、今年いきなりツール・ド・フランスで1勝し、しかも2位と3位も1回ずつ。

フレーシュ・ワロンヌで勝ち、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは2位に入り、そして世界選手権でもクフィアトコフスキやフルサン、ログリッチらを退けて銅メダルを獲得した。

また彼は2019年のE3ビンクバンククラシックでも10位に入っている。急坂系の北のクラシックであれば、十分に戦えるポテンシャルを持っている。

 

来年は一体どんな成果を出してくれるのか。

とりあえず、無事開催されたとしたら、東京オリンピックの金メダル最有力候補の1人であることは間違いない。

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第9位 アルノー・デマール(グルパマFDJ)

昨年82位 フランス、29歳、スプリンター

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実績で言えば間違いなく今年最強のスプリンターである。

ブエルタ・ア・ブルゴスで2位を2回続けたときは「今年は調子がいいな」くらいだったが、続くミラノ〜トリノでカレブ・ユアンらを打ち破り勝利したときから「今年はもしかしてマリア・チクラミーノいけるかもしれない」と思うようになった。

 

さらにツール・ド・ワロニーでは区間2勝と総合優勝。

フランス国内選手権ではフィニッシュ前の登りでジュリアン・アラフィリップのアタックに食らいついていっての勝利で、今年の彼が登りでもかなり調子がいいこともわかった。

 

それでも、まさかジロ・デ・イタリアでここまで圧倒してしまうとは。

たしかに、サガンもヴィヴィアーニもツールからの連戦だし、ガビリアもホッジも調子は万全ではなく、ユアンベネットアッカーマンクラスのライバルがいなかったのは事実だ。

それでも、2018年のジロ以来となる「グランツールでの4勝」は見事としか言いようがない。

 

それも、登り勾配のスプリントでマイケル・マシューズやファビオ・フェリーネを突き放して勝利したことすらあった。

昨年は最後の最後で策士策に溺れるような形でマリア・チクラミーノを失ったが、今年は文句なしの獲得である。

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来年はいよいよツール復帰もありえそう。

今回の勢いを保ち、「世界最強が集まる舞台」で同様に強さを見せつけられるか。

 

 

第8位 ディエゴ・ウリッシ(UAEチーム・エミレーツ)

昨年14位 イタリア、31歳、パンチャー

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プロ11年目。今や珍しいくらいのピュアパンチャーで、2011年から10年間、勝利のない年がないというのは意外と凄いことなのでは? もちろん年によって濃淡はあるが、特に今年はグラン・ピエモンテ2位、ジロ・デッレミリア3位、ツール・ド・ルクセンブルク区間2勝と総合優勝とかなり調子が良かった。

そしてジロ・デ・イタリア2勝である。これでジロ・デ・イタリア通算8勝。しかも急勾配登りスプリントとデマールも含めたスプリンターたちを軒並み脱落させたアップダウンステージの果てのスプリントという、彼の脚質が最も生きるパターンでの勝利。

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これでいてまだ来年は32歳なのだから凄い。これからもまだまだ大きな勝利を積み重ねていくポテンシャルを持っている男だ。

 

なお、個人的に来年期待しているのはツール・ド・フランスの第1ステージ。

ブルターニュ開幕の来年のツールは、かなり珍しいピュアパンチャー向けフィニッシュ。

ツールは好きじゃないらしいーー実際に出場経験はわずか1回のみーーが、ここでしっかりと勝ってマイヨ・ジョーヌを着るウリッシを見てみたい。

 

 

第7位 リッチー・ポート(トレック・セガフレード)

昨年85位 オーストラリア、35歳

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かつてのクリス・フルームの右腕。そしてのちに最大のライバルと目され、フルームを倒してマイヨ・ジョーヌを着るのは彼かキンタナか、と言われたときもあった。

しかし、1週間のステージレースでは無類の強さを発揮する彼も、3週間の戦いにおいては、なぜか降りかかる不運にも苦しめられながら、結果が出せない。

気がつけばグランツールの頂点どころか表彰台すら得られないままに35歳を迎え、引退の噂すら飛び交っていた。

このまま終わってしまうのか、リッチー。

 

今年は、調子が良かった。

ツアー・ダウンアンダーではウィランガ・ヒルこそ失うものの久しぶりの総合優勝。

シーズン再開後もルート・ドクシタニー総合6位やモンヴァントゥ・チャレンジ2位、ツール・ド・ラン、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも終盤まで先頭に残りログリッチやベルナルなどトップライダーたちを競り合う姿を見せていた。

 

だから例年よりずっと調子が良いとは思っていた。

ただ、いつもそう期待させていて・・・というのが彼のお決まりパターンで、今回もそんな感じで終わるんじゃないかと、頭の片隅では常に思っていた。

 

ツール・ド・フランス本番でもランやドーフィネのように最後まで先頭に残ってアグレッシブに動く姿が目立った。

だが、動き出しが早過ぎるのか最後までは持たず勝利には届かなかった。

調子は相変わらず良いけれど、同じく調子が良いギヨーム・マルタンやロマン・バルデと共に、中盤以降崩れていくのだろうと、なんとなく思っていた。

 

しかしグラン・コロンビエを経ても、ラ・ローズを経ても、彼は常に先頭に居続けた。そしてログリッチ、ポガチャルに次ぐ走りを見せながら、総合4位で最後の総合争いの舞台、第20ステージ、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユに辿り着いた。

それでも総合3位ミゲルアンヘル・ロペスとのタイム差は1分39秒。

いくらロペスがTTが苦手とはいえ、クライマー向けのレイアウトということもあり、逆転は決して簡単ではない。

それでも総合4位というポジションは十分に守れそうで、リッチーは本当に今年は頑張ってくれた・・・

 

そんな風に思っていたなかで。

まさかのロペス、大失速。

そしてまた、リッチー・ポート自身が、その最盛期を思い起こさせるような好走を見せ、区間3位。

文句なしの総合表彰台を獲得した。

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元々、これがエースとして走る最後のツールになるかもしれない、と少し弱気な発言をしていたポート。来季移籍する先がイネオスであることも、その思いを補強するものとなっていただろう。

一応、この思いがけぬ総合3位のあと、その思いは変わったかどうか尋ねられどっちとも言えない回答をしていたものの、基本はやはりアシストとして走ることが中心になるとは思う。

それでも、彼が決して「終わった」選手ではないことを力強く示した今年のツール。

これからあと数年の彼の走りを引き続き楽しみにしていきたい。

 

 

第6位 ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

昨年2位 フランス、28歳、オールラウンダー

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「フランスの英雄」ジュリアン・アラフィリップにとって、2020シーズンは実に浮き沈みの激しいシーズンとなった。

 

シーズン序盤は苦しかった。昨年惜しくも総合2位に終わりリベンジを誓っていたはずのブエルタ・ア・サンフアンでは体調不良で早々にリタイア。

昨年区間1勝しているツアー・コロンビアもパリ〜ニースもイマイチなまま終え、新型コロナウイルスによる長期中断期間を迎えることになる。

 

いよいよシーズン再開後のスケジュールも発表され、再始動に向けて各チームがキャンプを開始する中、アラフィリップが選んだのは高地トレーニングであった。

昨年勝っているストラーデビアンケやミラノ~サンレモに焦点を合わせるのではなく、ツール・ド・フランス、そしてその先のクライマー向けのエーグル・マルティニー世界選手権に向けての調整と思われた。

その実力はミラノ~サンレモのポッジョ・ディ・サンレモでの強烈なアタックやツール・ド・フランス第2ステージのキャトル・シュマン峠でのアタックなどに見られ、前者では最後のスプリントでワウト・ファンアールトに敗れるものの、後者ではきっちりと勝利を掴んだ。

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そして、エーグル・マルティニーが新型コロナウイルスの影響で中止になりつつも、突貫スケジュールでイモラに用意された世界選手権も十分クライマー向けに。

その中で、最後の勝負所のチーマ・ガリステルナでの「誰も止められないアタック」。ミラノ~サンレモでのそれと同じく、しかしそれ以上に強烈で、今度はファンアールトもフルサンもマルク・ヒルシも誰も追いすがることはできなかった。

そしてついに、ついに、ついに掴み取ったアルカンシェル。

誰もがそれを期待し、獲って当たり前とさえ思われるようにすらなっていた中での、ようやく掴んだ栄光。

それは亡き父への最高の報告となったことだろう。

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これで終われば成功で締めくくられるシーズンとなったことだろう。

しかし続くリエージュ~バストーニュ~リエージュでやってしまった衝撃的な「大ポカ」。斜行も含め本人としてもつらい記憶となってしまったようだ。

直後のブラバンツペイルでは勝利したものの、このときもまた同様の「失敗」をやってしまいそうになるギリギリのところだった。

 

そして何よりも、ロンド・ファン・フラーンデレンでの悔しい結末。あれほどアグレッシブにアタックを繰り返し、やっとつかんだチャンスだったのに、正直、不注意と不運とが重なり合っての大落車となってしまった。

 

振り返ってみればひたすらに強かった。ミラノ~サンレモ2位、ツール・ド・フランス区間1勝、世界選手権優勝、リエージュ~バストーニュ~リエージュも斜行があったとはいえ一応2着でのライン到達、そして初挑戦のロンド・ファン・フラーンデレンでの、あの展開を作り上げた驚くべき才能。

間違いなく彼は年を重ねるごとに想像を超えるレベルで進化している。

だからこそ、それがすべて結果につながらなかった今年はとても悔しい思いもいっぱいで・・・来年はきっと、さらにずっともっと、輝くはずだ。

 

 

第5位 ヤコブ・フルサン(アスタナ・プロチーム)

昨年3位 デンマーク、35歳、オールラウンダー

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新型コロナウイルスによるシーズン中断前はブエルタ・ア・アンダルシアのみの出場だが、そこではまったく危なげのない様子で総合優勝。調子の良さを思い知らしめた。

ストラーデビアンケでは5位、ツール・ド・ポローニュでは2位、そしてイル・ロンバルディアでは優勝。

ティレーノ~アドリアティコでは総合14位に終わるが、これはどちらかというと若手アレクサンドル・ウラソフに華を持たせたように見えなくもなく、そこまで不安視する材料ではなかった。

そして世界選手権5位を経て迎えたジロ・デ・イタリア。

 

元々、今年はツール・ド・フランスをミゲルアンヘル・ロペス単独エースとし、フルサンはツールに出たとしてもアシストに集中し、あくまでも今年の最大の目標はジロと東京オリンピックだった。

そしてシーズン初頭からの調子の良さもあり、今年のジロの最大の総合優勝候補はレムコ・エヴェネプールかこのフルサンか、といった思いがあった(当時はまだゲラント・トーマスがジロ出場を決めていなかったため)。

そしてエヴェネプールの怪我による戦線離脱。となれば、急遽参戦決定したトーマスがいれど、やはりフルサンは総合優勝候補筆頭といえるだろう・・・そんな思いで迎えたジロ・デ・イタリアだった。

 

だが、そこにアシストとして参戦していたロペスが初日に、急成長を遂げていた準エース候補のアレクサンドル・ウラソフが2日目にリタイア。

最初の2日間で山岳アシストを2枚失うくらいならば、最初からその二人が参戦せず別のクライマーが入っていた方がましなくらいだった。残っているアシストはパンチャーのファビオ・フェリーネくらいで、彼もかなり頑張ってくれてはいたが、やはり3週間の後半戦になってくるとフルサンが一人で走る姿が目立つようになった。

 

今年のジロ・デ・イタリア総合6位は決して彼が持つ本来の実力ではないと確信している。

来年はロペスがチームを去り、正真正銘のエース候補筆頭に。イサギレ兄弟やテハダといった強力な山岳アシストをつけてもらえる体制となれば、期待してもいいのではないか。

ただ、勢いでいうとやはりウラソフの方が上とも言えるので、どっちを優先させられるのか、もしくはダブルエースで苦しい状況になってしまうのか。

来年36歳。決して肉体的には最高の状況ではないだろうが、2010年代の英雄たちの傍らに立ち続けてきた最高の「元アシスト」の、36歳の「頂点取り」をぜひ、見てみたい。

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第4位 マチュー・ファンデルポール(アルペシン・フェニックス)

昨年12位 オランダ、25歳、パンチャー

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シクロクロスで3回の世界王者、マウンテンバイク・クロスカントリーでオランダとヨーロッパの王者を経験している「自転車の天才」。

ついにロードレースにおいても、「クラシックの王」と称されるロンド・ファン・フラーンデレンを制する。それも、シクロクロスにおける最大のライバルたるワウト・ファンアールトとの一騎打ちを制して。

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今年のマチューは、さすがに新型コロナウイルスによる影響を受けていたのか、昨年ほどの圧倒さは感じなかった。

上記表を見ていただければそれでも錚々たる成果であることは間違いないし、とくに今年はグラン・ピエモンテ3位やリエージュ~バストーニュ~リエージュ6位、イル・ロンバルディア10位など、登りへの強い敵性も見せつつある。

だがより強烈な進化を遂げたワウト・ファンアールトと比べるとそれでもピュアスプリントはチームメートのティム・メルリエに譲ったり、ティレーノ~アドリアティコなどの本格的な山岳ステージレースでは早々に総合を諦めたり、お決まりの独走パターンに持ち込んでもオリバー・ナーセンらにギリギリまで追い詰められたりと、膨らみ過ぎている期待に100%応えるようなものではなかった。

だがその最終幕に成し遂げたロンド制覇。

やはり彼は、その期待が大きくなりすぎているがゆえに見えなくなっているが、ロードレース界においてもトップクラスの存在であることを思い起こさせてくれた。

 

そして来年は、いよいよグランツールである。所属チームのアルペシン・フェニックスが、今年のUCIプロチームランキングで1位を獲ったことで、来年はグランツール含むすべてのワールドツアーレースに出場できるようになっているのである。

 

もちろんその中にはツール・ド・フランスも含まれている。来年はツールで活躍するマチューという姿を見られるのかもしれない。

非常に楽しみである。 

 

 

第3位 ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィズマ)

昨年37位 ベルギー、26歳、ファンアールト

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1年前の大怪我から1年。

わずか1年で、復活どころか、より強くなってこの男は帰ってきた。

過去2年、3位を獲り続けてきたストラーデビアンケでついに優勝。

そして、初のモニュメント、ミラノ~サンレモの獲得。

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それだけでも十分すぎるドラマだというのに、さらに彼はツール・ド・フランスで奇跡を巻き起こした。

すなわち、ピュアスプリントにおいてサム・ベネット、カレブ・ユアン、ペテル・サガンといった強豪たちを退けて区間2勝。

さらには、山岳で見せる強烈な牽引の数々。世界最高峰の難山岳グラン・コロンビエにおいては、その道程の半分を牽引し続けるなど、一流の山岳アシスト顔負けの実力の高さを見せつけた。

石畳、丘陵、スプリント、タイムトライアル、そして山岳と・・・あらゆる局面において高すぎる実力を誇る彼はまさしく「脚質ファンアールト」。それはある意味で、サガンをも超える存在となった。

 

ゆえにこれから、彼がどんな進化を遂げていくのか・・・期待もあり、不安もあり。今年の世界選手権でジュリアン・アラフィリップに先を行かれ、追走を仕掛けようとしたものの強すぎる自分を警戒されるあまり成す術もなく2位に甘んじることになった経験をもとに「今年はものすごく調子が良かったからこそ逃したのが悔しい」といったようなことを告げていた。

彼自身が今年の成長ぶりに驚いているようだったが、本当に大事なのはこれからだ。それこそ、ヘント~ウェヴェルヘムでも見せたこの「牽制」の中からの抜け出し方など含め、彼はもっともっと成長し、安定していく必要があるだろう。

 

また、今年はシクロクロスでもやはり注目である。

今年の調子の良さをもし引き継げているのであれば、ここ最近は負けっぱなしだったマチュー・ファンデルポールとの戦いをも制する可能性はあるのではないか。

 とりあえず、今年のファンアールトのシクロクロス初参戦となる「コルトレイク」のレースレポートは以下。やっぱりファンアールト、強い。

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第2位 タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)

昨年17位 スロベニア、22歳、オールラウンダー

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2018年ツール・ド・ラヴニール覇者。プロデビュー初年度となる2019年はいきなりのヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合優勝、ツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝、そしてブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位。

そして今年、ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ総合優勝・UAEツアー総合2位を経て、スロベニア国内選手権ではロードレースこそログリッチに敗れるものの、TTでは逆に彼を打ち負かし国内王者に。

そして迎えたツール・ド・フランス。クイーンステージ以外では横風で遅れた日を除き常にログリッチと同じ集団でフィニッシュし続けたこの男が、最後の最後で覚醒。元世界王者トム・デュムランを1分以上上回る神がかったタイムを記録して、誰もが信じられない光景を見せつけた。

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ワールドツアー2年目でのツール制覇。その成績はそれだけ見ればエガン・ベルナルと同じだが、ほぼ一人で戦ったことや最後の想像を超える走り、元々の期待値の高さの違いなどから、より衝撃的で印象的だった。

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だがもちろん、やはり注意していかなければならないのはこの先だ。

そのベルナルが今年被った苦しみが同様にポガチャルにももたらされないとは限らない。そして、一人で戦い続けることにはやはり限界がある。チームがどれだけ彼を支えられるか。

 

今年、彼は歴史を作った。しかし、本当の意味で歴史に刻まれる選手になるには――アルベルト・コンタドールやクリストファー・フルームのような——ここから先の走りが何よりも重要になる。

まずは2021年だ。

 

 

第1位 プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィズマ)

昨年1位 スロベニア、31歳、オールラウンダー

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間違いなく強い男だった。 

彼自身はもちろん、チームもまた、最強だった。

セップ・クス、ワウト・ファンアールト、ジョージ・ベネット、ヨナス・ヴィンゲゴー、ロベルト・ヘーシンク・・・トム・デュムランやステフェン・クライスヴァイクなど最も期待されていた選手たちは十分な力を発揮しきれなかったものの、若手も含めた層も非常に厚く、それはまさに最盛期のスカイ/イネオスに匹敵するものであった。

 

それがゆえに、彼らがツールを制したとしても何もおかしくはなかった。

それなのに、彼らはそれを成し遂げることができなかった。

だが、プリモシュ・ログリッチという男の強さは、そこから真に発揮される。

 

あまりにも衝撃的な敗北の後も、彼は走るのをやめなかった。そして手に入れたリエージュ~バストーニュ~リエージュの優勝と、ブエルタ・ア・エスパーニャでの2年連続となる総合優勝。

ある意味彼は「挑戦者」であり続けるときの方が強いのかもしれない。がむしゃらに数秒を獲りにいくその姿勢。最後の一瞬までバイクを投げることを忘れないその姿勢。

彼は決して王者であり続けたわけではなく、むしろ異業種から殴り込みをかけてきてまだ数年しか経っていないチャレンジャー。

王道から外れたその経歴が、他の者にはない彼特有の強さを生み出してくれているように思う。

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だから私は信じている。

今年の彼やチームの走りは決して奇跡ではなく。

次々と台頭してくる若き才能たちを相手取って、彼がまた来年ツールに挑戦し、そしてその頂点を今度こそ手に入れることを。

正直、普通に考えれば厳しいところもあるように感じる中で、彼はその強い執念でもって、チャレンジャーとして挑んだそのツールでこそ、成果を得ることができるような気がするのだ。

 

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