前編に続き、2019年シーズンのUCI世界ランキング最終結果の10位~1位を紹介していく。
前編でも書いたように、ぜひ、これから本格的にロードレースに親しんでいきたいという人たちが、今世界の上位にいるロードレース選手たちはどういう人たちなんだろう、という疑問に対する参考になれば幸い。
↓20位~11位はこちら↓
- ペテル・サガン(スロバキア、29歳)
- エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、30歳)
- アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、32歳)
- パスカル・アッカーマン(ドイツ、25歳)
- グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、34歳)
- アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、39歳)
- エガン・ベルナル(コロンビア、22歳)
- ヤコブ・フルサング(デンマーク、34歳)
- ジュリアン・アラフィリップ(フランス、27歳)
- プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、30歳)
※以下の記載の年齢はすべて2019/12/31時点のものとなります。
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第10位(昨年4位)ワンデーレースランキング10位
ペテル・サガン(スロバキア、29歳)
ボーラ・ハンスグローエ所属、スプリンター
今年のサガンは、決して調子は良くなかった。勝利数もたったの4勝。14勝(2016年)、12勝(2017年)、8勝(2018年)などと比べても着実にペースを落としている。1月のツアー・ダウンアンダーで1勝した後は、5月のカリフォルニアまで勝利なし。ここまでひどい状況は2015年以来である。
カリフォルニアでの勝利のあとは、ツール・ド・スイス、ツール・ド・フランスと順調にいつものビッグレースで勝利を重ねていった。スイスでは個人TTでホットシートで待機するランパールトのところに勝手に遊びに行ったり、ツールでは「ハルク」ポーズやシャンゼリゼでのイネオスのフォトセッションに勝手に入り込むなど、いつものサガン節が見られなんとなく安心する部分はあった。それでも、やっぱり今年のサガンは、ここ数年の中では際立って不調だった。
来年はジロに臨むという彼は、もしかしたら大きくレーススケジュールを変えるかもしれない。少なくともカリフォルニアとスイスは出ないだろう。
新たに生まれ変わった彼を見ることができるのか、それともこれが、「終わりの始まり」にならないか・・。
第9位(昨年3位)ワンデーレースランキング8位
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、30歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ所属、スプリンター
ジロ・デ・イタリアでの「降格」騒動。そのあとの、どことなくぎくしゃくした感じ。スイスでは2勝して調子を取り戻したかのように見えたが、ツール・ド・フランスではやっぱりどこか、チームとも噛み合わない様子が見えていた。
このまま今年は、「最強」の座をユアンに明け渡してしまうのかーーと思った中で、シーズン後半のライドロンドン、ヨーロッパ選手権、サイクラシックスハンブルクの3連続優勝! やっぱり彼は強かった。
だが、来年はコフィディスへの移籍。「クイックステップからの離脱」は、キッテル、ガビリアに続き彼にもまた、不調をもたらすのか、それとも。
第8位(昨年23位)ワンデーレースランキング2位
アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、32歳)
UAEチーム・エミレーツ所属、スプリンター
いやあ、強かった。そんなに目立ってなかったけれど、蓋を開けてみれば。
それは北のクラシックUCIポイント獲得ランキングのときにも感じた感覚だった。ヘントとロンドでしっかりと稼ぎ、さらにハンブルク、フランクフルトと、UCIワールドツアーのワンデーレースでもきっちりと上位入賞を繰り返していった。
コンソンニなどアシストの力を借りながら勝利を奪う形がメインのガビリアに対し、彼の方はどこか孤独に、独力で勝利を稼いでいく感じを受ける。UAEというチームにおいては、そのスタイルの方が結果を得やすいのかも。
ただ、来年はやっぱり勝利が欲しい。「思ったより強かったんだね」じゃなくて、「やっぱ強かったよね!」と納得できる結果を。
第7位(昨年24位)ワンデーレースランキング6位
パスカル・アッカーマン(ドイツ、25歳)
ボーラ・ハンスグローエ所属、スプリンター
勝ち始めたのは昨年から。3月のスプリンターズクラシックで常に上位に入り続けていたかと思えば、いきなりワールドツアーのツール・ド・ロマンディでプロ初勝利。続いてドーフィネ、国内選手権、ライドロンドン〜サリーと、大きな勝利を重ねていった。結果、9勝。
そして今年は、13勝。しかも、ジロ・デ・イタリアの2勝に、ポイント賞ジャージの着用。誰もが認める、世界トップスプリンターの仲間入りを果たした。
来年は、サガンがジロ、ツールの両方に出ることを明言しており、アッカーマンの行方が気になる。ドイツチームのドイツ人スプリンターとして、それ相応の待遇を望むところはあるだろう。もちろん、移籍問題が長引くサム・ベネットとの関係も。
レース後の笑顔が印象的な選手。その笑顔が歪むことのないことを願う。
第6位(昨年7位)ワンデーレースランキング1位
グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、34歳)
CCCチーム所属、パンチャー
そう、彼は間違いなく強かったのだ。チームの半数以上が流出し、もはや半分プロコンチネンタルチームのようになったこのチームで、エースとしての責任を強く感じながら、その役目を見事に全うしてくれた。
だが、勝てなかった・・・ほとんど彼一人で戦わなければならない体制は・・・限界があった。
だからこそ来年、マッテオ・トレンティンがチームにやってきてくれることが、彼にとっても大きな結果をもたらしてくれることを期待している。
第5位(昨年1位)ステージレースランキング3位 ワンデーレースランキング11位
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、39歳)
モビスター・チーム所属、オールラウンダー
さすがに、衰えが見えたか。と言いつつ5位は十分すごいのだけれど。リザルトを見ても、年間を通してこれだけの2位を重ねられるのはすごい。
あとは、チームがいつまでも彼頼みにならないようにしなくては。キンタナもランダも去る中、今年のブエルタで強かったソレル、ドゥクーニンクから移籍するマスが、どれだけ稼いでくれるか。
バルベルデが安心してゆっくりできる環境を、若手たちが作っていかねば。
あ、でも来年の東京オリンピックは、期待してるよ。
第4位(昨年34位)ステージレースランキング2位
エガン・ベルナル(コロンビア、22歳)
チーム・イネオス所属、オールラウンダー
昨年はもう常に期待しすぎるだけ期待してその期待をさらに軽々と飛び越えてきたので驚きの連続だったが、そのせいで今年は期待が頂点に達していた。
「ツール総合優勝なんて余裕でしょ?」と思ってた人も多かったと思うので、驚きは少ない結果である。
彼以上にアラフィリップの走りが鮮烈でありすぎたこと、そしてポガチャルやエヴェネプールなどさらなる若手の走りがもっと驚くべきものだったことも原因だろう。
だが、そんな彼が、第19ステージのあのアクシデントの後にマイヨ・ジョーヌを手に入れたときに涙を流した姿を見て、ハッとなった。
こっちが勝手に当たり前と思っていることでも、22歳の青年にとっては人生を大きく揺るがす出来事であったのだ。
これほどの才能が魂を込めてリスペクトするツール・ド・フランスというイベントの偉大さを思い知った。
そしてまた、彼の背中に背負われた、コロンビアという国への、誇りの大きさも。
もう1つ、彼の今年の走りで印象的だったのは、ツール・ド・フランスで終わりではなく、その後のイタリアの秋のクラシックにも全力で臨み、結果を出したことである。
ツール・ド・フランス終盤のアグレッシブな走りと合わせ、「ただ強い」だけでない、その(若さによるものかはわからないけれども)熱い走りは、これからも楽しみに見ていたい、応援したくなる輝きを放っている。
第3位(昨年26位)ワンデーレースランキング4位 ステージレースランキング7位
ヤコブ・フルサング(デンマーク、34歳)
アスタナ・プロチーム所属、オールラウンダー
彼もまた、今年を象徴する選手の1人であった。
シーズン序盤のステージレースでの躍進、ストラーデビアンケから始まるアルデンヌ・クラシックでのアラフィリップとの激戦、そして最後は彼を突き放してのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの勝利。
その後はクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでの2度目の総合優勝で、これまで以上に期待されて臨んだツール・ド・フランス。しかしここは、初日からの落車と、最終初日の落車で、最終的にはリタイアとなってしまった。
今度こそと思ったブエルタでは総合争いからは早々に脱落。だが、後半は切り替えてロペスのための強力なアシストを続け、最後にはきっちりと自らのステージ勝利も手に入れた。
年間を通して常にドラマを生み出し続けた男。この順位も、納得である。
それも、若い選手ではない。キャリアも非常に長く、常にその時代のビッグレーサーのアシストとして、存在感を放っていた。
そんな彼が、こうして世界のTOPに躍り出る活躍を今、なし得ていることは、とても美しいことだと思う。
なお、2016年のリオ・オリンピック銀メダリストでもある。今回の東京オリンピックは、あのときと似たプロフィールであると感じている。
もう1年、その輝かしいキャリアに花を添えてみるのも、良いかもしれない。
第2位(昨年5位)ワンデーレースランキング3位 ステージレースランキング6位
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、27歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ所属、オールラウンダー
今年の主役の1人。ツール・ド・フランスで最も目立った男はエガン・ベルナルではなく彼だったのかもしれない。 それも、ただ単に、フランス人としてマイヨ・ジョーヌを11日間着用したからだけではない。序盤はあくまでもステージ優勝狙いで全力で挑み、ヴィヴィアーニのスプリントの際にはこれを全力でサポートし、それでいて、最終週の最後の2ステージまで、驚異の走りを続けてマイヨ・ジョーヌを守り続けたからである。最後に彼は敗北したが、しかしそれは勝利にも値する輝きを放っていた。
だが、弱点といえば弱点なのは、自分でも信じられないくらいに迸る才能を前にして、つい出し切りすぎてしまうところかもしれない。ツールの終盤も、不要に焦り、自ら前を牽き過ぎてしまう場面もあった。それがゆえに、最後の2ステージでガス欠。
これは、春のクラシックでも同様だった。ストラーデ・ビアンケ、ミラノ〜サンレモ、2つのビッグレースの驚異の2連勝から始まった彼の春のクラシックシーズンは、アムステルゴールドレースではマチュー・ファンデルポールという怪物を前にして一度断ち切られてしまうが、しかしフレーシュ・ワロンヌにおいては昨年同様に圧倒的な力を見せつけて勝利。そのままの勢いを期待された最終戦リエージュ〜バストーニュ〜リエージュだったが、ここでは、最後のラ・ロッシュ・オ・フォー・コンの登りで明確に力尽きてしまった。
ツール・ド・フランスでの激戦の疲れはその後も尾を引き、クラシカ・サンセバスティアンの早期リタイアとカナダ2連戦での上がりきらない調子。そして本来の最大の目標としていたはずのヨークシャー世界選手権での敗北に繋がる。
同じようなことは昨年もあった。昨年も絶好調、絶好調と続き、最後は世界選手権で糸が切れた。
彼自身制御し切れない覚醒の勢いを、彼はまだコントロールし切れていない。すでに来年のツールにおいては、総合を狙わないと明言。
自らの才能とうまく付き合いながら、冷静にこれをコントロールし、やがて真に最強な選手となるために。
自転車選手として最も大成しやすい28歳・29歳という年齢を前にして、彼は今、「溜め」の時期に入るべきかもしれない。
第1位(昨年11位)ステージレースランキング1位
プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、30歳)
チーム・ユンボ・ヴィズマ所属、オールラウンダー
誰も文句は言えないだろう。上記表を見るだけで、今年の彼がいかに規格外な成績を残したのかがよくわかる。失敗したように見えるジロ・デ・イタリアですら、実際には総合3位なのだから。
ポスト・フルームへの期待はナイロ・キンタナから始まり、ロマン・バルデ、ティボー・ピノ、ファビオ・アル、トム・デュムランなどの90年世代へと主に向けられた。そうでなければ、イェーツ兄弟やボブ・ユンゲルスのような92年世代へ。
しかしまさか、2016年ジロ・デ・イタリアの時点では「突如現れた次世代の『TTスペシャリスト』!!」といった注目のされ方だった「89年生まれ」のログリッチェが、その座を現実的なものにしてしまうとは。
ログリッチェの強さはTTだけでない。ダウンヒルの強さ、アグレッシブさ、そして登坂力においても、今回のブエルタは世界トップクラスであることを示した。さらには、チーム力においても、ついにこのユンボ・ヴィズマは、イネオスに並ぶ総合系における「銀河系軍団」の呼称を許されるレベルになりつつある。とくにローレンス・デプルス、セップ・クスなどの山岳アシストの強さ、トニー・マルティン、ヨス・ファンエムデン、レナード・ホフステデなどの平坦アシストの強さは、イネオスに匹敵とまでは言わないものの、その次に来る存在と言うことは許されそうだ。
すなわち、まさにポスト・フルーム。彼の持っているものをすべて持っている。
もちろん、それを現実のものとするために必要なものはツール・ド・フランスの勝利である。エガン・ベルナル、ゲラント・トーマス、たとえフルームが不在でも、まだそれだけの壁がある。
これらを乗り越え、ログリッチェは真に時代を切り開けるか。
2020年は、彼にとって本当の戦いが始まる年である。
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