前回に引き続き、今年の「北のクラシック」で活躍した選手たちを「獲得UCIポイント」の観点でランキング。
そのいよいよ10位~1位を発表していく。
納得するような、意外なような結果にもなっており、現在の北のクラシックシーズンの状況を確認するうえでぜひ参考にして頂きたい。
対象レースは以下の6つ。「全ワールドツアーチームが出場している」ことを条件とした。
対象6レース
- オンループ・ヘットニュースブラッド(3/2)
- E3・ビンクバンククラシック(3/29)
- ヘント~ウェヴェルヘム(3/31)
- ドワーズ・ドール・フラーンデレン(4/3)
- ロンド・ファン・フラーンデレン(4/7)
- パリ~ルーベ(4/14)
※18あるワールドツアーチーム全てが出場している「北のクラシック(石畳クラシック)」レースを抜粋した。
では早速見ていこう。
↓20位~11位はこちら↓
- 第10位 ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、30歳)
- 第9位 イヴ・ランパールト(ベルギー、28歳)
- 第8位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、37歳)
- 第7位 グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、34歳)
- 第6位 オリバー・ナーセン(ベルギー、29歳)
- 第5位 アルベルト・ベッティオル(イタリア、26歳)
- 第4位 ニルス・ポリッツ(ドイツ、25歳)
- 第3位 ゼネク・スティバル(チェコ、34歳)
- 第2位 マチュー・ファンデルポール(オランダ、24歳)
- 第1位 アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、32歳)
- 最後に
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第10位 ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、30歳)
トレック・セガフレード 獲得UCIポイント:456
元ミラノ〜サンレモとルーベ覇者。翌年に交通事故により大きなダメージを受けるも、少しずつ調子を取り戻りしていく中で、2017年はE3が13位、ヘント5位、ロンド7位、ルーベ10位と北のクラシックでの好調さを見せ、2018年にはツール・ド・フランスのパリ〜ルーベステージで優勝。純粋なスプリントは怪我だけでなくおそらく年齢のこともあり勝ちづらくなってきているが、クラシックではまだまだチームのエースとなりそうな走りだ。
今年は、2017年ほどの成績は出せなかったが、それでもヘント〜ウェヴェルヘムでの2位によりランクイン。今回の集計の対象外ではあるが、ミラノ〜サンレモもメカトラがなければ上位には入れていたかもしれない。
今後もスプリンターズクラシック中心で稼げそう。その意味でドワーズ・ドール・フラーンデレンも出たいところだけど、やっぱりロンドが本人にとっては優先したいんだろうな・・・。
第9位 イヴ・ランパールト(ベルギー、28歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ 獲得UCIポイント:549
ドゥクーニンク・北のクラシック班におけるもはや欠かせない存在に。今回もこの主要6レース全てに出場してかつ完走している数少ない選手の1人だ。その中でコンスタントに好成績。
パリ〜ルーベでは先行するジルベールのために抑え役に徹し、最後は彼のためにガッツポーズ、そしてゴール後は彼以上に喜ぶ姿を見せる。それでも「自分にも勝つことができた」という言葉は嘘ではないだろうし、それは滲み出た本音なんだと思う。2年前、ジルベールの献身によりドワーズ・ドールを制した男は、翌年は自らの力で同レースを制し、ロンドを制したときにジルベールが着ていたベルギーチャンピオンジャージを身に纏って今度は自らルーベを制する一歩手前まで上り詰めた。
ジルベールに対する恩は返した。次は、彼自身が表彰台の頂点に立つとき。来年はきっと今年以上に楽しみになりそうだ。
第8位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、37歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ 獲得UCIポイント:651
かつてのアルデンヌの皇帝は、北のクラシックにおいても一流の選手に生まれ変わった。今回、ドワーズからロンドにかけては不調が続いた中で、ユンゲルスも不在となったルーベしっかりと調子を取り戻して結果を出すあたり、ウルフパックの層の厚さを感じさせた。
これでまたジルベールの存在がプロトンの中で恐ろしいものとなり、彼の動きへのライバルの警戒が強くなる。そうなることで、他の若手の才能が、クラシックでの金星を挙げやすくなる。
まさにウルフパックの大黒柱。しかし本当、昨年ツールの落車からの復活の速度たるや・・バルベルデに次ぐ化け物である。
第7位 グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、34歳)
CCCチーム 獲得UCIポイント:685
チームの絶対的エースとしての責任を背負いながら、できる限りのことはやり尽くしたと思う。コンスタントに上位に入り、その安定感は今まで以上かもしれない。
しかし、結局のところ「勝てなかった」ことへの無念さは彼のコメントから確かに伝わってくる。「最後のチャンス」と定めていたアムステルでも結果は出せず・・
しかし、この1年の走りは決して悪くなかったと思っている。急遽のスポンサー降板からの大混乱の中、十分な戦力を集められていなかったのは間違いない。すでに現在、来季に向けての移籍市場での動きは進んでいるはずだと思うが、十分な強化がなされたうえで今年のこのGVAの安定感があれば、来年こそは、という思いは十分にある。
あとは春のクラシック最後の戦い、LBLに向けて、ギリギリまで結果を追い求めてほしい。アムステルで割と良かったデマルキがもしかしたら成果を持って帰ってくれるかも?
第6位 オリバー・ナーセン(ベルギー、29歳)
AG2Rラモンディアル 獲得UCIポイント:695
こちらも・・・なんというかファンアーフェルマートと双子みたいな存在。今年はミラノ〜サンレモなども含め非常に調子は良かったが、しかし「勝てないナーセン」は変わらず。
こちらもどうしても終盤に1人になることが多かった。ファンデルベルフやディリエは良い走りはしていたが、最重要局面でナーセンのための舞台を作る働きは・・・できてなかったなぁ。
そこがドゥクーニンクやEFとの違い。ヘントのクリストフも、ガビリアという存在が勝利のカギを握っていたという意味で、やはり北のクラシックでの勝利はチーム力が大きなポイントとなる。
AG2Rのチームとしてのさらなる飛躍が求められる。
第5位 アルベルト・ベッティオル(イタリア、26歳)
EFエデュケーション・ファースト 獲得UCIポイント:722
ティレーノ〜アドリアティコあたりから存在感を示し、「ロンド前哨戦」E3でもきっちりと結果を出していた。まさに勝つべくして勝った存在。そして、チームとしても最高の動きを見せていたことは以下の記事でも言及した。
個人の力、チームの力すべてが揃って初めて北のクラシックは勝てる。もしかしたらルーベも、その勢いのままファンマルクもいけていたかもしれなかったが・・・ここは大変、残念ではある。
さて、ベッティオルは本来パンチャーというべき脚質の持ち主。だから登りのないルーベも出なかった。
アムステルでも途中までは前の方にいたみたいだったが最後は流石に疲れが出たのか失速。LBLは出ないみたいだけど、次の目標はどこに置いているのだろう。
うまくいけばクラシカ・サンセバスチャンや、ヨークシャー世界選手権、あるいは来年だけどストラーデビアンケあたりも狙えるはず。チームと合わせ、さらなる結果を期待していきたい。
第4位 ニルス・ポリッツ(ドイツ、25歳)
カチューシャ・アルペシン 獲得UCIポイント:797
こちらは逆に、個人の力だけでここまで上り詰めた。逆風吹きすさぶカチューシャの中で眩く輝き続ける希望の星。
E3で6位、ロンド5位は可能性しか感じない。最近飯島さんの解説は非常に面白くためになると感じているのだが、「俺のポリッツ」、さすがである。
なおスプリント力はもともと十分ある男。そもそもロンドでもクリストフ、マチューに次ぐ集団3位なので。ジルベールとのガチンコのスプリント対決でも負けない素質は十分あったとは思うけれど、今回ばかりはあの局面におけるプレッシャーとの戦い方や、バンクを使っての戦術など経験の差が出て完敗した形だ。ポリッツ、完全に前に出されちゃってたからね。
ジルベールの10歳年下の彼にはまだ10回チャンスがあるというがまさにそうだと思う。確実に、ここ数年以内に、ロンドかルーベは取ってしまいそう。ただしそのときの所属チームが、カチューシャであるかどうかは、わからないけれど・・・がんばれカチューシャ!
第3位 ゼネク・スティバル(チェコ、34歳)
ドゥクーニンク・クイックステップ 獲得UCIポイント:845
2年前がジルベールの年、昨年がテルプストラの年であったとして、今年はスティバルの年だった。若手の活躍も著しいクイックステップだが、こういった(見方によっては旬の過ぎた)ベテランを復活させる環境は本当に唯一無二。さすが誰もが勝てるウルフパックである。カヴェンディッシュとか、もう一回戻ってきた方がいいかも??減給はするだろうけれど・・。
スティバルはそもそも、ウルフパックを体現するような動きのできる男だった。彼自身、元シクロクロス世界王者、ルーベ2位を2回
経験している、他チームであれば間違いなく単独エースを張れる男だ。
そんな彼が、このドゥクーニンクでは、抜け出そうとする他チームの選手を最初にチェックする先鋒役を引き受けた。今年のオンループでの勝利も、この動きからの結果であった。
エース級の選手が、経歴を積み重ねたベテランが、いとも簡単にアシストに回り、彼がチャンスを掴みうるときにはこれをチームが全力でアシストする。
これがウルフパックの強さ。だからこそランパールトもジルベールの勝利を全力で喜び、彼もまたいつかルーベを制すると思うことができる。
今年はスティバルの年だった。では来年は?
今から来年のクラシックが、実に楽しみだ。
第2位 マチュー・ファンデルポール(オランダ、24歳)
コレンドン・サーカス 獲得UCIポイント:850
まさに規格外の男。プロコンチネンタルチーム所属にして、あらゆる一流選手を押しのけてこの位置に。
しかもすごいのが、6レースのうち出場したのは半分だけなのに、という点。ある意味では、この時期のこのレースに一点集中したことが、他の選手より有利に働いていた可能性はある。いわゆるオフシーズンはシクロクロスをトップレベルで走り続けていたことと合わせ、コンディションがかなり高い状態だったとも言えなくはない。それにしても規格外である。
彼の勢いはとどまるところを知らず。「北のクラシック」が終了した後も、ブラバンツペイルとアムステルゴールドレースに出場し、いずれも勝利。アムステルゴールドレースでは、残り3kmの時点で先頭2名(アラフィリップとフルサング)とマチューを含んだ小集団とのタイム差は1分以上開いていた中で、マチューが小集団の先頭を一人で牽引し始めるとみるみるうちにタイム差が縮まり、そしてラスト1kmは平均時速58kmのペースで前を牽き倒し続け、最後にはその勢いのままあらゆる選手を引き千切る強烈なスプリントでアラフィリップたちを抜き去った。
圧倒的に強く、そしてロードレースの常識を打ち破る勝ち方でもって、彼のひとまずのロードレース期間は終わりを告げる。出場した15日間のレースのうち、6日間で優勝。ワンデーレースは7レース出場したが、ゴール前落車に巻き込まれたノケレ・コールスを除けば、全て4位以内に入り込んだ。2つ出場したステージレースではいずれも初日のみ優勝。すなわちこれもまた、ワンデーレースのような走り方をしていたというわけだ・・・。
とにかくも、正真正銘の怪物。すでにオランダ代表監督はヨークシャー世界選手権のエースとして彼を迎えることを強く望んでおり、実際、今年、シクロクロスとロードレースのアルカンシェルを共に着用する選手が生まれるかもしれない。
‘The course suits him perfectly’: Dutch coach calls for Mathieu Van der Poel to race Yorkshire World Champs | https://t.co/MLprwGmKDJ pic.twitter.com/m1AdjTTc5Y
— Cycling Weekly (@cyclingweekly) April 24, 2019
2020年代のロードレースの中心には間違いなくこの男がいることだろう。
あらゆる天才を超えた天才。今後の動きも、目が離せない。
さて、栄えある2019北のクラシック「最強」選手は・・・
第1位 アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、32歳)
UAEチーム・エミレーツ 獲得UCIポイント:879
と、いうことで、意外にも思えるかもしれないが、今年の「北のクラシック」主要6レースで獲得したUCIポイントの総計が最も大きかった選手は、このクリストフとなった。
どうしても伝統あるヘント~ウェヴェルヘムの配点がオンループやE3と比べても大きいというのはあるものの、それでもロンドできっちり3位に入り込んでいることも大きい。元ロンド覇者でもあり、この結果には納得せざるを得ないだろう。
実際、今年のクリストフは非常に調子が良かった。勝利自体は2つしかないが、チームのメインスポンサーのお膝元、UAEツアーでは、チーム内ライバルのガビリアを献身的に支える役割をしっかりと果たし、その勝利に貢献した。逆に彼の強力過ぎるリードアウトを利用したライバルチームの選手が勝つこともあり、チーム内外問わず「勝利の請負人」となる、ある意味で当大会最強のスプリンターであった。
そして、ヘント~ウェヴェルヘムでは今度は逆に、ガビリアがクリストフのための最高の仕事を果たした。ロンドでも初出場のガビリアは積極的な動きを見せ、その中で虎視眈々とクリストフは足を貯めていたわけだ。マチューの強力なスプリントも、ヘント及びロンドにおいてはクリストフに敵わなかった。派手な勝利はなかった印象だが、しかし確実に北のクラシックのスプリントにおいては強いということを証明してみせた。
それだけにルーベは悔しい。すでにあらゆるところで言われているが、今回、勢い込んで選んだチューブレースタイヤ、もしくは平均よりも「細い」タイヤの使用が5回以上のパンクという大失敗を招いた、という見方が主流となっている。
「もう2度と使わない」と発言しているらしいクリストフ。それまでの走りに手ごたえがあっただけに、本当に悔しかったのだろう。
実際、彼はいつかルーベを制する男のようにも思える。今年「最強」の北のクラシックライダーとなった彼が、2020年、さらなる栄光を掴み取ることを期待している。
最後に
いかがだったろうか。
獲得UCIポイントという観点で、論理的に「最強」北のクラシックライダーを選出してみた今回の企画。
オンループやE3と比べヘント~ウェヴェルヘムの配点が大きいこともあり全体的にスプリンターが上位に来やすい傾向はややあったかもしれないが、実際、北のクラシックにはスプリント力も重要な要素となることを考えれば、そこまで違和感のある結果ではないだろう。労力の問題で6レースに絞ったが、その選択はそこまで大きな問題ではなかったと思われる。
次回は「チーム」のランキングを発表していく。実は、こっちの方が一番やりたかったことで、選手ランキングはその副産物に過ぎない。
この春の北のクラシックで、最も総獲得UCIポイントの高かったワールドツアーチームは・・・当然あのチームではあるが、次に大きかったのは? また、最も獲得UCIポイントの低かったチームは?
また、各チームの獲得UCIポイント上位の選手たちを眺めていくことで、今回のランキングには載らなかった隠れ「クラシックタレント」の存在と、名アシストの存在とが浮き彫りになることだろう。
楽しみにして頂けると幸い。
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