りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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フレーシュ・ワロンヌ2019  プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:ベルギー

Region:ワロン地域

First edition:1936年

Editions:83回

Date:4/24(水)

 

ユイ! ユイ! ユイ!

今年もあの激坂バトルがやってくる。

昨年はついにバルベルデの支配を打ち破り、見事に勝利を飾ったアラフィリップ。思えば、この勝利が後に続く彼の大覚醒の序章だったのかもしれない。

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今年もアラフィリップvsバルベルデの激戦が見られるか?  この日のためにアムステルをパスしたダン・マーティンが今度こそ勝利を得られるか?  それとも意外なる伏兵がやってくるか?

最後の1.3㎞に集約される実にシンプルな「最強激坂王決定戦」。

今年もきっと、予想のつかないドラマが待っている。

 

 

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コースについて

今年の出発地点は、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのゴール地点にも使われているアンスの街。

195.9kmと、クラシックレースとしては短い距離の中に詰め込まれた11個のカテゴリ登坂は以下の通りである。

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昨年導入された「リエージュ~バストーニュ~リエージュの登りたち」は今回は使用されないものの、終盤の「コート・デレッフ」と「コート・ド・シュラーブ」が例年よりも1回多く登ることに

例年よりも確実に厳しくなる終盤戦に、有力候補たちの足が削られ、例年にない混戦が演出されるかも?

 

 

大会最大の目玉は当然、合計3回登り、そして最後のフィニッシュ地点がその頂上に置かれることになる「ユイの壁」。

登坂距離1.3km、平均勾配9.6%、最大勾配は26%にも達すると言われる、まさに激坂中の激坂

駆け引きも何もかも不要。ただその足に自信あるもののみが勝利を手にすることができる最もシンプルで、最も純粋なるゴール地点。

その人気は遠く離れたこの極東の地にも轟き、昨年のさいたまクリテリウムではついに世界初のマスコットキャラが生まれて来日したバルベルデにも喜ばれていたとか?

 

 

しかし、毎年このフレーシュ・ワロンヌにはもう1つの「山場」がある。それが、ゴール前7km地点から始まる登坂距離1.3km、平均勾配8.1%の「コート・ド・シュラーブ」。

最後の「ユイの壁」では最強選手たちに敵わないと考えるライバルチームたちの白熱したアタックが毎年見られる重要ポイントだ。

 

 

また、ここ数年は2回目の「ユイの壁」あたりから抜け出した選手が終盤まで独走するパターンも多い。2年前はアレッサンドロ・デマルキとボブ・ユンゲルスが抜け出し、ユンゲルスが「ユイの壁」の途中まで逃げ続けた。

そして昨年はマキシミリアン・シャフマンが同じく「ユイの壁」まで逃げ続け、この追走の責任を押し付けられたモビスター・チームのアシスト陣が疲弊したことが、最後にアラフィリップがバルベルデを打ち倒す大きな要因になったとも見ることができる。

すなわちシャフマンが、昨年のチームメートであったアラフィリップの勝利を導いたことになる。

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今年も「超」がつくほど絶好調のシャフマン、またユンゲルスはいないが、デマルキは日曜日のアムステルゴールドレースでも調子の良さを見せており、今回のフレーシュ・ワロンヌではエースを任されている。

この辺りの選手たちの終盤の抜け出しには要注意。今年はついに、逃げ切りが決まってしまうかも・・・?

 

 

 

注目選手

ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

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2015年2位。2016年2位。2017年は出場せず、2018年についに、「帝王」バルベルデを降しての優勝を果たした。たった3回の出場で、全て2位以内という、恐ろしすぎる戦績。昨年の勝ち方も、バルベルデを真っ向から力で捻じ伏せるあまりにも強すぎる勝ち方だった。

思えば、彼の覚醒はここから始まったと言っても過言ではない。その後のツール・ド・フランスではステージ優勝を2回と山岳賞を獲得。そしてクラシカ・サンセバスティアンでの優勝と、今年はストラーデビアンケ、ミラノ~サンレモでの優勝まで・・・今年は年初からバスクまで出場した6つのワンデーレースとステージレースとで勝たなかったレースはなかったほどである——ブラバンツペイルとアムステルゴールドレースで、マチュー・ファンデルポールという怪物が姿を現すまでは。

 

まさに、今最も(マチューを除いて)勢いのある選手の1人である。不可能を可能にした男というのは昨年までのバルベルデを指していた言葉のようにも思えたが、今年に関していえばその称号をこの男が引き継いでいると言ってもよさそうだ。アムステルはあまりにも規格外な存在の前に敗れてしまったが、このフレーシュ、そしてリエージュを制し、そのままヨークシャー世界選手権に突き進んでいってほしい。

 

バルベルデの4連勝を引き継ぐ、新たな「帝国」を築き上げることはできるか?

  

 

 

アレハンドロ・バルベルデ(モビスター・チーム)

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通算5勝。とくに2014年からの4連勝は、ダニエル・マーティンをして「フレーシュ・ワロンヌを勝つには、バルベルデの引退を待たなくてはならない」と言わせたほどであった。

しかしそんな生ける伝説は、アラフィリップという新星を前にしてついに敗れ去った。

 

決して彼が弱くなったわけではない。その年のバルベルデは1月末から6月までに出場した4つのステージレース全てで総合優勝しており、フレーシュ・ワロンヌまでに出場した9つのワンデーレースのうち7つでTOP5に入り込むという異様な強さを見せつけていた。そして何よりも、インスブルック世界選手権での優勝。その年38になる男とは思えぬほどの強さを見せつけていた。

ただ、アラフィリップがひたすらに強かった。あるいは、2年前はカルロス・ベタンクールの献身的なチェックの連続で次々とライバルの動きを封じ込められていたチーム力が昨年は十分に発揮しきられず、逆に徹底して他チームがモビスター包囲網を敷いたことで、ニバリやシャフマンが抜け出した逃げ集団の追走の責任を完全に押し付けられてしまったことが、最後のユイの壁での位置取りに使えるアシストを失ってしまうという事態を招いてしまったのかもしれない。

実際、例年ならばユイの壁のラスト100mを常に先頭で走り続けていたバルベルデが、昨年はかなり番手を下げた形でスパートをかけざるを得なかった。

もしもアラフィリップと同じ位置から最後のスプリントを開始できていたならば、勝敗は変わっていたかもしれない。その意味でやはり、フレーシュ・ワロンヌも「チーム力」が大事なレースなのである。

 

今年は「絶対王者」ではない。マークが緩くなるわけではないだろうが、分散はされることだろう。今年のドゥクーニンクとアラフィリップが相変わらず絶好調であることもその意味では好材料だ。

 

モビスターのアシストたちは、今こそ底力を見せるべきときだ。それこそ今まではなかなか取れなかった戦略——あえて、彼らが逃げを作って前で展開するという戦略――を取るのも一興ではないか。鍵となるのはやっぱりベタンクールだと思う。直近のレースでも勝ってる彼が、アグレッシブさを見せつけて、レースを動かす鍵となることを願う。

 

 

 

ダニエル・マーティン(UAEチーム・エミレーツ)

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2位が2回、3位が1回。常に表彰台の頂上に近い位置にいながらも、その頂上に登ることは阻まれ続けていた男。

最大の敵はバルベルデ。「フレーシュ・ワロンヌを勝つには、彼の引退を待たなくてはならない」と述べたマーティンだったが、その翌年に元チームメートのアラフィリップによってバルベルデ打倒を成し遂げられてしまう。

一方、新チームに移ったマーティンは、他のアルデンヌ2戦と合わせ散々な結果で昨年の春を終えた。今年はそのリベンジのため、あえてアムステルゴールドレースへの出場を避け、フレーシュ・ワロンヌとLBLに集中する体制に。

直前のバスクでも非常に調子が良く総合2位。今年こそ、悲願を成し遂げられるか?

また、チームメートでバスク総合6位のラヴニール覇者、ポガチャルもめちゃくちゃ期待できる選手だ。

 

 

 

ビョルグ・ランブレヒト(ロット・スーダル)

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プロデビューを果たした昨年はなかなか芽を出せなかった2017年U23リエージュ~バストーニュ~リエージュ覇者。

今年はついに覚醒の年。イツリア・バスクカントリーでのアラフィリップに喰らいついてのステージ2位と、ブラバンツペイルでの先頭4名に少し遅れて単独で手に入れた5位、そしてアムステルゴールドレースでの終盤の「グループ・マチュー」入りしての6位など・・・ビッグレースでの勝利まで、あともう1歩、といったところである。

今回のフレーシュ・ワロンヌ、勝つまでは予想はしないものの、5位以内に入り込んでも十分におかしくない選手にまで成長した。

 

もちろんこのチームの大本命はティム・ウェレンスだろう。しかし彼は、ブラバンツペイルでこそ良い走りを見せたものの、アムステルゴールドレースでは途中リタイアという結果に。また、昨年はウェレンス以上の実力を発揮しての3位に喰い込んだイエール・ファネンデルは今年エースナンバーを着けて走るが、こちらも直近の調子は決してよろしくはない。

逆にウェレンスには、自由な走りを期待したい。2015年に見せたような、コート・ド・シュラーブからのアタック。4年前と違って今年はそれが成功するかもしれない。そしてエースナンバーを着けたファネンデルの先行からの、伏兵ランブレヒトによる、最後のロケット発射・・・実は今大会最もチーム力を発揮しうるチームであると密かに思っている。

 

 

 

アダム・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)

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彼もまた、今年大きく飛躍を遂げつつある選手である。

昨年のジロ、そしてブエルタでのサイモンの成功と、ツールでのアダムの「失敗」を目にしたとき、多くの人が彼らの間にできた差を見出したに違いない。

しかし、今年アダムは、「彼なりの」強さを見出し始めている。それはサイモンよりも独走力において劣っているかもしれないが、一瞬の力強さ、爆発力においては今年、バルベルデすらも斥けるほどのものを見せつけている。彼は今年5つのステージレースにしか出場していないが、その全てで総合TOP10に入り込んでいる。そしてそのうちの4つが総合TOP5に、そのうちのワールドツアークラスの2つに関しては総合2位に輝いている。その多くが、スペインの激坂を特徴とするレースで、バルベルデが得意とするレースであった。 

 

状態はすごく良いけれど、アルデンヌではまだ結果を出したことがない。アルデンヌの地形は僕向きだとは思うけれど、その中でもフレーシュは、本来僕が最も得意としているタイプのレースよりも少し厳しめかな、と思っている

 

過去の戦績を見てみよう。2014年は97位。2016年は途中リタイア。経歴はこれだけだ。

しかし、勢いのある男に、過去の戦績など意味をなさない。新たな時代を作り出す意志を持った男に、結果は自ずからついてくる。

行け、アダム。アルデンヌ・マイスターたち全てを驚かせる一撃を、このユイの壁の頂上で放ってみせろ。

 

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