これまた昨年に続き、UCIワールドランキングの上位をレビューしていく。
UCIワールドランキングは、普段あまり意識されることのないランキングである。しかし、その選手が年間を通して総合的に「どう結果を出したのか」をこれほど正確に反映するランキングもほかにない。
このランキングを振り返ることで、「今年活躍した選手たち」を確認していこう。と共に、来年に向けて、「今最も勢いのある選手」を確認することもできるかもしれない。
今回振り返っていくのは21位~11位。昨年同様21位と中途半端なのは、もう変動はないだろうと高をくくって見切り発車で20位ログリッチェで書き始めたら、直前ウェレンスがグアンジー総合優勝を果たし一気に順位を上げてしまったから。
ここに属する選手たちは、いずれも間違いのない実力者だが、「今年はあと一歩足りなかった」という印象の選手たち。総じて、来シーズンでのリベンジが求められる。若手であれば、来シーズンでの更なる飛躍が期待できるだろう。
※年齢はすべて数え年表記です。
※なお、「ワールドランキング」と「ワールドツアーランキング」は別物です。シクロワイアードのこの記事などで言及されているのは「ワールドツアーランキング」で、これはその名の通りワールドツアーレースの結果のみを反映したランキングです。「ワールドランキング」はワールドツアーレースだけでなく、各コンチネンタルサーキットのレースや世界選手権などの結果も反映しております。
第21位(昨年131位)
チーム・ロットNLユンボ所属 オールラウンダー
昨年の順位と比べてもわかるように、今年ある意味最も飛躍した選手。元スキージャンプ選手であることはもう有名だろう。昨年はその異色の経歴と、ジロにおける意外な勝利からのみ注目されていたが、今年は各種ステージレースでも好成績を叩き出し、今後のグランツールでも期待しうる選手の1人へとのし上がった。実質プロ入り2年目でこれは凄い。遅咲きとはいえ、まだまだ今後が期待できる選手だ。
TTでの安定感は大きな武器であり、世界選手権はもちろん、ロマンディとティレーノもTTでの結果が好成績の鍵を握った。そのうえで彼の走りが魅力的なのは、3度にわたるアタックの末に勝利を掴んだパイスバスコ第4ステージのように、勝利への野性的な姿勢だ。ツール・ド・フランス第17ステージでも、40km近く残した地点から、コンタドールらを振り切っての独走勝利を果たした。
結果だけでなく、その走りそのもので我々を魅了してくれそうな選手だ。
本人もお気に入り?のスキージャンパーポーズ(ツール第17ステージ表彰台)
第20位(昨年59位)
ティム・ウェレンス(ベルギー、26歳)
ロット・スーダル所属 パンチャー
シーズン冒頭のチャレンジ・マヨルカでいきなり2勝を挙げたウェレンス。そのあともルタ・デル・ソルで1勝、そして初出場のストラーデ・ビアンケでも3位を獲るなど、好調ぶりを見せつけた。
だが、期待されていたアルデンヌ・クラシックでは振るわなかった。得意の逃げも、ボブ・ユンゲルスにお株を奪われた。ツール・ド・フランスでも存在感を示せないまま、このままシーズンを終えてしまうのか――そう思われていた矢先、8月のビンクバンクツアー総合2位、9月のグランプリ・ド・ワロニー優勝、そして10月の今年初開催となるツアー・オブ・グアンジー(広西)総合優勝・・・振り返ってみれば、年間を通してそれなりの結果を出したシーズンだった。
とはいえ、やはり来年はアルデンヌ・クラシックでの優勝と、グランツールでのステージ優勝の量産などの活躍を見せてほしい。大先輩デヘントに次ぐベルギーの逃げスペシャリストとして、これからも存在感を放ち続けてほしい。
見事、ツアー・オブ・広西の初代王者となったデヘント。彼に限らず、シーズン中盤で不調に陥った選手はシーズン終盤で軒並み成功している。
第19位(昨年15位)
リッチー・ポート(オーストラリア、32歳)
BMCレーシングチーム所属 オールラウンダー
ツールまではうまく行っていた。悲願のダウンアンダー総合優勝に加え、ツール狙いの選手たちが集まるロマンディでも総合優勝。更にはドーフィネではTTでフルームを打ち破ったうえで総合2位。そして、ツール本戦でも、ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユでフルームと同タイムゴールを果たす。今年も昨年に続き、十分に総合上位を狙える走りを見せられていた。
が、そこで彼を襲った悲劇。第9ステージの下りで、激しいクラッシュ。選手生命の危機すら想像させる、激しい落車だった。
何が起こるかわからないのがツールであり、この結末も仕方ないものと割り切るほかない。幸いにも命の危機には至らず、遅ればせながらジャパンカップでの復帰も果たし、来年に向けては問題なくスタートを切ることができそうではある。
あとは、この経験が、今後の彼のダウンヒルへの苦手意識に、拍車をかけなければいいのだが・・・。
それでも、彼には期待し続けていきたい。フルームを倒すための条件が、登りだけでなく、TTにもあるのだとしたら、デュムランと並ぶ対抗馬として考えられるのは、既にTTで2度フルームを破っている彼しかいないのだ。
頑張れリッチー。来年こそは、不運の悪魔に憑りつかれぬよう願う。
ジャパンカップで元気な姿を見せてくれたリッチー。来年は期待してるよ!
第18位(昨年26位)
アルノー・デマール(フランス、26歳)
FDJ所属 スプリンター
今年のデマールの活躍は、パリ~ニース第1ステージ終盤の登りで、アラフィリップのアタックに喰らいついて勝ち取った勝利と、ツール・ド・フランス第4ステージで、コノヴァロヴァス、チモライといったアシストたちの力を借りつつ手に入れた勝利、といったところだろう。いずれも、着実にこれまで以上に進化したデマールの走りである。
が、その割にはぱっとしない印象のあるデマール。ミラノ~サンレモ優勝という巨大な成績を残した昨年と比較してしまうと・・・というのがあるのかもしれない。あるいはそのときに魔法の絨毯疑惑をかけられたりして、素直に賞賛されない立ち位置になっているのか? ツール第4ステージの勝利も、同じタイミングで巻き起こったカヴ&サガンの騒動に飲み込まれてしまったばかりか、その犯人役としてとばっちりを喰らいそうにもなっていた。
あるいは、スプリンターというのは、派手に勝ってナンボな役回りなのかもしれない。ここでいう派手さとは、「何度も勝つ」の一点に絞られる。今年で言えばガヴィリアやトレンティン。キッテルは常に4勝・5勝しており、派手さの塊である。今年は振るわない時期が長く続いたヴィヴィアーニでさえ、シーズン後半戦でのクラシックの連勝で一気に注目を集めた。そういう派手さが、デマールにはないように感じる。
それはすなわち、スプリンターとしての安定感であり、彼を支えるチームとしての安定感である。今年のツールは途中で病気にかかりリタイアを余儀なくされたが、第4ステージでもそうだしその前のドーフィネ第2ステージでも、先のコノヴァロヴァス、チモライだけでなくグアルニエーリも含めた、新生デマール組がうまく機能していたようにも思えたため、調子さえ万全であれば、キッテルに負けない勝利数を稼げる可能性はあったように思う。
その意味で、今年のデマールは絶好調な年の1つだったように思うのだ。それがツールの不調でちょっと崩れてしまった。来年、そのあたりをうまく持ち直し、チームごと良い状態をもう一度つくることができれば、来年こそ大爆発を狙っていけるような気はしている。
意外にもツール初勝利。それを、フランスチャンピオンジャージを着て成し遂げられたのは感無量だろう(ツール第4ステージ)
第17位(昨年45位)
リゴベルト・ウラン(コロンビア、30歳)
キャノンデール・ドラパック所属 オールラウンダー
ツール第9ステージではメカトラで変速できない状態でのスプリント勝利。ミラノ~トリノでも何かトラブルがあったように記憶している。とにかくも、困難に見舞われながら、それを乗り越えながら勝利を掴む生粋の苦労人。
だが総合優勝ではなく総合2位。イル・ロンバルディアではなくミラノ~トリノ。なんだかあと一歩が足りない、そんな感じの結果にいつもなってしまうのも、実に彼らしいというか何というか・・・。
とにかく、今年のツール総合2位は僥倖ではある。だが、今後同じような結果を、総合争いで叩き出せるようにはあまり思えない。むしろ、ロンバルディアやリエージュ~バストーニュ~リエージュのようなワンデーレースでの成果を集中して追い求めてほしいようにも思う。ロンバルディアは過去、3度の3位。そろそろ栄冠が欲しいね。
バルギルとの僅差の競り合いで勝利を掴んだ(ツール第9ステージ)
第16位(昨年341位)
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、28歳)
チーム・スカイ所属 スプリンター
昨年はリオ・オリンピックに集中するためにシーズン後半はロードに参加せずこの順位。今年はその余波を受けてジロに参加できないなど悔しい思いを味わったが、シーズン後半のクラシックで怒涛の連勝記録を叩き出す。
8月20日のサイクラシック・ハンブルク勝利、8月22日と24日にツール・ド・ポワトゥー・シャラントでそれぞれステージ勝利、8月27日にブルターニュクラシック勝利、そして9月4日のツアー・オブ・ブリテンでも1勝だ。このワールドランキングにおいて、ピュアスプリンターとしては最高位に位置する16位に入り込んだ。
ヴィヴィアーニはまだ死んじゃいない。来年はキッテルの抜けたクイックステップに加入。ガヴィリアと並ぶチームの稼ぎ頭としての活躍が期待される。
ちなみに、ポイント賞も含めると今年、14回の2位を叩き出している生粋のシルバーコレクターだ。ニッツォーロといい、どうしてイタリア人スプリンターってそういうの多いんだろう。
デマールやクリストフ、フルーネヴェーヘンといった強力なライバルたちを打ち破り、自身初のワールドツアー・ワンデーレース勝利となった(サイクラシック・ハンブルク)
第15位(昨年9位)
ディエゴ・ウリッシ(イタリア、28歳)
平坦スプリントではスプリンターに負け、山岳ステージではクライマーに負ける。だが登りスプリントではスプリンターを圧倒し、山を越えた先のスプリントではクライマーを圧倒する。そんな、実にパンチャーらしいパンチャー。パンチャーの中のパンチャー。それがディエゴ・ウリッシだ。
そして今年は、パンチャーの頂点たるグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルをついに制した。次はアムステル、あるいはダウンアンダーを狙いたい。彼なら十分可能だ。
今年唯一の心残りが、大好きなジロを諦めてまで出場したツールでの未勝利。第15ステージは惜しいところまでいったのだが・・・とはいえこれも来年、まだまだ期待している。
昨年は3位と悔しい思いをしたモンレアルで見事優勝。サガン、ゲランス、ウェレンス、ファンアフェルマートと、並み居る強豪パンチャーたちが歴代優勝者に名を連ねるモンレアルにその名を刻んだ。
第14位(昨年25位)
ティボー・ピノ(フランス、27歳)
FDJ所属 オールラウンダー
個人的に、ピノは大好きだが、グランツールの総合優勝争いに関しては無理して狙わなくてもいい、という思いをもっている。それでも、ティレーノ~アドリアティコで、ジロでこうも良い走りを見せてくれると、やっぱり期待したくなる。ツールは厳しいだろうが、ジロやブエルタではまた総合表彰台を狙ってほしい。
一方で、ワンデーレースへの適性も持っている選手だと思っている。上記表にはないが、初出場のストラーデ・ビアンケで9位となかなか驚きの走りも見せてくれている。そして、トレ・ヴァッリ・ヴェッレジーネでは絶好調のニバリに喰らいついて、最後には彼を降しての2位。このままロンバルディアも・・・!と期待していたが、やっぱり下りは厳しかったのか5位に終わった。
今後、アルデンヌクラシックを中心としたワンデーレースでの活躍が期待される。ツールはその・・・諦めても、いいんじゃないかなぁ?
トレ・ヴァッリ・ヴェッレジーネでニバリに喰らいついて2位を得たピノ。イル・ロンバルディアでも積極的なアタックを見せる。総合順位のための守備的な走りよりもこういう攻撃的な走りこそが彼には似合う。2012年ツールの勝利のように。
第13位(昨年4位)
ナイロ・キンタナ(コロンビア、27歳)
モビスター・チーム所属 クライマー
今年は3年ぶりにジロに出場。誰もがその総合優勝を予想した。確かに彼は強かった。しかしそれ以上にデュムランが強かった。それだけだった。
一方、ツールでは2年連続の不調。いや、昨年以上の不調だった。とはいえ、ずっと良い成績を残し続けるというのは難しい。まさかの父親登場もあり色々と混乱したが、来シーズンは落ち着いて、実力を全て出し切れるようなシーズンにしてもらいたい。
そしてジロの好調、ツールの不調は、そのままモビスターというチームの状況の好調・不調ともリンクしていた。来年結果を出すことを望むのであれば、チームの状況もまた最高の状態にもっていく必要がある。バルベルデ、アナコナ、JJロハス、ベタンクールらが良い状態を来年も維持し、またジロでは活躍しつつツールでは全く力を発揮できなかったアマドールが、来年はしっかりとキンタナを支えていけるか。
チームと本人の調子が共に万全であれば、コース的にも来年のツールの総合優勝は十分に狙えるはずだ。
ティレーノ~アドリアティコのテルミニッロ、そしてジロのブロックハウスでは強さを見せつけたキンタナ。シーズン中盤以降は散々だったが、まだ彼の状況が下降線に入ったわけではない。
第12位(昨年8位)
アルベルト・コンタドール(スペイン、35歳)
トレック・セガフレード所属 オールラウンダー
昨年のカンチェラーラのように、有終の美を飾ることのできたコンタドール。それだけでなく、年間を通して絶えずアタック、アタックの繰り返し。その姿勢全てで、最強グランツールライダーとしての姿を見せつけた。
個人的には、実はあまりコンタドールは好きではなかった。ロードレースを本格的に見始めたのは2015年のツールからで、その年のジロすら見ていなかったので、コンタドールというのはかつては強かったかもしれないがもう既にピークは過ぎた、という印象しかなかった。また、ドーピング問題や、アンディとの確執など・・・ネガティブなイメージが常につきまとっていた。
それでも、2016年のパリ~ニース辺りから、彼を見る目が変わった。その年のツールでも、リタイアすることになるステージで見せた決死のアタック。だから、彼が最後のグランツールの最後の登りで見せた姿に、「コンタドール!コンタドール!」と叫び感動してしまうほどには、彼に対する思い入れを持つようになってしまった。
彼は最強ではないかもしれない。彼は完璧な人物ではないかもしれない。それでも彼は、プロトンの中で突出した存在であったことは確かだろう。そんな彼の魂が、今後のプロトンにもしっかりと継承されていくことを願う。
今後、トレックの育成チームを運営するという話もあるコンタドール。エンリク・マスのように、彼のマインドを受け継いだ選手がこれからも増えていってほしい。
第11位(昨年29位)
ダニエル・マーティン(アイルランド、31歳)
クイックステップ・フロアーズ所属 クライマー
マーティンといえばかつてはアルデンヌ系クラシックの名手というイメージ。だがここ最近はそのアルデンヌでもなかなか勝てず、グランツールのステージにおいても何度も何度も「2位」を量産。今年もワロンヌで2度目の2位、そしてLBLでも・・・。
だが、そんな彼がここ最近はツール総合上位の常連にもなってきており、総合的に実力が増してきているという印象がある。彼にとって不幸だったのが、クイックステップ・フロアーズというチームが、あまりにもタレントを多く抱え過ぎており、マーティンの総合争いを献身的に支えてくれる選手が少なかった、ということだろう。それでこの結果なのだから、本当に凄いのだ。
その意味で、来年に向けたチーム移籍は、彼にプラスの結果をもたらす可能性は十分にある。UAEチーム・エミレーツはランプレ・メリダの流れを組み、まだまだ総合争いにおける実績はすくないが、ファビオ・アルの獲得などもあり、来年は総合系にシフトするチーム編成を考えていくはずだ。
もしかしたら来年こそは、ツールの表彰台に立つマーティンの姿が見られるかもしれない。
今年のツールの第15ステージで、彼はメイン集団の中から飛び出してタイムを奪うことに成功した。突然の爆発力に優れ、ときに他のクライマーを圧倒する走りを見せる彼だが、タイミングを間違えることが多いのが彼の弱点であった。その意味でこの日は、彼のアタックが成功した例の1つでもある。こういう動きを、来年も数多く見せることができれば、表彰台の可能性はぐっと高くなるだろう。そのためにもチームメートの存在は欠かせない。
次回は第10位~第1位。