UCIワールドランキングのTOP10全選手をレビューする。
「ワールドランキング」は「ワールドツアーランキング」とは異なり、ワールドツアーレースのみならずコンチネンタルサーキットのレースや世界選手権の結果も反映しているため、より正確に今年の活躍を反映したランキングとなっている。
あまりメディアに取り上げられることの少ないランキングだが、とくに今回取り上げる10位~1位の選手たちはいずれも「確かに今年活躍した!」と言えるメンバーが揃っているので、選手の観点で1年を振り返るうえでは良い資料となる。
参考までに、過去のUCIワールドランキング覇者を振り返ってみる。
(2014年までは「ワールドランキング」は存在せず、「ワールドツアーランキング」のみだったため、そちらを掲載する)
果たして今年の1位は・・・?
21位~11位まではこちら。
※年齢はすべて数え年表記となります。
第10位(昨年68位)
フィリップ・ジルベール(ベルギー、35歳)
クイックステップ・フロアーズ所属 パンチャー
なんといっても今年はロンド・ファン・フラーンデレンの優勝。しかも、ずっと夢見てきて、でもBMCでいる間は同じチーム内にライバルがいて・・・という状態の中から、減俸覚悟での移籍によって掴み取った夢であった。
そして、それだけには終わらない活躍。アムステルの優勝もそうだけれど、チームメートのために力を使う姿も目立ち、それがゆえにロンドでもボーネンらの力を借りることもできたのだ。ベルギーの最強アルデンヌハンターは、クイックステップというWT随一の結束力を見せるこのチームに、早くも馴染んできた感がある。
来年、このチームは実力者を多く放出することになる。来年もまた最強でい続けることは難しいかもしれない。しかし、若手の実力者たちは多く残っており、また新たに将来有望な若手も入ってくる。そんな中、ジルベールに求められているのは、彼らの導き手である。そしてそれは、この男であれば十分に可能なことだろう。
第9位(昨年11位)
マイケル・マシューズ(オーストラリア、27歳)
チーム・サンウェブ所属 スプリンター
今では数多くいる「登れるスプリンター」の代表格だが、まさかここまでとは。その水準はサガンに匹敵する。すなわち、1級~2級レベルの山岳は軽々越えて逃げに乗り、チームメートの山岳賞争いをサポートしつつ自らもしっかりと中間スプリントポイントを獲得していくその芸当。今回のツールはサガン、キッテルが次々とリタイアしてしまったが、彼らが残っていたとしてもポイント賞を獲得できたかもしれない、とさえ思う。
その意味で、キャリアの中でも最高の結果を出し続けているここ数年ではあるが、実はまだクラシックでの勝利がほぼない。上記表を見ても分かるように、3位とか4位とかばかりだ。アルデンヌ系クラシック、とくにアムステルやケベック&モンレアルは何度も優勝候補に挙げられてはいるものの、未だそこに到達できていない。
来年はその点に注目。アルントやバウハウスといった、チーム内で育ちつつある有望株とのコンビネーションにも期待。
第8位(昨年67位)
ミハウ・クフャトコフスキ(ポーランド、27歳)
チーム・スカイ所属 オールラウンダー
病気で苦しんだ昨年から打って変わって、春先のワンデーレースから大ブレイク。モニュメントまで制覇した。さらにはツール・ド・フランスにおける、八面六臂の活躍っぷり。本人がシーズン開始前のインタビューで述べていた「あらゆる局面で活躍できる選手になりたい。そしてツールではフルームを支えたい」という言葉通りの結果となった。
ポートが去り、ランダも去った今、チーム・スカイにおける、トーマスと並ぶエース候補の1人ともなりうるだろう。パリ~ニースなどで、総合エースとして活躍する可能性もあるかもしれない。
今後はトーマスと並ぶスカイのエース候補の1人となるかもしれない。パリ~ニースなどでのエースとしての活躍も、見てみたいものだ。
第7位(昨年5位)
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、37歳)
モビスター・チーム所属 オールラウンダー
上記表を見てもらえばわかるように、今シーズンの前半における彼の強さは前人未到の領域である。これで37歳なのだから本当に凄い。普通これだけ強いと反発する気持ちも出てきそうなものだが、バルベルデだし、という思いでなんとでもなっちゃうあたりがまたこの人らしい。愛され系ちょいワル親父。
それだけに、ツール初日でのリタイアが悔やまれる。少なくともブエルタでの大暴れは期待できていただけに。来年は万全の彼と、万全のキンタナとで、今度こそフルームを脅かしてほしい。
第6位(昨年21位)
ヴィンツェンツォ・ニバリ(イタリア、33歳)
コンタドール引退に伴い、現役選手で唯一、全グランツールを制覇している男となるニバリ。実力は折り紙付きで、今年のグランツール2つで総合表彰台を獲得し、イル・ロンバルディアでは安定の走りでもって2勝目を飾った。
彼の武器の1つ目は、圧倒的な下りの力。ロンバルディアはもちろん、ジロでも下りながらバニーホップをする余裕さえ見せてくれた。ただしツール終盤では直前の下りの影響かやや陰りが見えてしまった。
もう1つの武器は、傍若無人でマイナスな話題にも事欠かないにも関わらず、なぜか人を惹きつけるその魅力。それによって彼を支えてくれる仲間たちが、献身的に彼をサポートしてくれる。2年前のロンバルディア勝利を支えたディエゴ・ローザ。昨年のジロ総合優勝を導いてくれたミケーレ・スカルポーニ。そして今年のジロとブエルタの表彰台の立役者フランコ・ペリゾッティ・・・一回りも年上の大先輩たちですら惹きつけるそのニバリの魅力に、私もイタリアのファンも熱狂してしまう。
今後の彼に、大きな勝利は期待していない。それでも、いくつになっても、相変わらずのキャラクターと実力を魅せ続けてほしい。
いわゆる「バルベルデ的なポジション」になりうる選手であると言える。
ロンバルディアの勝利で、プロ通算50勝を記録した。
第5位(昨年24位)
トム・デュムラン(オランダ、27歳)
チーム・サンウェブ所属 オールラウンダー
オランダの巨人、ついにグランツールを制す。それも、絶対的優勝候補ナイロ・キンタナを、TTだけでなく登りでも打ち倒して。さらには念願の世界チャンピオンの座も獲得し、いよいよツールに向けて本格発進か。
正直、現状のフルームを打ち倒せるとしたら、彼か、もしくは万全のリッチー・ポートしかいない、と感じている。来年? まだ早い? でも、フルームがそのコンディションを維持できているうちに、是非とも本気のぶつかり合いを見てみたいところ。
自分がロードレースに本格的にハマり出したのは、2015年ブエルタでの彼の雄姿を見たがゆえ。その彼が、「フルーム時代」を打ち崩すとしたら、これほど燃えることはない。来年はどんな驚きを我々に見せてくれるか。
第4位(昨年7位)
アレクサンデル・クリストフ(ノルウェー、30歳)
カチューシャ・アルペシン所属 スプリンター
シーズン前半はなかなか勝ちきれなかった。かろうじて勝利したワールドツアークラスのレースも、今年ワールドツアー入りしたばかりのレースくらい。それでも、8月のヨーロッパ選手権で勝利し、世界選手権でも2位に入り込んだ。結果としてのこの順位は正直、意外だったが、非ワールドツアークラスのレースも含め、バランスよく上位に入り続けた結果と言えるだろう。やはり実力はトップクラスである。
シーズン前半の調子が悪かったのは事実で、実際に彼の顔も見た目からわかるくらいに膨れ上がり、体重が増えていることが問題となっていたらしい。そういうこともあってなのかは分からないがチームとの関係も良くなかったのか、早々に来期のチーム変更が決まった。行先は・・・アル、マーティンと同じくUAE。ベン・スウィフトやサッシャ・モドロだけでは勝利数を稼げずにいたこの中東チームの、救世主となれるか。
来期はヨーロッパチャンピオンジャージを着て走る。
第3位(昨年1位)
ボーラ・ハンスグローエ所属 スプリンター
昨年の覇者は今年もケベックや世界選手権など大きな勝利を重ねるものの、やはりフランドルの勝利がないことやツール・ド・フランスでの早期リタイアが響き、この結果に。それでも、ワールドツアークラスのレースでの勝利数は桁違いだ。以下に参考までに、サガンのワールドツアークラスでの成績を記してみる。
- ティレーノ~アドリアティコ区間2勝、ポイント賞
- ツアー・オブ・カリフォルニア区間1勝、ポイント賞
- ツール・ド・スイス区間2勝、ポイント賞
- ツール・ド・フランス区間1勝
- ツール・ド・ポローニュ区間1勝、ポイント賞
- ビンクバンクツアー区間2勝、ポイント賞
- グランプリ・シクリスト・ド・ケベック優勝
ポイント賞も合わせると「1位」の数はワールドツアーだけで15回。ステージレースでの1勝および特別賞ジャージの価値が低めな現UCIポイント制度ではあまり貢献していないが、たとえランキング1位でなくとも、現プロトンの中で圧倒的な存在感を示していることがわかる。
そんなサガンだが、それでも今年は万全ではなかった。とくに春のクラシックから落車、パンク、またパンク・・・そんな感じで不運が続き、実力を十分に発揮しきれなかった。
だから来年は、とにかくロンドに続くモニュメント勝利を狙いたい。まずはミラノ~サンレモとパリ~ルーベ。そしてLBLとロンバルディアを狙えるような体を、今後つくってこれるか。
・・・その前にロードレースに飽きてマウンテンバイクなどに行かなければいいのだが。
第2位(昨年2位)
クリストファー・フルーム(イギリス、32歳)
チーム・スカイ所属 オールラウンダー
史上3人目、そしてブエルタが秋開催になってからは初となる、ツール-ブエルタのダブルツールを達成。そして来年は「5勝クラブ」入りが期待される、間違いなく現役最強のグランツールライダーである。
もちろん、ジロの制覇も狙ってはいるはずで、彼なりに焦りもあるだろう。彼の性格からすれば、本当はリエージュ~バストーニュ~リエージュ辺りも狙いたいという思いはあるかもしれない。だが、チームの為にも、徹底したレーススケジュールコントロールを行い、狙ったレースで確実に獲りにくるその姿は、勝者の驕りや余裕というようなものは感じられず、むしろストイックな印象すら受ける。
その言葉も謙虚で、紳士的であり、そういった全てが、多くのファンの心をつかんでいるのだろう。コンタドールとはまた違った、英雄的な選手である。
そんな彼が、精いっぱい楽しんでいるように見えるブエルタでついに勝利を掴んだことは見ていて嬉しい。いつか、大きなプレッシャーから解放され、もっと自由に楽しんでレースを走るフルーミーを見てみたくもある。
だけどまずは、可能な限りその記録を伸ばしてほしい。そして、いつか、彼を乗り越えるだけの新たな実力者が現れたとき・・・きっと彼は、それもまた笑顔と拍手でそれを迎え入れるだろう。
第1位(昨年4位)
フレッヒ・ファンアフェルマート(ベルギー、32歳)
BMCレーシングチーム所属 パンチャー
昨年ツールでマイヨ・ジョーヌを着て、リオ・オリンピックで金メダルを獲得し躍進したファンアフェルマート。今年もその躍進は止まず、春のクラシックで絶好調。ついには自身初のモニュメントであるパリ~ルーベを制した。まさにキャリアのピークである。
今後はロンド・ファン・フラーンデレン制覇を目指すのが第一か。あるいは、インスブルックでの世界選手権も、狙うべきレースのはずである。クライマー向きなので普通に考えれば厳しいが、リオ・オリンピックを制した彼ならば、十分狙っていけるだろう。
ジルベールに次ぐ、パンチャーとしてのランキング首位。彼やジルベールの活躍により、国別ランキングでもベルギーが首位となった。スロバキアやイギリスといった新興国には負けない、伝統国としての意地を見せた。
以上、UCIワールドランキングの21位~1位までも簡単に振り返ってみた。このランキングを表にまとめると以下の通りだ。
こうして見てみると、国籍が非常に多様化していることがわかる。また、ワンデーレースの新規ワールドツアーレースが増えたことで、クライマーやオールラウンダーのようにステージレースの総合上位を獲る選手たちばかりが上位に来る、ということも減ってきているようにも感じる。これでもっと、ステージレースの勝利のポイントが増えれば、ガヴィリアやキッテルのような選手ももっと上位に来ることができるようになるだろう。
また、年齢に関しては極端に若い選手は少なく、上位21名の平均年齢は29.7であった。それなりの経験のある選手でないと、年間を通してしっかりと点数を稼ぐことは難しいということがわかる。
ガヴィリアがその中で、23歳という若さでは驚異的な27位である。
もしかしたら国別ランキングもレビューするかもしれない。
ランキングはこちらのサイトに掲載されているため、気になる人は細かくチェックをしてみてほしい。