りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2016年シーズンを振り返る② ~UCIワールドランキング個人ベスト10位~1位全レビュー~

第21位~第11まではこちら

 

 

第10位(昨年39位)
エステバン・チャベス(26歳、コロンビア)
 昨年のブエルタで開花し大暴れした若きコロンビア人クライマー。今年はジロ区間1勝と総合2位、そしてブエルタ総合3位と結果も叩き出し、一流クライマーたちと互角に渡り合うその姿は早くも貫禄に満ち溢れている。とくに、ジロと、そしてイル・ロンバルディアで見せた、いざというときのスプリントの強さは興味深い。その意味でワンデーレース向き? しかしアルデンヌ・クラシックで活躍するタイプかと言えばそうでもないような気もする。
 いずれにせよ現役で5本の指に入るグランツールレーサーであると言っても過言ではないだろう。ただまだまだニバリ、フルーム、キンタナといった超一流クライマーたちには登坂力で一歩劣る点と、まだまだ改善の余地があるTT能力には課題が残る。とりあえずは目指すはジロかブエルタでの総合優勝だ。

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第9位(昨年4位)
アレクサンダー・クリストフ(29歳、ノルウェー)
 今年はカタールとオマーンで大暴れ。どちらもjsportsで中継がなかったのが残念。このまま世界選手権もまさか行ってしまうかも!?
 しかし全体的に、パリ~ニースやクールネ~ブリュッセル~クールネ、そしてツール・ド・フランスの第16ステージなど、まるでかつてのサガンを思わせるような「2位」続きの結果が多かったようにも思える。まあでもカリフォルニアでもしっかり勝ってるし、地元ノルウェーの北極圏レースでもしっかりと勝利できたりと、勝ち星もちゃんと稼いでいる。でもなー、やっぱり2年前のツールでの2勝は輝いていた。それと比べるとちょっと勝ててないようにも感じる。単に中継がないだけなのか。ノルウェー選手権もボアッソンハーゲンに獲られてしまうし。
 やはりここはなんとしてでも世界選手権を取ってもらわねば。

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第8位(昨年48位)
ディエゴ・ウリッシ(27歳、イタリア)
 キング・オブ・ジロ・ディタリアとでも言うべきか。昨年の歓喜のゴールも感動的だったが、今年もやはり強い強い。それ以外でもしっかりと堅実に稼いで、この位置に。これより上のランキングは錚々たるメンバーが揃っているだけに、そのすごさがよくわかる。実はイタリアでも3本の指に入る実力者といっても過言じゃないんじゃないか。
 意外だったのはTTでも結構よい成績をだしていること。スロベニアでは優勝しているし、チェコでも4位。ジロですら11位を獲得している。ジロのあれはでも山岳か。
 来年はランプレのスポンサーが変わって中国資本のTJスポーツに。以前ほどにはジロに注力はしなくなる? いや、そんなことはあるまい。来年のジロも楽しみだ。ここまで3年で区間5勝。この記録を伸ばせるか?

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第7位(昨年7位)
アルベルト・コンタドール(34歳、スペイン)
 今年は一年、ついていなかった。勝利がなかったわけではない。むしろシーズン序盤からそれなりに良い結果を出していて、バスク1周でも総合優勝を果たしている。
 しかし、ドーフィネではどうしてもフルームについていけない姿を見せてしまい、ツール本戦でも落車と体調不良で途中リタイア。ブエルタ・ア・ブルゴスで再び総合優勝しブエルタ本戦での再起を図るもこちらも落車に見舞われてイマイチの結果となってしまった。それらの影響でオリンピックにも出られず、イル・ロンバルディアも体調不良で欠場。ある意味で、今年が現役最後の年にならなくて本当に良かった、といったところか。
 とはいえ、かつてほどの力が出せなくなっていても、その精神だけは常に健在であった。パリ~ニースで見せた勝利への執念、そこでは結実しなかったものの、ブエルタ・ア・エスパーニャでは大成功を収めた(どちらかというとキンタナに利益をもたらす結果にはなってしまったが)。また、ツールでも、第9ステージ、すでに体調不良でふらふらになっている中、執念のアタックを繰り出した。
 最後まで諦めない姿勢、勝利をとことん追求する姿勢。ただの勝ち負けを超えたその姿勢に、我々は心を打たれるのだろう。
 いつかは引退しなければならないことはわかっている。来年か、再来年か。だが最後には、カンチェラーラのように大きな結果を出して終えてほしい。彼の「バキュン」を、僕はまだ生では見ていない。ぜひ、見てみたいのだ。

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第6位(昨年23位)
ロメン・バルデ(26歳、フランス)
「フランス期待の星」といえば拍子抜けしてしまう結果になることが多い印象だった。トニー・ギャロパン、ワレン・バルギル、ティボー・ピノ・・・でも、この男は今年、大きな結果を出してくれた! いや、それはピノも2年前に出してくれているのだが・・・やはりフルームもキンタナもいて、そのうえで2番手というのはやはりスゴイ。
 劇的な攻撃力があるわけではない。総合的な力はリッチー・ポートの方があるような気がする。しかし、大事なときにしっかりと生き残っていること、そして攻撃すべきチャンスを見つけた時にきっちりと決めること(それはドーフィネでも、ツールでも発揮された)。この2つが、ポートにはない安定感を生んでいて、今回の結果につながった。自分で勝ちを獲りにいけるタイプではないけれど、グランツールでは往々にして必要な感覚だ。
 それでもグランツール表彰台の頂点に立つ姿、というのはまだなかなか想像できない。各種ステージレースや、もしかしたら一部のワンデーレースで勝つことは想像できても。やはりもう一つ、飛び抜けた何かが欲しい。

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第5位(昨年1位)
アレハンドロ・バルベルデ・ベルモンテ(36歳、スペイン)
 今年は何と言っても3大グランツール全出場。昨年のツールから数えれば5大会連続である。しかも今年のツールまではいずれも総合TOP10入り。今年最後のブエルタのクイーンステージで失速したことで、その記録の更新はできなかったものの、凄まじい男である。登りも平坦も激坂も、グランツールもワンデーレースも活躍できる真の意味でのオールラウンダー。寄る年波など何も感じさせないその実力で、アンダルシア一周、カスティリヤ・レオンで総合優勝、ジロ総合3位、ツール総合6位、サン・セバスティアン3位、イル・ロンバルディア6位、そしてフレーシュ・ワロンヌをなんと3連覇目。おそろしい。

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第4位(昨年8位)
グレッグ・ファンアフェルマート(31歳、ベルギー)
 昨年ツールでサガンを下してステージ勝利を果たすなど「サガン・キラー」の異名を持つ。今年もシーズン序盤のオムループ・ヘット・ニウスブラッドおよびティレーノ・アドリアティコでもサガンを下す。しかし彼自身もやはりなかなか勝ちを量産できずにいた・・・そんな今年は、ツール・ド・フランスで大逃げの末にマイヨ・ジョーヌを獲得し、その後もしばらく着用し続けるなど健闘。そしてキャリア最大の勝利であるオリンピックロードレース金メダルという快挙。それを記念して用意した金ぴかバイクでグランプリ・シクリスト・ドゥ・モンレアルにて三度サガンを下しての勝利を果たした(ケベックでは逆に負けてしまったが)。
 なんだかんだでいい年になった。だがまだまだ、パリ~ルーベでの勝利など、見てみたい勝ちはたくさんある。来年いっぱいでの解散が噂されていたBMCも、タグ・ホイヤーがメインスポンサーになることで継続が決まったようだし、さらなる活躍を期待していきたい。

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第3位(昨年3位)
ナイロ・キンタナ(26歳、コロンビア)
 フルームに匹敵する登坂力を持つ。弱点はTT。いや、それでも十分速いほうなのだが、フルームに比べるとまだまだタイム差をつけられてしまう。これを挽回できるだけの登坂力を持つか、TTの少ない年を狙うか、アクシデントを望むしか、今のところフルームを倒す術がないように思える。
フルームを除けば十分に現役最強。あのインターバルでガンガン攻めていくスタイルは、他のクライマーからしてみれば悪夢でしかない。フルームみたいに千切ったと思ったらいつの間にか後ろからやってくるのも嫌だけどさ。
 今年はカタルーニャ1周、ツール・ド・ロマンディ、ルート・ドゥ・スッド、ブエルタ・ア・エスパーニャでそれぞれ総合優勝。ツール・ド・フランスで総合3位。ジロとブエルタで共に総合優勝したことで、現在新たな「グランツール3大制覇者」に最も近い人物とされる。彼が達成すれば史上7人目。非西欧諸国出身者としては初となる快挙である。そのためにも、ツールでなんとかフルームを倒せねばならぬ。来年はジロに出場するという噂のフルーム。もしかしたら最大のチャンスかもしれない。

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第2位(昨年6位)
クリストファー・フルーム(31歳、イギリス)
誰にも負けない登坂力と、世界チャンピオンにも負けないTT能力を併せ持つ、現役最強のグランツールレーサー。もはや存在がチート。鉄壁のアシスト陣にも囲まれて、彼を打ち倒すのは何かしらのアクシデントを願わない限り難しいのではないか、と誰もが思う最強である。
 今最も「5勝クラブ」に近い男。あと2回。まだ31歳なので、十分に可能だ。しかし来年はジロにも出場予定? 確かに3大グランツール制覇は魅力的だし、この男なら、コンタドールが成しえなかったダブルツールも達成してしまえるような気がする。しかし大丈夫か。やはりジロを制覇できたとしても、そのまま疲れを持ったままツールを制覇できるのか。不安になる。先にツール・ブエルタのダブルツール達成をしてしまったほうがいいのではないか、と。
 しかし来年はジロ100回記念でもある。ツール100回記念も制覇したフルームである。これでジロも獲ったらそりゃスゴイ話だ。イタリア人からは恨まれるかもしれないが。そのイタリアからはアルが出そうだし、ピノも出場を考えているという噂が? チャベスやクライスヴァイクもやはり狙ってくるかもしれないし、地味にグランツール連続記録を狙って再度バルベルデ出場という可能性もあるかもしれない。そうなると実に豪華なジロになりそうである。
 今年のフルームはただ強いだけではなかった。ツールでのダウンヒルや平坦ステージでの攻撃、モン・ヴァントゥーで自転車を失ったあとに自らの足で走ってでもゴールに近づこうとする姿勢、ブエルタの思い出の地での無邪気なガッツポーズに第20ステージの執拗なアタック、あとはツール・ド・ロマンディでの逃げなど・・・ただ強いだけのフルームではなく、勝利への執念をまざまざと見せつけられる一年であった。極めつけは最後、何度アタックしても千切れなかったキンタナに対する祝福の拍手。なんだかんだで紳士な男であった。
 TTでのチャベスへのピースサインなどお茶目なところもあるみたいだけど。結局あの真意はなんだったんだろう。

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第1位(昨年17位)
ペーター・サガン(26歳、スロバキア)
 2012年に若干22歳にしてツール・ド・フランス区間3勝とポイント賞をゲットして鮮烈なデビューを遂げる(20歳くらいからかなり活躍していたけれど)が、翌年はツール区間1勝に収まり、14年・15年シーズンはそれぞれツールでの区間勝利なし。それでもツールのポイント賞を毎年確実に獲るあたりは凄いのだけれど、2位に甘んじることも多く「勝てない」印象を強く持っていた。それはもちろん、彼が強すぎるがゆえに周りのマークが理不尽なほどに強いがゆえである(それでも2位を量産する点やはりスゴイのである)。
 そんなサガンが、昨年の世界選手権優勝を機に火が点き始めた。世界選手権優勝ジャージ=アルカンシェルジャージは選手を勝てなくする、なんて呪いの噂もあったけれど、すでにその前から呪われていたサガンにとっては逆に運命を変えるきっかけとなった。2月のオムループ・ヘット・ニウスブラッドおよび3月のティレーノ・アドリアティコでは宿敵のヴァンアーヴェルマートにヤられてともに2位(区間も、総合も)。同じく3月のE3でもクヴィアトコウスキーに優勝を搔っ攫われての2位と「またか・・・」と思わせる滑り出しだったが、その直後のヘント~ウェヴェルヘムでカンチェラーラらを下しての優勝を果たして歯車は回り始めた。4月には「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレンで再びカンチェを下して優勝。アルカンシェルジャージが伝説に地に翻った。
 直後のパリ~ルーベでは悔しい思いをしつつも、自身と相性のよいツアー・オブ・カリフォルニアでは区間2勝と調子の良さをアピール。ツール・ド・スイスでも第1・第2ステージで連続してステージ優勝を果たし、ついにツール・ド・フランスでも、最盛期を彷彿とさせるステージ3勝。マイヨ・ジョーヌすらも人生で初めて着用する。もちろんポイント賞ジャージも。大成功に終わった。
 サガンの快進撃はその後も止まらなかった。彼の大好きな北米の地で行われたグランプリ・シクリスト・ドゥ・ケベックでヴァンアーヴェルマートを下して優勝。2日後のグランプリ・シクリスト・ドゥ・モンレアルではヴァンアーヴェルマートに逆襲されてしまったものの、その1週間後のヨーロッパ選手権では初の男子エリート優勝者としてその名前が刻まれる。
 過去5連覇達成していたスロバキア国内選手権では兄のユライ・サガンに勝たせて自身は2位につける。移籍の際も常に兄とワンセットとなっており、兄思いの弟でもある。
 とにかく勝ちまくりのシーズンを過ごした。かといって細かいレースで区間優勝を量産、というわけではなく、勝ち数自体はそこまで多くない。ただ、狙ったビッグレースで確実に勝つ、その勝率の高さはこれまでの彼の歴史を振り返ってもずば抜けたものがあるのではないか。
 ただ今年で26歳と、だんだん「若手」とは言えない年齢になってきた。瞬発力を必要とする勝ち方が多いだけに、今後もこの勝率を維持していけるかは不安である。
 ただ、ポイント賞連続受賞記録はぜひとも更新してほしい。あと1回でエリック・ツァベルに並び、その次の年でただ一人の記録保持者だ。そしてその記録はおそらく、長く更新されることのない記録となるだろう。
 また、パリ~ルーベやミラノ~サンレモなど、まだまだ達成していないビッグレースは十分にある。目下、新シーズンで最初に参加するであろうツアー・ダウンアンダーでの勝利数に期待である。
 来シーズンはボーラ・ハンスグローエ。一応ワールドツアー入りする予定? マイカもいるしね。ドイツチームのサガンに違和感はない。あとはグランツールやモニュメントなどで、しっかりとアシストをしてもらえるかどうかだ。

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 来期も感動とスペクタルを見せてくれよ、サガン。

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