今年もツアー・ダウンアンダーは予想できない展開を迎えている。
6ステージ中5ステージを終え、現在、総合首位に立つのは、誰もが予想していなかった*1TTスペシャリスト、パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、CCCチーム)。
そしてその7秒後方に昨年総合優勝者ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)、16秒後方に過去の総合表彰台常連であるルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ・プロチーム)が続いている。
リッチー・ポートやローハン・デニス、ワウト・プールスなどのその他総合優勝候補はベヴィンから26秒遅れで並んでいる。インピーからは19秒遅れである。
26秒・19秒というのは絶妙なタイム差で、ウィランガ・ヒルを先頭で通過して得られるボーナスタイムは10秒。
残り17秒をベヴィンから、あるいは10秒をインピーから開くことができれば、ウィランガの覇者が総合優勝を手に入れることができる。
もちろん、ベヴィンやインピーが2位や3位でウィランガを越えることができればその分のボーナスタイム(2位:6秒、3位:4秒)も彼らは手に入れることができる。そして実際に、過去、ウィランガ覇者ポートに勝利してきたライバルたち――インピー、ゲランス、デニスなど――は、その他の有力クライマーたちを差し置いて、驚くべきウィランガ2位通過を果たしている。
今年も、ウィランガ・ヒルでの最終決戦は白熱したものとなり、秒差での総合優勝争いが繰り広げられることだろう。
今回は、いよいよ明日に迫ったウィランガ・ヒル決戦に向けて、過去のウィランガ対決を振り返ると共に、今大会のもう1つの目玉であったコークスクリューでの各選手の走りを振り返り、今大会の結末を予想していきたい。
過去のウィランガ・ヒルについて
周知の通り、ここ5年のウィランガ・ヒルは、リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)が連覇を続けている。その強さは圧倒的で、残り1~2kmで飛び出した彼に、追随しようとする選手は誰もが最後には千切られてしまう。その間は、ポートは一度も振り返らないのだ。今年もまた、彼がウィランガを制する可能性はかなり高い。
しかし一方で、そのポートがツアー・ダウンアンダーで総合優勝できたのは2017年の1回のみで、そのときは彼もウィランガ・ヒルだけで制したのではなく、その前のパラコームという重要な登坂ステージで勝利していたがゆえの、余裕をもっての総合優勝であった*2。
過去の総合上位勢とそのタイム差をまとめてみた。
2015年大会では残り1.5kmから飛び出し、喰らいついてきた総合首位デニスを残り600mで突き放す。デニスに9秒差をつけることに成功するが、結果としてわずか2秒届かず、逆転することはできなかった。
2016年大会は残り1.2kmから飛び出し、総合首位ゲランスに17秒ものタイム差をつけることに成功したが(さらに彼はボーナスタイムも手に入れられなかったが)、それまでゲランスが稼ぎ出したボーナスタイムの累計が大きすぎて、最終的に逆転までいまだ9秒も残る結果となってしまった。
2018年はタイム差0秒の接戦に。ポートはこのとき、残り2kmという長距離から攻撃を仕掛けることにしたが、「残り300mで止まりそうになった」と、彼自身も早すぎる仕掛けであったことを認めている。インピーも意地を見せ、8秒遅れの2位に。
今年も同じ展開(ポートに8秒遅れの2位)を辿れば、今年は7秒もの余裕をもってインピーが総合優勝を飾る計算となる。
さらに言えばベヴィンが今年は意外な粘りを見せて2位に入れば、ポートは(あるいはその他の有力クライマーたちは)、彼を23秒も突き放さないといけない。ベヴィンが4位以下となっても17秒差をつける必要があり、これは2016年、彼がポートからウィランガ・ヒルでつけられたタイム差と一致する。
第5ステージの落車がどんな影響を明日に及ぼすのか。今はまだ何とも言えない。骨折などはなかったようだが、痛みが残るようであれば、彼の睡眠を阻害し、勝負所で必要になる体力を奪い取ってしまう恐れは十分にある。
だから何とも言えない。
ベヴィン、インピー、ポート、あるいはその他のクライマーたち。
誰が明日の最後の表彰台の頂点に立つのか、まったく予想できない。
それでも、少しでも参考にするべく、次に今年の目玉の1つであったコークスクリューでの、有力選手たちの走りを振り返ってみよう。
コークスクリューでの走り
今年、ウィランガ・ヒルと並ぶ、あるいはウィランガ以上の重要性をもつ登りとして注目されたのが、第4ステージの1級山岳モンタキュート、通称「コークスクリュー」である。
登坂距離2.5km、平均勾配9%、最大勾配15%、コークスクリューの名が示す通りのスイッチバックの連続となる厳しい登りは、スプリンターはもちろん、パンチャーであっても先頭で越えるのは容易ではない。
実際、今年もこのコークスクリューで、いよいよ一流クライマーたちがその実力を発揮してみせた。
飛び出しはそこまで早くなかった。残り700mを切ったところで、まずはワウト・プールス(オランダ、チーム・スカイ)が飛び出す。これについていったのがマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト)、ポート、そしてジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィズマ)の4名である。
ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア、チーム・サンウェブ)もなんとか喰らいつこうとペダルを回すが、ウッズ、ベネット、ポートが次々と先頭交代をしてペースを上げたことで引き離され、単独で先頭4名とメイン集団との間に取り残される形となった。
前方で繰り返されるプッシュに対し、最初に飛び出したプールスがわずかに千切れかけた姿を見せる。4名の中で最も積極的に前を牽く姿を見せたのがウッズだった。
だがいずれにせよ、この4名が分解されるには、700mの登りだけでは短すぎた。また、後続のメイン集団との十分なタイムギャップを生むためにも。
頂上を越え、テクニカルなダウンヒルをこなす4名とメイン集団とのタイム差は11秒。
ウィランガでもこのタイム差しか作れないとしたら、ベヴィンに対してもインピーに対しても、逆転を果たすことは難しいと言わざるをえない。
まずはウィランガで、彼らパンチャー勢を突き放すだけの強烈な攻撃を、少なくとも1.2km~1.5km程度から放たなくてはならない。
かといって焦り過ぎて後半失速するような状態を作るわけにもいかない。
ポート、そしてこのコークスクリューで最も調子が良さそうだったウッズなどは、今年果たしてどこから攻撃を仕掛けるか。
そして、伏兵として注意しておかなければならないのは、ポートたちから10秒のリードを得ているルイスレオン・サンチェス。
コークスクリューでは先頭4名に加わらなかった彼だが、あえて体力を温存したと見ることもできる。元々はパンチャーというよりは強力なクライマーであり、スペイン人でありながら今年のこのダウンアンダーでかなり調子が良いことはすでにここまでのステージで明らかである。
もし、ベヴィンやインピーがウィランガ・ヒルで大きく遅れ、クライマー勢が逆転総合優勝のチャンスを得たとしても、このサンチェスがウィランガ・ヒルで喰らいつき、優勝までいかなくとも、2位や3位に入ることができれば、それが6秒や4秒程度のタイム差に留めることができれば、彼の15年ぶりの総合優勝、という快挙を成し遂げることができる。
もちろん、これ以外のクライマーたちも、意外な走りを見せることに期待していきたい。
最終日ウィランガ決戦。白熱のラスト2km、果たしてどうなるか。
2019年最初の新人賞ジャージは誰の手に?
もう1つ、注目すべきは新人賞ジャージの行方である。
現在、新人賞ジャージの着用権を得ているのは、スプリンターでありながら見事コークスクリューを越えてみせたライアン・ギボンス(南アフリカ、チーム・ディメンションデータ)。
しかし、彼と同タイムで4名、ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、カチューシャ・アルペシン)、クリス・ハミルトン(オーストラリア、チーム・サンウェブ)、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチーム・エミレーツ)、そしてヒンドレーが並んでいる。
ギボンスはさすがにウィランガでリードを保つことは難しいだろう。コークスクリューでの走りを見る限り、ヒンドレーは十分に可能性があると思われる。またクリス・ハミルトンはUniSAオーストラリアのメンバーとして走った2016年に、ウィランガ・ヒルを17秒遅れの区間11位、ウリッシやゲランス、ベヴィンらと同じタイム差でクリアしている。
現在新人賞争いにおいて7秒遅れの6位につけているルーカス・ハミルトン(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)も、同じくUniSAで参加した2016年に23秒遅れ。こちらも可能性をもった選手である。
だがやはり期待したいのは、昨年の新人賞ベルナルと同じく前年のラブニール覇者としてこのダウンアンダーに乗り込んできたポガチャル。
ベルナルほどの爆発を期待するのは厳しいのではないかと思いつつ、現在では新人賞にかなり近い位置にいるのは確かである。
ウィランガ・ヒル決戦の先頭で誰が総合優勝の座を手に入れるのか注目しつつ、後方で展開されるこの新人賞ジャージ争いにも、しっかりと意識を向けていこう。
今年もまた白熱の幕開けを迎えている2019年シーズン。
最後に笑うのは、一体誰だ?