りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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Mitchelton-Scott 2019年シーズンチームガイド

読み:ミッチェルトン・スコット

国籍:オーストラリア

略号:MTS

創設年:2011年

GM:シェイン・バナン(オーストラリア)

使用機材:Scott (スイス)

2018年UCIチームランキング:5位

(以下記事における年齢はすべて2019年12月31日時点のものとなります) 

 

 

 

2019年ロースター

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ユワン、クルーゲを放出し、より一層、総合系に集中する体制を目指す2019年のミッチェルトン・スコット。とはいえ、アルバジーニ、インピー、メスゲッツ、トレンティンと、十分に勝利を掴めるスプリンター/パンチャーの数は揃っており、とくにピュアスプリントとはいかない難しいレイアウトのスプリントでは他チームと比べても高い勝率を誇ることができるだろう。

逃げ切りを狙えるルーラータイプについても、バウアー、ビューリー、マイヤー、ユールイェンセンなど豊富。確かに強くなったとはいえ、ガチガチの総合系しか狙わないお堅いチームというわけではなく、観るものを沸き立たせる大逃げ勝利への期待も十分に孕んだチーム構成と言えるだろう。

ベイビー・ジロのプロローグ勝利のアッフィーニや、3年連続国内U23ITT王者のスコットソンなど、新加入の若手もミッチェルトンらしいTTスペシャリスト。なお、ロバート・スタナードもほぼネオプロだが、厳密には2018年の途中から「正式加入」扱いのため、新加入選手とはみなさず。U23ロンバルディアの覇者で、将来的にはチームのグランツールエース候補として育成が進められることだろう。

 

 

注目選手

サイモン・イェーツ(イギリス、27歳)

脚質:クライマー 

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2018年の主な戦績

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アグレッシブな走り、というのが今年のサイモンの特徴を一言で表した言葉だ。そもそもアダムともども、過去の彼らの勝利は常に、混戦の中で鋭い一撃を繰り出してチャンスを掴む、アタッカーのような走り方の末に手に入れたものだった。

そのスタイルは、グランツールでも変わらず。ジロ・デ・イタリア第6ステージのエトナ火山ではチームメートでエースのチャベスが前にいるにも関わらず、残り1.5kmから飛び出して、そのままチャベスに追い付いてのワンツーフィニッシュ。その後もマリア・ローザを着ながらの積極的な攻撃で、ハットトリックを達成した。

ツール・ド・ポローニュでは、39秒遅れの総合9位で迎えた最終ステージで、残り10kmから単独でアタックを敢行。最終的に総合首位のミカル・クヴィアトコウスキーを抜くことはできなかったものの、一気に総合2位に登りつめた。

 

だが、ジロのリベンジを狙うブエルタ・ア・エスパーニャでは、そのアグレッシブさを幾分か抑えることとなった。

サイモンが勝利出した第14ステージ「レス・プラエレス」では、残り4kmからアタックしたクラウスヴァイクらを、集団先頭で追いかけつつも、適切に力をセーブする様子を見せた。その後もキンタナやロペスがアタックを行うが、すぐさま反応することはなく、ラスト1.2kmでブリッジ。そして残り750mで決定的な攻撃を仕掛けた。ジロのときのように鋭い一撃でライバルたちを突き放すのではなく、可能な限りを力を使わずにおきながら勝負を制するタイミングを狙った攻撃の仕方を身に着けていた。
suzutamaki.hatenablog.com

それはチームも同様だった。第2週まではそこまで存在感を示さなかったアシストたちが、3週目になって最も重要な局面でその実力を示し始めた。チーム一丸となってジロの失敗の繰り返しを避け、確実に勝利を掴むための戦略を練っていたことがわかる。

 

この意味で、サイモンとミッチェルトン・スコットは、わずか1年にしてグランツール優勝候補チームの筆頭に躍り出た。もはやまぐれではなく、2019年もまた、彼らが大きな成果を上げることが必然のように思える。

まずはジロ。ライバルも決して少なくなく厳しい戦いになることは間違いないが、これをサイモンが制することは十分に期待できるだろう。

 

 

アダム・イェーツ(イギリス、27歳)

脚質:クライマー 

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2018年の主な戦績

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双子の兄弟がジロで実力を示した後、大きなプレッシャーをもってツールに臨むこととなった。前哨戦のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは総合2位と好調で、ツール第1週も、総合10位以内で終えることができており、ここまではよかった。

が、アルプス3連戦で大幅にタイムを失う。

ステージ優勝に切り替えるも、勝利に最も近づいた第16ステージの下りで落車してしまうという大失態。一切の結果を持ち帰ることなくツールを終えてしまった。

だが、このままで終わる彼ではなかった。当初の予定を変更し、兄弟のためにブエルタ・ア・エスパーニャに出場することに決めた彼は、最初の2週間は大人しくプロトンの中に存在を沈め、そして3週目、モビスターやアスタナといったライバルたちの総攻撃を受けたエースを守るべく、プロトンの先頭をたった一人で牽き続けた。間違いなく、ブエルタにおけるサイモンの勝利の裏には、アダムの存在があったのだ。

そして、2019年に向けて、アダムもまた、グランツール制覇に向けての夢を語ってもいる。また、彼ら兄弟のアグレッシブさは、2019年に母国で開催される世界選手権にも向いているようにも思う。

いずれにせよ、まだ「サイモンがアダムより強い」というようなことが決まったわけではない。2019年、アダムがサイモンに代わって才能を見せつける年になるか、あるいはその方向性において別々の強さを見せるようになるか。楽しみだ。

 

 

マッテオ・トレンティン(イタリア、30歳)

脚質:スプリンター 

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2018年の主な戦績

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2017年はブエルタ4勝、2度目のパリ~ツール制覇など、好調なシーズンを過ごしてきていたトレンティン。しかし、新たなチームで迎えた2018年は、ひどくフラストレーションの溜まる始まり方を経験した。

まずは、シーズン開幕前のトレーニングでの怪我。そして、4月のパリ~ルーベでの落車で負った、背骨の骨折。これにより、その後の2か月間をふいにしてしまった。

しかし、そこで彼は焦ることなく、しっかりと休養に努めた。そして、徐々に復活を遂げていく中で、見事ヨーロッパ王者の座を掴み取ったのだ。

「結局のところ、不運も、挫折も、ハードワークも、全てこの勝利を手に入れるために必要なことだったんだ」とインタビューで語るトレンティン。そして彼は、同じく挫折を味わった若きエースのためにブエルタを走り、そして初めてグランツールチャンピオンを抱えるチームのメンバーとして3週間を走りぬいた。

振り返ってみれば、たったの2勝しか挙げられなかった2018年シーズン。しかし、その結果以上のものを手に入れ、変化することのできたシーズンだったとも言える。そして2019年は、ユワンが去ったことで、彼にとっては初めての、チームのスプリントエースとしての役割を担うこととなる。

更なる進化を見せてくれることを期待している。

 

 

その他注目選手

ダリル・インピー(南アフリカ、35歳)

脚質:クライマー

かつては、サイモン・ゲランスの良きアシスト、という印象だった。加速力も独走力も高く、ゴールや中間スプリントのある程度手前から長めに牽引し、他のライバルを圧倒するリードアウトを見せる理想の脚質だった。登りスプリントの能力もあるものの、そこもアルバジーニがより上位という印象で、エースとしての彼、というイメージは正直、持てずにいた。

が、2018年はそのゲランスが移籍し、彼自らが先頭に立ってダウンアンダーに臨むことに。そして、そこで、2位が3回。パラコーム、ウライドラ、そしてウィランガ・ヒル。いずれも、ピュアスプリンターを引き離し、総合争いに大きな影響を及ぼすパンチャー向けレイアウトにて、彼は常に上位をキープし、ボーナスタイムでもってまさかの総合優勝を手に入れた。

だが、彼の勢いはここで留まらなかった。直後のカデルレースで3位。国内選手権では6年連続となる7回目となるITT王者に輝いたほか、これまでは2位が多かったロード部門でもついに王者の座を手に入れる。クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも1勝したほか、ポイント賞を獲得するなど、プロ12年目にして過去最高の実績を挙げることとなった。

2019年も、トレンティン、アルバジーニとはまた違ったアプローチでのエースとしての活躍が期待できそう。何分、TTの強さや山での適性も考えると、他2人よりも応用が利くのが強みである。もちろん、元々のアシストとしての強さを再び発揮し、トレンティンらの勝利を導く走りにも期待したい。

 

ジャック・ヘイグ(オーストラリア、26歳)

脚質:スプリンター

今年のサイモンの成功の陰にはこの男あり。ダミアン・ハウスンと並び、チーム叩き上げの名クライマー・アシストである。ブエルタ・ア・エスパーニャでは自身も総合19位と、チームではサイモンに次ぐ順位を記録しており、将来のエース候補と考えることもできる。

自らの成績だけを単純に考えるならば2017年の方が好成績だった。ツール・ド・ポローニュでは区間1勝&総合8位。ジロ・デッレミリアでも9位と、本格的な山岳というよりは、中規模程度の登りを含むアルデンヌ系クラシックや丘陵系ステージレースに向いている。

たとえば2018年のリエージュ~バストーニュ~リエージュでは14位で、チーム内ではアルデンヌ巧者ロマン・クロイツィゲルに次ぐ順位である。そして2019年はクロイツィゲルが移籍する。となれば、アルデンヌ系クラシックにおける、ヘイグの躍進に期待しても、悪くはなさそうだ。

 

エドアルド・アッフィーニ(イタリア、23歳)

脚質:TTスペシャリスト

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オランダの有力な若手育成チームであるSEGレーシングアカデミーからの移籍。基本的にミッチェルトンは下部育成チームであるバイクエクスチェンジからの昇格が多い印象だが、わざわざ外から持ってくるあたり、この選手に期待しているところは大きそうだ。

実際、2018年は国内選手権U23部門のロード&ITT、ヨーロッパ選手権U23個人タイムトライアル、「地中海大会」個人タイムトライアルそれぞれを制している。同時期にはU23ジロ・デ・イタリア通称「ベイビー・ジロ」の初日プロローグステージでも優勝しており、6月から7月にかけては「1位」が並ぶ、2018年ブレイクした若手選手の1人だ。世界選手権U23個人タイムトライアルでは惜しくも4位で表彰台は逃してしまう。

今のところはTTに特化しており、山岳ではどうしても遅れる姿が目立つ。今後はよりTTを強化して将来的にはオリンピックや世界選手権を狙える選手に育て上げていくのか、ロードでの重要な役割を任せられるように山岳も含めて経験を積ませていくのか。来期その動向にはしっかりと注目していきたい。

 

 

総評

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今年のブエルタでの戦略性の高さと、徹底したグランツール総合への意識的なシフトの仕方から、2019年も大きな存在感を示すと予想。少なくとも、モビスターよりは期待ができる?

スカイやモビスターと違って明らかに強力なアシストが少ないというのが不安の種ではあるが、結局は最終的に、叩き上げの選手を中心に不思議と強いアシストとしての働きをこなしてみせるのがこのチームである。そこらへんはサンウェブにも近い。この傾向は、ハンマーシリーズの完勝という結果にも結び付いているのかもしれない。

2018年はアルデンヌ・クラシックでも好成績を収めていたが、その原動力となっていたクロイツィゲルの移籍は非常に痛い。アルバジーニやヘイグがどこまで頑張れるか。

北のクラシックは勝利を期待できる選手が正直、いない状況。ユールイェンセンがなんとか、可能性があるくらいか。

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