りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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Lotto Soudal 2019年シーズンチームガイド

読み:ロット・スーダル

国籍:ベルギー

略号:LTS

創設年:1985年

GM:マルク・セルジェント*1(ベルギー) 

使用機材:Ridley (ベルギー)

2018年UCIチームランキング:14位

(以下記事における年齢はすべて2019年12月31日時点のものとなります) 

 

 

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2019年ロースター

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最大の目玉はグライペルに代わって加入したカレブ・ユワン。右腕とも言うべき長身の発射台ロジャー・クルーゲも引き連れ、本気でスプリント勝利を狙って行く体制だ。

ただし、グライペル親衛隊のうち、強力なバク、デビュッシェール、ジ―ベルグはチームを去ることに。残ったハンセン、ヴァンデルサンド、デブイストあたりと、新加入のアダム・ブライスがどうユワンと噛み合っていくか、未知数なところはある。クークレールは元チームメートなので、そこはなんとか大丈夫か。

2018年に引き続き、U23チームからの昇格が2019年も2名。ただし、2018年の昇格組であるランプレヒトとヴァンフックはともに、良いシーズンを過ごせた、とは言い切れないところに不安が残る。同じく叩き上げのジェイムス・ショウが2019年の行先不明なのがまた、不安を募らせる・・・。

 

 

注目選手

カレブ・ユワン(オーストラリア、25歳)

脚質:スプリンター

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2018年の主な戦績

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2018年は彼にとって、大きな変化の年だった。

 

2015年のブエルタの登りスプリントステージで、サガンとデゲンコルプを鮮やかに追い抜いて勝利した瞬間が、彼の名が大きく世界に轟いた瞬間だった。その後、ツアー・ダウンアンダーにおける超低空スプリントの衝撃。誰もが彼を、次代最強のスプリンターであると疑わなかった。

しかし、同世代にもう1人の怪物がいた。それは、フェルナンド・ガビリア。2016年はそこまで大きくは目立たなかった彼も、2017年のジロで4勝+ポイント賞という圧倒的な成果を叩き出したことで、あっという間に世界最強スプリンターの一員になり上がった。

一方、ユワンはこのジロで1勝に留まり、2人の間に大きな差がついてしまったかのように印象付けられた。

 

だが、2018年の彼は、ガビリアに真正面から対抗するのとは違ったアプローチで、個性を生み出しつつあった。

まずはツアー・ダウンアンダー。前年に(クリテリウム含め)5勝を記録したことと比較すると寂しい結果に終わったようにも思えるが、しかし2年前に歯が立たなかったパラコームの登りフィニッシュで堂々たる勝利。

さらに、ツアー・オブ・カリフォルニアでは、かつてサガンが勝利した「ラグナ・セカ」の厳しいアップダウンを経てのゴールで、逃げ切りを許してはしまうものの、メイン集団の先頭を取っての3位となった。この日のこのコースは、このカリフォルニアで3勝するガビリアすらも脱落するほどのコースであった。

少しずつ、ユワンの走りに変化が見られるようになったのでは、とこれらのレースの結果を見ていて感じてはいた。ミラノ~サンレモでの2位(これも逃げ切りを許したうえでのメイン集団先頭だった)も、この変化の結果の1つではないだろうか、と。

 

そしてユワンは、もう1つの大きな変化を望んだ。すなわち、自らを大切に育ててきてくれたチームからの離脱。そして、唯一無二のエースとして新チームでの責任を背負うことである。

もはや彼は神童ではない。カレブ・ユワンの、新たな歴史が始まる。

 

 

ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、28歳)

脚質:TTスペシャリスト

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2018年の主な戦績

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2018年は2年連続となるヨーロッパ選手権個人TT王者に輝くと共に、トム・デュムランと1秒以下の差で世界選手権3位という栄冠を手に入れた。

これらの成績をもって、2018年ベルギー最優秀選手に選ばれたカンペナールツ。その壇上で、現アワーレコード保持者であるブラッドリー・ウィギンスより、自身の記録を打ち破ることを期待している旨のメッセージを受け取った。

事実、カンペナールツは4月にアワーレコード挑戦を表明している。ウィギンスの現在の記録は54.526km。スイスのベロドロームで30分間を54.8km/hで走るという結果を叩き出してもいる(もちろん、30分と1時間とでは大きく違うわけだが)。2019年の最初の2か月間をナミビアで過ごし、このためのトレーニングに全力を尽くす可能性についても話している。

とはいえ、このアワーレコードのために春のクラシックを完全に犠牲にするのはリスクもある。まだワールドツアークラスのステージレースでの個人TT勝利がないのも気がかりだ。2018年のブエルタでは逃げに乗って5位に入った記録もある。そういった大逃げによる勝利もまた、彼の目標でもある。何を最優先とするかについては、まだ完全に決まったわけではない。

そしてもちろん、最終的な目標は世界選手権と、2020年オリンピックである。デニス、デュムラン(あるいはログリッチェ?)に次ぐ、真の金メダル候補になれるかどうかは2019年の走りにかかっているだろう。

 

 

ティム・ウェレンス(ベルギー、28歳)

脚質:パンチャー

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2018年の主な戦績

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かつては逃げスペシャリストとしての活躍が目立った彼も、昨年秋のツアー・オブ・グアンシー総合優勝の辺りから、少しずつクライマー寄りのパンチャーとして、登れる力、総合的な力の高さを示しつつある。

2月のブエルタ・ア・アンダルシアでは、最大勾配19%の厳しい石畳激坂でミケル・ランダを突き放す快走を見せて総合優勝。3月のパリ~ニースでもより本格的なクライマーたちに混じっての総合5位で、しかもTTでも上位に入れる実力を発揮した。

また、イル・ロンバルディアでの5位も見事。まだまだグランツールでの総合上位争いは難しいだろうが、1週間程度のステージレースの総合争い、およびクライマー向けワンデーレースについては、チームの最大のエースとしての働きを期待できるだろう。

 

 

その他注目選手

イエール・ヴァネンデル(ベルギー、34歳)

2018年のフレッシュ・ワロンヌで、エースのはずだったウェレンスの為に集団先頭を力強く牽引。しかしウェレンスが思ったよりもついてこれなかったため、結果としてアラフィリップを助けるような格好になってしまった。このときバルベルデはすでに番手を下げており、アラフィリップにとっては最大のチャンスであった。ある意味、ヴァネンデルがいなければ、アラフィリップの栄冠はなかったかもしれない。

この勢いでもって臨んだリエージュ~バストーニュ~リエージュでは、最後の激坂「コート・ド・サンニコラ」でアタックし、アラフィリップらを突き放す。目標は前方で独走するユンゲルス。そのタイム差を20秒まで詰めて単独追走するヴァネンデルの姿に、もしかして、という思いを抱いた視聴者も多かったのではないだろうか。

しかし、結局はそれが、最後までもつことはなかった。下りと平坦で再びタイム差が開き始め、最後には集団にも飲み込まれてしまった。

だがこのいぶし銀、サイレンス・ロット時代から数えて11年目となるこのベテランが、再び脚光を浴びるチャンスが訪れつつある。過去には、アムステルゴールドレースでも2度、2位になっている。2019年のアルデンヌエースは、もはやウェレンスだけではない!

 

スタン・デヴュルフ(ベルギー、22歳)

脚質:ルーラー

元々はアマチュアチームの「ロット・スーダル U23」に所属。ジュニア時代には欧州選手権で銀メダルを獲得している。

2018年はU23版リエージュ~バストーニュ~リエージュ6位、U23版パリ~ルーベ優勝など順調にクラシックで成果を出しており、マルク・ヒルシやスティーヴン・ウィリアムズ、ジャスパー・フィリップセンなど、ツール・ド・ラヴニールや各種ワールドツアーでも名を売っている注目の若手選手たちと十分に張り合えるだけの実力があることを示している。

まだまだ未知数のこの若人に、早くも今から注目していこう。

 

ヘルベン・ディッセン(ベルギー、21歳)

脚質:スプリンター

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もう1人、若手の注目選手を紹介しておこう。デヴュルフ同様にロット・スーダルU23からトレーニーを経て昇格したこの男は、トラック選手としてその名を既に売りつつある。2015年のジュニア世界選手権ではポイントレースで銅メダル、16-17トラック・ワールドカップ(アペルドールン)ではチームパーシュートで銀メダルを獲得している。そして2017年、トラック欧州選手権において、エリミネート種目のエリートカテゴリで見事、優勝。

ロードにおいてはこのトラック競技で培ったスプリント力で頭角を表していくことだろう。すでに、2018年ベルギー国内選手権U23部門ではロード王者に輝いている。

失敗もある。U23版ジロ・デ・イタリアとも称される「ベイビー・ジロ(ジロ・チクリスティコ・ディタリア)」の第2ステージ。集団スプリントで勝利を確信したディッセンは、早くも両手を挙げてしまった。が、それは、「やっちまった」だった・・・。

 

早くも、酸いも甘いも嚙み分けたこの男は、きっと大物に大成する。

(なお、PCSに2019年は7月から加入とあるが何か事情を知っている人はおられますか? おそらくは、そこまではトラックに集中する、ということなんだろうけれど・・・)

 

 

総評

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グランツールの総合上位争いに関しては、デヘントやウェレンスが覚醒しない限りは難しいだろう。最も期待できるのは、ウェレンスを筆頭にヴァネンデル、ランプレヒトなど、とりあえず誰かしら成果を出すことは可能だろう。

もう一つの軸はステージ優勝。スプリントではユワンと彼のアシストたちがどううまく噛み合っていくかが鍵であり、成功と失敗のどちらの可能性もあるだろうが、スプリントだけでなく逃げ切り、個人TTなどを含めれば稼ぎ出すことは問題ないはず。

北のクラシックも、ベノートが2018年ストラーデ・ビアンケの勢いをしっかり継承してくれれば。あとはクークレールや若手選手たち次第。

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*1:英語版wikipediaではチームマネージャー。オランダ版・フランス版wikipediaではゼネラルマネージャーの表記。

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