読み:チーム・カチューシャ・アルペシン
国籍:スイス
略号:TKA
創設年:2009年
使用機材:Canyon(ドイツ)
2018年UCIチームランキング:17位
(以下記事における年齢はすべて2019年12月31日時点のものとなります)
2019年ロースター
ホアキン・ロドリゲスが引退して久しく、またクリストフも2017年を最後にチームを去った。今、このチームを支える柱は2本。マルセル・キッテルとイルヌール・ザッカリン。この2本柱への注力明らかであった2018年のカチューシャ・アルペシンは、2本柱が共に崩れ落ちたことによって、惨憺たる結果を招いた。・・・年間5勝? なんだそれは。
ということで、それぞれのエースを支える補強が肝要なわけだが、キッテルの為の補強はデブシェール1人だけ?バッタリンは・・・さすがにリードアウトというイメージではないし。ザッカリンのための補強はゲレイロとナバーロを入れたものの、マシャドやキセロウスキーを失った結果、トントンと言うべきか、むしろ、というべきか。
とはいえ、元々このチームにいるメンバーは決して悪くない。ツェベルもハラーも有能なリードアウト要員であったし、ボズウェルやゴンサルベスは過去のグランツールでも実力を見せつけている。ただ、2018年はひたすら、何かが噛み合わなかっただけ・・・そう信じている。
また、この2本柱以外の成績も十分に追い求められるはずだ。ポリッツはパリ~ルーベで7位となるなど北のクラシックへの才能とスプリント力の高さを見せつつあるし、新加入のゲレイロやバッタリンはハースと共にアルデンヌ・クラシックでの成績を追い求めることはできるだろう。
悲劇は2018年で終わらせてくれ!
注目選手
マルセル・キッテル(ドイツ、31歳)
脚質:スプリンター
2018年の主な戦績
- ティレーノ~アドリアティコ 区間2勝
- ツール・ド・フランス 区間3位(第1ステージ)
- ビンクバンクツアー 区間2位(第1ステージ)
こんなにも辛いシーズンは、病気で苦しんだ2015年以来だ。年間を通して2勝。2位や3位に入ったこともあるが、まったくスプリントに絡めないときの方が多かった。ツール・ド・フランスでは、あまりの事態にチームバスの中で絶叫する姿が映し出されたこともあった。
チームのスポーツディレクターであるディミトリ・コニシェフは彼を「エゴイストだ」と非難した。「我々は彼に多くの金を払っているのに、彼は自分のことしか考えていない・・・」
そんなこともあって、キッテルは単年でカチューシャとの契約を破棄するのではないか、との噂も飛び交った。無理もない話だ。だがキッテルはその度にその噂を否定し、チームメートやチームマネジメントとの間に何ら問題がないことを主張し続けた。また、早めのオフシーズンを与えてくれたチームへの感謝も。
そしてさいたまクリテリウムで私たちに変わらぬ笑顔を見せてくれたキッテルは、Cyclingnewsのインタビューで次のように答えている。
――2018年に一体どんな問題があったんだい? 新チームのリードアウトトレインに問題があったのか、それとも君自身にか。あるいは、スプリント自体がより難しくなった?
「いや、いや、いや。チームには問題はないよ。すべては2017年のツールの落車に始まったんだと思う。あのあとすぐにトレーニングやレースに戻ったけれど、完全には回復していなかったんだ。オフシーズンもずっと忙しく、しかも新チームに移籍した。新チームにすぐに適応するっていうのは、誰もが新しい会社にすぐに適応するのが難しいのと同様に、決して簡単なことではないんだ。1つのこと、だれか1人に、すべての責任があるわけじゃない」
Kittel: I'm trying to live like a monk so I can get back to my best | Cyclingnews.com
色んな苦しみ、悩み、迷いを覚えるシーズンとなったであろう。しかし彼はそれら全てを飲み込んで、新たなシーズンに向けて強い意志を固めている。それをエゴイストというのであれば、彼はただ、全ての責任を一身に背負い込んでいるだけであり、それはトップアスリートとしての宿命であるだけだ。
2015年の苦悩から軽やかに復活して過ごした2016-2017シーズンの例もある。きっと2019年は、何事もなかったかのように最強であり続ける彼の姿を見ることができるはずだ。待ってるぜ、マルセル。
イルヌール・ザッカリン(ロシア、30歳)
脚質:オールラウンダー
2018年の主な戦績
- ツール・ド・フランス 総合9位
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ 総合10位
- ブエルタ・ア・エスパーニャ 総合20位
ツール・ド・フランスではアルプスを超える頃にはキセロウスキー、マルティン、キッテル、そしてツァベルといったメンバーを失ったカチューシャは、わずか4名で残りの1週間を戦う羽目になった。
そしてこのときザッカリンも、すでに総合で10分近く遅れた総合13位。彼は最終的に総合TOP10に入るという目標を掲げ、なんとかこれを達成はしたものの、昨年ジロで総合5位、ブエルタで総合3位に入り込んだグランツールライダーとしての姿はそこにはなかった。
だがこちらも、キッテル同様、あくまでも2018年は2018年である。もしもそこに失敗があるとしたら、それはキッテルのためのメンバーも多く含んだ体制でツールに臨んだことにあるのかもしれない。
2019年、ザッカリンはまずはジロへの出場を宣言した。おそらく、そこにはキッテルはいない。新しく加えたダニエル・ナバーロやルーベン・ゲレイロ、そして2017年ジロ終盤で強力な牽引が光ったジョセ・ゴンサルベスなどを引き連れて万全の体制で臨むことができれば、再び彼は復活を果たすことができるはずだ。
ニルス・ポリッツ(ドイツ、25歳)
脚質:ルーラー
2018年の主な戦績
2016年に正式加入し、西フランドル3日間レース(現ドワースドール・ヴェストフラーンデレン)やル・サミンなど北のクラシックレースで上位を獲得。2018年はパリ~ルーベで7位に入るなど、その才能を着実に伸ばしつつある。
一方、スプリント力の高さにも定評があり、2018年はドイツ・ツアーでプロ初勝利。若き才能あるジャーマンスプリンターが上位を独占するスパルカッセン・ミュンスターラントジロでも3位と、トップスプリンターの仲間入りまであと一歩といったところまできている。
また、このドイツ・ツアーは上位にカルーゾやバルデが入り込むなど、決してピュアスプリンター向きではないステージレース。その中で連日上位に喰い込んで最終的には総合2位にまで登りつめたことは、彼のアルデンヌ系クラシックへの適性、あるいはタフなレースへの適性を強く感じさせた。
そしてもう1つ、彼の大きな武器と言えるのはその独走力である。国内選手権個人タイムトライアルでは2016年・2017年と連続で3位を獲得(2018年は5位)。エトワール・ドゥ・ベセージュやデパンヌ3日間などの小さなステージレースでは、この個人TT能力のおかげで総合上位につけることができてもいた。
そしてその独走力を活かした逃げでも活躍したのが2018年である。パリ~ニース第5ステージとツアー・オブ・ブリテン第7ステージで2位。いずれも勝てはしなかったが、2019年にはグランツールで逃げ切り勝利を収めたとしてもおかしくはないような実力を示してくれた。
と、いうように、石畳適性・アルデンヌ適性(タフネスさ)、スプリント力、独走力と幅広く高い能力を見せるポリッツは、辛いシーズンを過ごしたカチューシャ・アルペシンにとって、2019年に希望を見出すことのできる重要な存在であることは間違いないだろう。
その他注目選手
イェンス・デブシェール(ベルギー、30歳)
脚質:スプリンター
8年間をベルギーのチームで過ごしてきた「グライペル親衛隊」の1人。そんな彼はグライペルと行動を共にするわけではなく、かといってチームに残るわけでもなく、新たな舞台として、不調にあえぐキッテルを支えるという重要な役割を与えられた。
もちろん、彼自身の勝利も十分に狙える男だ。2018年はブルッヘ~デパンヌ3日間レース5位、ヘント~ウェヴェルヘム5位、シュヘルデプライス4位と春のクラシックで安定した成績を残した彼は、2019年においては、ポリッツと並ぶクラシックリーダーとして名を連ねることになるだろう。また、ツール・ド・ワロニーでは勢い盛んなアルバロホセ・ホッジを力で捻じ伏せて勝利。純粋なスプリント力でもエースを張れる存在だ(このときの勝利が、このレースにおけるウェレンスの総合優勝を導いたとも言え、その意味でも値千金の勝利であった)。
だが、個人的な思いだけを言わせてもらえば、やっぱり一番期待したいのはキッテルのリードアウト。ツァベル、ハラー、ポリッツと決して弱くはないカチューシャのアシストたちと共にトレインを形成し、失意のエースを再び輝かせてほしい。
マジ頼む。
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、25歳)
脚質:パンチャー
アクセオン・ハーゲンスバーマン(現ハーゲンスバーマン・アクセオン)に所属していた2016年にツアー・オブ・カリフォルニア新人賞3位。U23版リエージュ~バストーニュ~リエージュでも3位を記録した。
トレック入りを果たした2017年はポルトガルロード王者に。2018年はツアー・ダウンアンダー総合9位、ツアー・オブ・ターキー総合6位のほか、ブルターニュ・クラシックとプリムス・クラシックで5位を獲るなど、ステージレーサーというよりかはアルデンヌ系からフランドル系までカバーする、パンチャー寄りのクラシックスペシャリストといった脚質だ。つまりは、ヴァンアーヴェルマートとか、ジルベールみたいな。
ということで、2019年は、ザッカリンのアシストとしても期待しつつ、アルデンヌ・クラシックでの成績も望まれるであろう存在。トレックでは華々しい成果は挙げられなかった彼が、危機に瀕しつつあるこのチームで大きな花を咲かせることができるか。
ハリー・タンフィールド(イギリス、25歳)
脚質:ルーラー
2018年のツール・ド・ヨークシャー第1ステージでまさかの逃げ切り勝利。本人にとってもチームにとっても初となる1クラスレースの勝利をもたらした。
トラックレースでも活躍している選手で、2018年は国内選手権個人追い抜き種目で優勝。また、コモンウェルスゲームでも個人タイムトライアル銀メダリストとなるなど、高い独走力を武器とする。ヨークシャーでの勝利もこれが大きな要因となったであろう。
2019年はまだまだグランツールなどに出場する可能性は低いとは思うが、ワールドツアーの大舞台でチームを牽引する機関車役としての活躍に注目していきたい。
弟のチャーリー・タンフィールドもトラック世界選手権で個人追い抜き金メダリストであったりと才能豊か。彼はまだキャニオン・アイスベルグに残るようだが、やがてこのタンフィールド兄弟が共に活躍する未来が楽しみである。
チーム・スカイの新スポンサー次第ではイギリス籍ワールドツアーチームがなくなってしまうかもしれないが、それでもトラック競技を起点として巻き起こってきたブリティッシュライダーの火は消えることはないだろう。
総評
ザッカリンはグランツールの総合表彰台に再び登れる可能性は十分あるし、キッテルが同じくグランツールでステージ優勝を量産し、ポリッツあたりが逃げ切り勝利を稼ぎだすことも十分可能だろう。チームTTも能力の高い選手は揃っているし、北のクラシックもポリッツ、デブシェールが勝利に届く位置にまで2018年も登りつめている。
だが、いずれにせよ、あくまでも2018年の結果を踏まえれば、高い値を出すことは難しい。いいところまではいきつつ、勝利にまで結びつけられるかというと、やはり不安が残る。
まずは2018年のような散々な結果にならないことが第一目標。ある意味、CCCと同じく、まずは20勝を目指す、そういう「復活」への意志が重要なのかもしれない。