読み:チーム・スカイ
国籍:イギリス
略号:SKY
創設年:2009年
GM:デイヴ・ブレイルスフォード(イギリス)
使用機材:Pinarello(イタリア)
2018年UCIチームランキング:2位
(以下記事における年齢はすべて2019年12月31日時点のものとなります)
2019年ロースター
衝撃のニュースーー「スカイ」社によるスポンサードが2019年をもって終了する――が報じられたばかりのツール・ド・フランス最強チーム。今後の動向次第では、2020年に向けて大きな選手の入れ替えが発生する可能性は十分にある。それだけに、あらゆる選手がこの1年、いや、少なくとも6~7月までに、何かしらの結果を出していかなければならないと考えていることだろう。AG2R、UAEと並びワールドツアークラス最大規模の所属選手数を抱えているだけに、その影響力は絶大である。
そんな中、トレック・セガフレードとの間に微妙なやり取りも生じたイバン・ソーサも結局はスカイが獲得。ベルナルと並び、即戦力になりうるこの補強でもって2019年はツール以外のグランツールを、フルーム以外でも狙いにいけそうか。
スポンサー問題はどうしたって色んな話題を呼び込んでしまうだろうが、その大半は2018年のサルブタモール問題同様、大半は憶測と勘違いと邪推と意図的なミスリードによって彩られていくことだろう。
大切なのは彼らが紡ぎ出す結果をただ受け止めるだけだ。その先に一体どんな結末が待ち受けていようとも――問題なくスポンサーが見つかること、スポンサーは見つかるが規模縮小は避けられないこと、スポンサーが見つからずチーム解散となってしまうこと――そこで走る選手たち一人一人の魂が僕たち視聴者の心を震わせることは間違いないのだから。
注目選手
クリストファー・フルーム(イギリス、34歳)
脚質:オールラウンダー
2018年の主な戦績
- ジロ・デ・イタリア 区間2勝、総合優勝
- ツール・ド・フランス 総合3位
世界最強の登坂力と世界チャンピオンに匹敵する独走力、そして宇宙的なダウンヒル能力。グランツールの制覇において必要な全てを兼ね揃えた、まさに最強のグランツールレーサーである。
そしてもう1つ、彼には勝利への飽くなき執念と、その目的のために誰よりも冷静に走りぬく精神力が備わっていることを、2018年のジロ・デ・イタリア第19ステージの80km独走勝利は証明してみせた。ダウンヒルで後続を突き放したあとに補給を取る彼の姿は、実に象徴的であった。
そんな彼だからこそ、チームはどんな状況にあっても全力で彼を支える。このジロ第19ステージの勝利は、彼の実力と、チームの信頼とで生み出されたサイクルロードレースとしては最も理想的な大逆転劇であった。
そんな彼でも、隙はあった。ツール・ド・フランスでは繰り返された落車と、どうしたって残っていた疲労が彼を蝕み、5回目の栄光を取り逃してしまった。
2019年はこの、取り忘れた「5勝クラブ入り」を全力で目指していく。当然の如く、ツール・ド・フランス一直線である。
もしかしたらチームメートがゼッケンNo.1をつけて彼とともに走ることになるかもしれない。予測できないチームの未来に関する情報が、彼をとりまく報道に大きな影響を与えてしまうかもしれない。
だがそれが彼の走りの形を変えることはないだろう。ひたすらストイックに、冷静に彼は走り続け、そしてまた、驚くべき結果を僕たちにもたらしてくれることだろう。
ゲラント・トーマス(イギリス、33歳)
脚質:オールラウンダー
2018年の主な戦績
- ツール・ド・フランス 区間2勝、総合優勝
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ 総合優勝
- ティレーノ~アドリアティコ 総合3位
- イギリス選手権個人タイムトライアル 優勝
ステージレーサーとしての才能は当然示し続けていた。
2015年のツール・ド・フランスでは、終盤の第19ステージまでは総合4位をキープし続けていた。翌年にはパリ~ニースで総合優勝。
2017年はエースとして挑んだジロ・デ・イタリアで途中まで総合2位で推移。しかし、第9ステージで不幸な落車に見舞われ、その後、2週目の途中でリタイアを決めた。
続いて出場したツール・ド・フランスでは初日の個人TTでマイヨ・ジョーヌを着用。第5ステージでそれをフルームに譲り渡すが、その後もワンツーを維持したまま第9ステージに到達――そこで再び、悲劇が彼を襲う。
実力を発揮するチャンスを奪われ続けた男は、2018年のツールでは、ダブルツールを狙うフルームのいわば「保険」としてフレッシュな状態でフランスに乗り込んだ。前哨戦ドーフィネの総合優勝という大きな橋頭保を築き、ツール本戦の初日から落車に見舞われタイムを失ったフルームを尻目に、アルプス山脈での2連勝。その後、その勢いを失うことなく、最終日までマイヨ・ジョーヌを守り続けた。
その意味で、2018年の成績は必然であり、チームとしても、ある意味では狙い通りの結果であった。
だからおそらくは、2019年も、彼もチームも何の迷いもなくゲラント・トーマスの連覇を狙って行くことだろう。もちろん、クリス・フルームの5勝目を狙うのと共に。真の意味でのダブルエース体制であり、そしてそれを問題なく実現する体制がこのチームには備わっている。
エガン・ベルナル(コロンビア、22歳)
脚質:クライマー
2018年の主な戦績
- ツアー・オブ・カリフォルニア 区間2勝、総合優勝
- ツール・ド・ロマンディ 総合2位
- ツール・ド・フランス 総合15位
- ツアー・ダウンアンダー 新人賞
誰もが期待していた新人が、その期待を遥かに超える結果を叩き出した。
ツアー・ダウンアンダーの新人賞はそれでもまだ、予想の範疇であった。コロンビア・オロ・イ・パ総合優勝もまあ、所詮は1クラスのレースでしかなく、分からなくもないだろう。
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでバルベルデと競り合って落車するまでは総合2位につけていたあたりからいくらなんでもおかしいと思い始めた。
ツール・ド・ロマンディで総合2位でフィニッシュした段階で、これはもう、間違いないと確信した。
この男は、規格外であると。これまでの常識で捉えられるような器の男ではない、と。
そのことを証明するかのように、ツアー・オブ・カリフォルニアでは、アダム・イェーツ、ラファル・マイカというグランツール総合表彰台を狙えるレベルの選手たちを蹴散らして総合優勝。いくら、最近昇格したばかりとはいえ、ワールドツアークラスのステージレースで、21歳のワールドツアーチーム1年目の選手が総合優勝するなんて。
ペテル・サガンやナイロ・キンタナが出現した当時の勢いを彷彿とさせる瞬間だった。いや、それ以上か。
ここまで来ると、我々の期待も際限がなくなってくる。急遽出場がきまったツール・ド・フランスにおいても、新人賞はもちろん、総合表彰台も十分にありうるだろう、いやむしろ、クリス・フルームの最大のライバルは彼なのではないか、という予想が、一笑に付すことのできるものではなくなってきた。
実際には彼は総合15位でフィニッシュを迎えることになる。いや、もちろんそれも、21歳のグランツール初出場者にしてはありえないくらいの成績である。そもそも、第9ステージでの不幸な落車がなければ、もっと上位にいてもおかしくはなかった。
そして、総合順位に関わらないところでの働きで、またしても我々を驚かせた。ツール終盤、クリス・フルームとゲラント・トーマスのダブルエースを支える最大のアシストとしての働きを彼は見事に成し遂げてみせた。
もし彼がいなければ、このダブルエース体制は崩壊していたとしてもおかしくはなかった。2018年のツールにおけるスカイの栄光の大部分を、ベルナルという存在が支えていたと言っても言い過ぎではないだろう。
そんな彼だからこそ、2019年のジロ・デ・イタリアでエースを任されたとしても何の不思議もない。そしてそのまま総合表彰台、いや、総合優勝を果たしてしまったとしても――。
そんな予想すら乗り越えてしまうような大きな結果を楽しみにしている。
その他注目選手
ワウト・プールス(オランダ、32歳)
脚質:オールラウンダー
チーム・スカイ、そしてクリス・フルームを支える強力な山岳アシストとして、とくに2015年のツールや2017年のブエルタにおけるフルームの総合優勝の大きな要因となった。
しかしもちろん、彼は彼自身の成績も追い求めている。2016年にはリエージュ~バストーニュ~リエージュで優勝し、2018年はブエルタ・アンダルシアとツアー・オブ・ブリテンで総合2位。
2019年には初出場となるダウンアンダーにエースとして参戦予定。激坂にも強く、スプリント力も併せ持つパンチャー気質をもった彼であれば、 このレースは十分に勝機があるだろう。
ジャンニ・モスコン(イタリア、25歳)
脚質:オールラウンダー
どんなにその言動や行動が非難されようとも、彼の才能自体を否定することは誰にもできない。
2018年も飄々とその実力を証明し続け、ツアー・オブ・グアンシーでは自身初のワールドツアー勝利&総合優勝を果たす。E3ハーレルベーケ8位、2年連続となる国内選手権個人タイムトライアル優勝など、相変わらずの多才っぷりを発揮している。
この多才さについては過去に記事にしたことがある。
2019年はジロ出場予定。ベルナルやソーサも出場する噂はあるし、彼自身もまだまだグランツールの総合争いに関われるほどの素質は見せていない。
しかし、この男はどんな覚醒を見せるのか、予想できない部分もある。
ちょっとだけ、期待しておきたい。
イバンラミーロ・ソーサ(コロンビア、22歳)
脚質:クライマー
一部ではベルナルを超える才能、とも噂されているらしい。ベルナルの才覚を見出したアンドローニ・ジョカットリのGMジャンニ・サヴィオが、またも見つけてきたコロンビアの天才である。
2018年の戦績を羅列しよう。
4月のツアー・オブ・ジ・アルプスでは第2ステージの頂上フィニッシュでミゲルアンヘル・ロペスとティボー・ピノと並んでのゴールで総合リーダージャージを獲得(次の日の下りで落車し、最終日にDNFとなる)。6月のアドリアティカ・イオニカ・レースでプロ初勝利&初総合優勝。
そして何よりも彼の名前を印象付けたのが、8月のブエルタ・ア・エスパーニャ前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスである。
第3ステージでミゲルアンヘル・ロペスと最後まで抜きつ抜かれつの激戦を繰り広げる。このときはアルプスに続き、2度目の敗北を喫したソーサだったが、第5ステージで再びロペスに対してアタックを仕掛ける。そして、ロペスがここで力尽きる。最後はソーサの独走状態となり、見事、総合優勝を果たした。
ジロ総合3位、この後、ブエルタでも総合3位を手に入れた2018年のロペスを完全に力で圧倒しての勝利。これは確かに、才能しか感じられない勝ち方である。
残念ながらツール・ド・ラヴニールでは1勝はするものの総合成績は6位と期待とは裏腹の結果に。インスブルックで行われたU23世界選手権ロードも途中リタイアと、飛ばし過ぎたツケが終盤に回ってきたのだろうか。
2019年はベルナルと共にジロに出場するとの噂もある。総合成績までは望まないが、アルプスの厳しい山岳ステージにおける劇的な1勝くらいは見てみたい。
総評
もしかしたら、今のように最強であり続けることができるのは、2019年限りかもしれない。となれば、ツール・ド・フランスでの最後の勝利を是非とも見てみたくはある。だが、ベルナル、ソーサといった新たな才能が光り輝いた結果、ジロやブエルタでも大きな成果を挙げることを楽しみにしたくもある。
このチームの凄いところは、ではグランツールにしか見せ場がないのかと言えば、決してそうではないところだ。山岳ステージのステージ勝利や各種クラシックでの勝利も十分に狙えるだけのタレントが揃っており、皆、勝利に貪欲だ。
過去のスカイの勝利で個人的に印象深かったのは、リエージュ~バストーニュ~リエージュでプールスが勝ったり、ミラノ~サンレモでクヴィアトコウスキが勝ったりしたときだった。グランツールでは忠実なアシストである彼らも、自らの勝利を純粋に追い求めてしまえばやっぱりめちゃくちゃ強いんだ、ってことを実感させてくれるから。
だから2019年も、グランツールだけでなくそれらのクラシックでの勝利にも期待していたい。たとえばスタナードや、クヴィアトコウスキーや、ファンバーレが、そろそろ北のクラシックで勝ってくれたって、いいんじゃない?