ベルギー中心部に位置する都市ナミュールを舞台にして開催されたUCIワールドカップ第6戦。
例年通りの雨模様に見舞われ、ドロドロのコンディションの中で激しい戦いが今年も繰り広げられた。
UCIワールドカップは、3大シリーズ戦の中で最もアツい展開となっている。
というのも、他2つ、すなわちスーパープレスティージュとDVVフェルゼクリンゲン・トロフェーに関しては、ほぼマチュ―・ファンデルポールの圧勝が約束されている状態となっている。
一方、このUCIワールドカップに関しては、最初の2戦についてファンデルポールが欠場したこともあり、現在、総合首位を走るのはトーン・アールツ。
そして、ファンデルポールはアールツから110ポイント差の7位となっている。
UCIワールドカップは残り4戦。その全てをファンデルポールが勝利する可能性は十分に高いが、それでもアールツがよほど失敗しない限りは、逆転を許すことはない。
一方、アールツにとって怖いのは、22ポイント差で追いかけてくる総合2位ワウト・ヴァンアールトの存在である。
よって、このUCIワールドカップにおいては、おそらく勝利するのであろうファンデルポールではなく、2位以下でゴールしてくるであろうヴァンアールトとアールツとの戦いに注目すればよいことになる。
この戦いに関してはどうなるか最後まで目が離せない。
3大シリーズ戦の中で、絶対に毎回のレースを欠かすことのできないのがこのUCIワールドカップなのだ。
YouTubeで気軽にライブ視聴・見逃し配信ができるのもポイントが高い。
2018-2019 Telenet UCI Cyclocross World Cup – Namur (BE) / Men Elite - YouTube
(公式がUPしたレース全体の見逃し配信)
スタート直後の様子
さて、実際のレースの展開だが、スタートダッシュから波乱の予感を感じさせた。
まず、いつもスタートダッシュで先頭に躍り出るファンデルポールだが、この日はそうはいかなかった。
総合9位、パウエルスサウゼン所属のローレンス・スウィークが先頭に出て、ファンデルポールはその背中に張り付く形となった。
悪コンディションの地面は走れるラインがほぼ決まってしまっており、アップダウンが激しいこともあり、前を塞がれるとなかなか前に出られない。
このままスウィークが前を塞ぐ状態が続けば、ファンデルポールはいつものような独走体勢を築くのは難しいだろう。
3番手にはトーン・アールツの姿。
そして、ワウト・ヴァンアールトは、スタートでミスをしてしまったようで、集団の中に埋もれてしまった。
いつものファンデルポール圧勝の雰囲気ではなくなった?
そして、ヴァンアールトは今日は沈んでしまうのか??
アールツが大チャンスか?
ファンデルポールの実力
だが、やはりファンデルポールは強かった。
2周目の途中、トーン・アールツが先頭に出てファンデルポールの前を塞ぎ、なかなかこれを追い抜けないという場面があったが、その後のハイスピードの下りセクションにおいて、巧みなバイクさばきで無理矢理ラインを変え、鮮やかにアールツを抜き去ってみせた。
(上記の動画中の13:30~)
このあとはいつも通りのファンデルポール独走体勢である。
彼の勝利は揺るぎないものとなった。
ヴァンアールトの復活
一方、トーン・アールツはこの下りセクションで大きな落車をしてしまう。
バイクも泥に塗れ、その周回でのバイク交換も余儀なくされたアールツは、後ろから怒涛の勢いで追い上げてきていたヴァンアールトにパスされ、そして突き放されることとなった。
今シーズンここまで、正直実力を発揮しきれずにいたヴァンアールト。
それは、旧所属チーム(ヴェランダス・ウィレムス・クレラン)とのチーム移籍をめぐるいざこざが影響していたのは間違いないだろう。来シーズンの所属チームについても、不明確な状態が続いていた。
それが、今週。ついに、正式にチーム・ユンボ・ヴィスマとの2019年シーズンの契約を締結することができた。
ヴァンアールトは大きな心の枷が外すことができたのだ。
そのことが彼の走りにも影響したのか。
スタートダッシュの大失敗にも関わらず、ファンデルポール以外の全ての選手を圧倒する「いつものヴァンアールト」らしい走りでもって、彼はこの日、3位を50秒近く突き放し2位でゴールすることができた。
世界王者の復活である。
アールツvsニューウィンハイス
ヴァンアールトに対しては敗北が決定したアールツだが、なんとしてでも3位を死守する必要があった。
第5戦が終了した時点で、アールツとヴァンアールトとのポイント差は22ポイント。
ヴァンアールト2位、アールツ3位でゴールすればそのポイント差は5ポイントでしかないため、同じ状況を残り4戦すべてで繰り返したとしても、逆転されることはない。
一方、これがもしもアールツが4位以下になってしまえば、開くポイント差は10ポイント以上となってしまい、一気に、ヴァンアールトに逆転される可能性が大きくなってしまうのだ。
そして、そんな背水の陣に立たされたアールツの背後から迫るのは、まだ22歳の新鋭、チーム・サンウェブ所属のヨリス・ニューウィンハイスだ。
2019年シーズンはロードチームでもサンウェブの正式なメンバーとして走ることが決まっているニューウィンハイスは、直近のUCIワールドカップでは8位、9位と好調な走りを見せている。
そんな彼がこの日、あまりの悪コンディションに他の実力者たちが順位を落とす中、堅実な走りでマイケル・ファントーレンハウトを抜き去り、そしてアールツのすぐ後ろにまで迫ってきていたのである。
ニューウィンハイスは第1戦・第2戦を欠場しており、第3戦「ベルン」も途中リタイアとなっているため、現在の総合順位は21位。
この日どれだけ上位でゴールしたとしても、総合TOP10に入ることも難しいことだろう。
しかし追い上げられるアールツにとっては、この日のゴールを3位で迎えるか4位で迎えるかというのは自らの人生に大きく影響しかねない最重要事項なのである。
ニューウィンハイスはその勢いでもって一度、アールツを抜き去って3位に浮上する。
しかし、アールツはこれを許すわけにはいかない。
先ほどの落車もあり、その後も下りのセクションに入るたびにフラフラと危なっかしい走りを見せていたアールツも、後半になってキレを取り戻し、鮮やかな下りとカーブを見せるようになっていった。
そしてなんとかもう1度ニューウィンハイスを抜き返した彼は、そのままニューウィンハイスを10秒以上突き放し、3位でゴールラインに辿り着いた。
残念ながら表彰台に登ることはできなかったニューウィンハイスではあるが、実力者ファントーレンハウトにも差をつけて4位というこれまでで最高の成績でもってゴールを迎えたニューウィンハイスは、独特なガッツポーズをカメラに見せつけた。
彼もまた、来年の北のクラシックにおいて、ファンデルポール、ヴァンアールトと共に活躍が期待できる男である。
ぜひ、大暴れしてもらいたい。今日のように。
リザルト
さて、UCIワールドカップ第6戦「ナミュール」のリザルトは以下の通りである。
この結果を受け、総合順位と累計ポイントは次の通りとなる。
総合首位アールツと2位ヴァンアールトとのポイント差は17ポイントに。
UCIワールドカップは残り3戦。
このまま、「2位・ヴァンアールト」「3位・アールツ」が続けばアールツがギリギリ総合首位の座をキープすることができる。
それがもしもヴァンアールトが優勝したり、あるいはヴァンアールトが2位を守りアールツが3位以下に落ちてしまえば、ヴァンアールトの逆転総合優勝の可能性がぐっと大きくなる。
逆にアールツがヴァンアールトよりも上位でゴールすることがあれば、逆転の芽はかなり小さくなる。
アールツにとってもヴァンアールトにとっても失敗の許されない戦いが残り3戦、続いていくこととなる。
ということで、次回のUCIワールドカップは12/26(水)の「ヒュースデン・ゾルダー」。
絶対に見逃せない戦いがそこにある。
YouTubeでライブ配信されているため、必ずチェックするようにしよう!