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ツアー・ダウンアンダー2019 第5ステージ カレブ・ユアンの降格を受けて

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ツアー・ダウンアンダー2019第5ステージは、今大会最後のピュアスプリントステージとなった。

ヴィヴィアーニの落車が起きたダウンアンダー・クラシック、向かい風の中での混沌とした戦いとなった第1ステージ、落車とゆるやかな登りスプリントとなった第2ステージを抜け、ようやく、トップピュアスプリンターたちによる本気の戦いが演出されることとなった。

 

しかし、この日も結局、波乱は起きてしまった。

ゴール直前の位置取り争いにおいて、危険な頭突きを繰り返したとして、先頭でゴールラインを越えたカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)の降格(relegate)が決定された。

結果として、公式の勝者はジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチーム・エミレーツ)となった。

この裁定を巡り、ユアン自身のコメントやチームのスポーツディレクターのコメント、そして勝者フィリプセンのコメントなどを、Cyclingnewsの記事を拾い上げる形で紹介していきたい。

 

 

 

ユアン「過去の多くのスプリンターが僕の行為を不適切だとは考えないだろう。この裁定を受け入れなくてはならないけれど、納得はできないよ」
www.cyclingnews.com

 

「とても残念だよ。僕はロット・スーダルでの最初の公式勝利を楽しみにしていた。ゴールラインを越えたとき、僕は大きな安堵に包まれた。だけど次の瞬間、その喜びは消え去ってしまった。降格の報せを受け取ったから」

 

「最後の1kmにおいて、僕はペテル・サガンの後輪につけていた。だけどフィリプセンが僕をそこから押しのけようとしてきた。僕はスプリント中にハンドルバーから手を離すわけにはいかなかったので、頭を使ってこれを防ごうとした。その頭の動きを、はっきりとヘリコプターから空撮されてしまっていた。けど、昔の多くのスプリンターたちは僕の動きが決して違法なものではないことを認めてくれるだろう。もちろん、陪審員の決定を受け入れなくてはならない。それでも、僕はそれを納得することはできないね」

 

 

アールツ「手を使うことができないのであれば何かを使うしかない。今回の裁定は実際よりも重すぎるように思うよ」

www.cyclingnews.com

 

ロット・スーダルのスポーツディレクターであるマリオ・アールツも、「その裁定は間違っているよ」とコメントを出している。

 

「不公平な裁決だ。私はヘリコプターの映像を見るために陪審員のもとに向かった。彼らは元々フィリプセンがサガンの後輪についていたと主張するが、私が見る限り、元々サガンの後輪についていたのはユアンだった。フィリプセンは最初、ヴィヴィアーニの後ろについていた。その後、サガンがユアンと共にヴィヴィアーニの後輪につけようとしたとき、フィリプセンはユアンとサガンの間に入ろうとしたんだ。当然、ユアンは自らを守るために頭を使った。彼は言っていたよ。『僕は自分の位置を守るために何ができた? 手を使うことはできないのに』。私は彼の言っていることが正しいと思っている」

 

「ヘッドバットは大事のように思えるかもしれないが、手を使うことができないのであれば何かを使うしかない。今回の裁定は、実際よりも重すぎるように思う。それが私の意見だ。主張する場をもらえればいいのだが、それは許されなかった。もう決まってしまった」

 

 

マキュアン「こういうことはスプリントのポジション争いではよくあることだ。今回の裁定は厳しすぎるんじゃないか」
www.cyclingnews.com

 

また、かつて名スプリンターとして名を馳せたオーストラリア人のロビー・マキュアンは、「陪審員の決定は厳しすぎるのではないか」と疑問を呈している。

 

「陪審員たちは1つのアングルからだけしか見ておらず、私はカレブ・ユアンの頭がフィリプセンに3回も当たったという判定については疑いを持っている。こういうことはスプリントではよくある。最初の2つは絶対に当たっていないと思うし、最後の1つは派手に頭が投げられていたが、それがフィリプセンに当たったことについてはそうではないんじゃないかと考えている」

 

「このことが結果に影響を与えたとは私は思わない。こういうことはスプリントにおけるポジション争いでよくあることだ。この点に関して私ほどの専門家はいないだろうし、今回の裁定は厳しすぎると思う。コミッセールたちが事故や攻撃的な行為を避けるために取り締まりをする姿勢は理解できるが、今回の件はそのギリギリの位置にある行為だったと思う」

 

「レンショーのヘッドバットはもっと過激だったし、もっと接触してきていた。カレブが頭を投げている映像をよく見てみるとわかると思うが、それがフィリプセンに届いているようには思えない。カレブの頭は小さくて届かないんだ」

 

「私は残念だったよ。カレブの走りは素晴らしいものだった。フィリプセンもこんな勝利を受け取ることは望んではいないだろう。もちろん、彼はこのワールドツアー初勝利を受け取るとは思うよ。でも、今回の裁定のせいで、それは十分な勝利とは言えないものになってしまった」

 

(最後にユアンに伝えることはあるかと聞かれ)「カレブ、君は今日最高だった。素晴らしいスプリントだった。うまくやった。これからももっと沢山、こういうスプリントができると思うよ」

 

 

フィリプセン「奇妙な感じはあるけれど、陪審員の決定を尊重するよ」

www.cyclingnews.com

 

ユアンの頭突きの被害者で、ステージ2位につけたことでユアンの降格によってステージ勝利の権利を得たフィリプセンも次のようにコメントしている。

 

「僕とカレブは共に良い位置を手に入れようと試みていた。僕は風の中にいて、スプリントのための力を無駄にするわけにはいかなかったので、とにかく誰かの後輪につける必要があった。彼の頭は僕に2度、確かに当たったとは思う。そしてそれが適切なものではなかったと、審判が判断したようだ。僕にとってそれらは、あまりにも急激に起こり過ぎていて、彼の行為が正しいのか正しくないのかを判断することは難しい。僕はステージ2位につけたことだけでもただただ嬉しいので、ステージ勝利が転がり込んできたことには奇妙な感覚を覚えるよ。でも、僕は陪審員の判断を尊重する」

 

「ステージで勝って、両手を挙げることができたのであればまた違っていたんだろうけどね。複雑な気持ちだよ。でもまだ僕は若いし、本当の勝利をこの先に手に入れることはできるだろう。全力を尽くすだけだよ」

 

「実際には僕は2番目にゴールラインを越えていたし、カレブの凄いスプリントを祝福したい気持ちもあるので、少し奇妙な気持ちではいる。でも陪審員の決定を僕は尊重しなければならないし、勝利を得られたことは確かに嬉しいよ」

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なお、UAEチーム・エミレーツのスポーツディレクターであるニール・スティーブンスは、チームから運営側に抗議などを出したりはしていないと説明している。

 

 

 

 

問題のシーンはこちらから。

 

 

ユアンの頭が出ているのは確かだし、それが当たったかどうかについて話すことはそこまで重要でないようにも思える。かつてのスプリンターたちがもっと荒々しかったかどうかというのも、今回の裁定の是非を判断するうえで重要な指標とは言えない。

 

スプリントにおける最低の厳しさは、それこそ2017年ツール・ド・フランスにおけるペテル・サガンの失格からも分かるように、近年よく注目される話題となっている。 

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常に危険と隣り合わせの中で、自らの命を削って勝利を追い求める戦いをしている選手たちの気持ちを考えれば、一概にユアンを批判する立場になりたいとは思えない。

かと言って、危険を誘発する行為を抑制していくうえで、今回のコミッセールの判決は勇気ある決断だったように思う。それもカレブ・ユアンという、地元のスーパースターに泥を塗るような決断だっただけに、その公平さは見習うべきものの1つであるように思う。

 

だが、そのうえで、やはりユアンを道徳的に批判するような立場にはなりたくない。

そして、彼がこのステージで見せた、強烈なスプリント――サガンもヴィヴィアーニも真正面から降すことのできたそれ――については、正当に評価をしていきたいと思う。彼の持ち味である先行型スプリントを活かすために少し早めの仕掛けをしたこともまた、賞賛されるべきことだろう。

 

そして、そんなユアンに手を・・・いや、頭を出さざるをえない立場に追い込んだフィリプセンの位置取りの巧みさと、それを押しのけられた際にすぐに諦め、逆にそのユアンの番手を冷静に取りに行って結果として2位に入るスプリントを繰り出してみせたフィリプセンの、20歳とは思えない恐るべき実力の高さに対しても。

 

 

ベヴィンの落車もあり、カオスな展開となってしまった第5ステージではあるが、ピュアスプリンターたちの激戦が繰り広げられた、見ごたえのあるステージであったことも確かだ。

 

 

マキュアンの言葉通り、ユアンにはこれからも、この素晴らしいスプリント力でもって勝利を量産してほしい。そしてそれは、必ずや実現するに違いない。

 

今回幻に終わったそのガッツポーズ、次こそは。

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※追記:グライドさんが補足してくれました※