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2021シーズン 1月〜2月主要レース振り返り

 

今年もやっていきます! 「主要レース振り返り」シリーズ!

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

 

今年も目標としてはProシリーズ以上の男子レース全てと、女子ワールドツアーレース全て。あとは1クラスなども気ままに取り上げていきたいと思っています。

第1弾は例年であれば「1月主要レース振り返り」なのだが、ご存じの通り新型コロナウイルス流行の影響により数多くのレースがキャンセルや延期に追い込まれているため、「1月~2月主要レース振り返り」ということでセットでのお届けとする。

 

なかなか補足しきれないこの混乱したシーズン序盤の、各チーム・選手たちの状況を、この記事でしっかりと確認していこう。

 

↓Podcastで『サイバナ』のあきさねゆう氏とも振り返っています!↓

 

目次

   

参考:昨年の1月~2月「主要レース振り返り」

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1月~2月主要レースの勝利者一覧

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サントス・フェスティバル・オブ・サイクリング

非UCIレース 開催国:オーストラリア 開催期間:1/21(木)~1/24(日) 

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↓各ステージの詳細はこちらから↓

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新型コロナウイルス流行の影響により、シーズンの開幕を告げるワールドツアーレース「ツアー・ダウンアンダー」が中止に。

代わりにダウンアンダーを主宰するサントス社が、オーストラリア国内選手ほぼ限定で非UCIレースとして開催決定。

非UCIとはいえ、リッチー・ポートやルーカス・ハミルトン、ケイデン・グローブスなどの有力オージーライダーたちが集まり、コースとしてもウィランガ・ヒルを使用するなどかなり本格的。

女子レースも同時開催されたが、ここでは男子レースのみ取り上げる。

 

総合優勝を果たしたのはワールドツアーチームで唯一参戦したチーム・バイクエクスチェンジ(旧ミッチェルトン・スコット)のルーク・ダーブリッジ

第1ステージにチーム力を生かした大逃げ(2位に2分24秒差)でステージ優勝を果たし、最後までそのタイム差を守り切った。

地元ワールドツアーチームとしての意地をしっかりと果たした形だ。

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だが、4ステージ中3ステージを制したのは「チーム・ガーミン・オーストラリア」。これは実質的なナショナルチームで、エースを担うのは今年からイネオス・グレナディアーズに移籍した昨年ツール・ド・フランス総合3位、リッチー・ポート

しかしポートは1日目から17分遅れでフィニッシュするなど、総合はまったく狙っていない走りを見せていたため、実質的な総合エースはルーク(ルーカス)・プラップが担うことに。

ルーク・プラップは今年21歳の若手オージーライダー。元々はトラックレース出身の選手で、ジュニア時代にはマディソンとポイントレースの2種目でアルカンシェルを獲得。わずか19歳にして東京オリンピックオーストラリア代表に選ばれるほどの実力を持っている。

近年はロードレースへの本格的な進出を考えており、2018年のインスブルック世界選手権ではジュニア個人タイムトライアルでレムコ・エヴェネプールに次ぐ2位。昨年は国内選手権個人タイムトライアルのU23部門で王者に輝いている。

そんな彼が、このサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングの第2ステージ残り7.6㎞地点に設置された2級山岳フォックスクリーク(平均勾配8.8%)でアタック。

そのまま後続を30秒以上突き放しての独走勝利を達成。その実力を世界に轟かせることとなった。

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さらに、翌日の第3ステージ「ウィランガ・ヒル」では、例年通りのリッチー・ポートのアタックが決まりそのまま独走で勝利するかと思われていたが、その背後に唯一追いついてきたのがこのプラップだった。

しかし彼はそのままポートを抜くことなく、彼を先頭に立たせたままフィニッシュ。「ウィランガの王」による最大限のリスペクトを送る姿勢と共に、この男の底知れなさを感じさせる瞬間であった。

 

そして最終日第4ステージは、アデレードの街中心部に位置するヴィクトリアパークを使用したクリテリウムレース。

この日勝利したのもやはりチーム・ガーミン・オーストラリアだった。昨年の「クリテリウム王者」サム・ウェルスフォードが、昨年ヘラルドサン・ツアーでも2勝しているチーム・バイクエクスチェンジの実力派スプリンター、ケイデン・グローブスを打ち破って、見事優勝。彼ももう今年で25歳。昨年の(Unisaオーストラリアで出場した)ツアー・ダウンアンダーでは第1ステージで9位に入っていたりする実力はあるので、どこか取ってくれるチームはいないものだろうか。

 

さて、今回大活躍し、最終的にも総合2位に入ったルーク・プラップだが、すでにワールドツアーチームからのオファーが大量に届いているとのこと。

 

来年――早ければ今年中に、世界の舞台で活躍するこの若き才能の姿を目にすることができるかもしれない。

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上記インタビューの翻訳も含めた特集記事を書きました!

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UCIシクロクロス世界選手権

シクロクロス 開催国:ベルギー 開催期間:1/30(土)~1/31(日) 

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ベルギー・オーステンデで開催された今年のシクロクロス世界選手権。

男子エリートで優勝したのは、今回で3年連続4回目の世界王者となるマチュー・ファンデルポール。2位はもちろん、彼の最大のライバル、ワウト・ファンアールト。昨年はファンアールトのツール・ド・フランスでの大怪我が原因であまりに勝負にならなかったものの、今年はしっかりと激戦を繰り広げることとなった。

詳細は以下の記事を参照のこと。

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女子エリートの優勝者はこちらもロードレースでも活躍するルシンダ・ブラント。実は彼女はすでに「3大シリーズ戦」についてもいずれも総合首位を走っており、順調にそれらもすべて獲得することができれば、史上3人目の、そして女子では初となる「グランドスラム」を達成する。

シーズンの残り期間における彼女の走りにも注目だ。

 

男女のU23カテゴリでは、それぞれ大本命とされたライアン・カンプ、カタ・ヴァスではなく、それに準じる実力者たちが激戦を制した。

いずれも、下記の記事内で詳細にレポートしているため、参照していただけると幸い。

UCIシクロクロス世界選手権2021 Day1 男子U23・女子エリート|りんぐすらいど・のーつ|note

UCIシクロクロス世界選手権2021 Day2 女子U23・男子エリート|りんぐすらいど・のーつ|note

 

 

グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズ(1.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:フランス 開催期間:1/31(日) 

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レースの詳細レポートはこちら

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毎年シーズンの開幕レースというのはいくつかに分かれる。まずはツアー・ダウンアンダーやヘラルドサン・ツアーに代表されるオセアニアのレース。ブエルタ・ア・サンフアンに代表される南米のレース。マヨルカ・チャレンジやそこに続くボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナなどの南東スペインレース。ツアー・オブ・カタールやサウジ・ツアーに代表される中東のレース。

そしてこのグランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズから始まりエトワール・ド・ベセージュやツール・ド・ラ・プロヴァンスに続く南仏のレース。

大体この5種類の「開幕レース群」がそれぞれのチーム、選手たちのシーズン開幕戦として選ばれることになり、その中でもこの南仏のレースはフランス系のワールドツアーを中心とした一部のワールドツアーチームのみが出場する、割と小規模なレース群であった。

 

しかし、今年は事情が違う。先に挙げた各種開幕レース群が軒並み中止・延期したことによって、開幕レースとしてはほぼこのレースだけが残る形に。

結果、本来であれば他地域に出場しているような強豪チーム・選手たちが集まり、これまでこのレースでは経験していなかったようなビッグネームたち――マッテオ・トレンティンやフィリップ・ジルベール、ジョン・デゲンコルプやエドヴァルド・ボアッソンハーゲンなど—―が集まる、異様な様相を呈することとなった。

 

しかし、やはりそれでも「開幕レース」らしく、ド本命が勝つ、という展開にはあまりならなかった。残り20㎞を切ってから、このパンチャー向けの丘陵レースらしい、(そしてフランスの1クラスレースらしい)絶え間ないアタックの繰り返しによって常に落ち着かない雰囲気が漂い始めるものの、その最後のアタックも残り10㎞を過ぎたところですべて吸収。

最終的には「形上は」集団スプリントのような形となった。

 

しかし、緩やかな登りスプリントと、総勢30名程度しかいない「集団」によるスプリントは、B&Bホテルス・ヴィタルコンセプトがアシスト4枚を使ってブライアン・コカールを牽きあげるなど、いかにも形で勝利を狙ったものの、やはりここまでの過酷なコースレイアウトと展開は、元シャンゼリゼ2位のスプリンターの足をしっかりと失わせていた。

早すぎたマッテオ・トレンティンの飛び出しも失速し、最後にこれらを抑えて先頭でフィニッシュを越えたのは——まさかの、オウレリアン・パレパントル。

決して、スプリンターとは言えないタイプの選手。何しろ、昨年のジロ・デ・イタリア総合16位の男だったのだ。少なくとも、コカールやトマ・ブダといったピュアスプリンターたちを相手取って勝てるような印象はない。

それだけ、コースが厳しかったということか。それともこのパレパントルという男の、可能性が想像以上のものだったのか。

いずれにせよ、これが彼にとってのプロ初勝利。これからも、この男には注目していきたい。

 

 

エトワール・ド・ベセージュ(2.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:フランス 開催期間:2/3(水)~2/7(日)

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GPマルセイエーズ同様、「今年最初の」という冠をつけられることとなった1クラスのステージレース。ツール・デュ・ガールの名が示す通り、ポン・デュ・ガールで有名な南仏ガール県を舞台とする。ピュアスプリンターたちが活躍するステージは少なく、激しいアップダウンと最終日の激坂含みのTTが、パンチャータイプの選手たちに活躍の場を与えることとなった。

↓各ステージの詳細なレポートはこちらから↓

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↓GPマルセイエーズと合わせ、全ステージ簡単なレビューはこちらから↓

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総合優勝は事前の下馬評通りのティム・ウェレンス。昨年末のブエルタ・ア・エスパーニャから続く好調をしっかりと見せつけた。

それは第3ステージの大逃げが決め手だったわけだが、その際に彼を含めて3名を逃げに乗せたロット・スーダルのチーム力と、そしてウェレンスが逃げたあともしっかりと集団内でローテーション妨害をしてみせたフィリップ・ジルベールのアシストが光った。クイックステップの「ウルフパック」精神の生みの親とも言うべきジルベールのロット・スーダル移籍は、このチームにも新たなる「ウルフパック」精神を生み出すきっかけになるのではと期待していたが、その期待が1年越しに現実のものとなりそうだ。

だがそんなロット・スーダルに食らいついたのがイネオス・グレナディアーズ。エガン・ベルナルもゲラント・トーマスも決して勝ちに来たわけではないが、第1ステージで最終盤まで献身的に集団牽引を果たしていたトーマスの姿や、第3ステージでミハウ・クフィアトコフスキと共に逃げに乗り、彼のアシストを全力で全うしていたベルナルの姿は、彼らが決してこのレースで手を抜いてやろうと考えていたわけではないことが伝わる。最終的にはクフィアトコフスキは総合2位。届かなかったが、3月のクラシックレースに向けて良い準備ができているように思われる。

スプリントではナセル・ブアニとクリストフ・ラポルトのフランス人コンビがいい感じ。GPマルセイエーズではブライアン・コカールも勝てなかったが強い足を発揮しており、続くツール・ド・ラ・プロヴァンスはもっとずっとピュアスプリンターに優しいステージレースだけに、彼らの活躍が楽しみである。一方、アッカーマンはその実力に関して抜きんでてはいたものの、勝ちにはつなげられない結果に。第4ステージでも集団先頭をラポルトに奪われているくらいだから、コースのせいでもないはずだ。

昨年もシーズン前半は思うように走れなかったアッカーマン。今年は果たして? 1週間後のクラシカ・ドゥ・アルメリアでの成績が気になるところ。

 

 

ツール・ド・ラ・プロヴァンス(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:2/11(木)~2/14(日)

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GPマルセイエーズ、エトワール・ド・ベセージュに続き、南仏プロヴァンス地方で開催される今年最初のProシリーズレース。初開催は2016年とまだ歴史の浅いレースではあるものの、昨年からクイーンステージとしてモンヴァントゥーが(中腹までとはいえ)使用されることになり、一気にシーズン序盤の総合系の足慣らしレースとしての存在感を高めつつある。

特に今年は新型コロナウイルスの影響で有力選手たちが集結したことによってより豪華なレースに。

↓各ステージの詳細なレポートはこちらから↓

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純粋なスプリントステージは第1ステージと第4ステージ。

第1ステージは昨年のジロ・デ・イタリアで区間4勝を記録した絶好調フランス王者アルノー・デマールが最有力と見られていたが、向かい風の影響もあり、これを下したのがドゥクーニンク・クイックステップのダヴィデ・バッレリーニ。

昨年もツール・ド・ポローニュでパスカル・アッカーマンを下している実力者ではあるものの、この急成長ぶりに、さすがウルフパックという思いである。

しかも彼は、翌日第2ステージでも勝利している。この日はジュリアン・アラフィリップが最有力選手と見られており、実際に彼のためにバッレリーニも動いていたが、残り1㎞を切った直後に目の前を走っていたアレクサンドル・ウラソフの落車に巻き込まれ脱落。最後の登りスプリント勝負で、総合リーダージャージを着ていたバッレリーニが見事実力の高さを見せつけた結果となった。

そして第4ステージ。デマールも位置取りが悪くまったくスプリントに絡めない中、バッレリーニが3勝目を飾るか――と思っていた中で、勢いよく伸びを見せたのがバーレーン・ヴィクトリアスのフィル・バウハウス。

昨年も同時期のサウジ・ツアーで2勝・総合優勝を飾っている彼ではあるが、今回このデマールを倒したバッレリーニをさらに倒すとは、彼もまた、急成長を遂げつつあるのではと感じてしまう。

今年は目指すはグランツールでの区間勝利。果たして。

そして最重要のモンヴァントゥーステージ、第3ステージである。

こちらについては以下の記事で詳細を記載している。

今年最初の本格的な山頂フィニッシュ。昨年はユンボ・ヴィズマにしてやられ続けたイネオスの「最強山岳トレイン」の復活を告げるような圧倒的な走りと、そこに対抗する若手選手たちの走り、そして世界王者アラフィリップの相変わらず熱い走りについて、詳述している。

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クラシカ・ドゥ・アルメリア(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:2/14(日)

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↓詳細なレースレポートはこちらから↓

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シーズン最序盤のスプリンターズワンデーレース。今年はオーストラリアのレース・トーキーもカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースもなくなったため、シーズン最初のスプリンターズワンデーレースと言ってもいい。

例年であれば2月頭のマヨルカ・チャレンジでシーズンデビューした各チームの「スペイン組」が、海を隔てて隣接する東スペインのバレンシア州でボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナを走り、続いて南下してムルシア州でブエルタ・ア・ムルシアを走ってから、この南部アンダルシアの最東端アルメリア県を走るクラシカ・ドゥ・アルメリアに参加する、という流れが一般的であった。

しかし今年は残念ながらその前提レースがすべて中止・延期に。スペインでの開幕戦はこのアルメリアとなってしまった。

しかもこのアルメリアのあとに開催されるブエルタ・ア・アンダルシア、あるいはポルトガルでのヴォルタ・アン・アルガルヴェも中止。

結果としてアルメリア1日だけがスペインでのレースとなったため、むしろ例年よりも選手の層は薄くなってしまったように感じる。新型コロナウイルスに関する「2週間待機」ルールも、より運用を苦しくしている要因となっているだろう。

直近で優勝しているパスカル・アッカーマンもカレブ・ユアンも、1週間後に開催されるUAEツアーを優先せざるをえない事情もあり、不出場。

そんな中、最も実績のある有力選手として出場したジャコモ・ニッツォーロが、最終的に他のスプリンターたちに圧勝するような結果となった。

今年こそはツール・ド・フランスで区間勝利を狙えるか。期待している。

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もう1人の有力選手フェルナンド・ガビリアは17位と、今年も苦しい滑り出しとなってしまった。

そんな中2位に入ったフロリアン・セネシャルはやはりこれからもまだまだ結果を出していきそうな期待のスプリンターである。ドゥクーニンク・クイックステップとしてはアルバロホセ・ホッジ、そしてマーク・カヴェンディッシュも連れてきてはいたものの、いずれも落車に巻き込まれて後退。結果的に残ったセネシャルがとりあえずは十分な結果を残したといったところだ。

3位に入ったマーティン・ラースも、ツアー・オブ・ジャパン東京ステージで優勝経験のあるエストニア人スプリンター。Proシリーズレースでの区間3位は彼にとってはこれまでのキャリアでも特に大きなものと言えそうで、本来であればこのレースにも出場していてもよさそうなスロバキア人スプリンターのエリック・バシュカが新型コロナウイルス陽性の結果が出てレース離脱している中、チャンスをしっかりモノにした形となった。

 

 

ツール・デ・アルプ=マリティーム・ エ・ドゥ・ヴァール(2.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:フランス 開催期間:2/19(金)~2/21(日)

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グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズから始まった「南仏シーズン」の最終章がこのツール・デ・アルプ=マリティーム・エ・デュ・ヴァル。その名の通り、ニースを県庁所在地とする南仏最東端の「アルプ=マリティーム県」と、その西隣の「ヴァール県」を舞台とするステージレースで、過去にはツール・ド・オー・ヴァルと呼ばれていた。

ニース周辺ということでひたすら山岳が連続するクライマー/パンチャー向けのステージレース。過去にはローラン・ジャラベールやトマ・ヴォクレール、ティボー・ピノなどの名選手たちが総合優勝を果たしており、昨年はツール・ド・ラ・プロヴァンスに続きナイロ・キンタナが総合優勝した。

今年は裏レースでUAEツアーが開催されていながらも、こちらにもツール覇者ゲラント・トーマスや昨年ジロ総合優勝者テイオ・ゲイガンハート、さらにはいよいよプロデビューを飾るトーマス・ピドコックらを擁するイネオス・グレナディアーズや、ピノ&ゴデュ&マデュアス&モラールなどチームの最強クライマーたちを揃えたグルパマFDJ、他にもナイロ・キンタナやヤコブ・フルサン、ピエール・ラトゥールなど非常に豪華な顔ぶれが揃う。中根英登も、EFエデュケーション・NIPPOの一員としてワールドツアーチームでの初レースに出場する。

第1ステージから総獲得標高3,648mの難関ステージが待ち受けており、トップクライマーたちばかりが残った数十名の集団での登りスプリントを、バウケ・モレマが制した。第2ステージでは残り600mから平均勾配16%の激坂が待ち受ける登りフィニッシュとなったが、ここで「激坂ハンター」アレクシー・ヴュイエルモがアタックするも、これを飲み込んで先着したのがキング・オブ・パンチャーのマイケル・ウッズ。2着バウケ・モレマに2秒差をつけたウッズは、フィニッシュ地点でのボーナスタイムの存在しないこのレースで、総合逆転を果たし首位に立つ。

だが、総獲得標高3,600mの最終ステージで、ルディ・モラール、ヴァランタン・マデュアス、テイオ・ゲイガンハートといった豪華な顔ぶれの16名の逃げが形成。イスラエル・スタートアップネーションが総動員で集団牽引を見せるもそのタイム差を削り切ることはできず、最終的に残り30㎞弱でアタックしたジャンルーカ・ブランビッラが食らいつくヴァランタン・マデュアスを振り切って逃げ切り勝利。総合でも逆転してみせた。

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2016年のジロ・デ・イタリアでマリア・ローザを着たブランビッラ。その年のブエルタ・ア・エスパーニャでも勝利しており、その後も強さを見せ続けるかと思ったが、その後なかなか勝利には恵まれなかった。

それでも常に強い走りは見せ続けていたピュア・パンチャー。個人的に好きなタイプの選手だっただけに、今回のまさかの勝利は実に嬉しかった。

一方、ピノなんかは12分遅れの総合35位だったりするので、大丈夫かとちょっと心配になる。

 

 

UAEツアー(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:アラブ首長国連邦 開催期間:2/21(日)~2/27(土)

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↓詳細はこちらから

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今年最初のワールドツアーレースはアラブ首長国連邦で開催される7日間のステージレース。

平坦スプリントステージと山頂フィニッシュ、そして個人タイムトライアルとがバランスよく配置され、かつ中東マネーを利用して数多くの有力選手を招待&カメラワークもハイレベル、ということで非常に魅力的なレースに仕上がっている。

第1ステージはアブダビ首長国の郊外で繰り広げられた集団スプリントステージ。しかし遮るもののない砂漠の中での横風大分断により、有力スプリンターたちが不在の中の中集団スプリントをマチュー・ファンデルポールが制する。

総合有力勢は優勝候補筆頭だったポガチャル、アダム・イェーツ、アルメイダの3名は生き残ったものの、それ以外の有力勢は早くも総合優勝争いから脱落することに。第2ステージの個人TTでアダム・イェーツがタイムを失い、第3ステージのジュベルハフィート山頂フィニッシュでアルメイダが遅れたことで、ポガチャルの総合優勝はほぼほぼ固くなった。

それでも、山岳ステージにおけるイネオスのチーム力、第5ステージの2つ目の山頂フィニッシュによるアルメイダのアグレッシブな動きは実に魅力的であった。また、ヨナス・ヴィンゲゴーというユンボ・ヴィズマの新たな才能がその実力をはっきりと示し、今後はセップ・クスと並ぶこのチームのエースアシストとして活躍しそうだ。

スプリンター勢の中ではサム・ベネットがミケル・モルコフの力を存分に使い、2勝を記録。しかし最終ステージではロット・スーダルが完璧なアシストでカレブ・ユアンを集団先頭まで牽き上げ、そこからはベネットvsユアンのラスト100mでの同時スプリント勝負――軍配は、ユアンに上がる。

チーム力ではベネットが、個人の実力ではユアンが――昨年のツール・ド・フランスでも感じたこの構図は、今年もそのまま生き残るのか。

そして、ユンボ・ヴィズマの若き才能ダヴィド・デッケルの台頭や、エリア・ヴィヴィアーニの復活の兆しなど、こちらもまた見所が盛沢山であった。

 

何はともあれ地元レースでの見事な総合優勝を果たして見せたタデイ・ポガチャル。

ツール連覇に向けたまずは大きな一手を指すこととなった。

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オンループ・ヘットニュースブラッド(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:2/27(土)

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↓詳細なレースレポートはこちらから↓

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例年激戦が繰り広げられる「クラシック開幕戦」。今年は昨年より少し遅い、残り40㎞の「モレンベルク」から動きが巻き起こり、ここで総勢17名ほどの先頭集団が形成。その中にドゥクーニンク・クイックステップはジュリアン・アラフィリップ、ゼネク・スティバル、ダヴィデ・バッレリーニの3名を乗せており、必勝態勢であった。

逆にこれだけ優勝候補が揃っていれば他のチームもなかなかローテーションを回す気にもならない。しばらくはアラフィリップが中心となって集団を牽引していたが、このままでは無駄に足を削るだけになってしまうと判断。残り32㎞地点でアラフィリップは単独で抜け出すことにした。

これを追う追走集団はお見合い状態。ただ一人、この2月にイネオスでプロデビューを果たしたばかりのトム・ピドコックが積極的に牽引していくも、なかなかタイム差は縮まらない。

とはいえ、アラフィリップもこのまま逃げ切れるとは思っていなかった。この追走集団の中でスティバルが落車するというアクシデントもあり、残り17㎞のカペルミュール登坂を前にしてアラフィリップは一旦集団に戻る。プロトンもこの抜け出した集団を同じタイミングで飲み込み、先頭は再び1つに。

 

この先のカペルミュールではイネオス・グレナディアーズのジャンニ・モスコンが単独で抜け出すも、これを追う集団もさほど分裂しないまま、カペルミュール後は思えないほどの大規模集団でモスコンを飲み込みそのままフィニッシュへと向かっていく。

これまでのオンループではほぼありえなかった展開。この状況にすぐさま適応してみせたのがドゥクーニンク・クイックステップだった。

アラフィリップとカスパー・アスグリーン、そしてイヴ・ランパールトとがローテーションを回しながら超高速で集団先頭を支配。このハイ・ペースに誰一人アタッカーが飛び出すこともできないまま、最後はフロリアン・セネシャルのリードアウトを受けたダヴィデ・バッレリーニがフィニッシュに突っ込んでいった。

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最初から最後までひたすらドゥクーニンク・クイックステップが支配し続けたこのオンループ・ヘットニュースブラッド。

しかも、世界王者ジュリアン・アラフィリップがその中でも常にチームメートの勝利のために積極的に、献身的に働き続けたことがこの結果を生みだした。

 

まさにウルフパック。今年も個の最強軍団がクラシックを支配し続けるのか。

 

 

オンループ・ヘットニュースブラッド女子(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:2/27(土)

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残り30㎞。エルフェレンベルグの登りでデミ・フォレリング(SDワークス)が抜け出して独走を開始。ハンナ・バーンズやオードレイ・コルドンラゴット(トレック・セガフレード)、ロッタ・コペッキーなどが追走を仕掛けようとするが、女子ロードレース界最強(男子でいえばドゥクーニンク・クイックステップのような)チームのSDワークスがしっかりとこれを抑え込んでいく。

それでもカペルミュールが近づくとさすがにフォレリングとプロトンとのタイム差は縮まっていく。カペルミュールではロンゴボルギーニとコペッキーがアタック。しかしこれは世界王者ファンデルブレッヘンのチェックによって抑え込まれた。

精鋭集団で攻勢された小集団のまま、最後の登りボスベルクへ。

そしてこのボスベルクで決定的な飛び出しを決めたのがファンデルブレッヘンだった。

昨年数多くのレースでその強さを見せつけ続けた世界王者は、堂々たる走りで今年最初の女子ワールドツアーを制する。

そしてこの勝利は、常に攻撃的に、かつ組織的に動き続けた「最強チーム」SDワークスのチームの勝利でもあった。

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フォーン・アルデシュ・クラシック(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:2/27(土)

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1月末から続く南仏レースの最終盤。海岸線プロヴァンス地方から一歩内陸に進んだ位置にあるオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏のアルデシュ県を舞台にしたパンチャー向けワンデーレースがこの「アルデシュ・クラシック」である。

カテゴリのついた5つの登りと、それ以上に標高の高いカテゴリのない無数の登り。最後の登りはフィニッシュ前6km地点に用意され、そこからの下りと平坦でフィニッシュとなる。

 

スタート直後から数多くのアタックが生まれるが、そのいずれもがうまくいかず、40㎞ほど消化したのちに、オールイス・アウラール(カハルラル)、ヴァランタン・フェロン(トタル・ディレクトエネルジー)、ルイ・オリヴェイラ(UAEチーム・エミレーツ)、スチュアート・バルフォア(スイスレーシングアカデミー)、デリオ・フェルナンデス(デルコ)の5名の逃げが形成される。

プロトンはグルパマFDJとコフィディスが中心となって牽引し、最大で4分半のタイム差を許されたものの、残り65㎞地点のミュール・ド・コルナスの登りですべて捕まえられて、集団からアタックしたローレンス・ユイ(ビンゴーワル・ワロニーブリュッセル)がその山頂を先頭通過した。

いよいよ集団内で激しい争いが開始されてくると、昨年覇者のレミ・カヴァニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ)やアルベルト・ベッティオル(EFエデュケーション・NIPPO)、が脱落。先頭には以下の8名の精鋭集団が残る形に。

  • ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)
  • サイモン・カー(EFエデュケーション・NIPPO)
  • ヴィクトール・ラフェ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
  • ギヨーム・マルタン(コフィディス・ソルシオンクレディ)
  • オウレリアン・パレパントル(AG2Rシトロエン・チーム)
  • クレマン・シャンプッサン(AG2Rシトロエン・チーム)
  • ダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)
  • アレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック)

ゴデュの「先輩」ティボー・ピノ、ウラソフの「先輩」ヤコブ・フルサンは後続に取り残された。

 

この先頭集団で最初に攻撃を仕掛けたのがカーシー。ここにダヴィド・ゴデュがシャンプッサンを伴って追走を仕掛け、山頂の前にカーシーを捕まえる。

そこからの下りではカーシーが遅れを喫し、最後はゴデュとシャンプッサンのスプリントに。

2019年のツール・ド・ラヴニール総合4位のシャンプッサンに対し、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで2度の勝利、そのうちの一つはスプリントでマルク・ソレルを下したゴデュが、圧倒的な差をつけて危なげなく勝利。チームに今年初の勝利をもたらしたと共に、彼自身もまた、ワンデーレースにおける初の勝利を掴み取ることとなった。

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クールネ~ブリュッセル~クールネ(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:2/28(日)

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毎年オンループ・ヘットニュースブラッドと共に「オープニングウィークエンド」を構成する「クラシック開幕戦」の1つ。

ただしロンド・ファン・フラーンデレンの前哨戦としての高い完成度を誇るオンループに対し、こちらはよりスプリンター向きのレイアウト。

過去にはカヴェンディッシュやサガン、フルーネウェーヘンなどのスプリンターたちが勝っているほか、ジャスパー・ストゥイヴェンやボブ・ユンゲルス、カスパー・アスグリーンなどの選手たちによる逃げ切り勝利も何度か起きている。

UAEチームの1日目に勝利しつつも翌日にチームごと撤退したアルペシン・フェニックスのマチュー・ファンデルプールが参戦。残り84㎞地点でアタックするなど、相変わらずの傍若無人ぶりのアグレッシブさを見せつける。

このファンデルプールに追随したのがイネオス・グレナディアーズのジョナタン・ナルバエス。前日のオンループでも良い走りを見せていた彼は、本来のクライマー的なイメージとは違った彼の新たな側面、才能を感じさせる週末となった。

マチェイ・ボドナル(ボーラ・ハンスグローエ)、パトリック・ガンパー(ボーラ・ハンスグローエ)、ルドウィク・デウィンター(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)、アルチョム・ザハロフ(アスタナ・プレミアテック)の6名の逃げにジョインしたファンデルプールとナルバエス。

残り15㎞時点でタイム差は20秒近くにまで迫るが、ファンデルプールが積極的に前を牽き続けたこともあり、その後10㎞の間、一切タイム差は縮まらない。

残り4㎞でメイン集団からカスパー・アスグリーンがアタックしたことで活性化するが、これが吸収されるとまたメイン集団のペースもダウン。

だがさすがのファンデルプールも体力の限界。後ろを振り返り、回れ回れとサインを送り始め、ローテーションに入り始める。

そうなればもう、先頭が逃げ切れる可能性はない。

ファンデルプール自身も諦め、むしろメイン集団の中に入ってそこからさらにスプリントをするというそれはそれですごい選択肢を選ぶ。

よって、ラスト1.4㎞で集団が一つに。

ここで強さを見せつけたのが、前日に散々な結果となっていたトレック・セガフレード。そのクラシックエース、ヤスパー・ストゥイヴェンが、マッズ・ピーダスンを牽き上げながら一気に集団の先頭に。そのまま残り200mで先頭からピーダスンを放ったことで、彼は他のライバルたちを寄せ付けない圧勝となった。

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ドローム・クラシック(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:2/28(日)

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前日に開催されたアルデシュ・クラシックの舞台「アルデシュ県」の隣に位置する「ドローム県」を舞台にしたワンデーレース。

アルデシュ・クラシックと違って静かなスタートとなったこちらのドローム・クラシックでは、ヨアン・パイヨ(サンミッシェル・ウーベル93)、サミュエル・ルルー(グゼリース・ルーベリール・メトロポール)、マチャイス・パーシュンス(ビンゴーワル・ワロニーブリュッセル)、レト・ミュラー(スイスレーシングアカデミー)の4名の逃げが形成される。このタイム差はすぐさま9分にまで広がるが、やがてEFエデュケーション・NIPPOが牽引するプロトンによってその差が縮められていく。

そしてフィニッシュまで残り40㎞に位置するコル・ドゥ・ラ・グランド・リミットの登りで逃げの中からパイヨだけが抜け出し、集団の中ではシモン・ゲシュケが攻撃を仕掛けるが、グルパマFDJが強力なペースアップでこれを許さず、やがて次の登りで全ての逃げが吸収された。

グルパマFDJのペースアップは昨年のブエルタでゴデュをサポートし続けたブルーノ・アルミライルが中心となって行われた。そしてこの登りでエースのダヴィド・ゴデュが、クレマン・シャンプッサン、アンドレア・バジョーリ、ワレン・バルギルと共にアタックを決め、下りで合流したドリス・デヴェナインスがさらにそこから(チームメートのバジョーリのアシストを受けて)アタックし、独走を開始。

しかしこれらの動きはヤコブ・フルサンを先頭としたメイン集団によってやがて引き戻され、残り20㎞地点で40名ほどの大集団先頭集団が形成されることになる。

ここで、昨年のアルデシュ・クラシック覇者レミ・カヴァニャが危険な独走を開始する。ワレン・バルギル、サイモン・クラーク、クイン・シモンズ、そしてロレンツォ・ロタの4名がこれを追走し、フィニッシュまで16.5㎞地点の「ミュール・ダレックス(登坂距離500m、平均勾配9.6%)」の激坂でバルギルがカヴァニャを捕らえる。

だが、この2人の抜け出しもまた、成功はしなかった。すぐさま集団がこれを吸収し、その後もいくつもの攻撃が繰り返されたが、抜け出せるものはなかなか現れなかった。

そして、ラスト5㎞に位置する最後の登り「ミュール・デュール(登坂距離700m、平均勾配8.9%)」で、ついにアンドレア・バジョーリによる決定的な攻撃が繰り出された。ダヴィド・ゴデュがこれを追走しようとするが続かず、また残りのプロトンも牽制状態に陥ってしまい、バジョーリへの本気の追走までの時間をかけすぎてしまった。

その隙にリードを広げたバジョーリ。最後は11秒差をつけたまま独走フィニッシュ。昨年ネオプロ1年目でいきなりプリモシュ・ログリッチの前でツール・ド・ランのステージ優勝を飾ったドゥクーニンクの異才の一人。今年も引き続き、強さを見せ続けてくれそうだ。

 

 

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