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サントス・フェスティバル・オブ・サイクリング2021

 

例年、シーズンの開幕を告げるレースとして親しまれているツアー・ダウンアンダー。

今年は、新型コロナウイルス(COVID-19)流行の影響により、海外選手たちを招聘できなくなってしまった結果、UCIレースとしてのツアー・ダウンアンダーは中止が決定。

代わりに、国内選手のみを集めた自転車イベントして開催されたのがこのサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングである。

 

非UCIレースとはいえ、リッチー・ポートやルーカス・ハミルトン、グレイス・ブラウンなど著名選手たちが集まり、ウィランガ・ヒルなどのダウンアンダー定番のコースも用意されている。

そして、例年のツアー・ダウンアンダーがUnisaオーストラリアチームでやっているような若手有望オージーライダーの発掘を、このレースも正しく継承しており、注目の選手がまた、現れてきた。

 

今回は、この「2021年のツアー・ダウンアンダー」たるサントス・フェスティバル・オブ・サイクリング全4ステージの振り返りと、そこで現れた新たな才能について解説していく。

※記事中の年齢はすべて2021/12/31時点のものとなります。

 

目次

 

↓「ツアー・ダウンアンダー2021」については下記のシリーズで↓

youtube.com

 

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第1ステージ セッペルツフィールド〜タヌンダ 106.8㎞(平坦)

昨年の第1ステージでも使用された、アデレード北東70㎞に位置するヴァロッサバレーの街タヌンダ。

その周辺の周回コースを3周するレイアウトで、途中に登坂距離1.2㎞・平均勾配4.8%の3級山岳メングラーズヒルを4回登る(山岳ポイントとして使用されるのは1回目と3回目)。

 

決して厳しい登りではなかったはずだが、シーズン最初のレースに各チームとも気合が入っていたのか、1回目の登坂(残り94㎞地点)から集団が分裂し始める。

そのまま迎えた最初の中間スプリントポイント(残り78.2㎞地点)でルーク・ダーブリッジ(チーム・バイクエクスチェンジ)が抜け出し、過去4度のオーストラリア国内TT王者に輝いているその独走力でもって80㎞弱の道のりをたった一人で制覇した。

追走集団も懸命にこれを捕まえようとするが、今大会唯一のワールドツアーチームとしての意地を発揮したバイクエクスチェンジがチーム力でもってこれを抑え込み、やがて2分半もの大差をつけたダーブリッジの勝利を導いた。

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24位までがダーブリッジのフィニッシュから2分台で到着しており、29位からは10分以上遅れてのフィニッシュ。

今大会の総合優勝も期待されていたリッチー・ポートは17分遅れの34位。

代わりに、彼が所属するナショナルチーム「チーム・ガーミン・オーストラリア」の一員であるルーク・プラップ20歳が2分40秒遅れのステージ5位に。

これが今後の大いなる伏線となる。

 

 

第2ステージ バードウッド〜ロベサル 116㎞(丘陵)

ステージ中盤とフィニッシュ前8㎞地点に2級山岳が用意された、高難易度ではないもののスプリントフィニッシュにもならなそうなステージ。

序盤に形成された4名の逃げの中には、ユンボ・ヴィズマ所属で今大会はサーヴェロ・トンズリーヴィレッジの一員として走る総合3位のクリス・ハーパー、総合6位のサイラス・モンク(サイクルハウスレーシング)、そして先月オーストラリアナショナルロードシリーズで総合優勝したばかりの総合11位ブレンダン・ジョンストン(チーム・CCSキャンベラ)など、実力者が複数含まれていた。

 

これを逃したくない総合リーダーのバイクエクスチェンジ、そして総合5位ルーク・プラップを抱えるチーム・ガーミン・オーストラリアが強力に牽引。

とくに前日に17分遅れで総合争いからは完全に脱落していたリッチー・ポートが、若きチームのエース、プラップのために全力で牽引したことにより、4名の逃げはあえなく吸収される。

そうしてゴール前残り7.6㎞地点に設置された2級山岳フォックスクリーク(平均勾配8.8%)でルーク・プラップがアタック。

ただちに独走体制を築いたプラップはそのまま後続を30秒以上突き放し、余裕の勝利を果たした。

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しかしプラップに2分40秒もの総合タイムリードを持っていたダーブリッジは33秒遅れの16位でフィニッシュ。

まだまだプラップとの総合タイム差は2分10秒も残っており、余裕は残されている。

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ただ翌日はいよいよウィランガ・ヒル決戦。

この激坂フィニッシュで、総合争いの行方はどうなるか。

 

 

第3ステージ マクラーレン・ヴェイル〜ウィランガ・ヒル 88.2㎞(丘陵)

ツアー・ダウンアンダーお馴染みのウィランガ・ヒルステージ。

ただし通常のツアー・ダウンアンダーでは3周する街中の周回コースを2周、ウィランガ・ヒルも例年であれば2回登るところを1回のみ使用する。

 

この日形成された逃げは9名。

その中には3分34秒遅れの総合17位アンガス・ライオンズ(ARAプロレーシングサンシャインコースト)も含まれており、彼から1分24秒のリードしか持たない総合2位ルーク・プラップ擁するチーム・ガーミン・オーストラリアは、積極的に集団牽引を行う必要に迫られていた。

 

ラスト3㎞で突入する1級山岳ウィランガ・ヒル(平均勾配7.4%)が近づくと逃げがすべて吸収され、集団からは総合4位のクリス・ハーパーがアタック。

しかしこれはやがて飲み込まれ、続いて「ウィランガの王」リッチー・ポートがアタックした!

いつものように、集団を突き放し単独で山頂に向けて加速していくポート。

しかし、今回はその背後に、チームメートが迫ってきていた。第2ステージでポートが自らアシストして勝たせることとなった、20歳のオージー新鋭オールラウンダー、ルーク・プラップ。

最後は「ウィランガの王」に勝利を譲り、その背後から悠々と同タイムフィニッシュする余裕を見せたプラップ。

その強さを、貫禄を、見せつけられたような瞬間であった。

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だが、総合首位ルーク・ダーブリッジもまた、わずか8秒遅れの3位フィニッシュ。

結果として、ボーナスタイムを合わせても10秒しかプラップは奪うことができず、最終日のクリテリウムを前にして、その逆転は絶望的となってしまった。

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このままダーブリッジの総合優勝となってしまうのか。

 

 

第4ステージ ヴィクトリアパーク 1.1km[60分+1周](平坦) 

アデレード中心部のヴィクトリアパークを使用したクリテリウム形式のレース。1周1.1㎞の周回コースを舞台にするが、周回数は決まっておらず、1時間経過後にフィニッシュラインを通過してから「あと1周」となる。2019年のツアー・ダウンアンダーの顔見せクリテリウムのときと同じ形式である。2020年の顔見せクリテリウムでは採用されなかったけれど・・・。

日中は40℃まで気温が上昇した真夏日。男子レースは夕方に開催されたが、それでもまだ気温は高いままだった。

クリテリウムとはいえ、総合争いやポイント賞争いが平穏に終わるわけではない。むしろ中間スプリントポイントでそれらの賞を巡る争いが過熱し、10周目に訪れた最初のスプリントポイントでは、ポイント賞ランキングでルーク・ダーブリッジと同点の首位に立つサイラス・モンク(サイクルハウスレーシング)がまずは飛び出す格好となった。

しかし、総合5位に立ち総合4位とは1秒差のラファエル・フレイエンステン(インフォームTMインサイトメイク)がこれに先行し、先頭通過。3秒のボーナスタイムを得て、総合4位に浮上した。

モンクは2位通過となったが、それでもポイント賞で2ポイントを獲得したため、これでポイント賞ランキング単独首位に立ち、チームに結果を持ち帰ることに成功した。

 

20周目に用意された2つ目の中間スプリントポイントのときにはすでに4名の逃げが生まれていたため総合やポイント賞を巡る争いは終戦していたが、続いて最終スプリントに向けての激しい展開が巻き起こることとなった。

ライバルは2チーム。ケイデン・グローブスによる勝利と、チームとしても2勝目を目指すチーム・バイクエクスチェンジは総合リーダーのルーク・ダーブリッジが、オーストラリアクリテリウム王者のサム・ウェルスフォードを擁するチーム・ガーミン・オーストラリアは、ウィランガ覇者リッチー・ポートが、それぞれ集団を牽引する。

最終的に勝ったのは、やはりクリテリウム最強の男、ウェルスフォード。昨年のヘラルドサン・ツアーで2勝している気鋭のオージースプリンターを下したことは、彼にとっても大いなる自信になったことだろう。そろそろどこかせめてUCIプロチームからでも、声がかからないものだろうか。

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チーム・バイクエクスチェンジは、今回出場している唯一のワールドツアーチームとして、4レース中3勝しかできなかったことは、やや悔しい結果になったと言わざるを得ない。

とはいえ、第1ステージに見事なチームワークを発揮してダーブリッジを勝たせ、そのダーブリッジも登りで遅れることなく総合タイムを守り切り、最終的に総合優勝を手に入れたことは前向きな結果と言えそうだ。

Embed from Getty Images

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また、2019年のツアー・オブ・ジャパンを総合優勝し、2020年はユンボ・ヴィズマ入りということで非常に期待したものの2020年は若干イマイチなまま終わってしまったクリス・ハーパー。

そんな彼が今年はまずは総合3位と悪くない滑り出しができたことは喜ばしい。

今年こそはさらなる活躍を。

 

そしてやはり注目すべきは、総合2位、ルーク・プラップ。

彼については、次の節で詳しく話をしたいと思う。

 

 

若き才能、ルーク・プラップとは?

4日間のサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングを通じて、最も鮮烈な活躍を見せた選手が、リッチー・ポートが所属したチーム・ガーミン・オーストラリア(実質的なナショナルチーム)の今年21歳の若手オージーライダー、ルーク・プラップだった。

ジュニア時代の2018年、スイスのエイグルで開催されたトラック世界選手権において、ポイントレースとマディソン種目の2つでアルカンシェルを獲得。また、同年のインスブルックロード世界選手権では、ジュニア個人タイムトライアル種目にて、レムコ・エヴェネプールに次ぐ2位を記録してもいる。

2020年には個人タイムトライアルのU23国内王者に。東京オリンピックにおいては19歳で代表にも選ばれるほどの実力を示し、今オーストラリアが最も注目する若手の才能の1人である。

グライドさんが紹介してくれた以下の記事においては、「虎の目」と称されているらしく、その注目の度合いがよくわかる。

australiancyclinginsider.com

 

そんな彼が、今回のサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングにおいては、第2ステージのフォックスクリークと、第3ステージのウィランガ・ヒルにおいて、目覚ましい登坂力も見せつけてくれた。

もちろん、まだまだ標高も登坂距離も大したことはなく、これだけで彼の脚質を決定づけるのはあまりにも早い。

しかし今回見せた活躍は、彼が近い将来にワールドツアーに招聘され、活躍する可能性をぐっと高めることになるだろう。

あまりにも性急すぎると笑われるかもしれないが、目指してほしいのはやはりリッチー・ポートや、あるいはカデル・エヴァンスといった世界トップクラスのオールラウンダーである。

 

ルーク・プラップ。今後、注目すべき重要な選手の1人である。

Embed from Getty Images

 

↓SFoC直後のインタビュー翻訳も含め、改めて特集記事を書きました!↓

www.ringsride.work

 

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