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サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2020シーズン 2月主要レース振り返り(前編)

 

2月に入り、注目すべきレースも非常に多く増えてきた。

とくにヨーロッパではいよいよ本格的なロードレースシーズンを迎え、南フランスやスペインを中心にその「開幕戦」が開催されつつある。

 

そんな中、今年はとくに、若手が活躍しているように思う。一昔前は、「優勝者」の平均年齢は大体28歳~29歳くらいだったものだが、この2か月の平均年齢は26~27歳ほどになっている。

シーズン序盤だからか、それとも本当に、活躍する年代が低くなっているのか。

いずれにせよ、この時期に活躍する選手はそのまま同シーズン内のさらに大きなレースで活躍する傾向も強い。

今年を占ううえで、見逃してはいけない時期だ。 

(記事中の年齢は全て、2020/12/31時点のものとなります) 

 

 

↓過去の「主要レース振り返り」はこちらから↓

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

 

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チャレンジ・マヨルカ(1.1×4)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:スペイン 開催日:1/30(木)~2/2(日)

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シーズン開幕前のキャンプ地として絶大な人気を誇るスペイン・マヨルカ島。

その地で行われる「4日間連続で開催されるワンデーレース」という独特な形式で繰り広げられるのがこのチャレンジ・マヨルカである。

毎年、アレハンドロ・バルベルデなど、このあとバレンシア州やムルシア州、アンダルシア州で開催されるスペインのレース群で活躍する選手たちの「前哨戦」が繰り広げられる。このレース群で勝った選手たちは、その年必ずといっていいほど活躍するので、1クラスとはいえ注目すべきレースである。

 

まずは1日目のトロフェオ・フェラニチ〜セス・サリーナス〜カンポス〜プレラスと4日目最終日のトロフェオ・プラヤデパルマ〜パルマの2つのスプリントステージを制したのはマッテオ・モスケッティ。いずれもボーラ・ハンスグローエのパスカル・アッカーマンを抑えての優勝となった。

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アッカーマンと言えば昨年のジロのポイント賞獲得者。一方のモスケッティもジロには期待されて出場したものの、ステージTOP3にはなかなか入ることはできず苦戦していた。

そんな中、アッカーマンがまだまだ調子を上げ切れていないということはあるだろうが、まさかの2勝。トレックとしてもダウンアンダーの2勝に加えての4勝目。今年のモスケッティは、かなり期待ができそうだ。

・・・と思っていた中で、2月のエトワール・ド・ベセージュで落車骨折。大腿骨まわりの骨折ということで長期離脱もありうるか? 不安。

 

2日目は過去3年ティム・ウェレンスが逃げ切り勝利を挙げているトロフェオ・セッラ・デ・トラムンターナ。ただし今年はウェレンスは出場せず。

本格的な山岳争いとなった展開で、存在感を示したのはボーラ・ハンスグローエとモビスター・チーム。

ラファウ・マイカ、エマヌエル・ブッフマン、フェリックス・グロスチャートナー、レナード・ケムナといった本格的な山岳メンバーを揃えてきたボーラに対し、モビスターはアレハンドロ・バルベルデとマルク・ソレルのダブルエース体制。

終盤のケムナのアタックを封じ込めたソレルにブッフマンが食らいつき、さらにそこにバルベルデが追いついてきてモビスター有利か?と思っていた中で、絶好調のブッフマンがカウンターアタック。そのまま独走で勝利した。

 

昨年イツリア・バスクカントリー総合3位にツール・ド・フランス総合4位。昨年もこのチャレンジ・マヨルカで絶好調だった彼が、この勢いで今年もより大きな成績を出すことができるだろうか。

一方、悔しい思いを味わったモビスターも、翌日のトロフェオ・ポレンサ〜アンドラッチで反撃。トラムンターナでもアタックしたケムナがこの日も積極的に逃げに乗るが、これをソレルが追い抜く。

ボーラからもグレゴール・ミュールベルガーがソレル追随の役割を担うが、今年チームのエース候補として期待が高まっているソレルがそのままミュールベルガーを突き放し、優勝を遂げた。

 

バルベルデよりも先にチーム第1の勝利を掴み取ったソレル。今年、同じく若手エース候補のエンリク・マスと共に、主力級の大量流出を経験し危機に瀕するモビスターを救うことができるか?

 

 

コロンビア国内選手権男子エリート

国内選手権 開催国:オーストラリア 開催日:1/12(日)

1)個人タイムトライアル

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2)ロードレース

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まずは木曜日に開催された個人タイムトライアル。昨年に続きダニエル・マルティネスが連覇。

しかしそれ以上に驚くべきは、各種ステージレースのタイムトライアルでも好成績を残しているエガン・ベルナルを抜いて、ナイロ・キンタナが2位に入っていること・・・

昨年も平坦ステージで逃げ切ったり、栗村さんにもキンナーティと呼ばれるような「変化」を遂げているキンタナ。今年のツールではもしかしたら、今までとは違った走りを見せてくれるかも。

 

そして日曜日に開催されたロードレースでは、残り20㎞でイバン・ソーサと共に抜け出したセルヒオ・イギータが独走勝利。

ソーサにもチャンスがあったが、右コーナーでクラッシュして大きな怪我を負い、この後のツアー・コロンビアの欠場も決めている。

また、イネオスはエガン・ベルナルも残り45㎞地点のダウンヒルで落車している。幸いにもこのときの怪我は大したことなく、集団に戻ったベルナルはそのまま2位ゴールを果たしている。ただ、シーズン幕開けから災難の続くイネオス。

各チームが続々と勝利を重ねていく中、このチームはいまだ未勝利である。

 

EFプロサイクリングはこのコロンビア選手権にて2連勝。いずれも若き才能による勝利。

昨年も各種大きなレースで活躍して見せたEFだが、今年もジョナサン・ヴォーターズGMの叫びを何度も目にすることができるのだろうか。

 

 

グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズ(1.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:フランス 開催日:2/2(日)

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その名の通り南仏マルセイユで開催されるワンデーレース。フランスのシーズン開幕戦であり、チャレンジマヨルカと並びヨーロッパの開幕戦でもある。

例年、フランス人が中心ではあるが、そのフランス人にも多いパンチャータイプの選手たちが活躍するアップダウンステージ。今年はAG2Rのブノワ・コヌフロワが優勝。

昨年、グランプリ・シクリスト・ド・モンレアルで優勝目前まで迫り、その活躍で世界選手権フランス代表メンバー入りも勝ち取った、フランス若手期待のパンチャーである。元U23世界王者で2018年のパリ〜ツールでも3位に入っており、石畳も含む北のクラシック系レースでの可能性も持つ男だ。

 

2位もまた、同じくフランスの期待の若手パンチャー、ヴァランタン・マデュアス。昨年のアムステルゴールドレースでも8位となった彼は、近いうちにアルデンヌ・クラシックや短めのステージレースでも結果を出す期待のある選手と言える。

かつては「このレースで勝ったものはその年結果を出せない」と言われていたマルセイエーズだが、今年は十分に活躍の期待できる若手たちが上位に揃ったレースとなった。

  

 

カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:オーストラリア 開催日:2/1(土)

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男子レース前日の土曜日に開催された女子カデルレース。今年からウィメンズ・ワールドツアーに。女子ワールドツアーもいよいよオーストラリアからの開幕となった。

しかし、カデルレースとは思えないほどの暴風雨で荒れた展開に。残り40㎞で5名の逃げとプロトンとのタイム差が4分という危険な状態になるわ、残り20㎞で大規模な落車が発生するわ。

そんな中、わずか12名に絞り込まれた集団から、チャランブラ・クレセントで攻撃を仕掛けたリアン・リペットが独走のまま勝利を掴んだ。

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ウィメンズ・ツアー・ダウンアンダーでも、総合優勝のルス・ウィンダーと共に常に先頭で勝負を仕掛け、総合2位に入り込んだ22歳。彼女にとって2年ぶり、4回目のプロ勝利であり、もちろんワールドツアーでは初勝利。

そのパンチャータイプの脚質と今回見せた独走力で、クラシック含め今後も期待ができる存在である。

 

 

カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:オーストラリア 開催日:2/2(日)

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2010年に開催されたジーロング世界選手権のコースを利用して、2015年から開催されているオーストラリア2つ目のワールドツアーレース。

全体的には平坦基調のレイアウトながら、ゴール前10㎞地点に用意されたチャランブラ・クレセント(登坂距離1.2km、平均勾配8.4%、最大勾配22%)で毎年パンチャー、クライマーによるアタックが繰り出され、逃げ切りを狙う彼らとこれを捕まえて集団スプリントに持ち込もうとするスプリンターチームとの駆け引きが絶妙に熱い名レースである。

昨年は逃げを捕まえたエリア・ヴィヴィアーニが優勝しており、過去にはピーター・ケニャックの逃げ切りなども決まっている。

 

今年は「逃げ切り」の年だった。いつも通りチャランブラ・クレセントで最初に攻撃を仕掛けたのはミッチェルトン・スコット。

ニック・シュルツ、ダミアン・ホーゾン、ディオン・スミスといった面々がペースを作り、サイモン・イェーツとダリル・インピーの2大エースが抜け出した。

 

この攻撃に過去の優勝者であるジェイ・マッカーシーやイェンス・クークレールなどが食らいつき6名のパックが形成。インピーのためにサイモンが積極的に牽引し、逃げ切りが確定するも、残り5.5㎞でこの逃げ集団からパヴェル・シヴァコフがアタックを繰り出した。

 

この攻撃に、毎年このレースでは名アシストを演じている男、ドリス・デヴェナインスが食らいついた。昨年もチャランブラ・クレセントでアタックした集団に食らいつき、そのあとも逃げの中の動きに常に反応しながらそのペースを押さえ込み、ヴィヴィアーニの勝利に貢献した男。

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今回は、逃げ集団が強すぎて押さえ込むことができなかったが、代わりに彼は自らの勝利のための最大のチャンスを作った。

 

これぞ、ウルフパック。誰もがエースのチームとは、まさにこのことを言う。

いや本当に強い。強すぎる、このチーム。

最後はスプリント力の差が明確に出て、シヴァコフを突き放したデヴェナインスが、4年ぶりの勝利、ワールドツアーでは初の勝利を掴み取った。

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サイモン・イェーツの献身的なアシストもあり、見事にピュアスプリンターたちから勝機を奪い取ったダリル・インピー。しかし、あまりにも優勝候補すぎて、残された4名の中で完全に牽制状態となってしまった。

最強が常に勝つわけではない。しかし勝つのは強い選手だけ。そんなロードレースの醍醐味の詰まったレースであった。

 

 

サウジ・ツアー(2.1)

アジアツアー1クラス 開催国:サウジアラビア 開催日:2/4(火)〜2/8(土)

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今年初開催となるサウジアラビアでのステージレース。ツール・ド・フランスと同じくA.S.O.が主催するレースで、かつて開催されていたA.S.O.主催の中東レース「ツアー・オブ・カタール」を彷彿とさせるようなスプリンターのためのステージレースである。

 

ゆえに、毎日が秒差の争いとなった。第1ステージはラストが7%の勾配が続く登りスプリント。ナセル・ブアニがなんとか3位に入り込み、ボーナスタイム4秒を獲得した。

第2ステージはボニファツィオが優勝する中、2位争いを制したのはバウハウス。3位につけたブアニとの総合タイム差を2秒に縮める。

そして第3ステージではマーク・カヴェンディッシュの策略により、バウハウスが勝利。ブアニも5位ゴールに沈んだため、一気にボーナスタイム10秒分の差がついてしまい、ブアニから8秒差をつけての総合首位に。バウハウスはかなりの余裕を持てたように思えた。

↓カヴェンディッシュの策略についてはこちら↓

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しかし第4ステージは、勝負所の登り口でバウハウスがパンク。カヴェンディッシュも含んだ献身的なチームメートのアシストを受けて集団には復帰するが、最後のスプリントで上位に入る足は残っていなかった。ブアニに逆に10秒を奪われて、再び総合タイム差2秒で再逆転されてしまう。

そして迎えた最終日。勝ったもん勝ちの展開の中、最後はカヴェンディッシュの正統派リードアウトによってバウハウス、勝利。初のステージレース総合優勝となった。

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第1ステージで勝ったルイ・コスタも、その後なんとか少しでもタイム差をつけてゴールを手に入れようとアグレッシブな動きを繰り返した。第3ステージでは残り12㎞地点の山岳ポイントでのボーナスタイムを狙って抜け出し、そのまま逃げ切りを目指して独走を続けたが、これも捕まえられてしまった。

チャレンジが実を結ぶことはなかったが、実に熱い走りだった。ハウッスラーも第2ステージの残り1㎞からの奇襲アタックをして見せたりと、単調な連日のスプリントステージになることなく、様々なチーム、選手たちが工夫する5日間だった。

 

予想以上に面白くなった今回のサウジ・ツアー。よく考えれば自分はドバイ・ツアーも好きだったし、今後このレースがこの時期の代名詞的な存在になってくれるとくれしい。そうなればもっとトップスプリンターたちが集まってくれることだろう。

あとは、Jsportsさんが日本語実況解説をつけること。今年の展開とか、栗村さん好きそうでしたよ?

 

 

ヘラルドサン・ツアー(2.1)

オセアニアツアー1クラス 開催国:オーストラリア 開催日:2/5(水)〜2/9(日)

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若き才能が炸裂した5日間だった。初日ピュアスプリントステージでは、ツアー・ダウンアンダーの第4ステージで5位、レース・トーキーで3位に入ったネオプロのアルベルト・ダイネーゼが、予想されてはいたがあまりにも早すぎるプロ初勝利を成し遂げた。

第3ステージと第5ステージは、ダイネーゼと同じSEGレーシングアカデミー出身のネオプロ、カーデン・グローブスが連勝。2019年は5勝、ベイビー・ジロとツール・ド・ラヴニールで共に区間2位を経験しているこれもまた期待の大きなスプリンターが、期待を超える活躍を見せてくれた。

 

若き才能の旋風は総合争いにおいても同様だった。

優勝候補最右翼とされていたのは、ミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツ。ヘラルドサン・ツアーは初出場だが、ツアー・ダウンアンダーでも勝負所できっちりと走れており、再リベンジを狙うジロに向けての状態を見るうえでも期待されていた。

しかし第2ステージの緩やかな長距離登坂フィニッシュの残り5.5km、まだ本格的なセレクションがかからない段階で落ちていくサイモン。ミッチェルトンはエースを2017年の覇者ダミアン・ホーゾンに切り替えざるを得なかった。

しかし、集団の先頭はチーム・サンウェブが支配していた。ダウンアンダーのパラコームステージで2位に入る活躍を見せたロブ・パワー、そしてウィランガ・ヒルで5位に入る活躍を見せたマイケル・ストーラーがそれぞれ牽引し、集団を絞り込んでいく。ホーゾンとEFプロサイクリングに移籍したニールソン・パウレスもそこに含まれてはいたが、しかし彼らはすでにアシストを失い、単独であった。

逆に元気だったのが、コンチネンタルチームに所属する21歳セバスティアン・バーウィック。先輩方に怯むことなくアタックを繰り返し、パウレスもその勢いによって脱落させられた。

最後は力尽きてヒンドレー、ホーゾンに続く3位に終わるが、その勢いは第5ステージにおいても変わりなかった。

第2ステージ以上の厳しさを誇る山岳山頂フィニッシュとなった第5ステージでは、昨年のツアー・オブ・ユタで活躍し今年イスラエル・スタートアップネーションでワールドツアーデビューを果たしたジェームズ・ピッコリが独走を開始。総合争いから脱落したサイモン・イェーツがステージ狙いで飛び出すが、結局ピッコリに追いつくこともなく沈んでしまった。

 

そして、残り1㎞で集団からアタックしたのがバーウィックだった。彼の一撃でプロトンは崩壊し、ついてこられたのはヒンドレーただ1人であった。

結局最後は落ち着いて構えていたヒンドレーに残り150mで追い抜かれてしまうが、この走りによってホーゾンを追い抜いて総合2位に浮上。

セバスティアン・バーウィック。来年はどこかのワールドツアーチームで走っていそうな、新時代の新たなる才能であった。

 

各ステージのより詳細なレポート、そしてサンウェブとミッチェルトンの若き才能へのフォーカスについては以下の記事を参照のこと。

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エトワール・ド・ベセージュ(2.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:フランス 開催日:2/5(水)〜2/9(日)

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ここも若手の才能が力を発揮したステージレースだった。

初日は、グルパマFDJの育成チーム出身で、昨年のU23パリ〜ツールを独走勝利したブリュネルが見事な逃げ切り勝利。 

一筋縄ではいかない登りスプリントとなった第2ステージでは、こういうレイアウトに強いエドヴァルド・ボアッソンハーゲンを差し切って、マグナス・コルトニールセンが勝利。最近はエスケーパーや山岳アシストの印象が強いコルトニールセンの久々のスプリント勝利となった。

 

第3ステージはアルペシン・フェニックス(旧コレンドン・サーカス)のクラシックライダー、デボントが逃げ切り優勝。プロトンとのタイム差はわずか2秒という、実にギリギリの逃走劇を見事に成功させた。

そして、このデボントと共に最後まで逃げ切ったものの最後は惜しくも敗れてしまったツィマーマンは、CCCチームトレーニー上がりであり、昨年のツール・ド・ラヴニール総合5位の、これもまた、決して見逃してはならない若き才能である。

 

昨年のツールにも登場したポン・デュ・ガールを出発する第4ステージは、登坂距離4.8㎞・平均勾配9.1%という本格的な山頂フィニッシュ。ここで勝ったのは、2018年ジロで躍進し、近い将来の総合エースの座は間違いなしと思われつつも2019年は苦しいシーズンを過ごしていたベン・オコーナー。今年こそ、彼のシーズンとなるか?

そしてこの日の3位には、CCCチームの育成チーム上がりの生え抜きポーランド人、カミル・マレツキが。CCCはいまだ勝ててないが、しかし若手からの盛り上がりは間違いない!

 

そして迎えた最終ステージ。初日に稼ぎ出したタイムと第4ステージの好走が光り、AG2Rの若手最有力選手の1人ブノワ・コヌフロワが2位ブリュネルに24秒差をつけて総合首位に立っている。

最終日はベセージュお馴染みの登りTT。コヌフロワにとっても苦手ではないレイアウトのはずで優位は揺るぎそうになかったが、40秒差で総合3位につけるベッティオルが恐ろしい勢いで登りを駆け上がってくる。

最後は一人では立ち上がれないほどに出し切ったベッティオルが昨年の「伝説」ロンド・ファン・フラーンデレン以来のプロ2勝目を達成。しかも、総合2位のブリュネルとの16秒差もひっくり返し、逆転総合2位を確保することとなった。

ただ、ブリュネルも粘り切って、1秒差での敗北となった。敗北とはいえ総合3位。コヌフロワ、ベッティオルという偉大な男たちを前にしてのこの戦いをわずか21歳のネオプロがやってのけたのだから、これは当然、誇って良いことである。

総合優勝のコヌフロワ自体がまだまだ若手というべき存在。ヘラルドサン、そしてバレンシアナと並び、本当に若手の台頭著しい、そんな2月前半戦となっている。

  

 

ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:スペイン 開催日:2/5(水)〜2/9(日)

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オフシーズンキャンプの定番でチャレンジマヨルカも開催されたマヨルカ島に隣接するのがバレンシア州。平坦ステージが3つにその間に挟まるようにして山頂フィニッシュが2つ。とくに第4ステージは登坂距離5㎞、平均勾配12%のブエルタも真っ青な激坂フィニッシュが待ち受ける。クライマーとスプリンターが共に活躍するバランスの取れた、ある意味両極端な5日間だ。

スプリンター陣営では、この時期に毎年好調なディラン・フルーネウェーヘンが2勝。しかしここに食らいつき2連属2位となったファビオ・ヤコブセンが最終日はアシストの力を借りて見事に優勝。昨年ブエルタ2勝と飛躍した若きスプリンターが、同郷の偉大なる大先輩を見事に正面からねじ伏せる。今年も、そのさらなる躍進に期待できそうだ。

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クライマー陣営では、過去3回総合優勝している今年40歳のアレハンドロ・バルベルデに注目が集まったが、第2ステージこそ2位ながら第4ステージの激坂バトルでは大失速。最終的にも総合10位と、さすがの彼も衰えが見えつつあるか?

一方、このバルベルデを第2ステージで差し、さらには第4ステージでは圧倒的な登坂力で一切のライバルを寄せ付けない走りを見せたタデイ・ポガチャルが、文句なしのステージ2勝と総合優勝を飾った。

今年、ツール・ド・フランス初挑戦。本人はあくまでもエースはファビオ・アルだと言っているが、もはや誰もそんなことは信じないだろう。

今年のツールの最終総合表彰台にこの男が立っていたとして、いったい誰がそれを驚くだろうか。

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今大会の最終総合成績は、総合2位がジャック・ヘイグ、総合3位がテイオ・ゲイガンハート。いずれも若き才能であり、今後が楽しみな選手。とくにヘイグは今年のブエルタのエース候補であり、個人的にも活躍に大きく期待している選手である。

その他、イスラエルに移ったダン・マーティンやバーレーンに移ったプールスなども悪くない走りを見せており、順調なシーズンの滑り出しを飾った。

 

 

ツール・ド・ランカウイ(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:マレーシア 開催日:2/7(金)〜2/14(金)

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まずは大ニュース。日本の中根英登が、日本人としては8年ぶりとなるProシリーズ(旧HCクラスに相当)勝利を果たした。

 

ステージ優勝という意味では9年ぶり。止まっていた時計が、動き出した。

 

そして "Nippo"としても、初となる日本人による勝利。それも、別府史之がわざわざワールドツアーチームを抜けて加入し、石上や岡といった日本の次代を担う若手たちが集まったこのNippoデルコ・ワンプロヴァンスというプロジェクトでのこの勝利の達成は、日本のロードレース界の新しい時代を幕開けるうえでの重要な一歩となるように感じられる。

 

もちろん、それは少しロマンティックに過ぎるのかもしれない。いくらProシリーズとはいえ、ワールドツアーチームも1チームしか出場しておらず、コンチネンタルチームの選手が総合優勝し、8ステージ中4ステージでコンチネンタルチームの選手が優勝しているアジアのレースでの勝利だということは留意しなければならない。 

それでも、その一歩すら久しく踏めていなかったのが今の日本の現状である。このまま、Nippoのプロジェクトを前向きに進めていき、この先輩の後姿を見て、石上たちが結果を出していくことを期待する。

 

 

一方で、昨年の初山といい、ある程度年齢のいった選手たちが結果を出している現状自体は、少しネガティブな思いを感じる。若手の台頭する世界の環境と日本との大きな違いの1つであり、西園良太もポッドキャストで触れていた問題点であるように感じる。

だからこそ、石上や岡には頑張ってもらいたい。とくに石上は、昨年のスペインの1クラスのレースでのシングルフィニッシュ経験もある。今回の中根の勝利の陰にも、彼の活躍があったことも語られている。

今年、日本人にとって更なる嬉しいニュースがもたらされることを期待している。

 

 

さて、レースの中身を見ていこう。まずは唯一のワールドツアーチーム、NTTプロサイクリングのマキシミリアン・ヴァルシャイドが2勝とポイント賞。「万年最下位」のNTT(旧ディメンションデータ)に早くも5勝目をもたらした。

ただ、本来であれば突き抜けた成績を出していなければならないNTTにとって、この1週間は苦しい戦いになった。かつてツール・ド・フランスの新人賞すら期待されていたアフリカの星・・だったはずのルイス・メインチェスも、クイーンステージのTOP10にすら入れない。

逆にこのランカウイは、地元マレーシアのコンチネンタルチームが強い。総合優勝者のセラーノはサプラ・サイクリングに所属し、ステージ2勝・昨年も1勝のサレーや、2018年総合優勝者で今年も総合3位のアルチョーム・オヴェチキンはトレンガヌ州TSGサイクリングチームに所属している。マレーシアにはUCIコンチネンタルチームはこの2つしかなく、2019年シーズンの国別ランキングでは61位。

それでも、地元最大のステージレースでの活躍は、この国の今後の盛り上がりを期待できそうで見ていて嬉しい。

日本も負けてはいられない。今年のツアー・オブ・ジャパンはオリンピックイヤーということもあるし、例年以上の活躍を期待したいところだ。

 

なお、今回活躍したタジ・ジョーンズの所属するARAプロレーシングサンシャインコーストは、2018年(当時はオーストラリアサイクリングアカデミー)にツール・ド・栃木やジャパンカップ、ツール・ド・沖縄など日本の各レースにも出場しているチーム。ツール・ド・栃木ではステージ2勝と総合優勝を果たしているマイケル・ポッターもまだ在籍しており、彼もまだ今年23歳の若手。

ぜひ今年のツアー・オブ・ジャパンにもこのポッターやジョーンズが来日して活躍してほしいところ。とくにジョーンズはこれから確実に注目を集める選手になるはずで、その萌芽を日本で見られたらなかなか嬉しい気がする。

栗村さん、よろしくお願いします。

 

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