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全ステージのTOP3の合計平均年齢が驚異の24.5歳! 「若手の祭典」となったヘラルドサン・ツアー2020を振り返る

 

最終総合表彰台に登った3人の平均年齢は24.3歳。

どころか、スプリントステージの第1・3・5ステージも含めた全ステージのTOP3の平均年齢も、合計すると24.5歳と驚異の若さを誇ったのが今年のヘラルドサン・ツアーであった。

 

さらに言えば、彼ら「勝者」だけでなく、それをアシストした選手たちもまた、20代前半の若手選手たちだったりもする。

そんな、「若手の祭典」となった今年のヘラルドサン・ツアーを振り返りつつ、いかにして彼らが活躍をしていったのかを、詳細に確認していこう。

 

 

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スプリンター対決

ツアー・ダウンアンダー、カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース、今年はそこにレース・トーキーも加わった、1月から続くオーストラリアのUCIレースシーズン。

その最終章となるのがこのジャイコ・ヘラルドサン・ツアー(2.1)である。

 

歴史は古く、1952年創設。今年で67回目を迎える。

過去にはガーミン時代のブラッドリー・ウィギンスやクリス・フルーム、エステバン・チャベスなどの総合優勝者を輩出しており、昨年はマイケル・ウッズとリッチー・ポートによる白熱の戦いが演じられた。

 

だが昨年は、第4ステージでチーム・スカイが逃げに3名乗せるという大胆な戦略を実行。

その中で見事最後まで逃げ切ったディラン・ファンバーレが、大逆転総合優勝を果たした。

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そして今年もまた、一筋縄ではいかない展開が待ち受けていた。

  

 

第1ステージ

平坦基調のスプリンターズステージとなったのが第1・第3・第5ステージ。

第1ステージはツアー・ダウンアンダーの第4ステージで5位、レース・トーキーで3位に入り、近い将来必ず勝つと期待されていた男、アルベルト・ダイネーゼが強力なスプリントで見事に勝利。

 

このとき最終発射台を務めたのがマックス・カンター。彼もまた、2018年にツール・ド・ラヴニールで区間1勝している才能あるスプリンターであり、今年23歳と若い選手である。

カンター自体も勝利が欲しいのは間違いないだろうが、さらに才能を見せている新鋭のために、最高のアシストをやってのけたのである。

 

 

第3ステージ

第3ステージも集団スプリントでの決着となったが、ゴール前16.5㎞に置かれた登坂距離1.6㎞、平均勾配7.5%の登りが波乱を生んだ。

この登りで集団のペースを上げたのはミッチェルトン・スコット。オーストラリアチャンピオンジャージを着たキャメロン・マイヤーを先頭に、複数のアシストがカデン・グローブスの周りを取り囲みきっちりとガードした。

逆にチーム・サンウェブはダイネーゼもカンターも登りでバラバラと遅れる姿を見せる。最終的にはゴール前で集団に復帰できたものの、そのときの疲労は着実に足にダメージを残していたことだろう。

最後のスプリントでダイネーゼは、わずかにグローブスに届かなかった。

 

グローブスもダイネーゼと同じくSEGレーシングアカデミー出身のネオプロ。実はレース・トーキーでも4位とダイネーゼにわずかに敗れている。

このダイネーゼとグローブス、もしかしたら現在のユアンとガビリア、ホッジとヤコブセンのような良きライバルとしてこれからの時代を担っていくのかもしれない。

 

 

第5ステージ

最終日第5ステージはゴール前に混戦。

残り2㎞からミッチェルトン・スコットが3名のアシストを残していて先頭を支配していたが、ラスト1㎞でこれが崩壊。そこから先はEFプロサイクリングののニュージーランド人TTスペシャリスト、トム・スカリーがホフラントのための全力牽引を続けていった。

 

1㎞をひたすら先頭で牽き続けたスカリー。しかし、それは逆に、ホフラントの足を疲弊させ、彼のライバルにとってのちょうど良いアシストになってしまったのかもしれない。

残り200mほどでスカリーが離脱したとき、まるでそこからレースを開始したかのような鋭い勢いでカデン・グローブスが飛び出す。チームメートのディオン・スミスもこれについていくが、ホフラントはそこにつき切れしてしまう状態であった。

最後は圧勝。広げた両手は貫禄の証。この瞬間、この男は期待のネオプロから、トップスプリンターへの入り口に立つ男となった。

 

チーム・サンウェブは残り2㎞まではミッチェルトン・スコットと競り合っていたが、ダイネーゼを助けるアシストは1人しかおらず、またその連携も崩れていた様子が見え、スカリーが形成した終盤のハイペースに飲み込まれたまま15着でのフィニッシュとなった。

 

 

スプリンター頂上決戦ではサンウェブとミッチェルトンの若手2人の熾烈な争いが繰り広げられたが、最後はミッチェルトンの才能が頭一つ飛び抜けた。

 

しかし、総合争いでは逆に、サンウェブがその層の厚さを見せつけて結果を出すこととなった。

 

 

 

総合争い

今年のヘラルドサン・ツアーは、総合争いを左右する山頂フィニッシュが2つ用意された。それは第2ステージの「フォールス・クリーク(登坂距離19.1㎞、平均勾配5%)」と、第4ステージの「マウント・ブラー(登坂距離15㎞、平均勾配6.1%)」である。

 

第2ステージ

総合優勝候補最右翼とされていたのはミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツ。

ヘラルドサン・ツアーは初出場だが、同じく初出場のツアー・ダウンアンダーでも勝負所となるパラコームやウィランガ・ヒルではきっちりと走れており、そのあとのカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースでも、チャランブラ・クレセントでダリル・インピーと共に抜け出して彼のアシストに全力を尽くした。

 

ゆえに、そんな彼がまさかこの第2ステージの長くはあるが緩やかな登りの、ラスト5.5㎞の時点で力なく崩れ落ちていくなんてことは、予想していなかった。

 

その落ち方は、この不調が一時的なものでないことをチームに悟らせるには十分であった。

即座に、エースは2017年の覇者ダミアン・ホーゾンに切り替えられた。

 

 

だが、集団の先頭はチーム・サンウェブが支配していた。ダウンアンダーのパラコームステージで2位に入る活躍を見せたロブ・パワー(今年25歳)、そしてウィランガ・ヒルで5位に入る活躍を見せたマイケル・ストーラー(今年23歳)がそれぞれ牽引し、残り3㎞を切って先頭はわずか6名に。

ホーゾンとEFプロサイクリングに移籍したニールソン・パウレスもそこに含まれてはいたが、彼らはすでにアシストを失い、単独であった。

 

そして残り2.6㎞、ストーラーの牽引が終了し、ジェイ・ヒンドレーがアタック。ホーゾンもパウレスもついていく。パワーもまだ残っている。

そしてこの動きに、セントジョージ・コンチネンタルサイクリングチーム(オーストラリア籍のコンチネンタルチーム)のセバスティアン・バーウィックーー今年まだ21歳になる年齢のオーストラリア人ーーがついてきていることが、また驚きであった。

 

それどころか、残り2㎞でこのバーウィックがさらにアタックを仕掛ける。いくらオージーにとって北半球人たちとの力の差が最も狭まる時期とはいえ、驚異的な走りである。

この動きでさすがにパワーは振るい落とされた。

 

パウレスのカウンターアタックの後、バーウィックを先頭に牽制し合う4名。残り1.5kmからヒンドレーがペースアップ。残り1.2㎞からパウレスが2度目のカウンターアタック。いずれも決まらない。

残り1㎞を切ってホーゾンが満を持してアタックするも、ヒンドレーがきっちりと押さえ込み不発に終わる。

残り600mでバーウィックがまたアタック。ここでパウレスが脱落。

残り500mでヒンドレーが何度もダンシングしながらペースアップ。だがホーゾンもバーウィックも離れない。

そして残り100m。

ヒンドレーの後ろでバーウィックが腰を上げ、スプリントを開始。一度は前に出るバーウィックだが、そこから伸びたヒンドレーとホーゾンが最後は競り合って、わずかにヒンドレーが先着した。

 

20代前半の若手たちが繰り広げたラスト3㎞の激戦。

今大会を象徴するステージとなった。

 

 

だが、同様の激戦はもう1つの山頂フィニッシュとなる第4ステージ「マウント・ブラー(登坂距離15㎞、平均勾配6.1%)」でも繰り返された。

 

 

第4ステージ

フィニッシュまで残り3㎞。

最初に攻撃を仕掛けたのは、昨年のツアー・オブ・ユタで当時コンチネンタルチーム所属ながら驚きの走りを見せたジェームズ・ピッコリ(イスラエル・スタートアップネーション、今年29歳)。

単独で先頭を突き進む彼を集団から抜け出して追いかけたのは、第2ステージで6分以上もの遅れをみせたサイモン・イェーツ。集団内では、マイケル・ストーラーが先頭でヒンドレーを守っており、その後方にはキャメロン・マイヤーとニック・シュルツに守られたダミアン・ホーゾンや単独のニールソン・パウレス、そして第2ステージで2位になったセバスチャン・バーウィックが控えていた。

このとき集団はすでに13名程度に縮小していた。

 

そして残り1㎞。集団からバーウィックがアタック。これに追随できたのはヒンドレーと、チーム・サプラサイクリングの今年26歳になるオーストラリア人、ジェシー・エワート。

しかしバーウィックのダンシングによるペースアップを前に、やがてエワートも千切れてしまった。少し離れたところにはパウレスとネロ・コンチネンタルの今年25歳になるオーストラリア人、ジェイ・ヴァイン。サイモン・イェーツもあっという間に抜かれてしまった。

 

残り500mで単独先頭だったピッコリを追い抜いたバーウィック。さらにダンシングで加速していくが、ヒンドレーは離されない。

逆転のためにもバーウィックは前で牽き続けるしかなく、ヒンドレーはこれを冷静に押さえ込みながらその背後でタイミングを見計らっていた。

 

そして残り150mで前に出たヒンドレー。バーウィックもその背中に食らいつこうとするも、さすがに対応しきることは難しかった。

ジェイ・ヒンドレー、「弱体化」したチームに捧げる2勝目。そして総合優勝。ワールドツアーチーム屈指の若手チームらしい、鮮烈な勝利となった。

 

 

だが、バーウィックも最後まで怯みない走りを見せてくれた。結局彼は、ヒンドレー以外のワールドツアー含む全てのライバルたちをほぼ独力で突き放し、総合優勝こそ叶わなかったが総合2位へのランクアップを果たしたのである。

 

彼もまた、来年以降はもしかしたら、どこかのワールドツアーチームに声をかけられ、羽ばたく可能性のある期待の大きな選手である。

 

 

 

まとめ

以上、総合争いにおいては、ロブ・パワーやストーラーの若きアシストたちの力を借りて、ヒンドレーが圧倒的な強さで総合優勝をもぎ取った。

ミッチェルトン・スコットはサイモン・イェーツがまさかの失速で痛手を負い、そのあとも総合争いにおいては後塵を拝すこととなった。

 

ただし、スプリント争いにおいては、登りで圧倒的な強さを誇ったサンウェブがダイネーゼを守護するメンバーを欠いたことで、苦しい戦いを強いられた。

最後までヒンドレーの総合を守るというミッションも、最終日に駒が不足する原因となったであろう。

 

一方でミッチェルトンは、総合での優位を失った代わりに、スプリントではサイモン・イェーツまでもがアシストに回り、チームの新鋭グローブスの勝利を全力で支え切った。

グローブス自身が強かったのは確かだが、そこに加えてチーム一丸となったサポートが、最後の最後で地元チームとしての意地を見せた形だ。

 

 

サンウェブもミッチェルトンも、今年は正直、苦しい戦いになると予想されていた。サンウェブはデュムランも離脱し、新たなチームの顔となるべきマシューズも安定せず、ケルデルマンも低迷している。

ミッチェルトン・スコットもチームメンバーの入れ替えが少ない中、昨年勝利数を稼いだマッテオ・トレンティンを失うなど、不安の残るロースターだった。

Team Sunweb 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Mitchelton-Scott 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

そんな中、この2チームに共通するのは、若き才能の多さであった。

サンウェブはワールドツアー屈指の平均年齢の低さの中、数年前からそのポテンシャルに期待されていた若手たちが着実に育ちつつあった。

今回活躍したストーラーやヒンドレーはまさにそういった選手たちだった。

 

ミッチェルトン・スコットもグローブスだけでなく、今回の総合3位ホーゾンや、同時期に開催されたバレンシア1周レースで総合2位になったジャック・ヘイグなども、オーストラリアの若手育成プロジェクト出身の「生え抜き」である。

 

サンウェブにはまだまだマルク・ヒルシやヨリス・ニューエンハイス、サム・オーメンやケース・ボルなどの今年爆発してもおかしくない若手の才能に溢れている。

ミッチェルトンも同様で、ロバート・スタナードやエドアルド・アッフィーニ、カラム・スコットソンやルーカス・ハミルトンなど・・・

 

目に見えてわかる最強チームだけが勝つわけではない。まだ日の目を浴びていない可能性をもった選手たちが世界には溢れている。

 

 

今回のヘラルドサン・ツアーは、まさにそんな可能性に触れることのできた実に面白い5日間だったように思える。

YouTubeのGCN Racingチャンネルで無料で見ることもできるので、ぜひ2020年以降を展望する上で、この記事を参考にしながらチェックしてほしい。

Herald Sun Tour 2020 - YouTube

 

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