Class:ワールドツアー
Country:イタリア
Region:トスカーナ州~ウンブリア州~マルケ州
First edition:1966年
Editions:56回
Date:3/10(水)~3/16(火)
パリ~ニースの裏側で開催される、イタリアを舞台にした7日間のステージレース。
その名は「ティレニア海」から「アドリア海」を意味し、「2つの海を結ぶレース」の別名通り、半島の西海岸から東海岸へ横一直線に突き進むルートを辿る。
その中で「イタリアの背骨」ことアペニン山脈を通過し、そこに山頂フィニッシュなどのクイーンステージを設けられることが多い。
今年もストラーデビアンケで活躍した選手を中心に有力選手たちが集結。
パリ〜ニースに負けない豪華な顔ぶれが激しい戦いを期待させる。
今回は見所となるステージや注目選手などを、簡単にプレビューしていきたいと思う。
スポンサーリンク
コースの特徴
すでに述べたように、イタリア半島の西海岸から東海岸へと突き進むこのレースは、アルプス山脈のような激しい山岳地帯を使用するわけではない分、パリ〜ニースと比べると純粋なクライマーよりはパンチャーなどでも活躍できる場面の多いレースでもある。
また平坦ステージと言いながら小刻みな登りをフィニッシュ直前に設けたり登りスプリントだったりすることの多いパリ〜ニースと比べ、素直な平坦フィニッシュも多く、有力ピュアスプリンターたちが集まってきやすいレースでもある(直後に同じイタリアでミラノ〜サンレモがあることも影響しているかもしれない)。
そして最終日は毎年恒例個人タイムトライアル。距離は短めだがオールフラットであること多く、登りが総体的にパリ〜ニースほど厳しくはないこともあり、TT能力の高い選手が総合優勝を狙いやすいレースでもある。
と、なれば今年はやっぱりあの選手が・・・?
以下、各ステージを簡単に確認していこう。
第1ステージ リド・ディ・カマイオーレ~リド・ディ・カマイオーレ 156㎞(平坦)
毎年恒例リド・ディ・カマイオーレをスタートする第1ステージは、かつてはチームタイムトライアルが定番だったが、昨年からは集団スプリントステージに。
昨年はパスカル・アッカーマンが勝利。今年は彼がパリ〜ニースに行っているので、代わりに勝つのはユアンか、ヴィヴィアーニか、ガビリアか!?
第2ステージ カマイオーレ~キウズディーノ 202㎞(丘陵)
後半にかけてアップダウンが激しくなる丘陵ステージ。ラスト1㎞は平均5.4%の登りスプリントフィニッシュ。パンチャー、あるいは登れるスプリンターの出番だ。
やっぱマチュー?
第3ステージ モンティチャーノ~グアルド・タディーノ 219㎞(丘陵)
こちらも第2ステージ同様にパンチャー向けの丘陵ステージ。
ラストは勾配自体は第2ステージよりは緩やかで集団スプリントの可能性もあるが、ラスト1㎞にヘアピンカーブがあったりと混戦模様になる可能性は高い。
第4ステージ テルニ~プラティ・ディ・ティヴォ 148㎞(山岳)
今大会のクイーンステージは、2013年以来8年ぶりの登場となるスキーリゾート、プラティ・ディ・ティヴォ。8年前はクリス・フルームが勝利した山だ。その年のフルームは初のツール・ド・フランス制覇を実現しており、今年もその勝者に注目が集まる。
登坂距離は14.6㎞で平均勾配は7%。全部で22個ものヘアピンカーブが用意された本格的な山頂フィニッシュだ。全体的に勾配は一定ではあるものの、ラスト6㎞地点に最大勾配12%の区間が用意され、大きな動きがここで巻き起こるかもしれない。
なお自分の認識間違いでなければこの上りの途中に「スプリントポイント」があるように見えるのだけれど、これは何かの間違いかしら?
第5ステージ カステッラルト~カステッラルト 205㎞(丘陵)
ティレーノ〜アドリアティコは毎年「タッパ・デイ・ムーリ」すなわち「壁のステージ」を用意している。
今年のそれはこの第5ステージ。登坂距離1.8㎞のうち真ん中の1㎞が平均勾配14.9%、最大勾配19%に達する「ムーロ」ヴィア・ヴァッレ・オスキューロを含む周回コースを4周させる。
フィニッシュはこの「壁」の頂上ではないものの、それでもラスト450mの平均勾配が8.6%、最大勾配が12%に達する激坂の上に置かれている。
昨年の同じ「タッパ・ディ・ムーリ」では先頭を逃げていたマッテオ・ファッブロをマチュー・ファンデルプールが捉えて勝利。
第6ステージ カステルライモンド~リド・ディ・フェルモ 169㎞(平坦)
細かなアップダウンはあるが最終盤は平坦が続き、基本的には第1ステージに続く大集団スプリントでフィニッシュとなるステージになりそう。
終盤は海沿いを走るため、横風には注意が必要だ。
第7ステージ サン・ベネデット・デル・トロント~サン・ベネデット・デル・トロント 10.1㎞(個人TT)
毎年恒例の最終日10.1㎞のオールフラットTT。コースもほとんどが直線基調であり、ピュアTTスペシャリストたちの足を止める要素は(横風以外には)一切ない。
当然、優勝候補は世界王者フィリッポ・ガンナ。ここまでTT8連勝を重ねてきている彼に隙など一切存在しない。悩むべきは1位ではなく、彼に続く2位以下の選手たちである。
また、総合逆転の舞台にもなりうる。とくにタデイ・ポガチャルやジョアン・アルメイダなどのTTが得意な選手が数秒差でビハインドを抱えていたとしたら、彼らのこの日の走りは非常に重要なものとなるだろう。
注目選手
総合系
タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)
昨年ツール覇者であり、今大会の最大の総合優勝候補。直近のUAEツアーでもその登坂力、TT能力、冷静な状況判断能力と微塵の隙もない強さを見せつけた。
弱点があるとすればチーム力。UAEツアーの山岳ステージでは、イネオス・グレナディアーズの最強トレインを相手取り、UAEチーム・エミレーツの山岳アシストたちが次々と剥がされていってあっという間に丸裸にされてしまった。
今回はそのときと同じダヴィデ・フォルモロ、ラファウ・マイカ、ヤン・ポランツなどが揃っている。彼ら山岳アシストにとってはリベンジの舞台となれるか。
エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)
第2の総合優勝候補はもちろんこの人。2019年ツール覇者。昨年のツールは背中の痛みにより途中リタイアとなったが、今年のツール・ド・ラ・プロヴァンスではそこからの完全復活を告げるかのような強さを見せつけた。
UAEチーム・エミレーツとは対照的に、このチームの真の強さは山岳トレイン力である。上記ツール・ド・ラ・プロヴァンスではエディ・ダンバーやカルロス・ロドリゲス が、UAEツアーではブランドン・リベラやダニエル・マルティネスが、そして今回のティレーノ~アドリアティコでは、2018年ツール覇者ゲラント・トーマスやパヴェル・シヴァコフ、ミハウ・クフィアトコフスキといった非常に豪華な布陣でベルナルを護りきる。
完全にしてやられてしまった昨年の借りを返すべく、まずは「ポガチャル倒し」を果たせるか。
ジュリアン・アラフィリップ&ジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
今年のツール・ド・ラ・プロヴァンス総合2位のジュリアン・アラフィリップと、UAEツアー総合3位のジョアン・アルメイダの「ダブルエース」体制。どちらも調子が良く、TT能力も高いため、本当にどっちが真のエースかわからない。
それがゆえに、第4ステージのプラティ・ディ・ティボの登りでどちらかがアタックしたとき、ライバルチームたちはどう動くべきかとっさに判断に迷うことだろう。それこそがこのチームの強みであり、戦略だ。
さらにもしここでアルメイダがエースとして上位に上がったとしても、続く第5ステージの「壁」では、逆に激坂ハンターのジュリアン・アラフィリップが火を噴いてアルメイダをマークしていた総合ライバルチームたちが泡を吹く展開も考えられる。
気になるのは山岳アシストの少なさ。カスパー・アスグリーンくらいなものというのは、少々、というか結構、物足りなさすぎる。
その他注目の総合系ライダーたち
- サイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ)
- ヤコブ・フルサン(アスタナ・プレミアテック)
- ミケル・ランダ&ペリョ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)
- ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)
- ナイロ・キンタナ(チーム・アルケア・サムシック)
- ヴィンツェンツォ・ニバリ(トレック・セガフレード)
- ティボー・ピノ(グルパマFDJ)
- セルジオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO)
- マルク・ソレル(モビスター・チーム)
スプリンター
カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
現役最強スプリンターの一角は、その最大のライバルたちが集結するパリ~ニースではなくこちらのティレーノ~アドリアティコを選択。もしかしたら狙えるステージは2ステージしかないかもしれないが、その両方で危なげなく勝ってくれそうな信頼感がある。
アシストもロジャー・クルーゲとジャスパー・デブイストという黄金コンビ。最終リードアウトというよりは、その一歩手前までユアンを引き上げる運び屋的な役割がメインとなるだろうが、それが成功しさえすれば、あとは単独の加速力においては現役一といってよい「ポケット・ロケット」が火を噴くだけである。
ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)
このティレーノ~アドリアティコにも良いスプリンターたちが揃っているのは確かだが、その中でも正直ユアンに次ぐ勝てる可能性のある選手は誰かと問われたら、申し訳ないがこの男の名を挙げてしまうとは思う。
ただ、まだ今年はストラーデビアンケに続く2レース目であり、そのストラーデビアンケもやはり彼自身の実力を十分に発揮できたとは言い難いレースだった。
とはいえ、来週末のミラノ~サンレモに向けた重要な調整レースでもあるこのティレーノ~アドリアティコで、しっかりとした結果を出しておきたいところ。登りスプリント気味になるであろう第2・第3ステージでも勝機がある。
マッテオ・モスケッティ(トレック・セガフレード)
正直勝つまでいくかは分からないが、上位に安定して食い込むことが期待できる選手だ。UAEツアーでも第4ステージで5位。さらなる成績を期待できていた中で、第6ステージでの落車リタイアは残念・・・。
今回その悪影響が残っていなければいいのだが。
エリア・ヴィヴィアーニ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
2020年シーズンはひたすら絶不調に陥っていたヴィヴィアーニが、UAEツアーでは区間5位→区間4位→区間2位とかなり調子を取り戻しつつある様子を見せていた。
このティレーノでさらなる手ごたえを感じさせて、復活に近づけるか?
ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
春先のトレーニングキャンプ最終日に新型コロナウイルスに罹患し、予定していたシーズンインスケジュールが滅茶苦茶になってしまったサガンも、ようやく復帰。
かつてほどの勢いはなく、昨年もツールで降格騒動を引き起こすなど不安もある男だが、やはりこの男が暴れまわらないと寂しい。ボドナール、ブルグハート、オスなどの「親衛隊」と共に、ぜひ活躍を。
その他注目のスプリンターたち
- フェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)
- ティム・メルリエ(アルペシン・フェニックス)
- ルカ・メズゲッツ(チーム・バイクエクスチェンジ)
- アルバロホセ・ホッジ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
- イバン・ガルシア(モビスター・チーム)
その他ステージ優勝者
マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
ストラーデビアンケの最後の石畳激坂でジュリアン・アラフィリップを突き放すという恐ろしい登坂スプリントを見せたファンデルプール。UAEツアー第1ステージではヴィヴィアーニを下してスプリントで勝利し、昨年のティレーノ~アドリアティコでは逃げ切り勝利を果たして見せている。
今大会もいろんな勝ち方が考えられる。さすがに第1・第6ステージのピュアスプリントではメルリエをアシストする側に回るだろうが、第2・第3ステージの一筋縄ではいかないパンチャー向きフィニッシュや、第5ステージの「壁」ステージでの逃げ切り勝利などは、十分にその支配圏内である。
ストラーデビアンケで再び「不可能」を「可能」にした男。想像を超える走りに更なる期待を。
フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)
最終日個人TTでの勝利は落車などのトラブルがない限りはあまりにも硬すぎる。一方、それだけでなく逃げ切りでの勝利も十分に考えられるというのは、昨年のジロ・デ・イタリアを見ても今年のエトワール・ド・ベセージュを見ても予想がついている。
一度独走を始めたら止めることはできない。逃げに乗った段階から、その日の勝利を狙いたいチームは皆全速力で追いかける必要がある。
もちろん、それでもこの男の走りは止められないかもしれないけれど・・・。
もちろん、ここでは取り上げなかった意外な選手たちの活躍も実に楽しみ。
パリ~ニースと同時に視聴していかなければならないのは大変だけれど、こちらも豪華すぎるメンバーが出場するだけに、決して見逃してはいけないレースである。
スポンサーリンク