りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ルーク・プラップ、今最も注目すべき20歳のオージーライダーについて

 

「1周目を走り終えたとき、僕はこのレースを勝てるかもしれないということに気がついた。それは本当に手の届くところにまでやってきていて、すべては最終周回での走りにかかっていた」

 

「(ゴールしてからの)数分間は、とても緊張していた。正確な時間はわからなかったが、頭の中で数えていたので、僕がゴールしてから2分は経過していたことがわかっていた」

 

「それはとても非現実的だった。それは本当に、シュールな出来事だった」

 

www.cyclingnews.com

 

 

過去2年、「世界王者」ローハン・デニスを倒し続けてきた「最速の男」ルーク・ダーブリッジを打ち破ったのは、昨年U23TT王者になったばかりのわずか20歳の青年だった。

 

だがそれは、必然だったのかもしれない。

何しろ彼は、2週間前に開催されていたサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングにて、最も注目すべき活躍を果たしたライダーだったのだから。

www.ringsride.work

 

 

第2ステージで終盤に一人飛び出し、ステージ優勝。

翌日のウィランガ・ヒルでは「かっ飛んでいった」リッチー・ポートに一人追いつき、その優勝を後ろから後押しした男。

 

このときはダーブリッジに敗れ、総合2位に甘んじた彼だったが、その活躍を見たワールドツアーチームたちが早速、彼にアプローチをかけ始めたのも無理のないことであった。

 

 

すなわち、今最も注目すべきオージーライダー、ルーク・プラップ。

 

今回は、そんな彼がどこからきて、これからどこへ向かうのかを、いくつかの英語の記事を眺めながら確かめていきたいと思う。

 

 

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ルーク・プラップ。またの名をルーカス・プラップと呼ばれるこの男は、2000年12月25日にメルボルンで生まれる。

12歳のときに自転車競技を始めるが、最初それは彼が最も熱中していたクリケットとサッカーのためのトレーニングの一環であった。

www.australiancyclingteam.com

 

 

2018年。彼が19歳のとき、彼は国内選手権のジュニアTT王者に輝く。

その1ヵ月後、彼はオセアニア大陸選手権のジュニアTT王者に。

さらにその1ヵ月後、彼は、トラック世界選手権の舞台において、ポイントレース・マディソンの2種目におけるジュニア世界王者に輝くことになる。

 

まさに破竹の勢い。

そんな彼が昨年、わずか19歳で東京オリンピック・トラック中距離オーストラリア代表メンバーに選出されたとしても、何もおかしなことはないだろう。

australiancyclinginsider.com

 

 

そんな彼が、この1月のサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングで見せた、登りへの適性。

もちろんまだ、それは短い小さな登りでしかない。

ウィランガ・ヒルでリッチー・ポートに食らいついていったとはいえ、それはもちろん、ポートも他のワールドツアーチームの選手たちも、この新型コロナウイルス下での混乱の中、十分に実力を発揮できない状況であったことはたしかだ。

 

それは今回のオーストラリア国内選手権個人タイムトライアルでも同様。

ルーク・ダーブリッジが昨年・一昨年にローハン・デニスを打ち破ったときと同じコンディションを発揮できていたとは到底思えない中での勝利であることは確かだ。

 

 

それでも、そんな重要な舞台でしっかりと結果を出す、それ自体がこの男の才能の本質である。

そしてそんな彼に、早速5つのワールドツアーチームから「本気の」連絡がきたという。問い合わせレベルであればもう数チームからも。

そんな内容が書かれている以下のインタビューの一部を拙訳してみる。

cyclingtips.com

 

 

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—―(サントス・フェスティバル・オブ・サイクリングが開催されていた)先週のパフォーマンスには自身でも驚いているのではないですか?

 

もちろんだよ。まったくそんな風になるなんて、予想していなかった。

現時点ではほんのちょっとだけトラック競技をやっているくらいで・・・もちろんそれは非常にうまくいっていたのは確かだったけれども、それでも登りにおいてこんなにも他の人と比べてうまくやれるなんてことは、考えもしなかった。

長い間誰ともレースをしなかったものだから、周りの人と比べることもなかなかできなかったってのはあると思うけれど。

でもまあ、本当に信じられない1週間だったよ。これ以上のことは、期待することすらできなかった。

 

 

—―第2ステージはあなたが、第3ステージはリッチーが勝利を狙うことは最初からチームで決めていたのですか?

 

僕たちが最初から決めていたのは、ウィランガ・ヒルでリッチーが勝つこと。それから、最終日のクリテリウムで(昨年のオーストラリアクリテリウム王者の)サム・ウェルスフォードが勝つこと、その2つだけだったよ。

あとはもうただ、臨機応変にやるだけだった。僕も集団の先頭で他の選手たちのために走ることしか考えていなかった。

いやほんと、誰も僕のために走ることなんてなかったよ!

 

第2ステージのフォックス・クリーク(ゴール前8㎞に位置する2級山岳)で、僕は何度かよい走りをすることができていた。同じくケル・オブライエンも調子が良かったので、二人してちょっとしたエースの役割を任せてもらえるようになった。

でもまさか、それがこんなにもうまくいくなんて、予想していなかったけどね。

 

 

—―あなたの視点で、その最後の登りについて解説してくれませんか?

 

その日はリッチーが一日中、僕たちのために集団の先頭を牽いてくれていた。集団の中で僕はサム・ウェルスフォードの隣に位置しており、彼は常に僕を気にかけてくれた。

そして登りの手前に来ると、リッチーが逃げを吸収してくれて、サムが他のアタックが生まれないように集団の中で牽制してくれていた。

 

僕はそこで一気に攻撃を仕掛けた。もしもケル・オブライエンが追いついてくるようなら、彼に勝ってもらうつもりだった。そうでなければ、僕がそのまま行くつもりだった。

そして僕は信じられないほど足を残しており、そのままフィニッシュに向かうことに決めた。もしも集団に捕まえられても、ケルがその集団の中で最もスプリントが強いこともわかっていたので、僕は何も気負う必要はなかった。

 

 

—―振り返ったとき、集団とのギャップが大きく開いているのを見て、驚きませんでしたか?

 

僕は淡々と踏んでいたのだけれど、振り返ってギャップが開いていることに気づいて、「ちょっとアタックしてさらに開いてみようかな」と思ってみた。

まさか、そのときは、逃げ切れるなんて思ってもいなかった。すぐに集団の中に捕まえられてしまうものだと思っていた。

それは本当に驚くべきことだったし、明らかに足の調子が良かった。そのとき僕はガーミンを背中のポケットに入れていたので、とにかく感覚で走っていくしかなかった。

多分、自分が想像していた以上のペースでそのときは走っていたのだと思う。

 

 

 

—―登りですごく大きなギアを踏んでいたようにも見えましたが・・・。

 

うん、それが僕たちのトレーニング方法だ。

ティミー(男子中距離コーチのティム・デッカー)が僕たちに登りで我慢する強さを教えてくれていたので、僕は状に軽快にそれを登ることができていた。

頂上に着くと僕はすぐさま大きなギアに変えて、フィニッシュに向かうことにした。

 

 

—―頂上で後続に差を付けていて、あなたがそこに一人でいることに気がついたとき、あなたは勝利への最大のチャンスを手に入れたと感じていましたか?

 

うん。僕は下りが得意だったし、頂上を越えて2㎞走っても追いつかれなければ、そのまま最後まで走り抜くことができると確信していた。

頂上を越えてしばらくのアップダウンをこなしさえすれば、もう僕は追いつかれる心配はなかった。あとはもう、タイムトライアルでフィニッシュに向かうだけだった。

 

 

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—―ウィランガのことを話してください。それは本当に素晴らしい走りでした。

 

その日は大きな逃げを作らないようにするつもりだった。だけど実際にはかなり大きなタイム差のついた逃げが生まれてしまって、僕たちは焦ってしまった。

だから僕たちトラックチームはほぼ全てのライダーの力を使い果たすつもりで全力で逃げを追いかけて、リッチーのためにウィランガのふもとまで全力牽引をするつもりだった。

それは登りの30㎞手前だったと思う。その日のレースで最も速い速度で走っている時だった。ティミーが僕たちに行った。「3分だ」と。

僕とリッチーは目を合わせ、「勝てない。彼らに近づくことすらできない」と僕は言った。そうしたらリッチーが僕に言った。「僕も前に出ようか」と。

僕はそれを拒んだ。「あなたのために全力を尽くす。だからあなたはそこで待機していてほしい」と。

そしてケルが全力を尽くした。サムが最後の力を振り絞って、ほぼ全ての逃げを捕まえた。あとはもう、「ウィランガの王」リッチーが飛び出すだけだった。

 

 

—―あなたはウィランガで唯一、リッチーに追い付くことのできたライダーでした。それをどのように成し遂げたのか、あなたの視点で語ってください。

 

僕は(総合を争っている)クリス・ハーパーやダーボ(ルーク・ダーブリッジ)がリッチーに食らいつくかどうか見守る必要があった。そして、彼らが何もできないことを悟ると、僕は彼らのことを気にせずにアタックできるチャンスを得たんだ。

でも僕が飛び出していくと、それをダーボが追いかけてきた。だから僕は「このギャップを維持しないといけない。そうしないと、彼はいつまでもついてきてしまうだろう」と。

だから、ええ、リッチーに追いついたのは偶然だった。それから彼はフィニッシュラインまで僕を導いてくれたんだ。

 

 

 

―—あなたはリッチーがフィニッシュするとき拍手をしていましたね。あなたはそのとき「いま彼の前に出れば僕はウィランガを勝つことができる」って少しでも思ったりしなかったんですか?

 

いや、まったく考えもしなかったね。僕らはその週のすべてにおいて、彼がこのステージで勝つために準備をしてきていた。だからそんなことは、起こりようがないんだ。彼はこの1週間、僕たちのために実にたくさんのことをしてくれていた。だから僕たちも最低限のことをしなくてはならない。

 

 

—―テレビの解説のマット・キーネン氏は次のように言っていましたね。あなたはこれまでのキャリアの中でとても沢山のフラストレーションの溜まる2位を経験してきただろうけれど、この日の2位は、とても幸せなそれだっただろう、と・・・。

 

この「2位」は、もうほとんど1位みたいなものだよね。いやもう、本当に記念すべき日だったよ。

最終日のクリテリウムでさえ、これまで経験してきたどのレースよりもエキサイティングだった。そのレースは、サムを勝たせるためにチーム一丸となったレースだった。

思うに、スプリントフィニッシュというのは、それが報われたときには、常によりエキサイティングな経験になるだろう。

 

 

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—―あなたは今年は「インフォーム・TMインサイトメイク*1」に所属しているようですね。この後のレースもこのチームで走る予定ですか?

 

うん、このさきの国内選手権も「ザ・ワーニー・フォー・インフォーム(レース名?)」もこのチームで走るつもりだよ。

で、そのあとはもし自分が運がよければ、できればワールドツアーチームに行って、そこでレースを走りたい。それが無理なら、このチームでナショナルロードシリーズ*2に出場することになるだろうね。

 

 

—―あなたはアデレードでの素晴らしい走りを経て、多くのワールドツアーチームから興味を持たれたのではないですか? それとももしかして、それよりも前から?

 

いや、それ以前はまったくなかったよ。第2ステージとウィランガのあとは、もう一気に変わったね。僕は正直、圧倒されていた。

僕はもちろん、ワールドツアーチームで走ることを夢見てきていたよ。でもまさか、彼らが僕に連絡をくれるなんて・・・信じられないよね。

 

 

—―どれくらいの数のワールドツアーチームがあなたに興味を持って連絡をくれたのか、教えていただくことはできますか?

 

うん、少なくとも5つのチームは真剣な連絡をくれた。それ以外にも、問い合わせレベルのものがいくつか。

 

 

—―一晩のうちに、ですか?

 

そう。たった一晩で、一気に世界が変わった。この2日間、電話がおかしくなりそうだよ。

 

 

—―今はどうなっていますか? それを整理してくれるマネージャーのような人はいますか?

 

そのすべてを僕に代わってやってくれているエージェントが一人。彼は僕に、どんな選択肢があって、どのチームが僕にメリットやデメリットをもたらしてくれるのかを、簡単に説明してくれた。

まずはとりあえず目の前の国内選手権だね。そこでの走り次第で、僕が行きたいと思えるチームと契約を結んで、東京オリンピックの後の計画を立てることができるようになるだろう。

 

 

—―あなたがどんなことを重視してチームを決めますか?

 

そのチームの「文化」かな。

お金は僕にとってそれほど重要ではない。それは長い長いキャリアの中で、どれだけよりよいチャンスを得られるかだと思っている。

だから、よりよい「文化」をもち、よりよい人が近くにいること。

あと、機材についてもこだわりたい。より良い機材があることは、僕にとっては結構重要だ。

最高の機材が用意され、そこで走る最高の選手たちから学ぶことこそが、僕にとっての夢なんだ。

 

ワールドツアーで走る選手たちの中で学び、彼らによって自分が成長できる環境にいられるようになることが楽しみだ。できればそこに、何人かのオーストラリア人選手がいてくれれば、理想的だな・・・。

 

 

—―あなたは自分をどんなライダーだと考えていますか? ワールドツアーの選手として、どんなレースに適性があると?

 

その質問を先週受けていたら、全く違った答えを出すことになっていたと思うよ。

今僕は、総合系のライダーとして走れるかどうかを見てみたいと思っている。そんなこと、以前だったら思いもしなかったことだろうね。でも体重をもう少し減らして、登りが十分こなせるようになれば、それは間違いなく魅力的な方向性だと思う。

僕にとっての最大の武器はTTだと思っている。それは僕の持つ最も中心的なものであり、それにより力を入れていきたいと思っているが、トラックでの経験も生かして、リードアウトトレインの一部になることもまた、望ましいことだと思っている。

 

僕はまた、ワンデークラシックレースや本当に厳しいレースを好んでもいる。

先週末の暑さなんかも、僕は好きだったな。周りのみんながそれで苦しんでいるのが見てとれたから。クラシックというのも、そういうものだと思っている。厳しい条件の中で実力を出し切ることのできた本当に強い男だけがそれに勝つことができる。

そうだね・・・やっぱりキャリアの最初の方はワンデーレースやクラシック、TTに焦点を当てていき、徐々に総合系の選手へと転向していくことができればいいなと思っている。

きっと僕は最強のクライマーになることはできない。でも、TTでいくらかタイムを挽回することのできる選手にはなれるかもしれないね。

 

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彼がワールドツアーチームのジャージを身に纏い、いくつかのステージレースの総合争いを繰り広げている姿を見ることは、決して遠い将来の話ではなさそうだ。

 

ルーク・プラップ。

今最も注目すべきオーストラリア人ライダーであり、かつ最も注目すべき若手選手の一人。

 

 

そんな彼の動向に、これからも注目し続けていこう。

 

 

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*1:オーストラリア籍のアマチュアチーム。

*2:オーストラリア国内で11月から12月の夏の期間に行われる国内ロードシリーズ戦。誤解を恐れずに言えば、Jプロツアーのようなもの。

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