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エトワール・ド・ベセージュ2021 プレビュー

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Class:ヨーロッパツアー 1クラス

Country:フランス

Region:ガール県(オクシタニー地域圏)

First edition:1971年

Editions:51回

Date:2/3(水)~2/7(日)

 

先週末のグランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズに続き、同じ南仏を舞台にしたシーズン最初の1クラス・ステージレースが開催される。

例年、マルセイエーズから始まる一連の南仏開幕レースシリーズの一端を担うレースではあるが、マルセイエーズ同様、今年は他のオーストラリア、南米、スペイン、中東の各種開幕レースが軒並み中止・延期になったことにより、有力チーム・選手が集結。

例年以上に注目度の高いレースとなった。

 

【参考】GPマルセイエーズのレースレポートはこちらから

note.com

 

マルセイエーズはトレンティンやコカールといった実績のある実力者たちを抑え、AG2Rの若手フレンチパンチャー、オウレリアン・パレパントルがプロ初勝利。

パレパントルは残念ながらこのベセージュには出場しないが、マルセイエーズで惜しくも3位になったブライアン・コカールや、積極的なアタックを繰り出していたサイモン・カー、ティム・ウェレンス、オドクリスティアン・エイキングなどは引き続き出場。

 

さらには、エガン・ベルナルゲラント・トーマスグレッグ・ファンアーヴェルマートヴィンツェンツォ・ニバリバウケ・モレマなどのビッグライダーたちが今シーズンの開幕戦としてこのレースを選択。

いきなり彼らが活躍するということは(GVA以外は)さすがにないだろうが、注目していきたい一戦である。

 

目次

 

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レースについて

エトワール・ド・ベセージュ、すなわち「ベセージュの星」を意味する名をもつこのレースは、その名の通りベセージュ(マルセイユ北西200㎞弱)を中心に南仏ガール県を巡る5日間のステージレースで、「ツール・デュ・ガール」の名でも売り出している。

この地域は世界遺産でもある「ポン・デュ・ガール(古代ローマ時代の大水道橋)」でも有名な地域で、昨年もその周辺を通るコースを走っていた。

 

全体的なレイアウトはシーズン序盤に相応しく、平坦が多めの難易度低いコース設計。10㎞程度の登り含む個人TTで勝敗が決することもままあり、本格的なクライマーというよりはパンチャーやオールラウンダーに有利なステージレースと言える。

 

直近の総合優勝者は以下の通り。

  • 2016年:ジェローム・コッペル
  • 2017年:リリアン・カルメジャーヌ
  • 2018年:トニー・ガロパン
  • 2019年:クリストフ・ラポート
  • 2020年:ブノワ・コヌフロワ

 

今年は実績だけで言えばゲラント・トーマスやミハウ・クフィアトコフスキ、マッズ・ピーダスン、アルベルト・ベッティオル、ティム・ウェレンスなんかが活躍しそうなものだが、果たして。

続いて、全5ステージのコース詳細を確認していく。

 

 

コースについて

第1ステージ ベルガルド〜ベルガルド 143.55㎞(平坦)

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最大標高71m、総獲得標高803m

スタート予定時間:21:10 フィニッシュ予想時間:24:52

※いずれも日本時間

 

断面図は分かりづらいが、最大標高が71mというところからもわかるように、実際は完全なる平坦に近いレイアウト。

残り41㎞付近に2級山岳「コート・ドゥ・ラ・ツール」が用意されているが、登坂距離600m・平均勾配6.3%程度の緩やかな登り。

逃げに乗った選手たちの中から、初日の山岳賞(すなわち1クラス以上のレースにおける最初の山岳賞)が決まることだろう。

 

ラスト1㎞は勾配5.5%程度の緩やかな登りスプリントフィニッシュ。

同じレイアウトを使用した昨年の第1ステージでは逃げ切りが決まったのか、グルパマFDJのアレクシス・ブルネルが後続に1秒差をつけて勝利している。

2位はブノワ・コヌフロワ。最終的に13秒差で総合2位になったアルベルト・ベッティオルはこの日だけで35秒を失っており、実は昨年の総合を最も左右したステージと言える。

なぜそんな波乱が巻き起こったのかはよく分からないが、今年はどうなるか。

 

 

第2ステージ サン=ジュニー〜ラ・カルメット 154.12㎞(平坦)

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最大標高202m、総獲得標高1,610m

スタート予定時間:20:50 フィニッシュ予想時間:24:41

※いずれも日本時間

 

序盤から細かなアップダウンが続き、第1ステージと比べれば獲得標高も大きくなっているが、やはりこの日も平坦というべきステージ。途中、2級山岳が2つと1級山岳が1つ用意されているため、山岳賞争いもより白熱することだろう。

フィニッシュは一応登りスプリントのように見えなくもないが、勾配はほとんどなくピュアスプリントによる決着も期待できるレベル。グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズでは悔しい敗北を味わったブライアン・コカールはリベンジを果たすことができるか。

 

 

第3ステージ ベセージュ〜ベセージュ 154.8㎞(丘陵)

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最大標高561m、総獲得標高3,053m

スタート予定時間:20:50 フィニッシュ予想時間:24:50

※いずれも日本時間

 

レース名の由来ともなっているベセージュの街を発着。かなり本格的な丘陵ステージで、昨年ほぼ同じレイアウトの中ではアルペシン・フェニックスのドリース・デボンが逃げ切り優勝。2位につけたのは2019年のツール・ド・ラヴニール総合5位のゲオルグ・ツィマーマン(今年はアンテルマルシェ・ワンティゴベール所属)で、2秒差をつけてマグナス・コルトニールセンを先頭にした大集団がフィニッシュした。

また、ゴール前7㎞地点に用意されたスプリントポイントが曲者。ボーナスタイムはあるんだっけ?あるとしたら、総合にも影響を及ぼしかねない存在だ。

 

 

第4ステージ ルソン~サン=シフレ 151.6㎞(丘陵)

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最大標高342m、総獲得標高2,107m

スタート予定時間:20:45 フィニッシュ予想時間:24:44

※いずれも日本時間

 

スタートからゴールまで、ひたすら小刻みなアップダウンが続くピュア丘陵ステージ。大きな分断が巻き起こることはないだろうが、それでも終盤にかけて、なんとかライバルたちを振り落としたいパンチャーたちが執拗なアタックを繰り出していく可能性はある。

そしてフィニッシュ。ラスト1㎞は平均で5~7%くらいはありそうな登りスプリント。第1ステージ以上に本格的な登れるスプリンター・パンチャーたちによる削り合いが繰り広げられそうだ。

 

 

第5ステージ アレス~アレス 10.71㎞(個人TT)

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最大標高279m、総獲得標高236m

スタート予定時間:20:45 フィニッシュ予想時間:24:42

※いずれも日本時間

 

最終日はエトワール・ド・ベセージュ名物の激坂登り個人TT。中間計測地点通過後からフィニッシュまでの2.5㎞の間、ひたすら登り続け、平均勾配は6%。

ただしその中腹が最も勾配が厳しく、10%を超える激坂区間となっている。

昨年はEFプロサイクリング(現EFエデュケーション・NIPPO)のアルベルト・ベッティオルが区間2位のマグナス・コルトニールセンを9秒上回っての優勝。そのときの記録は15分13秒。

ただ、最終的に総合優勝することになるブノワ・コヌフロワは27秒遅れ。第1ステージでベッティオルが彼から失ったタイムが35秒(+ボーナスタイムの6秒)だったために、残念ながら逆転には至らず。

一方で過去にはこのTTで総合優勝を決定づけた選手も多くいるため、非常に重要なステージであると言える。

 

 

注目選手

先日のGPマルセイユ同様、実に豪華な面々が出場する今大会。

注目はイネオス・グレナディアースのエガン・ベルナルやトレック・セガフレードのヴィンツェンツォ・ニバリ、AG2Rシトロエン・チームのグレッグ・ファンアーヴェルマートなどビッグレーサーたちであろう。

 

とはいえ、シーズン緒戦、とくにグランツールライダーのベルナルやトーマス、ニバリなどがいきなりこのレースで結果を出すとは正直、考えづらい。

先日のGPマルセイユでも錚々たるメンバーがそろった中で、勝ったのはまさかのプロ未勝利若手オウレリアン・パレパントルだった。

 

そういった観点を踏まえ、若手を中心に、以下、「あえて」の(でも割と結構本気な)注目選手を挙げていく。

※年齢表記はすべて2021/12/31時点のものとします。

 

 

ティム・ウェレンス(ロット・スーダル

ベルギー、30歳、パンチャー

Embed from Getty Images

昨年のツール・ド・フランスは開幕直前のトレーニング中の事故で欠場。悔しさを味わいながら出場したブエルタ・ア・エスパーニャでは区間2勝と、結果から見れば十分に成功したシーズンを過ごした逃げスペシャリスト。

ただ、その呼び名ももはや古い。ここ数年、彼はとくにこのシーズン序盤の山岳系ステージレースでも、好成績を残している。2018年のブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝、同年のパリ~ニース総合5位、2019年のブエルタ・ア・アンダルシア総合9位、2020年のヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合5位など。

今年はとくにスペイン・ポルトガルの開幕レースたちがない中で、彼にとってはイレギュラーなこの南仏の開幕レースを迎えているわけだが、先日のグランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズでは終盤に果敢にアタックを繰り出し、最終的にも6位と、かなりの好調ぶりを発揮。チームメートにはフィリップ・ジルベールやジョン・デゲンコルプなど有力勢が他にもいるものの、一番可能性をもつのはおそらくこのウェレンスとなるだろう。

コース自体も彼向きだ。獲得標高1,600~3,000m程度の丘陵地帯や登りスプリント、また最終日の激坂個人TTなど。あらゆる要素がこれまで彼が成績を出してきたレースのタイプに合致している。

今大会総合優勝最有力候補であると言えそうだ。

 

 

マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード

デンマーク、26歳

Embed from Getty Images

2019年のヨークシャー世界選手権で、「一体誰だ?」と驚きとともにその優勝を迎えられたデンマークの新星。

だが2020年の走りは、誰もが文句を言わせないほどに、世界王者に相応しい走りであった。

まずは1月のツアー・ダウンアンダー。リッチー・ポートの総合優勝のため、ときに中間スプリントポイントボーナスを潰し、ときに一度落ちても再び這い上がってくるほどのタフネスさで集団の先頭を牽引し続け、見事エースを表彰台の頂点に立たせた。

シーズン再開後はツール・ド・ポローニュはビンクバンクツアーでパスカル・アッカーマンを打ち倒し、ツール・ド・フランスでも最終日シャンゼリゼでまさかの2位。さらにはヘント~ウェヴェルヘムで、前年の世界選手権の再現であるかのように、マッテオ・トレンティンを下して見事クラシック初勝利を果たした。

今回のエトワール・ド・ベセージュは今シーズンの初参戦となる。しかしそこまで厳しすぎない登りスプリントややや起伏のある平坦ステージ、そして(激坂を含むとはいえ)個人TTが重要なステージレースという意味でも、彼の脚質・実績に合致した、総合優勝を狙えるステージレースであると言える。

もちろんチームメートにはヴィンツェンツォ・ニバリやバウケ・モレマなどの実力者が来てはいるものの、とくにニバリなんかは、この時期のレースでは全然本気を出すタイプでもない(むしろこの時期調子が悪い方がジロなどで成功するパターンの方が多い)。

よって、ピーダスンにも十分チャンスはあるだろう。せめてスプリントでは1勝しておきたいところ。

 

 

サイモン・カー(EFエデュケーション・NIPPO

イギリス、23歳

昨年はNIPPOデルコ・ワンプロヴァンスに所属していたネオプロ2年目。トレーニー時代の2019年にはジャパンカップにも来ている。

何といっても昨年の「オリンピック代表選考レース」プルエバ・ビリャフランカ・オルディシアコ・クラシカで中根含むチームのアシストを受けて見事優勝した男でもある。このレースの過去の優勝者はゴルカ・イサギレやサイモン・イェーツ、ロバート・パワーなどいずれもワールドツアーチームで活躍している選手たちばかり。2019年には石上優大が7位に入ったことで話題にもなった。

そんな彼が、先日のGPマルセイユでは、終盤の混戦の中残り16㎞から10㎞の間に形成された4名の逃げ集団の中に入り込むなど、実にアグレッシブな動きを披露。

最終的には24位ではあったが、9位に入ったジュリアン・エルファレスに次ぐチーム2番目の成績であった。

今回のエトワール・ド・ベセージュでは、昨年の総合2位アルベルト・ベッティオルや新加入のミケル・ヴァルグレンなど実力者が揃っており、あくまでもエースは彼らになるだろう。

それでもカーが持ち前の積極さでもってプロトンを脅かし、場合によっては(それこそ昨年の第1ステージで逃げ切り勝利し、最終的にも総合3位になったアレクシス・ブルネルのように)思いがけぬ勝利を狙っていってほしい。

 

 

イーサン・ヘイター(イネオス・グレナディアース

イギリス、23歳

Embed from Getty Images

エガン・ベルナル、ゲラント・トーマス、ミハウ・クフィアトコフスキなど、注目すべき選手が大量に揃っている今回のイネオスではあるが、その中であえて注目したいのがこの選手。

2019年のツール・ド・ラヴニールでチームメートのトム・ピドコックと共に前半のスプリントで活躍し1勝。同年のベイビー・ジロでも2勝していた、期待大の男だ。

昨年早速イネオスでプロデビューを果たしたわけだが、すでにジロ・デッラペンニーノで優勝するなど、早くも実績を積み上げている。

脚質はベン・スウィフトのようなパンチャー——場合によっては山岳アシストもこなせるタイプ——で、元トラックレーサーらしい独走力の高さも相まって、今大会では総合争いにおける「伏兵」になりうる選手だ。

少なくとも1勝はもぎとっても何らおかしくはない。十分に注目に値する男である。

 

 

ジョルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ

ベルギー、23歳

Embed from Getty Images

期待しかないこの「才能の塊」が、いきなり勝利を挙げてしまうなんてことはありうるか?

実際、昨年も同時期のヘラルドサン・ツアーで、同じSEGレーシングアカデミー出身のネオプロ、ケイデン・グローブス(現チーム・バイクエクスチェンジ)がいきなり2勝していたりする。この男にだって、できないことは全然ないはずだ。

ややピュアスプリンターには厳しいレイアウトの多いエトワール・ド・ベセージュではあるものの、U23ベルギー王者に輝き、グーイク・ペイル4位やU23版パリ~ツール2位などの実績を持つ彼であれば、多少の起伏くらいは難なくこなしてしまいそうだ。

ただ、現時点でもしかしたら今回のエトワール・ド・ベセージュ、パスカル・アッカーマンが出場するかもしれない、とは言われている。彼が出てきたらさすがにエースの座を譲らざるを得ないとは思われる・・・。

ただ、それでも期待したい。想像を超える走りをできるネオプロの1人であると、信じているから。

 

 

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