今年最初のワールドツアーレース。
舞台はアラブ首長国連邦。UAEチーム・エミレーツのお膝元であるこの地で開催される全7ステージのステージレースは、今年で3回目。
とはいえ、前身のドバイ・ツアーやアブダビ・ツアーの各レースの特徴をしっかりと取り込んだうえで発展し、集団スプリントステージと山頂フィニッシュ、そして個人タイムトライアルとがバランスよく設定されている。
かつ、中東マネーを利用して豪華な選手たちを招聘し、カメラワークもかなりクオリティが高いために、個人的に「第4のグランツール」と呼んでもいいくらいにお気に入りのレースである。
今年は初日に大波乱が巻き起こったものの、やはり激熱の展開が続く名レースとなった。
今回はそんなUAEツアー2021の全ステージを簡単に振り返っていきたいと思う。
目次
- 第1ステージ アル・ダフラ城〜アル・ミルファ 177㎞(平坦)
- 第2ステージ アル・フダリアット〜アル・フダリアット 13㎞(個人TT)
- 第3ステージ アル・アイン〜ジュベル・ハフィート 162㎞(山岳)
- 第4ステージ アル・マルジャン島~アル・マルジャン島 204㎞(平坦)
- 第5ステージ フジャイラ国際マリーンクラブ~ジュベルジャイス 170㎞(山岳)
- 第6ステージ ドバイ・ディラ島~パーム・ジュメイラ 166㎞(平坦)
- 第7ステージ ヤス・モール~アブダビ防波堤 147㎞(平坦)
- 最終総合成績
↓各ステージのより詳細なレースレポートはこちらから↓
スポンサーリンク
第1ステージ アル・ダフラ城〜アル・ミルファ 177㎞(平坦)
今年最初のワールドツアーレースは、初日から大波乱が巻き起こる。
0㎞アタックのタイミングからアダム・イェーツやマチュー・ファンデルポールが飛び出して集団が分裂したことも驚きだったが、これが残り150㎞地点で一度一つになったあとも動きは収まらず、残り110㎞地点で再び大分裂。
無数のエシェロンができあがる非常事態の中、最終的には26名の「先頭集団」が形成された。
その中にはタデイ・ポガチャル、アダム・イェーツ、ジョアン・アルメイダといった選手が含まれる一方、アレハンドロ・バルベルデ、ワウト・プールス、エマヌエル・ブッフマンといった選手たちは後続に取り残されており、初日から総合争いの権利がひどく限定される結果となってしまった。
そしてそれはスプリンターたちにとっても同様。
サム・ベネットやカレブ・ユアン、パスカル・アッカーマンといった優勝候補たちが軒並み不在の中、先頭集団に残ったスプリンターはフェルナンド・ガビリア、エリア・ヴィヴィアーニが一つ抜けている印象。
しかしそこに入り込んでいたのがマチュー・ファンデルポール。スタート直後から常に積極的に攻撃を繰り出していた彼が、ロイ・ヤンスとジャンニ・フェルメールシュといったアシストに守られながら、この日の勝利に向けてしっかりと足を貯めていた。
当然、彼の存在を危険視する他チームはラスト10㎞を過ぎてから搦め手の攻撃を仕掛けていく。
まずは残り9㎞でまさかのジョアン・アルメイダ自らアタック。これが捕まえられるとこんどは残り7㎞でファウスト・マスナダ、そしてさらに残り6㎞でマティア・カッタネオと、ドゥクーニンクの有力選手たちが波状攻撃を仕掛けていく。
だが、これを常に抑え込むのがUAEチーム・エミレーツとアルペシン・フェニックス。さらに、カッタネオが独走を開始して集団がなかなか捕まえられなくなると、今度は残り1.7㎞でフェルナンド・ガビリアが自らブリッジを仕掛けに行く。
昨年のジロ・デッラ・トスカーナも似たような勝ち方をしているガビリア。純粋な集団スプリントでは近年そこまで結果を出せていない中で、マチュー・ファンデルポールを出し抜くにはこの戦い方は確かに「有り」ではあった。
だが、これもガビリアを警戒するドゥクーニンク・クイックステップがペースを上げて残り800mで吸収。
アシストの数も十分な中、ミケル・モルコフで勝利を狙いに行く。
そしてモルコフの背後にエリア・ヴィヴィアーニ。
残り200mでモルコフの背中から飛び出したヴィヴィアーニだったが、フィニッシュに辿り着く前に失速。
そして、最後にこの背後にいたマチュー・ファンデルポールが、最も完璧な伸びを見せた。
ヴィヴィアーニは結局5位。最大のチャンスを生かし切れない格好に。今年もやはり、厳しいのか?
一方で強さを見せつけたのがネオプロのダヴィド・デッケル。
元SEGレーシングアカデミーの期待しかない新人が、ファビオ・ヤコブセンもディラン・フルーネウェーヘンも戦線離脱している今のうちに、新たな時代のオランダ人スプリンターとしての存在感を示していくことができるか。
第2ステージ アル・フダリアット〜アル・フダリアット 13㎞(個人TT)
この日のスタート直前に発表された、衝撃のアルペシン・フェニックス、新型コロナウイルス陽性者発覚による即時レースリタイアの報。
総合リーダー不在のまま迎えたUAEツアー初となる個人TTは、第1回大会の初日チームタイムトライアルで使用したフダリアット島の超平坦コース。
TTスペシャリストとしての能力が存分に発揮されるこの日、勝利したのは誰もが予想していた世界王者フィリッポ・ガンナであった。
一方、ここに食らいつく走りを見せたのがスイス人のシュテファン・ビッセガー。昨年のシーズン途中にEF入りをしたまだネオプロ「1年目」と言ってもよい選手。
元トラックレーサーで2019年にはツール・ド・ランで早くもプロ1勝を記録しており、同年のツール・ド・ラヴニールデハケイデン・グローブスを打ち破っての勝利も果たしている。
スプリンターとして、TTスペシャリストとして、これからも注目し続けていきたい選手だ。
そして総合争いにおいてはやはりスロベニアTT王者タデイ・ポガチャルと、昨年のジロ・デ・イタリアのTTでも総合系選手の中ではトップレベルの走りを見せていたジョアン・アルメイダが共に好調。
この日を終え、ファンデルポールが不在ということもあり、総合リーダーの座は「予定通り」ポガチャルのもとに。
ここにアルメイダが5秒差で食らいつき、TTが得意ではないアダム・イェーツは39秒遅れの総合5位に。
翌日のジュベルハフィート山頂フィニッシュでアダムはこの差を埋めることができるか?
第3ステージ アル・アイン〜ジュベル・ハフィート 162㎞(山岳)
アブダビツアー時代から定番のクイーンステージ。
アブダビ首長国郊外のジュベルハフィート山頂を目指す山頂フィニッシュステージだ。
昨年は第3・第5ステージと2回登場。第3ステージではアダム・イェーツが、第5ステージではタデイ・ポガチャルが勝利したが、最終的にはアダムが総合優勝を果たすことに。
今年はすでに個人TTでビハインドを抱えてしまっているアダム率いるイネオス・グレナディアーズが、ツール・ド・ラ・プロヴァンスでも見せていた強力な山岳アシスト体制でUAEチーム・エミレーツに対する攻撃を仕掛けることとなった。
↓ラ・プロヴァンスでのイネオスの山岳TTについては以下の記事を参考に↓
10㎞に渡る登坂の前半は総合リーダーを擁するUAEチーム・エミレーツが、ヤン・ポランツ、ラファウ・マイカ、そしてダヴィデ・フォルモロの強力アシスト体制で集団を牽引していく。
しかしこのアシスト陣は残り6㎞地点でフォルモロを残し崩壊。
最後のフォルモロもまた、このタイミングで先頭に飛び出したイネオス・グレナディアーズのダニエル・マルティネスによるペースアップで脱落。
ついでにジョアン・アルメイダもまた、昨年のジロ・デ・イタリアで献身的にアシストし続けてくれていたファウスト・マスナダを失うことになる。
集団の数も一気に絞り込まれていき、本来はマルティネスの背後に控え次の山岳アシストを担う予定だったイバン・ソーサも仕事をできないまま脱落してしまうくらい、マルティネスの牽引力は超強力。
このままイネオスが集団を支配したままこの日は終えるのか?
だが、残り5㎞地点で、集団からセップ・クスがアタック。
ユンボ・ヴィズマの最強山岳アシストとしてプリモシュ・ログリッチの昨年のツール・ド・フランス総合2位やブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を支え続けた男。
そんな彼がエースとしてやってきたこのUAEツアー。初日の大分断により早くも総合争いからは脱落してしまったものの、ここでステージ優勝を目指す強烈なアタックを繰り出した。
今大会最強格のクライマーといっていい彼の動きに、すかさずアダム・イェーツも飛び出さざるを得なかった。そしてタデイ・ポガチャルも。
ただ、ここでジョアン・アルメイダが遅れてしまう。
一度はアルメイダ含む後続に追い付かれたアダム、ポガチャル、クスは再び3名で抜け出しを図る。
さらに残り4.2㎞でアダム・イェーツがペースを上げると、ここでクスが脱落。先頭はアダムとポガチャルの2人だけになってしまった。
ひたすらダンシングで先頭を牽き続けるアダム・イェーツ。ポガチャルはその後ろで決して前に出ようとはせず、冷静にシッティングのままペダルを踏み続ける。
すでにアダム・イェーツとの間に39秒もの総合タイム差がついており、彼の実力を考えればポガチャルとしては危険を冒すわけにはいかない。
そのことがわかっているアダムもなんとか力でポガチャルを突き放すしかないものの、ポガチャルは決して離れない。
ラスト800mでアダム・イェーツが最後のアタック。しかしこれでもポガチャルは離れない。
残り500mでアダムとポガチャルとの間に小さなギャップが生まれる。しかしこれは、次の瞬間ポガチャルがアタックを仕掛けるための、「準備段階」であった。
そして繰り出されるトドメの一撃。2年前もアレハンドロ・バルベルデがこのタイミングでスプリントを開始し、プリモシュ・ログリッチを振り切った。
今回もフィニッシュ直前に連続するタイトコーナーをポガチャルが先行。アダムも必死で食らいつくが、その影を踏むのがやっと。
横に並び立つことすらできず、敗北を喫する。
5秒差の総合2位だった最大のライバル、アルメイダも突き放し、総合優勝に向けて盤石の体制を築いたポガチャル。
アダム・イェーツにとっても苦しい展開にはなったものの、チーム力においては確かにイネオスが一歩リードしており、今後のグランツールシーズンに向けては決して悪くない結果となった1日であった。
UAEチームはポガチャルが勝ったからいいものの、少し早すぎるアシストの脱落は、今年も大きな課題となりそうだ。
第4ステージ アル・マルジャン島~アル・マルジャン島 204㎞(平坦)
3日間にわたるアブダビ首長国での戦いを終え、プロトンは首長国連邦最北端に位置するラアス・アル=ハイマ首長国へ。
今大会2度目の平坦ステージ。とはいえ第1ステージは大混乱に陥ったため、純正集団スプリントが期待できるステージとしては1日目となる。
1日目同様横風に警戒し続ける集団の中で、スタートから距離の半分が過ぎてもなお形成されなかった逃げ集団。ようやく残り85㎞地点で2人の逃げが生まれるものの、これも残り26㎞地点であえなく吸収されてしまった。
そして4ステージ目にしていよいよ巻き起こる大集団スプリント。
まず先行したのがパスカル・アッカーマン率いるボーラ・ハンスグローエ。かつてツアー・オブ・ジャパン東京ステージで優勝しているエストニア人のマーティン・ラースがリードアウトし、残り200mでアッカーマンを発射。
だが、アッカーマンはやや早すぎた。この動きを見て、冷静に一歩遅れて左手からスプリントを開始したのがサム・ベネットだった。
最大のライバルであるカレブ・ユアンもほぼ同時に右手からスプリントを開始するも、ベネットのリードアウトを務めていたミケル・モルコフが下がってくるのに遮られ、失速。
そうなれば、この重戦車の走りを止められるものは存在しない。
サム・ベネット。2021シーズン初勝利を果たした。
そして、残り200m時点で前から10番目程度の位置にいたはずのダヴィド・デッケルが、サム・ベネットのスリップストリームを利用して一気に加速し、2位に飛び込んできたのは実に凄い。
第1ステージはそもそも混戦の中だったため、その2位も「あり」化と思っていたが、この日のように純粋なトップスプリンターたちによる共演が巻き起こっている中で掴み取る2位は別格である。
この男が「ホンモノ」であることを何よりも如実に示すリザルトであった。
第5ステージ フジャイラ国際マリーンクラブ~ジュベルジャイス 170㎞(山岳)
大会2度目の、そして最後の山頂フィニッシュ。総合争いは実質ここで決着がつく予定だ。
ジュベルジャイスはラアス・アル=ハイマ首長国最北端、オマーンとの国境沿いに位置する首長国連邦最大標高の登り。
20㎞に及ぶ超長距離登坂で、9名の逃げ集団からアスタナ・プレミアテックのアレクセイ・ルツェンコが独走を開始した。
昨年のツール・ド・フランスでも山岳ステージでの逃げ切り勝利を経験しているこのエスケープスペシャリストが、この日も大きな勝利を掲げることができるか。
一方、メイン集団でもジュベルジャイスの長い長い登りを開始。残り15㎞から集団の先頭を牽引し始めたのがイネオス・グレナディアーズのネオプロ2年目、ブランドン・リベラ。
ツール・ド・ラ・プロヴァンスでも同じネオプロ2年目のカルロス・ロドリゲスが非常に強力な牽引を見せていたが、この日はこのリベラが力を発揮することとなった。
残り4.6㎞でパトリック・コンラッドのアタックによって集団のペースが上がるとリベラも振るい落とされるが、代わってダニエル・マルティネスが先頭に。再びペースが上がった集団の中から、クリス・フルームが力なく崩れ落ちていく。
そして残り3㎞手前からヴィンツェンツォ・ニバリがアタック。ここに昨年のジロ・デ・イタリア1週目で総合上位に入り込み頑張っていたロット・スーダルのハーム・ファンフック、そしてセルジオ・イギータなどがブリッジを仕掛け、4名の小集団が形成。
だが残り1.8㎞で総合3位ジョアン・アルメイダが一気に加速を開始。当然集団もこれを逃がすわけにはいかず一気にペースを上げ、ニバリたちをいとも簡単に追い抜いていく。
絞り込まれ、伸び切ったこのメイン集団の先から飛び出したのはユンボ・ヴィズマ。
ただし、セップ・クスでも、総合4位のクリス・ハーパーでもない。
ヨナス・ヴィンゲゴー。2年前のツール・ド・ポローニュで区間優勝し、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでもログリッチを支える強力な山岳アシストとして覚醒した若きデンマーク人。
一気に集団とのギャップを開いたヴィンゲゴーは、そこまで粘り続けていた先頭のアレクセイ・ルツェンコにあっという間に追いつき、そして残り250mでこれを突き放した。
逃げ続けていたルツェンコが彼に追い付くことなどできず、ヴィンゲゴーは先日のニュージーランド国内選手権でのジョージ・ベネットに続く2勝目をチームにもたらした。
そして総合争いではポガチャルが最後イェーツにスプリントで先行。
タイム差はつけられなかったが、ボーナスタイム分の2秒をさらにつけることに成功した。
これにて総合争いは実質的に終了。
第1ステージのような横風分断にはもちろん注意していかなくてはならないものの、基本的にはポガチャルが総合優勝をほぼ確実なものとすることに成功した。
第6ステージ ドバイ・ディラ島~パーム・ジュメイラ 166㎞(平坦)
今年のUAEツアーで唯一登場するドバイ首長国のステージは、その中心部に位置するお馴染みの人工島パーム・ジュメイラでのスプリントフィニッシュ。
例年お馴染みの激坂フィニッシュ「ハッタ・ダム」が登場しないのは残念ではあるが、今大会2度目の大集団スプリントが期待通り繰り広げられる。
ツール・ド・ラ・プロヴァンス最終日にもステージ4位。このUAEツアーの第4ステージでも世界最高峰のスプリンターたちを相手取っての5位など、かなり調子の良さを見せていたマッテオ・モスケッティが、この日は集団落車に巻き込まれて残念ながらリタイア。
また残り72㎞地点で横風分断作戦が巻き起こり約30名のライダーがメイン集団から30秒遅れで後方に取り残されるという事態も。
しかしこれも残り50㎞地点で解消。残り25㎞地点で逃げはすべて吸収され、その後単独で抜け出したアスタナのドミトリー・グルズデフもラスト10㎞を前にして捕まり、結果的には何の問題もなく集団スプリントへ。
この日は、カレブ・ユアンが相変わらず課題であり続けているポジション取りで大失敗。何とか彼を安全な集団先頭に牽き上げてくれるアシストが入れればよいのだが。
一方、相変わらず最強のアシストを提供したのがドゥクーニンク・クイックステップのミケル・モルコフ。先行したボーラ・ハンスグローエのアシストの背後についたモルコフがそのままペースアップすると、ライバルチームたちは誰もこれに並ぶことができない。
そして残り150m。周囲に誰もいない先頭空間をモルコフに提供されたサム・ベネットは、誰に阻まれることもなく必勝のスプリントを開始。
今年もこの最強リードアウターは冴え渡っていることを証明して見せた。
一方、ベネットの背後という最高のポジションを手に入れていたダヴィド・デッケルがフィニッシュに到達するより前に、その背後にいたエリア・ヴィヴィアーニが復活を感じさせる強力な加速で2位に入り込んだ。
昨年新チームに移籍以降、恐ろしいほどに全くリザルトを残せずにいたヴィヴィアーニ。この2位は、再び彼が力を示し始めるための「反撃の狼煙」となるか。
第7ステージ ヤス・モール~アブダビ防波堤 147㎞(平坦)
最終日はアブダビ首長国の中心地、ヤス・マリーナ・サーキットなどを含むヤス島を中心とした平坦コースである。
ポイント賞を巡る争いにおいては、第1ステージから上位入賞を繰り返すとともに中間スプリントポイントでのポイント収集にも積極的だったダヴィド・デッケルが首位。
ただし、まだこれを追うサム・ベネットとのポイント差は十分ではなく、この日のフィニッシュの状況次第では逆転の可能性もあった。
そのため、42.6㎞地点の最初の中間スプリントポイントでは逃げ3名に続く4位で通過し、1ポイントを収集。さらにラスト18㎞地点の第2中間スプリントポイントではしっかりと先頭通過を果たし、ポイント賞を確定させた。
なお、この第2中間スプリントポイントでは総合順位を上げる可能性を求めて総合5位のニールソン・ポーレスがアタックするも、これを2秒差で上回る総合4位クリス・ハーパーがチームの助けを借りてポーレスを上回る2位通過。最後のポーレスのチャレンジは失敗に終わった。
その他、ジョアン・アルメイダが後続に取り残される横風分断や、総合2位アダム・イェーツの落車などアクシデントはいくつか生まれるものの、そのすべてが解消された状態で最後の集団スプリントへと突入していく。
この日は、前日の反省を活かしてか、ロット・スーダルがしっかりとカレブ・ユアンを引き連れてラスト500mの時点で集団先頭に。
だがその直後に2枚のアシストが共に足をなくし、ユアンは一度集団の中に飲み込まれてしまう。
だが、ここで集団の右手からモルコフがベネットを引き連れて加速。この加速が強すぎて、ベネットの後ろについていた選手との間にギャップが生まれる。
これが、行く手を阻まれていたユアンにとって、可能性へとつながる小さくも大きなチャンスであった。
残り100m。
ベネットがモルコフの背中からスプリントを開始。これは完璧なタイミングのはずだった。
しかし一方のユアンも、同じタイミングでベネットの背後からスプリントを開始できていた。モルコフもさすがにこの動きは読めておらず、ベネットの左手から上がってくる他のライバルたちを妨害するような形で落ちていくことはできても、右からくるユアンを遮ることはできなかった。
すなわち、残り100mからの、ベネットvsユアンのガチンコ勝負。
昨年のツール・ド・フランスでも、アシスト込みではドゥクーニンク・クイックステップに軍配が上がりつつも、個人の力ではユアンが最強だったのでは、と感じていた。
そしてこの日、この、エーススプリンター同士の正真正銘の直接対決は、まさにこのカレブ・ユアンに軍配が上がることになった。
最終総合成績
ジュベルハフィートでの一騎打ちを制し、TTでも強さを見せつけたタデイ・ポガチャルが危なげなく総合優勝。
一方のイェーツもTTでこそ大きなビハインドを背負うことにはなりつつも、チーム力という点では一つ抜けており、決して悪くない結果となった。
第1ステージでの恐るべき集団分裂はありつつも、表彰台だけみれば決して予想外ではない決着となった。
ただそんな中で少し驚くべき成績を残したのが総合6位のマティアス・スケルモース。
これまでは決して目を瞠るような成績はなく、ジュニア版パリ~ルーベで3位を経験したことがあるくらいか。TT能力も高く、それが今回のこの総合上位入りに貢献したのは間違いなさそうだが、それでもあの2つの山頂フィニッシュを乗り越えてこの位置にいるのはやはり驚くべきことである。
彼もまた、ヨナス・ヴィンゲゴーと同じく若きデンマーク人。
やはり、今、若手デンマーク人がひたすらに熱いのか。
この名前は今後も少し覚えておいて損はなさそうだ。
かくして、今年最初のワールドツアーレースが終わりを迎える。
波乱は数多くあったものの、今年のグランツールを見据えて参考になるレースが繰り広げられる期待通りの1週間だったように思う。
スポンサーリンク