読み:チーム・ディーエスエム
国籍:ドイツ
略号:DSM
創設年:2005年
GM:イワン・スペケンブリンク(オランダ)
使用機材:スコット(スイス)
2020年UCIチームランキング:5位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Team Sunweb 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Team Sunweb 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Team Sunweb 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
マルセル・キッテル、ジョン・デゲンコルプ、ワレン・バルギル、トム・デュムラン、マイケル・マシューズ、そして直近のマルク・ヒルシ・・・このチームの中心であり続けてきた名選手たちが次々と離脱する流れは今年も止まらず。とくに今年は昨年の獲得UCIポイント上位1位・2位・4位(それぞれヒルシ、ケルデルマン、マシューズ)が抜けるという事態となり、合計で3,780ポイントも失ってしまうことに。
しかしそう考えると逆に、昨年このチームが獲得した合計UCIポイントがいかに大きかったかを思い知らされる。昨年冒頭に書いた記事では、全ワールドツアーチーム中下から2番目(人数で割った平均値では再開)のチームだったというのに・・・。
上記記事では、各チームの合計値を「平均年齢」で割った数字でもランキングしており、すると先ほどは最下位級だったこのチームが、真ん中近くまで浮上している。
すなわち、「確かに前年獲得ポイントだけ見れば最下位級のチームだが、ポテンシャルは非常に高い」という評価だったわけだが、2020年シーズンはまさにその見立てが現実のものとなったシーズンだった。ヒルシ、ヒンドレー、クラーウアナスンといった分かりやすい成功だけでなく、エークホフ、ボル、ダイネーゼといった派手さは少ないが確実にその強さを示して見せた若手たちも多く登場していた。
そして、2021年もそんな「期待の新人」が。とくにドイツの新星マルコ・ブレンナーは、ボーラ・ハンスグローエとの獲得競争を制しての加入であり、このチームでのプロデビューというのは本当に楽しみになる。
たしかにベテランに厳しいチームなのかもしれない。これからもその波は止まらないかもしれない。
それでも、2020年最もワクワクさせてくれたチームの1つであることは間違いなく、それはこのチームの哲学だからこそ成し得たことなのは間違いない。
今年も期待して見守っていこう。
注目選手
ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア、27歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- ジロ・デ・イタリア区間1勝・総合2位
- ヘラルドサン・ツアー総合優勝
- UCI世界ランキング22位
2017年のツアー・ダウンアンダーでUniSAオーストラリア、すなわち実質的なオーストラリアナショナルチームの一員として出場。さらにその後のヘラルドサン・ツアーでも、同じくオーストラリアナショナルチームメンバーとして出場し、総合2位(新人賞1位)に輝いた。ちなみにこのとき同じくナショナルチームに参加していたのが、マイケル・ストーラーやルーカス・ハミルトンであり、ヘラルドサン・ツアー2017の新人賞TOP3はこの3人によって占められた。
その2017年の途中から実はミッチェルトン・スコットに正式加入。そのままU23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)に出場し、総合優勝は現イネオスのパヴェル・シヴァコフが攫うものの、そこに次ぐ総合2位を同じくミッチェルトン・スコット入りしたルーカス・ハミルトン、総合3位をこのヒンドレーが獲っていた。エガン・ベルナルが総合優勝したその年のツール・ド・ラヴニールでも総合10位に入っており、若手の期待株の1人であることは間違いなかった。
そんな彼が、2018年にはミッチェルトン・スコットではなくチーム・サンウェブに。ただ、その頃からサンウェブはストーラーや同じくUniSAでのダウンアンダー出場経験のあるクリス・ハミルトンなど、若手オーストラリア人の獲得に力を入れており、ミッチェルトン・スコットに次ぐオージー若手戦力が集まるチームであった。
それでも、その後のヒンドレーは一旦、「停滞期」に入る。初出場のグランツールである2018年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合32位など悪くない結果は出すものの、「実力はあるけど」な選手という印象で止まっていた。
そんな彼が、2020年のヘラルドサン・ツアーで、ロバート・パワーやマイケル・ストーラーら同じオーストラリアの若手たちのアシストを受けながら、見事総合優勝。
それでもヘラルドサン・ツアーだし・・・といった中で、誰もが驚く走りを見せたジロ・デ・イタリア。
それまで、丘陵系と言ってもいいツール・ド・ポローニュ以外のワールドツアー・ステージレースでは一度も総合TOP10入りを果たしたことのない男のいきなりのこの成績だから、誰もそれを想像できていなかったとしても何らおかしくはない。
(なお、Pro Cycling StatsのGameにおける予想では、総合TOP10にゲイガンハートやヒンドレーが入ると予想できた人は一人もいなかったという・・・エリア・ヴィヴィアーニですら1票入っていたというのに!笑)
だからこそ、今年の走りが真に重要になる。これが奇跡で終わるのか、次につながるのか。主役が次々と去っていくこのチームでの、真の主役となってほしい。
セーアンクラーウ・アナスン(デンマーク、29歳)
脚質:ルーラー
2020年の主な戦績
- ツール・ド・フランス区間2勝
- パリ~ニース区間1勝(ITT)、総合10位
- ビンクバンク・ツアー区間1勝(ITT)、総合2位
- オンループ・ヘットニュースブラッド3位
- UCI世界ランキング33位
非常に不思議な脚質をもつ選手。身長178cmに対して体重73kgと軽量級とは言えない身体つきに、今年のパリ~ニースやビンクバンク・ツアーのTTステージでも勝利するTT力の高さは典型的なルーラータイプのようにも思える。
しかし昔からトレンティンやモズコンを下すこともある登りスプリント適性はパンチャータイプと言うべきものであるし、昨年のパリ~ニースに至っては、典型的な山岳ステージであった第5ステージの登りでロマン・バルデすら突き放すほどの登坂力も見せており、そこだけ見れば間違いなくクライマーであった(まあ、このときはニキアス・アルントなんかもガンガン山を登っていたのでサンウェブ自体がおかしかったと言えなくもないが)。
そして2018年のパリ~ニースでニキ・テルプストラとブノワ・コヌフロワを置き去りにして逃げ切ったときの、2020年のツール・ド・フランス第14ステージで残り4.2㎞からの平坦路を単独で飛び出し、ペテル・サガンやコフィディスのトレインが追いかける中タイム差を15秒にまで広げたときの、驚異の独走力。
どんな走り方をするのか予想がつかない不思議な男。エースともアシストも言えないその走り方が、今年はどんなミラクルを起こすのだろうか。
ロマン・バルデ(フランス、31歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合6位
- ツール・ド・オー・ヴァル総合2位
- パリ~ツール7位
- UCI世界ランキング94位
AG2Rを象徴するような存在。ジャン=クリストフ・ペローが去ったあとのこのチームはほぼバルデを中心に回っていたと言ってもよかった。そんな彼の、まさかの離脱。そして選んだチームがこのチームだというのも、驚きだった。
その話がきたとき最初に思ったのは、やはりバルデはグランツールを、あるいはステージレースすら、諦めるのだろうか、という思いだった。
実際、2018年のストラーデ・ビアンケ2位を皮切りに、同年のリエージュ~バストーニュ~リエージュ3位、 インスブルック世界選手権ロードレース3位といった明らかなワンデーレース路線への突入。
2020年に至っては、「北のクラシック化」が進んでいたはずのパリ~ツールで7位。そしてロンド・ファン・フラーンデレンでもオリバー・ナーセンのためのアシストをこなしつつ25位でフィニッシュするという、単純なワンデータイプクライマーの殻すら破りかねない「活躍」を見せていた。
このバルデの「変化」は彼自身も意識的にやっているようだ。シクロクロスへの挑戦、ジロ・デ・イタリアへの挑戦、あるいはツアー・ダウンアンダーへの挑戦などと合わせて・・・
その変化への挑戦が、即座にうまくいっているとは、もちろん言えない。
しかし今回のこのチームへの移籍もまた、そんな彼の「挑戦」の1つであることは間違いないだろう。
彼は決して「終わって」などいない。この若手が活躍する新たな居場所で、彼は彼なりの新しい30代の走りを見つけていってほしい。
その他注目選手
ティシュ・ベノート(ベルギー、27歳)
脚質:ルーラー
クラーウアナスンと並び、脚質がわからない男。 2015年のプロデビュー初年度にロンド・ファン・フラーンデレンで5位をいきなり獲ったときには、誰もが彼が新たな時代の北のクラシックスペシャリストになるだろうと期待していた。
しかしそのあとの彼は長い無勝の時を経てストラーデ・ビアンケで待望のプロ初勝利。さらに2020年には、パリ~ツールでの総合2位。
ツール・ド・スイスでの総合4位も経験した。かと思えば、クライマーというよりはピュアパンチャー向きなブルターニュ・クラシックで2位。2021年はどんな走りを見せてくれるのか、全く想像がつかない。
ニルス・エークホフ(オランダ、23歳)
脚質:パンチャー
「幻の2019シーズンU23世界王者」。しかし2020年の彼の活躍は、本来の王者たるサミュエーレ・バティステッラ以上のものであったことは間違いない。
その活躍の際たるものは、8月15日のドワースドール・ヘット・ハヘラントでの2位と、ブルターニュ・クラシックのマイケル・マシューズの勝利を導いた完璧なアシスト。いずれも以下の記事において詳しく解説している。
結果として、ネオプロでありながら、UCI世界ランキング121位。チーム内でも5番目のUCIポイント獲得者となった。
2021年も最も注目すべき若手の一人。個人的には、いきなりツール・ド・フランスの山岳ステージで逃げ切り勝利してしまっていてもおかしくないタイプの男だと思っている。
ケース・ボル(オランダ、26歳)
脚質:スプリンター
個人的に2020年、マルク・ヒルシと並んで覚醒する男だと確信していた。
元SEGレーシングアカデミー。プロデビュー初年度となる2019年、ノケレ・コールスでのパスカル・アッカーマンを倒しての優勝と、ツアー・オブ・カリフォルニア第7ステージでのモルコフやサガンが発射台の力を借りて風を避けながら加速するのに対し、ただ一人真正面から風を受けながら単独で突き抜けてそのすべての強豪たちをねじ伏せるという実に強い勝ち方を見せていた。
結果から言えば、マルク・ヒルシほどの大活躍は見せられなかったものの、プロ2年目としては十分に強すぎる走りだった。とくにツール・ド・フランスの第1週では、「サンウェブ劇場」の第一幕を見事演じて見せた。すなわち、完璧なリードアウトからの発射での、3位・7位・2位。
ただ、まだまだそこは若さなのか。世界最高峰の舞台で、位置取りに苦心する場面が見受けられた。そして2週目・3週目と、チーム自体も1週目ほどの支配的なトレインを見せることができなくなっていった(代わりにヒルシとクラーウアナスンが3勝をもぎ取ってしまうわけだが・・・)
逆に言えば、彼はまだ伸びしろを残している。今年はフルーネウェーヘンは5月までサスペンドで、そこからも彼本来の走りを取り戻せるかは甚だ不明であり、また彼に匹敵する才覚を見せつつあったファビオ・ヤコブセンも、今年はさすがに療養のシーズンとなることだろう。
となれば、2021年の「オランダ最強スプリンター」の座は彼の元に転がり込んでくるかもしれない。今年こそ、その実力を100%発揮してみせよ!
総評
大きな流出もあり、今年も決して「最強」ではない。
今年はジロ総合2位を獲ったとはいえ、ヒンドレーが本当に世界トップクラスのグランツールライダーであると証明するには今年の走り次第である。バルデもグランツールライダーをあきらめたわけでは決してないだろうが、それでも過分な期待は寄せない方が良い。
スプリントも北のクラシックもアルデンヌも、期待したい「才能」は溢れている。正直、何が起きるかは全然分からないので、蓋を開けてみればモニュメントすら獲っていてもおかしくはないチームではある。
それでも今年もやはり最も最初から期待できるのは山岳逃げか。今回は紹介しなかったがブエルタ・ア・エスパーニャでは2019年ツール・ド・ラヴニール総合2位のテイメン・アレンスマンがアグレッシブな走りを見せていたし、マーク・ドノヴァンや「期待の新鋭」マルコ・ブレンナーも逃げで強さを見せてくれそうな選手たち。
いずれにせよ、今年もまた、予想を覆す大活躍を期待したい。
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