読み:チーム・ユンボ・ヴィスマ
国籍:オランダ
略号:TJV
創設年:1984年
GM:リチャード・ブルッヘ(オランダ)
使用機材:ビアンキ(カナダ)
2020年UCIチームランキング:1位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Team LottoNL-Jumbo 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Team Jumbo-Visma 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Team Jumbo-Visma 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
2020シーズン最強の一角であったこのチームだが、今年もその布陣にほぼ影響なし。そのうえでオラフ・クーイやダヴィド・デッカー、サム・オーメンなど、若手も含めた新戦力も十分に期待ができるため、今年も全く、隙が無い。
今年はさらなる高みを目標にしていきたい。プリモシュ・ログリッチのツール・ド・フランス制覇、ワウト・ファンアールトのロンド・ファン・フラーンデレンorパリ~ルーベ制覇など。
昨年は十分発揮しきれなかった才能も眠っている。そろそろトム・デュムランが再覚醒してもよい頃合いだろうし、ログリッチと共に年間2つのグランツールを獲る勢いであってほしい。ジョージ・ベネットも昨年はイル・ロンバルディア制覇まであと一歩であったため、その一歩を、今年に期待したい。
そして、昨年は最強アシストとして成長したセップ・クスの、エースとしての活躍の可能性もありうるかもしれない。
イネオスと並びエース候補が多すぎて困るという贅沢な悩みに陥りかけているチームだが、マネジメントも含め、うまく回っていくことを期待している。
注目選手
プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、32歳)
脚質:オールラウンダー
2020年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間4賞・総合優勝・ポイント賞
- ツール・ド・フランス区間1勝・総合2位
- リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝
- 世界選手権ロードレース6位
- ツール・ド・ラン総合優勝
- UCI世界ランキング1位
2016年に遅めのプロデビューを果たしてからの6年で、実に素晴らしい成績である。ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2連覇。リエージュ~バストーニュ~リエージュ制覇。
そして、ツール・ド・フランス制覇も、もう本当に目の前にまで迫っていた。彼自身も、チームも、決して何かを間違えたわけではなかった。ただただ、より若いスロベニアの才能が、ひたすらに強かっただけである。
ゆえに、今年もログリッチは目標をぶらさない。すでにパリ~ニース、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネと、ツール・ド・フランス前哨戦2レースの出場を決めており、チームとしても完全に彼のツール制覇をバックアップしている。そして今年のツールは彼の得意な個人タイムトライアルが久々に長いツールとなり、可能性は十分にある。
UCI世界ランキングでも2年連続の2位となり、名実ともに「世界最強」。
とはいえ若手の才能が次から次へと台頭してくる中、残されたチャンスは決して多くない。今年の走りは、非常に重要だ。
ワウト・ファンアールト(ベルギー、28歳)
脚質:オールラウンダー
2020年の主な戦績
- ミラノ~サンレモ優勝
- ストラーデビアンケ優勝
- 世界選手権ロードレース2位
- 世界選手権個人タイムトライアル2位
- ロンド・ファン・フラーンデレン2位
- ツール・ド・フランス区間2勝
- UCI世界ランキング3位
この男の走りには毎年驚かされているが、2020年はその最たるものであった。そもそも、昨年のツール・ド・フランスで選手生命すら危ぶまれるような怪我を負っていた中での、この成績である。
まずはストラーデ・ビアンケと1週間後のミラノ~サンレモ制覇。これは、前年にジュリアン・アラフィリップが成し遂げていた快挙であり、それに続く、そしてそのアラフィリップを打ち破っての実現であった。
そしてツール・ド・フランスにおける、集団スプリントを制しての区間2勝。1週目で2勝している選手は彼だけであり、スプリントにおいても世界最強クラスであることを明確に示した。
それでいて同じツール・ド・フランスで、トム・デュムランすら引き千切るような山岳アシストぶりを披露。第15ステージの超級山岳グラン・コロンビエでは、勾配の厳しい登りの半分近くをほぼ一人で牽き倒し、多くの有力勢を置き去りにした。その走りはクライマーと形容しても何らおかしくない走りであった。
そして世界選手権ロードでは駆け引きで負けジュリアン・アラフィリップにアルカンシェルを奪われるものの、スプリントの圧倒ぶりは群を抜いており、誰も追随を許さないままに銀メダルを獲得。
最終戦ロンド・ファン・フラーンデレンでは最後はスプリントで惜しくも敗れたものの、途中、マチュー・ファンデルポールとジュリアン・アラフィリップが抜け出したとき、一体どうやってあの集団から一人で抜け出して先頭の2人に追い付いたのか。その判断力と実力の高さは想像を絶するものであった。
これでパリ~ルーベがあったら・・・と思わなくもないが、そこは今年に期待したい。
なお、現在シクロクロスでも絶好調。マチュー・ファンデルポールを相手取ってすでに2勝しており、ベルギー国内選手権では久々のタイトル奪還を成し遂げた。
彼がベルギー王者になった年は世界選手権も制しているというジンクスがあり、実際、ここ2年は明らかに不調だった彼が、今年はマチューを倒して世界王者になったときの好調ぶりを取り戻しているように見えるため、ベルギー代表のチーム力を存分に生かすことができれば、自身4度目のアルカンシェルを掴み取る可能性は十分にあるように思われる。
シクロクロスの方もぜひ、注目していただきたい。
最近、お子さんも生まれたということで、公私ともに充実しつつあるワウト・ファンアールト。
もちろん、いいことばかりではなく、彼自身が危惧しているように、良すぎたシーズンの次は苦しいシーズンが待ち受けているものである。
だが、すでに上記の記事でも紹介しているように、彼はこれまでも幾度となく苦難に直面してきた。
そしてその都度、より強さを増して復活してきたのもまた、彼である。
これからもまだまだ、期待していきたい。
ジョージ・ベネット(ニュージーランド、31歳)
脚質:クライマー
2020年の主な戦績
- イル・ロンバルディア2位
- グラン・ピエモンテ優勝
- ブエルタ・ア・ブルゴス総合5位
- ツール・ド・ラン総合5位
- ツアー・ダウンアンダー8位
- ブエルタ・ア・エスパーニャ総合12位
- UCI世界ランキング26位
ペテル・サガンやナイロ・キンタナと同じ1990年生まれの「黄金世代」。
2016年にはブエルタ・ア・エスパーニャ総合10位に入るなどしていたものの、当時の個人的な印象は「また有望な若手が出てきたな」といったぼんやりとしたものくらいで、固有名詞として意識したことはあまりなかった。
それでも翌年のツアー・オブ・カリフォルニアで総合優勝をしたときは、さすがに強い印象を残した。
何しろ、その前年の(2016年の)カリフォルニアでは、20㎞個人TTで総合3位から総合7位に沈んでおり、「TTは弱い」というイメージがあったのに対し、この2017年は24㎞のTTで区間4位。
ラファウ・マイカから6秒のビハインドを抱えていた総合順位を見事逆転して総合優勝を果たしたのである。
その後は2018年のジロ・デ・イタリア総合8位、2019年のパリ~ニース総合6位などそれなりの活躍を見せていくことになるが、一方で2017年当時はステフェン・クライスヴァイクしかいなかったはずの総合ライバルにプリモシュ・ログリッチ、トム・デュムランなど強豪が続々と合流。
アシストとしては類稀なる走りを見せるものの、エースとしてのチャンスは徐々に失われていく、そんな状況にも陥っていた。
それでも2020年はシーズン再開直後にブエルタ・ア・ブルゴス総合5位などで調子の良さを見せ、ツール・ド・ラン終了後に一旦、ログリッチたちの主流メンバーから離脱。イル・ロンバルディア前哨戦グラン・ピエモンテで見事優勝した勢いをそのままに単独エースでイル・ロンバルディアに臨み、最後はアスタナのコンビネーションに敗れるも、2位という大きなリザルトを残した。
結果として、キャリア最高の成績を収めることとなった2020年。その実績から言えば、チーム随一の選手の1人となったわけだ。
この成績を携えて、今年彼はどんな走りを許され、どんな成果を持ち帰ることになるのだろうか。
現契約は2021年末まで。場合によってはチームを離れる可能性もありそうな中で、今年の走りは注目に値するだろう。
その他注目選手
トム・デュムラン(オランダ、31歳)
脚質:オールラウンダー
驚きをもって迎えられた2020年シーズンは、比較的「大人しく」終えることとなった。危惧されていた「ちゃんとアシストするのか問題」は、むしろデュムラン自身の調子が上がり切らない中で、何の問題も発生することなく、粛々と決着がつくこととなった。
ただ、やはり2015年のあのブエルタを見て、2017年のジロ制覇を見て、2018年のジロ・ツール「ダブル総合2位」を見てきた者としては、彼が本来の力を取り戻し、ログリッチと共にグランツールの頂点を獲り合うような姿を見てみたくはある。
かつて、ツールのTTが少なくなっていくことを嘆き、ジロを愛する発言をしていた彼にとって、2021年のツールは理想的なコース設定であるとも言える。実際、今のところ彼もログリッチと同じくツールを最大の目標にするようなスケジュールを組んでいるようだが、果たして・・・。
セップ・クス(アメリカ、27歳)
脚質:クライマー
スプリンター業界や総合エース業界と同様に、最強アシスト業界もめまぐるしく移り変わりが激しいということなのだろうか。2019年にはローレンス・デプルスが最強の名を欲しいままにしていたはずだったのに、いつの間にか今年はその座にこの男が居座っていた。
確かに兼ねてより強く鮮烈な印象を残してきた選手だった。2017年のツアー・オブ・カリフォルニアのクイーンステージ、マウント・バルディでは、コンチネンタルチームのラリー・サイクリング所属ながらワールドツアーの選手たちと互角に張り合い、区間10位に入り込んでいる。
翌年のツアー・オブ・ユタではステージ3勝と圧倒的な成績を残して総合優勝。その勢いのまま乗り込んだブエルタ・ア・エスパーニャでは第1週最終日の山頂フィニッシュで、残り5㎞からメイン集団を牽引する力強い走りを見せていた。
だが、このときは第2週以降はめっきり姿を見せなくなり、まだ若く、グランツールを3週間ハイペースで走り続けるのはまだまだ難しいのかな、という粗削りな印象を受けていた。
そして2019年のブエルタ・ア・エスパーニャで見せた、鮮烈な区間勝利。段々と、彼の存在感が増していく中で、2020年のこの走りである。
そしてあまりにもハイスピードなこの出世に、彼が決してアシストの座で終わる器ではないことを感じさせている。
彼自身もその思いは間違いなくあるはずだ。今年彼がどういう風に走り、そしてチームがそれを許すのか、その点は非常に気になるところである。
彼もまた契約が今年いっぱい。チームのマネジメントが試されると共に、彼が残るにせよ去るにせよ、また新たな「最強アシスト」をチームは探さなくてはいけないようにも思える。
オラフ・クーイ(オランダ、20歳)
脚質:スプリンター
わずか20歳でチーム6番手のUCIポイント獲得者として名を連ねるがこの「大型新人」クーイ。2020年はユンボ・ヴィズマの育成チームで走り、勝利数としては7勝(うち総合優勝1回)。1クラスのレースとしてもセッティマーナ・コッピ・エ・バルタリの初日にフィル・バウハウスとイーサン・ヘイターを打ち破っての勝利を果たしており、プロデビュー前からプロ勝利を果たす結果となった。
SEGレーシングアカデミーからやってくるダヴィド・デッカーも恐ろしい新人スプリンターとして注目していたが、3つも年下でかつより実績を積み重ねてやってくるこの男はあまりにも末恐ろしすぎる・・・。
ただ、正式加入は7月1日から。それまでは育成チーム所属のまま。
今年の後半、たとえばビンクバンク・ツアーとかツール・ド・ポローニュとか、そのあたりからいきなりワールドツアー勝利を掻っ攫う、なんて場面も、全然想像できてしまう。
トビアス・フォス(ノルウェー、24歳)
脚質:オールラウンダー
2019年ツール・ド・ラヴニール覇者。どうしても、エガン・ベルナルやタデイ・ポガチャルら先達と比較されてしまうところはあるだろうが、本来ラヴニール覇者が翌年から実績を出すなんてことは決して普通ではなかった。キンタナもチャベスもミゲルアンヘル・ロペスもマルク・ソレルもダヴィ・ゴデュも、その類稀なる実力を世界に轟かすのは早くても2年、あるいは3年といったスパンを必要としていた。
だから2020年にこの男がそこまで強い走りを見せていなかったとしても、特に気にする必要はない。むしろ油断している今年こそ、この男が牙を剥く最大のチャンスかもしれない。
なお、その強さの片鱗を見せることになったのがジロ・デ・イタリアだった。 初日の個人TTで、ガンナ、アルメイダ、ビョーグ、トーマスに次ぐ5位。チェルニーやクラドックたちよりも上位でフィニッシュしている。
もちろん、この日は悪天候が大きく順位に影響を及ぼしており、必ずしもこの日の結果がイコール実力にはつながらない。実際のところの強さというのは、このジロでユンボ・ヴィズマ自体が早々に離脱してしまったことで測ることができなくなってしまった。あのまま3週目までその走りを見ることができていれば、もしかしたら何か大きなものを残していたかもしれないだけに残念だ。
だから今年は彼の走りにひそかに注目しておくべきだろう。最新のラヴニール覇者はホンモノなのか、それとも。
総評
2021年も最強グランツールチームとして活躍することは間違いないだろう。合わせてパリ~ルーベやロンド・ファン・フラーンデレン、リエージュ~バストーニュ~リエージュやイル・ロンバルディアなど、あらゆる分野で世界トップクラスの成績を見込むことのできる、稀有なチームである。
一方、ディラン・フルーネウェーヘンの「脱落」は、このチームがもう一つ持っていたスプリント分野でのトップを明け渡す結果となっている。もちろんワウト・ファンアールトも申し分なく世界トップクラスの強さを持っているし、マイク・テウニッセンも昨年はあまり目立たなかったがツール勝者でもある。だが、専属の最強スプリンターが不在であるということは確かである。
そこを、オラフ・クーイやダヴィド・デッカーといった新鋭が、どれだけ早くその座に上り詰めていけるか。案外今年いきなりその穴を埋める可能性すらありそうなのが凄いところ。
そしてやはり、「最強」チームとしてはぜひとも獲っておきたいツール・ド・フランスの頂点。
今年こそ、その「忘れ物」を取りにいけるだろうか。
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