シーズン再開後から怒涛のレースラッシュ。短縮された日程の中で仕方がないとはいえ、そんな状況が数多くの落車や怪我を生んでしまってもいる。
前編で触れたツール・ド・ポローニュにおけるファビオ・ヤコブセンの悲劇に続き、イル・ロンバルディアでは同じドゥクーニンクのレムコ・エヴェネプールが悲劇に遭う。「ツール前哨戦」クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも、有力候補たちが次々と落車に巻き込まれ、レースを去る姿も。
それでも、選手たちは全力で1つ1つのレースに取り組んでいく。そうした中で、若手もベテランも、人生を変えうる勝利を掴んでいく。
このスポーツには辛い瞬間もあれば、それを乗り越えた先の歓喜の瞬間もある。我々ファンにできることは、そんな彼らの魂の輝きをしっかりと目に焼き付け、そしてそれを適切に評価していくことだけだ。
激動の2020年シーズン再開後最初の8月の、後半のレースを振り返っていこう。
(記事中の年齢は全て、2020/12/31時点のものとなります)
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT)
- イル・ロンバルディア(1.WT)
- ドワースドール・ヘット・ハヘラント(1.Pro)
- ツール・ド・ワロニー(2.Pro)
- ジロ・デッレミリア(1.Pro)
- ブルターニュクラシック・ウエストフランス(1.WT)
- ラ・クルス by ツール・ド・フランス(1.WWT)
- ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.Pro)
↓過去の「主要レース振り返り」はこちらから↓
主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
↓8月前半はこちらから↓
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クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT)
ワールドツアー 開催国:フランス 開催期間:8/12(水)~8/16(日)
「ツール前哨戦」の最も重要なレースがこのクリテリウム・ドゥ・ドーフィネではあるが、このレースも新型コロナウイルスの影響を受け、本来8ステージのところが5ステージに短縮。
しかも、前半に用意されていた平坦ステージが軒並みキャンセルされ、後半の「4連続山頂フィニッシュ」が丸ごと残される形に。
結果、毎日総合争いステージ。前哨戦というにはやや厳しすぎるようなスケジュールとなってしまった。
その結果、レースの展開は波乱に満ちたものに。
前半は、ユンボ・ヴィズマのトレイン力が圧倒的に機能。むしろ、アシストの数が余ってしまうくらいに・・・一方のイネオスの方は、ゲラント・トーマスも、クリス・フルームも、早々に遅れてしまう事態に。この状況は最終的に、2人のツール・ド・フランスメンバーからの除外という結果を生んでしまう。
ジョナタン・カストロビエホの驚くべき牽引やシヴァコフ、クフィアトコウスキーの粘り強さでイネオスも対抗するものの、この時点では、この夏、ユンボが圧倒的に有利なのではないか、と思われる展開だった。
第1ステージではアシストに全力を費やさなくてもよくなったファンアールトが最後に登りスプリントを制し、第2ステージではアシストをすべてはがされたベルナルが賭けに出るようなアタックを繰り出すが、これをログリッチが余裕をもって追いつき、そして追い抜いて勝利を掴んだ。
しかしユンボはユンボで波乱に巻き込まれる。第4ステージ。レース中に発生した落車に巻き込まれ、ステフェン・クライスヴァイクが即時リタイア。彼はこのあとのツールへの出場も見送る形となってしまった。
これとは別の落車にログリッチも巻き込まれ、この日は最後まで走り切ったものの、翌日にDNSを決める。
その他、エガン・ベルナルも背中の痛みを訴えて第4ステージの時点でDNS。クライスヴァイクが巻き込まれた落車にボーラ・ハンスグローエのエマヌエル・ブッフマンも巻き込まれて同じく即時リタイアするなど・・・とにかく、各チームのエースが次から次へと不運に見舞われる荒れた展開となってしまった。
優勝候補たちが一気にレースを去った中で迎えた第5ステージ。総合首位にはティボー・ピノがついていたものの、序盤から激しいアタックが繰り広げられ、総合5位ダニエル・マルティネス、総合6位ミゲルアンヘル・ロペス、総合9位タデイ・ポガチャルなどが集団から抜け出したことで、バーチャル・マイヨジョーヌはピノからマルティネスに移ることとなった。
アシストをすべて失った追走集団の中のピノは苦しみ、一度は遅れかける姿も見せたものの、執念で再びペースアップ。一度は大きく引き離されかけていた総合タイム差をまた10秒程度にまで縮めることができた。
だが、最後は先頭の若手軍団に追い付くことはできなかった。
最終的にその集団から抜け出したセップ・クスが最終日のフィニッシュを先頭で突き抜け、そして27秒差で2位フィニッシュとなったダニエル・マルティネスが、見事総合優勝を成し遂げることとなった。
ダニエルフェリペ・マルティネス。2018年、エガン・ベルナルが総合優勝したツアー・オブ・カリフォルニアで、その陰に隠れるような形にはなってしまったものの、総合3位と驚くべき成績を叩き出していた男。
2019年にはパリ~ニースでサイモン・イェーツ、ミゲルアンヘル・ロペスを突き放してのクイーンステージ勝利を果たしている男。チームメートのセルジオ・イギータと共に、将来が嘱望される若手コロンビア人オールラウンダーである。
また、この最終日に勝ったセップ・クスは、2年前のツアー・オブ・ユタで覚醒を果たした若手アメリカ人ライダーであり、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでもステージ優勝している男だが、今回のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは総合優勝候補たちに匹敵するような登坂力を見せて、最強のアシストぶりを発揮してくれていた。
このクスの存在もまた、ユンボ・ヴィズマのツール勝利における重要なピースであることが明らかになった。
トラブルも多かったものの・・・やはり、「ツール前哨戦」であること間違いなしの5日間だった。
イル・ロンバルディア(1.WT)
ワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:8/15(土)
筆舌に尽くしがたい悲劇に見舞われると同時に、若手が活躍し、そして最後にはその若手とベテランとが見事なチームワークを発揮し勝利を掴む非常に面白いレースでもあった。
その展開については、下記の記事に詳しく書いているので、ぜひ参照していただきたい。
勝利したフルサン、そしてそれを見事に支えたアレクサンドル・ウラソフが今年非常に調子が良いのは間違いないため、来るジロ・デ・イタリアでの彼らの活躍にもぜひ期待したいところ。
ドワースドール・ヘット・ハヘラント(1.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:8/15(土)
新型コロナウイルスの猛威によって完全に消滅してしまったベルギー・クラシック。
シーズン再開後、初となるそのベルギーでの最初のProシリーズレースとして開催されたのが、この「ベルギーの裏庭レース」ヘット・ハヘラントである。
フラームス=ブラバント州のアールスコート(ハヘラント地域)を舞台に開催されるレースで、牧歌的なベルギーの農道を使用する美しきレースである。
一方でその展開は例年波乱に満ち溢れ、お行儀のよい集団スプリントになることはあまりない。必ず逃げが生まれ、クラシックライダーたちと集団とのギリギリのせめぎ合いを楽しむことができる。
今年、集団から抜け出したのはヨナス・リッカールトとニルス・エークホフの2人。とくにエークホフは昨年のU23世界選手権ロードレースにて、「最初にフィニッシュラインを通過した男」である。結局、落車からの復帰の際にカーペーサーを利用しすぎたという理由で失格になってしまったが、今回はそのときの強さをもう一度見せつけるかのような力強い走りを見せてくれた。
最後はわずかな経験の差により、リッカールトが勝利。しかし彼にとってもまた、プロ初勝利。これからが楽しみな二人による熱いバトルが展開された。
ツール・ド・ワロニー(2.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:8/16(月)~8/19(木)
その名の通りベルギーのワロン地方(フランス語地域)を舞台にしたステージレース。アルデンヌ・クラシックの舞台だけあって起伏にとんだレイアウトが用意され、過去にはティム・ウェレンスやディラン・トゥーンスのようなピュアパンチャーたちが総合優勝を果たしているが、今年はスプリンターたちの名前がずらりと並ぶ。
もちろんグレッグ・ファンアーヴェルマートやオリバー・ナーセンらクラシックスペシャリストたちも頑張った。それぞれ総合2位・総合10位に入るなど、健闘はしていた。
しかし、それらを抑え込んで最後まで首位を守り続けたアルノー・デマールと、彼を支えるFDJメンバーズの調子があまりにも良すぎたということを証明する結果となった。
このあとのフランス国内選手権勝利も含め、本当に今年のデマールは調子が良い。ジロ・デ・イタリアでのマリア・チクラミーノ最有力候補と言って全く問題ないだろう。
そんな最強のFDJ軍団の中で注目すべき選手が、グルパマFDJの育成チーム「コンチネンタルチーム・グルパマFDJ」所属のラース・ファンデルベルフ。今年から設けられたUCI特例ルール「育成チームの選手をエリートチームの一員としてレース出場させてよい」を適用して参戦した彼が、無双したグルパマFDJトレインの一員として活躍してくれた。
同じ育成チーム所属でツール・ド・リムザン総合2位の成績を叩き出したジェイク・スチュアートは早くもエリートチーム昇格を決めている。
ファンデルベルフもその未来を期待している。。ただ、U23国内選手権で落車して鎖骨を骨折してしまったとのことで、早い回復を願うばかり。
あと、アモリー・カピオもスプリンターなのに毎ステージ上位に入って最終的にも総合3位と、本当にこの男のベルギーレースでの強さは計り知れない。
ベルギーレースなら脚質がオールラウンダーになってワールドツアー級の力を発揮する異才である。
ジロ・デッレミリア(1.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:8/18(水)
昨年のジロ・デ・イタリアの初日個人タイムトライアルでも使用された「サンルーカの登り」を5回駆け上る伝統的なイタリア・ワンデーレース。例年はイル・ロンバルディア前哨戦の1つとして数えられるが、今年はその後ろでの開催となった。
ただもちろん、活躍するのはイル・ロンバルディアの上位に入った選手たち。ただあのときと比べ、より「若手」の活躍するレースとなった。
とくに鮮烈なる走りを見せてくれたのが、ジョアン・アルメイダ。ブエルタ・ア・ブルゴスにてレムコ・エヴェネプールの総合優勝を支えつつ自らも総合3位に入った才能の持ち主である。
そんな彼が、イル・ロンバルディアで悲劇の落車を起こしたエヴェネプールの意思を継ぐために果敢なアタックを敢行。一時はメイン集団に30秒以上のタイム差を作るほどに先行しながら最後のサンルーカの登りに突入した。
しかし登坂距離2km・平均勾配10%以上・最大勾配20%のこの超激坂を前にして、まだまだ経験の薄いアルメイダは完全に足が止まってしまう。
一方、これを捕らえたのが先日のイル・ロンバルディア3位と超・絶好調のアレクサンドル・ウラソフ。アルメイダのチームメートで同じく若手期待の星であるアンドレア・バジョーリもこれに追いすがるがやがてウラソフがこれを突き放す。
そしてアルメイダに追い付いたウラソフはそのまま彼を引き離して独走。
もはやジロ・デ・イタリアはフルサンとのダブルエースと言ってもいいような強さを見せつけた元ロシア王者が、鮮烈なる勝利を飾った。
ウラソフ、アルメイダ、バジョーリ、さらにはイネオスのエディ・ダンバーといった若手有望株の後ろからまるで「保護者枠」のようにしてゴールするフルサンとニバリ。
あらゆるレースにて世代交代が巻き起こっていることを象徴するようなレースとなった。
そんな中、さりげなく3位に入るおっさん枠のディエゴ・ウリッシ。
彼は常に安定して上位に入ってくる。絶好調なのは間違いないのだが・・・勝てないのが切ないところである。
ブルターニュクラシック・ウエストフランス(1.WT)
ワールドツアー 開催国:フランス 開催期間:8/25(火)
1931年から続くフランス・ブルターニュ地方のプルエーを舞台とした伝統的なレース。毎年北のクラシックとアルデンヌ・クラシックの両方の要素を兼ね揃えたアップダウンレースとしての特徴をもち、過去にはアレクサンダー・クリストフやオリバー・ナーセン、セップ・ファンマルケなどの優勝者が並ぶ。
今年は翌日に同じ舞台で開催されるヨーロッパ選手権男子エリートロードレースを控えており、その前哨戦としての位置づけを持つこととなった。
昨年はファンマルク、ティシュ・ベノート、ジャック・ヘイグが抜け出したまさにクラシックという展開に持ち込まれていたが、今年は未舗装路がなかったこともあり、ある程度まとまった集団でフィニッシュ近くにまでやってきた。
それでも最後の登りポン・ヌフでドゥクーニンク・クイックステップのフロリアン・セネシャルとNIPPOデルコ・ワンプロヴァンスのアレッサンドロ・フェデーリが抜け出すと、チーム・サンウェブのニルス・エークホフがエースのマイケル・マシューズのために集団を強烈に牽引し始めた。
結果、この登りで集団の先頭は抜け出した2名とエークホフら5名の追走集団のみになり、イバン・ガルシアらが取り残される形となったメイン集団は引き離されてしまう。
さらに、エークホフはそのまま集団を牽引し続けて抜け出した2名を吸収。
その後も先頭固定でペダルを回し続ける彼の力があまりにも強すぎて、なんと彼とその背後についていたセネシャルの2人だけが抜け出す格好に。
さすがにそれではまずいと気が付いたエークホフは一気にペースダウン。
もしここでセネシャルがアタックしていればまだ勝機があったかもしれないが、このあと追い付いてきた追走集団の中で最もスプリント力のあるマシューズが圧倒的に優位だった。
直近のミラノ~サンレモでも3位(メイン集団内の先頭)など、絶好調のマシューズ。
ツール・ド・フランスには残念ながら選ばれなかったものの、来るティレーノ~アドリアティコおよびジロ・デ・イタリアでの活躍には十分期待できるだろう。
そして、この勝利の最大の立役者となったのはもちろん、ニルス・エークホフ。昨年のU23世界選手権ロードレースで「幻の勝利」を果たし、ドワースドール・ヘット・ハヘラントでも2位、さらには先日のオランダ国内選手権にて、「あの」マチュー・ファンデルポールに最後の最後まで一人で食らい続ける走りを見せていた、期待しかない新人である。
世界選手権では悔しい思いを味わったものの、その実力が間違いないことは見事に証明してみせてくれた。若手の育成に定評のあるこのチーム・サンウェブで、ぜひさらなる輝きを放ってほしい。
ラ・クルス by ツール・ド・フランス(1.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:フランス 開催期間:8/29(土)
ツール・ド・フランスと同じA.S.O主催で、その年のツール・ド・フランスのコースの一部を利用して行われるワンデーレース。今年のウィメンズ・ワールドツアーの第4戦にあたる。
男子のツール・ド・フランスの第1ステージと同じ周回コースを使用するも、ステージレースではなくワンデーレースであることや、自分に不利な集団スプリントに持ち込みたくなかったアネミエク・ファンフルーテンが最後の登りで一気にペースを上げたことなどもあって、最終的には6名の小集団スプリントに。
その中で、2名を入れることに成功したトレック・セガフレードが、そのチームワークを活かして「女王」マリアンヌ・フォスを見事打ち破った。
その勝利の秘訣、勝者ダイグナンのチームメートであるエリザ・ロンゴボルギーニの「執念」の走りについては、下記の記事を参照のこと。
ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:8/30(日)
その名の通りベルギーの首都ブリュッセルの周辺を走る、1893年創設の非常に歴史の長いレース。今年でなんと100回目。昔はパリ〜ブリュッセルと呼ばれていたらしい。
昨年はユアン、アッカーマン、デマールなどの錚々たる顔ぶれがきれいな横一線でフィニッシュするピュアスプリント決戦となっていたが、今年は激しい土砂降りに見舞われ、荒れに荒れたレース展開となった。
結果、優勝候補のうちフェルナンド・ガビリアなんかも脱落。もう1人の優勝候補アッカーマンも伸び切らず、勝ったのはシクロクロス主体ながら昨年もベルギー国内選手権ロードレースでも優勝しているティム・メルリエ。
昨年のこのレースで驚きの「横一線」入りを果たしたバッレリーニが、今年も好調のまま2位に入り込んだ。
そしてフィニッシュ直前に最も完璧なトレインを形成していたはずのアルケア・サムシックのブアニは、最後の最後でバッレリーニにも差し切られての3位。
しかも、フィニッシュ後に、雨で濡れてツルツルになっていた路面にタイヤを滑らせ、激しく落車してしまった。
救急車の姿も見えていただけに、心配である。
なお、4位に入ったフロリアン・フェルメールシュは、つい先日までロット・スーダルU23のメンバーだった男で、6/1からこのロット・スーダルに正式昇格したばかりの選手である。今年21歳。
今回、確かにロット・スーダルの面子はイェレ・ワライス以外はみんな若手ばかりの面子とはいえ、その中でこの成績を獲るのは将来が実に有望な男である。
フロリアン・フェルメールシュ。注目しておこう。
↓過去の「主要レース振り返り」はこちらから↓
主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
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