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2021シーズンを振り返る④ UCI世界ランキング男子個人10位〜1位全レビュー

 

今年1年最も活躍した選手たちを「獲得UCIポイント」という基準でランキングしたUCIワールドランキング。

今回はその10位~1位までの10名、すなわち「今年最強」の10名を紹介していく。

このレベルになるとどの選手もまさに唯一無二のヒーロー。全員が今年を象徴した選手であるとすら言えるレベルである。

 

なお、昨年のTOP10は以下のような感じ。

10位:マルク・ヒルシ(チーム・サンウェブ)

9位:アルノー・デマール(グルパマFDJ)

8位:ディエゴ・ウリッシ(UAEチーム・エミレーツ)

7位:リッチー・ポート(トレック・セガフレード)

6位:ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

5位:ヤコブ・フルサン(アスタナ・プロチーム)

4位:マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)

3位:ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

2位:タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)

1位:プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

2020シーズンを振り返る④ UCI世界ランキング個人10位〜1位全レビュー - りんぐすらいど

 

今年のTOP10は果たして・・・?

※年齢表記はすべて2021/12/31時点のものとなります。

 

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第10位 リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)

昨年11位、エクアドル、28歳、クライマー

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最初に彼を意識したのは2018年パリ〜ニース。全8ステージ中の第7ステージ、クイーンステージとなる「ヴァルドゥブロール」山頂フィニッシュのラスト2.5㎞で、総合3位マルク・ソレルが脱落しかけたときにこれをアシストして引き上げたのがカラパスであった。

このステージを勝利したサイモン・イェーツから46秒遅れでフィニッシュしたソレルは総合6位に転落するも、総合タイム差は37秒を維持。そして翌日の最終ステージで逃げに乗り、まさかの大逆転総合優勝を成し遂げるのである。

最終的にサイモン・イェーツとの総合タイム差はわずか4秒。クイーンステージでのカラパスの献身がなければ、この勝利はあり得なかった。

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この年のジロ・デ・イタリアではエクアドル人として初めてのグランツール勝利を成し遂げたうえで総合4位。ブエルタ・ア・エスパーニャでもナイロ・キンタナ&アレハンドロ・バルベルデのダブルエースを支える最有力アシストとして活躍した。

そして、2019年のジロ・デ・イタリア総合優勝。だが、このときでもまだ、彼のことを「意外な勝者」として認識していた。その認識が変化するのが昨年であった。

 

とくに2020年のブエルタ・ア・エスパーニャ。ここではプリモシュ・ログリッチを最後の山岳ステージまで追い詰め、あわや逆転か、というところにまで迫った。

そして今年のツール・ド・フランス。タデイ・ポガチャル、ヨナス・ヴィンゲゴーの強さが際立ってはいたが、そこに食らいつき総合4位以下にはっきりと差をつける「3強」の一角であった。ことここに至り、彼の強さは本物であることが証明された。彼は、エガン・ベルナルと並ぶ、イネオス・グレナディアーズの最強エースの片割れである、と。

 

だが、だからと言って、彼の走りが「絶対のエース」「王者然としたもの」ではないことがまた、彼の魅力でもある。

むしろ彼はこれほどの存在になりながらも、常にアグレッシブで、リスキーなアタックを繰り出すチャレンジャーであり続けている。

それはもちろん失敗するときもある。今年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでもそういう走りを見せた結局は捕まえられてしまった。ツール・ド・フランスの第7ステージでも、飛び出しのタイミングは良かったが、モビスター・チームの追走もあり、失敗に終わった。

一方の成功例は、2019年のジロ・デ・イタリアであり、そして今年の東京オリンピックだ。

‪タデイ・ポガチャルが集団を破壊しかけた三国峠の登りの後、ヤコブ・フルサンなども加わったアタック合戦の末に、飛び出したブランドン・マクナルティに唯一ついていったのがカラパスであった。‬

‪のちに疲弊したマクナルティを富士スピードウェイ内の小さな登りで突き放して独走を開始。‬

‪ツールでは叶えきれなかった世界最強の称号を、母国のジャージを身に纏いながら掴み取るという、最高の瞬間を味わうこととなった。‬

 

それは絶対のエースというにはあまり相応しくない走りなのかもしれない。だが一方で、そんな走りができる彼が、最高のコンディションで来年、エガン・ベルナルとタッグを組んでツール・ド・フランスに挑むことができたら?

それはきっと世界最強の「ダブルエース」となるはずだ。

 

 

第9位 ジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

昨年13位、ポルトガル、23歳、オールラウンダー

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2018年、ハーゲンスバーマン・アクセオンにてプロデビューを果たしたときは、ツール・ド・ラヴニールでも総合7位。

よほど若手に注目している方でない限り、彼の存在をとりわけ気にかけていた人はそういないのではないか。

2019年にはツアー・オブ・ユタで総合4位。確かな実力は見せていたものの、その年のユタはむしろジェームズ・ピッコリの存在の方がより際立っていた。

そして2020年。彼の実力をしっかりと見抜いていたパトリック・ルフェーブルによって、彼は世界最強チームの一角、ドゥクーニンク・クイックステップに迎え入れられる。

そして彼はチームの若手最有力選手レムコ・エヴェネプールの「側近」として、ブエルタ・ア・ブルゴスに出場し、圧倒的な力で総合優勝を飾ったエヴェネプールに次いで、総合3位で表彰台を共にすることとなる。

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そのままジロ・デ・イタリアも、総合優勝候補の一角に数えられていたエヴェネプールの右腕として、彼を支えることになるだろうーーと、思われていた。

だが、直前のイル・ロンバルディアでの、エヴェネプールの大落車。

アルメイダは突如として、ジロの総合エースの座を任されることとなった。

 

そして彼は、その大役を見事に成し遂げてくれた。

ある意味、期待よりもずっと大きな成果。第3ステージから第17ステージまで、15日間にわたりマリア・ローザを死守し、最終的にも総合4位。

改めて、ここにエヴェネプールがいれば、果たしてどうなっていたのか、と思わせるような結果であった。

 

そして今年。その「ダブルエース」は実現する。但し、あまり良い形とはいえないものに。

エヴェネプールは大怪我からの復帰初戦ということで実力未知数でもあったため、メインはあくまでもアルメイダで、というような論調で3週間がスタートしたように思える。しかし、第4ステージの最初の山岳ステージで、いきなりエヴェネプールから4分も遅れる大失速を経験したアルメイダ。逆にエヴェネプールは順調そのもので、これで今年のジロの主導権は決まったように思われた。

だが、休息日明けの第11ステージで今度はエヴェネプールが大失速。しかもそれをアルメイダがアシストするように求められ、彼も引き続きタイムを失うこととなった。

そのあともエヴェネプールは復調せず、最終的にはなし崩し的にアルメイダが再びエースに。後半にかけて山岳ステージで強さを見せつけたアルメイダだったが、最終的には総合6位で終えることとなった。

 

第11ステージで見せたアルメイダの苛立ちは、昨年大きな期待を抱かれていたレムコ&ジョアンの黄金コンビの終わりであった。その後、アルメイダは代理人とチームとの間で交渉が決裂し、UAEチーム・エミレーツへと赴くこととなる。

 

すなわち、2022年からはアルメイダの新たな歴史である。今度はタデイ・ポガチャルの右腕となれるか。そしてその中で、彼自身のチャンスを掴めるか。

ブランドン・マクナルティやジョージ・ベネットなど、ライバルも多いこのチームで、一皮剥けることを期待する。

 

なお、その走りの特徴な、トム・デュムランを彷彿とさせる強烈なペース走行。ジロ終盤では、サイモン・イェーツの切れ味の鋭いアタックに一度は置いていかれるが、やがて淡々と戻ってきて最後はこれを突き放すという、最盛期のデュムランを思い出させるような走りを見ることができた。

個人的にもデュムランが好きなだけに、彼のこの走りはとても魅力的。ぜひ来年、ツールではポガチャルをアシストしつつ、自らはジロの頂点を目指して欲しい。

 

 

第8位 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)

昨年52位、イギリス、29歳、クライマー

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‪イネオス・グレナディアーズへの移籍は彼にとって大きな賭けであった。グランツールでのエースの座を失い、アシストに回らざるを得なくなる可能性も十分にあった。ゆえに、シーズン最初の数レースは彼にとってある意味でグランツール以上に重要なものであった。そして彼はそこでしっかりとチャンスをモノにした。‬

‪すなわち、UAEツアーでの総合2位。タデイ・ポガチャルには敵わなかったがそれに食らいつき、ジョアン・アルメイダを打ち破った。イネオス・グレナディアーズによる表彰台独占を果たしたボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャではステージ1勝と総合優勝とを成し遂げた。‬

‪すなわち、彼はイネオスというチームにおいて、少なくともゲラント・トーマスやリッチー・ポートらと並ぶ、チームのエース候補であることを明白なものとした。‬

 

‪当然、彼に対する期待値も大きく高まることになる。シーズン当初からブエルタ・ア・エスパーニャに焦点を当てていると明言していたが、これだけ調子が良いのであれば、ツール・ド・フランスも狙うべきでは? という声もあった。‬

‪しかしそれでも彼はぶらさずにブエルタ・ア・エスパーニャを狙いーーそしてそれは、彼にとって2016年のツール・ド・フランス(総合4位)以来となる成果をもたらすこととなる。‬

‪結論から言えば、決して成功ばかりとは言えない出来ではあった。やはり不安定さは否めず、エガン・ベルナルとの「ダブルエース」は、片方が調子良いときはもう片方が遅れ、別のステージではそれが逆転するという典型的な「悪いダブルエース」だったと思う。‬

‪それでも、昨年までは彼はグランツール向きではないとまで思っていただけに、このブエルタでの堂々たる走りは、今後の彼に期待を持たせるには十分なものだった。‬

‪そして、ワンデーレースへの適性も引き続き持ち合わせていることを、イル・ロンバルディアでは証明してみせた。前哨戦ミラノ〜トリノでは、終盤ほぼ彼一人で前を牽き続け、一時はプリモシュ・ログリッチすらも突き放して単独で先頭に立った。‬

‪そのときは最後はログリッチに一気に抜き去られてしまったものの、イル・ロンバルディア本戦では、最後の最後でログリッチとのスプリントに勝利し、見事表彰台を掴み取った。

‪過去にはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも4位の経験のあるアダム・イェーツ。今後、彼がモニュメントを獲ることもまた、夢ではないだろう。‬

 

第7位 マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)

昨年4位、オランダ、26歳、パンチャー

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チームがプロ化して本格的にロードレースに参戦することとなった2019年にはアムステルゴールドレースであらゆる者を黙らせる圧倒的な勝利。2020年にはロンド・ファン・フラーンデレンでのワウト・ファンアールトとの一騎打ちを制してのモニュメント初制覇。

シクロクロスではすでに「怪物」であった男が、ロードレースでも常に我々を驚かせ続けてきた男。今年も、3月のストラーデビアンケの最後の激坂で、ジュリアン・アラフィリップを完全に力で突き放したかと思えば、初出場のツール・ド・フランスでは、第2ステージの「ブルターニュの壁2回登坂」で、本命が行くところとは思われていなかった1回目登坂からアグレッシブに抜け出し、これが捕まえられて最終的に引き戻された後も、最後のフィニッシュで再びライバルたちを突き放し、マイヨ・ジョーヌを手に入れた。

その後の個人TTでも、これまで TTでは実績のなかった彼が、驚きの走りを見せて区間5位。マイヨ・ジョーヌを守って見せた。

常に主役であり続ける男。レムコ・エヴェネプールやタデイ・ポガチャル、トム・ピドコックなど、異様な強さをもつ若手が次々と現れてくる中でも、その存在感を失うことなく驚かせ続ける男であった。

 

しかし、東京オリンピックのマウンテンバイクでは、まさかの大落車。

シーズン中復帰も絶望的とさえ思える怪我を負ってしまった。

 

そこからの復帰初戦、アントワープ・ポートエピックでいきなりの勝利。だが、タコ・ファンデルホールンと競っての辛勝であった。

その次のプリムス・クラシックでは8位。一度メカトラで落ちた上でのこの順位はむしろ凄いとも言えるが、万全ではなさそうな雰囲気のまま、世界選手権に突入することとなる。

 

そして世界選手権ロードレースでは8位。あの大怪我からわずか2ヶ月でのこの成績は十分驚くべきではあるが、やはり万全なら・・・という思いもあった。

 

と、思ってたら初出場のパリ〜ルーベで普通に3位に入っているのでやっぱりこの男は異様である。

度重なるアタックにソンニ・コルブレッリが引き離されなかった点においては、やはり万全ではなかったから、という見方もできなくはないが、その前の段階でイヴ・ランパールトを突き放していたりもするので、やっぱりあれは普通にコルブレッリやフロリアン・フェルメールスが強かったのだと見て良いだろう。

 

まだまだこれからも驚かせ続けてくれること間違いなしのファンデルプール。今後はグランツールを完走し山岳ステージでも活躍するような登坂力を見せるのか、モニュメント制覇のようなワンデーレース特化型で行くのか。楽しみだ。

 

 

第6位 ソンニ・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス)

昨年106位、イタリア、31歳、スプリンター

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もともと2017年のバーレーン・メリダ発足時に、イタリアのプロコンチネンタルチームから昇格してメンバー入りをしており、そこまで期待して見てはいなかった。

だが、その後、雨のパリ〜ニースで全盛期のマルセル・キッテルを倒したり、ツール・ド・フランスの登りスプリントフィニッシュでサガンに食らいつき2位に入ったりと、ところどころで鋭い強さを見せていた。

そんな、「マニアックな」コルブレッリが、今年は大覚醒を果たした。

 

やはりピュアスプリンターとしては決して最強ではない。今年のツール・ド・ロマンディでも、ステージ途中のアップダウンでモスケッティやヴィヴィアーニなどのピュアスプリンターたちが篩い落とされる中で、ステージ優勝や2位を重ねていった。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも活躍したが、競った相手はアレックス・アランブルやジャスパー・ストゥイヴェンであり、ピュアスプリンター同士の対決での成果とはやや言い難い。

ツール・ド・フランス本戦ではやはりこのトップスプリンター同士の対決にはなかなか混ざることはできず、マイケル・マシューズと共に積極的に逃げに乗った。そしてそこではダヴィド・ゴデュしかついてこれないような登坂を見せるなど、スプリンターの領域を超えるような走りをところどころ見せていた。

そしてこのツール後に、彼の恐るべき強さが本格化していく。

 

まずはベネルスクツアー。第6ステージのウッファリーズにゴールする「リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ風ステージ」(リンク先の最下部にレポート有)では、残り50㎞でマテイ・モホリッチとマルク・ヒルシと共に集団から抜け出し、さらに残り25㎞地点で独走を開始する。残された追走集団の先頭では当然、チームメートのモホリッチが撹乱。そのままコルブレッリは独走勝利を果たし、モホリッチが2位に入ってのワンツー勝利を達成した。

続く第7ステージ、カペルミュールを複数回こなす「ロンド・ファン・フラーンデレン風ステージ」では、今度はモホリッチが集団から抜け出して独走するが、これをコルブレッリが集団内でローテーション妨害を仕掛けてカバー。そのままモホリッチが逃げ切り勝利するが、集団内でも残り5㎞でトム・デュムランがアタックし、コルブレッリが唯一ここに食らいつく。最後は登りでデュムランを突き放しての2位フィニッシュ。前日に続くワンツーを達成し、そのままコルブレッリは総合優勝を果たした。

 

そしてヨーロッパ選手権。絶好調のレムコ・エヴェネプールが、ブルターニュ・クラシックでジュリアン・アラフィリップを力でねじ伏せたブノワ・コヌフロワを突き放したとき、コルブレッリはなおもここに食らい付いていた。

そして最後まで決して離れることなく、最後は得意のスプリントできっちりと仕留めた。

 

この執念の走りは今年のコルブレッリのハイライトとも言えるパリ〜ルーベでも発揮された。途中、イヴ・ランパールトもつき切れさせたマチュー・ファンデルプールのアタックを、5つ星パヴェ区間でも繰り返し放たれるそれを、全てきっちりと押さえ込んで耐え続けた。

その状態でベロドロームにまで到達できれば、彼に勝てない理由はなかった。周回遅れのモスコンが進路に残っている難しい状況での1vs2だったが、最後まで冷静さを失うことなく文句のない完璧なスプリントを見せて、決して「最強スプリンター」ではない彼が、世界の頂点の1つを掴み取った。

 

今年はコルブレッリのシーズンだった。この先もまた、驚くべき走りを見せ続けてくれるのか。

 

 

第5位 エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)

昨年101位、コロンビア、24歳、オールラウンダー

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2017年ツール・ド・ラヴニール覇者。そのままチーム・スカイ(現イネオス)に加入し、ただちにその才能を発揮。初年度からツアー・オブ・カリフォルニアを総合優勝するなど、異様な強さを見せつけた。

そしてワールドツアー2年目、21歳でのツール・ド・フランス総合優勝。誰もが、2020年代もスカイ/イネオスの時代は続き、そしてその中心にこの男がいると信じきっていたように思う。

 

だが、その勝利の後、彼は思いがけぬ苦しみに呑まれることとなる。コロンビアの英雄としてのプレッシャー、そして背中の痛み。

同時期にその彼の栄光を塗り潰していくかのようなタデイ・ポガチャルという男の存在もまた、彼にとっては心を抉り取るような経験であったことだろう。

 

そんな彼を救ったのはデイブ・ブレイルスフォードGMの言葉。そしてチームの支えであった。

彼は再びゆっくりと歩み始めることに成功した。そして、ジロ・デ・イタリア第16ステージで「再びスタートラインに立つ」ことに成功した。

この一連の流れについては、以下の2つの記事にまとめてあるのでご覧頂きたい。

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この物語の続きが、ブエルタ・ア・エスパーニャであった。

直前に新型コロナウイルスに罹患したことにより調整が上手くいかなかったこともあり、アダム・イェーツとの「ダブルエース」は、他方が調子の良いときには他方が大崩れし、日によってそれが逆転するという、典型的な「失敗したダブルエース」のそれであった。

それでも、レース中のベルナルの表情は不思議なくらいに明るかった。苦しい展開の続くレースの合間に、カメラに向かってお茶目な姿を見せることも多かった。

元々笑顔の多い選手ではあったが、しかしそれは、昨年のあの悲劇のツール・ド・フランスの前後では見られなかったもののように思う。

ベルナルは確かに今年、「スタートライン」に立ち戻ったのだということを感じさせた。

 

そして、第17ステージのあの果敢なアタックである。

結果的には大失敗に終わったが、その挑戦者としての姿勢は、このブエルタがベルナルにとって、決してネガティブなだけに終わらない感触をもたらしてくれた。

 

来年、ツール・ド・フランスで、果たして彼がログリッチ、そしてポガチャルに対抗できるのかどうかは分からない。

だが、苦しみを乗り越えて、彼は確かに、2020年代を代表する重要な選手の1人として、再びその存在感を示し始めることとなった。

 

来年のツールが、とても楽しみだ。

 

 

第4位 ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

昨年6位、フランス、29歳、オールラウンダー

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ここまでくると、上位は誰もが今シーズンを象徴するスーパースターばかりになる。4位とはいえ、この男も間違いなく、今シーズンを沸かせ続けた。

まずは春先。常に勝ち続けるわけではない、「最強ではない男」だけに、ストラーデビアンケではマチュー・ファンデルプールに最後の最後で完全にしてやられたし、続くティレーノ〜アドリアティコでもリベンジのステージ優勝を果たしたかと思えば、重要な「壁のステージ(第4ステージ)」では勝負所で失速。

さらに春のクラシックでは昨年はスケジュールの都合上出られなかったフレーシュ・ワロンヌで2年ぶりの勝利。2018・2019に続く3勝目を記録し、「やっぱりアラフィリップは強い」ということをまじまじと感じさせた。

そしてツール・ド・フランス。

初日、誰もが期待する中で、その期待通りアシストに発射されて完璧な形で勝利して初日マイヨ・ジョーヌを掴み取ったアラフィリップ。

まさにスターの中のスター。

フランスの英雄であった。

 

だが、やはり常に最強ではないところが特徴的な男だ。

ツール・ド・フランスのその後のステージは、積極的に逃げを打ち続けるが、いずれも彼らしくないところで早々に失速する。

結局初日以外は良いところなく3週間を終え、そのあとはブルターニュ・クラシックで敗北し、ツアー・オブ・ブリテンでも勝ちきれないまま、世界選手権を迎えることとなった。

 

その世界選手権は、彼にとって決して得意なコースではなかった。

長めの激坂はラスト60㎞で終わり、最後のルーヴェンの街での周回コースに含まれる登りは鋭くはあっても数百メートルしかない短いもので、アラフィリップのようなアタッカーには仕掛けるどころの難しい設計であった。

 

だが、そんなレースを勝ちきるために、フランスは常識外れに早いタイミングからチーム一丸となってひたすら攻撃を仕掛け続けた。

そしてアラフィリップ自身も残り60㎞から実に5回ーー最初の1回のあと、代表監督のトマ・ヴォクレールに、スプリンターのアシストをすべきか聞いたが、彼からは本能のままに動けと言われーーアタックに次ぐアタックを繰り出した結果、抜け出すのが実に難しいこのコースで、ディフェンディングチャンピオンの証であるゼッケンNo.1を背負いながら、独走に持ち込むことができたのである。

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これこそがジュリアン・アラフィリップという男の走りである。

強いのに、常勝ではない。時に大きな失敗を経験しつつ、挑戦し続けることを忘れない。

そんな彼だからこそ2022年も、きっと魅力的な走りを見せ続けてくれることだろう。

 

 

第3位 プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)

昨年1位、スロベニア、32歳、オールラウンダー

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昨年ツール・ド・フランス総合2位とブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を成し遂げたことで堂々たるワールドランキング1位を掴み取ったログリッチだったが、今年はツールで途中リタイアを喫してしまったことでその座は失うことに。

それでもブエルタ総合優勝を始め数々の文句なしの成績を積み上げ、しっかりとこの位置に。結局、今年もひたすらに強かった。

 

今年のウィークポイントを振り返ると、パリ~ニース最終日でのあの2回の落車に見られるような、とにかく「すぐコケる」ところ。

自覚も十分にあったのか、チームとして彼の「ツール前哨戦」欠場を決める。すなわち、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネとかで、不用意に怪我をしないように・・・。

その戦略が裏目に出たのだろうか。ツール・ド・フランス本戦の第3ステージでは、完全に自分一人の責任でもって単独落車し、結局この落車をきっかけとして1週目を走り切る前にツールを去ることとなってしまった。

 

そしてストロングポイントは、昨年から引き続く、尋常じゃないほどの「ただでは転ばない」力。

それはもう信頼できるレベルであり、ツール直後の東京オリンピックでは、ロードレースこそ不調を感じさせる走りではあったが、その3日後の個人タイムトライアルで2位トム・デュムランと3位ローハン・デニスを1分以上突き放す圧勝。

そしてブエルタ・ア・エスパーニャでは、ギリギリの接戦であった昨年と打って変わって、それこそ今年のツール・ド・フランスのタデイ・ポガチャルを彷彿とさせるような余裕ぶりで完勝。付け入る隙がなかった。

隙があったとすれば、やはりその危なっかしい走りであった。第10ステージ。フィニッシュまで15.8㎞地点に用意された2級山岳でアタックしたマイヨ・ロホのプリモシュ・ログリッチ。そのまま総合2位エンリク・マスと総合3位ミゲルアンヘル・ロペスを突き放して独走を開始する。

 

が、その後の下りがとにかく危なっかしい・・・これはコケる、コケるぞ・・・と思っていたら、案の定。解説していた栗村修さんからも思わず「だから言わんこっちゃない」の一言。世界中が同じ感想を持っていたように思う。

結局、このときの落車はまったくこの先のパフォーマンスに影響がなかったから良いものの・・・本当にこの男は、完璧ではない。

ゆえに、魅力的でもある。この2級山岳のアタックのとき、彼の目の前には、スロベニア国旗を振る男性の姿が。彼にとって、熱狂的に応援するスロベニアの英雄が目の前で鮮烈なアタックを繰り出してくれたことは、きっと永遠に記憶に残ることだろう。

 

今後ももしかしたら、彼はツール・ド・フランスを制することはないかもしれない。たとえ、そうだとしても——彼が、世界で最も魅力的な走りを見せてくれる男の1人であることは、微塵も揺るぐことはないだろう。

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第2位 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィズマ)

昨年3位、ベルギー、27歳、オールラウンダー

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ここ数年、驚かせるような走りをする男が毎年何名も出てくるので食傷気味になる思いだが、それでも、その中でも、今年のこの男の走りは本当に極限の驚きをもたらしてくれた。

 

ツール・ド・フランスだけ見ても、超級山岳モン・ヴァントゥでの逃げ切りと個人タイムトライアル、そして最終日シャンゼリゼという、全くタイプの異なる3つのステージを勝つという離れ業をやってのけた。

シーズン全体を通しても—―今年は13勝という、彼にとってキャリアで最もプロ勝利をしたシーズンとなった——ティレーノ~アドリアティコでのカレブ・ユアンなどを相手取って勝ったピュアスプリント勝利からヘント~ウェヴェルヘムでの純粋クラシック勝利、アムステルゴールドレースでのトム・ピドコックとの一騎打ちにツアー・オブ・ブリテンでのステージ4勝と総合優勝という、ひたすらバリエーションに富んだ1年であった。

勝利だけではない。この男は本当に「2位」に恵まれた男であり、その輝かしきシルバーコレクションに今年は東京オリンピックロードレースと世界選手権個人タイムトライアル(2回目)とが加わった。昨年はロンド・ファン・フラーンデレンに世界選手権ロードレース(と、1回目の世界選手権個人タイムトライアル)。

これだけ贅沢な2位を並べられる男も他に——もしかしたらトム・デュムランくらいしか——いないのではないか。

 

 

そんなこんなで、やっぱりこの男もどこか「完璧」ではない。

ジュリアン・アラフィリップも、プリモシュ・ログリッチも、ワウト・ファンアールトも、あるいはマチュー・ファンデルプールにおいても、完璧とは言い難い選手たちなのだが——その中において、「完璧」というべき存在がいるとすれば、この男だ。

 

昨年はスロベニアの偉大なる先輩に1位の座を譲りはしたものの、今年はついに、堂々たる、誰の文句も言わせない完璧なリザルトで1位の座を手に入れた。

 

言わずもがな、今年「最強」の選手はこの男である。

 

 

 

 

第1位 タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)

昨年2位、スロベニア、23歳、オールラウンダー

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2018年にツール・ド・ラヴニールを総合優勝し翌年にプロデビューを果たしたときは、正直エガン・ベルナルに対する期待感ほどではなかったように思う。

初年度に彼も前年にベルナルに続いてツアー・オブ・カリフォルニアを総合優勝し、2年続けて凄い新人が出てきたな、くらいに思っていた。

同年のブエルタ・ア・エスパーニャではステージ3勝に総合3位という結果を叩き出し、ある意味でベルナル以上の才能だな、という感情を持っていた。

そのときはまだ、ベルナルがツール2連覇を果たすことは間違いないだろう、くらいにしか思っていなかった。

 

しかし、2020年の、あの衝撃的なツール・ド・フランス逆転総合優勝。

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この瞬間、このタデイ・ポガチャルという男が、これまでの常識を明らかに逸脱した存在であることが明らかとなった。

それは今年もまた、同様だった。その中でも最も衝撃的だったのが、ティレーノ~アドリアティコ第5ステージ。ここで彼は勝利したわけではなかったが、ワウト・ファンアールトやマチュー・ファンデルプールといった異次元の選手たちをさらに超えた存在であることを強く印象付けた、今年最も衝撃を受けたレースでもあった。

このときのことは以下の記事に詳しく書かせていただいている。

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そして、ツール・ド・フランスである。

それはもう、ポガチャルという存在による、ワンサイドゲームそのものであった。

1週目の休息日にエンリク・マスが早くも「表彰台争い」に焦点を絞るような言い方をしていたのが象徴的だった。それくらい、どうしようもないほどの力の差であったのだ。

 

あのクリス・フルームが、あれほどの男であってすら、今や正直諦めざるを得ないところにまで来ているくらいに実現が難しいことを感じさせている「5勝クラブ」入りについても、この男であればいとも簡単にやってのけてしまいそうな、そんな感じを多くの人が受けているように思う。

むしろ、彼であれば、幻の7勝すらも——?

 

そして来年、彼は「ダブルツール」を狙う、という噂も出てきている。

まだツールも2勝しかしていないのだし、そんなに性急に物事を狙ってもよくないのでは、もっと地に足をつけて——と、他の選手であれば言いたくなるものだが、この男がそれを狙うというのであれば、アルベルト・コンタドールも、クリス・フルームも成し遂げられなかったその偉業も、なんということはなく実現してしまうような気さえする。

 

あっという間に現れ、一瞬にして世界の常識を塗り替え続けている、規格外の男。

タデイ・ポガチャル。その男の物語は、まだまだ始まったばかりだ。

 

 

そして、ここまでは個人としての強さが際立ち、むしろチームについてはそこまで——という評価の多かったUAEチーム・エミレーツ。

しかし今年のツールの勝ち方は、このチームが着実にポガチャルのために進化を続けていることを感じさせるものであった。

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来年はジョアン・アルメイダ、ジョージ・ベネット、マルク・ソレルといった綺羅星のような存在が次々と新加入し、期待の若手であるフィン・フィッシャーブラックも今年の途中から加入。フアン・アユソーも、プロ2年目においてその才能をいよいよ明らかにしていくかもしれない。

 

タデイ・ポガチャルと、彼のための最強チーム「UAE」。

その行く先にはどんなドラマが描かれることになるのだろうか——。

(ここまで書いていて、リエージュ~バストーニュ~リエージュとイル・ロンバルディアを今年同時に制しているというこれもまたありえない出来事について触れることすらできなかった。本当に、書くべきことが尽きない、常識を外れ過ぎている男である)

 

 

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