りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2021年シーズンを振り返る② 今年のベストレース5選【後編:3位~1位】

 

前編の5位・4位に続き、後編として3位以上の3レースを紹介していく。

あくまでも「独断と偏見」に基づくものであり、異論は多くあるだろう。が、少しでも個人的に感じた強烈な思いを共有できれば幸い。

 

それでは、早速行ってみよう。

 

5位・4位はこちらから

www.ringsride.work

 

 

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第3位 ジロ・デ・イタリア第20ステージ

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今年最も面白かったグランツールは?と問われたら、例年は割とブエルタ・ア・エスパーニャだったりすることも多いし、2019年はツール・ド・フランスも面白かったりするのだが、今年に関して言えば個人的には断然、ジロ・デ・イタリアだろう。

タコ・ファンデルホールンやマウロ・シュミット、ロレンツォ・フォルトゥナートなどの意外な勝利、レムコ・エヴェネプールの活躍と失墜、サイモン・イェーツの鋭いアタックとジョアン・アルメイダのマイペース走行の激突、そしてエガン・ベルナルとダニエル・マルティネスの絆と劇的な勝利。

そんなドラマの詰まった今年のジロ・デ・イタリアの中でも、特に印象に残ったステージとして――私はこの、第20ステージを挙げる。

そこまで常に目立たないながらも堅実な走りを続け総合2位を護り続けていたダミアーノ・カルーゾ。その一世一代のアタックからの勝利が描かれたステージである。Embed from Getty Images

 

全長164㎞。比較的短いコースの残り90㎞から、標高2,000m超えの山岳が2つ連続で登場する。総獲得標高4,200mの強烈な超級山岳ステージである。

戦いはその最初の登り、1級山岳パッソ・サン・ベルナルディーノ(登坂距離23.7km、平均勾配6.2%、標高2,065m)でいきなり、巻き起こった。

 

フィニッシュまで残り60㎞。登りの終盤で、メイン集団の先頭にチームDSMの選手たちが集まってくる。

クリス・ハミルトンと、今年引退を決めたニコラス・ロッシュ。2人の若手とベテランの牽引で一気にペースが上がり、集団の人数も少しずつ絞り込まれていく。

そして、山頂を通過した直後の下り区間。九十九折の美しくも凶悪なそのダウンヒルで、ハミルトンとマイケル・ストーラー——昨年の今年のブエルタ・ア・エスパーニャで強烈なステージ2勝を成し遂げた男――が、7分32秒遅れの総合6位ロマン・バルデを引き連れてアタック。集団から抜け出して、逃げ残りの5名に合流した。

 

そして、このDSMのアタックに、食らいついていったのが総合2位のダミアーノ・カルーゾ。総合13位ペリョ・ビルバオに引きつられてのその攻撃を、当然総合首位エガン・ベルナル擁するイネオス・グレナディアーズも無視するわけにはいかない。

とはいえ、ここはまだフィニッシュまで60㎞。山岳もあと2つ残っている中で、アシストをすべて捨てる覚悟で猛追するわけにもいかない。ジャンニ・モスコン、ジョナタン・ナルバエスといったセカンド級のアシストたちに前を牽かせ、30秒程度のギャップをキープしながらイネオスは追いかけていく。

先頭もDSM&バーレーンのそれぞれのアシストが全力の牽引。逃げ残りのメンバーも全員脱落し、DSMのハミルトンも脱落。先頭はビルバオとカルーゾ、ストーラーとバルデの4名だけとなった。

 

2つ目の1級山岳パッソ・デッロ・スプルガ(登坂距離8.9km、平均勾配7.3%、標高2,115m)の登りで先頭4名とイネオスが牽引するメイン集団とのタイム差は50秒。すでにイネオスのアシストはジョナタン・カストロビエホとダニエル・マルティネスという最終アシストしか残っていない状態。イネオスも総合を逆転される危機的な状況には陥りそうにないものの、逆に言えばこれ以上は詰めることのできない、そんな状態となっていた。

 

すなわち、この日の勝利は先頭4名――の中の2人のエース、カルーゾとバルデに託されることとなった。

 

 

そして最後の登り。1級山岳アルペ・モッタ(登坂距離7.3km、平均勾配7.6%、標高1,727m)。

残り7.1㎞でまずはストーラーが遅れる。

そして残り6.5㎞で、最後のアシスト、ビルバオが仕事終了。

そのときがこのジロ・デ・イタリアで——いや、今シーズンで最も美しい瞬間とも言うべき——瞬間が映し出される。

 

それは——これまで数多くのエースを支えてきた最強のアシストであったカルーゾだからこその、何気ない仕草であった。

エースのために最後の一滴まで振り絞って戦うという、アシストの生き様を誰よりも理解している彼だからこその。

 

 

そして残り2㎞。

ついにカルーゾは、バルデを突き放す。

ジロ・デ・イタリア。イタリア人にとって最高峰とも言えるその舞台の、最後の山岳ステージ。

標高2,000m超の山岳を2つ越えた先にある山頂フィニッシュへと至る最後の登りで、彼は先頭を突き進んでいた。

いつもその背後にいるはずのエースは存在しない。

今や、エースは彼自身なのだから。

 

その表情は、いつもエースを護る盾となるときのそれと変わらない。無骨で、真剣な、固く口を結んだその表情。

しかし残り500m。

後方から迫るエガン・ベルナルとのタイム差が22秒で固定され動かなくなったことを知ると、初めて彼の表情に笑顔が浮かんだ。

 

 

プロ13年目。

数多くのエースを輩出してきた一流のアシストが、キャリア初となるグランツール勝利と、そして総合2位の座を手に入れた瞬間であった。

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今年のジロ・デ・イタリアは最高だった。

すべての選手にドラマがあり、誰にとっても最高の終わりだったと言ってよい、そんな3週間であった。

 

 

 

第2位 ティレーノ~アドリアティコ第5ステージ

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イタリアの西海岸(ティレニア海)と東海岸(アドリア海)とを結ぶ、「2つの海を結ぶレース」ティレーノ~アドリアティコ。

その第5ステージは、毎年1つは必ず組み込まれる「壁のステージ(タッパ・ディ・ムーリ)」。

最大勾配19%の「壁(ムーロ)」ヴィア・ヴァッレ・オスキューロを含む周回コースを4周させる全長205㎞の丘陵ステージである。

 

昨年の「壁のステージ」はマチュー・ファンデルプールが逃げ切り勝利しており、今年も第3ステージを制するなど絶好調。

その他、第1ステージを制したワウト・ファンアールト、第2ステージを制したジュリアン・アラフィリップなど、一流パンチャーたちが集い、この日の勝利を競い合った。

 

勝負が動いたのは残り66㎞。

緩やかな登り勾配で集団が縦に長く引き伸ばされていき、その集団の先頭でマチュー・ファンデルプールが一気にペースアップを図った。

アラフィリップがすぐさまこれに反応するが、ここでメカトラブル? ポジションを一気に落とし、その後も復帰できないまま崩れ落ちていく。

 

さらに12名ほどの有力集団に絞り込まれたメイン集団から、残り56㎞地点でエガン・ベルナルがアタック。ここにはセルジオ・イギータ、タデイ・ポガチャル、ワウト・ファンアールト、そしてマチュー・ファンデルプールの4名が追随し、5名の精鋭集団に絞り込まれた。

 

そこからさらに残り52㎞。

ここでファンデルプールが残る4名を突き放し、独走を開始した。

 

 

追走4名の中でタデイ・ポガチャルがメカトラに見舞われたこともあり、先頭ファンデルプールと彼らとのタイム差は徐々に開いていく。

残り40㎞で1分。

残り35㎞で1分30秒。

そして残り20㎞で・・・3分20秒。

4名も追いかけてきたメイン集団に飲み込まれ、集団の先頭は総合リーダーのポガチャルのためにダヴィデ・フォルモロが牽引しつつ、先頭のファンデルプールはすでに総合争いからは大きく遅れていることもあり、UAEチーム・エミレーツとしても本気でこれを追いかける理由はない。

 

このまま、ファンデルプールが今大会2勝目、そして昨年に続く「壁のステージ」勝利となることは確実であるように思われていた。

 

 

だが、残り18㎞。

完全にステージ勝利を諦めていたと思っていたメイン集団から、フォルモロの牽引が終わると同時に、タデイ・ポガチャルがアタック。

ポガチャルから35秒差で総合2位につけるワウト・ファンアールトにとっても、この先の平坦スプリントステージと短距離個人TTでの逆転を考えるうえで、これを逃すわけにはいかない。ポガチャルの動きにすぐさま反応する。

 

が、ここから先のポガチャルの強さは、想像を絶するものであった。

 

その他のライバルたちをいとも簡単に引き千切ったワウト・ファンアールト。そのファンアールトすらも、赤子の手をひねるかの如く瞬く間に突き放したポガチャル。

ちょっと前にこの集団から抜け出して30秒のリードを保っていたファビオ・フェリーネらをあっという間に捕まえると、残り15㎞でさらに彼らも突き放し、単独2番手となって先頭のマチュー・ファンデルプールを追いかける。

 

残り10㎞。

先頭ファンデルプールと単独2位ポガチャルとのタイム差は2分14秒。

普通に考えれば、追いつくはずのない距離であった。

 

しかし、残り4㎞。

先頭ファンデルプールとポガチャルとのタイム差は1分10秒。

1年前。ツール・ド・フランス第20ステージのラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ山岳TTで、「不可能」を「可能」にした男が無心にペダルを踏み続ける。

 

 

残り3㎞。

ファンデルプールとポガチャルとのタイム差は、53秒。

ファンデルプールの足元も段々とおぼつかなくなり、慌てて補給を獲り始めている。その表情に、余裕の影は見えない。

 

残り1.2㎞。

タイム差は、20秒。

 

残り1㎞。

タイム差は16秒。

ポガチャルの視界に、ファンデルプールの背中が映った。

 

 

15秒、13秒・・・そして10秒。

 

だが、さしものポガチャルも、それ以上のタイム差を縮めることはできなかった。

ファンデルプールは限界を遥かに超える走りができる男であった。

 

 

勝ったのは、マチュー・ファンデルプール。

それは結果だけ見ればひどく順当な、凡庸な勝利であった。

 

 

だが、その姿に、勝者と言えるものは何一つなかった。

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この日、勝ったのはマチュー・ファンデルプールであった。

しかしこの日は、タデイ・ポガチャルという男が、あらゆる人間の想像を超えた存在であることを強く強く印象付ける1日に終わった。

その結末は、やがて今年のツール・ド・フランスの「圧倒的な勝利」へとつながっていく。

 

タデイ・ポガチャル。2020年代を間違いなくリードする天才。

彼の前に、「ツール・ド・フランス5勝」というのは、もしかしたら単なる通過点なのかもしれない。

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第1位 世界選手権男子エリートロードレース

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今年の世界選手権は開催前から面白くなることが宿命づけられていた。

まずはコース。さすがサイクリングの聖地ベルギーでの世界選手権というべきか。「フランドルの首都」アントウェルペンから学術都市ルーヴェン、そしてフランドル地方南端に位置するオーベレルエイセまで。

モスケストラートやベケストラートなどの石畳の激坂を含む難易度の高い「フランドリアンサーキット」と、急坂はあれど一つ一つの距離は短く決定的なアタックのかかりづらい「ルーヴェンサーキット」の組み合わせ。最後のフランドリアンサーキットが終わるのは残り40㎞。

クラシックスペシャリストによる独走による勝利か、パンチャーによるルーヴェンサーキットでのアタックか、最後まで生き残ったスプリンターによる争いとなるか。

あらゆる選手にチャンスが許された、「誰が勝つのか全くわからない」名コースであった。

 

「最強」は間違いなく地元ベルギーチーム。最大の優勝候補ワウト・ファンアールトと、今年のミラノ~サンレモ覇者ジャスパー・ストゥイヴェンをWエースに据え、絶好調のレムコ・エヴェネプールにドゥクーニンク・クイックステップ所属の名ルーラーたちも集う。あらゆる勝ち方が可能な、まさに隙の無い布陣であった。

イタリアも強豪であった。今年無類の強さを誇っているヨーロッパ王者ソンニ・コルブレッリにマッテオ・トレンティン、ダヴィデ・バッレリーニといったフィニッシャーたちが揃う。

一方のディフェンディングチャンピオン、ジュリアン・アラフィリップ率いるフランスチームは、決して優勝候補とは言い難かった。

決め所に欠けるルーヴェンサーキットはアラフィリップの必勝パターンにはそぐわないし、アラフィリップ以外にはフロリアン・セネシャル、ブノワ・コヌフロワ、レミ・カヴァニャ、アルノー・デマールなどの実力者たちが揃ってはいるものの、いずれもファンアールトやストゥイヴェン、エヴェネプールやコルブレッリ、トレンティンらと比較すると、世界選手権の舞台におけるフィニッシャーとしてはやや物足りない。

コースにベストマッチしているとは言い難いエースのワントップ体制――これがフランスチームに対する戦前の概ねの評価であったといって間違いないだろう。

 

 

だが——だからこそ、なのかもしれないが——レースを動かし続けたのはそのフランスチームであった。

 

 

残り183.3㎞。全長267.7㎞の今回の世界選手権ロードレースの実に3分の2ほども残っている段階で、フランスは「最初の一手」を繰り出した。

すなわち、アントニー・テュルジスによる、あまりにも早すぎるアタック。これはすぐさまベルギーチームのティム・デクレルクとレムコ・エヴェネプールによって抑え込まれる。

さらに残り180㎞。フランドリアンサーキットの「入り口」スメイスベルフ(登坂距離700m、平均勾配8.8%)にてブノワ・コヌフロワがアタック。

ここにレムコ・エヴェネプール、さらにはブエルタ・ア・エスパーニャでステージ3勝を挙げたマグナス・コルトニールセンも食らいついたことで、レースは早くも活性化の様相を呈し始めた。

 

全行程の半分も消化しないうちに混沌とし始めたプロトン。

続くフランドリアンサーキットの難所モスケストラート(登坂距離550m、平均勾配8.0%)でバラバラになり始め、残り170.6㎞の「オーベレルエイセのS字コーナー」でアルノー・デマールやプリモシュ・ログリッチ、カスパー・アスグリーン、ブランドン・マクナルティなどの非常に強力なメンバーを含む15名の小集団がプロトンから抜け出す。

さらに直後の石畳急坂ベケストラート(登坂距離439m、平均勾配7.7%)でベルギーチームが集団の先頭で横一列になり物理的に「蓋」をしたことによって集団の速度が急速に低下。

小集団とプロトンとのタイム差が1分以上に開いた段階で、この強力な小集団に一人も乗せることのできなかったイタリアチームは完全な後手に回ることに。アレッサンドロ・デマルキ、ジャンニ・モスコン、ディエゴ・ウリッシ、そして優勝候補の一人であったはずのマッテオ・トレンティンまでも集団先頭を牽き、必死の追走を仕掛けざるを得なくなってしまった。

 

残り133.2㎞。イタリアが全力の牽引を続けたメイン集団がようやくエヴェネプールたち15名をキャッチ。

しかし同時にトレンティンが脱落。

2019年世界選手権銀メダリストの、あまりにも早すぎる脱落。

レースはようやく、その全行程の半分を消化したところだというのに。

 

 

これはまだ始まりに過ぎない。

混沌と共に幕を開けた2021世界選手権男子エリートロードレースは、より激しさを増す後半戦へと突入していく。

 

 

15名の危険な小集団が引き戻され、その時点でわずか17秒差でしかなかった逃げ集団も吸収し、集団は1つに。

しかしここで集団が落ち着くはずもなく、そこからのカウンターで再び活性化が図られる。今度もまた、きっかけを作ったのはフランスチームであった。

 

残り126.3㎞。ヴァランタン・マデュアスがアタック。ベルギーもすぐさま反応。イヴ・ランパールトがこれを引き戻す。

残り117㎞。ルーヴェンサーキットにおける最も重要な登りワインペルス(登坂距離360㎞、平均勾配7.9%)でアントニー・テュルジスがアタック。再びベルギーが反応し、さらに残り113.4㎞からは「トラクター」ティム・デクレルクが集団先頭を牽き始め、レースをひたすら荒らしにかかろうとするフランスの戦略を力で抑え込もうとする。

ディフェンディングチャンピオンにして「挑戦者」たるフランスと、「王者」たるベルギーのせめぎ合い。

デクレルクによる牽引でわずか十数キロの平穏が訪れたものの、残り95㎞でニルス・ポリッツのアタックをきっかけにヴァランタン・マデュアス、レムコ・エヴェネプール、ディラン・ファンバーレ、マッズ・ウルツシュミットなどの11名の逃げ集団が形成される。

そして残り71㎞。レースをコントロールする重要な役割を担い続けてきたティム・デクレルクが、早い段階から動き続けざるを得なかった中で、想定よりもずっと早く脱落することとなる。

 

残り70㎞。2回目のフランドリアンサーキットの入り口「スメイスベルフ」で(1回目同様に)ブノワ・コヌフロワがアタック。今度はヴィクトール・カンペナールツがこれを抑え込む。

間もなくやってくる危険なモスケストラートに備えてディラン・トゥーンスが前に出てコントロールを担うなど、デクレルク脱落後もベルギーチームは精鋭たちを揃えてあくまでもレースメイクを担っていく。

モスケストラートの登りでミハウ・クフィアトコフスキが抜け出す場面もあったが、これもカンペナールツが集団を牽引して引き戻しに成功する。

続く「オーベレルエイセのS字コーナー」でもイヴ・ランパールトを先頭にベルギーチームが集団先頭を支配。

重要所できっちりと選手を変えながら集団をコントロールし続けるベルギーチームは今大会最強のチームであることは間違いがなかった。

このまま集団を安定させ続けることができれば、彼らの勝利は固かった。

 

だが、そんな彼らの戦略をひたすら破壊し続けようと狙うのがフランスであった。

 

 

今大会最後の本格的な石畳の登りとなる残り60㎞の「ベケストラート」。

ここでついに、ディフェンディングチャンピオン、ジュリアン・アラフィリップが動く。

加速するアラフィリップに、当然すぐさまワウト・ファンアールトが反応。ファンアールトの後ろにはもう1人のエース、ジャスパー・ストゥイヴェン。さらにチェコのゼネク・スティバルとスロベニアのマテイ・モホリッチ、イタリアのソンニ・コルブレッリといった錚々たるメンバーが連なって石畳急坂を攻略していく。

 

抜け出したのは12名。先頭で生き残っていた5名と合流し、計17名。

その内訳は下記の通りである。

  • ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
  • ヴァランタン・マデュアス(フランス)
  • フロリアン・セネシャル(フランス)
  • レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
  • ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
  • ワウト・ファンアールト(ベルギー)
  • アンドレア・バジョーリ(イタリア)
  • ソンニ・コルブレッリ(イタリア)
  • ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
  • マテイ・モホリッチ(スロベニア)
  • トム・ピドコック(イギリス)
  • ディラン・ファンバーレ(オランダ)
  • マチュー・ファンデルプール(オランダ)
  • ミケル・ヴァルグレン(デンマーク)
  • マークス・フールガード(ノルウェー)
  • ニールソン・ポーレス(アメリカ)
  • ゼネク・スティバル(チェコ)

 

フランス、ベルギー、イタリアが3名ずつ。

優勝候補チームが数を揃え、いよいよ最終決戦が始まる。

 

 

 

ベルギーは強かった。

ひたすら荒れた展開を抑え込み続け、最終局面にもWエースを残し、最後のルーヴェンサーキットに至るまでの道のりにおいてもレムコ・エヴェネプールによって集団牽引を任せることで、30㎞に渡り「無風」の時間を作ることにも成功した。

 

しかし残り26.2㎞。ついにこのエヴェネプールも脱落する。テュルジス、そしてコヌフロワによる残り180㎞からの攻撃に初期段階から反応し続けざるを得なかった彼の、その無尽蔵とも思える体力にもいよいよ限界がやってきたようだった。

 

そしてそれを待っていたとでもいうように、再びフランスが動き始める。

 

 

残り60㎞のベケストラートで最初のアタックを繰り出したジュリアン・アラフィリップ。その後の「最後のスメイスベルフ」でもアタックしたものの、驚異の粘り強さを見せたソンニ・コルブレッリによって引き戻され、失敗に終わっていた。

 

このとき彼はチームカーに戻り、代表監督のトマ・ヴォクレールに相談していたらしい。曰く、「フロリアン・セネシャルのスプリントのためにアシストに回るべきか?」と。

これに対するヴォクレールの回答はこうだ。「本能に従え。それが、君の最も得意とするところなのだから」

 

 

残り21.5㎞。

ルーヴェンサーキットの勝負所ワインペルスで、アラフィリップはこの日3回目のアタックを繰り出す。

アシストのヴァランタン・マデュアスに牽かれての、得意の「ジュリアン・ミサイル」。しかし、わずか360mのワインペルスの短い登りでは、決定的なタイムギャップを作ることはできず、間もなく引き戻される。

 

だが、アラフィリップは止まらない。

残り19.4㎞。

今大会4回目のアタック。今度もまた、ニールソン・ポーレスやジャコモ・ニッツォーロがすぐさま食らいつき、しかも彼らはローテーションを拒否。

アラフィリップはまたも集団に引き戻されてしまった。

 

 

それでも、まだ、止まらない。

「アタックに続いてアタックしろ」「本能に従え」。ヴォクレールの言葉通りに、彼は戦い続けることを決して辞めなかった。

 

そして残り17.4㎞。

フィニッシュ前最後の石畳の登り「シント=アントニウスベルグ」。

そこで5度目のアタックを繰り出したアラフィリップは、ついに、集団との決定的なタイム差を作ることに成功した。

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戦い続けることを辞めなかったフランス。

その早すぎる攻撃によってまずはイタリアチームが崩れ、懸命に抑え込もうとし続けていたベルギーチームも、最後は集団の中で動けないままレースを終えることとなった。

 

それは決して完璧な作戦ではなかった。後手を踏んだイタリアも、逆に最後の最後まで息をひそめたことで最後に勝利を掴めた女子レースでのイタリアと同じような戦略を取ろうとして失敗したのだし、ベルギーも、フランスの無謀な攻撃の連続さえなければ最後まで完璧にレースを運び続けていたことだろう。

フランスの攻撃は無謀に過ぎたのは間違いなかった。ヴォクレール自身も、最後はアラフィリップが想像を超えたクレイジーさを発揮したからこそ勝てたことを認めているし、寿命が縮んだとも言っていた。

 

完璧な作戦など存在しない。あらゆる戦略に理由があり、どの戦略にもリスクがある。

今回のフランスの勝利は「たまたま」でしかないし、彼らがクレバーであったわけでは決してない。

 

 

だが間違いなく言えることがある。

 

フランスは——そしてその中心たるジュリアン・アラフィリップは——「挑戦者」であることを辞めず、戦い続けたからこそ勝利を手に入れることができた。

その走りは、たとえ勝てていなかったとしても、十分に観る者を惹きつけるものであっただろう。

その走りを背負う彼こそが、紛れもない「王者」である。

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今年も実に魅力的なレースであふれかえっていた。もちろん、ここに書ききれなかった名レースは数多くある。E3ビンクバンク・クラシックミラノ~サンレモツール・ド・フランス第11ステージなど——。

 

何度も心を奮い立たせ、勇気づけてくれる名レースの数々。

その一部を少しでも共有できたとしたら、それはとても幸いである。

 

 

来年もまた、美しきレースに出会えることを願って。

 

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