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サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2021年シーズンを振り返る① 今年のベストレース5選【前編:5位・4位】

 

毎年恒例の「今年のベストレース」。今年も独断と偏見のもとに、個人的に印象に残った5つのレースを紹介していく。

 

過去のベストレースは以下の通り。

2016年

4位:ツアー・ダウンアンダー第5ステージ

3位:パリ~ニース第7ステージ

2位:ジロ・デ・イタリア第19ステージ

1位:ロンド・ファン・フラーンデレン

2016年シーズンを振り返る③ ~今年のベストレース4選~ - りんぐすらいど

2017年

4位:パリ~ニース第8ステージ

3位:ロンド・ファン・フラーンデレン

2位:ジロ・デ・イタリア第14ステージ

1位:ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ

2017年シーズンを振り返る① 今年のベストレース4選+1 - りんぐすらいど

2018年

4位:ドバイ・ツアー第4ステージ

3位:ラ・フレーシュ・ワロンヌ

2位:世界選手権男子エリートロードレース

1位:ジロ・デ・イタリア第19ステージ

2018年シーズンを振り返る① 今年のベストレース4選+1 - りんぐすらいど

2019年

4位:ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ

3位:ロンド・ファン・フラーンデレン

2位:世界選手権男子エリートロードレース

1位:アムステルゴールドレース

2019年シーズンを振り返る① 今年のベストレース4選 - りんぐすらいど

2020年

5位:ジロ・デ・イタリア第8ステージ
4位:パリ~ニース第6ステージ
3位:ブエルタ・ア・エスパーニャ第8ステージ
2位:ロンド・ファン・フラーンデレン
1位:ツール・ド・フランス第20ステージ

2020年シーズンを振り返る① 今年のベストレース5選(+1)【前編:5位~3位】 - りんぐすらいど

 

 

今年もまずは5位~4位から紹介!

珠玉のレースたちを振り返っていく。

 

 

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第5位 オーストラリア国内選手権ロードレース

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シーズン冒頭の「国内選手権」ではあるが、それは新進気鋭の若手と、ワールドツアーチームとしての意地を見せたいベテランとの、白熱したドラマの舞台となった。

 

まずはこのレースに至るまでの「前提」がある。

上記バイクエクスチェンジについての記事の前半を見てもらえればと思うが、スポンサー危機に瀕しアダム・イェーツやジャック・ヘイグ、ダリル・インピーといったチームの中心人物を手放したチーム・バイクエクスチェンジ。その苦境を象徴するかの如く、苦しいシーズン幕開けを迎えていた。

すなわち、ツアー・ダウンアンダー代替レースとなるサントス・フェスティバル・オブ・サイクリングでの「惨敗」。もちろん第1ステージでルーク・ダーブリッジが大逃げを決め、最終的な総合優勝も手に入れるが、山岳ステージとなる第2・第3ステージはクラブチーム所属のルーク・プラップとそのチームメートであったリッチー・ポートに敗れ、最終スプリントステージも、バイクエクスチェンジのエース、ケイデン・グローブスが、同じくプラップたちのチームメートであるサム・ウェルスフォードに敗れるという事態。大会唯一のワールドツアーチームであるバイクエクスチェンジが、プロチームですらない若手たちにいいようにやられ、1勝3敗という結果を味わっていた。

さらに、続く国内選手権個人タイムトライアルにおいても、昨年・一昨年と世界王者ローハン・デニスを破っているダーブリッジが、またこのルーク・プラップに43秒差もつけられて完敗。プラップという男が才能に満ち溢れた男であることは間違いないが、それでもバイクエクスチェンジとしては非常に苦しいシーズン開幕期を過ごしてしまっていることもまた間違いななかった。

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だが、その後の国内選手権クリテリウムから、バイクエクスチェンジによる「反撃」が始まる。

他の国の国内選手権ではあまりないようなクリテリウム種目。UCI公式レースではないものの、過去2016年~2018年にカレブ・ユアンが3連勝するなど、実力あるオージースプリンターたちの台頭の舞台となっている重要な種目である。

そして昨年は先ほどサントス・フェスティバル・オブ・サイクリング最終ステージで勝利したサム・ウェルスフォードが、やはりこのときもケイデン・グローブスを倒して勝利している。今年も、このまま「普通に」戦っていたのでは、敗北を繰り返すことになるだろう——そう考えたバイクエクスチェンジは、クリテリウムらしからぬ戦略に出ることとなる。

 

すなわち、終始積極的にアタックを繰り返す、ルーク・ダーブリッジ。

残り7周でチーム・ブリッジレーンのニコラス・ホワイトがアタックしたときにもダーブリッジは反応し、この2人が集団から抜け出すこととなる。

さらに残り6周で集団からインフォーム・TMXメイクのパトリック・レーンがアタックすると、今度はここにケイデン・グローブスが食らいついていった。

結果として追いついたレーンとグローブスを含め、先頭は4名。

集団はお見合い状態となってしまい、この4名はそのまま勝ち逃げ集団となった。

 

勝利が約束された先頭4名のうち2名がチーム・バイクエクスチェンジ。

圧倒的有利を活かすべく、早速グローブスのためにハイペースで牽引を開始するダーブリッジ。この勢いにたまらずパトリック・レーンが篩い落とされ、ダーブリッジ&グローブスvsニコラス・ホワイトという2vs1の構図に。

こうなってしまってはもう、ホワイトにはどうしようもなかった。

 

自らレースを作っていき優位な立場を作り、ワールドツアーとしての意地を見せた圧倒的な勝ち方をしてみせたバイクエクスチェンジ。

こういった前提を踏まえて、この「国内選手権ロードレース」へと突入していく。

 

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2月7日、日曜日に開催された国内選手権男子エリートロードレース。

今年の国内選手権の舞台となるヴィクトリア州バララット郊外を巡る周回コースで、その周回(1周11.5㎞)の中にはブニンヨン山(登坂距離3㎞・平均勾配5.3%)が含まれ、全部で16周回させることになる(全長186.5㎞)。

総獲得票は2,977m。

例年のオーストラリア国内選手権ロードレースらしい、厳しいコース設定となっている。

 

昨年の優勝者は現バイクエクスチェンジのキャメロン・マイヤー。

今年も連覇を目指し、チーム一丸となって序盤から積極的に動いていく。

 

詳細なレースレポートは以下も参照

note.com

 

まず最序盤にできた12名の逃げ集団の中にはダミアン・ホーゾンケイデン・グローブス。その後、アレックス・エドモンドソンも加わり、この逃げ集団は16名に。

レース中盤にこれが吸収されると、カウンターで宿敵サム・ウェルスフォードとブレンダン・ジョンストンがアタック。エドモンドソンは再びここに乗ろうと試みるが、これはうまくいかなかった。

 

数の利を活かし、あらゆる局面に対応できるように動き続けていたバイクエクスチェンジ。

しかし、ここで再び——みたび——「あの男」によって、計画が崩されようとしていた。

 

すなわち、ルーク・プラップ。

今年、その実績を続々と積み上げつつある新時代の才能が、残り64㎞地点で集団から飛び出し、一気に先頭を走るウェルスフォードとジョンストンに追い付いた。

さらにこれを残り55㎞地点までに振り落とし、その後は彼の得意とするタイムトライアルモードで独走を開始。

残り50㎞――普通に考えれば、逃げ切るなど不可能な距離と言えるこの状況で、しかし彼は明らかに「危険」な存在であった。

 

よって、集団内の牽引の責任を負わされるバイクエクスチェンジも本気の追走を仕掛ける必要があった。

グローブスもルーカス・ハミルトンもすべてをここで出しつくす勢いで牽引。なんとか残り30㎞でタイム差が1分40秒近くにまで縮まったところで、すでにバイクエクスチェンジの支配的な体制は崩壊していた。

 

そこで攻撃を仕掛けたのが、現ユンボ・ヴィズマ所属、2019年のツアー・オブ・ジャパン総合優勝者、クリス・ハーパー。

2度にわたる彼の攻撃に、バイクエクスチェンジの選手は誰一人食らいつくことができなかった。

そこに乗ったのは、プラップのチームメートであるケランド・オブライエンと、昨年のヘラルドサン・ツアー総合2位で現イスラエル・スタートアップネーション所属のセバスティアン・バーウィックのただ2人だけ。

この強力な4名を追走する集団の中にはこれもまたプラップのチームメートであるインフォーム・TMXメイクのマーク・オブライエン、チーム・ブリッジレーンのニコラス・ホワイト、チーム・サプラサイクリングのジェシー・エワート、ブールカン=ブレス・アン・シクリスムのスコット・ボウデン。

 

そして、バイクエクスチェンジからはただ一人、ディフェンディングチャンピオンのキャメロン・マイヤーだけ。

この追走集団の先頭を牽く役割は、立場的には他のチームよりも圧倒的に上のマイヤーが全責任を負わされる形となった。

 

バイクエクスチェンジ、絶体絶命。

 

しかし、その危機を救う男が、そこにやってくる。

 

 

ルーク・ダーブリッジ

プラップが抜け出たあとに集団を牽引し、一度は力尽きて遅れていったはずの彼が、この局面でマイヤーを守るべく、集団復帰を果たした。

 

元国内TT王者の牽引力はやはり凄まじく、残り10㎞を切って、一気に先頭4名とのタイム差を縮めていく。

先頭でもずっと逃げていたプラップが千切れ、バーウィックが千切れ、やがてハーパーも千切れてダーブリッジが牽くメイン集団に吸収される。

残るはケランド・オブライエンただ一人に。

 

だがここからも、彼のチーム「インフォーム・TMXメイク」の波状攻撃は止まらない。

さらに集団内に残っていたもう1人のチームメート、マーク・オブライエンがアタックし、先頭のケランドに合流。

さらにここにチーム・ブリッジレーンのニコラス・ホワイトも加わり、再び膨れ上がった先頭はメイン集団とのタイム差を広げにかかった。

 

 

それでも、ダーブリッジは諦めなかった。

先ほどのマーク・オブライエンのアタックの際にも集団から千切れかけていたはずの彼は、すぐにまた復帰して何食わぬ顔で集団を牽き続ける。

すでに限界は何度も迎えているはずだった。

しかし、執念の走り。タイムトライアルでは若手に敗北し、クリテリウムではチームメートの若き才能のためにレースを作り上げリベンジを果たした男。

その彼が、この日もチームメートのキャメロン・マイヤーのために、執念の走りを見せ続けた。

それは、苦境に立たされる母国唯一のワールドツアーチームに所属し、それを護ろうとするための意地であった。

 

そして、残り5㎞を切って、ついに彼は先頭集団を捕まえた。

 

 

残り4㎞。

先頭は8名。

ここでクリス・ハーパーが落車し、マーク・オブライエンがその煽りを受けて失速。

すでにルーク・プラップも遅れており、有利に進めていたはずのインフォーム・TMSメイクももうケランド・オブライエンただ一人に。

 

残り2㎞でこのケランド・オブライエンがアタック。抜け出そうと試みる。

が、これもルーク・ダーブリッジの牽引によって抑え込まれる。

 

ラスト1㎞。

このタイミングで、集団にはいなかったはずのジェームズ・ウェーラン(EFエデュケーション・NIPPO)が後方から一気に追いついてきて、そのうえそこからさらに追い抜くようにして鋭いスプリントを開始。

不意を突く攻撃で一気にギャップを開いていくウェーランだったが、この攻撃すらも、ダーブリッジはしっかりと反応し、引き戻す。

 

ここで、ダーブリッジは力尽きる。

 

あとは、エースのキャメロン・マイヤーの出番だった。

 

 

残り500m。

もう1度、ケランド・オブライエンがアタック。

ニコラス・ホワイトがこれを懸命に追いかけるが、届かない。なかなかオブライエンが失速しない。

しかしこのときマイヤーは、ホワイトの背中でしっかりと冷静に待ち続けていた。

 

残り300m。

ホワイトが諦めたかのように項垂れ、失速する。

一気に開く、オブライエンとホワイトとのギャップ。

そのタイミングで、マイヤーが飛び出した。

 

残り150m。

オブライエンもいよいよ、足を使い切ったのか失速。

しかしもうすでに、残り距離はごくあとわずか。

迫るマイヤー。

 

果たして、間に合うのか。

 

 


そして——。

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ほんのごくわずか、車輪1つ分の差であった。

最後の最後でマイヤーがオブライエンを差し切り、あの絶体絶命な状況からのまさかの大逆転によって、勝利を掴み取った。

 

「ルーク・ダーブリッジは信じられない男だ。僕たちは集団の中に埋もれてしまい、完全に終わってしまったと思っていたのに。最後の4周回は僕も調子があまりよくなかった。それでも彼は僕を信頼してくれて、最後はなんとか、奇跡を手繰り寄せることができた*1」――キャメロン・マイヤー

 

「それはとてもストレスフルなレースだった。僕たちは途中までレースを支配していたつもりだったが、そこでプラップが行って、これはやばい、と思った。そこでスポーツディレクターのマット・ウィルソンがやってきて言ったんだ。『さあ行け』って。

 僕は1周全力でもがき続けた。そのあとは一旦、プロトンからは脱落したものの、それでも僕は休むことなく走り続け、おそらく2周ほど使って再び前に戻ってきた。最終周回はひたすら仕事し続け、本当につらい時間だった。

 そのとき僕は、まさかこのレースをわずか100mで逆転して勝つなんて思ってもいなかった。マイヤーはいいヤツだ。僕は彼のために走ることが大好きで、僕たちは本当にうまくやってのけた。

 勝てるかどうかなんてわからなかった。ただ、諦めることだけは絶対にしなかった。このチームにおいて一番重要なことは、決して諦めないこと。ただ戻ってきて、戻ってきて、戦い続けること。

 僕たちは今日、それをやってのけたんだ」――ルーク・ダーブリッジ

 

 

「諦めず、戦い抜くこと」――それは、2年前のジロ・デ・イタリアで奇跡のような勝利をエステバン・チャベスが果たしたときもまた、心情として持ち続け、勝利に繋がったポリシーであった。

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スポンサー問題はまだまだ終わりが尽きない。

来年もチーム・バイクエクスチェンジ・ジャイコと名前を変えるが、このジャイコだって結局はオーナーのゲイリー・ライアンの持ち出しである、状況は好転しているとは言い難い。エステバン・チャベスも、ロバート・スタナードも、チームを去る。

 

それでも彼らはマヌエラ・フンダシオンやプレミアテックといった非オーストラリアの資本に乗っ取られるような形になることを頑なに拒否し、彼らなりのポリシーを堅持しながら戦い続けることを選んでいる。

それは決して強いチームになることを意味しないかもしれないが、しかしそれでも勝てるということ、そして人を感動させるドラマを創れるんだということを、このレースは証明してみせてくれた。

 

このレースの記事をシーズン冒頭にアップしたときに頂いたコメントも、そんな私の想いを補強してくれた。

 

私はルーク・ダーブリッジ選手のファンで、オーストラリア選手権での活躍はもちろん、ワールドツアーなどヨーロッパのレースでもエースでないとはいえ、いぶし銀の働きをする彼が大好きです。
彼はオーストラリア国内では無双の強さを持っている選手だとどこかで思っている自分がいましたので、そのため今年のオーストラリア選手権のタイムトライアルの結果はとてもショックでした。ですが、その後のクリテリウム、ロードレースでの献身的なチームへのアシストの姿を見て、「ああ、彼を応援してきて本当に良かった」と改めて感じました。
ダーブリッジ選手の活躍の喜びを誰かと共感したいと思っていた時に、こちらの記事を見つけました。私があの時の彼の走りを見て感じたこと、思ったことを、あなたがまるでひとつの物語のように情熱的に書いてくださっていて、自分のことではないとはいえ胸が熱くなりました。
素敵な記事をありがとうございます。これからも楽しみにしています。

 

これだけの熱い思いを沸き立たせるレースは間違いなく今年のベストレースの1つだし、これからもこういったレースを紹介していきたいという思いを後押ししてくれたコメントだった。

 

来年は今回のこの国内選手権ロードレースでも活躍し、バイクエクスチェンジを苦しめたケランド・オブライエンもトレーニーからの正式昇格が決定。

来年もバイクエクスチェンジはまだまだ期待できる! その活躍に、引き続き注目していこう。

 

 

第4位 ツール・ド・ラヴニール第9ステージ

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U23版ツール・ド・フランスとも呼ばれ、「若手の登竜門」の最高峰。過去にもミゲル・インドゥラインやローラン・フィニョン、バウケ・モレマ、ナイロ・キンタナ、ミゲルアンヘル・ロペス、ダヴィド・ゴデュ、そしてエガン・ベルナルやタデイ・ポガチャルといった一流ライダーたちを輩出しているU23最重要レースでもあるこの「ツール・ド・ラヴニール」。

新型コロナウィルスの影響で昨年大会が中止になってしまったため2年ぶりの開催となった今年も、期待通りの白熱のレースとなった。

 

ある意味本家ツール・ド・フランスよりも激しい山岳ステージが用意されることも多いこのツール・ド・ラヴニール。最後の3ステージも非常に厳しく、まずは第7ステージのグラン・コロンビエ山頂フィニッシュでノルウェーのトビアスハラン・ヨハンネセンが2位フィリッポ・ザナに1分以上のタイム差をつけて優勝。

総合2位カルロス・ロドリゲスとのタイム差はこの時点で2分17秒。前回大会の覇者トビアス・フォスに続くノルウェー人総合優勝が目の前に迫ってきていた。

 

続く第8ステージは超級クロワ・ド・フェールを終盤に登るレイアウト。

その山頂を越えた段階で先頭集団はトビアスハラン・ヨハンネセンとカルロス・ロドリゲス、フィリッポ・ザナのわずか3名。のちに現ユンボ・ヴィスマ所属のハイス・レームライズも追いついてきて4名となるが、いずれも総合首位~4位を独占する強豪選手のみ。

この頂上決戦の最終フィニッシュはわずかな登りの先のスプリント。ここでも激しい決戦合戦の末にライバルたちすべてを薙ぎ倒してトビアスハラン・ヨハンネセンが前日に続くステージ2連勝。

圧倒的な強さを見せつけたヨハンネセンは、総合タイム差を2分18秒にまで広げ、もはや総合優勝は疑いようのない状況であった。

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だが、最終ステージ。

標高2,758mの超級イズラン峠を越え、最後も標高2,156mの超級山岳山頂にフィニッシュするという凶悪なステージで、今年のラヴニールは本家ツール・ド・フランスに匹敵する大きなドラマを生み出すこととなる。

 

 

この日も相変わらずのサバイバル展開が続き、イズラン峠の山頂の時点で前日ステージで最後まで残った総合1位~4位の4名を含む少数の精鋭たちだけが生き残る。

その中で、イズラン峠の山頂からの下りで、現イネオス・グレナディアーズ2年目のカルロス・ロドリゲスがアタックした!

 

ロドリゲスは現在総合2位。しかしそのタイム差は2分18秒。イズランの山頂からフィニッシュまでは66.6㎞。しかし最後は超級山岳の登りで、今大会登坂力においても他を圧倒している総合首位トビアスハラン・ヨハンネセンに対してこのタイム差をひっくり返すのは決して容易ではなかった。

しかしそのロドリゲスと追走メイン集団とのタイム差はどんどん開いていき・・・残り16㎞地点で1分30秒差に。

メイン集団の方では総合3位フィリッポ・ザナも総合4位ハイス・レームライズも、トビアスハラン・ヨハンネセンに牽引の全責任を背負わせ、積極的に前を牽こうとしない。

タイム差はさらに拡大傾向。残り3㎞で、ついに2分10秒差にまで広がった。

 

さらに、このタイミングで、この上位4強に食らいついていた総合31位のドイツ人ゲオルク・スタインハウザーがアタック。フィリッポ・ザナは食らいつくが、肝心のトビアスハラン・ヨハンネセンはハイス・レームライズと共にここについていけない!

残り1㎞でレームライズを突き放して必死でザナとスタインハウザー、そして先頭のロドリゲスを追いかけようとするヨハンネセンだが・・・

 

まずはカルロス・ロドリゲス、最終日に見事なステージ優勝。

最強チームイネオスの一員として、すでにツール・ド・ラ・プロヴァンスなどでも活躍して見せていた男として、このラヴニールでの敗北は許されない男でもあったが、最後の最後で意地を見せた形だ。山岳賞も確定して見せた。

 

 

そして2位に入り込もうとするのはフィリッポ・ザナとスタインハウザー。最後はこのザナとのスプリントを制し、スタインハウザーが驚きの区間2位を獲得する。

 

すでに、ロドリゲスがフィニッシュしてから2分が経過しようとしていた。

そのとき、最終ストレートに姿を現すトビアス。残り、150m。

 

トビアスハラン・ヨハンネセン、ステージ4位でフィニッシュ。タイム差は——2分11秒。ボーナスタイムのないこのツール・ド・ラヴニールにおいて、このタイム差がロドリゲスとの総合タイム差が純粋に引かれ——残ったのは、わずか7秒。

ノルウェーの新鋭、トビアスハラン・ヨハンネセンは、2分18秒差で迎えたこの最終ステージを終えて、わずか7秒差で総合首位を守り切った。

 

 

常に圧倒的な強さを見せ続けていた今年のラヴニール覇者トビアスハラン・ヨハンネセン。

一方、カルロス・ロドリゲスは最後の最後で大きな勝負に出て、あくまでも逆転を狙うドラマティックな攻撃をして見せた。

それは成功こそしなかったものの、彼が所属する偉大なるチーム、イネオスの "More Racing Style" を見事に体現してみせた走りであった。

そしてその走りはのちに、ブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージにおいて、彼の大先輩であるエガン・ベルナルがプリモシュ・ログリッチに対して同じように見せてくれた走りでもあった。

 

 

今年のラヴニールも実に魅力的な選手たちが活躍してくれた。彼らがこれからの2020年代のロードレースシーンをより盛り上げてくれることだろう。

 

決して甘くみることのできないツール・ド・ラヴニール。その最も熱いこの最終ステージを、今年のベストレースの1つとして選ばせていただいた。

 

 

次回は3位から1位までを紹介していく。

 

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