昨年に引き続き、今年も個人的に盛り上がった4つのレースを振り返ってみる。
完全に独断と偏見による選択のため、悪しからず。
ほかにこんなレースが面白かったよ!というのがあれば、ぜひ。
第4位 パリ~ニース第8ステージ
まるで昨年の焼き直しだった。パリ~ニース最終ステージは昨年と同じく、ペイユ峠とエズ峠という2つの1級山岳を越えてニース市街へとゴールするレイアウト。
そして、最終日までの展開もほぼ昨年と同じ。首位は昨年のゲラント・トーマスと同様のチーム・スカイで、昨年はトーマスの総合優勝を支えた男、セルヒオルイス・エナオが今年はマイヨ・ジョーヌを着ていた。
これを追うのがアルベルト・コンタドール。31秒差というタイム差は、昨年の15秒よりは大きいものの、やはりあってないようなもの。
もちろんコンタドールは、この日も仕掛けてきた。
勝負所はやはりペイユ峠。昨年はチームメートだったラファウ・マイカが強烈な牽引を見せていたが、今年はチームが変わり、同じく移籍してきたハルリンソン・パンタノがその役目を担った。
昨年のツールで驚異的な走りを見せていた男が、今年はコンタドールにとって最も頼れる存在になった。
強烈なパンタノのペースアップで集団は絞り込まれ、やがて万全の状態で発射されたコンタドールはダニエル・マーティンやイルヌール・ザッカリンなどを一瞬で引き千切った。
セルヒオ・エナオだけがかろうじてコンタドールに喰らいついたものの、コンタドールは踏み止めることなくダンシングを続け、やがてエナオも引き離されていった。
コンタドールは逃げ集団に合流。この後も自ら先頭で走り続け、やがて最後のエズ峠の登りで逃げ集団からも抜け出した。
このとき、コンタドールについていけたのはマルク・ソレルとダビ・デラクルスの2人のみ。エナオたち総合勢はコンタドールとの間に1分以上ものタイム差をつけられた。
ラスト15kmの下り坂。昨年はここで、ゲラント・トーマスがコンタドールたちを猛追した。このとき、トーマスを下りでも支え続けたのがエナオだった。
今年、登りではコンタドールに完敗した彼も、昨年同様のダウンヒルを見せつけた。集団の中で自ら先頭に躍り出て先陣を切るエナオ。タイム差が、少しずつ、確実に縮まっていく。
いよいよゴール地点の海岸通り「ケ・セ・ゼダジュニ」に到達する。このときタイム差は30秒。かなり際どい戦いだ。
なんとしてでもゴールのボーナスタイムを手に入れたいコンタドール。しかし、彼を差し切って勝利したのは、クイックステップのダビ・デラクルスだった。
エナオはコンタドールから21秒遅れでゴールした。コンタドールは2着のボーナスタイム6秒と、中間スプリントポイント通過時のボーナスタイム2秒を獲得している。
今ステージ開始前の2人のタイム差は31秒――つまり、わずか2秒差で、軍配はエナオに上がったのだ。
パリ~ニース史上に残る僅差での決着。それも、2年続けて。
すべてはコンタドールの走りによって生まれたものだ。
彼は勝利こそ得ることはできなかったが、観る者を皆楽しませてくれる、最高の走りを見せてくれた。
これは、のちのブエルタにおける彼の走りの前触れだったのかもしれない。
Summary - Stage 8 (Nice / Nice) - Paris-Nice 2017
第3位 ロンド・ファン・フラーンデレン
詳しい内容はすでに記事にまとめてある。
すべては、今年6年ぶりに復活した伝説の激坂「カペルミュール」で始まった。ゴールまで残り96km。勝敗に絡むことはないと思われていたこの地点で、攻撃を仕掛けたのは今年引退を控えたトム・ボーネン。
この攻撃によって、彼を含む13名の小集団が形成された。その中に、クイックステップはジルベールとトレンティンを加えた。一方、彼らにとって最大のライバルとなる2人――すなわち、ペテル・サガンとフレッヒ・ファンアフェルマートは、この小集団に乗り遅れた。これがこの日の最大の勝負の分かれ目であった。
次に勝負が動いたのは「2週目オウデクワレモント」であった。ゴールまで残り55km。そこまでの道程を主にボーネンとトレンティンのみで牽引していたクイックステップは、ここで満を持してジルベールを発射する。
キャノンデールのセップ・ファンマルケがすかさずこれに飛びつこうとするが、ジルベールの背後についていたボーネンがわざとペースを落としたのか、ジルベールは単独で抜け出すことに成功した。
ここから、55kmに及ぶ長距離の独走が始まる。
普通に考えれば、独走逃げ切りなど考えられない長距離。しかし、ジルベールは迷いなく走り続け、そのタイム差を維持し続ける。
もしかしたら彼にとって、追い付かれてもいい、とも考えていたのかもしれない。直前のドワルスドール・フラーンデレンでも、自らのアタックを囮にして、チームメートの勝利を手助けした。
それよりも、自らが飛び出ることによって、追走集団内のチームメートが前を牽く義務から解放されることを狙ったのかもしれない。いずれにせよ、数の有利を最大限に活かした、実にクイックステップらしい作戦だったと言える。
だが、結果的にこの独走がそのまま勝利に繋がった。猛追するサガンとファンアフェルマートも、終盤のサガンの落車によってチャンスを失う。
過去50年で最長の距離の独走を経て、ジルベールは念願のロンド勝利を手に入れた。
ジルベールにとってそれは本当に念願だった。ベルギー人として、フランドルの勝利は実に特別なものであり続けた。
しかし、彼が長年在籍したBMCレーシングでは、彼はアルデンヌ・クラシックのリーダーとしての役目を担わされ続けた。そしてフランドル・クラシックでは、同じベルギー人のファンアフェルマートがエースの座についていた。
ジルベールがそこに入り込む余地はなかった。
だから、彼はチームを抜ける決断をした。年俸が下がることすら覚悟して、古巣であるクイックステップへと舞い戻った。ここ数年、大きな勝利がなく、落ち目とすら思われていた35歳のベテランは、移籍初年度で、思いを見事に実現した。
昨年に続きロンドは伝説を創り上げた。来年はどんな戦いが見られるのか。
De Ronde van Vlaanderen - Highlights
第2位 ジロ・ディタリア第14ステージ
こちらも以下の記事にまとめてある。
今年はデュムランがキンタナを破り総合優勝という、昨年にも増して熱い展開だったジロ・ディタリア。その中でも、今年のジロを象徴するステージは、クイーンステージの第16ステージではなく、この第14ステージだったと思っている
舞台は「パンターニの山」。聖地オローパ。全体の平均勾配は6.2%だが、残り7kmを越えたあたりから厳しくなり、後半の平均勾配は8%前後ある。
集団をコントロールしていたのは、今大会最強チームであるモビスター。残り6kmを過ぎて、最も厳しい区間でイゴール・アントンが飛び出すと、続いてザッカリン、アダム・イェーツ、ポッツォヴィーヴォ、そしてペリゾッティが次々にアタックする。
このペースアップの中で、キンタナの最終牽引役を担うはずだったアマドールが脱落。だが、同じように遅れかけていたアナコナが意地でもって前方に復帰し、そのまま再び集団を牽引し始めた。
そして残り4km。ついにキンタナが発射。唯一ついていけたザッカリンも、やがて残り3.2kmで突き放されてしまう。
ここからデュムランの反撃が始まる。ザッカリンを吸収した追走集団は、デュムランが先頭に立って牽引。他の総合勢は誰一人前を牽こうとしない中、ひたすらデュムランが単騎でキンタナを追い続けた。
キンタナはダンシングでペースを上げ続ける。だが、それを追うデュムランはひたすらシッティングスタイルで黙々と登り、2人のタイム差は10秒を超えることなく維持される。キンタナの本気の走りを前にして、デュムランは負けることのない登坂力を見せつけた。
そして残り1.5km。ついに、デュムランがキンタナに追い付く。と、同時に腰を上げ、一気にキンタナを抜き去った!
これはすぐに捕まえられるが、そのあともデュムランがキンタナを含む小集団を先頭で牽引。遅れてしまったニバリとのタイム差を開いていく。
先頭はデュムラン、ザッカリン、キンタナ、そしてランダの4人。ひたすらデュムランが先頭で牽く。残り300mを切ってザッカリンが飛び出す。デュムランがこれを追う。最初にキンタナが遅れ、次にランダもついていけなくなる。最後の100mを越えたところで、デュムランがザッカリンを抜き返した。
ありえない勝利だった。ブロックハウスではキンタナが強さを見せつけていた。そのキンタナに、登りで喰らいつく走りを見せたのだ。
そして最後の4kmをほぼ先頭で走り続けていたデュムランが、最後にスプリントでザッカリンを差し切って勝利をする。もはや、理屈ではない強さを、このときのデュムランは発揮していた。
だからこそ、このステージは、今年のジロを象徴するステージだったと私は思う。2015年ブエルタの第9ステージと並び、自転車ロードレースの歴史に残る名ステージだった。
Giro d'Italia: Stage 14 - Highlights
上記動画ラストの、実況の大興奮ぶりは聞いていて楽しい。やはり実況者にとっても、衝撃的なステージだったことがよくわかる。
第1位 ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ
これについては誰も異論はないだろう。この10年のサイクルロードレース界の頂点に立ち続けていた男、アルベルト・コンタドールが、その自転車人生最後の山岳ステージで、見事な勝利を決めた。
その勝ち方もまた、近年の彼を象徴する勝ち方だった。連日にわたるアタック。失敗しても諦めず、繰り出し続けた。その最後に、彼は大きな成功を勝ち取ったのだ。
舞台はアングリル。2008年、コンタドールが最初にブエルタを制した年にも、彼が勝利した伝説の峠である。
レースは最初に18名の逃げ集団を形成した。ニコラ・ロッシュやロマン・バルデ、イェーツ兄弟にエンリク・マス、シュテファン・デニフルなど強力なメンバーが多く含まれていた。
集団をコントロールしていたチーム・スカイは、いつもの通り彼らをそのまま逃がそうと考えていた。だがそんなメイン集団の動きにストップをかけたのが、トレック・セガフレードだった。彼らは積極的に集団の前を牽き、逃げ集団に2分以上のタイム差を許さない走りを見せた。
正直、ここでトレックの選手たちが足を使ってしまうことは、大きな賭けであったはずだ。それでも、チームはコンタドールを信じ、彼の勝利のためにこの大きな賭けに打って出たのだ。
あとは、エースが彼らの信頼に応えるだけ、である。
大きな動きは、最後から2番目の山、残り20km地点あたりから始まるコルダル峠の下りで巻き起こった。逃げ集団からアタックし峠を先頭通過したマルク・ソレルが落車。メイン集団から飛び出していたダビ・デラクルスも激しくクラッシュし、リタイアを余儀なくされた。
そして残り12km。下りの終盤で、コンタドールがアタックした。パリ~ニースでも彼を支えたハルリンソン・パンタノを従えて。また、支えるべきエースを失ったエンリク・マスとも合流して。
パンタノはもちろん、マスもまた、スペイン人の偉大なる先輩であるコンタドールのために先頭を牽いた。
のちにマルク・ソレルも加え、スペインの若き才能の力を借りながら、ついにコンタドールは独走態勢へと移る。
このブエルタでは、序盤の2~3ステージで体調不良に襲われ、大きくタイムを失った。この時点で彼は総合争いから脱落したものと、思っていた。だが、その後も厳しい山岳ステージでは繰り返し勝負を仕掛け、うまくいかないことも多かったが、第3週に入ってからもその調子は続いた。
そして最後の最後、この第20ステージで、ついに彼は掴み取った。
アングリルでの2度目の勝利。そして彼の自転車選手生活における、最後の勝利。
実に見事な勝利であった。
そして彼の後方では、メイン集団から飛び出したワウト・プールスとクリス・フルームの姿が。この年、史上3人目のツール・ブエルタ連覇を成し遂げたフルームは、最後のコンタドールの勝利に対して全力を尽くすことで敬意を表した。
ブエルタは毎年劇的な展開を見せてくれるが、今年もまた、ブエルタは熱い熱い、とても熱い戦いを見せてくれた。
Summary - Stage 20 - La Vuelta 2017
番外編 ハンマーチェイス
ある意味で歴史に残る名勝負となった。日本語実況も合わせて聞くと面白さ倍盛り。主催者の意図通りの面白さになったのかというと微妙な気はするが、自転車レースの新たな可能性を開いたのは確か。
改善すべき点も勿論多い。前日までのハンマークライム、ハンマースプリントは、正直うまくいかなかった部分も多いだろう。最終日のチェイスも、たとえばドラフティングに関するルールなどは最高の余地ありと思われる。
それでも、これまでにないレースを見せてくれた。自転車ロードレースのミニ競技として、今後も期待がもてるレースであった。
最初の2日間の結果を踏まえ、最終日はチーム・スカイが最初にスタートし、その32秒後にチーム・サンウェブがスタートする。普通に考えれば、チームTT能力でクイックステップやBMCにも匹敵する力量をもつスカイが圧倒的優位に思えたが、チーム・サンウェブが意外な走りを見せて少しずつスカイとのタイム差を詰めていく。そして残り4km。ついに追い付いたサンウェブは、逆にスカイを追い抜いて先頭に躍り出る。
そして最終コーナーを曲がり、ホームストレートに突入したスカイウェブ・・・もとい、チーム・スカイとサンウェブ。全体的にはスカイの選手が前方にいるが、このレースでの勝敗を決めるのは先頭ではなく、4番目の選手。スカイの4番目たるゲオゲガンハートが遅れ、サンウェブの面々に飲み込まれそうになるが、最後の最後、踏ん張り切ったゲオゲガンハートが右手を突き上げてフィニッシュラインを通過。
すでにゴールしていたスカイの先頭の選手たちは後ろを振り返り勝利を確認するという、実に奇妙なフィニッシュシーンを見ることとなった。
今後、さらなる進化を遂げ、より面白いレースに発展してくれることを期待している。
ところで、今年はこのリンブルフでのレースのほか、中国と南アフリカでやる予定だった、はずだったのだが、どうなったのだろうか。さりげなく行われていた?それとも中止? まあ、1年に1回くらいじゃないと、逆にテンションが持たないかもしれないが・・・。
来年も1回でもいいので、ちゃんと開催されることを願う。
【衝撃の光景・珠玉のトーク】今年のベストレース1位 ハンマーチェイス 優勝決定戦
以上、個人的見解にもとづく今年のベストレース4選+1であった。
冒頭にも述べたが、ほかにこのレースがとても面白かった、などあれば助言願う。