10月17日に、2018年ツール・ド・フランスのコースプレゼンテーションが行われた。
本格的な「パリ~ルーベ」コース、ラルプ=デュエズの復活、そして前代未聞の65km山岳バトルコースなど、来年も注目を集めるコース設定である。
クリス・フルームの「5勝クラブ入り」は果たせるのか。あるいはトム・デュムランの参戦によりフルームの連勝が阻まれるのか。それともキンタナやリッチー・ポートなど、ライバルたちによる勝利が狙えるのか・・・。
来年のツール・ド・フランス優勝者予想に思いを馳せるためにも、注目すべきコースをいくつかピックアップして確認していきたい。
なお、今回の記事は以下のCyclowiredの記事を参考にしていきたい。いくつかのステージは断面図もあるため要チェックだ。
また、ツール・ド・フランス公式サイトも確認している。断面図はないが、細かいポイントが書かれている。言語を英語にできるのでそれで確認しよう。
注目コース① 第3ステージ(7月9日月曜日)
ショレ~ショレ 35km(チームタイムトライアル)
ツール・ド・フランスとしては3年ぶりとなるチームTT。しかも、3年前と同様、ブルターニュ地方でのチームTTのため、当然起伏もそれなりにあるだろう。
実際、公式サイトの紹介でも「最後の方に登りがあり、選手たちは何度もペースを乱されるだろう」とある。
そして距離も35kmと、3年前(28km)以上に長い。2009年の第3ステージ(38km)以来の長さである。ちなみにこのときは、1位のアスタナと3位のサクソバンク――最終総合上位をほぼ独占した2チームである――のタイム差が40秒。第3ステージからいきなり、総合争いに大きな影響をもたらすステージとなりうる。しかも、個人ではなくチームの力が問われるチームTTで大きな差がつきうるというのは、タイム差がつきづらくなりつつある昨今のツールだからこそ、非常に注目すべきものとなるだろう。
ちなみに3年前はこのチームTTが非常に盛り上がった。第9ステージという、チームTTにしてはかなり遅めの登場だったこともあるが、モビスター、スカイ、そしてBMCといいった総合勢が、ごくわずかなタイム差を巡って鎬を削っていた。
最後はニコラ・ロッシュがわずかに遅れたチーム・スカイが、1秒未満のタイム差でBMCに負けるという手に汗握る展開。今年も、登りが終盤にあるということで、見逃せないチームTTを見られそうな気がする。
3年前のブルターニュ28kmTTTの覇者BMC。2018年も有力候補間違いなしだ。
注目コース② 第6ステージ(7月12日木曜日)
ブレスト~ミュール・ド・ブルターニュ・ゲルレダン 181km
「ミュール・ド・ブルターニュ」すなわち、「ブルターニュの壁」の名を冠するこのフィニッシュは、同じく3年前にも登場した。
全長2000m。平均勾配6.9%。最大勾配15%。数値だけ見れば、「ミュール・ド・ユイ」すなわち「ユイの壁」ほどではない、と思うかもしれないが、この激坂の最大の特長は、ひたすら直線、まっすぐの登りだ、ということ(公式サイトにはその写真もあるためぜひ見てほしい)。
直線の激坂は登る者の意志を挫けさせる。クヴィアトコウスキーも、山岳賞ジャージを着ていたテクレハイマノも、この登りで早々に遅れていった。そしてクリス・フルームがペースを上げたことで、ヴィンツェンツォ・ニバリも大きく遅れ、総合勢のシャッフルもかかった。その中から飛び出したアレクシー・ヴュイエルモが、鮮烈なツール初勝利を飾る。「激坂ハンター」としての名を背負うきっかけになった勝利だ。
そんな「ミュール・ド・ブルターニュ」を、今年は何と2回登る。1周目で着実に足を削られたパンチャー、総合勢が、最後の登りでどんな動きを見せるのか。楽しみだ。
ちなみに「ゲルレダン」は、コミューンとしての「ミュール・ド・ブルターニュ」が今年1月にサン=ゲダンと合併して誕生した新コミューンの名である。
注目コース③ 第9ステージ(7月15日日曜日)
アラス城塞~ルーベ 154km
第9ステージというのはいわばツール・ド・フランスにおける最初の山場であり、重要なステージだ。2年前のツールがこの日にクイーンステージをぶち込んだように、例年強烈な山岳ステージが設定されることが多い。
しかし今年はこの日に、「ミニ」パリ~ルーベを放り込んできた。しかも、4年前のように逆向きで、しかもアランベール手前で終わるようなコースでもなく、3年前のように重要なパヴェが外されたコースでもなく、モン・サン・ペヴェル、ポン・ティボー、カンファナン・ペヴェルなどの本家パリ~ルーベにおいても終盤で重要な役割を果たすパヴェ区間が連続し、最後はしっかりとルーベにゴールする「本格派」だ。
しかも距離が154kmと短い分、スタートから47kmでいきなり最初のパヴェが登場し、そのままラストまで連続して立て続けにパヴェが登場する。日曜日のレースのため、多くの視聴者がフルタイムで視聴できるだろうが、本家のように序盤が退屈な展開に・・・ともならない素敵なコース設定だ。
とにかく、モン・サン・ペヴェル、ポン・ティボー、カンファナン・ぺヴェルの連続する終盤が楽しみすぎる。この3つのセクターは、過去のパリ~ルーベでもアタックや決定的な小集団が形成された区間でもあるのだ。本家における最終重要地点であるカルフール・ド・ラルブルがないのは残念だが、本家に負けない盛り上がりを見せてくれるだろう。
4年前の「ミニ」パリ~ルーベでは、雨の地獄の中、ラース・ボームが勝利した。この日、フルームがツールを去り、ニバリがライバルたちから大きなリードを奪った。
注目コース④ 第12ステージ(7月19日木曜日)
ブール・サン・モーリス・レザルク~ラルプ・デュエズ 175km
チームTT、ミュール・ド・ブルターニュ、「ミニ」パリ~ルーベ・・・なにかと「3年ぶり」の多い来年のツールだが、これもまた「3年ぶり」のラルプ・デュエズの復活。
しかも、3年前と同様に「クロワ・ド・フェール(鉄の十字架)峠」とのセット。さらに来年は、そこにもう1つの山岳「マドレーヌ峠」がついてくる。マドレーヌもクロワ・ド・フェールも20km以上の長距離登坂。そこに最後に10km登坂+平均勾配10%の難関峠が待ち構えているのだから、このステージが2018年のクイーンステージと言われても何の不思議もない。
3年前の「クロワ・ド・フェール&ラルプ・デュエズ」のときは、クロワ・ド・フェールで先行してアタックしたバルベルデにキンタナが後追いして合流。これは下りの手前でフルームたちに捕まえられるが、最後のラルプ・デュエズでも再びキンタナがアタック。最終的にフルームに1分30秒近いタイム差をつけ、総合タイム差は1分12秒。キンタナがフルームに最も近づいたツールとなった。
2017年ツールはバルベルデのまさかの初日リタイアで夢と消えた「最強の2人」のコンビネーション。来年こそこれがかっちりとハマる姿を見たい!
最初の休息日明けに第10・第11と続いてきたアルプス3連戦の締めくくりとなるステージだけに、どんな展開と総合争いが巻き起こるのか予想がつかない。フルームのライバルが現れるのだとしたら、この辺りでその可能性を見せなければなるまい。
注目コース⑤ 第17ステージ(7月25日水曜日)
バニェール・ド・ルション~サン・ラリー・スーラン 65km
「超短距離山岳ステージ」は近年のグランツールのトレンドだ。初登場は2016年のジロ第16ステージと見做して良いだろうか。このときはまだ133kmと今思えばそこまで短いという印象はなく、しかし展開は終始激しいものだった。
同じ年のブエルタの、第15ステージも118.5kmと短く、そしてコンタドールとキンタナによる積極的な攻撃が成功し、最終的にキンタナがフルームを破るきっかけとなったステージとなった。
そして今年。ツールもいよいよ短距離山岳ステージを取り入れた。それが第13ステージ。101kmと、上記2つのコースよりもさらに短いステージとなった。ミュール・ド・ペゲールという厳しい登りも含んだ、注目のコースであった。
だが、ツールは2018年に、さらなる衝撃的なコースを用意した。それがこの第17ステージ。距離は65km。もはや長距離個人TTと言い張っても通じてしまうような距離である。それでいて3つの山岳を用意し、最後は山頂フィニッシュだというのだから凄まじい。
終始アタック間違いなし。一瞬たりとも見逃せないステージだ。ところで来年から、タイムアウトに対するルールも厳格化するようだが、このステージに関してはさすがに目を瞑るべきではないのか・・・?
なお、来年のツールは「短距離山岳ステージ」がこの第17ステージだけでなく、第11ステージ(108km)にも登場するのだから恐れ入る。しかもこちらも山頂ゴール。来年のツールは今年と比べて200km以上短くなるとのことだが、だからといって楽になるとは決して言えないのだということが良くわかる。
まあ、無駄に長いだけのステージや、危険なダウンヒルステージを用意するのとは違ったスペクタルを用意すること、しかも、視聴者が楽しむうえで重要な「短距離」に注目することは、もしかしたらツールのコース設計思想としては健全なのかもしれない。
とくに物議を醸す落車が続発した2017年のことを考えると、変化の方向性としては正しいと言えるのかもしれないね。
短距離山岳ステージはドラマを生み出しうる。近年最大のそれは、2016年ブエルタ第15ステージの「キンタナ・コンタドール逃げ」だろう。
注目コース⑥ 第19ステージ(7月27日金曜日)
ルルド~Laruns 200km
2018年ツールの「最終山岳ステージ」は、アスパン、トゥールマレー、そしてオービスクといった、ピレネーの誇る名峠が連続する難関ステージ。だが山頂フィニッシュではなく、下りフィニッシュ。しかも、2011年・2012年に連続して登場したときとは逆方向――すなわち、ヴォクレールやフースホフトを苦しめた平均勾配7.1%・登坂距離16.4kmの登りを、このステージでは「下って」ゴールする。
近年、下りが勝敗を決めることが多くなりつつある、と言われて久しい。逆に言うと、登りでは差が付きづらくなっているのだ。
とはいえ、下りはスペクタルだけでなく、危険も伴う。今年のツールの第9ステージのような悲劇が繰り返されないことを願う。
ちなみに、今年の第9ステージで、フルーム以上のダウンヒルを見せたのがロマン・バルデ。このときは下った後の平坦が長すぎて勝利を掴み損ねたが、この日は下りきってのゴール。
今、最もツール総合優勝に近いフランス人が、栄光を掴みうる最大のチャンスがこのステージだと言えるだろう。次の日が彼にとって鬼門となる個人TTなだけに・・・。
このあと、ツールは今年同様に「(総合争いにおける)最終日個人タイムトライアル」を迎える。31kmの中距離個人TTは、今年最終日のそれと同様に、バスク地方ならではの起伏に満ちた、一筋縄ではいかないタイムトライアルだ。
平坦ステージは8つ。
丘陵ステージは5つ。
山岳ステージは6つ。そのうち山頂ゴールは3つ。
今年のツールは「難易度が低すぎて」タイム差がつかない、という事態に陥った。来年はどうだろう。山頂ゴールは決して多くないが、第10~12ステージのアルプス3連戦などは、実にスペクタルに溢れた激戦区となりそうだ。
何より、石畳ステージなど、山岳以外でもバリエーションに富んだコースレイアウトで、個人的に最も面白かったと感じている2015年に類似しているのが好感をもてる。
誰に向いたコース設定なのだろうか。「クライマー向け」と言われたコース設定のときも、結局は随一の登坂力をもったフルームにとっては決して苦手ではなかった。下りを取り入れてもそれはフルームにとってライバルに差をつけるチャンスともなった。
今年は、フルームにとってはトラウマとなる石畳の存在や、キンタナがフルームを打ち倒したラルプ・デュエズ、そしてこれもまたフルームにとってはトラウマである「短距離山岳ステージ」が2つ、しかも片方はその究極形態といったところだ。
そして(影響はそう大きくないだろうが)チームのメンバー数の減少。
フルームにとっては、あまり好ましくない要素が揃っているのは確かなようだ。
とはいえ、デュムランが参戦する気になるようなTTの量、というわけでもなさそうで、果たして誰が集まり、誰が総合優勝を狙いうるのか、今から予想するのは当然、至難の業である。
だが、個人的にはこの辺りで、そろそろキンタナに華をもたせてやってほしいようにも思う。今年実現しなかったバルベルデとの黄金コンビを復活させ、コンタドールに負けない積極性を見せて、そして、3年前、あと一歩のところまで迫って成し得なかった、ツール総合優勝の栄冠を、そろそろこの男に渡してあげたい思いでいっぱいだ。
ツール・ド・フランスは完璧すぎて、逆に振り返ってみると詰まらなかった、という思いに駆られることも多い。それよりもジロ、ブエルタの方が面白い、というような。
それでも、このコースプレゼンテーションもそうだが、やはり自転車ロードレース最大のお祭りだけあって、その開催の瞬間まで盛り上がり方、わくわく感は他のレースと比べても頭2つも3つも飛び抜けている。
だから、来年も、このツールに向けての一連の「お祭り」を楽しんでいければと思う。この記事がそのための1つのピースとなるのであれば幸いだ。