前編に引き続き、獲得UCIポイントでランキングした上位11チームを紹介していく。
各チーム、ステージ優勝や総合上位に入ったエースはもちろん、その活躍を支えたアシストたちについても注目していっている。
ブエルタは他のグランツールと比べても個の戦いになりやすいレースではあるものの、やはりアシストの存在は欠かせない。現代のサイクルロードレースはあくまでもチームスポーツである。
どのチームのどの選手がどんな活躍をしていったのか。
今年最後のレースを振り返るうえで、参考にしていただければ幸い。
- 第11位(昨年8位) ロット・スーダル 316pt.
- 第10位(昨年9位) バーレーン・マクラーレン 356pt.
- 第9位(昨年4位) アスタナ・プロチーム 444pt.
- 第8位(昨年22位) グルパマFDJ 448pt.
- 第7位(昨年6位) ボーラ・ハンスグローエ 480pt.
- 第6位(昨年3位) UAEチーム・エミレーツ 532pt.
- 第5位(昨年-位) イスラエル・スタートアップネーション 640pt.
- 第4位(昨年1位) モビスター・チーム 868pt.
- 第3位(昨年10位) EFプロサイクリング 991pt.
- 第2位(昨年17位) イネオス・グレナディアース 1008pt.
- 第1位(昨年2位) チーム・ユンボ・ヴィズマ 1930pt.
↓22位~12位はこちらから↓
↓全21ステージの詳細な振り返りはこちらから↓
【全ステージレビュー】ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 第1週 - りんぐすらいど
【全ステージレビュー】ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 第2週 - りんぐすらいど
↓昨年のランキングはこちらから↓
獲得UCIポイントで見る ブエルタ・ア・エスパーニャ2019 全チームランキング&レビュー(22位~12位) - りんぐすらいど
獲得UCIポイントで見る ブエルタ・ア・エスパーニャ2019 全チームランキング&レビュー(11位~1位) - りんぐすらいど
↓ツールとジロの今年のランキングはこちらから↓
獲得UCIポイントで見る ツール・ド・フランス2020 全チームランキング&レビュー(22位~12位) - りんぐすらいど
獲得UCIポイントで見る ツール・ド・フランス2020 全チームランキング&レビュー(11位~1位) - りんぐすらいど
獲得UCIポイントで見る ジロ・デ・イタリア2020 全チームランキング&レビュー(22位~12位) - りんぐすらいど
獲得UCIポイントで見る ジロ・デ・イタリア2020 全チームランキング&レビュー(11位~1位) - りんぐすらいど
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第11位(昨年8位) ロット・スーダル 316pt.
逃げ一覧
- ティム・ウェレンス(第1・2・5・7・11・14・18ステージ)
- スタン・デウルフ(第5・7・8・17ステージ)
- トッシュ・ファンデルサンド(第3・12・17ステージ)
- コービー・ホーセンス(第12・16ステージ)
- ブレント・ファンムール(第10ステージ)
- トーマス・マルチンスキー(第12ステージ)
山岳賞こそ惜しくもマルタンに奪われたものの、ステージ2勝と十分すぎる成果を持ち帰ったウェレンス。
レース再開直後に怪我を負い、本来狙っていたツール・ド・フランスに出場できなかった悔しさを見事、晴らしてくれた。
そして前半戦は、22歳のベルギー人元トラックレーサー、タイッセンの活躍。
昨年のシーズンチームガイドで注目しながらも、その年はなかなか結果を出せなかった彼が、まさかのこの大舞台で存在感を示してくれた。
2015年のトラック世界選手権ジュニア部門ポイントレースで銅メダル、2016-2017トラックワールドカップのアペルドールンではチームパーシュートで銀メダル。
そして2017年トラック欧州選手権エリミネート種目では、エリートカテゴリで見事、金メダル。
トラック中距離でこれだけの成績を重ね続けてきている男が強くないわけがない。
まだまだロードレースの真髄たるグランツールを完走するほどの経験はなかったかもしれないが、それでもそのスピードの高さを証明してくれたのは間違いなく、これからに大注目である。
第10位(昨年9位) バーレーン・マクラーレン 356pt.
逃げ一覧
- アルフレッド・ライト(第5・17ステージ)
この位置にはいるものの、正直目立っていたか?と言えばそんなことはない、というのが正直なところ。プールス序盤は実際に上位に入って注目を集めたが、終盤は常に「トップ選手たちからは遅れるが、大崩れしない」位置にいた。
プールスと言えば爆発力はあるが3週間の安定感がない、という定評のある選手だったが、今回はまったくその真逆だったわけだ。
そんな中、最も目立ったと言えるのがこのアルフレッド・ライト(フレッド・ライトとも)だろう。
昨年のツール・ド・ラヴニールで区間1勝。昨年はCCCチームのトレーニーだった21歳のイギリス人。
最近また若手のイギリス人が活発な中、彼もまた、非イネオスの期待の英国人若手ライダーとして、ロット・スーダルのマシュー・ホームスなどと共に活躍していってほしい(そのうちイネオスに取られるかもしれないけれど・・・)。
あとはマテイ・モホリッチが第3ステージという超序盤にレースを去ってしまったのが痛い。彼がいればもっと逃げでも目立って、ステージも獲れていたかもしれないから。
第9位(昨年4位) アスタナ・プロチーム 444pt.
逃げ一覧
- アレックス・アランブル(第2・7・15ステージ)
- オマール・フライレ(第5・7・17ステージ)
- ヨン・イサギレ(第6・17ステージ)
- ルイスレオン・サンチェス(第12・15ステージ)
- ゴルカ・イサギレ(第6ステージ)
- ドミトリー・グルズデフ(第18ステージ)
今年イル・ロンバルディア3位、ジロ・デッレミリア優勝とティレーノ〜アドリアティコ総合5位。
今年目覚ましく実績を積み上げた男の1人、アレクサンドル・ウラソフ。
当然ジロ・デ・イタリアではヤコブ・フルサンとのダブルエース(あるいはミゲルアンヘル・ロペスとのトリプルエース)も十分に期待されていたが、胃腸トラブルによりまさかの2日目でのリタイア。
代わりにブエルタ・ア・エスパーニャへの急遽参戦が決まり、リベンジを狙った。
だが、体調不良の影響が残っていたのか、序盤は大失速。総合争いから早くも脱落することとなった。
それでも、カラパスとログリッチの激しいバトルが繰り広げられた第8ステージあたりから、本来の強さを発揮。
総合タイムでビハインドを抱えている分自由な走りを許され、常にアグレッシブに、先手を取る動きを見せていった。
最終的には総合11位。序盤の遅れがなければ間違いなくTOP10、場合によってはTOP5にも入りうる走りだった。
来年ミゲルアンヘル・ロペスがどうなるかは未だに不透明な部分があるが、もし本当に移籍してしまったとしても、このウラソフがフルサンに次ぐチームのセカンドエースとして間違いなく活躍してくれることだろう。
そしてもちろん、安定した強さを誇るイサギレ兄弟。
第6ステージでは、兄ゴルカの抜け出しからの、弟ヨンのカウンターアタックという見事なコンビネーションでの勝利。
今年は昨年ヨンが制したイツリア・バスクカントリーも、ゴルカが得意とするクラシカ・サンセバスティアンも中止。
来年こそはこれらバスクのレースが復活することが望まれる。
第8位(昨年22位) グルパマFDJ 448pt.
逃げ一覧
- ブルーノ・アルミライル(第2・11・17ステージ)
- ダヴィ・ゴデュ(第11・17ステージ)
- ロマン・シーグル(第5ステージ)
- マチュー・ラダニュ(第7ステージ)
- アントニー・ルー(第12ステージ)
ピノについては実に残念だったが、その代わり、その後を継ぐ男ゴデュがしっかりと実績を残した。
ステージ2勝。そして観客のいない山頂に轟いた絶叫。
ラヴニールを制したフランス人として大きな大きなプレッシャーと共に戦ってきた中で、遂に手に入れた栄光であった。
そして、そんな彼を常に支えてきたのがブルーノ・アルミライルであった。
オムニアム世界王者のバンジャマン・トマやジュリアン・アラフィリップなどを輩出したフランス陸軍チーム出身。年代はゴデュの2つ上で、フレンチピレネーの麓で生まれ育つ。
プロ3年目でまだ勝利はなし。キャリア最大の成績は昨年のブエルタのステージ5位が今年のツアー・ダウンアンダーのステージ4位くらいか。
だが、今回のブエルタにおいては、第6, 11, 17ステージと、ゴデュが上位に入ったステージでは常にその傍にいて、最後まで彼をアシストし続けた。
今年のマルタンの活躍の影にペリションがいたように、ゴデュの活躍はアルミライルなしではあり得なかった。
そんなアルミライルだが、今回のブエルタの激坂個人TTでは、総合上位勢も含んだ強豪がひしめき合う中、ステージ5位を記録。
また、ティレーノ〜アドリアティコでも、チーム最高順位となる総合18位。
元々ゴデュの次に来るチーム3番手の存在としてヴァランタン・マデュアスが来ると踏んでいたが、最近の彼はややクラシック寄りに進化しつつあるため、もしかしたらこのアルミライルが、「ゴデュの次」を担うことになるかもしれない。
第7位(昨年6位) ボーラ・ハンスグローエ 480pt.
逃げ一覧
- イデ・シェリング(第7ステージ)
- アンドレアス・シリンガー(第12ステージ)
- パスカル・アッカーマン(第17ステージ)
- ミハエル・シュヴァルツマン(第17ステージ)
今年、間違いなく強かったのに最後の最後で決めきれず、常に「2ゲッター」であり続けたアッカーマンが、このブエルタでついに殻を打ち破った。
もちろん1つ目の勝利はサム・ベネットの降格によるもので、フィニッシュで手を挙げることはできなかった。
しかし、2つ目はマドリードの舞台で、そのサム・ベネットとの一騎打ち。今度は真正面からのぶつかり合いで、ギリギリの差でこれを差し切った。
結局手は上げられなかったけれども、それでもその顔は前を向いて、項垂れたベネットの傍らで、まっすぐと前を見つめていた。
昨年と比べたら決して華々しい活躍ではなかったが、最後の最後をしっかりと勝利で締め、来期に向けて自信を持って臨める状態には持っていけたと思う。
一方、昨年ラファウ・マイカを強力にサポートし、ツアー・オブ・ターキーでも総合優勝、チームの新たな総合エースの可能性を感じさせていたグロスチャートナーが実際にエースとして臨んだ今回。
たしかに総合9位は立派な結果だが、安定した走りができていたとはやや言い難い。
むしろ今年はブエルタ・ア・ブルゴス第1ステージの激坂フィニッシュでの勝利や、今回のブエルタの同じく登り勾配スプリントフィニッシュとなった第5, 第10, 第16ステージでのリザルトを踏まえ、どちらかというとパンチャー向きな脚質であることが明らかになった気がする。
ステージレーサーというよりは、もしかしたらアルデンヌクラシックなどのワンデー向き?
今後の進化の方向性が気になる。
第6位(昨年3位) UAEチーム・エミレーツ 532pt.
逃げ一覧
- ルイ・コスタ(第5・6・7・8・15・17ステージ)
- イヴォ・オリヴェイラ(第5・7・17ステージ)
- セルジオ・エナオ(第6・17ステージ)
- ダヴィデ・フォルモロ(第7・12ステージ)
- アレクサンドル・リアブシェンコ(第12ステージ)
- ダビ・デラクルス(第17ステージ)
なんというか、熱いチームだった。
第17ステージでは最初の逃げに4人も乗せ、そこからさらにメイン集団からデラクルスをブリッジさせるために、スプリンターのフィリプセンやイヴォ・オリヴェイラも死力を尽くした。
結果、総合ジャンプアップに成功。ツールでも終盤にかけて調子を上げてきていたデラクルスに一定の成功を収めさせることができた。
そしてもちろん、ジャスパー・フィリプセン自身の勝利。
勝ったあとの絶叫、そして涙を流しながらチームメートと喜びを分かち合うその姿は見てるこっちまでうるっとしてしまうほどの熱さ。また、彼を最後までリードアウトしてフィニッシュにやってきたイヴォ・オリヴェイラが、まるで自分が勝ったかのような完璧なガッツポーズを決めてラインを越える姿にも、熱さを感じさせた。
フィリプセンは今年でチームを去るというのに、この団結力。
結果を出すチームとは、こういうものなのだろう。
そして、元世界王者ルイ・コスタも、今年はシーズンを通して熱かった。UAEツアーでは今年のガッツポーズ選手権のノミネート対象にするか最後まで迷った熱いガッツポーズを見せた彼が、このブエルタでは連日の逃げ、逃げ、逃げ。
第16ステージのスプリントではあまりに熱くなりすぎて降格の対象になってしまったものの、やや「昔の人」になりつつあった彼の、まだまだ若いものには負けないという思いが伝わる走りだった。
オリヴェイラ兄弟やルーベン・ゲレイロ、ホアン・アルメイダなど、今注目を集めつつあるポルトガルライダーたちの先輩として、これからもまだまだ活躍してほしい。
第5位(昨年-位) イスラエル・スタートアップネーション 640pt.
逃げ一覧
- マッテオ・バディラッティ(第5ステージ)
清々しいほどにマーティンのワンマンショー。むしろそれだけでこの順位というのがすごい。
というかマーティンはもはやそういう星の下で生まれたのだろうかと心配になる。
明確にグランツール表彰台に相応しい実力を持ちながら、いまだなお届かない悲運の人。
まあ、似たような境遇だったリッチー・ポートが今年、悲願を達成したので、マーティンもきっと、きっと・・・。
それでも可愛い(本当に可愛い!)双子のために大いなる勝利を捧げられたのは良かった。
来年のツールは以前勝ったミュール・ド・ブルターニュも登場するし、期待してる(ウッズとかフルームとかもいるけど・・・)。
第4位(昨年1位) モビスター・チーム 868pt.
逃げ一覧
- ホルヘ・アルカス(第6・17ステージ)
- カルロス・ベローナ(第6・7ステージ)
- ホセホアキン・ロハス(第7・15ステージ)
- ネルソン・オリヴェイラ(第11・17ステージ)
- イマノル・エルビティ(第12・17ステージ)
- マルク・ソレル(第14・17ステージ)
- アレハンドロ・バルベルデ(第7ステージ)
バルベルデが、ソレルがまさかのアタック。常に定石を覆すようなアグレッシブな走りに終始し、地元スペイン最大のレースを盛り上げてくれた。
トリプルエースが最もうまく機能した、とも言われていたが、結局ソレルもバルベルデも反動でタイムを失うことも多く、なんだかんだで昨年ほどの活躍はなし得なかった。
さすがのバルベルデもそろそろ、限界か(と言いつつ総合10位は本当に驚異的だけど)。
あとはマス、正直これだけお膳立てしてもらってのこの結果は、まったく満足できるものではない。
とくに今年は、2年前に強さを見せた個人タイムトライアルで失速したのが手痛かった。
上位4名が強かったのは確かだが、この2年の「不調」を覆す結果が、来年には求められる。
第3位(昨年10位) EFプロサイクリング 991pt.
逃げ一覧
- マイケル・ウッズ(第6・7・14ステージ)
- マグナス・コルトニールセン(第6・7ステージ)
- ユリウス・ファンデンベルフ(第12・17ステージ)
元々このチームのエースは、ドーフィネ総合優勝者のダニエル・マルティネスか、2017年ブエルタ総合7位のマイケル・ウッズだったはずだ。
それが、その2人とも初日から落車していきなり総合争いから脱落。一方でまさかのヒュー・カーシーがその日、総合争い巻き起こるフィニッシュで7位の好成績。
EFにとって、天国と地獄を同時に味わうかのような1日目だったに違いない。
とはいえ、これまでグランツール総合TOP10にも入ったことのないカーシー。
その実力の高さは昨年のツール・ド・スイスでの100㎞独走勝利など間違いのないものではあったが、それでも3週間をこのハイコンディションのまま過ごせるとは、もしかしたらヴォーターズGM自身も想像していなかったかもしれない。
だが、常に各ステージ好成績を出し続け、総合3位で迎えた3週目初日の個人タイムトライアル。
決してTTが得意な印象のなかったカーシーだったが、ここでまさかの好走を披露。
今年、大きな飛躍を遂げた選手の1人となった。
そして、そんな彼の走りで最も印象的なのがやはり勝利した第12ステージでの走り。、
あの今にも倒れ込んでしまいそうな表情で、バイクを左右に振りながら息も絶え絶えに走りつつも、ライバルたちを確実に突き放しながらフィニッシュへと向かう姿。
淡々と走る最近のライダーたちの中では珍しい、実にブエルタらしい激アツな走りだった。
そんなEFにとって大成功のブエルタに、更なる華を添えたのがマグナス・コルトニールセン。
かつて「スプリンター」として2勝を稼ぎ出したこのブエルタの地で、最近はめっきり逃げ屋や山岳アシストの印象すら感じさせつつあったこの男が、久々に「スプリンター」としての実力を発揮して欲張りにも5勝目を狙うプリモシュ・ログリッチをしっかりと抑え込んだ。
結局、今年EFは3大グランツール全てでステージ優勝を、しかも計5勝も遂げることに。
このチーム、こんなに強かったっけ? チームの雰囲気も良く、見てて気持ちの良いチームだ。
第2位(昨年17位) イネオス・グレナディアース 1008pt.
逃げ一覧
- ディラン・ファンバーレ(第6・14ステージ)
- キャメロン・ワーフ(第12ステージ)
今年はイネオスが常に「挑戦者」であり続けたシーズンであった。このブエルタもまた、ツールのとき同様に、ユンボ・ヴィズマという新たなる最強チームへと挑むチャレンジャーとなった。
しかし、そういうときこそ、彼らは面白いレースを魅せてくれる。むしろそういうときにこそ、彼らの強さが発揮される。
今回も、強力無比なプリモシュ・ログリッチに対し、リチャル・カラパスが最後の最後まで食らいついた。
ジロ覇者は伊達ではない。今回は残念ながら届かなかったが、来年以降の彼がどんな立場を許されてどんな走りをして見せるのか、楽しみである。
とは言え、ちょっと残念なところもある。
まずはクリス・フルーム。やはり昨年の怪我からの復調がうまくいっていないのか、総合争いどころかアシストも含めほとんど存在感を示すことができなかった。
来期、万全でなくとも、よりよい姿を見せてくれることを願う。
もう1人、一時はベルナル以上の逸材とも呼ばれたこともあるイバン・ソーサ。
序盤こそカラパスの最終アシストとして活躍した場面もあったが、2週目以降はその存在感が消失。完走はしたもののUCIポイント獲得圏外の62位で終わってしまった。
何か、単純な力不足以外の問題があるのか。
若いだけに、色々と不安になる。
一方でこのフルームやソーサに代わり最高のアシストであり続けてくれたのがアンドレイ・アマドール。
移籍にまつわるゴタゴタはあったものの、獲得した甲斐のある活躍を見せてくれた。
正直今年のイネオスの不調の一端は、アシスト勢の噛み合わなさにもあると思っている。
それこそ今年のユンボのような盤石さこそが、2010年代のスカイ/イネオス帝国を形作ってきた。
来年そのあたりが立て直され、本当の意味での帝国の復活がなされることを期待したい。
第1位(昨年2位) チーム・ユンボ・ヴィズマ 1930pt.
逃げ一覧
- ジョージ・ベネット(第7ステージ)
- セップ・クス(第7ステージ)
- レナード・ホフステッド(第17ステージ)
グランツールにおける今年最強のチームは間違いなくこのチームであった。
ツールでは最後に惜しくも敗れ、ジロでは新型コロナウイルスの影響で早々に戦線離脱するも、山岳でのトレイン力、エースの総合的な実力すべてを見ても、2010年代のチーム・スカイ/イネオスを見ているかのような完璧さであった。
そしてこのチームが本当に凄いのは、次から次へと、若き才能がその可能性を走りながら広げていくことである。
たとえば昨年はローレンス・デプルスという才能が光り輝いた。しかし彼は今年、詳細は不明だが全くレースに出場できず。来年のイネオス行きを決めている。
代わりに今年、大きな飛躍を遂げたのがセップ・クス。チームの誰よりも最後まで牽引し続けるこの男は、今やアメリカ最強のクライマーに変貌したと言っても良いかもしれない。
そして、このブエルタではさらなる才能が生まれた。ヨナス・ヴィンゲゴーである。
昨年のツール・ド・ポローニュでプロ初勝利を遂げたばかりの今年24歳のデンマーク人。ポローニュはどちらかというとパンチャー向けのレースであることと、デンマーク人はフルサンのような例外を除きどちらかというと屈強なルーラータイプが多いイメージがあったため、このヴィンゲゴーもまた、どちらかというと平坦要員、というイメージだった。
それを大きく塗り替えたのが第11ステージのファラポーナ、そして第12ステージのアングリルでの牽引だった。
とくにアングリルでは、ロベルト・ヘーシンクが仕事を終えたあとの残り6.7㎞から残り3.6㎞までを担当。
当然、アングリル特有の平均12%近い急勾配区間である。
この牽引で集団からはアレハンドロ・バルベルデ、ワウト・プールス、ミケル・ニエベらが脱落。
むしろその次の牽引役として控えていたはずのジョージ・ベネットが脱落してしまうほどのパワーで牽引し続けていた。
彼が牽引を終えた残り3.6㎞から総合優勝候補たちによる激突が発生。
そこでログリッチが遅れを喫することになるのだが、ここまでヴィンゲゴーが牽引を引き受けてくれていたおかげで、万全のクスがログリッチを守ることができ、傷口を最小限に抑え込むことができていた。
まさに、ヴィンゲゴーは今年のログリッチの総合優勝を支えた存在であり、彼もまた、来年以降のユンボの中心的な存在の1人となることだろう。
そして、もう1人。今年26歳のオランダ人、レナード・ホフステッド。
元ラボバンク・ディヴェロップメントチーム。当時はローヌ=アルプ・イゼール・ツアーで総合優勝などしていたが、プロデビュー後は勝利なし。
主にクライマー向けのワンデーレースやステージレースに帯同するも、常に総合100番台でゴールするなどの、見えないところで活躍するタイプのドメスティークだった。
そんな彼が、今回のブエルタではヴィンゲゴーと並び第11ステージのファラポーナで終盤まで山岳牽引をこなし、さらには運命の最終決戦第11ステージ、セップ・クスですら脱落した最終局面で、完璧なタイミングでログリッチの前方に降り立ったのが、この男だった。
序盤でできた34名の大規模逃げ集団にチームから唯一乗り込み、そして途中で脱落することなくコバティーリャの最も厳しい区間も乗り越えて、そして最もアシストを必要とする緩斜面区間で、エースを待ち受けていた。
そのあと、全く足の回らないログリッチの前に立って1.5㎞、牽引し続けた。
これがなければ、もしかしたら最後の25秒を守りきれなかったかもしれない。それくらい、ログリッチは限界だった。
まさに、チーム一丸となって掴み取った勝利だった。トム・デュムランの早期リタイアは残念だったが、来年はもう少し落ち着いたスケジュールの中で、今度は彼がエースとしてこのチームを率いて大きな成果を出す可能性もあるだろう。あるいはベネット、クスなどが。
チームとしても完璧だった。
今年はユンボ・ヴィズマの年であり、それを象徴するブエルタ・ア・エスパーニャだったと思う。
おめでとう、ユンボ。
これからも新たなる時代を、築いていってほしい。
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