山、山、山の第1週を終え、先頭に立ったのはイネオス・グレナディアースのリチャル・カラパス。
ただ、アラモン・フォルミガルでタイムを失ったプリモシュ・ログリッチも、実力というよりは不運なトラブルで失速しただけとも言え、チーム力で勝るユンボ・ヴィズマvsカラパス率いるイネオス・グレナディアース、そしてトリプルエース体制で挑むモビスター・チームにカーシー、マーティンといった遊撃部隊。
実に「らしい」混戦の続くブエルタ・ア・エスパーニャはいよいよ最も厳しいと言われる第2週へと突入。
コンタドール・メモリアルステージが週末に控えたこの第2週で総合争いはどのように展開していくのか。
そして、2つあるスプリントステージと逃げ切り向きのステージで栄光を掴み取るのは?
波乱、混乱、事件も巻き起こった第2週6ステージの詳細をどうぞ。
- 第7ステージ ビトリア=ガステイス〜ビリャヌエバ・デ・バルデゴビア 159.7km(丘陵)
- 第8ステージ ログローニョ〜アルト・デ・モンカルビリョ 164㎞(山岳)
- 第9ステージ カストリージョ・デル・バル〜アギラル・デ・カンポー 157.7㎞(平坦)
- 第10ステージ カストロ・ウルディアレス〜スアンセス 185㎞(平坦)
- 第11ステージ ビリャビシオサ〜アルト・デ・ラ・ファラポナ、ラゴス・デ・ソミエド 170㎞(山岳)
- 第12ステージ ポラ・デ・ラビアナ~アングリル 109.4㎞(山岳)
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第7ステージ ビトリア=ガステイス〜ビリャヌエバ・デ・バルデゴビア 159.7km(丘陵)
残り92.4㎞地点と残り19.1㎞地点に1級山岳プエルト・デ・オルドゥニャ(登坂距離7.8km、平均勾配7.7%)が登場。
それなりの難易度の登りではあるが、翌日も厳しい山頂フィニッシュということもあり、総合勢による争いはそこまで激化せず、第5・6ステージに続く逃げ切り勝利が期待される、そんなステージであった。
実際に、そのようにレースは展開した。
スタート直後こそ、「クレルモンフェランのTGV」ことドゥクーニンク・クイックステップのレミ・カヴァニャが積極的なアタック。
今大会7ステージ中4ステージ目の逃げとなる今回も、たった一人でのエスケープを敢行した。
しかし、これは早い段階で捕まえられ、最初のプエルト・デ・オルドゥニャの登りで総勢36名という大規模な逃げ集団が形成。
それだけ見れば、予想通りの大逃げ展開のステージ、で終わるところだったのだが・・・恐るべきは、この中に、3分遅れの総合10位アレハンドロ・バルベルデや3分22秒遅れのジョージ・ベネットなど危険な選手が含まれていたこと。
しかもベネットは第5ステージまで総合6位だったセップ・クスと共に逃げており、バルベルデもホセホアキン・ロハスとカルロス・ベローナという強力なアシストと共に3名で逃げていたりと、とにかく油断できない顔ぶれの揃った36名。
当然、チーム・イネオスがアシスト総動員でこれを追いかけ、バルベルデがバーチャル・マイヨ・ロホを着用することのできる3分のタイム差すら許すことなく逃げとメイン集団との追いかけっこが継続。
2回目のプエルト・デ・オルドゥニャの登りに至る頃には逃げもメイン集団もかなり数を減らしていく、サバイバルな展開となった。
とはいえ、メイン集団も逃げ集団を「捕まえる」つもりまではなかったようだ。
イネオスもアシストが1枚(アマドール?)だけになってしまい、追走力は低下。
タイム差は最終的には1分ちょっとまで縮めて終了で、今大会3度目の逃げ切り勝利が確定した。
ドリアン・ゴドン、ホセ・エラダ、セップ・クスと何度かアタックを繰り出す選手たちが現れる中、残り22.2㎞地点(2回目のオルドゥニャの山頂まで3.1㎞地点)でマイケル・ウッズが一人単独でするすると抜け出す。
あっという間に、逃げ集団とのタイム差を開いていくウッズ。
これを見て、ブリッジを仕掛けたのが今年のツールでもステージ優勝を果たしているナンス・ピーターズとアレハンドロ・バルベルデ、のちにアスタナ・プロチームのオマール・フライレとコフィディスのギヨーム・マルタンも合流した。
一方、このウッズと4名を追いかけるのがセップ・クスとジョージ・ベネットのユンボ・ヴィズマコンビ、およびミケル・ニエベやダヴィデ・フォルモロなどの実力者たち。
しかしこの「逃げ残り」11名たちは12~14%の激坂区間でガンガン踏んでいくバルベルデたち4名とウッズらからは突き放されるばかり。
結局、ウッズを捕まえた5名(ウッズ、バルベルデ、フライレ、マルタン、ピーターズ)が追走11名(クス、ベネット、コスタ、フォルモロ、エリッソンド、アレンスマン、ストーラー、アランブル、シェリング、ニエベ、ホセ・エラダ)に対して18秒程度を維持したまま残り10㎞ゲートを通過。
その後もこのタイム差は縮まることなく、勝負は先頭の5名の手に委ねられた。
繰り返し、積極的にアタックを仕掛けるピーターズ。
若きアグレッシブさを発揮する彼に対し、常に自らチェックに入ったのがウッズだった。
逆にバルベルデはうまく他の選手たちの動きを利用しつつできるだけ自分の力を使いすぎないよう節約した走りを見せていたが――最終的には、その老練さが裏目に出た。
危険な逃げを自ら潰し続けて「チャンスを失わない」ことを心掛け続けていたウッズが、ラスト1㎞のフラム・ルージュを前にして、鋭いアタック。
直後にフライレがこれを追いかけるも、ラスト1㎞の時点でタイム差は5秒。
勢いを緩めることのなかったウッズがそのまま、フィニッシュゲートに飛び込んできた。
「逃げグループ内にバルベルデがいて、僕は集団内に(総合エースの)ヒュー・カーシーを残していたので、逃げ集団を牽く理由がなかった。だから力を残しておくことができた。僕はちょっと運が良かったんだ」
「もともとは逃げに乗るつもりはなく、ヒューをサポートする予定だった。だけどレースがとてもクレイジーに展開して、前にいたグループがとても大きくなったので、僕もこれを抑えるために逃げに乗らざるをえなくなった。それが僕にとても大きなものをもたらしてくれた」
Vuelta a España: Michael Woods wins stage 7 | Cyclingnews
56秒遅れでフィニッシュにやってきたメイン集団は数を減らしながらも重要な脱落者を出すことなくノーコンテスト。
翌日の総合争い必至の山頂フィニッシュに向けて、できる限り体力を温存する1日となったようである。
第8ステージ ログローニョ〜アルト・デ・モンカルビリョ 164㎞(山岳)
今大会2度目の「山岳」カテゴリステージ。
とはいえ、前半は平坦ではないとはいえ山岳ともいえないレイアウトで、中盤の2級山岳(登坂距離9.8km、平均勾配5.3%)もそこまで厳しい登りではない。
よって、レース後にログリッチが「退屈だった」と称した前半部分は主に7名(レミ・カヴァニャ、ルイ・コスタ、ロバート・スタナード、スタン・デウルフ、ベンジャミン・ダイボール、ジュリアン・シモン、アンヘル・マドラソ)の逃げが形成され、落ち着いた展開に。カヴァニャはこれで8ステージ中5ステージで逃げていることになる。
メイン集団は最初こそイネオス・グレナディアースが牽引していたものの、レース中盤からはモビスターがこれを完全に支配。
逃げ集団を逃げ切らせる勢いにペースを落としていたイネオスに対し、これを嫌ってステージ優勝争いに持ち込もうとする意図があったのかもしれない。
モビスターの牽引は最後の1級アルト・デ・モンカルビリョ(登坂距離8.3km、平均勾配9.2%)の麓まで続き、逃げメンバーはデウルフとダイボールの2人だけに。
この2人も残り7.6kmで捕まえられ、モビスターも残るはトリプルエースの3名と1枚のアシスト(ベローナ?アルカス?)のみに。
メイン集団の数も30名程度にまで絞り込まれていた。
残り6.6㎞で最後のアシストも脱落したのを機に、トリプルエースの一角、総合9位のアレハンドロ・バルベルデがアタックする。
しかしこれを抑え込んだのがユンボ・ヴィズマのロベルト・ヘーシンク。すぐさまバルベルデを飲み込んだヘーシンクはそのまましばらく先頭固定で牽引を続ける。
今年で34歳のベテラン。かつてはオランダ人総合エースとしてグランツールで通算5回の総合TOP10入りを果たしている。
そんな彼がここ数年はすっかりと板についていたアシスト稼業。今年のツール・ド・フランスでは主に登りの麓までの猛牽引で存在感を示したが、今日はしっかりとこの登りの前半でも強さを見せつけた。
そうしてヘーシンクの牽引で集団の数が26名まで絞り込まれた残り5.2㎞。
ここで前日優勝のマイケル・ウッズが前方にポジションを上げ、その背後に総合2位ヒュー・カーシーがつけた。
ヘーシンクが仕事を終え、ウッズが一気にペースを上げていき、総合15位マティア・カッタネオや総合19位セルジオ・エナオ、カラパスにとっての最後のアシスト役であるイバン・ソーサ、そしてバルベルデもこのタイミングで脱落していった。
ウッズのペースアップは止まらない。一度は失速してカーシーが前に出ようとしたが、それを抑えるようにして再びウッズが前に出てさらにペースを上げる。
残り4.5㎞。先頭は12名に。
総合12位ダビ・デラクルス、総合7位マルク・ソレル、総合6位フェリックス・グロスチャートナーも遅れ始める。
そして残り3.6㎞でウッズがついに仕事を終える。
と、同時に、当然カーシーがアタック。
ここにすぐさまチェックに入ったのがセップ・クスだった。このタイミングで総合8位エステバン・チャベスも脱落した。
しばらくは集団から抜け出していたカーシーとクスだったが、残り2.6㎞でカーシーが吸収される。
その途端にカウンターアタックを仕掛けるクス。
そのままステージ優勝も狙えるか、と思われた勢いでアタックしたクスに、すぐさまマイヨ・ロホのリチャル・カラパスがアタックして反応した。
ついに鳴り響く戦いのゴング。
恐ろしい勢いで激坂を駆け上がり、クスをパスしていくカラパス。
だがその背中に、ぴったりとマイヨ・ヴェルデのログリッチが食らいついていく。
渾身の一撃を放ったカラパスに対し、 落ち着いた様子で対処していくログリッチ。
カラパスも足を緩めざるを得ず、一度は離れたカーシー、マーティン、そしてウラソフも追いついてくる。
そして追いついたと同時にカウンターで飛び出したウラソフ。残り1.6㎞。
すでに6分半以上遅れているウラソフに対してカラパスもログリッチもすぐには反応せず、マーティンもカーシーもさっきのカラパスの足を見ているだけに自ら動くことはせず様子を見てしまう。
その間に一気にタイム差を広げていくウラソフ。
これはチャンスか?
しかし、2度目のステージ優勝を狙うログリッチが残り1.1㎞でアタック。
ディフェンディングチャンピオンの足は今年も本物で、残り1㎞で無慈悲にウラソフを追い抜いた。
カラパスもウラソフのところまで追いつき、勾配が緩くなったところでしっかりとログリッチの背中に飛び乗った。
残り900mでもう一度ログリッチアタック。
残り800mで今度はカラパスがアタック。直後にさらにログリッチがアタック。
実にブエルタらしい、素手の殴り合い。
だが、今度のログリッチの攻撃は、決定的なものとなったようだ。
ギャップが開いていくログリッチとカラパス。
カラパスもまだペースを落とさず、じりじりと近づいていく。
二人とも腰を上げて、しかし姿勢は低く、差は、縮まらない。
逃げ切るか、追いつくか。
ログリッチの表情は苦悶に歪む。しかし、後ろを振り向かない。一切振り向かない。
迷いのない走り。
それは、ツールのあの手痛い敗北の後、それでも最後まで諦めない走りでストイックに初のモニュメントを獲ったときと同じ。
彼は、誰よりも強いわけではないが、誰よりも強靭なメンタルを持つ男であるように思う。
その結果、ついにこの日の最後の瞬間で、13秒ものタイム差をつけることに成功した。
まだカラパスからマイヨ・ロホを奪い取るまでは至らないまでも、純粋な力と力のぶつかり合いではまだまだログリッチが上手であることをはっきりと示した。
あとは、この勢いがどこまで続くか。この日の開始前にトム・デュムランを失ったユンボがどこまで戦うことができるか。
結末はいまだ予想できず。混沌の2020ブエルタ・ア・エスパーニャはいよいよ後半戦へと突入していく。
第9ステージ カストリージョ・デル・バル〜アギラル・デ・カンポー 157.7㎞(平坦)
カスティーリャ・イ・レオン州を舞台に行われる、今大会2度目の平坦ステージ。
天気も良く、風も強くなく、逃げに乗った選手もUCIプロチームの2人(カハルラル・セグロスRGAのアリッツ・バグエス、ブルゴスBHのフアン・オソリオ)だけ。
激しいステージ、展開ばかりが続いていた中で、ようやくプロトンにとって落ち着いて過ごすことのできる1日となったように思う。
逃げ2人は残り21.2㎞で早くも吸収。
新たな逃げは生まれることなく、集団スプリントへと突入していく。
この日はボーラ・ハンスグローエが完璧な体制。
残り1.4㎞の鋭角コーナーを超えてなお、アッカーマンの前には3枚のアシスト。
ラスト1㎞でまだアシストが2枚。すでにドゥクーニンク・クイックステップはミケル・モルコフただ一人となっており、アッカーマンの背中に乗ることしかできていない。
残り500mでボーラもアッカーマンの前には最後のアシストルディガー・ゼーリッヒただ一人に。
左からはルイ・オリヴェイラがジャスパー・フィリプセンを率いてポジションを上げゼーリッヒたちに並び立つも、残り300mでオリヴェイラ脱落。
結局フィリプセンもアッカーマンの後ろに入り込むことしかできなくなり、主導権は完全にボーラが手に入れていた。
だがここで、モルコフが持ち前のリードアウト力を存分に発揮した。
残り250m。アッカーマンの背後につけていたモルコフは、フィリプセンにその番手を獲られたかと思うと、そこから一気に加速。アッカーマンの右隣にまで這い上がってきた。
このままではモルコフに進路を阻まれる恐れも感じたアッカーマンは、少し早駆けになることを覚悟でスプリントを開始。
これを見て、ベネットは残り200m。最高のタイミングで自らのスプリントを開始した。
結果、このわずかな駆け出しの差が勝負を決めた。
そして、この差を生んだのが、最後の最後、あの加速域の中で更なる加速を叩き出しライバルにプレッシャーを与えた一流リードアウター・モルコフの実力であった。
「ドゥクーニンク」の勝利。サム・ベネットは誇らしげに、その胸元のスポンサーロゴを世界に知らしめた。
だが、この決着の後、ベネットの降格処分が下された。
理由は、位置取り争いの際に、モルコフの番手を獲ろうと迫ってきたトレック・セガフレードのエミル・リエピンスに対し、肩で2度、押しのけてしまったということ。
「自分のポジションを守ろうとした」というサム・ベネットの主張もわからなくはないが、そのベネットの所属するドゥクーニンク・クイックステップのファビオ・ヤコブセンの事故の件などもあり、今年はかなり厳格に、ポジション争いに関するルールが適用される傾向にある。
スプリンターの激しいバトルが消極的になるという意見もあるだろうが、結果として大きな事故を未然に防ぐことになるこの傾向は、受け入れていかなくてはいけないものだと感じはする。
結果、繰り上げでこの日の勝者はパスカル・アッカーマンに。
とはいえ、この日は決してアッカーマンの「勝利」ではない。
やはり最後の最後で早駆けという、これまでのアッカーマンの「失敗」がこの日も繰り返される結果となった。
そしてその要因は、最後の最後でゼーリッヒの牽き上げがモルコフの牽き上げに敗北したという、リードアウターの差。
これはボーラが弱いというよりはドゥクーニンクが強すぎな面ではあるものの、これをなんとか克服していかない限り、真の意味でボーラの勝利とは言えない。
残る平坦ステージは(第10ステージが集団スプリントにならなかったことで)最終日マドリードだけとなるが、果たしてそこで「リベンジ」を果たせるか。
第10ステージ カストロ・ウルディアレス〜スアンセス 185㎞(平坦)
今大会3度目の「平坦」ステージ。
しかし、平坦とはかけ離れたフィニッシュのおかげで、期待されていた集団スプリントとはならず、むしろ総合順位に影響を及ぼす結果をもたらした。
この日の逃げはロット・スーダルのネオプロのブレント・ファンムールのほか、UCIプロチームに所属するピム・リヒハルト、ヨナタン・ラストラ、アレックス・モレナールの合計4名。
タイム差は最大で12分まで開いたものの、ドゥクーニンク・クイックステップ、ミッチェルトン・スコット、アスタナ・プロチームなどが猛牽引。
この日唯一の山岳ポイントとなる3級山岳ではこのペースアップでサム・ベネットが早くも脱落。
ベネットの近くにアシストの姿が一人もいないことから、ドゥクーニンクはこの日の勝負をベネット以外で狙っていることが明確となった。
もうこの時点で、「平坦」らしさは微塵も感じられない。
残り16.4㎞で逃げ集団をすべて吸収。
ファンムールも吸収されたことでロット・スーダルも前に出てきて牽引。
残り11.4㎞でブルゴスBHのウィリー・スミットがアタック。残り9.6㎞でこれが捕らえられると同時に、逃げスペシャリストのレミ・カヴァニャがカウンターで仕掛けた。
昨年もブエルタで逃げ切り勝利を成功させているカヴァニャ。このタイミングでの独走開始はかなり危険である。
カヴァニャのアタックに食らいついていったイヴォ・オリベイラも残り5㎞で突き放し、一人で淡々と踏んでいくカヴァニャ。
このまままた逃げ切ってしまうのか?
だが、意外なことにこれを捕まえたのがイネオス・グレナディアース。
アンドレイ・アマドールを先頭に、リチャル・カラパスのための強力な牽引を見せ、残り3.7kmでカヴァニャを吸収した。
この日の「平坦」が欺瞞であったことをイネオスはよく理解していたようだ。
あくまでもカラパスで勝利を狙う、そんな意思を感じさせる走りだった。
そして同じような思惑をユンボ・ヴィズマも持っていた。
残り1.7㎞。登りの始まりとともに、ログリッチを率いてポール・マルテンスが先頭に躍り出てくる。
その他、ジョン・アベラストゥリ率いるカハルラル、アレックス・アランブル率いるアスタナが前の方に。完全にパンチャー勝負である。
そして、残り1㎞を切って最も鋭い攻撃を仕掛けたのが、山岳賞ジャージを着るギヨーム・マルタンだった。彼もまた、パンチャータイプの脚質をもつ選手。
一気に集団とのギャップを開いたマルタンの動きに、釣られるようにして前に出てしまったのがカラパスだった。
残り300mで先頭のマルタンに追いすがるカラパス。だが、(残り500mで平坦になるというプロフィール画像に反して)最後まで厳しい登りが続いたこの日の最終レイアウトで、これだけ早く前に出てくるのは実は悪手であった。
残り200mを切って失速するカラパスを尻目に、左手から一気に番手を上げてきたのがマイヨ・ヴェルデに身を包むログリッチ。
残り150mを切ってログリッチ、先頭に。
そのまま7名の小集団を率いて、先頭でフィニッシュラインに突入してきた。
最後まで冷静に仕掛け所を見極め続けた、ログリッチらしい勝ち方であった。
そして、「事件」が起きる。
ログリッチの背後にいる7名と、その後ろのジャスパー・フィリプセンとのタイム差が「1秒」開いてのフィニッシュ。
この日は「平坦」カテゴリのため、3秒差が開くまではタイム差なしの判定となる、そんなレギュレーションのはずだった。
しかしレース後に主催者はこの日が集団スプリントではなかったことから、この「1秒」の開きを有効と認め、結果、フィリプセンとログリッチとのタイム差「3秒」が、リザルトに反映されることとなった。
このフィリプセン以下の集団には当然、カラパスも含まれる。
元々ログリッチとカラパスとの総合成績におけるタイム差は3秒。
あとはステージ勝利の数を基準にして、ログリッチが新たなマイヨ・ロホ着用者となった。
この、カテゴリ分けに反した突然の判定に、選手たちからは抗議が殺到。
Jsportsの中継中でも辻啓氏や栗村氏からも珍しくはっきりとした非難の言葉が出てくるなど、すっきりしない裁定となった。
第11ステージ ビリャビシオサ〜アルト・デ・ラ・ファラポナ、ラゴス・デ・ソミエド 170㎞(山岳)
この日、最初に巻き起こったのは激しい山岳賞争いだった。
スタート直後の3級山岳に向けた積極的なアタック合戦で抜け出したのが、現在山岳賞5位のティム・ウェレンス。山岳賞首位のギヨーム・マルタンに対し、8ポイント差で追いかける立場であった。
当然マルタンとしてはこれを逃がすわけにはいかない。だが結果としてこれに乗ることはできず、先頭はウェレンスを含む8名に。
最初の3級山岳の先頭はウェレンスがしっかりと獲得し、ポイント差は5ポイントに。
マルタンは危機に陥った。
だが、ここからのコフィディスの動きが非常に強かった。
マルタンの前に4枚のアシストを置いてメイン集団を猛牽引。
先頭は新たに4名の追走が合流して12名になったが、メイン集団とのタイム差は徐々に縮まっていく。
残り114㎞地点の1級山岳アルト・デ・ラ・コラドナ(登坂距離7km、平均勾配6.5%)の登りで先頭からウェレンスがアタックするが、唯一先頭集団に入り込んでいたコフィディスのピエールリュック・ペリションがしっかりとこれをチェック。
先頭集団で常にローテーション拒否して重し役に徹していたペリションが素晴らしいアシストを見せた瞬間だった。
結果として山頂まで残り2.7㎞地点で全ての逃げが吸収。
コフィディスはチーム一丸となった動きでこの日の危機を乗り越えた。
その後生まれた逃げは8名。
- ダヴィ・ゴデュ(グルパマFDJ)
- ブルーノ・アルミライル(グルパマFDJ)
- マイケル・ストーラー(チーム・サンウェブ)
- マーク・ドノヴァン(チーム・サンウェブ)
- ニクラス・エイ(トレック・セガフレード)
- ネルソン・オリヴェイラ(モビスター・チーム)
- ギヨーム・マルタン(コフィディス・ソルシオンクレディ)
- ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
ようやく落ち着いたメイン集団を新たにマイヨ・ロホを手に入れたユンボ・ヴィズマが牽引しつつ、この日2つ目の1級山岳コベルトリア峠(登坂距離9.8km、平均勾配9%)に向かっていく。
その途上で、メイン集団にて動きが。
3分52秒遅れの総合10位マルク・ソレルが単独でアタック。
ユンボとイネオスが最後の登りで勝負しようとする中、「第3軸」たるモビスターはトリプルエース体制を存分に生かした早めの攻撃を仕掛けるつもりか。
その一番槍となるソレルが、2年前のパリ~ニースで、アルベルト・コンタドールが成そうとして成し得なかった「最終日エズ峠ステージでの早駆けによる逆転総合優勝」を見事実現させてみせた男だというのが、不気味であった。
実際、ソレルはその後見事先頭の8名にジョイン。
総合5位エンリク・マス、総合8位アレハンドロ・バルベルデが睨みを利かすメイン集団のライバルたちにとってはどうしようもない動きながらも、本来であれば許すことのできない危険な動きを許してしまう結果となった。
再び山岳賞争いに目を転じると、この2つ目の1級山岳の登りでウェレンスが脱落。
ステージ開始当初は危機に陥っていたように思われたマルタンが、結果としてはこのあとの2つの1級山岳を共に先頭通過し、合計で20ポイントを上積み。
蓋を開けてみれば、その山岳賞首位を盤石とさせたステージとなった。
そして始まる最後の登り1級山岳ファラポーナ(登坂距離16.5km、平均勾配6.2%)。
6年前、クリス・フルームがアタックを仕掛けた残り5㎞地点で先頭集団からマルク・ソレルが抜け出す。
これを追いかけたのはマルタンとダヴィ・ゴデュ。しかしマルタンはついていけず、2015年ツール・ド・ラヴニール覇者ソレルに食らいついていけたのは2016年ラヴニール覇者ゴデュだけだった。
そのままフィニッシュ地点にまでやってくるソレルとゴデュ。しかしここまで、総合ジャンプアップのために積極的に前を牽くことも多かったソレルに対し、ゴデュの足は比較的フレッシュだった。
最後はソレルを突き放して単独でフィニッシュラインに。
観客のいないファラポナの山頂にその絶叫が響き渡る。
「フランス人ラヴニール覇者」としてのプレッシャーをすべて打ち払うような、渾身の勝利であった。
メイン集団ではユンボ・ヴィズマが常に先頭を支配し続けていた。
レナード・ホフステッドやヨナス・ヴィンゲゴーなど、山を登れるイメージのあまりなかった若手たちがガンガンと山岳で牽引。
山頂まで残り4㎞時点でユンボがまだアシストを4枚残しているのに対し、すでにイネオスは最後のアシストであるアンドレイ・アマドールすら失い、カラパスただ一人に。しかもカラパスは少しずつポジションを落としつつあった。
正直、ユンボにとっては攻撃のチャンスであった。マイヨ・ロホを着ているとはいえ、カラパスとのタイム差は0秒。得意のTTが残っているとはいえ、何が起きるかわからないのはこれまでの経験からもよく分かっているはず。
カラパスが丸裸なのに対し、アシストの数を豊富にそろえているユンボはここで勝負を仕掛けるべきだった。
しかし、ユンボはいかない。
このときすでに、ログリッチは不調だったのでは?
最終的には総合15位のアレクサンドル・ウラソフが単独で抜け出して6位フィニッシュ。
その5秒後に雪崩れ込むようにして総合上位勢のマーティン、マス、カラパス、ログリッチの4名がフィニッシュする。
カラパスも苦しそうだったが、ログリッチはその後ろに。
決して、盤石とはいえない様子を見せていた瞬間だった。
その恐れが現実のものとなったのが翌第12ステージ。
第2週最終日のアングリル決戦であった。
第12ステージ ポラ・デ・ラビアナ~アングリル 109.4㎞(山岳)
過去、逃げ切りの例も多いアングリルフィニッシュだけに、序盤からアタックが連発。
最初に抜け出したのがグルパマFDJのアントニー・ルーとEFプロサイクリングのユリウス・ファンデンベルフ。
ここにNTTプロサイクリングのエンリーコ・ガスパロットやカハルラルのホアン・ガルシア、ブルゴスBHのフアン・オソリオが追走を仕掛け、これをさらに追走した大集団がルーたちも飲み込んで20名近くに膨れ上がる。
そこからさらにUAEチーム・エミレーツのジャスパー・フィリプセンがダヴィデ・フォルモロを率いてロット・スーダルのトーマス・マルチンスキーと共に少し遅れての追走。
「芋ほり」状態になるかと思われていたフォルモロたちも、先頭から落ちてきたガスパロットとオソリオと合流して4人でペースアップ。
フィリプセンやオソリオを含む数名が脱落した結果、先頭は以下の20名となってしばらく推移することとなる。
- コービー・ホーセンス(ロット・スーダル)
- トーマス・マルチンスキー(ロット・スーダル)
- トッシュ・ファンデルサンド(ロット・スーダル)
- ギヨーム・マルタン(コフィディス・ソルシオンクレディ)
- ピエールリュック・ペリション(コフィディス・ソルシオンクレディ)
- ロバート・スタナード(ミッチェルトン・スコット)
- アレックス・エドモンソン(ミッチェルトン・スコット)
- ダヴィデ・フォルモロ(UAEチームエミレーツ)
- アレクサンドル・リアブシェンコ(UAEチームエミレーツ)
- ナンズ・ピーターズ(AG2Rラモンディアル)
- ルイスレオン・サンチェス(アスタナ・プロチーム)
- アンドレアス・シリンガー(ボーラ・ハンスグローエ)
- ルーカス・ヴィシニオウスキー(CCCチーム)
- マッティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
- ジュリアス・ファンデンベルフ(EFプロサイクリング)
- アントニー・ルー(グルパマFDJ)
- キャメロン・ワーフ(イネオス・グレナディアーズ)
この日もしっかりと逃げに乗れたマルタンは最後のアングリル以外のすべての山岳ポイントの山頂を先頭通過し、山岳ポイントを76ポイントにまで伸ばす。
2位のカラパスとのポイント差は46ポイント。ほぼこれで山岳賞を確定させたと言えるだろうか?
残り54.5km。
3分近くまで開いたメイン集団から総合13位ダビ・デラクルスがアタック。
フィリプセンを使ってまでフォルモロを前に上げたのはこの狙いのためだったか。
だが、この日最初の1級山岳モスケタ峠の下りでそのフォルモロがスリップして落車。
さらにメイン集団ではユンボに代わってモビスターがかなりのハイ・ペースで先頭牽引を開始。
一気にタイム差は縮まっていき、続く1級コルダル峠(残り21.2㎞地点)の登りの途上でデラクルス含む逃げ集団のほとんどが吸収されてしまった。
そしてこの登りで、メイン集団を牽引し始めたのがクリス・フルーム。
かつての力を取り戻したかのようなこの牽きによって、メイン集団の人数は一気に20名程度にまで絞り込まれていき、攻撃に出ようとしていたはずのモビスターもその数を減らしていく。
そして、前日総合6位まで浮上していたマルク・ソレルが落ちる姿も。
アングリル登坂前に一度は集団に復帰するソレルだが、最終的にはこの日先頭から14分以上の遅れを喫し、総合19位にまで転落する。
ここ数年のトリプルエース作戦がようやく機能したかのように見えていたモビスターだが、ここでその夢は空しくも潰えてしまったようだ。
そしていよいよアングリル決戦。
登坂距離13.2km、平均勾配9.4%。最大勾配23.5%。
ラスト6㎞は常に10%を下回ることがないという「魔の山」で、今大会最大級の戦いが始まる。
ここでプロトンを支配したのはやはりユンボ・ヴィズマだった。
ロベルト・ヘーシンク、ヨナス・ヴィンゲゴー、セップ・クス、ジョージ・ベネット。
ログリッチの前にまだ4名を残したユンボ・ヴィズマは、残り10.5㎞で逃げ続けていたギヨーム・マルタンら先頭集団を吸収する。
残り6.7kmでヘーシンクが仕事を終えると、今度は今年24歳のデンマーク人、ヨナス・ヴィンゲゴーが先頭牽引を開始する。
昨年プロデビューを果たしたばかりの若者で、昨年はツール・ド・ポローニュで区間1勝。その発音の難解さが物議を醸していた。
ポローニュの厳しい丘陵地帯を制するだけの登坂力は持ってはいるものの、純粋なクライマーと言えるほどのものかは疑わしく、せいぜいアルデンヌ・クラシックに強いパンチャータイプという印象だったが、昨日のファラポーナに続くこのアングリルでの強力な牽引。
この牽きによってアレハンドロ・バルベルデもワウト・プールスもミケル・ニエベも脱落し、むしろユンボのジョージ・ベネットすら仕事もできないまま脱落していくほど。
20%に達する強烈なアングリルの登りを難なく前で牽き続けるヴィンゲゴーもまた、ユンボの若き有望な山岳アシストとして大成するのか。
そして残り3.6㎞でヴィンゲゴーが仕事終了。
と同時に、エンリク・マスがアタックした。
2年前のこのアングリルでアルベルト・コンタドールの感動的なフィニッシュを演出した「コンタドールの後継者」がここでその意志を受け継ぐような走りを見せる。
もちろん、ユンボの最後のアシストであるセップ・クスがすぐさまこれを捕らえようとする。
が、ログリッチが動けない。
クス一人ならおそらく、マスを捕らえることはできる。
だがログリッチが明らかに足が動いていない以上、クスは一人で前に行くわけにはいかない。
そうこうしているうちに離れていくマス。
ユンボが行けないことを知ったヒュー・カーシーとアレクサンドル・ウラソフが次々とアタックを仕掛けるも、やはりログリッチ、動けない。
それでもクスが一定のペースを維持してログリッチを牽き上げ、一度は抜け出したカーシーとウラソフも吸収していく。
ただ一人、マスが良い。
残り2.2㎞。19%の急勾配を先行するマスに、10秒遅れでクス、ログリッチ、カーシー、ウラソフ、マーティン、そしてカラパスの6名。
そして残り2㎞。
ついに、カラパスが動いた。
一気に先頭のマスのところに追い付いたカラパス。そこにはカーシーもついてきていた。
先頭3名。そこから9秒遅れでダニエル・マーティンとウラソフ。
そしてログリッチは、クスに支えられながらも、さらにそこから遅れかけていた。
残り1.4㎞。
先頭ではカーシーがペースを上げた。
その表情はすでに限界を迎えていた。
身体は左右に今にも倒れそうなくらいに振り切れ、息も絶え絶えでハンドルを振っていた。
それでも彼は止まらなかった。
2014年にはラファ・コンドールの一員としてツアー・オブ・ジャパンを走り、富士山ステージと伊豆ステージで2位。新人賞にも輝いた。
その後はチーム解散と共にスペインのプロコンチネンタルチーム、カハルラルに。
そして3年前から現チームへ。決して平坦ではなかった道のりを走り続けてきたイギリス人クライマーが今、世界の頂点に限りなく近い場所に手を届かせた。
一度は先頭に立ったカラパスだったが、第10ステージに続き「早すぎる攻撃」が祟ったのか、最後は失速。
彼の前にカーシーだけでなくマスとウラソフも先行させてしまったことで、ボーナスタイムを得ることは叶わず。
それでも、ログリッチに10秒先行してフィニッシュに辿り着くことには成功。
マイヨ・ロホを再び手にして、運命の個人TTへと挑むことに。
第12ステージステージリザルト
第2週終了時点での総合リザルト
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