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2020シーズン 10月後半〜11月主要レース振り返り

 

2020シーズンは「11月まで続く」という特異な年。

とはいえ11月のレースというのはブエルタ・ア・エスパーニャ(と、それに関連するマドリッドチャレンジ)くらい。

ということで、今回は10月後半から11月にかけてのレースを振り返っていく。

それでも2つのグランツールにロンド・ファン・フラーンデレンなど、かなり盛沢山な内容なのだけれど・・・。

 

混沌に満ち溢れた2020シーズン最後の振り返りをどうぞ。

 

   

↓過去の「主要レース振り返り」はこちらから↓

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

 

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シュヘルデプライス(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:10/14(水)

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1907年に初開催された「フランドル最古のクラシックレース」。

ほぼほぼ登りの存在しないオールフラットレイアウトの完全スプリンター向けワンデーレースであり、サム・ベネット、カレブ・ユアン、パスカル・アッカーマン、アレクサンダー・クリストフなど、ジロ・デ・イタリアに出場している選手を除いたほぼ全ての世界最強スプリンターたちが勢揃いしたレースとなった。

 

その「スプリンター最強決定戦」を制したのはカレブ・ユアンだった。

残り2㎞の時点で集団先頭をドゥクーニンク・クイックステップとボーラ・ハンスグローエが支配し、すでにアシストがジャスパー・デブイストだけになっていたユアンは無理して前に出ることを選択しなかった。

残り1㎞を切ってそのデブイストが集団の先頭に立つも、そのときもユアンは前に出ることはせず、残り500mでついにデブイストが脱落。

ユアンはただ一人となってしまったが、冷静に、目の前のジャスパー・フィリプセン率いるUAEチーム・エミレーツと、ティム・メルリエ率いるアルペシン・フェニックスの背後を取って、「その瞬間」に備えていた。

そして残り200m。完璧なタイミングでフィリプセンの背中から飛び出したユアンは、そのまままっすぐ、誰もいない先頭の空間を突き抜けていった。

純粋に、力による勝利。

誰もその影を踏むことができないまま、今年のツールでも「個人としては最強」であることを証明するようなスプリントを見せていた男が、軽々と勝利を掴み取った。

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ただ、平和だったのは彼の前だけだった。

その背後では、パスカル・アッカーマンの横の動きに起因する混乱によって落車が発生。

オーギュスト・ヤンセンが地面に叩きつけられたほか、何名かの選手がその動きを阻害されたようだった。

 

結果としてアッカーマンは降格処分。

今年「2ゲッター」であり続けている男が、その2位すらも得られない裁定を下されることとなった。 

 

 

 

ロンド・ファン・フラーンデレン(1.WT)

ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:10/18(日)

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新型コロナウイルスの影響によりミュール・カペルミュールが取り除かれたものの、いつものオウデクワレモント3周、パテルベルク2周、そしてコッペンベルフといったお馴染みの登りやフィニッシュレイアウトは変わらない。

毎年ドラマを生み続ける「クラシックの王」が今年も歴史に残るドラマを描き出してくれた。

 

今年、レースが動いたのは残り45㎞から始まる「コッペンベルフ」。

登坂距離500m、平均勾配11%、最大勾配22%のロンド・ファン・フラーンデレンを代表する「超激坂」。

この登りで最初に抜け出したのはトタル・ディレクトエネルジーのアントニー・テュルギ。

そしてそこに、今年北のクラシック初挑戦となる世界王者ジュリアン・アラフィリップが食らいついていった。

 

当然、この動きは危険極まりない。

すぐさまワウト・ファンアールト、アルベルト・ベッティオル、ジャスパー・ストゥイヴェン、オリバー・ナーセン、ディラン・ファンバーレ、アリエン・リヴィンズ、そしてマチュー・ファンデルポールといった精鋭集団がパックを作って追いかけた。

先頭2名を吸収し、計9名となったこの先頭集団に対し、メイン集団はサンウェブの選手たちが中心となって全力牽引。

その集団からティシュ・ベノートが発射され、先頭に追い付くも、先頭も先頭で牽制状態に陥り、結局はメイン集団に追い付かれて一つになった。

 

このコッペンベルフにおける最初の動きは、一旦落ち着いた、そんな風に思われていた。

 

 

しかし、アラフィリップはまだ攻勢を緩めない。

残り40㎞から始まるシュテインビークドリシュ。

登坂距離700m、平均勾配5.3%、最大勾配6.7%。

決して厳しくはないこの石畳の登りの、「下り」においてアラフィリップはこの日3度目のアタックを仕掛けた。

 

そして今度のこの攻撃は、集団を完全に突き放すものとなった。

唯一食らいついていったのが、マチュー・ファンデルポール。

世界王者と現役最高峰の「自転車乗り」マチューとのタンデム。

ここに、後方から猛烈な勢いで単身追い上げてきたのが、マチューの永遠のライバルたるワウト・ファンアールトだった。

「ボーネンベルク」ことタイエンベルクの登りでワウトが合流し、先頭は3名。

追走はオリバー・ナーセンを先頭に12秒差で追いかけてくるが、ナーセン以外の選手たちがみな消極的で、ナーセン自身も苛立ちを募らせる。

そんな中、昨年の覇者アルベルト・ベッティオルが集団からアタック。すぐさまアラフィリップのチームメートであるカスパー・アスグリーンがチェックに入り、そこにもう1人のチームメートで優勝候補のイヴ・ランパールト、そしてグルパマFDJのヴァランタン・マデュアスがついていく。

4名の強力な追走集団。しかしそのうちの2名が抑え役とあっては、スピードも上がらない。

そしてこれを追いかけるメイン集団はナーセンが「回れ回れ」とサインを送るが協調が取れない。

こうなれば、抜け出したアラフィリップたち3名は圧倒的有利。

これがクラシックの最終盤におけるお決まりのパターンであった。

 

クイックステップのローテーション妨害にどうしようもなくなったベッティオルとマデュアスはペースを落としてメイン集団に捕まるのを待つことに。

だが、その隙をついてここからアスグリーンがアタック。

このまま先頭の3名に追い付けば、4名中2名がクイックステップという圧倒的優位な体制に。

そうでなくとも先頭でアラフィリップがローテーションを回す理由がなくなるため、いずれにせよ彼らにとって有利であることは間違いなかった。

 

そうはさせじとメイン集団で最もやる気のある男ナーセンが猛牽引。

なんとかアスグリーンを引き戻すことに成功するが、それでも先頭の3名に追い付くには一人ではどうしようもなかった。

ナーセンが牽引をやめれば再び集団は停滞。

もはや、先頭3名が逃げ切りを阻む障害は何一つなくなった。

 

 

だが、ここで、信じられないアクシデントが発生。

先頭で逃げていたジュリアン・アラフィリップが、気を抜いた瞬間に路肩に止めていたモトバイクに激突。

力強くアスファルトに叩きつけられ、絶叫しながら身動きが取れなくなる世界王者。

まさかの北のクラシック初挑戦での栄光が目の前にまでやってきていた中での、あまりにも悔しいリタイアであった。

 

 

そして、先頭はマチューとワウトの一騎打ちに。

これまで、シクロクロスにおいては幾度となく鍔迫り合いを続けてきたこのライバルが、こうしてロードレースを舞台にして純粋な一騎打ちをするのは初めてだった。

とくにワウト・ファンアールトは今シーズン絶好調。スプリントにおいても、ツール・ド・フランスで並み居るトップスプリンターたちを相手取って2勝するなど、マチューにとっても簡単に勝てる相手では決してなくなっていた。

 

よって、マチューは残る2つの勝負所、「3回目オウデクワレモント」と「2回目パテルベルク」にてワウトを突き放そうと考える。

しかし、いずれも加速したマチューに対し、ワウトはしっかりと食らいつき、離れない。

最後のパテルベルクも互いに一歩も譲らない形でじりじりとした緊張感と共に突破した末に、いよいよ、栄光の1500mストレート。

最後の、スプリント決戦へと突き進むこととなった。

 

 

残り1㎞を切ってから、まるでトラックのスプリント競技のように何度も後ろを振り向きながら様子を伺うマチュー・ファンデルポール。

ワウト・ファンアールトも決して彼の前に出ようとしないまま、ひたすら待ち続ける。

残り500m、そして残り300mを切っても、二人は動かない。

徐々に近づいてくるメイン集団からは昨年のようにアスグリーンが飛び出す場面も見られたが、それでも前の二人は動かなかった。

 

そして残り200m。

最初に動いたのはマチュー・ファンデルポールだった。

すぐさま反応し、加速するワウト・ファンアールト。

ファンデルポールが先行したままフィニッシュに近づいていくが、やがて最高速度に達してファンアールトが、ファンデルポールの左隣に並び立つ。

そして、最後の瞬間。

バイクを投げる二人。

決着は――

Embed from Getty Images

 

わずかの差で、ファンデルポール。

のちに、「待ち過ぎた」と告げたワウト・ファンアールト。

たしかに、空撮で見ていると、フィニッシュ直前にファンデルポールが力を失いかけている様子がわかる。

もしあと100、いや50m残っていれば、もしかしたらファンアールトが差し切っていたかもしれない。

しかし、最後の最後、ファンデルポールという巨大なるライバルの存在に警戒しすぎたのかもしれない。

ロードレースにおける二人の初の一騎打ちは、まずはマチュー・ファンデルポールに軍配が上がった。

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立ちながら涙を流すマチュー・ファンデルポール。

シクロクロス、マウンテンバイク、そしてこのロードレースでも数々の勝利を掴み取り衝撃を与え続けてきた神童も、やはり世界最高峰のクラシックにおいては、その感情を爆発させざるを得なかったようだ。

これから先、まだしばらくはロードレースに本気を出すことはなさそうなファンデルポールではあるが、これからも、このファンアールトとの同じような熱いバトルを繰り広げ続けてくれることを期待している。

 

しかし、いやはや。

「クラシックの王様」というのは、本当に毎年、伝説的なレースを繰り広げてくれるものだ。

 

 

 

ロンド・ファン・フラーンデレン女子(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:10/18(日)

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135.6kmで争われた女子レースは、男子と同じ残り45㎞地点から動き出した。

最初に動いたのは今年絶好調の世界王者アンナ・ファンデルブレッヘン。カナリーベルグと呼ばれる登りでの彼女のペースアップによって、集団は一気に絞り込まれ、逃げ集団とのタイム差を縮めていった。

そんなハードな展開の中で、残り30㎞。男子レースでもお馴染みのクルイスベルクで元世界王者のアネミエク・ファンフルーテンが独走を開始。いつもの勝ちパターンに持っていかれる、そんな風に誰もが思った。

だが、ここにファンデルブレッヘンがしっかりと食らいついた。

世界最強のファンフルーテンに立ち向かうには、同じく世界最強のファンデルブレッヘンの存在が必要不可欠。そしてファンデルブレッヘンは自らの力がそれで削られても、彼女の背後には世界最強のチームが控えていることを知っていた。

ファンフルーテンの危険な逃げを封じ込めたブールスドルマンは、残り18㎞の最後の勝負所「オウデクワレモント」にてシャンタル・ブラークによるアタックを繰り出した。

それはまるで、昨年の男子ロンド・ファン・フラーンデレンを彷彿とさせる展開だった。あのときもまた、セップ・ファンマルクという強力なチームメートの助けを借りて、アルベルト・ベッティオルをこのオウデクワレモントから独走を開始した。

そして、残されたメイン集団をチームメートたちがローテーション妨害をして逃げ切りをサポートするという展開もそっくりだった。

3年前世界王者となった31歳のオランダ人。

2022年に引退を決めている「世界最強の一角」が、クラシックの頂点を極めるレースを制覇した。

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ブールスドルマンがさらに凄いのは、2位にもチームメートを送り込んでしまったということだった。

この最強チームは長らくスポンサー問題に悩まされていたが、来年は新スポンサーを手に入れて「SDワークス」と名前を変え、ついにウィメンズ・ワールドツアー・チームへと昇格する。

新たにアシュリー・ムールマンやデミ・フォーレリングを獲得することが決まっているこのチームは、さらに「最強」となって女子ロードレース界にその名を轟かせることになるだろう。

 

 

 

ドリダーフス・ブルッヘ〜デパンヌ女子(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:10/20(火)

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ドリダーフス・ブルッヘ~デパンヌ、すなわち「ブルッヘ~デパンヌ3日間」は、その名に反して現在はスプリンター向けのワンデーレース。

ブルッヘとはフランス語でブルージュ。そこからデパンヌまでのフランドルを舞台に横風と戦いながらクラシック向きのスプリンターたちが覇を競い合う。

 

男子レースの前日に開催された女子レースでは純粋な集団スプリント。

先行する2年前の覇者ヨーリン・ドールに対し、昨年のUCI世界ランキング1位のロレーナ・ウィーベスが迫る。

コースの左端から追い上げたウィーベス。完全に抜き去る勢いであったが、それを見て進路を左にずらしていったドールが塞ぐ形に。

明らかに勢いを削がれたウィーベスは落車こそしなかったものの2位ゴール。

だがさすがにこれを上空から完全に捉えられてしまっていたドールは、降格処分を受けてしまい、勝ったのはウィーベスとなった。

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ツール・ド・ポローニュでの大事故以来、男子レースでも俄然厳しくなった斜行判定基準は、女子レースでも厳格に適用されていく。

ドールもトラックレースで活躍する人物だけに、「無意識」な動きも多少はあっただろうが、これはもう、現在のロードレースの流れとして受け入れていくしかないだろう。

 

 

 

ドリダーフス・ブルッヘ〜デパンヌ

ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:10/21(水)

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「予定通り」の集団スプリントで決着した女子レースと違い、男子レースはヘント~ウェヴェルヘム同様に完全なる北のクラシックレースと化した。

フランドル特有の北海から吹き付ける強風が次々と有力選手たちをなぎ倒し、残り50㎞を切る頃には先頭集団は24名だけに。

そして、この集団が最後の勝ち逃げ集団となった。純粋なスプリンターと言えそうな選手はほぼ残っておらず、その中でも有力と言えそうなのはジョン・デゲンコルプやマッテオ・トレンティン、ティム・メルリエといったあたりだった。

 

だが、そのあとも落車が頻発。その混乱の中、プロトンを支配したのは、この集団内に5名も残していたドゥクーニンク・クイックステップだった。

ロンド・ファン・フラーンデレン覇者マチュー・ファンデルポールもリタイアし、そのロンドでは辛酸を舐めたドゥクーニンクは猛プッシュ。

残り16㎞を切って横風の中で先頭集団も7名にまで絞り込まれた。

 

この7名の中の内訳はマッテオ・トレンティン、ジョン・デゲンコルプ、ティム・メルリエといった優勝候補たち。

だが、彼らの前に立ち塞がるのが、カスパー・アスグリーン、イヴ・ランパールト、ティム・デクレルク、ベルト・ファンレルベルフというドゥクーニンク4名。

後続から単独で追走を仕掛けていたメルリエのチームメートのヨナス・リッカールトが残り9㎞で追い付くも、情勢は変わらず。

残り7㎞を前にしてついにイヴ・ランパールトが飛び出すと、もはや、ドゥクーニンクのローテーション妨害を前にして集団は追いつくすべを失った。

 

ドゥクーニンクのドゥクーニンクらしい戦い方が存分に発揮された真正北のクラシック。

ジルベールが去ってもなお、彼が残した「ウルフパック」の精神は脈々と受け継がれていたようだ。

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ジロ・デ・イタリア(2.WT)

ワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:10/3(土)〜10/25(日)

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今年のグランツールで最も混乱し、波乱に満ち溢れたのがこのジロ・デ・イタリアであった。

何しろ、第2週開幕と共に、総合優勝候補を抱えるユンボ・ヴィズマとミッチェルトン・スコットがレースを離脱。

そのほかにもコロナだけが原因ではないが、ゲラント・トーマス、ミゲルアンヘル・ロペス、アレクサンドル・ウラソフ、フェルナンド・ガビリア、マイケル・マシューズ、ジュリオ・チッコーネなどのスター選手が次々とリタイア。

当初予想されていたものとは全く違ったものに変質してしまった。

 

だが、それでも、なのか、だからこそ、なのかはわからないが、誰の予想をも裏切るスペクタルが展開されたのもこのジロだった。

まずは、「レムコ・エヴェネプールのアシスト」として捉えていたホアン・アルメイダの15日間マリア・ローザ着用。

その登坂力のみならず、常に総合勢の中でもトップクラスの成績を叩き出すTT能力と、パンチャーたちと互角に渡り合うスプリント力にも驚きが絶えなかった。

エヴェネプールと同等、もしくはある意味それ以上かもしれない?その実力の高さに、クイックステップは想定外の新たなるグランツール総合エース候補を手に入れたこととなる。

 

そして、今年常に強くあり続けていたチーム・サンウェブが、今度はグランツール総合への可能性すら見せた。

しかも、来年はチームを去るウィルコ・ケルデルマンだけでなく、ジェイ・ヒンドレーも。また総合成績という意味では結果に残らなかったが、チーム3番手の走りを見せたクリス・ハミルトンや、ブエルタで活躍したロバート・パワー、マイケル・ストーラーなどと共に、オーストラリア勢の若手の躍進というものが今後のこのチームの鍵になるような気がする。

来年はバルデがやってくるこのチーム。あれ、まさかもしかして、ここでバルデが・・・なんてことも、ありえてしまうかも?

 

そしてテイオ・ゲイガンハートである。

昨年のブエルタでは総合エースの権利を得ながらもうまくいかなかった彼が、今回はセカンドエースではあっても基本的にはゲラント・トーマスのためのアシストという位置付けでスタートし、序盤からあえてタイムを失っていた。

しかし、いざトーマスが離脱した後は、常に説教的な攻撃を繰り返し、あれよあれよという間に総合順位を上げていく。

さらには終盤は世界最強アシストと化したローハン・デニスの奮起によってライバルたちを圧倒。

ついには最後の最後でサンウェブからマリア・ローザを奪い取った。

 

イネオスにとっては悲願のポスト・フルーム&トーマスのイギリス人総合エースが、全く予想していなかったタイミングで現れたことになる。

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さて、そんな白熱した総合争いの一方、スプリンター対決の方はこの男による圧勝だった。

アルノー・デマール。ミラノ〜サンレモ覇者でフランス最強のスプリンター。

今年はフランス国内選手権優勝やミラノ〜トリノ優勝、ツール・ド・ワロニー総合優勝などとにかくハイコンディションのままシーズンを過ごしていた。

このままなら念願の(昨年ギリギリで奪われた)マリア・チクラミーノも獲れるかもしれない・・・いやしかしそういうときうまくいかないのがデマールだし・・・と思いながら不安半分期待半分で挑んだジロ・デ・イタリア。

蓋を開けてみれば、他のライバルたち(ガビリア、サガン、ヴィヴィアーニーーとくにサガンとヴィヴィアーニはほぼ間のないツールからの連戦)を完封する圧倒さ。

その影にはもちろんチームの力があった。「チーム・デマール」の本領発揮。

来年はこの勢いを、本命ツールに持ち込んでいくことができるか。 

 

↓各ステージの詳細レビューはこちらから↓

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ブエルタ・ア・エスパーニャ(2.WT)

ワールドツアー 開催国:スペイン 開催期間:10/20(火)〜11/8(日)

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ジロ・デ・イタリアと一部並行して、18日間の短縮日程での開催という異例づくめの今年のブエルタ・ア・エスパーニャ。

ただ、逆にツール〜ジロ連戦がそのスケジュールの厳しさからほぼ難しいこともあり、結構ツールからこのブエルタに乗り込むパターンも多くあり、結果として第二のツールというような見え方もしていた。

今年はツールもジロも波乱の展開が巻き起こっていたのに対し、こちらはある種順当な結果であり、かつユンボvsイネオスの二大有力勢力の直接対決ということで、実に「オーソドックスな」グランツールであったと言える。ブエルタらしくない。

 

いや、ブエルタらしい展開もあった。第8ステージなんかはまさにブエルタらしいエース同士の素手の殴り合いを楽しめたし、総合3位にまさかのヒュー・カーシーが入ってくるあたりも、若手の台頭の舞台になりやすいブエルタらしさに溢れている。

ただ、昨年はプロコンチネンタルチームが大活躍したのに対し、今年はそこが元気なく、各ステージ優勝者の顔ぶれも意外性がないのはちょっと残念と言えば残念か。

 

あと相変わらずコース設定が独特すぎるのがさすがである。

オランダ開幕がキャンセルされたせいとはいえ開幕3ステージで常に総合争いの巻き起こる山岳ステージが続き、平坦なはずなのに激坂フィニッシュでログリッチが勝つ第10ステージや、丘陵ステージなのに集団スプリントが巻き起こる第15ステージなど・・・

いくら展開がスタンダードでも、どこまでいってもブエルタはブエルタであるということか。

 

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マドリードチャレンジ by ブエルタ(2.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:スペイン 開催期間:11/6(金)〜11/8(日)

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ブエルタ・ア・エスパーニャ主催者によって開催される、「女子版ブエルタ・ア・エスパーニャ」。ワンデーレースから始まって今年からは3日間のレースに。そのあたり、同じような位置づけである「ラ・クルス」に近いところもある。

昨年はTTが総合争いに大きな影響を及ぼしたものの、今年は初日に登りフィニッシュ。そこでどれだけ総合争いに動きが起こるか・・・と思っていたが思っていたよりも緩やかな、「登りスプリント」というべきレイアウトだったようで、スプリンターのウィーベスが勝利。総合成績における大差がつくことはなかった。

結果、TTを制したドイツ随一のTTスペシャリスト兼スプリンターのブレナウアーが勝利。総合2位のエリザ・ロンゴボルギーニに10秒差、3位のエレン・ファンダイクに13秒差で、男子と同じマドリードでの周回スプリントステージとなる3日目を残した状態で、何の問題もなくブレナウアーの総合優勝となるだろう、そんな風に思っていた。

だが、最終日がまさかの特別ルール。1周6㎞のコースを17周し、2周目から14周目までの偶数ラップに5-2-1秒のボーナスタイムが設定されているという、まるでハンマースプリントのような、トラックレースにおけるポイントレースのような、特別仕様。

こうなってしまえば、10秒・13秒といったタイム差は全く安心できないものとなる。実際、ロンゴボルギーニが途中アタックを繰り出して独走を開始し、ボーナスタイムポイントを次々と先頭通過。バーチャルで総合逆転を果たすなど、激しい展開が繰り広げられた。 

だが、TT能力だけでなくスプリント力もあるブレナウアーが終盤では危なげなくボーナスタイムを収集していき、最終的にはフィニッシュをエリザ・バルサモが勝ち取ったものの、総合優勝自体はブレナウアーが守り切った。

結果は想像通りのものだったが、実に白熱した「スプリントステージ」。たまにはこういうルールも、悪くはないかもしれない。

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