りんぐすらいど

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【全ステージレビュー】ジロ・デ・イタリア2020 第3週

 

混乱に満ちた3週間が終わった。

その結末は、誰もが予想しえなかった形に。

だが、それは逆にこれからの新たな時代の幕開けを象徴するものであり、決して後ろ向きなものではなかった。

 

その結末に至るまでの最後の6日間を振り返っていく。 

 

  

↓コース詳細はこちらから↓

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↓第1週の全ステージレビューはこちらから↓

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↓第2週の全ステージレビューはこちらから↓

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第16ステージ ウーディネ~サン・ダニエーレ・デル・フリウーリ 229㎞(丘陵)

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フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のウーディネからサン・ダニエーレ・デル・フリウーリまで。前半はジュリア・アルプス山脈の山岳地帯を駆け巡り、最後はサン・ダニエーレ・デル・フリウーロに隣接するラゴーニャの丘を含んだアルデンヌ風味の周回コースを2周半するレイアウト。

スプリンター向きではないものの総合争いが勃発するほどの難易度ではなく、パンチャーを中心とした逃げ屋に有利なコースとみなされていた。

 

そして実際にこの日は28名もの大規模な逃げ集団が形成。

その中で主役となったのは、山岳賞ジャージ「マリア・アッズーラ」を争うジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ヴィーニザブ・KTM)とルーベン・ゲレイロ(EFプロサイクリング)の2人であった。

 

 

最初の2級山岳「マドンナ・デル・ドム」はゲレイロが先着してヴィスコンティとのポイント差を10ポイント縮める。

続く3級山岳「モンテ・スピグ」では逆にヴィスコンティが先着し、ゲレイロとのポイント差を5ポイント開く。

さらに続く3級山岳「モンテアペルタ」の登りでゲレイロがメカトラブルに見舞われたため、ヴィスコンティは先頭通過9ポイントを丸々獲得することに成功した。

 

そして残り70㎞を切って1回目の3級モンテ・ディ・ラゴーニャ(登坂距離2.8km、平均勾配10.4%、最大勾配16%)へ。

 

その登りで抜け出したのがゲレイロ。

ヴィスコンティも単独で追走を仕掛け、2番手通過を狙う。

狙い通り先頭通過を果たしたゲレイロはヴィスコンティとのポイント差を再び5ポイント縮めるが、そのまま独走を続け残り2回の3級山岳を独占するまでには至らなかった。

 

 

すでにメイン集団とのタイム差は12分を超えており、先頭28名の中から逃げ切りが決まることはほぼ確定。

ステージ優勝を巡る争いが勃発し始めた。

 

 

最初に仕掛けたのは残り62㎞で集団から抜け出したマヌエーレ・ボアーロとバルディアーニCSFのフィリッポ・ザナ。

ここに数名がついていき、あっという間に先頭のゲレイロを飲み込む。

さらに直後のカウンターアタックで再びボアーロが飛び出すと、そこに食らいついていったのがヤン・トラトニクであった。

 

ボアーロとトラトニクの2人旅は残り40㎞の2回目のモンテ・ディ・ラゴーニャまで。

そこから、過去2回スロベニアTT王者に輝いているトラトニクが独走を開始する。

 

 

最終的には最後のモンテ・ディ・ラゴーニャで集団から抜け出したベン・オコーナーに追い付かれるものの、そこまで余裕をもってマイ・ペースで走り続けていたトラトニクが足を残していたのか、登坂では圧倒的に有利と思われていたオコーナーをフィニッシュ直前の登りで突き放す。

これまでの8勝中5勝がTTでの勝利というTTスペシャリストが、初のグランツール勝利。

そしてバーレーン・マクラーレンにこのジロで初の勝利をもたらすこととなった。

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メイン集団では前日にタイムを失っていたホアン・アルメイダが自らアタック。

総合2位ウィルコ・ケルデルマンら総合のライバルたちから2秒を奪い取る執念の走りを見せ、まだまだ彼が諦めていないことを力強く示した。

 

そしていよいよ、総合における重要な山岳ステージ連戦が始まる。

 

 

 

第17ステージ バッサーノ・デル・グラッパ~マドンナ・ディ・カンピーリョ 203㎞(山岳)

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アルプス難関のドロミテ山塊に突入。その1日目は総獲得標高差5,300mという厳しいステージ。それでも最後の1級マドンナ・ディ・カンピリオはそこまで難易度の高くない登りだけに、総合勢による争いというよりは、逃げ切りを狙うクライマーたちによる争いに注目が集まった。

 

前日まで激しい山岳賞争いを繰り広げていたジョヴァンニ・ヴィスコンティとルーベン・ゲレイロだったが、この日はヴィスコンティが逃げに乗れず。

最初の2つの1級山岳を共に先頭通過し、一気に80ポイントを丸々獲得することのできたゲレイロがヴィスコンティを逆転したうえで50ポイントものポイント差をつけてしまう。

山岳賞獲得への王手を打つこととなった。

 

 

2つ目の1級山岳モンテ・ボンドーネの下りで抜け出したのは昨年のジロでも区間勝利しているダリオ・カタルド。

ここに集団から抜け出したトーマス・デヘントやローハン・デニス、ベン・オコーナーなどが合流。

最終的に最後の1級マドンナ・ディ・カンピリオの登り口では9名の先頭集団が形成されていた。

 

ここから残り8.3㎞地点でアタックを仕掛けたのがオコーナーだった。

2年前のツアー・オブ・ジ・アルプスで区間1勝・新人賞を獲得し、その勢いのまま直後のジロ・デ・イタリアで第19ステージで落車リタイアするまでは総合12位を維持。

今後注目すべき総合ライダーの1人として期待していたが昨年は振るわず。

今年、年初のエトワール・ド・ベセージュの山頂フィニッシュステージで優勝したことで、再びその期待値を高めていた。

 

さすがに今年のジロも総合を狙うのは難しかったが、第16ステージでは独走するヤン・トラトニクに一人追いつく好走を見せた。

そのときは惜しくも勝利には至らなかったものの、翌日となるこの第17ステージで見事リベンジを達成。

来年がロマン・バルデやピエール・ラトゥールが抜けることが決まっているAG2Rシトロエンに移籍。

今後も積極的な山岳逃げで勝ち星を稼いでいく期待が持てそうな勝利となった。

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メイン集団ではチーム・サンウェブの総合3位ジェイ・ヒンドレーや総合2位ウィルコ・ケルデルマンが攻撃的なアタックを仕掛けるも、それらすべて総合首位のホアン・アルメイダが自らチェックして抑え込む。

最後は総合4位テイオ・ゲイガンハートがスプリントで集団先頭を獲るものの、後続にタイム差をつけるまでには至らなかった。

 

総合争いは翌日の「クイーンステージ」第18ステージへともつれ込む。

 

 

 

第18ステージ ピンツォーロ~カンカノ湖(ステルヴィオ国立公園) 207㎞(山岳)

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ジロ・デ・イタリア最高峰の峠「ステルヴィオ」を通過する総獲得標高差5,600mの難関山岳ステージ。

本来クイーンステージの予定だった第20ステージがコース変更になったことを受けて、最難関ステージの称号はこのステージに。

そして実際に、その名に恥じない激しいバトルが展開された。

その舞台となったのは最後の1級山岳ではなく、やはり「チマ・コッピ」ステルヴィオの24.7kmの長距離登坂であった。

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ここでプロトンの先頭を支配したのはマリア・ローザ擁するドゥクーニンク・クイックステップではなく、これを総合2位・3位と追いかけるチーム・サンウェブであった。

平坦向きのニコ・デンツ、チャド・ハガも全力で前半から牽引し、マーティン・トゥスフェルトやサム・オーメンといった準山岳アシストたちが中盤を牽引していくと、最後はケルデルマン、ヒンドレーに次ぐ実力者クリス・ハミルトンが最後の猛プッシュを開始した。

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第15ステージでもヤコブ・フルサンやヴィンツェンツォ・ニバリらを脱落させたハミルトンの牽きによって、ここまで15日間にわたってマリア・ローザを守り続けてきたホアン・アルメイダがついに、脱落した。

すぐさまチームメートの総合10位ファウスト・マスナダがアシストに向かうが、アルメイダはずるずると遅れていく。

そしてメイン集団先頭では、元TT世界王者のローハン・デニスが、総合4位テイオ・ゲイガンハートのためにリードアウトを開始。

この動きによって先頭はデニスと総合2位ケルデルマン、3位ヒンドレー、4位ゲイガンハートの計4名だけになってしまった。

 

 

さらに衝撃的な事態が、このステルヴィオの「天国への階段」で巻き起こる。

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デニスの牽引があまりにも強力すぎた結果、アルメイダに代わってバーチャルでマリア・ローザ着用者となっていたウィルコ・ケルデルマンまでもが遅れ始めてしまう。

そしてサンウェブはここで、ヒンドレーにケルデルマンのアシストをさせるのではなく、デニスとゲイガンハートについていかせることを決めた。

明確に足を失っているケルデルマンを助けに行かせることで2人とも脱落することをよしとせず、足が残っているヒンドレーで勝負に行かせるというこの選択は理に叶っている。

独走力の高いケルデルマンも、決して無理をせずマイペースにタイム差を保ちつつ、先頭の3名を追いかけることに決めた。

 

最後はケルデルマンを待つ名目をもっていたヒンドレーがゲイガンハートにツキイチ。

最後にこれを追い抜いて、見事グランツール初優勝を飾った。

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「自分らしいレースだったとは思えないけど」とこぼしたヒンドレーの表情はやや複雑。チームからの指示でゲイガンハートのマークに徹することを選択した彼は、それでもその結果として、チームのエース、ケルデルマンのマリア・ローザも守ることには成功した。

しかし、終始最強の走りを見せていたように思えるサンウェブが、最後の最後でイネオスにしてやられた印象も抱かせたこの第18ステージ。

最終日のTTのことを考えれば、まだまだ第20ステージも油断できない。

 

果たして総合争いはどのように決着がつくのか。
 

 

 

第19ステージ モルベーニョ~アスティ 253㎞(平坦)

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ポー平原を駆け抜ける最後の平坦ステージであり移動ステージであるこの日は、登りこそほとんどないものの距離は今大会最長の250km。

しかも冷たい雨が降りしきる悪天候が襲い掛かっていたことで、アクチュアルスタート直前にレース短縮が決まるという前代未聞の出来事に。

賛否両論巻き起こる異例の事態ながら、選手団の要求通りに総距離が半分の124㎞に短縮されたうえで、ようやくスタートが切られることとなった。

 

 

短距離レースであればスタート直後から激しい動きが巻き起こる。

特に残されたラインステージが厳しい山岳ステージだけということもあって、クライマーではない選手たちにとっては最後の逃げ切りのチャンス。

ヴィクトール・カンペナールツやアレックス・ドーセットなどのTTスペシャリストたちも入り込んだ14名の逃げ集団が形成される。

 

 

本来であれば、この日のようなオールフラットステージは集団スプリントで決着するのが基本である。

しかし上記のような特殊事情と連日の厳しいステージによって集団は逃げを容認する空気が流れる。

唯一、マリア・チクラミーノ争いのために集団スプリントに持ち込みたいボーラ・ハンスグローエが積極的な追走を仕掛けようとするが、現在マリア・チクラミーノを保持しているグルパマFDJが消極姿勢に徹したことでスピードは上がらず。

結果、10分以上のタイム差を先頭集団に許したことで、先頭での逃げ切りが確定した。

 

 

そしてこのチャンスを掴み取ったのが、今期まだ8勝しかしていない(しかもそのすべてが1クラスか国内選手権だけの)CCCチーム。

すでに解散がほぼ確定しているこのチームのチェコ人TTスペシャリスト、ヨセフ・チェルニーが、歓喜の逃げ切り勝利を成し遂げた。

一瞬の隙を突いた、残り23㎞からのワンアタックによる逃げ切りだった。

後続からは同じTTスペシャリストのカンペナールツが単独で追いかけてきたが、何度も後ろを振り返りながらそれが追いつくがないことを理解したチェルニーが、信じられないという表情で両手で口を覆ったあと、力強く両腕を天に突き上げた。

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メイン集団は当然ノーコンテスト。

いよいよ、山岳最終決戦が開幕する。

 

 

第20ステージ アルバ~セストリエーレ 198㎞(山岳)

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※上記画像はコース変更前のもの。

 

新型コロナウイルスの影響によりフランス国内への入国が禁じられた結果、コース後半のフランス入国エリアは完全にカットされ、最後のセストリエーレへの登りを3回繰り返すレイアウトとなった。

総獲得標高差は5,000mから3,500mに大幅ダウンする結果となったが、それにしても難易度の高いコースであることは変わりなかった。

 

そして、レースの展開を作り出すのは決してコースではなく、あくまでも選手。

総合首位ウィルコ・ケルデルマンと総合2位ジェイ・ヒンドレー、そして総合3位テイオ・ゲイガンハートの3名のタイム差が15秒以内に収まっているというこれまでにない超接戦で迎えた最終山岳ステージだけに、激しい展開が巻き起こることは間違いがなかった。

 

そしてこの日、展開を作ったのは、第15ステージや第18ステージで強さを見せつけたチーム・サンウェブではなく、「帝国」イネオス・グレナディア―スであった。

2010年代を完全に支配し続けたこの「黒の軍団」は、今年、ツール・ド・フランスで大きく失墜。

今回のジロ・デ・イタリアもまた第3ステージでまさかのエース、ゲラント・トーマスが早すぎるリタイアを喫したことで、時代が終わりを迎えたように感じられていた。

 

 

だが、やはりこのチームは強かった。

トーマス脱落後に積極的な動きを見せたチームと、そしてテイオ・ゲイガンハート。

結果、ここに至るまでの間に5回のステージ優勝と、そして今、ゲイガンハートの総合3位という結果に辿り着いている。

失っていたはずのイネオスの「総合優勝」のチャンス。

これが再び息を吹き返したとき、「帝国」の本当の力が発揮されるときがきた。

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まずは2018年のジロ・デ・イタリアでのクリス・フルームによる大逆転劇勝利の際にも貢献したサルヴァトーレ・プッチョ。 

そして今大会3度のステージ優勝を果たしている若きTT世界王者フィリッポ・ガンナ。

その他ジョナタン・カストロビエホや連日積極的な逃げを敢行しているベン・スウィフトなども加わり、最後は第18ステージでもケルデルマンを突き放したローハン・デニスが先頭を牽引する。

そしてこの日もまた、デニスの強力な牽きによって、ケルデルマンが脱落。

3回登るセストリエーレの2回目の登坂にて、先頭は早くもデニス、ゲイガンハート、ヒンドレーという、第18ステージの焼き直しのような結果となってしまった。

 

3名の今大会最強軍団が逃げ集団を捕まえ、最後の1級セストリエーレの麓に設置された中間スプリントポイントにて、小さなボーナスタイム争いが行われる。

この時点で暫定首位ジェイ・ヒンドレーと暫定2位ゲイガンハートとのタイム差は3秒。

そしてこのボーナスタイムの設定されたスプリントポイントをヒンドレーが1位通過、ゲイガンハートが2位通過したことによって、このタイム差は4秒に広がった。

 

とはいえ、最終日個人TTではこれまでの実績においてヒンドレーが圧倒的不利。

どうしてもこの先、ヒンドレーはゲイガンハートに差をつけてフィニッシュをするしかない状況だった。

 

残り3.5km地点で1回。残り2.5㎞で2回。残り2.2㎞で3回。

繰り返し繰り返し、アタックを仕掛けるヒンドレー。しかしそこに、苦しそうな表情を浮かべながらもなんとか食らいついていくゲイガンハート。

残り2㎞を切ってヒンドレーが一度ペースを落とすと、今度は後ろから再びデニスが復帰してくる。

 

まさに盤石のイネオス。

だがヒンドレーも、諦めるわけにはいかなかった。

 

そして残り1.3㎞で4度目のアタックを仕掛けたヒンドレー。このときもまた、ゲイガンハートは離れなかった。

 

 

あとはスプリント勝負。

第18ステージはヒンドレーが勝利した最終決戦だが、そのときは彼はゲイガンハートのツキイチについていた結果だった。

だが今回は繰り返しのアタックですでに疲弊している。

そしてまた、あのときの勝利に自分自身でも納得いっていなかった結果なのか、今度もまたツキイチについてもいい状況にも関わらず、ヒンドレーは今度はしっかりとゲイガンハートの前に出てスプリントに挑んだ。

 

ゲイガンハートもまた、その背後につくようなことはしなかった。

まるで漫画のように、二人肩を並べてのセストリエーレ最終決戦。

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25歳と24歳。

同世代の二人の若者による一騎打ちの末に勝ったのは、「帝国」の復権を告げるかのような、イギリス人次世代エースであった。

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もう1人、素晴らしい走りを見せた若者がホアン・アルメイダである。

第18ステージのステルヴィオでマリア・ローザを失った彼は、それでも最後まで強い走りを見せ続けてくれた。

ケルデルマンが遅れたグループから単独で抜け出し、前に逃げていたピーター・セリーの力を借りながら全力でフィニッシュに辿り着いた彼は、結果としてケルデルマンとビルバオというライバル2人から34秒を奪うことに成功した。

最終日TTを前に総合4位ビルバオとのタイム差は24秒。

決して小さくはないが、TTを得意とするアルメイダにとっては、総合4位浮上のチャンスを手に入れる重要な走りとなった。

 

また、この日最後まで逃げ続けたモビスター・チームのネオプロ、エイネルアウグスト・ルビオの走りにも注目すべきだろう。

モビスターはトリプルエースをすべてブエルタに投入したことで今回のジロはここまでなかなか目立てずにいたが、全体的に若返り化が進みつつある新生モビスターの可能性を感じさせる走りだった。

 

 

残すは最終日個人TT。総合首位ヒンドレーと総合2位ゲイガンハートとのタイム差はまさかの「0秒」。

順当にいけばゲイガンハートの勝利の可能性が最も高いこの最終日TTだが、ツール・ド・フランスの例を見ても何が起こるかわからないのがこの最終日TTである。

 

波乱に満ちたジロ・デ・イタリア2020の運命は、果たしてどんな風に転んでしまうのか?

 

 

 

第21ステージ チェルヌスコ・スル・ナヴィーリオ~ミラノ 15.7㎞(個人TT)

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ミラノ中心部のドゥオーモへとフィニッシュする最終日個人TT。

ステージ優勝を巡る争いで最初にターゲットタイムを出したのが、20番手出走のマイルス・スコットソン。それまでの暫定首位にあったアレックス・ドーセットのタイムを25秒更新して暫定1位に。

この記録を塗り替えたのが、スコットソンの18分後に出走したアワーレコード保持者ヴィクトール・カンペナールツである。

 

しかし、やはりこの男は強かった。

今年の個人タイムトライアル世界王者にして、今回のジロのここまでの2つのTTステージをいずれも制している男、フィリッポ・ガンナ。

中間計測の時点でカンペナールツのタイムを20秒更新し、ホットシートに座ったカンペナールツも「お手上げ」といった感じで苦笑した。

最終的にカンペナールツを32秒更新して文句なしの暫定1位。

平均時速は54.556km/h。驚異の走りであった。

 

チームメートで元世界王者ローハン・デニスの走りにも注目が集まったが、結果はカンペナールツと同タイムの3位。

見事、大会3つのTTステージ全てで勝利&ステージ4勝を遂げることとなった。

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そして、残るは総合優勝争いである。

過去グランツールの歴史に一度たりとも存在することのなかった、「0秒差の最終日突入」。

しかし、過去のTTの実績から言えば、マリア・ローザを着るジェイ・ヒンドレーにとってはかなり苦しい戦いであった。

 

奇跡は起きなかった。

中間計測の時点で、ゲイガンハートに対してヒンドレーは22秒のビハインド。

最終的にゲイガンハートがガンナから58秒遅れの13位でフィニッシュラインに到達したときに、すでにその表情に歓喜が湧き上がっていた。

ゲイガンハートのフィニッシュから3分39秒後、初めはアシストとして、その後はエースとして、区間1勝と1日間のマリア・ローザ着用を果たした24歳のオーストラリア人がドゥオーモ広場に帰ってきた。

 

敗北。しかしそれは、このまま若き才能における、次の栄光への1ステップであることは間違いない。

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そして、テイオ・ゲイガンハート。

英国チームの次代イギリス人エースとして期待されながらも、チャンスを得た昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでは結果を出せず。

苦しいときもあった中で、今回のジロで思いもかけず手に入れた再びのチャンスを、彼は今度こそしっかりと掴み取った。

 

それは、すでに総合順位で大きなビハインドを抱えていた1週目から諦めず繰り返し自らアタックを繰り出していったその積極性の賜物である。

おめでとうテイオ。

彼がベルナルやカラパスと共に、2020年代の「帝国」の新たな歴史を刻んでいくことになるだろう。

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そして、今大会のもう1人の主役が、この最終日も魅せてくれた。

ホアン・アルメイダ。13日間マリア・ローザを着用し続けた驚くべき才能。

彼もまた、本来のエースの不在によってもたらされたチャンスを見事モノにした男であった。

 

そして総合5位で迎えたこの最終日。

直接のライバルである総合4位ペリョ・ビルバオとは23秒差。

ビルバオもTT能力の高い選手ではあるが、アルメイダもこれまでのTTステージでは常に好調な姿を見せてきていた。

可能性は十分にあった。

 

そして、実際に彼は最後まで強い走りを見せてくれた。

中間計測の時点でガンナからはわずか24秒遅れ。カンペナールツらにも匹敵する記録であった。

一方のビルバオは中間計測でアルメイダから30秒遅れ。

総合4位・5位の逆転が確定した。

 

 

ツールのときのような劇的なドラマが発生したわけではないこの最終日個人TT。

しかし、数多くの才能がその煌きを瞬かせる、そんな価値あるTTであったように思う。

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新型コロナウイルスの影響を存分に受け、当初予想されていたものとは全く違う形に変質してしまった今年のジロ・デ・イタリア。

しかし蓋を開けてみればそこには例年以上のドラマが描かれ、手に汗握る戦いが繰り広げられることとなっていた。

 

3週間の戦いを終え、決着となった最終リザルトは以下の通り。

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2020年代の開幕に相応しい、若き才能の溢れるリザルトとなった。

これからの10年、果たしてどんな未来が待っているのか。

今から実に、楽しみである。

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